| オアシス、休憩エリア。 | |||
| クロ | アロハ~!配信ルームのみんな~、ひさしぶり~!元気してた~? | ||
|---|---|---|---|
| クロ | 今日はなんと、このクロ様が練りに練った配信企画が、満を持してついに登場しま~す! | ||
| クロ | 仕事がダルくて悩んでる?毎日がちっとも楽しくない? | ||
| クロ | それなら、クロの最新番組『オドロキ?モモノキ!ドキドキ真夜中の霊探し』を今すぐチェキ!アドレナリン急上昇、夜はアタマ冴えざえ、昼間は安眠まちがいなし! | ||
| クロ | みんな大好きクロちゃんが霊能探偵となって、霊現象の起きた心霊スポットを実際に調査しにいくよ~! | ||
| クロ | さてさて、栄えある第一回目は、なんと超ヘビー級ゲストをお招きしております――怪奇現象の目撃者、Rさんでーーす、どうぞ! | ||
| クロ | さっそくですが、Rさん。そのいとも珍しい体験を、この場でご紹介いただけますでしょうかっ!? | ||
| R | あ、モザイクかけてもらっていい? | ||
| クロ | あ、うん、いいよ…… | ||
| R | 声の処理も頼んだよ? | ||
| クロ | OKOK……これでよしと、首シメられてるアヒルみたいな声に切り替わったかな? | ||
| 弾幕 このRさん、なんか妙に見覚えある 弾幕 特にあの耳、某悪徳商人を思い出すな | |||
| R | ゴホン、なら一安心だ。こっから話すことはぜ~んぶ真実だかんねェ。前方フルパワー注意、弾幕で掩護よろしくゥ! | ||
| R | ありゃ月のない夜だった。さっきまで晴れてたはずの空が、急に雲に覆われちまったんだ!雷が鳴り出したと思ったら、今度は大雨が降り出して…… | ||
| R | そん日は一仕事終えてクッタクタだったのに……大雨のせいで帰れなくってさぁ、近くにあった神社に閉じ込められちまって。 | ||
| R | 全身ビッショビショで雨宿りしてたら、いきなり全身の毛が「ゾワ~~ッ」って! | ||
| R | 耳をすましてみると、背後から……「カサコソカサコソ」って音がしてさ!なんか動いてるわけだ!そしたら急に!! | ||
| R | ピカーーッ!! | ||
| R | 雷が落ちたんだ!神社がいきなし昼間みたいになっちまった!目の前がチカチカしてさ、そんでもって目を凝らしたら、白い服着た娘っ子が倒れてて…… | ||
| R | 深夜だったもんで、リ……ゴホン。Rは娘っ子になんかあったモンかと思って、親切心で手を差し伸べたんだ。 | ||
| R | 「そこなお嬢さん、どうかしたのかい?」 | ||
| R | ところがどっこい!!その娘っ子の手が…… | ||
| クロ | ヒッ…… | ||
| R | 腐った白骨だったんだよォ!!ボサボサの髪の間からのぞく真っ赤な目!!顔の皮膚が、ボロッ、ボロッ……って剥がれてきてさァ!!! | ||
| クロ | ヒィィィーーーッ!!!!!怖い怖い怖い怖い!!!! | ||
| R | ……ちょいと、司会者のくせにちっとは落ち着いたらどうなんだい!?マイクが落っこっちまったじゃないか! | ||
| クロ | ゴホン……あぁ!なーんて手に汗握る展開でしょう! | ||
| 弾幕 嘘つけよ、どう考えても作り話だろ 弾幕 でもたしか、オアシスの端に神社あったよね? 弾幕 クラウドに幽霊なんているわけないじゃん。っつか、浄化者にイレギュラーとか呼ばれてる時点で、あたしらのほうがずっとオバケだよ | |||
| 弾幕 前のやつの弾幕なっがo。o 弾幕 あれ、クロの背後になんかいない? 弾幕 あ、マジだ。しかも動いてる | |||
| クロ | へっ!?わ、私の背後に?な、ななな、何がいるって……? | ||
| R | まさか、ホントにユーレイが…… | ||
| R | ん?ちょっと待った……ありゃ違うな、なんか別のモンさね。キラキラしてて……フワフワ踊ってるような…… | ||
| クロ | あ、ああああッ!あれは、ままままさか…… | ||
| クロ&R | 火の玉ァァ!?!? | ||
| クロ | えー……リスナーの皆様、かなり危険な状況になってまいりました!!いやマジ相当ヤバいですこれは!! | ||
| クロ | 火の玉に、火の玉に今にも追いつかれそうです!!この映像が、人気配信者クロ様の生前の最後の姿となるかもしれません!! | ||
| クロ | さぁ、いまこそ画面下のハートマークを押しまくって、配信者を神社から助け出すのです…… | ||
| ピッ―― | |||
