黄昏のラメント 真紅の葬儀 STAGE 2 夕暮れの序章-4

Last-modified: 2026-02-10 (火) 22:46:14

 どれだけ時間が経っただろうか、あたりが静かになった。
 新しく積み重なった廃墟の下から、整った形の棺桶が顔を出す。
ヘルペッペッペッ!ハァ~口がなくてよかったぁ~、危うく灰を食わされるとこだぜ!
ヘルおい、大丈夫か、クロト?
 クロトは体に付着したいくつかの破片と、
変形した素体のモジュールを一瞥した後で、漠然と視線を逸した。
クロト問題ない。
 彼女は目を閉じて、再び小さな声で歌い出す。
 彼女の瞼の下から、強い光が発せられる。
クロト感じなくなった……
クロト死は……やはり訪れたか。
クロトヘル、葬礼を始めよう。
ヘルこんな場所でか?ま、悪かねーけどよ!
クロト生者と死者を慰め、悲しみに暮れる生者を救い、孤独に彷徨う死者を誘う(いざなう)。それが私の使命。
ヘルへいへい……
ヘル逝者の人種を特定中……
逝者の宗教を特定中……
ヘル信仰傾向のアウトプット完了。
 クロトは立ち上がって、両手の指を交わらせ、追悼の言葉を暗唱し始めた。
Бог проводит смертного через жизнь, прежде чем обратить его к свету.
(神は一人を光へと変える前に、その生命を引導す)
Смерть разрушает тело, но спасает душу.
(死はその者の身を滅ぼす、しかしてその者の魂は救われん)
Лишь в смерти скорбный час душа свободу обретает.
(死の悲しみの中で、その者の魂は自由を見つける)
Мир светлый праху твоему.
(その者の骨灰が、安寧を得られんことを)
 クロトは兵士の遺体を棺桶にしまい、それを背負った。
 凹凸の激しい道を、一歩一歩進んでゆく。
 葬儀師のヒラヒラとした黒と白の衣装は、先ほどの爆撃でボロボロになっていた。
硝煙の満ちた戦場とも、不釣り合いではなくなった。
 
27-99軍事基地。
 クロトの報告を受けて、兵士たちは顔色を暗くした。
兵士Aマトベイ、あいつまで……それじゃ、あの小隊は……
兵士B32人もいるんだぞ、持ち帰ったのはこれだけかよ?
クロトいくつかの躯体は、もはや不完全……
兵士C言い訳だけは立派だな、え!?
 ドンッ!
ヘルおい!?殴ったな!?
兵士C棺桶は黙ってろ!
兵士Cどこのイカれ野郎だ、棺桶にメンタルなんざ埋め込んだのは!?この怪物が!
 ゴンッ!
 兵士の拳がまたしても振り下ろされたが、ヘルに反応はない。
兵士は腫れた右手を押さえながら、悔しげに人形と棺桶を見ている。
兵士Cクソッ……この***が……
兵士Aぜんぶお前ら鉄クズのせいだ!毎日毎日人が死んでるのに……不吉なモン持ってフラフラしやがって!
兵士B出てけよ!このグズ!
クロト……
????そんだけ元気が有り余ってるたァ、早朝訓練が足りなかったらしいな。
 兵士たちがクロトを部屋から追い出そうとした矢先、
扉のほうから響いた声が、全員の注意を引いた。
兵士A中尉!いえ、あの、そういうわけでは……
アルバートそれとも何か?俺たちのルールじゃ、後方の人形に手出しすんのが当然ってか?え?
兵士B中尉!この鉄クズども、まるで使い物になりませんって!
兵士B言いつけた死体の回収も満足にできないんですよ!?人数が合わない!
アルバートここで俺がお前をぶちのめしたって、数は合わねェさ。
アルバートこんなところで八つ当たりしてんじゃねェ、ガキどもが!戦場に出て何日だ?いまさら死体を見てないとは言わせんぞ。
アルバート持ち場に戻れ、時間を無駄にするな!奴らの敵を討ちたかったら、銃をせっせと磨くこった!
アルバート総員、グラウンド周回!始め!
兵士C……イ、イエッサー……
 兵士たちは不貞腐れた様子で、ぞろぞろと去っていった。
アルバートは懐中時計を磨きつつ、クロトに歩み寄る。
ヘルうっひょ~!さすがは中尉、かっちょい~ぜ!
クロト……ありがとう。
アルバートケッ、よせよ。お前さんはお前さんの、俺は俺の仕事をこなす。それだけだ。
アルバートあいつらのことは気にしないでやってくれ、ありゃ単なるストレスだ。
アルバートこう見えて、俺ァ何度もあいつらの命を救ってんだぜ。奴らが言うことを聞くのはそのせいさ。
アルバートお前さんも同じだ、わかるな?己の使命をきっちり果たせば、周囲は自然とお前さんを尊重する。それが軍隊ってやつだ。
クロトん……次は、生者の魂をできる限り現世に留めよう……
アルバートそいつが賢明だ。
アルバートそうだ。礼なら、このお嬢さんにも言ってやれ。
アルバートこいつが俺をここに呼んだんだ。今朝そう教えたのは俺だが、すぐに実践しやがるとはな……
 中尉が体をそらすと、その背後から金髪碧眼の人形が現れた。
クロトの視線に気づき、人形が小さく頷く。
クロトあなたは……
ヘルおっ、センタウレイシーじゃん!
センタウレイシーお疲れさまでございました、クロトさん。
センタウレイシー改めてご挨拶を――これからは同僚でございますね。