L.A.D.事件 謎影解析 STAGE 1 認知バイアス-3

Last-modified: 2026-02-12 (木) 19:39:10

ほう、会場の付近はこうなっていたか……なかなかの賑わいだな。
デュパン賑わいは一つの側面に過ぎない。ここへ来る前に資料に目を通した。この通りは芸術や娯楽文化で知られているが、実態は玉石の入り混じった旧市街だ。
デュパンそう遠くない位置には、スラム居住区とゴミ処理場がある。この一帯だけは、財団が新たに建設したものだ。
ほう、さようだったか。爺さんと山に引きこもってたせいで、こういった世事にはどうも疎くてな。
しかし、付近の情報まで集めていたとは……いつもこう抜かりないのか、お前は?
デュパン職業柄、致し方なくな。資料を集めたからといって、なんでも解決できるわけではない。
ほう、例えば?
デュパン例えば……君の主だ。今回の依頼人の一人であるにも関わらず、写真や映像データがほぼ存在しない。
おお、確かにな!爺さんは写真を撮られるのが嫌いなんだ。そりゃもう、厳しいのなんの。
写真さえあれば、初対面でお前を混乱させることもなかったろうに。
デュパン情報があまりにも少なすぎた。一瞬、君が師範の御子息ではないのかと疑ったよ。
はははははッ!ありえん、ありえん。結局のところ、俺と爺さんは単なる主従関係だからな。
爺さんにも倅(せがれ)はいるさ……同居はしていないが。
それに気づいた時、柄にもなく落ち込んだものだ。俺は、単に甘やかされてるだけの人形に過ぎなかった、とな。
デュパン……君は、本当にそう考えているのか?
ほう?違うと言いたげだな?
デュパン君の主に会ったことはないが、私から見れば、彼が君を主従関係に当てはめているようには思えない。
そりゃそうだ、俺もそこまで鈍くはない。爺さんの態度は、もはや寛容の一言では片付けられまい。
中には「若旦那」と呼ぶ奴もいる。実をいうと、さすがの俺も初めは妙な気分だった。
デュパンおそらく、それだけではない。私が依頼主の部屋に入った時の、靴の置かれる順序と角度から察するに――
デュパン君はその「爺さん」よりも先に、主の部屋に立ち入ることがあるのでは?大多数の人形の「主人」にとっては、想像もつかないことだ。
ははは!そこに気がつくとは、さすがは探偵だな!
だが当の本人が、お高くとまるのを嫌っていたとしたら?
デュパンそれが確かならば、他のセキュリティ人形や来賓は、家主にああも恭しくしないはずだ。
デュパンそして先ほど、依頼主が奥で休んでいると君は言ったが、客間の扉のそばには杖が立てかけられていた。
デュパンああいった安定性を主としない豪華な作りの杖は、どう考えても老人の体を支えるためにデザインされたものではない。
デュパン伝統的な観点から見れば、あれは移動を助けるためのものではなく、どちらかといえば権威を象徴するためのものだ。
すさまじい観察眼だな……!確かに爺さんは健康そのものだ。杖からそれを言い当てたのは、お前が初めてだぞ。
デュパンさらに言えば、杖には軽度だが使われた痕跡があった。客に見せびらかすために、わざわざコレクションから取り出したわけではなさそうだ。
デュパンあの種の杖を愛用する老人ともなれば、その地位を誇示したい者がほとんどだろう。
デュパンそんな主人にとって、自身と肩を並べ、自身の前を歩かせることは、その者への重視……もしくは寵愛の表れだ。
……寵愛だと?
ちょっと待て……俺が犬と同じだと言いたいのか?
デュパン……そういう意味ではない。
デュパンつまりは、成長を遂げつつある我が子のように、君を想っているということだ。
デュパン貴重な宝刀の護送を託したことからも、君への厚い信頼が伺える。
はははは、悪くない!我が子への課題を減らしてくれたら、より――
デュパンさてと、この通りの調査は完了したな。
……なんだと?
もう終わったのか?お前は俺と喋っていただけだろう?
デュパン私には環境スキャナーと記録モジュールが搭載されており、それらを日常的な活動とは別に機能させることが可能だ。
デュパン記録モジュールと分析思考モジュール、言語処理モジュールを同時に稼働させることは、探偵人形としての素養だからな。
やるな……その演算能力を羨むぞ。
お前にかかれば、いかなる謎もたちどころに解けてしまいそうだな。
デュパンいいや、私にも解けない謎はあるさ。
デュパンすでに起きた事件を解決するだけが探偵の仕事ではない、時には犯人を追う必要もある。
デュパン今回足を運んだのも、そのためだ。
ああ、お前の言っていた……確か、ルブランだったか?
デュパンそうだ。その「名」を知ってからというもの……
???こいつ……まだ反抗する気だぜ!?
あれは――!
 少し先の曲がり角、仄暗い裏道で数名のごろつきが戯れている。
 往来の人々はそれに目もくれず通り過ぎてゆく。
繁華街からそう遠くない場所では、こういった事は珍しくないのだろう。
 
ごろつきギャハハハハ!飼い主のいる人形も、たいしたことねェなァ!?
不良たいそうな身なりのクセによ、犬みてェに繋がれてらァ?
ごろつきなんだァ、助けを呼ぼうってのか?いいぜ、やれよ!大声で叫んでみろよ!
???……わ、私は……
不良まだ逃げようってか?往生際の悪いヤツだぜ!
ごろつきおい、さっきの棒はどうした?こいつの頭に一発かましとけ、お人好しどもが来る前に……
貴様ら、なにをやっている!?
 秋とデュパンが駆けつけると、ごろつきたちは顔色を変えた。
 何者かに邪魔されたと見て、リーダー格の青年が後ずさる。
しかし、他のメンバーは完全にのぼせ上がっていた。
ごろつきい、いや、俺はただ……
不良だからいつも言ってんだろ、縁起でもねェこと言うなって!まぁいい、相手は二人だ……
不良なんだァ、こいつら?よく見りゃ人形じゃねェか!?紛らわしい格好しやがって!ここはオレたちの縄張りだ!イキがってんじゃねェぞ!
ごろつき……そうだな。お二人さんにも、ちょっくら灸をすえとくか?
チッ……こいつら……!
デュパン、何を呆けてる!やるぞ!
デュパン……ここで戦うのか?
ごろつきを前に、わきまえる義理もないだろう?
道理を説こうにも、相手を選ばねばな!
 秋が突撃するのを見て、デュパンは仕方なく交渉と脅迫の台詞を引っ込めた。
そして呆れたように溜め息をつく。
デュパン私はただ……いや、なんでもない。
 ここで迷ってしまえば、進退はやや窮まる。
時に直感的な行動は、三思後行(さんしこうこう)に勝るのかもしれない。
 鞘から逃れた鋭い刃が薄暮(はくぼ)を纏い、夜鴉(よがらす)が飛び立つ。
探偵はおもむろに、杖から剣を抜いた。