| 狂ったようにバズり散らかす配信動画を閉じると、 野良はしどろもどろになるリコに厳しい視線を向けた。 | |||
| 野良 | リコ……キツネん耳したRっちゅうんは、あんたったいね? | ||
| リコ | いやいやいや、違うに決まってんだろォ?ありゃ通りすがりの心優しい一般市民だよ。正義感に駆られて、オソロシー体験をみんなに教えようとしたんだ、きっと…… | ||
| 野良 | ハァ……アホくさ。 | ||
| リコ | ウォッホン。そういやお前さんたち、あん神社を知ってんのかい? | ||
| ヘリックス | 神社?聞いたことないや…… | ||
| 野良 | クロックに聞いたことあるっちゃ。製造局がオアシスん辺境に、小っちゃか神社ば建てたって。てっきり、単なる賑やかしやと思うとったけんど…… | ||
| リコ | 科学技術の結晶たるマグラシアに、ただの賑やかしで神社なんざ建てるかっつーの。 | ||
| ヘリックス | えっ、じゃあなんで…… | ||
| リコ | そんなら、なんでも知ってるリコ様が教えてやろう。じ・つ・は……神社には、古い井戸があるのさ。 | ||
| リコ | 何年も昔、そりゃあもうべっぴんなエージェントがいてね、そいつがとある男に惚れちまいやがった。 | ||
| リコ | エージェントは何度も気持ちを伝えたんだけど、相手はどこ吹く風でねェ。 | ||
| リコ | そんなある日、愛しい男が他のエージェントと乳繰り合ってんのを見ちまってさ、娘っ子は悲しみのあまり、井戸に身を投げた、ってワケ。 | ||
| 野良 | ちょいちょいちょい……エージェントが井戸に身ィ投げたは、さすがにないない! | ||
| リコ | 世界は広いんだ、何があったっておかしくないだろ?そっから、あん井戸は怨念がにじみ出るようになっちまってね。白い服を着た娘っ子がウロついてる姿を、何度も目撃されてんだ。 | ||
| ヘリックス | それって、リコさんが配信で言ってた女の人ですか? | ||
| リコ | あぁ、そうさ!……あっ…… | ||
| リコは目玉をくるっと回転させて、自分の後頭部をペシッと叩いた。 | |||
| リコ | ……そ、そうさ、リコが見たのはそれさ! | ||
| リコ | あん怨霊をいつでも見れるたァ限らない。朔日の夜だけに、こっそり井戸から這い上がってくるんだ…… | ||
| リコ | だけども、夜も更けて人が寝静まると、井戸からオンナの声がかすかに聴こえて来るらしいよォ…… | ||
| ?? | 「寝ない子は、背が伸びないぞぉ~……」 | ||
| へリックス&野良&リコ | う、うわぁあああっ!? | ||
| 野良 | ……って、教授かいな。 | ||
| リコ | ハァ……なんだい、教授さんかい。まったく、驚かさないどくれよ。 | ||
| {教授} | ありもしない怪談をでっちあげたんだから、君にはちょうどいいだろう。 | ||
| リコ | なんだってェ!?作り話なんかじゃないやい!リコはこの目で見たんだ! | ||
| 野良 | 見たって、何を? | ||
| リコ | ……お皿を数えるユーレイ。 | ||
| {教授} | 今度は皿屋敷か…… | ||
| 野良 | そん様子やと、前に聞いた登場人物全員クソな幽霊恋愛話も嘘やったとー? | ||
| ヘリックス | えっ、作り話だったの?でも最近、オアシスじゃ変な事件ばっかり起きてるよ? | ||
| {教授} | 例えば? | ||
| ヘリックス | ええっと……ウィロウさんがインタビュー中に火の玉の写真を撮ってるでしょ、チョコさんの工房からチョコレートが消えてるし、あとフェーンさんのサイフがますますペッタンコに…… | ||
| {教授} | フェーンの件に関しては、特に問題なさそうだな…… | ||
| ヘリックス | と、とにかく!ヘンなんだってば! | ||
| リコ | そうだそうだ!ユーレイのシワザじゃないって言うほうが、無理があるってモンよ! | ||
| リコ | そういや、あん時リコが無事に逃げられたのは、コイツのおかげさ! | ||
| リコ | てなワケで、ご紹介しようかね!これぞ、マグラシアの最新技術と厳選オペランドによって造られただけでなく、若者のルッキズム的風潮に応えるべく古めかしさと流行最先端の要素を兼ね備えた逸品――その名も「サイバー御札」! | ||
| リコ | マイクロ型録音設備内蔵、完璧な戦士クルカイの戦闘音声をいつでも再生可能!フィジカル退魔効果でより安全に! | ||
| リコ | これ一つあれば、幽霊、火の玉、妖怪、魑魅魍魎も避けて通ること間違いなし!日常生活や旅行のお供にピッタリ! | ||
