| へリックスは緊急手術のために、医療部門へと呼び戻された。 チョコもチョコラトリーの経営があるため、やむを得ずに部屋を立ち去った。 | |||
| がらんとした部屋に、君惠だけが残された。 | |||
| 彼女は食器を片付けながら、先ほどの会話を思い出していた。 確かでありながら不確かな、喜ばしいようでいて恐ろしい気持ちが、メンタルに広がる。 | |||
| ヘリックス | えっ、どうして?あたし、君惠さんが好き!君惠さんも、ここで一緒に暮らそうよ! | ||
| チョコ | わたしも!君惠さんのこと好きだよ!もっと色んなチョコを食べさせてあげたい! | ||
| ヘリックス | でも、ここに君惠さんを傷つける人なんていないよ。君惠さんを待ってる、君惠さんのことが好きな人しかいないのに……それでも、神社に帰っちゃうの? | ||
| 君惠 | 左様に……ございます。 | ||
| ヘリックス | そっか…… | ||
| 君惠 | オアシスには……わたくしめを咎める者などいない。それでも、神社に帰ろうと? | ||
| 君惠 | 初めて、仲間との信頼を感じた。初めて、こんなにも好意を向けてもらえた。 | ||
| 君惠 | 皆様方の誠意から……逃げる理由など、どこにあるのです? | ||
| ??? | シャーーッ!! | ||
| 君惠 | きゃっ……へ、蛇? | ||
| その時、カラフルな一匹の蛇が、宿舎の中へと忍び込んできた。 | |||
| ?? | おやおや……とんだ失礼を。 | ||
| 緑髪の人形が、蛇を連れ戻した。 そして宿舎の扉から中を覗き込み、キョロキョロと見渡した。 何かを探しているようだ。 | |||
| ?? | ちょいとそこの御方、野良を見ませんでした? | ||
| 巳ツ子 | シャーーッ! | ||
| 君惠 | 貴方は……蔵音様?いいえ、野良様はお見かけしておりませぬが…… | ||
| 蔵音 | ほう?あの怠け者のスットコドッコイが……締め切りから逃げようと、M78星雲にでも飛んでったんじゃないでしょうかね、まったく…… | ||
| 蔵音 | 嗚呼……もはやあーしは疲労困憊、精疲力尽(せいひりきじん)でござんすよ。一日がまるで一年のよう。さっさと御臨終あそばせたいのに、まーだ余生があるなんて。 | ||
| 君惠 | 蔵音様、どうかそのようにお考えになりませんよう。人の生には…… | ||
| 蔵音 | ほほほ、冗談ですよ、冗談。ハァ……それにしても、あの女、どこに行ったんだか。 | ||
| 蔵音 | 締め切りが迫ってるってのに、野良は失踪。編集者が部屋の前でずーっと待ち伏せてんですから。こないだなんて、その場で肉を焼いてましたからね、ええ。 | ||
| 蔵音 | このまんまじゃ、あの女の部屋の前がキャンプ場になっちまいますよ。それも入場料をふんだくる系の! | ||
| 蔵音 | 「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!有名脚本家、野良の宿舎でキャンプなんてどうです!?お一人様たったの10DGC!」 | ||
| 君惠 | 野良様の行方を、ご教授様にご相談なさっては如何でしょう? | ||
| 蔵音 | まっ、そこまでせずともよろしゅうござんしょ……野良の失踪は日常茶飯事ですからねぇ。 | ||
| 君惠 | ふふふ、そうだったのですね。 | ||
| 蔵音 | でも今回はちょっとばかり特殊ですけれども。通信が繋がらないどころか、奴の居場所すら特定できないときた。 | ||
| 蔵音 | まるで蒸発ですよ。ただ遊んでるだけなら、一言くらい寄越すのが道理でしょうに。まったく心配かけて…… | ||
| 君惠 | 野良様は、オアシスにいらっしゃるのでしょうか? | ||
| 蔵音 | それは間違いないでしょうよ。セクターから出れば、記録が残りますから。 | ||
| 君惠 | なるほど……まるで「神隠し」のようでございますね…… | ||
| 蔵音 | 野良のような怠け者を連れ去ったところで、神を煩わせるだけでしょうに。 | ||
| 君惠 | 蔵音様、どうかご心配なさらず。野良様は機敏かつ善良であらせられます。他者様と衝突することはないかと。たとえ窮地に陥ろうと、臨機応変にお振る舞いになられる御方です。 | ||
| 君惠 | 蔵音様がよろしければ、わたくしめにも野良様の捜索をお手伝いさせてくださいませ。オアシスの領土には限りがございます。やがては野良様の消息もつかめることでしょう。 | ||
| 蔵音 | あら、よろしいんです?いやはや、面倒をおかけして申し訳ないったら。 | ||
| 君惠 | とんでもございません。代わりと言ってはなんですが、野良様の物語をわたくしめにお聴かせ願えませんでしょうか。君惠は、もっと皆様方について知りとうございます。 | ||
| 蔵音 | ふむ……そりゃかまいませんけどね、どこから話したものか……ある意味、あの女は天才の部類でございますから、ええ…… | ||
| 二人は部屋を出て、廊下の奥へと姿を消した。 |
