| Cエリア、基地で唯一の人形修復スロットの傍。 | |||
| 兵士A | 修復液につっこめばいいんだな? | ||
|---|---|---|---|
| センタウレイシー | はい、ゆっくりと。お手数をおかけします。 | ||
| 兵士A | 確かにな。僕は巡回に戻るよ、お前が面倒みてやって。 | ||
| 兵士はできるだけ慎重にクロトを修復液に浸すと、その場から立ち去った。 | |||
| センタウレイシー | クロト、少しは気分がよくなった? | ||
| クロト | ……クッキーは、お預けか。 | ||
| センタウレイシー | …… | ||
| センタウレイシーはしばし考え込んでから、 クロトの言葉の意味を理解して、軽やかに笑った。 | |||
| センタウレイシー | あなたという人は。そんなところも、ヴェーネによく似てるわ。 | ||
| センタウレイシー | あの子が幼い頃、おいたをすると決まって可哀想なふりをしたの。数年後にようやく気づいたわ。あれは私に、ご主人様に許しを請うて欲しかったんだ、って。 | ||
| クロト | 私は、許しを請うてない。 | ||
| センタウレイシー | それでも、私のすべきことは変わらない。例えば、あなたが修復スロットから出てくるまでに、一皿のクッキーを焼いておくだとか。 | ||
| クロト | あなたの言いつけを守れなかったのに? | ||
| センタウレイシー | 本来ならば、確かに不当ね。だけど、ヴェーネのおねだりは、私の基本ロジックをとっくに塗り替えてしまったから。 | ||
| 修復液に横たわるクロトは、センタウレイシーの顔を見た。 | |||
| クロト | あなたは、私にヴェーネを見ているの? | ||
| センタウレイシー | あっ、ごめんなさい……なんて失礼なことを。 | ||
| クロト | かまわない。あなたは、私の姉の一人によく似ている。 | ||
| センタウレイシー | そうなの?嬉しいわ。お姉さんたちは、どんな方? | ||
| クロト | 姉さんたちは、優しかった…… だから、早々に影の中へと堕ちていった。 | ||
| センタウレイシー | ……影の中? | ||
| クロト | 悲しみに暮れてメンタルが錯乱し、初期化された。 | ||
| センタウレイシー | ごめんなさい、こんな話をすべきじゃなかったわね。 | ||
| クロト | かまわない。レイシー、考えたことはある? ……あなたが「死んだ」ら、ヴェーネはどうなるか。 | ||
| センタウレイシー | ……私は…… | ||
| 「それでも彼女に仕えたい」 ――その言葉が、センタウレイシーの喉元で留まった。 | |||
| センタウレイシーはヴェーネの顔を思い出した。 ロジックシステムが、自然と最も有力な結果を導き出す。 | |||
| センタウレイシー | あの子が私を「お姉ちゃん」と呼んで、私が「ご主人様」と答えたら、きっと悲しむわ。 | ||
| クロト | あなたたちは、まだお互いを覚えている。 だからこそ「生きて」、レイシー。 | ||
| センタウレイシー | なら、あなたは…… | ||
| クロト | 姉さんたちの結末を知る唯一の人形が、私。 | ||
| センタウレイシー | いいえ、それと棺桶が一つ。 | ||
| 修復スロットの周囲に、しばらくの沈黙が訪れた。 | |||
| クロト | 信じられない、あなたが冗談を言うなんて。 | ||
| センタウレイシー | 優れたメイドは、人々の顔色から心情を察する。 | ||
| センタウレイシー | それでこそ、最適のタイミングでサプライズを行えるというもの。 | ||
| クロト | ……え? | ||
| センタウレイシー | 部屋に戻ってクッキーを焼くわ、それと使用人服に着替えないと。そうそう、あなたに予備の服を用意しないとね。クロト、また後で。 | ||
| クロト | ええ、また後で。 | ||
| センタウレイシーは立ち去った。 ヘルはその場で何度か蓋を開け閉めすると、いつもとは違った声で言った。 | |||
| ヘル | 今から楽しみだな、クロト? | ||
| 長い沈黙が横たわる。 修復スロットのガラスに映る自分の姿を見て、クロトはそっと微笑んだ。 | |||
| 彼女は、答えなかった。 |
