| テキサス州の南部の砂漠を、一台の軍用車が駆け抜けてゆく。 | |||
| センタウレイシー | …… | ||
| 後部座席に座るセンタウレイシーは、ライトイエローの便箋を手にしていた。 | |||
| 「これはUASの受け入れ契約書です。パパとママが残していったお金で、 あなたの長期保守サービスを購入しました。 だからあなたがUASへ戻っても、所有者は私のままです。 でももう仕事を続ける必要はありません。 どうか、あなたの好きなことをしてください」 | |||
| 「私は軍に入隊して、パパとママを探しに行きます。 ついてこないでね、レイシー。 戦場に来ちゃだめ――これは主人としての最後の命令です。 ごめんね、直接伝えてあげられなくて。 直接伝える勇気がなくて、本当にごめんね」 | |||
| 「元気でね、お姉ちゃん」 「いつもあなたを愛しています。あなたの妹、ヴェーネより」 | |||
| 彼女は無意識に便箋を撫でた。手紙の折れ目はすでに擦り切れ始めている。 砂の混じった風に煽られ、便箋が音を立ててようやく、彼女は我に返った。 そして手紙をそっとポケットにしまう。 | |||
| 遠かった砲火の音が、徐々に近づいてくる。 軍事基地の輪郭が、はっきりと浮かび上がった。 | |||
| ラレド軍事エリア、前哨基地入り口。 | |||
| 後方部門の人形 | 身分情報をご提示ください。 | ||
| センタウレイシー | 型番:Butler-36。コードネーム:センタウレイシー。所有者:ヴェーネ。派遣元:UAS。 | ||
| 後方部門の人形 | ID情報を識別しています……識別完了。 | ||
| 後方部門の人形 | ようこそ、センタウレイシーさん。後方部門で登録を行ってください。番号札は36番です。 | ||
| センタウレイシー | ありがとうございます。 | ||
| 指定された待合エリアへとやってくると、 長椅子に座った一人の兵士が順番を待っていた。 | |||
| 兵士 | なんだァ、まーた民生用の鉄クズか? | ||
| 兵士 | 戦術人形じゃあるまいし、戦場に何の用だ?てめぇらなんざ、工場で鉄でも打ってんのがお似合いだ。 | ||
| センタウレイシーは兵士にはかまわずに、後方の空いた席を見つけて座った。 | |||
| 兵士 | おい……最近の民生用は人間を無視すんのか? | ||
| 兵士 | ったく、大手の連中がなに考えてんのかサッパリだぜ!鉄クズばっかりよこしやがってよ!後方でこいつらとよろしくやれってか!? | ||
| 兵士が怒りの形相で背後をふりむいた。 彼の手に握られた松葉杖が、椅子から顔を覗かせる。 | |||
| 兵士 | ほぉ、鉄クズにゃ人間の言葉がわからねェか? | ||
| センタウレイシー | ……いいえ、聞こえております。 | ||
| センタウレイシー | ですが、先ほどの発言が命令として有効だとは思えません。あなたの権限も中級の士官以下。私に強制命令を下すことは不可能です。 | ||
| 兵士 | てめェ―― | ||
| 兵士が逆上しかけた時、廊下から扉を押し開く重たい音が鳴った。 | |||
| クロト | …… | ||
| ヘル | ひゅ~、やっと着いたぜ!口ん中砂まみれで散々だ!ま、オレに口なんてねーけどよ!ガハハハ! | ||
| クロト | ……並ぶ時は静かに。 | ||
| 背の高い黒衣の人形が、巨大な棺桶を背負い、無表情で近づいてきた。 それを見た兵士の表情が、怒りから萎縮へと変わる。 | |||
| 兵士 | チッ、縁起の悪いモン持ってくんな……鉄クズが…… | ||
| クロト | ……? | ||
| 番号を呼ぶ声 | 次、35番。 | ||
| ちょうどいいタイミングで番号が呼ばれた。 兵士はその場から逃れる口実ができたとでもいうように、 すぐさま立ち上がって、足を引きずりながら去っていった。 | |||
| クロト | …… | ||
| センタウレイシー | ありがとうございます。 | ||
| クロト | ……私は何もしていない。 | ||
| センタウレイシー | ええ、わかっております。それでも、お礼を申し上げたいのです。 | ||
| 相手が自分と同じUAS出身だと気づいたのか、センタウレイシーは安心感を覚えた。 彼女はクロトを隣の席へと招く。 | |||
| ヘル | 気にすんなって!威風堂々たるこのオレがいりゃ、チンピラどもは逃げ出すって普段から言ってんのによ、誰も信じてくれねーんだ!どーだ、恐れ入ったか!ナハハハ! | ||
| センタウレイシー | あの兵士はチンピラではありません。ただ、前線を退いたことで……神経質になっているのでしょう。 | ||
| センタウレイシー | こういったことは、戦場では珍しくありませんから。 | ||
| ヘル | へぇ~。オマエ、見かけによらず色々知ってんのな!それに情けもあるし、なにより――ファッションがサイコーにクールだぜ!これが伝説のメイド服ってやつかァ!? | ||
| センタウレイシー | お褒めに預かり光栄です。あなたの外見も……独特であらせられますね。 | ||
| ヘル | だろ、だろォ!?オレもそう思ってたトコ! | ||
| ヘル | 仲良くしよーぜ!ヘルって呼んでくれよ!こっちはオレの主人、クロトだ! | ||
| センタウレイシー | 喜んで。私は家政用人形のセンタウレイシーと申します。 | ||
| クロト | …… | ||
| センタウレイシー | あなたのご主人様は……寡黙なのですね。軍事基地にいらっしゃるのは初めてですか? | ||
| ヘル | トーゼンだろ!十数年前と違って、軍事基地もずいぶんと減っちまったからな!あっ、当たり前だけど、十年前を知ってるワケじゃねーぞ。そこまで老いぼれじゃないやい――とにかく、データバンクにゃそう書かれてた! | ||
| ヘル | でもよ、コイツが喋らねェのは、なにも人見知りってわけじゃないんだぜ?オレたちゃ死すら恐れない、人を怖がってどうするってんだ。 | ||
| クロト | …… | ||
| ヘル | ……わ、わぁったよ、冗談やめる。ちぇっ、気分をほぐそうとしてやったのに。ま、すぐに打ち解けるさ!心配すんな! | ||
| センタウレイシー | それなら、明日が良き日となることを願って。 | ||
| ヘル | あんがとよ、センタウレイシー!もしかしなくても、オレたちゃ同僚だ!ムッツリ電波女と仕事したいヤツなんざいねェだろ!?クロト、オマエも少しはな…… | ||
| 番号を呼ぶ声 | 次、36番。 | ||
| センタウレイシー | 申し訳ございません、私はここで。 | ||
| ヘル | おう、気にすんな、行って来い!幸運を祈るぜ、メイドのセンタウレイシー! | ||
| センタウレイシーはわずかに頷くと、奇妙な二人組みに分かれを告げた。 |
