黄昏のラメント 真紅の葬儀 STAGE 5 絶響探求-1

Last-modified: 2026-02-10 (火) 23:03:19

Cエリア、基地で唯一の人形修復スロットの傍。
兵士A修復液につっこめばいいんだな?
センタウレイシーはい、ゆっくりと。お手数をおかけします。
兵士A確かにな。僕は巡回に戻るよ、お前が面倒みてやって。
 兵士はできるだけ慎重にクロトを修復液に浸すと、その場から立ち去った。
センタウレイシークロト、少しは気分がよくなった?
クロト……クッキーは、お預けか。
センタウレイシー……
 センタウレイシーはしばし考え込んでから、
クロトの言葉の意味を理解して、軽やかに笑った。
センタウレイシーあなたという人は。そんなところも、ヴェーネによく似てるわ。
センタウレイシーあの子が幼い頃、おいたをすると決まって可哀想なふりをしたの。数年後にようやく気づいたわ。あれは私に、ご主人様に許しを請うて欲しかったんだ、って。
クロト私は、許しを請うてない。
センタウレイシーそれでも、私のすべきことは変わらない。例えば、あなたが修復スロットから出てくるまでに、一皿のクッキーを焼いておくだとか。
クロトあなたの言いつけを守れなかったのに?
センタウレイシー本来ならば、確かに不当ね。だけど、ヴェーネのおねだりは、私の基本ロジックをとっくに塗り替えてしまったから。
 修復液に横たわるクロトは、センタウレイシーの顔を見た。
クロトあなたは、私にヴェーネを見ているの?
センタウレイシーあっ、ごめんなさい……なんて失礼なことを。
クロトかまわない。あなたは、私の姉の一人によく似ている。
センタウレイシーそうなの?嬉しいわ。お姉さんたちは、どんな方?
クロト姉さんたちは、優しかった……
だから、早々に影の中へと堕ちていった。
センタウレイシー……影の中?
クロト悲しみに暮れてメンタルが錯乱し、初期化された。
センタウレイシーごめんなさい、こんな話をすべきじゃなかったわね。
クロトかまわない。レイシー、考えたことはある?
……あなたが「死んだ」ら、ヴェーネはどうなるか。
センタウレイシー……私は……
 「それでも彼女に仕えたい」
――その言葉が、センタウレイシーの喉元で留まった。
 センタウレイシーはヴェーネの顔を思い出した。
ロジックシステムが、自然と最も有力な結果を導き出す。
センタウレイシーあの子が私を「お姉ちゃん」と呼んで、私が「ご主人様」と答えたら、きっと悲しむわ。
クロトあなたたちは、まだお互いを覚えている。
だからこそ「生きて」、レイシー。
センタウレイシーなら、あなたは……
クロト姉さんたちの結末を知る唯一の人形が、私。
センタウレイシーいいえ、それと棺桶が一つ。
 修復スロットの周囲に、しばらくの沈黙が訪れた。
クロト信じられない、あなたが冗談を言うなんて。
センタウレイシー優れたメイドは、人々の顔色から心情を察する。
センタウレイシーそれでこそ、最適のタイミングでサプライズを行えるというもの。
クロト……え?
センタウレイシー部屋に戻ってクッキーを焼くわ、それと使用人服に着替えないと。そうそう、あなたに予備の服を用意しないとね。クロト、また後で。
クロトええ、また後で。
 センタウレイシーは立ち去った。
ヘルはその場で何度か蓋を開け閉めすると、いつもとは違った声で言った。
ヘル今から楽しみだな、クロト?
 長い沈黙が横たわる。
修復スロットのガラスに映る自分の姿を見て、クロトはそっと微笑んだ。
 彼女は、答えなかった。