| 夜空の下、戦火は依然として燃え上がっていた。 | |||
| 敵軍の声 | 奴ら、あっちに向かったぞ! | ||
| 敵軍の声 | 一人の関節を撃ち抜いてやった、そう遠くへは逃げられない! まだ近くにいるはずだ! | ||
| 敵軍の声 | かまうな、今回の作戦目標は敵の…… | ||
| 敵兵の声が遠のくと、地面が突然揺れだした。 | |||
| クロトは自身の上の棺桶をどかし、隠れていた地面の穴の中から立ち上がった。 | |||
| クロト | 衛生兵たちは、もう基地に戻ったはず。 | ||
| ヘル | さて、どうだかな。ま、大丈夫だろ、アイツら運は良いみたいだし。少なくとも、オレたちよりかは。 | ||
| ヘル | もう宿舎のドアを笑いモンにできねーなぁ……あのドアよりズタズタになっちまったぜ。クロト、オマエは? | ||
| クロト | 問題ない……ここを突破しなくては。 | ||
| クロトはほつれた袖を引きちぎり、変形した腕を固定した。 | |||
| ヘル | おい、クロト、オレの愛しきチャンネー、いや我が主よ……オマエ、救援待たずにそんな状態でここを突破しようってのか?ロジックモジュールがイカれちまったんでねーの!? | ||
| クロト | 私たちを助けに来る人なんて、いない。 | ||
| ヘル | おい、幸先の悪いこと言うなよ、事実だけどな!!しゃーねーな。で、どっちに進むんだ? | ||
| クロト | 警鐘を鳴らすのが最優先と判断……向かうは基地。 | ||
| クロトは穴から這い出て、遠くを見た―― | |||
| ガッ! | |||
| 刹那、銃声が鳴って、クロトは仰向けに倒れる。 | |||
| クロト | 見つかった……肩に被弾。どうして? | ||
| ヘル | クロト……おい、大丈夫か!? | ||
| 敵軍 | 一匹残ってると思ったぜ……人形だと? | ||
| 敵軍 | チッ……手土産にできると思ったのに…… | ||
| クロト | …… | ||
| ヘル | おい、テメーら!クロトに手ェ出したら、どうなるかわかってんだろーな!?ビンボー神だ、ビンボー神に三日三晩付き纏われるぞ! | ||
| 敵軍 | なんだぁ、コイツ?棺桶か? | ||
| 敵軍はヘルにかまわず、人形の頭部へと照準を合わせた。 クロトが目を閉じる。 すると、聞き慣れた声が耳元に響いた。 | |||
| ???? | クロト…… | ||
| クロト | (アトロポス、ラケシス……) | ||
| ????? | クロト、ごめんなさい。 生者に背負わせるには、親しい者の死はあまりにも重すぎた。 | ||
| ???? | 姉さんたちは、あの魂たちと一緒に、彼岸に行くね。 | ||
| クロト | (……いいの、わかっている) (最後に還るべき場所が決まったなら、早めに旅立ったほうがいい) | ||
| クロト | (私も、すぐに追いかけるから……) | ||
| センタウレイシー | クロト。 | ||
| クロト | ! | ||
| センタウレイシー | クロト。素体の傷は直ったばかりよ、安全にはくれぐれも気をつけて。 | ||
| クロト | ええ、わかっている。 | ||
| クロト | (どうして、この記憶を思い出すの?) | ||
| クロト | 戻ったら、紅茶をお願いできる? | ||
| センタウレイシー | もちろん。傷が少なかったら、クッキーもおまけするわ。 | ||
| センタウレイシー | アフタヌーンティーを準備して、あなたの帰りを待ってる。 | ||
| クロトは猛然と目を見開いた。 それと同時に、強烈な光が薄暗い廃墟を照らし出す。 | |||
| 聞き慣れた声 | 手を挙げろ!お前たちは包囲されている! | ||
| クロト | ……!? | ||
| 敵軍の声 | クソッ、背後か! いつの間に!? | ||
| 敵軍の声 | ただのハッタリだ、かまうな。 | ||
| 敵軍の声 | で、でもよ、この声、妙だぜ! 野郎ども、撤退だ! | ||
| 敵軍の声 | しまった、遅かったか…… | ||
| 無数の銃声が鳴ったかと思うと、すぐに止んだ。 クロトは仰向けのまま、銃声がしたほうを見た。 | |||
| センタウレイシーの顔が、彼女の頭上に現れる。 | |||
| センタウレイシー | 動かないで、さっきの攻撃で肩から腕がやられてる。 | ||
| クロト | レイシー、なぜここに……? | ||
| センタウレイシー | マリーさんに座標を伺って、あなたを回収しに来たの。 | ||
| クロト | ……そう、だったんだ。 | ||
| クロト | 彼女たちは……無事? | ||
| センタウレイシー | 今回だけは、遺体は一つもなかったわ。 | ||
| 兵士A | おい、鉄人メイド、なにしてるんだ? | ||
| 兵士A | ……チッ。誰かと思えば、鉄カラスかよ。 | ||
| センタウレイシー | マリーさんの言葉通りです、彼女は衛生兵たちを助けた。 | ||
| 兵士A | それがこいつの仕事だ! | ||
| 兵士は荒々しく言い放った。 そしてクロトに近づいて、彼女の腕を引っ張る。 | |||
| 兵士A | ……鉄人メイド、お前が棺桶を背負え。こいつは僕が修理所に連れて行く。 | ||
| センタウレイシー | よろしくお願いいたします。 | ||
| メンバーたちは基地に戻った。 兵士の背中に揺られながら、クロトは静かに星空を眺めていた。 | |||
| クロト | (私の運命は……まだ、終わりじゃない?) |