| {教授} | リコ……まさか、その護符を売るのが目的で……? | ||
| リコ | なに言ってんだい!リコがこうして親切に、オアシスのみんなの不安を取り除いてやってんじゃないか!この優しさが間違いだって言うんなら、リコは間違ったまんまでいいさ。 | ||
| ヘリックス | それ、ほんとに効くの? | ||
| {教授} | あぁ……さっそくいたいけな羊が…… | ||
| リコ | 当然さね。今なら特別に二枚買うと、も一つオマケしちゃうよォ! | ||
| リコ | お友達へのプレゼントにどうだい?価格はなんと、たったの999DGC! | ||
| ヘリックス | わぁ……よかったぁ。野良さんとあたしが買えば、希にもプレゼントできるや…… | ||
| {教授} | ゴホン…… | ||
| 私は軽く咳払いをして、サイフを取り出そうとするへリックスの手を押さえた。 | |||
| {教授} | 除霊やお祓いに関しては、一人心当たりがある。 | ||
| リコ | へっ? | ||
| 野良 | へっ? | ||
| リコ | そんなヤツがどこにいるってんだい? | ||
| {教授} | もちろん、オアシスだ。 | ||
| リコ | ……教授。そりゃあリコが正しかったとは言わないよ?商売の腕が巧みすぎて、オアシスの市場を乱しちまったことは謝るさ。 | ||
| リコ | けど、嘘はいけないねェ、嘘は。そんな人材がオアシスにいるなんざ、聞いたこともない。 | ||
| リコ | ほら、この真摯な眼差しを見なよ。こん子らを失望させようたァ、教授さんも人が悪い。 | ||
| {教授} | ふむ。神社に独りで残ると言って聞かなかったが、そろそろ連れ戻すべき頃合いだな。 | ||
| {教授} | 神社の外での生活にも、慣れてもらわないと…… まぁ、意気投合した友人たちと一緒なら、すぐに馴染めるだろう。 | ||
| 野良 | つまり、そん人物は神社におるとー? | ||
| {教授} | その通り。 | ||
| {教授} | 神に仕える巫女様だよ…… | ||
| 参拝者 | ……舞台の上で踊ってる巫女さん、とっても動きが綺麗ねぇ。 どのパートもきめ細やかだし、素晴らしいわ。 | ||
| 参拝者 | ありゃUASの開発した神職用の人形だ、S55-HMKだとさ。 まさか神に仕える巫女まで、ロボットになっちまうとはな…… | ||
| 参拝者 | まぁ、なんてこと……神に必要なのは人々の篤い信仰心よ? 人形に信仰がわかってたまるもんですか、心もない機械なんかに…… | ||
| 参拝者 | そうだ、こんな人形が存在すること自体、神への冒涜だ! | ||
| ?? | !? | ||
| 老いた巫女 | 集中。流言蜚語に惑わされるな、神はお前の舞を見ておられるぞ。 | ||
| ?? | ……楓様の仰せの通りに。 | ||
| 老いた巫女 | こうして舞を続ければ……神の御目にきっと届くはずだ…… | ||
| ?? | 神が……見ておられる…… | ||
| ?? | ならば、舞い続けましょう…… | ||
| …… | |||
| ?? | 見つけたぞ…… | ||
| 暗闇の中で、誰かが彼女の想いに応えた。 手を伸ばした瞬間、まぶしい光が長夜を切り裂く…… | |||
| ?? | 御神が…… | ||
| ?? | わたくしを、呼んでいる……? | ||
| ぼんやりとした少女が手を伸ばしてくるのを見て、私は笑って彼女の手をつかんだ。 | |||
| ?? | えっ……ご、ご教授様…… | ||
| {教授} | そう畏まらなくていいよ、私のことは教授と。 | ||
| {教授} | やっと目が覚めたね、君惠。 冬も近いのに、樹の下で寝ていたら風邪をひくぞ。 | ||
| 君惠 | た、大変失礼いたしました……秋祭りの準備の途中で、つい眠ってしまったようで…… | ||
| {教授} | 疲れたんなら、神社の中で休みなさい。 | ||
| 君惠 | いけません、秋祭りが迫っております。神社の庶務も山積みでございますし……掃除も供物の用意も始まったばかり。ここで怠けるわけにはゆきませぬ。 | ||
| 君惠 | それよりも、ご教授様。本日は、どのようなご要件で? | ||
| 君惠は体についたホコリを払った。 私は地面に落ちていたホウキをひろって、彼女に手渡す。 | |||
| {教授} | 連絡しようと思ったんだが、ここはあらゆる信号を遮断していたと思い出してね。 | ||
| {教授} | 突然訪れてすまない、驚かせてしまったかな。 | ||
