| 深夜、オアシスの街角。 | |||
| ウィロウはパフォーマンス会場の外で、 超人気アイドル七花への独占インタビューを準備していた。 | |||
| ウィロウ | ステージが終わるまで、あともう少しか…… | ||
| ウィロウ | そうだ!七花さんが出てくる前に、誰もいないトコで、一回通しでやってみましょっか! | ||
| エディター | 了解です!照明とカメラ、準備OKです。 いつでも始められますよ。 | ||
| ウィロウ | はいは~い!それじゃさっそく……視聴者のみなさん、こんにちは~! | ||
| ウィロウ | 『オアシスアイドル最前線』へようこそ!インタビュアーのウィロウちゃんで~す! | ||
| ウィロウ | 本日はなんと、オアシスの超人気アイドル、七花さんのシーズン初のソロライブ現場に来ていま…… | ||
| カメラを見ていたウィロウは、ふいに遠くで青色の光が瞬いているのに気づいた。 | |||
| 始めは気にならなかったものの、時間が経つにつれ、 その光はますます大きく、いよいよ眩しくなってくる。 | |||
| ウィロウ | ……えぇ……で、では……七花さんは…… | ||
| エディター | どうかしたんですか、ウィロウさん?どこか具合でも? | ||
| ウィロウは宙に浮かぶ、鮮やかな青い炎を指さした。 | |||
| インタビューチームがウィロウの指差すほうを見ると、 そこには空を覆い尽くすほどの青い炎が、魑魅魍魎のごとく瞬いていた。 | |||
| エディター | ヒ、ヒィィ……ッ!! | ||
| ウィロウ | 火の玉……前に話題になってた火の玉ですよ!!! | ||
| かすかな青色をした火焔が、インタビューチームへと迫る。 幾層にも重なる鳴き声は、まるで魂を抜き取ろうとするかのようだ…… | |||
| 2日後。オアシス、休憩エリア。 | |||
| ウィロウ | はぅぅ、思い出すだけで動悸が……あのあと、すぐにその場を離れましたけど、肝心のインタビューはボロボロでぇ…… | ||
| クロック | また火の玉…… | ||
| 休憩エリアを通りがかった君惠が、二人の会話に気づいて足を止める。 | |||
| 君惠 | もし、なにかお困りでしょうか? | ||
| クロック | あ、君惠、ちょうどよかった。あたしの悪い予感、当たっちゃったみたいなんだよね…… | ||
| クロック | こっちのウィロウが、インタビュー中にまた火の玉を見たんだって。 | ||
| ウィロウ | 聞いてたよりもずーーっとおっきくて、しかも凄まじい音がガンガン鳴ってました! | ||
| 君惠 | 除霊が、効かなかった……? | ||
| クロック | ってことは、やっぱり誰かのイタズラなんじゃん。だから言ったっしょ、オアシスにオバケなんかいるわけないって。 | ||
| 君惠はうつむいて、手中の御幣(おんべい)を見た。 | |||
| 君惠 | やはり、神を冒涜するような存在に、皆様を除霊する資格など…… | ||
| クロック | これこれこれ、勝手に落ち込むな。キミの責任なものか。イタズラっ子は、物理的除霊でこらしめてやらんとな……クククク。 | ||
| 君惠 | 物理的、除霊で……? | ||
| 君惠 | なるほど、承知いたしました。わたくしめはいかなる手段をもってしても、必ずやオアシスを清めるとご教授様にお誓い申した身の上。 | ||
| 君惠 | 今回は御神の霊力に頼らず、別の手段を試してみましょう。 | ||
| ある日の晩、君惠は鬼火の出現するとされる場所の近くで、 三時間近く張り込みを続けていた。 | |||
| 君惠 | うっ……足が痺れてまいりました……メンタルからも、警告が頻繁に鳴っている…… | ||
| 君惠 | 鬼火は神出鬼没、遭遇できるかどうかは運次第…… | ||
| 君惠 | ここで張り込むのも、これで4日目になりますが……ウィロウ様の仰っていた鬼火は、まだ現れませぬ。 | ||
| 君惠は隠れたまま姿勢を整え、体の重心を前方へとずらすことで、 両足への負担を減らした。 | |||
| 彼女が改めて息を潜めようとしたその時、 青い炎がゆらゆらと彼女の目の前を掠めていった。 | |||
| 君惠はすぐさま神経を集中させて、鬼火を分析し始めた。 | |||
| 君惠 | ……硫黄、炭の粉、銅塩…… | ||
| 君惠 | これは……花火……? | ||
| 君惠 | クロック様の言う通り、ただのイタズラでございましたね。 | ||
| 彼女がそう言ったとたん、かすかな爆発音が響いた。 その衝撃によるものか、木々が擦れ合う音も。 | |||
| 君惠は音の鳴ったほうへと向かった。 声源へと近づくにつれ、木々の揺れる音もますます鮮明になってゆく。 | |||
| やがて、ふわふわした白い頭が、木々の合間を揺れているのに気づく…… | |||
| ??? | チッ、持続時間が短すぎるな……けど、火薬が多すぎると、さっきみたいに爆発音が鳴っちまうし…… | ||
| 君惠 | あの、もし…… | ||
| ??? | うおぁっ!?お、驚かせんな……チェルシーの奴かと思うだろ…… | ||
| 君惠 | 火薬の香り……やはり、ここが鬼火の発生源でございましたか。 | ||
| ??? | お前は…… | ||
| 君惠 | 暮之夢神社の巫女、君惠と申します。 | ||
