| 休憩エリア。 | |||
| 兵士A | ゴフッ……うげぇぇぇ…… | ||
|---|---|---|---|
| 兵士B | この***が!だから言っただろ! | ||
| 兵士C | センタウレイシー!ピーターが吐いた、片付けろ! | ||
| センタウレイシー | 承知いたしました。嘔吐物に気管を塞がれないよう、ピーターさんを横向きにしてください。 | ||
| 兵士C | こ、これでいいのか? | ||
| 兵士A | ゴホッ……マ、ママ、どこに、いるの……おぇぇぇ……! | ||
| 兵士C | アホが!いい加減にしろよ、このタコ!! | ||
| センタウレイシー | 安静になさっていてください。後ほど、洗濯したお召し物をお部屋にお持ちいたします。 | ||
| 兵士B | ……いいだろう、貸しにしておいてやる。でなきゃコイツに洗わせるまでだ! | ||
| 兵士C | あっははは!塹壕で敵の血を浴びた時は黙ってたくせによ、ムッツリ野郎が! | ||
| ピッ、ピピッ。 通信機の着信音が、兵士たちの戯れを遮った。 | |||
| 兵士C | あん?あの鉄クズが戻った?だからなん…… | ||
| 兵士C | きゅ、救難信号……!?待て、誰がだ!? | ||
| 兵士Cは青ざめた顔で通信を切り、兵士Bに手をふる。 兵士Bはすぐさま通信を確認した。 | |||
| 兵士B | 中尉が……!チャーリー、衛生兵を呼んでこい!ピーターは…… | ||
| センタウレイシー | 私におまかせください。 | ||
| 兵士Bは彼女に頷くと、他の兵士たちとともにホールから駆け出していった。 | |||
| センタウレイシー | …… | ||
| 彼女のメンタルに、アルバートの笑顔がよぎる。 | |||
| センタウレイシーは兵士たちについていきたい衝動を抑え、 まずは掃除したばかりの清潔な部屋へと兵士Aを移した。 | |||
| 1分後、キャンプゲート前。 | |||
| 兵士B | 衛生兵の奴ら、まだ準備中だぞ!救難信号はどこだ、俺たちで向かう! | ||
| 兵士C | 見えたぞ、あっちだ! | ||
| クロト | …… | ||
| 基地から飛び出した兵士たちは、クロトを見つけると、 彼女の背負った棺桶を可能な限りそっと降ろした。 | |||
| 他の兵士たちが一斉に集まってきて、クロトは隅に追いやられる。 | |||
| ヘル | おい、なんだよなんだよ!?おいこら、触んな!!今開けるつってんダロ~!? | ||
| 兵士C | どうなってる、何があった!?中尉は無事なのか!? | ||
| 兵士B | …… | ||
| 棺桶の中に静かに横たわるアルバートの顔は、青ざめていた。 | |||
| 兵士C | 中尉!!中尉、しっかりしてください!! | ||
| 兵士B | ……も、もう、呼吸がない…… | ||
| 兵士C | ……だ、大丈夫だ!まだ間に合う!助かる! | ||
| 兵士C | そうだ……そうだよ、俺、衛生兵の奴らが助けるのを見たんだ!心臓が止まってても助かる!クソぉ、衛生兵はどこだ!? | ||
| 兵士B | ……そうだ、中尉を助けるんだ。俺がやる! | ||
| 兵士たちは異様に興奮した様子で、 アルバートを棺桶から地面に取り出すと、彼に心肺蘇生を施した。 | |||
| 兵士B | なんとかなる!衛生兵が来るまで持ちこたえれば……なんとか……! | ||
| アルバートの冷たい胸元は、灰と血に塗れていた。 心肺蘇生法を施す兵士の目から、涙がこぼれ落ちる。 彼がそれを素早く拭うと、その顔には入れ替わりに滑稽な汚れが残った。 | |||
| クロト | …… | ||
| 今もなお耳に残る、あの兵士の最後の慟哭。 クロトはその時、生きた兵士たちも、同じような声を発していることに気づいた。 | |||
| 血と泥に囚われ、絶望し、あがき続ける野獣のような。 | |||
| クロト | ……死は彼の身に根を下ろした、彼の魂はすでに彼岸へと向かって…… | ||
| 兵士C | テメェは黙ってろ!!! | ||
| ふいに、矛先を見つけたかのように、 兵士の一人が目を赤くして、拳を振り下ろした。 | |||
| ガッ! | |||
| 兵士C | テメェがチンタラ走ってっから、中尉が死んだんだろーがよ!?よくもそんなことが言えたな、え!? | ||
| 地面に倒れたクロトが、砂ぼこりの中から顔を上げた。 顔面の皮膚がかすかにひび割れている。 | |||
| ヘル | おい、なにすんだ!やめろよな! | ||
| クロト | ……私の、責任。 | ||
| ヘル | クロト!?い、今はとりあえず黙ってろ、な、でないと……んギャッ!? | ||
| 兵士Cは棺桶を勢いよく蹴り飛ばし、拳を握ったままクロトに一歩一歩近づいた。 | |||
| 兵士C | 認めたってことは……わかってんだな? | ||
| ヘル | おい!いい加減にしろよな!?後悔すんなら勝手にしやがれってんだ!人形殴るこたねーだろよ!?クロトだって必死に役目を果たしただけなんだぞ!? | ||
| クロト | 私の責任……もっと早く見つけていれば……現世に焦がれる命が、彼岸に赴くことはなかった。 | ||
| クロト | ……私の不手際、ごめんなさい。 | ||
| 兵士は呆然とした。 漠然、慚愧、苦痛……複雑な感情が彼の表情を捻じ曲げる。 | |||
| 兵士C | いまさら……そんなこと言って……なんになる? | ||
| 彼は殴る姿勢のまま、しばらく立っていたが、 やがて数秒後に、落胆したように手を下ろす。 | |||
| 兵士C | クソが……クソッタレが!どうして……!!ぶっ殺す……あのクソ野郎どもをぶっ殺してやる!!! | ||
| センタウレイシー | 皆様、衛生兵が到着いたしました! | ||
| センタウレイシーが衛生兵の小隊を引き連れて駆けつけた。 そして黙って周囲を見渡し、クロトを守るようにして彼女の前に立つ。 | |||
| センタウレイシー | 皆様の心中はお察しします。ですが、今はとにかく中尉を。 | ||
| 怒りに震えていた兵士が黙った。 | |||
| 普段は野蛮な兵士たちが、慎重にアルバートの手足を持ち上げ、 彼をそっと担架の上へと乗せた。 | |||
| 遠のいてゆく兵士たちの背中を、クロトはじっと見ていた…… やがて、彼らが灰白色の建物へと呑まれ、二度と見えなくなるまで。 |
