| オアシス、司令部。 | |||
| ペルシカ | いかがですか、教授? | ||
|---|---|---|---|
| {教授} | うーん、人選がないわけじゃないけど。 ここはやっぱり……うーん…… | ||
| ペルシカ | この件で、もう何日も悩まれていますよ。少しご休憩なさってはどうです?コーヒーをお淹れしておきました。 | ||
| ペルシカは淹れたてのコーヒーをデスクに置いた。 二人の間に香ばしい気配が充満する。 | |||
| {教授} | それもそうね、ありがとう。この件は後にするか。 で、私に話したいことって? | ||
| ペルシカ | あっ、はい。先ほど、Nullエリアを巡回中の偵察エージェントから報告がありまして。 | ||
| ペルシカ | クラウドセクターの人形の信号をキャッチしたそうなんです。具体的な状況はまだ不明ですが……どなたかを現地へと派遣するべきかと。 | ||
| {教授} | ふむ、新しい仲間ね。 人形の名前は……デュパン? | ||
| {教授} | 休憩中の小隊を迎えによこしましょう、ちょうどマグニルダ小隊が戻って…… | ||
| その時、何者かが司令部の扉をノックした。 すぐに、見慣れた背の高い人物が顔を出す。 | |||
| 秋 | 教授、外勤任務の日誌を提出しに参った。問題なければ、俺は戻って昼寝を…… | ||
| {教授} | ちょっと待ちなさい、秋。 ちょうどよかった、あなたにマグニルダの外勤業務を引き継いでもらいたいの。 | ||
| 秋 | あふ……勘弁してくれ。一日の労働が6時間を越えると、剣術の修行に支障が出るのだ―― | ||
| 秋はそう言いながらも、気だるげに私から資料を受け取って、傍のソファーに腰掛けた。 しかし資料に記された名前を目にしたとたん、猛然と立ち上がる。 | |||
| 秋 | ――んっ!? | ||
| {教授} | どうしたの? | ||
| 秋 | これは……デュパンか? | ||
| {教授} | ええ、その通りよ。知り合い? | ||
| 秋 | ははは……旧知と言って差し支えあるまい!こやつを見つけたのか? | ||
| ペルシカ | 詳細はまだ不明ですが、信号は確かにデュパンさんのもので間違いありません…… | ||
| 秋 | 眠気が一気に吹き飛んだぞ! | ||
| 秋 | 教授、ここへ向かう外勤小隊は決まったか?俺が率いよう。 | ||
| ペルシカ | ……えっ?きょ、教授……? | ||
| {教授} | ふむ、私の知らない事情があるようね。 | ||
| 秋 | 俺の知るデュパンは、素性の明らかでない者に不用意に信号を送ったりしないはずだ。よっぽどのことがない限りはな。 | ||
| 秋 | 何が起ころうと顔色一つ変えない男だ。今度は俺があいつを助ける番か……待っていろよ、デュパン! | ||
| {教授} | 彼をよく知ってるわけね。それじゃ、よろしく頼むわ。 座標と情報は、あなたの端末に送っておいたから。 | ||
| 秋 | よかろう、今すぐ出発だ!戻ったら、今夜のオムライスにありつけるやもしれんな。 | ||
| 秋 | ふむ、あやつを連れていくか。同意するかはわからんが…… | ||
| 秋は情報を携え、慌ただしく司令部を立ち去った。 | |||
| ペルシカ | ふふふ……秋さんにとって、とても大事な方だったんですね。 | ||
| ペルシカ | 現実世界で秋さんが、どうやって探偵人形のデュパンさんと知り合えたのかはわかりませんが…… | ||
| {教授} | ……探偵? | ||
| ペルシカ | ええ。彼の資料によると、大変名の知れた名探偵であるようですね。どうかなさったんですか、教授? | ||
| {教授} | なんて偶然なの…… さながら寝ようとしたとたん枕が送られてきた気分……! | ||
| ペルシカ | えっ?それはつまり…… | ||
| {教授} | あはは、ちょっと大げさだったかしら。 とにかく、まずは秋が彼を連れ帰るのを待ちましょう。 私の予想が正しければ、これ以上ない人選よ。 | ||
| デュパン | …… | ||
