| 今日は、非凡な一日になるだろう。 | |||
| クロック | ウォッホン……え、えーっと、それじゃ、オアシス心霊相談会を、は、始めます……ひっ、一人目の霊被害者のかたー! | ||
| クロ | はいはいはーーい!! | ||
| 君惠 | 初めまして、お名前をお伺いしても? | ||
| クロ | えっ……クロだけど……? | ||
| クロック | ゴホンッ……この子、ずっと神社にこもってたから……! | ||
| クロ | あ、な~る、どうりで私のこと知らないわけだ。名前はクロ、オアシスのトップ配信者で~す! | ||
| 君惠 | あの、クロック様。「はいしん」とは…… | ||
| クロック | えーと……まずメディアの普及と発展について話さないとダメだから、とりあえず、テキトーな記者だとでも思っといて。 | ||
| クロ | こないだ外で生配信してたらさ、背後から急に悪寒がして!ふりむいたら、火の玉が飛んでたの! | ||
| 君惠 | 火の玉、でございますか? | ||
| クロ | そう!……あん時はたしか、リコと一緒だった。場所は神社の近くの雑木林。 | ||
| クロ | 火の玉がこう、ゆ~ら、ゆ~ら…… | ||
| 弾幕 あれ、クロの背後になんかいない? 弾幕 あ、マジだ。しかも動いてる | |||
| クロ | へっ!?わ、私の背後に?な、ななな、何がいるって……? | ||
| R | まさか、ホントにユーレイが…… | ||
| R | ん?ちょっと待った……ありゃ違うな、なんか別のモンさね。キラキラしてて……フワフワ踊ってるような…… | ||
| クロ | あ、ああああッ!あれは、ままままさか…… | ||
| クロ&R | 火の玉ァァ!?!? | ||
| クロ | えー……リスナーの皆様、かなり危険な状況になってまいりました!!いやマジ相当ヤバいですこれは!! | ||
| クロ | 火の玉に、火の玉に今にも追いつかれそうです!!この映像が、配信者クロの生前の最後の姿となるかもしれません!! | ||
| クロ | さぁ、いまこそ画面下のハートマークを押しまくって、配信者を神社から助け出すのです…… | ||
| クロック | 配信がバズってよかったじゃん。 | ||
| クロ | いやいやいや、あん時はそりゃ冷静を装ってたけどね!?正直、膝ガックガクだったよ!? | ||
| クロ | そんでさ、もう一回ふりかえったら、火の玉がいつの間にか消えてたの。 | ||
| 君惠 | オアシスの付近に、墓所はございませんか? | ||
| クロック | あるわけないよ……サイバー墓地はさすがに謎すぎ。 | ||
| 君惠 | 火の玉、即ち「鬼火」とは、各地に伝わる妖怪変化の一つ。 | ||
| 君惠 | 松明の光のような外見で、しばしば水辺や森、墓場などに現れ、人の生気を吸い取るとされております。 | ||
| クロック | 正体はとっくに解明されてる、死体の骨のリンが偶然燃えたってだけ。オアシスにそんなのあったら怖いよ……どーせクロのジサクジエンでしょ、さっさと白状すれば? | ||
| ?? | ところがどっこい、違うったいね~!うちも見とぉよ! | ||
| クロック | おっ、二人目の被害者あらわる。 | ||
| 君惠 | そちらの御方も、似たようなご経験を? | ||
| 野良 | 初めましてっちゃなぁ、うちゃ野良。 | ||
| 君惠 | 神社で巫女を務めております、君惠と申します。野良様は、いつ頃火の玉を目撃されたのです? | ||
| 野良 | うちも同じく夜ったい。けんど森やなか、倉庫ん近うで見たんや。 | ||
| 野良 | あん時、うちゃ新作推理小説『ホームズの助手なのに轢かれて異世界に転生しちゃいました!? ~倉庫管理人から始める探偵ライフ~』ん犯行現場、シミュレートしとったけん…… | ||
| 野良 | そしたらいきなし、窓ん外に青か光が現れたっちゃ!クロとおんなじ状況ったい。しっかりした光やなか。こう、ピョンピョン飛び跳ねとって、炎みたいやったなぁ。 | ||
| 君惠 | ふむ……確かに、鬼火の特徴とも一致しますね。 | ||
| クロ | とにかくさぁ、巫女サマに除霊してもらおうよ! | ||
| クロ | そうすりゃ、私の心霊番組のネタにもなるし? | ||
