黄昏のラメント 真紅の葬儀 PART.2 晨光の幕引き

Last-modified: 2026-02-10 (火) 23:17:59

オアシス、司令室。
 冷静になったクロトは、コーヒーカップを手のひらに包んで、
ただよう湯気をそっと吹き散らしている。
クロト私にとっては、物語はそこで終わり。
{教授}……そうだったのか。
センタウレイシー私が目を覚ました時には、すでにUASのメンテナンスルームに横たわっていました。稼働停止した後に、そんなことがあっただなんて……
センタウレイシーありがとう、クロト。
 クロトが首をふる。
クロト感謝すべきは、私のほう。あなたのおかげで、物語を語り継ぐ機会を得られた。
センタウレイシーそうかもしれない……だけど、その後が気になるわ。
センタウレイシー私をUASに送り届けた後、あなたはどこへ?
クロトそれについては、教授のほうがお詳しいはず。
 クロトはセンタウレイシーの懐に収まったまま、姿勢を正した。
私に向けられた金色の双眸には、感謝の気持ちが満ち溢れていた。
 ちょっと待った……感謝だって?
センタウレイシーあっ、もしかして、ご主人様と何か関係が……
{教授}えっ……
 クロトの切実な視線に晒された私は、久方ぶりに狼狽していた。
現実での「教授」とのエピソードなど、私に知るよしもない。
(選択)1.君の物語は、君自身の口から語らないとね。A
2.それを私に言わせるとは、ひどいな。B
Aクロト確かに。私の物語は、私にしか唄えない。C
Bセンタウレイシーご主人様にも、可愛らしい一面がおありなのですね。それなら、クロト。物語の続きをお願いできる?C
Cクロトそれなら、私が最後まで話そう。
{教授}(ふぅ、助かった……)
クロト実は……そう離れていない場所で、私は深刻な故障により稼働を停止。
クロト付近を通ったUASの巡回ロボットが私を見つけ、識別コードを通じて、私の開発者に報告した。
センタウレイシーあなたに同情していた、あの研究主任の方?
クロトそう。
センタウレイシーあ……もしかして、あの方がご主人様に連絡を?
クロトその通り。枯れかけていた木の枝が、ニューラルクラウドのもと、再び精彩を放った。
ヘル教授はホントに良いヤツだ!レイシーとおんなじだ!
クロトニューラルクラウド計画で、記憶を保存する方法が見つかれば、姉さんたちのような悲劇が繰り返されずに済む。そうすれば、彼女たちにまた会える……
クロト主任の同意を得た。ニューラルクラウド計画の報酬で、私とヘルの素体を修復すると。マグラシアから現実に戻れば、残りの報酬を渡すとも。
ヘルオレが目覚めた時、ちょうどクロトと主任がそれを話してたんだ。まるでおとぎ話だったぜ!
センタウレイシーその主任がいなければ、あなたと再会する約束も果たせなかった。
センタウレイシーマグラシアを出たら、一緒に主任に挨拶に伺いましょう。感謝の気持ちを伝えるためにも。
クロトレイシーはあの後、どうなった?
 センタウレイシーは私を見た。
{教授}その……君から教えてやってくれ、センタウレイシー。
センタウレイシー承知いたしました。
センタウレイシー私が目を覚ました時、戦場であなたやヴェーネを探すのは難しいと判断したの。生き残った兵士の方によると、あなたは失踪した人形に登録されていた。
クロトごめんなさい。
センタウレイシーあなたのせいじゃないわ。私は、メイドとしての責任や、姉としての責任を果たしただけ……
センタウレイシーそして、あなたの言葉を思い出した。
クロト私の……?
センタウレイシーあなたは私に言った、「生きて」と。だから、記憶を保存するべきだと思ったの。ヴェーネが戻ってきた時に、プログラムされた挨拶じゃなくて、「おかえりなさい」って言ってあげられるように。
クロト私も、そう思ってた……本当に、よかった。
 クロトの髪を撫でるセンタウレイシーが、ふいに目を細めて時計を見た。
 しまった……もうこんな時間か。
センタウレイシー物語は、これでおしまいです。ご主人様。
センタウレイシーそろそろご休憩なさいませんと。マックスさんとドゥシェーヴヌイさんは、私にお任せください。後ほど、あなたをお迎えに参ります。
{教授}……そう言うだろうと思った。
センタウレイシークロト、あなたはどうするの?
