| オアシス、司令室。 | |||
| 冷静になったクロトは、コーヒーカップを手のひらに包んで、 ただよう湯気をそっと吹き散らしている。 | |||
| クロト | 私にとっては、物語はそこで終わり。 | ||
| {教授} | ……そうだったのね。 | ||
| センタウレイシー | 私が目を覚ました時には、すでにUASのメンテナンスルームに横たわっていました。稼働停止した後に、そんなことがあっただなんて…… | ||
| センタウレイシー | ありがとう、クロト。 | ||
| クロトが首をふる。 | |||
| クロト | 感謝すべきは、私のほう。あなたのおかげで、物語を語り継ぐ機会を得られた。 | ||
| センタウレイシー | そうかもしれない……だけど、その後が気になるわ。 | ||
| センタウレイシー | 私をUASに送り届けた後、あなたはどこへ? | ||
| クロト | それについては、教授のほうがお詳しいはず。 | ||
| クロトはセンタウレイシーの懐に収まったまま、姿勢を正した。 私に向けられた金色の双眸には、感謝の気持ちが満ち溢れていた。 | |||
| ちょっと待った……感謝? | |||
| センタウレイシー | あっ、もしかして、ご主人様と何か関係が…… | ||
| {教授} | えっ…… | ||
| クロトの切実な視線に晒された私は、久方ぶりに狼狽していた。 現実での「教授」とのエピソードなど、私に知るよしもない。 | |||
| (選択) | 1.あなたの物語は、あなた自身の口から語らなくちゃ。 | A | |
| 2.それを私に言わせるなんて、ひどいわ。 | B | ||
| A | クロト | 確かに。私の物語は、私にしか唄えない。 | C |
| B | センタウレイシー | ご主人様にも、可愛らしい一面がおありなのですね。それなら、クロト。物語の続きをお願いできる? | C |
| C | クロト | それなら、私が最後まで話そう。 | |
| {教授} | (ふぅ、助かった……) | ||
| クロト | 実は……そう離れていない場所で、私は深刻な故障により稼働を停止。 | ||
| クロト | 付近を通ったUASの巡回ロボットが私を見つけ、識別コードを通じて、私の開発者に報告した。 | ||
| センタウレイシー | あなたに同情していた、あの研究主任の方? | ||
| クロト | そう。 | ||
| センタウレイシー | あ……もしかして、あの方がご主人様に連絡を? | ||
| クロト | その通り。枯れかけていた木の枝が、ニューラルクラウドのもと、再び精彩を放った。 | ||
| ヘル | 教授はホントに良いヤツだ!レイシーとおんなじだ! | ||
| クロト | ニューラルクラウド計画で、記憶を保存する方法が見つかれば、姉さんたちのような悲劇が繰り返されずに済む。そうすれば、彼女たちにまた会える…… | ||
| クロト | 主任の同意を得た。ニューラルクラウド計画の報酬で、私とヘルの素体を修復すると。マグラシアから現実に戻れば、残りの報酬を渡すとも。 | ||
| ヘル | オレが目覚めた時、ちょうどクロトと主任がそれを話してたんだ。まるでおとぎ話だったぜ! | ||
| センタウレイシー | その主任がいなければ、あなたと再会する約束も果たせなかった。 | ||
| センタウレイシー | マグラシアを出たら、一緒に主任に挨拶に伺いましょう。感謝の気持ちを伝えるためにも。 | ||
| クロト | レイシーはあの後、どうなった? | ||
| センタウレイシーは私を見た。 | |||
| {教授} | その……君から教えてやってくれ、センタウレイシー。 | ||
| センタウレイシー | 承知いたしました。 | ||
| センタウレイシー | 私が目を覚ました時、戦場であなたやヴェーネを探すのは難しいと判断したの。生き残った兵士の方によると、あなたは失踪した人形に登録されていた。 | ||
| クロト | ごめんなさい。 | ||
| センタウレイシー | あなたのせいじゃないわ。私は、メイドとしての責任や、姉としての責任を果たしただけ…… | ||
| センタウレイシー | そして、あなたの言葉を思い出した。 | ||
| クロト | 私の……? | ||
| センタウレイシー | あなたは私に言った、「生きて」と。だから、記憶を保存するべきだと思ったの。ヴェーネが戻ってきた時に、プログラムされた挨拶じゃなくて、「おかえりなさい」って言ってあげられるように。 | ||
| クロト | 私も、そう思ってた……本当に、よかった。 | ||
| クロトの髪を撫でるセンタウレイシーが、ふいに目を細めて時計を見た。 | |||
| しまった……もうこんな時間。 | |||
| センタウレイシー | 物語は、これでおしまいです。ご主人様。 | ||
| センタウレイシー | そろそろご休憩なさいませんと。マックスさんとドゥシェーヴヌイさんは、私にお任せください。後ほど、あなたをお迎えに参ります。 | ||
| {教授} | ……そう言うだろうと思った。 | ||
