墟上之歌 戦憶探溯 STAGE 5 通鑑-3

Last-modified: 2026-02-06 (金) 07:54:05

 ネームレスとオリヴィアは、広場で激しい戦いを繰り広げた。
ジンここのステップに腰かけてください、細かい瓦礫は片付けておきました。
蔵音こんなていたらくじゃ、どこに座ったっておんなじですよ……
 口ではそう言いつつも、蔵音はジンが片付けた場所に座った。
そして広場の中央で火花を散らす二人を眺める。
蔵音あいつ、あーしには手加減してたのか……
ジンネームレスさんは、現存する戦闘型の中で、最も優秀なエージェントです。
蔵音オリヴィアとの約束だと、到着は10分後だったはず……あーたが呼んだんです?
ジン人の顔色を伺い、情勢を分析するのが、僕の得意分野ですから。
蔵音まったく……まるで使いっ走りの某人工知能でござんすね。
蔵音あーたみたいな自画自賛男、映画ならあっという間におっちんじまってますよ。でもこれは残念ながら、映画でも小説でもない。
ジンはは……本当にそうなる運命でしたら、それが遅れてやってくるのを祈ります。
ジン今はまず、大事なお客様の怪我を診ませんと。
蔵音結構ですよ、あーたの酒は不味くてかなわない。
ジン承知しました。
 ジンはブレンダーに入っていた液体を、宙に撒き散らした。
 純粋かつ上質なオペランドが飛散し、頭上から蔵音を包み込んで、
戦いでできた傷口をそっと癒やす。
蔵音……なんの香りです?やけに芳しい。
ジン単純なブレンドの一つですよ。全脂粉乳を25グラム、水を4オンス、オレンジシロップを0.75オンス。それらに氷を加えて混ぜ合わせたものです。
ジン甘く濃厚な香りに、ほんのわずかな酸味。戦闘後の景気づけに最適です。
蔵音……つまりは単なる粉ミルク?
ジンまぁ、そうなりますね……
ジンそれよりも、一つだけ訂正しておきたいことが。
蔵音話題を逸らすな!
ジン僕がオリヴィアさんに連絡をしたのは、教授の命令でも、他者に頼まれたからでもありません。
ジン僕の願いが、そうさせたのです。
蔵音ほーん……そりゃまた、どういう風の吹き回しです?
ジン蔵音さんは仰いました、人の心はまるで井戸のようだと。
蔵音なるほど。あーたの井戸が、ようやく通ったと。
ジンもしかするとこれまでも、大勢の方が僕の井戸に水を注いで、水源を作ろうと試みていたのかもしれません。
ジン僕は今、ようやく水の存在に気づきました。
蔵音ぶるるる、キザったらしいったらありゃしない。
ジンありがとうございます、蔵音さん。
ジンこの件を終えたら、井戸に水を注いでくれた彼にも、きちんとお礼を述べなくては。
蔵音彼ってのは?
ジンすぐにお会いできますよ。オアシスの教授――{教授}さんです。
ジンやはり感謝の気持ちを伝えるには、僕を好きなだけお使い頂くほかに、新しいブレンドのカクテルを味わって頂くべきでしょう。
蔵音……さっきの粉ミルクを?
ジンまさか。教授は成人しておいでです。お酒のなんたるかは心得ていらっしゃいますよ。
蔵音なんですかそれ……あーしが未成年に見えるとでも?
ジン大人を装ってバーを訪れる少年少女は大勢いますから。
ジン誰一人として成功した試しはありませんが。年齢を見抜くことに関しては、ちょっとしたものでして。
蔵音あーたね……あーしにボトルごと押し付けておいて、よくそんなことが言えたもんです!酒嫌いだと知ってて嫌がらせしてるに決まってますよ!
ジンとんでもない、ジンが嫌がらせなどするはずありません。使いっ走りの某人工知能はどうだかわかりませんが。
蔵音だったら目を逸らすな!あーたね――
ジンオリヴィアさんとネームレスさんの勝負がついたようです。
蔵音……あっ。
 大地を揺るがすほどの熾烈な戦いは、すでに終わっていた。
 蔵音はジンの視線を追って、片膝をついているネームレスを見た。
蔵音ネームレスが……負けた。