暮染まる君が頬 舞殿の祝演 STAGE 2 鬼火-3

Last-modified: 2026-02-26 (木) 02:53:02

深夜、オアシスの街角。
 ウィロウはパフォーマンス会場の外で、
超人気アイドル七花への独占インタビューを準備していた。
ウィロウステージが終わるまで、あともう少しか……
ウィロウそうだ!七花さんが出てくる前に、誰もいないトコで、一回通しでやってみましょっか!
エディター了解です!照明とカメラ、準備OKです。
いつでも始められますよ。
ウィロウはいは~い!それじゃさっそく……視聴者のみなさん、こんにちは~!
ウィロウ『オアシスアイドル最前線』へようこそ!インタビュアーのウィロウちゃんで~す!
ウィロウ本日はなんと、オアシスの超人気アイドル、七花さんのシーズン初のソロライブ現場に来ていま……
 カメラを見ていたウィロウは、ふいに遠くで青色の光が瞬いているのに気づいた。
 始めは気にならなかったものの、時間が経つにつれ、
その光はますます大きく、いよいよ眩しくなってくる。
ウィロウ……えぇ……で、では……七花さんは……
エディターどうかしたんですか、ウィロウさん?どこか具合でも?
 ウィロウは宙に浮かぶ、鮮やかな青い炎を指さした。
 インタビューチームがウィロウの指差すほうを見ると、
そこには空を覆い尽くすほどの青い炎が、魑魅魍魎のごとく瞬いていた。
エディターヒ、ヒィィ……ッ!!
ウィロウ火の玉……前に話題になってた火の玉ですよ!!!
 かすかな青色をした火焔が、インタビューチームへと迫る。
幾層にも重なる鳴き声は、まるで魂を抜き取ろうとするかのようだ……
2日後。オアシス、休憩エリア。
ウィロウはぅぅ、思い出すだけで動悸が……あのあと、すぐにその場を離れましたけど、肝心のインタビューはボロボロでぇ……
クロックまた火の玉……
 休憩エリアを通りがかった君惠が、二人の会話に気づいて足を止める。
君惠もし、なにかお困りでしょうか?
クロックあ、君惠、ちょうどよかった。あたしの悪い予感、当たっちゃったみたいなんだよね……
クロックこっちのウィロウが、インタビュー中にまた火の玉を見たんだって。
ウィロウ聞いてたよりもずーーっとおっきくて、しかも凄まじい音がガンガン鳴ってました!
君惠除霊が、効かなかった……?
クロックってことは、やっぱり誰かのイタズラなんじゃん。だから言ったっしょ、オアシスにオバケなんかいるわけないって。
 君惠はうつむいて、手中の御幣(おんべい)を見た。
君惠やはり、神を冒涜するような存在に、皆様を除霊する資格など……
クロックこれこれこれ、勝手に落ち込むな。キミの責任なものか。イタズラっ子は、物理的除霊でこらしめてやらんとな……クククク。
君惠物理的、除霊で……?
君惠なるほど、承知いたしました。わたくしめはいかなる手段をもってしても、必ずやオアシスを清めるとご教授様にお誓い申した身の上。
君惠今回は御神の霊力に頼らず、別の手段を試してみましょう。
 ある日の晩、君惠は鬼火の出現するとされる場所の近くで、
三時間近く張り込みを続けていた。
君惠うっ……足が痺れてまいりました……メンタルからも、警告が頻繁に鳴っている……
君惠鬼火は神出鬼没、遭遇できるかどうかは運次第……
君惠ここで張り込むのも、これで4日目になりますが……ウィロウ様の仰っていた鬼火は、まだ現れませぬ。
 君惠は隠れたまま姿勢を整え、体の重心を前方へとずらすことで、
両足への負担を減らした。
 彼女が改めて息を潜めようとしたその時、
青い炎がゆらゆらと彼女の目の前を掠めていった。
 君惠はすぐさま神経を集中させて、鬼火を分析し始めた。
君惠……硫黄、炭の粉、銅塩……
君惠これは……花火……?
君惠クロック様の言う通り、ただのイタズラでございましたね。
 彼女がそう言ったとたん、かすかな爆発音が響いた。
その衝撃によるものか、木々が擦れ合う音も。
 君惠は音の鳴ったほうへと向かった。
声源へと近づくにつれ、木々の揺れる音もますます鮮明になってゆく。
 やがて、ふわふわした白い頭が、木々の合間を揺れているのに気づく……
???チッ、持続時間が短すぎるな……けど、火薬が多すぎると、さっきみたいに爆発音が鳴っちまうし……
君惠あの、もし……
???うおぁっ!?お、驚かせんな……チェルシーの奴かと思うだろ……
君惠火薬の香り……やはり、ここが鬼火の発生源でございましたか。
???お前は……
君惠暮之夢神社の巫女、君惠と申します。
???あぁ、前に教授が連れてきたとかいう……オレ様は発破技士、オクトーゲンだ。
君惠これまでの鬼火……いえ、あの青い炎は、貴方様がお造りになられたのですか?