| デュパン | ……………… | ||
| 【周辺環境のデータを収集しています……】 【収集失敗、オペランド不足です】 | |||
| デュパン | 私、は…… | ||
| 【記憶情報を整理しています……低効率モードで稼働中】 | |||
| デュパン | スリープモード……先ほど、敵に遭遇したためか。 | ||
| デュパン | 無謀にも独りで戦い、オペランドを使い切ってしまうとは。探偵らしからぬ結末だな。 | ||
| デュパン | 噂に聞いていた「オアシス」は近い、ここからなら信号を受け取れるはずだ。あとは…… | ||
| …… | |||
| 【周辺環境のデータを収集しています……】 | |||
| 【オペランド注入開始、各モジュール稼働正常】 【スリープモードを解除しています……】 | |||
| デュパン | な―― | ||
| ??? | 久しぶりだな、友よ。 | ||
| 【環境感知モジュール、稼働正常】 | |||
| 秋 | お前を見つけるのに苦労したぞ! | ||
| 視界が再び光を取り戻した。 デュパンの目にNullエリアの荒れ果てた風景と、 長らく会っていなかった「古い友人」の姿が映る。 | |||
| その時ばかりは、旧友のあっけらかんとした笑顔も、ひときわ愛らしく思えたものだ。 | |||
| 秋 | さてと、オペランドはこれでいいな。オアシスに戻るには十分だろう。 | ||
| デュパン | 秋? | ||
| 秋 | ああ、俺だ。どうかしたか? | ||
| デュパン | いや……ただ、君が迎えに来るとは思っていなかったものでね。 | ||
| 秋 | ははははは!目が覚めるや否や、俺が立っていた気分はどうだ? | ||
| デュパン | 驚かなかった、と言えば嘘になる。クラウドへやってきて皆が散り散りになった後も、私は君のいる場所を目指していたというわけか。しかも、当の本人が出迎えに訪れた―― | ||
| デュパン | この世界には確かに、確率では説明できない事象が存在しているようだ。 | ||
| 秋 | 当然だろう、この機会は俺が率先して手に入れたのだぞ。 | ||
| 秋 | お前の口からその言葉が聞けるとは、駆けつけた甲斐があったな!気分はどうだ? | ||
| デュパン | 少しは態度に表さなければ、君は落胆していただろうから。 | ||
| デュパン | おかげさまで、頭がずいぶんと冴えたよ。 | ||
| 秋 | それにしても、オペランドが尽きる間際に休眠状態へ移行するとは、さすがだな! | ||
| 秋 | 実を言えば、お前がくたびれた格好でオアシスにやってくるのを、少しばかり期待していたんだが。 | ||
| デュパン | ……ご期待に添えられず残念だ。 | ||
| 秋 | なにせお前の狼狽えた姿は、この上なく貴重だからな!まぁ、無事が一番だ。 | ||
| 秋 | しかし、こんなところにもエントロピーが出現したとは。軽傷で済んで幸いだった、でなければどうなっていたことか。 | ||
| デュパン | あれは「エントロピー」と呼ばれているのか……面白い名だ。 | ||
| デュパン | なにはともあれ、オアシスは私の信号を受け取って助けをよこした。君たちに感謝するよ。 | ||
| 秋 | 当たり前だろう!教授が仲間を見捨てるわけが…… | ||
| 秋 | ぶえっくし!! | ||
| 秋 | な、なんだぁ?ここには何もないはずだが……やはり、オアシスの気候には及ばんな…… | ||
| 次の瞬間、真っ白なバラの花が二人の間へと差し込まれた。 その枝を握る柔らかい手が、白いバラをそっと揺らす。 持ち主の手をたどって見ると、そこにはいつの間にか見慣れた少女が立っていた。 | |||
| 咲耶 | 昔話に花を咲かせるのは、戻ってからでも遅くはないのでは?こんなNullエリアでは、あまりにも…… | ||
| 咲耶 | ここでもバラの花を育てられはしますが、やはり行き届いた環境やお手入れは欠かせませんし。 | ||
| デュパン | ……その通りだ。久しぶりだな、咲耶。 | ||