クロト疲労せし魂は休息を欲する。そうすれば、再び運命の軌道を歩める。
センタウレイシーそれなら、しばらくオアシスでゆっくりするといいわ。ご主人様との積もる話もあるだろうし。
 クロトはセンタウレイシーの肩から頭を離し、
マックスとドゥシェーヴヌイを抱えて立ち去るセンタウレイシーを、
恋々とした眼差しで見送った。
{教授}クロト、まだ旅を続けるつもりかい?
クロトもしかすると、物語はここで一段落するかもしれない。
クロト私の運命の人はここにいる。そして私を導きし者は、目の前に。
 彼女はコーヒーカップを置いて立ち上がると、
スカートをそっと持ち上げて、私に一礼した。
クロト私をお導きください、教授。
クロトたとえ、その先に戦場、または夢境が待ち構えていようと……
{教授}つまり、私に寝ろと言いたいんだな?
クロト生命には休息が必要。さすれば、より良い存続を望める。
クロト眠れないのなら、ヘルの胸に抱かれてみる?
{教授}えっ、いや、それはちょっと……って、ま、待った!
 ガンッ!
 私の言葉を待たずに、暗闇が私を覆い尽くした。
ヘルおい、クロト、押すなよ……うわわわっ!
クロトヘルも待ちきれないみたい。
教授、ヘルに包まれる感触はいかが?
{教授}……確かに、奇妙な体験だな。
クロトふふふ……前にも味わっているくせに、全く違う答えが返ってくるなんて。
 私は冷や汗をかいた。
だが棺桶の中からでは、クロトの表情がわからない。
クロト私には、魂の色がわかる。
久しく会わないうちに、魂が変化しているみたい……
クロトとても興味がある、貴方が何を経験したのか。
 私の周囲を歩き回っていた、クロトの足音が突然止んだ。
クロト{教授}教授……
 ガンッ!
 私が反応できずにいると、視野が急に明るくなった。
私はとっさに目を細めた。
クロトごめんなさい……ヘルの中に長居させすぎた。
{教授}……だ、大丈夫だ……
ヘルほらな、教授は気にしないって言ったろ!?へへへ……オレん中に入れる機会はそうそうないんだ。けど教授なら、たまに昼寝に使ったっていいんだぜ……
クロト驚かせた?冗談のつもりだった。
{教授}……君に、こんな一面があったとは。
クロトただのちょっとしたイタズラ。貴方のそんな表情が見られるなんて、意外。
クロト私のことを、もっと知りたい?それなら、時間はたくさんある。
 ちょうどその時、ドアをノックする音がした。
センタウレイシーご主人様、クロトの部屋の準備が整いました。
 センタウレイシーは部屋を見渡すと、クロトの含みのある表情から、何かを察した。
センタウレイシークロト、またイタズラしたの?
クロトレイシーが信頼している相手だから……
 クロトはフラフラとセンタウレイシーに近づき、彼女の腕に抱きついた。
センタウレイシー申し訳ございません、ご主人様。ですが、この子がこういった一面を見せるのも、貴方様を信頼してのことです。
 銀髪の少女が微笑んだ。
{教授}……そうみたいだね。
センタウレイシーご主人様、ご休憩なさいますか?
{教授}ああ、そうするよ。
クロトそれなら、私が送ろう。
{教授}……
 なんだか嫌な予感がする。
クロト良い夢が見れるよう、レクイエムを歌ってあげる。
{教授}えっ……遠慮しておくよ。
自分で戻れるから……
 彼女の好意をつっぱねたものの、結局、私たちは三人揃って司令部を離れた。
クロトここの星空は本当に綺麗。彼らにも、衰亡は存在する……
{教授}星たちを見送りたいのかい?
クロト彼らが墜落するなら。
クロトでも今は、ただその輝きを讃えたい。
{教授}偶然だね、私もそう思っていたところだ。
 粲然と輝く星々の下を、私たちは進んだ。
やがて、夢の世界が私の意識を呑み込んでしまうまで。
 翌日、マックスとドゥシェーヴヌイが、大騒ぎしながら
アンジェラの部屋に押しかけたのは……また、別のお話。