| ズドンッ!!!! | |||
| 爆発が起きて、センタウレイシーが再び歩を止めた。 | |||
| クロト | レイシー!! | ||
| ヘル | ぐっ…… | ||
| クロト | ヘル!?どうしたの!? | ||
| ヘル | クロト……パーツのあちこちがイカれちまった…… オレ……もうダメかも…… | ||
| ヘル | これが、死ぬって……ゲホッ……やつなの、か……? | ||
| クロト | だ、だめ!あなたは死なない!死んではだめ! | ||
| クロト | ここから出して!センタウレイシー!! | ||
| センタウレイシー | 待って……今、鍵を開けるから……バックルが、変形して…… | ||
| ヘル | クロト、あのさ。 | ||
| ヘル | オレ、ここへ来てから、オマエのことがずっと心配だったんだぜ。 レイシーがいてくれてよかったよ。 オマエが元気になって、嬉しいよ…… | ||
| ヘル | ただ、残念だ。 オマエと最期まで、いられると思ってたんだけどなァ…… | ||
| クロト | ヘル……?ヘル!? | ||
| 鍵がようやく開いて、クロトが棺桶から転がり出た。 | |||
| そして彼女はようやく、目の前の人形と棺桶を目の当たりにした。 | |||
| センタウレイシー | …… | ||
| クロト | …… | ||
| そこはすでに、砲弾の影響がおよぶ射程範囲の最端だった。 砲火が徐々に他のエリアへと転向してゆく。 | |||
| ヘルはまるで平らに潰された鉄の塊のようだ、棺桶には到底見えない。 | |||
| 一方、センタウレイシーは完全に元の面影を失っている。 | |||
| ヘル | 【人格ロジックの維持に失敗しました……基礎システムに移行します】 | ||
| ヘル | 【素体損傷率が高すぎます。この場合は本機を遺棄し、速やかにこのエリアから撤退してください】 | ||
| クロト | ヘル……センタウレイシー…… | ||
| センタウレイシー | ……クロト。 | ||
| センタウレイシーがクロトに手を伸ばす。 | |||
| クロトは、あの絶望した負傷兵を思い出した。 彼女はとっさにセンタウレイシーの手をつかもうとする。 しかし、センタウレイシーは彼女の手を取らず、損壊した自身の腹部を指さした。 | |||
| センタウレイシー | 掃討部隊が、ここに来る可能性が……高い。 | ||
| クロト | いや……いや、言わないで…… | ||
| センタウレイシー | 私の、エネルギーを使って……ここから、逃げて。 | ||
| センタウレイシー | 行きなさい、クロト……自分を、埋葬しては……だ、め…… | ||
| センタウレイシーは稼働を停止した。 | |||
| クロト | ……ぜんぶ……知ってた、の? | ||
| クロト | 私が死を、消滅を追い求めていたこと……なのになぜ、そこまでして…… | ||
| 彼女に応えるのは、静寂だけだ。 | |||
| クロト | 結局、生き残ったのは私だけ……私には、見送ることしかできないの? | ||
| 遠くではまだ砲撃が轟いている。 クロトが顔を拭う、まるで涙を拭き取るかのように。 | |||
| 灰にまみれたオイルが、手の甲に擦り付けられる。 彼女は深く深呼吸をして、素体に蓄積された不要な熱を放出した。 | |||
| クロト | ううん……違う。少なくとも、今は……私にだって、できることがある。 | ||
| 彼女はヘルを背中にくくりつけ、センタウレイシーを抱き上げた。 | |||
| 彼女の素体の重さは、これまで運んだ遺体となんら変わらなかった。 しかしクロトは、いまだかつてない重みを腕に感じていた。 | |||
| 彼女のメンタルには、一縷の希望、一時の暖かな思い出が、 いかなる亡霊よりも鮮明に存在していた。 それが「死にたがり」の人形をこの世に留めている。 | |||
| クロト | 生きるんだ…… | ||
| 彼女はセンタウレイシーを慎重に、大切に抱きしめた。 自身の頬を、彼女の額にそっと寄せる。 そして凛と顔を上げ、揺るがぬ眼差しを遠くに向けた。 | |||
| クロト | レイシー、約束する……だけど、あなたも約束して。 必ず、「生きて」いくって。 | ||
| 送り人は、稼働停止したままの人形を抱いて、 一歩一歩、死と破壊に満ちた戦場から歩いていった。 |