| 君惠 | そんな、とんでもございません。人目を避けたいというわがままに応じ、エージェントの方々にこの神社を設えさせたのは他でもない、ご教授様です。 | ||
| 君惠 | オアシスの新参者たるわたくしめには、身に余る待遇。皆様に見つけて頂き、マグラシアを彷徨わずに済んだだけでも、君惠は幸運にござります。 | ||
| 君惠 | ただ、このように辺鄙(へんぴ)な地に住まうわたくしめが、なにかお役に立てるとは到底思えず…… | ||
| {教授} | 実は、このところオアシスで心霊現象がひっきりなしに起こっていてね。 もはや怪談製造所と化してるよ。 | ||
| {教授} | 君に中心部に来てもらいたいんだ。 本当に幽霊のしわざなら、君にお祓いをお願いしたくて。 もし単なる誤解でも、それがはっきりすれば、みんな怖がらずに済む。 | ||
| 君惠 | 左様でございましたか……君惠がオアシスに参ってからというもの、まだ一度も皆様方へのご挨拶に伺っておりませんでした。わたくしめの不徳の致すところでござります。 | ||
| 君惠 | 禊ぎ祓い(みそぎはらい)の祭礼や、除霊除災につきましては、微力ながらもお力添えできるかと。 | ||
| 君惠 | ですが、神社を離れるのは…… | ||
| 老いた巫女 | ゴホッゴホッ……もう歳だね。 体は使い物にならないし、人はますます離れてゆく…… | ||
| 老いた巫女 | 今後のことを、話しておくべき頃合いだ。 君惠、お前はここが好きかい? | ||
| 君惠 | 暮之夢神社(くれのゆめじんじゃ)は楓様の心血。ここに身を置き、楓様に目をかけて頂けますこと、誠に光栄の至りに存じます。 | ||
| 楓 | ならば……暮之夢神社はお前に託そう。 | ||
| 君惠 | ……楓様……しょ、承知いたしました。楓様の仰せのとおりに。 | ||
| 楓 | 一つ、約束してもらえるかい? | ||
| 君惠 | どうぞなんなりと。 | ||
| 楓 | 多くの者に触れれば、戸惑いはより深まる。 お前にとっても、他の者にとっても、それは同じ。 | ||
| 楓 | 信仰ゆえに神は存在する。 信仰が揺らげば、神へと想いを伝える霊媒に成すすべはない。 | ||
| 君惠 | ……申し訳ございません。わたくしの存在が、人々の信仰を揺るがす原因に…… | ||
| 楓 | ならば、おまえは神社に残りなさい。 それが最も正しい選択なのだろう。 | ||
| 君惠 | ……承知いたしました。 | ||
| 君惠 | 神の使者でありながら、わたくしめにはなんの取り柄もございません…… | ||
| 君惠 | 楓様の仰る通り、誰も訪れない神社こそが、君惠の居場所に相応しいのかもしれませぬ。 | ||
| {教授} | 俗世から離れ、喧騒から遠ざける。 君の言う楓様が残してくれた道は、皮肉にも、 君から変わろうとする力を奪ってしまった。 | ||
| {教授} | なんというか……愛らしいカタツムリに似ているな。 | ||
| 君惠 | えっ……? | ||
| {教授} | オアシスは、君がこれまで見てきた場所とは違う。 ここには君を受け入れられる場所があるし、もっとたくさんの景色を見せてあげられる。 | ||
| {教授} | このままじゃ、君は多くの宝物を見逃してしまうことになる。 それは、あまりにも残念じゃないか? | ||
| 君惠 | 宝物…… | ||
| {教授} | 友人の理解、思いやり、信頼。 神社を出て、たくさんの絆を結べば、きっと楽しいよ。 | ||
| 君惠 | オアシスの皆様方と絆を深められるのは、なんと幸せなことでしょう。 | ||
| 君惠の口角が無意識に上がった。 だが、何かを思い出したかのように、すぐに落ち込んでしまう。 | |||
| 君惠 | わ、わたくしめに……そういった資格は…… | ||
| {教授} | 資格があるかどうかは、君自身が決めることだ。 私とオアシスの中心部に行ってみないか? そこでなら、考えが変わるかもしれない。 | ||
| 君惠 | で、ですが…… | ||
| {教授} | おやおや、君惠様。 よもや霊現象や祟りに困らされている私たちを、放っておくおつもりで? | ||
| {教授} | どうか、哀れな私たちとともに、幽霊どもを退治してくださいませ。 | ||
| 君惠 | ご教授様…… | ||
| 君惠はメンタルコアのある場所に手を置いた。 しばらく悩んだ末に、ようやく口を開く。 | |||
| 君惠 | ……承知いたしました。 | ||
| 君惠 | この君惠が、オアシスを祓い清め、ご教授様の願いを守ってご覧にいれましょう。 |
