黄昏のラメント 真紅の葬儀 STAGE 3 葬月の詠嘆-3

Last-modified: 2026-02-10 (火) 22:50:52

休憩エリア。
兵士Aゴフッ……うげぇぇぇ……
兵士Bこの***が!だから言っただろ!
兵士Cセンタウレイシー!ピーターが吐いた、片付けろ!
センタウレイシー承知いたしました。嘔吐物に気管を塞がれないよう、ピーターさんを横向きにしてください。
兵士Cこ、これでいいのか?
兵士Aゴホッ……マ、ママ、どこに、いるの……おぇぇぇ……!
兵士Cアホが!いい加減にしろよ、このタコ!!
センタウレイシー安静になさっていてください。後ほど、洗濯したお召し物をお部屋にお持ちいたします。
兵士B……いいだろう、貸しにしておいてやる。でなきゃコイツに洗わせるまでだ!
兵士Cあっははは!塹壕で敵の血を浴びた時は黙ってたくせによ、ムッツリ野郎が!
 ピッ、ピピッ。
通信機の着信音が、兵士たちの戯れを遮った。
兵士Cあん?あの鉄クズが戻った?だからなん……
兵士Cきゅ、救難信号……!?待て、誰がだ!?
 兵士Cは青ざめた顔で通信を切り、兵士Bに手をふる。
兵士Bはすぐさま通信を確認した。
兵士B中尉が……!チャーリー、衛生兵を呼んでこい!ピーターは……
センタウレイシー私におまかせください。
 兵士Bは彼女に頷くと、他の兵士たちとともにホールから駆け出していった。
センタウレイシー……
 彼女のメンタルに、アルバートの笑顔がよぎる。
 センタウレイシーは兵士たちについていきたい衝動を抑え、
まずは掃除したばかりの清潔な部屋へと兵士Aを移した。
 
1分後、キャンプゲート前。
兵士B衛生兵の奴ら、まだ準備中だぞ!救難信号はどこだ、俺たちで向かう!
兵士C見えたぞ、あっちだ!
クロト……
 基地から飛び出した兵士たちは、クロトを見つけると、
彼女の背負った棺桶を可能な限りそっと降ろした。
 他の兵士たちが一斉に集まってきて、クロトは隅に追いやられる。
ヘルおい、なんだよなんだよ!?おいこら、触んな!!今開けるつってんダロ~!?
兵士Cどうなってる、何があった!?中尉は無事なのか!?
兵士B……
 棺桶の中に静かに横たわるアルバートの顔は、青ざめていた。
兵士C中尉!!中尉、しっかりしてください!!
兵士B……も、もう、呼吸がない……
兵士C……だ、大丈夫だ!まだ間に合う!助かる!
兵士Cそうだ……そうだよ、俺、衛生兵の奴らが助けるのを見たんだ!心臓が止まってても助かる!クソぉ、衛生兵はどこだ!?
兵士B……そうだ、中尉を助けるんだ。俺がやる!
 兵士たちは異様に興奮した様子で、
アルバートを棺桶から地面に取り出すと、彼に心肺蘇生を施した。
兵士Bなんとかなる!衛生兵が来るまで持ちこたえれば……なんとか……!
 アルバートの冷たい胸元は、灰と血に塗れていた。
心肺蘇生法を施す兵士の目から、涙がこぼれ落ちる。
彼がそれを素早く拭うと、その顔には入れ替わりに滑稽な汚れが残った。
クロト……
 今もなお耳に残る、あの兵士の最後の慟哭。
クロトはその時、生きた兵士たちも、同じような声を発していることに気づいた。
 血と泥に囚われ、絶望し、あがき続ける野獣のような。
クロト……死は彼の身に根を下ろした、彼の魂はすでに彼岸へと向かって……
兵士Cテメェは黙ってろ!!!
 ふいに、矛先を見つけたかのように、
兵士の一人が目を赤くして、拳を振り下ろした。
 ガッ!
兵士Cテメェがチンタラ走ってっから、中尉が死んだんだろーがよ!?よくもそんなことが言えたな、え!?
 地面に倒れたクロトが、砂ぼこりの中から顔を上げた。
顔面の皮膚がかすかにひび割れている。
ヘルおい、なにすんだ!やめろよな!
クロト……私の、責任。
ヘルクロト!?い、今はとりあえず黙ってろ、な、でないと……んギャッ!?
 兵士Cは棺桶を勢いよく蹴り飛ばし、拳を握ったままクロトに一歩一歩近づいた。
兵士C認めたってことは……わかってんだな?
ヘルおい!いい加減にしろよな!?後悔すんなら勝手にしやがれってんだ!人形殴るこたねーだろよ!?クロトだって必死に役目を果たしただけなんだぞ!?
クロト私の責任……もっと早く見つけていれば……現世に焦がれる命が、彼岸に赴くことはなかった。
クロト……私の不手際、ごめんなさい。
 兵士は呆然とした。
漠然、慚愧、苦痛……複雑な感情が彼の表情を捻じ曲げる。
兵士Cいまさら……そんなこと言って……なんになる?
 彼は殴る姿勢のまま、しばらく立っていたが、
やがて数秒後に、落胆したように手を下ろす。
兵士Cクソが……クソッタレが!どうして……!!ぶっ殺す……あのクソ野郎どもをぶっ殺してやる!!!
センタウレイシー皆様、衛生兵が到着いたしました!
 センタウレイシーが衛生兵の小隊を引き連れて駆けつけた。
そして黙って周囲を見渡し、クロトを守るようにして彼女の前に立つ。
センタウレイシー皆様の心中はお察しします。ですが、今はとにかく中尉を。
 怒りに震えていた兵士が黙った。
 普段は野蛮な兵士たちが、慎重にアルバートの手足を持ち上げ、
彼をそっと担架の上へと乗せた。
 遠のいてゆく兵士たちの背中を、クロトはじっと見ていた……
やがて、彼らが灰白色の建物へと呑まれ、二度と見えなくなるまで。