黄昏のラメント 真紅の葬儀 STAGE 2 夕暮れの序章-3

Last-modified: 2026-02-10 (火) 22:45:22

軍事基地付近、戦場へと至る公道。
ヘルチッ、ロクでもねー職場だぜ!
クロト……ヘル、外勤では静かに。
ヘルやってらんねーよ!オマエは平気なのかよ?
ヘルあの後方部門の軍人ヤロー、人をナメくさりやがって!オレを指さして不吉だのなんだの!
ヘルしかも「前の人形ほど出来がよくないな」だとか「安物」だとか好き放題言いやがって……愚痴を聞き終えたら今度は任務に直行かァ!?
ヘルっていうかよ、このちっこいバイクはどーゆーこった!?こんな狭っ苦しいモンで戦場を片付けろだとォ~~!?
クロト落ち着いて、ヘル。迷える魂が驚いて逃げてしまう。
クロト感じる、この先にたくさんの魂が……
ヘルチェッチェッチェッ、わぁったよ。仕事、仕事。あーあ、棺桶はつらいぜ……
 
戦場。
 熾烈な戦いは四時間前に終結し、瓦礫だけが戦場に残されている。
小さなバイクを路上に停め、大きな棺桶を軽々と背負い、
クロトは凸凹した瓦礫の上をゆっくりと歩み始めた。
 葬儀師のヒラヒラとした黒と白の衣装は、
硝煙の満ちた戦場にはやや不釣り合いに見える。
ヘルこんなとこ来んの初めてだ、散らかってんな~
ヘルはやく行こうぜ、クロト。このへんじゃ空襲があるってハナシだ!
 クロトは答えずに、目を閉じて小さく歌い出した。
彼女の瞼の下から、強い光がほんのりと透き通る。
クロト……
クロト見つけた……
ヘルへっ、なになに?
クロトまだ温かい……現世に未練のある魂……
クロトここにいる。
 崩壊した壁の下から、微弱な呼吸音が聞こえているようだ。
 クロトは慎重に、それでいて素早く手を動かし、瓦礫をどけた。
死の間際にある兵士が、彼女の前へと姿を現す。
負傷兵ま……ぶし、い……
負傷兵私、は……助かった、のか……
クロト私たちが、引導を渡してあげる。
 負傷兵は頭上を仰いだ姿勢のまま、動けなくなっていた。
瞳からは希望への熱意が溢れている。
だが、クロトを目にしたとたん、希望の光は恐怖に変わった。
負傷兵な、なんだ……鉄クズが、何の用だ……!
クロト導かれし者は、いまだ冥河の彼岸にいる。
負傷兵なんの話だ……?失せろ……!
クロト横になりなさい、私が生者の国土へと送り届けてあげる。
 クロトがヘルを指さすと、ヘルの蓋が勝手に開いた。
負傷兵き、きさま……私に、棺桶に横たわれと……!?
負傷兵私は生きてる、まだ死んでないんだぞ……この、クソ人形が!わかってるのか……!?
クロト導きは正しい、あなたが生きとし魂であることは知っている。怖がらないで。
 クロトは真剣に説明したが、負傷した兵士の精神はやや錯乱していた。
負傷兵私は、死ぬんだろう……背中が、ひどく痛む……だが、そんな場所で死にたく、ない……
クロト現世をあきらめないで……
負傷兵背中が、足が……わかってるさ、私は終わりだ……私は、ここで死ぬ……
負傷兵ダニエルは死んだ、セルゲイも……私たちは、みんなここで死ぬんだ……最初から、わかってた……
 クロトは何も言わずに、できるだけ小さな動作で負傷兵に近づき、
彼の傍にある瓦礫を片付けた。
 兵士の延ばした左手が、棺桶の側面に当たった。
彼の眼差しが散漫としだし、指は無意識に棺桶をつかもうとする。
ヘルヒャッ……こ、こそばい……
 クロトはすぐさまヘルを叩いて、彼女をたしなめた。
負傷兵冷たい……はは……鉄の、においがする……
負傷兵爺さんが、鍛冶職人、だったんだ……小さい頃、毎日、仕事場を覗きに行って……
負傷兵そこで、ソフィアと、知り合った……春の日の、夜……二人とも、幼かった……徴兵されずに、済んで……
負傷兵結婚して……私の番になった……ソフィアが、靴とコートを縫ってくれたんだ……
負傷兵見てくれ……私の、靴……足が、どこにあるかわからんが……そうだ、私は、砲撃されて……
負傷兵ソフィア……タチアナは、どうする……まだ、3歳なんだぞ……
 負傷兵の声がだんだんと弱まってゆく。
彼はクロトに手を伸ばして、希望を手繰り寄せるかのように、空をつかんだ。
負傷兵ソフィア……タチア、ナ……
ヘルクロト、はやくしねーと!次の空襲が近づいてる!
 負傷兵の手が落ちる前に、クロトが彼の手を取った。
ヘルクロト!
クロト魂に、引導を渡さなくては……
負傷兵死に、たくない……帰りたい……
負傷兵死にたくないよ……母さん……助けて……母さん……
ヘル空襲だ!クロト!
 頭上から唸るような音がした。
ヘルはとっさに断壁に寄りかかり、クロトと負傷兵のために陰を作った。
 ドンッ!
負傷兵あ、ああ……
 大地が轟き、空は燃える。
 負傷兵の泣き声が、徐々に止んだ。