黄昏のラメント 真紅の葬儀 STAGE 4 憐星の間奏-2

Last-modified: 2026-02-10 (火) 22:55:31

 ピッ、ピピッ――
 真っ暗なメンテナンススロットの中では、何もかもが遠く感じられる。
 
研究主任Mortician全員に問題が?
研究員Mortician-1とMortician-2は、正常な稼働に支障をきたしています。
Mortician-3のメンタルの安定指数にも、起伏が見られますね。
 私は、だれ?
研究主任1と2に何が起きたんだ?
研究員感情モジュールの設計がリアルに忠実すぎたんです。
Mortician-1の感情プログラム中枢は崩壊、そのせいで自虐行為を制御できずにいます。
 私は、アトロポス。
生者の希望に応え、葬礼を手配する者。遺族たちは逝者のために涙を流す。
けれど、私はその機能を持たない。私は、自身の眼球を破壊した。
研究主任Mortician-2はどうした?
研究員こちらは、臨終時のケアで、ネガティブな感情を受け止めすぎました。
今や彼女たちは、苦痛が実際に存在するものだと認識している。
 私は、ラケシス。
死の瀬戸際にいる彼らの泣き声が、私の記憶にこだまし続ける。
逝者の声が、永遠に一秒前に留まるの。私ではそれを止められない。
研究員それとMortician-3。彼女たち三人は姉妹という体でデザインされています。
てっきり、姉たちに引きずられると思いましたが、
今のところ彼女だけは安定していますね。
研究員彼女を回収しました。
御覧ください、今は覚醒しています。
 死はいずれ万物に訪れる。
その過程がどうなろうと、なんの意味もない。
研究主任……まるで傀儡だ。
新型の人形だとは、とても思えないな……まったく。
研究員どうかしましたか?
研究主任だから言ったんだ、僕はUAS向きじゃないと……
研究員主任……人形を憐れむ暇があったら、私たちの業績を憐れんでくださいよ。
Morticianシリーズにこれだけの問題が起きたんです。
少なくとも、今年のボーナスはお預けですね。
研究主任……
研究員それで、今回の機体はどうします?
個人的には、デザインセンターに差し戻して、廃棄処分にするのがよろしいかと。
研究主任Mortician-3の、他のパラメータは正常なんだな?
研究員ええ、正常の範囲内には収まってますね。
研究主任データを記録しろ。
適当なポジションを見つけて、役立ってもらう。
 俺は、アルバート。
車の爆発で足をやられ、首はその破片で切り裂かれた。
命が俺から遠ざかってゆく。
研究員冗談よしてください、主任!
チームの業績をなんだと思ってるんですか!?
こんな不安定な人形、早めに潰さないでどうするつもりです!?
研究主任あちこちで争いが起こっているだろう?
軍の自律人形すら手に入らない落ちぶれた地方軍なら、
戦場の死体を安価で手軽に片付けたいと考える。
研究主任疫病はないし、遺族の不満もない。戦場には臨終のケアなど必要ない。
一人の人形で片がつくんだ、願ってもないさ。
 違う……私はアトロポスでも、ラケシスでもない……
私は人間じゃない、アルバートでも、ピーターでもない……
研究主任決まりだな、扉を締めておけ。
 研究員たちが立ち去った。
研究主任……だが、新しい仕事に馴染めなくては可哀相だ。
何かしらの措置を……
 
 私は、だれ?
 
????どうし……目覚め……
??思考……故障……
????強制的に起動させるしかなさそうですね。
 強烈な電流が記憶体を刺激した。
突然、視界が明るくなる。
クロト……私は、だれ?
センタウレイシーあなたはクロトさん。ヘルさんに伺いました、あなたが記憶データの整理中にオーバーロードしたと。
クロトそう……どうやら過去の幻が、いまだに影響を及ぼしている。
クロトお世話になった、センタウレイシー。
センタウレイシー大したことではございません。目を覚まされたのでしたら、私は朝に使う清掃用具を整えてまいります。
 センタウレイシーが背中を向けた。
クロトは唇を噛み締めながら、俯いて彼女のスカートの裾を握った。
クロトあぁ……やっぱり……
センタウレイシーどうかなさいましたか?今、なにか……
クロト幻の影は存在している……私を喚ぶ声、涙を流す声が、私の耳元に留まっている。
クロト……少しだけ、ここにいてほしい……現世と彼岸の違いが、わからなくなりそう……
 センタウレイシーはクロトを見た。
彼女の金色の瞳には、普段とは異なる渇望と恐怖が隠されている。
センタウレイシー……もちろんです。夜はまだ長い、最初の日課が始まるのは三時間後ですから。
 センタウレイシーはそう答えて、クロトの傍に座った。
クロトごめんなさい、本当に……あなたには、たくさん迷惑をかけた。
センタウレイシーかまいませんよ、似たような事が前にもございました。
クロト似たような事?
センタウレイシーええ。私の妹が、幼い頃よく悪夢を見ていて。こうして傍に寄り添うと、私にぎゅっと抱きついてくるんです。
センタウレイシー大きくなってからは、それもなくなりましたが……
 昔を懐かしむ彼女の言葉を聴いていたクロトは、
ふとセンタウレイシーの肩に寄りかかった。
クロト「大きくなった」……彼女は、人間?
センタウレイシーええ。今は……おそらく、戦場にいるでしょうね。
 妹の話になったとたん、センタウレイシーの眉間に柔らかな色が宿った。
クロト……多くの者が、戦場にいる肉親を慮っている。
センタウレイシーあの子は、私に黙って戦場に向かったんです。
クロト彼女を見つけた?
センタウレイシー……いつか必ず、再会できると信じています。
クロト死はいつも、戦士の後をついてゆく……
センタウレイシー死……か。
クロトごめんなさい。つい、傷つけるようなことを……
センタウレイシーいいえ、仰るとおりです。軍人と死は隣り合わせ、それは紛れもない事実。
 センタウレイシーは目を閉じた。
センタウレイシーだからこそ、私は彼女の無事を祈ります。
クロト私も祈る。二人が、再会できるように……
センタウレイシーありがとうございます。
クロト私は、アルバートを助けられなかった……
センタウレイシーあれは、あなたの責任ではありません。
クロト次は、必ず助ける……
センタウレイシーええ、わかっています。
センタウレイシーお休みなさい。夜は、まだ長いのですから。