| 秋 | その様子だと、色々と思い出せたらしいな。咲耶は俺が連れてきたのだ! | ||
| 秋 | というわけで、だ。素体に問題ないなら、ひとまずオアシスに戻るぞ。 | ||
| デュパン | 「戻る」、か……わかった。 | ||
| 咲耶 | ふふふ……お話は歩きながらでも。 | ||
| オアシス、司令部の近く。 | |||
| 秋 | よし――登録手続きと検定のたぐいはひととおり済ませたな。さて、次はどこへ行く?ちなみに俺は、今まさに盛大に腹が減っている…… | ||
| 秋 | ミヨという人形が、食堂のオムライスに改良を加えさせたらしい。旨いともっぱらの評判だ。 | ||
| 咲耶 | 実は先ほど、教授からの連絡がありました。デュパンさんとお話がしたいと。 | ||
| デュパン | 教授とは、あの「教授」か?よかろう、こちらも訊きたいことがある。 | ||
| 秋 | ならば司令部に直行するか。オアシスをぐるっと回ったわけだが、お前はどう感じた? | ||
| デュパン | 思っていたよりも、ずいぶんとおおらかな場所だ。驚かされたというほかあるまい。 | ||
| 秋 | ほう?褒めているのには違いなさそうだな。 | ||
| 咲耶 | お気持ち、少しわかります。私もここへ来た当初は、オアシスの植物たちの世話に没頭できるなんて、思ってもみませんでしたから。 | ||
| 咲耶 | オペランドの無駄使いだと捉える方もいらっしゃいますが、植物はいつだって人を悦ばせるものです。 | ||
| 気づけば、咲耶の衣服へと無造作に差し込まれた白いバラの花びらが散り、 三人の後に点々と続いていた。 | |||
| デュパン | 庭師を続けているのか……悪くない。 | ||
| デュパン | だが、さすがのオアシスにも探偵事務所は存在しないだろう。私の本領は、ここでは発揮できそうもない。 | ||
| 秋 | 探偵事務所……は確かにないな。今後、オアシスに不可解な事件が起こるとも思えん…… | ||
| 秋 | ならば、今後はどう過ごすつもりなのだ? | ||
| デュパン | 今後、か…… | ||
| デュパン | 私が探偵事務所を構えると言ったら、その「教授」とやらは同意するだろうか? | ||
| 咲耶 | えっ? | ||
| 秋 | は? | ||
| 咲耶 | オアシスに、探偵事務所を、ですか? | ||
| デュパン | ふむ、到着したようだな。あの建物が司令部か? | ||
| 秋 | あ、ああ。そのようだ…… | ||
| 秋 | じゃなくて!探偵事務所だと!?お前、正気か? | ||
| 咲耶 | あっ、ペルシカさんです。 | ||
| ペルシカ | 皆さん、お疲れ様でした。 | ||
| ペルシカ | こんにちは、デュパンさん。あなたが訪れるのを、ずっと待っていたんですよ。 | ||
| デュパン | 私の訪れを?その理由をお伺いしても? | ||
| ペルシカ | ふふふ……詳しいことについては、教授と二人でお話して頂かなくては。 | ||
| デュパン | いいだろう、望むところだ。 | ||
| ペルシカ | 秋さん、咲耶さん。私たちは外で待っていましょうか。 | ||
| 秋 | ……なぜオアシスに……探偵事務所など…… | ||
| 秋 | ウォッホン、仕方あるまい。ゆくぞ、オムライスを食しに―― | ||
| 咲耶 | デュパンさん、相変わらずでしたね。 | ||
| 秋 | ああ、相変わらず何を考えているのかわからん奴だ! | ||
| 秋 | だがまぁ、なんだろうとかまわんさ。前と同じように、あやつを信じるだけだからな。 | ||
| ペルシカ | あなた方には、興味深い過去がおありなんですね。たしか……現実からのご友人、なのでしたか。 | ||
| 秋 | いかにも。俺たちが初めて出会った時なんぞ、デュパンの奴、ずいぶんと面を食らっていたものだ!ははは! | ||
| 秋 | ああして顔には出さないが、親しくなればおのずとわかるさ。あやつがどんな人物かはな。 | ||
| 秋 | そうだな……俺たちの馴れ初めを、どこから説明するべきか…… |