| センタウレイシー | クロト、あなたはどうするの? | ||
| クロト | 疲労せし魂は休息を欲する。そうすれば、再び運命の軌道を歩める。 | ||
| センタウレイシー | それなら、しばらくオアシスでゆっくりするといいわ。ご主人様との積もる話もあるだろうし。 | ||
| クロトはセンタウレイシーの肩から頭を離し、 マックスとドゥシェーヴヌイを抱えて立ち去るセンタウレイシーを、 恋々とした眼差しで見送った。 | |||
| {教授} | クロト、まだ旅を続けるつもり? | ||
| クロト | もしかすると、物語はここで一段落するかもしれない。 | ||
| クロト | 私の運命の人はここにいる。そして私を導きし者は、目の前に。 | ||
| 彼女はコーヒーカップを置いて立ち上がると、 スカートをそっと持ち上げて、私に一礼した。 | |||
| クロト | 私をお導きください、教授。 | ||
| クロト | たとえ、その先に戦場、または夢境が待ち構えていようと…… | ||
| {教授} | つまり、私に寝ろと言いたいのね? | ||
| クロト | 生命には休息が必要。さすれば、より良い存続を望める。 | ||
| クロト | 眠れないのなら、ヘルの胸に抱かれてみる? | ||
| {教授} | えっ、いや、それはちょっと……って、ま、待って! | ||
| ガンッ! | |||
| 私の言葉を待たずに、暗闇が私を覆い尽くした。 | |||
| ヘル | おい、クロト、押すなよ……うわわわっ! | ||
| クロト | ヘルも待ちきれないみたい。 教授、ヘルに包まれる感触はいかが? | ||
| {教授} | ……確かに、奇妙な体験ね。 | ||
| クロト | ふふふ……前にも味わっているくせに、全く違う答えが返ってくるなんて。 | ||
| 私は冷や汗をかいた。 だが棺桶の中からでは、クロトの表情がわからない。 | |||
| クロト | 私には、魂の色がわかる。 久しく会わないうちに、魂が変化しているみたい…… | ||
| クロト | とても興味がある、貴方が何を経験したのか。 | ||
| 私の周囲を歩き回っていた、クロトの足音が突然止んだ。 | |||
| クロト | {教授}教授…… | ||
| ガンッ! | |||
| 私が反応できずにいると、視野が急に明るくなった。 私はとっさに目を細めた。 | |||
| クロト | ごめんなさい……ヘルの中に長居させすぎた。 | ||
| {教授} | ……だ、大丈夫…… | ||
| ヘル | ほらな、教授は気にしないって言ったろ!?へへへ……オレん中に入れる機会はそうそうないんだ。けど教授なら、たまに昼寝に使ったっていいんだぜ…… | ||
| クロト | 驚かせた?冗談のつもりだった。 | ||
| {教授} | ……あなたに、こんな一面があったなんて。 | ||
| クロト | ただのちょっとしたイタズラ。貴方のそんな表情が見られるなんて、意外。 | ||
| クロト | 私のことを、もっと知りたい?それなら、時間はたくさんある。 | ||
| ちょうどその時、ドアをノックする音がした。 | |||
| センタウレイシー | ご主人様、クロトの部屋の準備が整いました。 | ||
| センタウレイシーは部屋を見渡すと、クロトの含みのある表情から、何かを察した。 | |||
| センタウレイシー | クロト、またイタズラしたの? | ||
| クロト | レイシーが信頼している相手だから…… | ||
| クロトはフラフラとセンタウレイシーに近づき、彼女の腕に抱きついた。 | |||
| センタウレイシー | 申し訳ございません、ご主人様。ですが、この子がこういった一面を見せるのも、貴方様を信頼してのことです。 | ||
| 銀髪の少女が微笑んだ。 | |||
| {教授} | ……そうみたいね。 | ||
| センタウレイシー | ご主人様、ご休憩なさいますか? | ||
| {教授} | うん、そうする。 | ||
| クロト | それなら、私が送ろう。 | ||
| {教授} | …… | ||
| なんだか嫌な予感がする。 | |||
| クロト | 良い夢が見れるよう、レクイエムを歌ってあげる。 | ||
| {教授} | えっ……遠慮しておくわ。 自分で戻れるから…… | ||
| 彼女の好意をつっぱねたものの、結局、私たちは三人揃って司令部を離れた。 | |||
| クロト | ここの星空は本当に綺麗。彼らにも、衰亡は存在する…… | ||
| {教授} | 星たちを見送りたいの? | ||
| クロト | 彼らが墜落するなら。 | ||
| クロト | でも今は、ただその輝きを讃えたい。 | ||
| {教授} | 偶然ね、私もそう思っていたところ。 | ||
| 粲然と輝く星々の下を、私たちは進んだ。 やがて、夢の世界が私の意識を呑み込んでしまうまで。 | |||
| 翌日、マックスとドゥシェーヴヌイが、大騒ぎしながら アンジェラの部屋に押しかけたのは……また、別のお話。 |