オクトーゲンはぁ?鬼火だぁ?……おいおいおい、こりゃオレ様が丹精込めて造り上げた芸術花火だぞ!?
オクトーゲンモルフォチョウからアイディアを得たんだ。まぁ、まだ蝶の形は再現できてないが……
君惠芸術……花火?
オクトーゲンああ、そうだ……その、なんだ、教授を驚かせてやろうと思ってな……何度も実験してるんだが、まだ完成には至ってない。
オクトーゲン室内のほうが実験には適してるんだがな、可燃物も風もないし。だが、教授や他人に知られるのもシャクだ……
オクトーゲンあいつら、あちこち言いふらしやがって……口止めしたはずが、たった2~3日でオアシス中に知れ渡っちまった。
オクトーゲン花火は夜じゃなきゃ意味がない、これで連続一ヶ月徹夜だ……ったく、今度は頭が痛くなってきたぜ。
オクトーゲンぬああああ!!これだけ実験したのに、なんで蝶の形にならない!?つか、鬼火とはなんだ、鬼火とは!?
君惠鬼火……あ、いいえ。オクトーゲン様のお造りになられた花火は、オアシスのあちこちで目撃証言がおありのようで……
オクトーゲンそりゃ、天候シミュレーターが壊れたせいだ。やれ今日は北風、明日は南風……おかげで好き勝手飛んでいっちまう。
オクトーゲンそれと、実験の安全性を確保するために、実験場をしょっちゅう変えてたからな。
オクトーゲンったく……実験機材を山ほど抱えて移動すんの、どんだけ大変だと思ってんだ!?
君惠プッ……ふふふ……
君惠オクトーゲン様。もし、貴方様さえよろしければ、実験に適した良地をご紹介いたしますよ。
君惠わたくしめの間借りする暮之夢神社でしたら無人ですし、ちょうどよい空き地がございます。
君惠現実での暮之夢神社には、優れた防火措置が施されておりました。オアシスの神社は、それを完全に模したもの。
君惠そこでなら、火災を気にかけることなく、実験に取り組めることでしょう。もう、あちこちを駆け回る必要はございません。
オクトーゲン神社……
オクトーゲンだが、そこはお前の家だろ?それに、境内みたいな場所で花火の実験なんかしてたら、祟られちまうんじゃないのか?
君惠ご心配には及びません。17世紀より伝わる手筒花火は、何を隠そう神社で生み出されたもの。
君惠竹筒に火薬を仕込み、このように手に握ったまま点火いたします。筒から放たれる金色の光が、本殿を優しく照らし出すのでござります。
君惠厳かかつ静穏たる神社から、賑やかな花火が生み出されたのは、おそらく御神が寂しくないように気を遣ってのことでしょう。
君惠それに、君惠も……わたくしめも、ご教授様の笑顔を見とうございます。
オクトーゲン……ゴホン。腰が異様に低いのはともかく、お前、なかなかわかる奴だな。
オクトーゲンてっきり、チェルシーの奴に告げ口されるかと思ったが、杞憂だったようだ。
オクトーゲンお前……その、なんだ。花火の開発が終わるまでは、この事は誰にも言うなよ。
オクトーゲンバラしちまったら、サプライズの意味がなくなる。ま、お前は信用できそうだし、大丈夫だろ。
君惠わたくしめを、信用……
君惠そのように貴重なもの、君惠には恐れ多くございます。
オクトーゲンあん?なんだお前、やけに大げさだなぁ。仲間なんだから当たり前だろうが。
オクトーゲンなんだか知らんが、そう気後れするな。自信を持て。この程度の信頼すらなかったら、オアシスなんざとっくに木っ端微塵になってるぜ?
オクトーゲンこちとら融通のきかない浄化者や、愚かで野蛮なエントロピーだけで、腹いっぱいだ。
 君惠は笑って頷いた。
オクトーゲンハァ……それにしても、この花火。なぜこうも安定しない?
君惠お色が……でございますか?
オクトーゲン色、形状、明るさ、持続時間……全部だ。どいつもこいつも失敗作ばかり……
君惠失敗は成功の母。経験を汲んでおられるのであれば、問題ないかと。
君惠ですが、オクトーゲン様の手掛けられる花火は、蝶というよりも……
オクトーゲンよりも……?
君惠鉤股弦(こうごげん)の形によく似ていらっしゃいますね。所謂「三角形」にござります。
オクトーゲンふむ、言われてみれば確かに。ここは蝶をあきらめて……形を変えれば、安定性もあがるかもしれんな……
オクトーゲンよし、どうすべきかわかったぞ!おかげで助かった。礼を言うぞ、君惠!
 しばらくして、暗闇の中に再び青い花火が上がった……