| ??? | あぁ、前に教授が連れてきたとかいう……オレ様は発破技士、オクトーゲンだ。 | ||
| 君惠 | これまでの鬼火……いえ、あの青い炎は、貴方様がお造りになられたのですか? | ||
| オクトーゲン | はぁ?鬼火だぁ?……おいおいおい、こりゃオレ様が丹精込めて造り上げた芸術花火だぞ!? | ||
| オクトーゲン | モルフォチョウからアイディアを得たんだ。まぁ、まだ蝶の形は再現できてないが…… | ||
| 君惠 | 芸術……花火? | ||
| オクトーゲン | ああ、そうだ……その、なんだ、教授を驚かせてやろうと思ってな……何度も実験してるんだが、まだ完成には至ってない。 | ||
| オクトーゲン | 室内のほうが実験には適してるんだがな、可燃物も風もないし。だが、教授や他人に知られるのもシャクだ…… | ||
| オクトーゲン | あいつら、あちこち言いふらしやがって……口止めしたはずが、たった2~3日でオアシス中に知れ渡っちまった。 | ||
| オクトーゲン | 花火は夜じゃなきゃ意味がない、これで連続一ヶ月徹夜だ……ったく、今度は頭が痛くなってきたぜ。 | ||
| オクトーゲン | ぬああああ!!これだけ実験したのに、なんで蝶の形にならない!?つか、鬼火とはなんだ、鬼火とは!? | ||
| 君惠 | 鬼火……あ、いいえ。オクトーゲン様のお造りになられた花火は、オアシスのあちこちで目撃証言がおありのようで…… | ||
| オクトーゲン | そりゃ、天候シミュレーターが壊れたせいだ。やれ今日は北風、明日は南風……おかげで好き勝手飛んでいっちまう。 | ||
| オクトーゲン | それと、実験の安全性を確保するために、実験場をしょっちゅう変えてたからな。 | ||
| オクトーゲン | ったく……実験機材を山ほど抱えて移動すんの、どんだけ大変だと思ってんだ!? | ||
| 君惠 | プッ……ふふふ…… | ||
| 君惠 | オクトーゲン様。もし、貴方様さえよろしければ、実験に適した良地をご紹介いたしますよ。 | ||
| 君惠 | わたくしめの間借りする暮之夢神社でしたら無人ですし、ちょうどよい空き地がございます。 | ||
| 君惠 | 現実での暮之夢神社には、優れた防火措置が施されておりました。オアシスの神社は、それを完全に模したもの。 | ||
| 君惠 | そこでなら、火災を気にかけることなく、実験に取り組めることでしょう。もう、あちこちを駆け回る必要はございません。 | ||
| オクトーゲン | 神社…… | ||
| オクトーゲン | だが、そこはお前の家だろ?それに、境内みたいな場所で花火の実験なんかしてたら、祟られちまうんじゃないのか? | ||
| 君惠 | ご心配には及びません。17世紀より伝わる手筒花火は、何を隠そう神社で生み出されたもの。 | ||
| 君惠 | 竹筒に火薬を仕込み、このように手に握ったまま点火いたします。筒から放たれる金色の光が、本殿を優しく照らし出すのでござります。 | ||
| 君惠 | 厳かかつ静穏たる神社から、賑やかな花火が生み出されたのは、おそらく御神が寂しくないように気を遣ってのことでしょう。 | ||
| 君惠 | それに、君惠も……わたくしめも、ご教授様の笑顔を見とうございます。 | ||
| オクトーゲン | ……ゴホン。腰が異様に低いのはともかく、お前、なかなかわかる奴だな。 | ||
| オクトーゲン | てっきり、チェルシーの奴に告げ口されるかと思ったが、杞憂だったようだ。 | ||
| オクトーゲン | お前……その、なんだ。花火の開発が終わるまでは、この事は誰にも言うなよ。 | ||
| オクトーゲン | バラしちまったら、サプライズの意味がなくなる。ま、お前は信用できそうだし、大丈夫だろ。 | ||
| 君惠 | わたくしめを、信用…… | ||
| 君惠 | そのように貴重なもの、君惠には恐れ多くございます。 | ||
| オクトーゲン | あん?なんだお前、やけに大げさだなぁ。仲間なんだから当たり前だろうが。 | ||
| オクトーゲン | なんだか知らんが、そう気後れするな。自信を持て。この程度の信頼すらなかったら、オアシスなんざとっくに木っ端微塵になってるぜ? | ||
| オクトーゲン | こちとら融通のきかない浄化者や、愚かで野蛮なエントロピーだけで、腹いっぱいだ。 | ||
| 君惠は笑って頷いた。 | |||
| オクトーゲン | ハァ……それにしても、この花火。なぜこうも安定しない? | ||
| 君惠 | お色が……でございますか? | ||
| オクトーゲン | 色、形状、明るさ、持続時間……全部だ。どいつもこいつも失敗作ばかり…… | ||
| 君惠 | 失敗は成功の母。経験を汲んでおられるのであれば、問題ないかと。 | ||
| 君惠 | ですが、オクトーゲン様の手掛けられる花火は、蝶というよりも…… | ||
| オクトーゲン | よりも……? | ||
| 君惠 | 鉤股弦(こうごげん)の形によく似ていらっしゃいますね。所謂「三角形」にござります。 | ||
| オクトーゲン | ふむ、言われてみれば確かに。ここは蝶をあきらめて……形を変えれば、安定性もあがるかもしれんな…… | ||
| オクトーゲン | よし、どうすべきかわかったぞ!おかげで助かった。礼を言うぞ、君惠! | ||
| しばらくして、暗闇の中に再び青い花火が上がった…… |
