黄昏のラメント 真紅の葬儀 STAGE 2 夕暮れの序章-1

Last-modified: 2026-02-10 (火) 22:43:14

 テキサス州の南部の砂漠を、一台の軍用車が駆け抜けてゆく。
センタウレイシー……
 後部座席に座るセンタウレイシーは、ライトイエローの便箋を手にしていた。
「これはUASの受け入れ契約書です。パパとママが残していったお金で、
 あなたの長期保守サービスを購入しました。
 だからあなたがUASへ戻っても、所有者は私のままです。
 でももう仕事を続ける必要はありません。
 どうか、あなたの好きなことをしてください」
「私は軍に入隊して、パパとママを探しに行きます。
 ついてこないでね、レイシー。
 戦場に来ちゃだめ――これは主人としての最後の命令です。
 ごめんね、直接伝えてあげられなくて。
 直接伝える勇気がなくて、本当にごめんね」
「元気でね、お姉ちゃん」
「いつもあなたを愛しています。あなたの妹、ヴェーネより」
 彼女は無意識に便箋を撫でた。手紙の折れ目はすでに擦り切れ始めている。
砂の混じった風に煽られ、便箋が音を立ててようやく、彼女は我に返った。
そして手紙をそっとポケットにしまう。
 遠かった砲火の音が、徐々に近づいてくる。
軍事基地の輪郭が、はっきりと浮かび上がった。
 
ラレド軍事エリア、前哨基地入り口。
後方部門の人形身分情報をご提示ください。
センタウレイシー型番:Butler-36。コードネーム:センタウレイシー。所有者:ヴェーネ。派遣元:UAS。
後方部門の人形ID情報を識別しています……識別完了。
後方部門の人形ようこそ、センタウレイシーさん。後方部門で登録を行ってください。番号札は36番です。
センタウレイシーありがとうございます。
 指定された待合エリアへとやってくると、
長椅子に座った一人の兵士が順番を待っていた。
兵士なんだァ、まーた民生用の鉄クズか?
兵士戦術人形じゃあるまいし、戦場に何の用だ?てめぇらなんざ、工場で鉄でも打ってんのがお似合いだ。
 センタウレイシーは兵士にはかまわずに、後方の空いた席を見つけて座った。
兵士おい……最近の民生用は人間を無視すんのか?
兵士ったく、大手の連中がなに考えてんのかサッパリだぜ!鉄クズばっかりよこしやがってよ!後方でこいつらとよろしくやれってか!?
 兵士が怒りの形相で背後をふりむいた。
彼の手に握られた松葉杖が、椅子から顔を覗かせる。
兵士ほぉ、鉄クズにゃ人間の言葉がわからねェか?
センタウレイシー……いいえ、聞こえております。
センタウレイシーですが、先ほどの発言が命令として有効だとは思えません。あなたの権限も中級の士官以下。私に強制命令を下すことは不可能です。
兵士てめェ――
 兵士が逆上しかけた時、廊下から扉を押し開く重たい音が鳴った。
クロト……
ヘルひゅ~、やっと着いたぜ!口ん中砂まみれで散々だ!ま、オレに口なんてねーけどよ!ガハハハ!
クロト……並ぶ時は静かに。
 背の高い黒衣の人形が、巨大な棺桶を背負い、無表情で近づいてきた。
それを見た兵士の表情が、怒りから萎縮へと変わる。
兵士チッ、縁起の悪いモン持ってくんな……鉄クズが……
クロト……?
番号を呼ぶ声次、35番。
 ちょうどいいタイミングで番号が呼ばれた。
兵士はその場から逃れる口実ができたとでもいうように、
すぐさま立ち上がって、足を引きずりながら去っていった。
クロト……
センタウレイシーありがとうございます。
クロト……私は何もしていない。
センタウレイシーええ、わかっております。それでも、お礼を申し上げたいのです。
 相手が自分と同じUAS出身だと気づいたのか、センタウレイシーは安心感を覚えた。
彼女はクロトを隣の席へと招く。
ヘル気にすんなって!威風堂々たるこのオレがいりゃ、チンピラどもは逃げ出すって普段から言ってんのによ、誰も信じてくれねーんだ!どーだ、恐れ入ったか!ナハハハ!
センタウレイシーあの兵士はチンピラではありません。ただ、前線を退いたことで……神経質になっているのでしょう。
センタウレイシーこういったことは、戦場では珍しくありませんから。
ヘルへぇ~。オマエ、見かけによらず色々知ってんのな!それに情けもあるし、なにより――ファッションがサイコーにクールだぜ!これが伝説のメイド服ってやつかァ!?
センタウレイシーお褒めに預かり光栄です。あなたの外見も……独特であらせられますね。
ヘルだろ、だろォ!?オレもそう思ってたトコ!
ヘル仲良くしよーぜ!ヘルって呼んでくれよ!こっちはオレの主人、クロトだ!
センタウレイシー喜んで。私は家政用人形のセンタウレイシーと申します。
クロト……
センタウレイシーあなたのご主人様は……寡黙なのですね。軍事基地にいらっしゃるのは初めてですか?
ヘルトーゼンだろ!十数年前と違って、軍事基地もずいぶんと減っちまったからな!あっ、当たり前だけど、十年前を知ってるワケじゃねーぞ。そこまで老いぼれじゃないやい――とにかく、データバンクにゃそう書かれてた!
ヘルでもよ、コイツが喋らねェのは、なにも人見知りってわけじゃないんだぜ?オレたちゃ死すら恐れない、人を怖がってどうするってんだ。
クロト……
ヘル……わ、わぁったよ、冗談やめる。ちぇっ、気分をほぐそうとしてやったのに。ま、すぐに打ち解けるさ!心配すんな!
センタウレイシーそれなら、明日が良き日となることを願って。
ヘルあんがとよ、センタウレイシー!もしかしなくても、オレたちゃ同僚だ!ムッツリ電波女と仕事したいヤツなんざいねェだろ!?クロト、オマエも少しはな……
番号を呼ぶ声次、36番。
センタウレイシー申し訳ございません、私はここで。
ヘルおう、気にすんな、行って来い!幸運を祈るぜ、メイドのセンタウレイシー!
 センタウレイシーはわずかに頷くと、奇妙な二人組みに分かれを告げた。