| クロック | 君惠はどう思う? | ||
| 君惠 | 試してみたいと存じます。お手数ではございますが、まずは除霊用の道具を御用意いただけますでしょうか。 | ||
| クロ | よっしゃ、そうこなくっちゃ! | ||
| 日が暮れる頃、白と赤の巫女装束をまとった君惠が、水瓶から水を注いだ。 オアシスの樹木たちが活気づいたように思える。 | |||
| 君惠 | オアシスの木々は現世とは異なりますね。虫も病も災害もなく、伸びも力強い。 | ||
| クロック | それはわかったけど……除霊となんの関係が? | ||
| 君惠 | 神道では「万物に神宿る」とされております、それが「八百万の神」。 | ||
| 君惠 | かつて、楓様と旅に出たことがございます。そこでわたくしめは、齢百年の御神木にお会いしたのです。 | ||
| クロック | 戦争だらけなのに、そんな木が残ってたんだな。 | ||
| 君惠 | はい。人々の信仰と愛寵(あいちょう)を受け、それはもう新緑滴るかのようでございました。そして御神木の胴体には注連縄(しめなわ)が。 | ||
| 君惠 | その時、楓様は、巫女には御神木の言葉がわかると仰られたのです。 | ||
| クロック | へー、すご……ってことは、君惠も? | ||
| 君惠はわずかに顔を伏せた。 やや残念そうな表情を浮かべている。 | |||
| 君惠 | ……御神の言葉を窺い知るのは、おそらく人間のみに許されし権利。わたくしめには、何も…… | ||
| 君惠 | 神事を、神楽を完璧に成し遂げたとしても……神の声は、聴こえないのでござります。 | ||
| 君惠 | だから…… | ||
| 彼女のうなだれた右手が、そっと拳をつくった。 | |||
| 君惠 | だから、わたくしめは、神への冒涜などと呼ばれ…… | ||
| クロック | ……あたし、巫女を見るのは初めてだから、よくわかんないんだけど。 | ||
| クロック | 現実でも除霊とか、いろんなことして、困ってる人を助けてたんでしょ?だったらそれで十分じゃん? | ||
| 君惠は、社交性に欠けながらも、優しく自分を慰めようとする人形を見た。 相手の瞳に宿る誠実が、君惠の胸をしたたかに打ち付ける。 | |||
| 君惠 | ……左様で、ございますね。 | ||
| クロ | お~~~い! | ||
| 遠くからクロの声が聞こえた。 | |||
| クロ | 言われたとおり用意したけど~?はやく除霊始めよーよ!配信ルームの同接人数、もう1000人超えてん…… | ||
| クロ | ……って、おい!クロック!勝手に人のケータイさわんな! | ||
| クロック | 除霊中は撮影、録音禁止。神サマのバチが当たるよ。 | ||
| クロ | うぅっ……ガクッ…… | ||
| 君惠 | ……高天原に神留坐す神漏岐、神漏美の命以ちて……諸々禍事罪穢を祓へ給ひ、清め給ふと申す事の…… | ||
| 君惠 | 天、地、元、妙、行、神、變、通、力! | ||
| 君惠の祈祷に伴い、あたりの空気が澄み渡ってゆくように感じられた。 地面に置かれた神楽鈴を風が撫で、ちりんちりんと微かな音を立てる。 | |||
| 君惠は神楽鈴を手にとって、それを四方へと振りまわし、踊り始めた。 | |||
| 野良 | 巫女、神楽鈴、神聖なる気配……とつけむなか貴重なネタったい!録画が駄目っちゅうんなら、書き記すまで! | ||
| クロ | うわぁ……キモい笑い浮かべて、凄まじいスピードでなんか書いてる…… | ||
| クロ | っつか、まだ夕方なんだけど。火の玉も出てこないのに、除霊なんかしてホントに効くの? | ||
| クロック | ま、見てなって。 | ||
| 舞がやみ、君惠が最後の鈴を振った。 | |||
| 君惠 | 御神はこの地の霊を浄化なさりました。鬼火が現れることは二度とないでしょう。 | ||
| クロ | ふーん……これでまた火の玉が出たら、今度こそ人のシワザってこと? | ||
| クロック | 正直、誰かのイタズラかと思ってた。でも君惠の儀式みてたら、そうでもない気がしてきたな……これで一件落着だといいんだけど…… | ||
| クロ | クロック、あんたね。そのロクでもない口、なんとかなんないの!? | ||
| クロック | う……聞かなかったことにして…… |
