黄昏のラメント 真紅の葬儀 STAGE 3 葬月の詠嘆-4

Last-modified: 2026-02-10 (火) 22:52:04

 廊下、クロトはセンタウレイシーと肩を並べて歩いていた。
クロトさっきは……ありがとう。
センタウレイシーいいえ、私はなにも。
クロト機械は時間の摩耗を受ける。けれど、種子の種類が変わらぬように、何があろうと模擬人格が変化することは極めて稀……あなたの気品は、紛れもなく光輝く宝石。
センタウレイシーあなただって、私を助けてくださったじゃありませんか。どうかお気になさらず。
クロトいいえ。花にはそれぞれ違った咲き方がある、人形も同じ。あの件にたいした価値はない、花が枯れるに任せて散ればいい。
センタウレイシー……どうしてそう思うのです?
ヘル許してやってくれ、センタウレイシー……日常的に死に触れてると、人形といえど悲観的になるもんさ。
センタウレイシーそうでしたか。心配いりませんよ。私は、あなたのお考えを尊重いたします。
 短い会話を交わし、クロトは自分の部屋の前で足を止めた。
クロト運命の交差はここでおしまい。センタウレイシー、またいつか。
センタウレイシーええ、またいつか。
 クロトは頷いて、自分の部屋の扉を開けた。
 次の瞬間、扉の中から強烈な冷風が吹き付ける。
センタウレイシーはとっさに彼女の部屋を見た。
センタウレイシー……窓ガラスが割れている、それに緊急メンテナンス設備もない……後方部門が手配を忘れているのかしら?
クロト友を失った痛みは、どこかで発散しなくちゃ。
センタウレイシー……
ヘル人間が誰でも良いヤツだと思ったら、大間違いだぜ!あの後方部門のゲス野郎め、窓が壊れたっつったら、給料から差し引く差し引くってうるせーの!穴が空いた窓ガラスみてェによ!
ヘルオレが棺桶でよかったぜ。クロトを中にいれりゃ、雨風をしのげっからさ!あ~あ、これで手足が8本あったらな~
センタウレイシー棺桶でなければ、手足が8本あるとは限りませんよ。
センタウレイシーそれに手足が何本もあったところで、この部屋の住み心地を変えることはできない――それが人形に与えられた部屋だろうと。
ヘルおお~!その言い回し、気に入ったぜ!ちょっとばかし残酷だけどさ……
クロト生者は破滅へと向かい、人形は崩壊の結末を迎える。
クロトここが、私の唯一の居場所。他に行けるところなんて、ない。
 センタウレイシーはクロトのヒビ割れた生体皮膚を見た。
皮膚の下のフレームの一部が変形している。
 それは鮮血の滴る傷口のように、クロトの頬に静かに横たわっていた。
センタウレイシー……ハァ。
センタウレイシーここが片付く前に、私の部屋で寝泊まりなさってはいかがです?
クロト同情は必要ない、これが私たちの運命……
クロト……えっ?
 クロトは目を大きく見開いた。
ヘルセンタウレイシー!オマエ、ホンットに良いやつだな!!
クロトで、でも、だけど、えっ……どうし、て……?
センタウレイシー混乱した状況を見過ごすことは、私の信条に反します。それに、このエリアの清掃は私の担当です。乱れた環境が生み出されたのは、私の責任でもありますから。
クロトな……
センタウレイシーあなたの部屋は私が整えておきます。その間、私の部屋をお使いください。
センタウレイシーとにかく、まずはあなたの状態を整えなくては。クロトさん、私と参りましょう。
クロトあなたと……
 そう命じられたのが初めてとでも言うように、クロトは呆然とそう呟いた。
 センタウレイシーが背中を向けて進んでゆく――
考える暇もなく、彼女は冷たい風の吹きすさぶ部屋を後にして、
金髪の人形を追いかけた。