| 秋 | それはそうと、デュパン。さっきの暗号の答えは、いったい何だったのだ? | ||
|---|---|---|---|
| デュパン | あまり口にはしたくない類の言葉だな、知らないほうが身のためだ。 | ||
| デュパン | 庶民と上流階級に本質的な違いはない。どちらも自分たちの生活圏や共通言語、俗語などを有する。 | ||
| デュパン | 東洋のごろつきがヨーロッパのそれと似た思考体系を有しているのなら、こういった悪事を働く際に使われる単語も、似通っているはずだ。 | ||
| 咲耶 | そうだったんですね…… | ||
| 秋 | こいつはたまげた!やけに行儀がいいから、てっきり貴族のボンボンかと思っていたが…… | ||
| 秋 | なかなかどうして世事に通じている。見た目からは想像もつかんな。 | ||
| デュパン | 君の推測も間違いではない。外見に対する審美は、主にメンタルの特徴と人形の初期設定によって決まる。 | ||
| デュパン | 君と異なる点と言えば、私が探偵事務所の雑用上がりだということだ。 | ||
| デュパン | 当初、人間にとって取り組むに値しない汚れ仕事や体力仕事、敬遠する人物等々に対処してきたのは、この私だ。 | ||
| 秋 | なるほど……犯罪現場での雑用は、ずいぶんと堪えるだろうな。 | ||
| デュパン | 下積み時代が無意味であったとは言い切れない。その経験のおかげで、私は知る人ぞ知る知識を数多く身に着けた。 | ||
| デュパン | この世界を隅々まで理解できていなければ、世にも奇妙な案件の数々を解決するなど不可能だからな。 | ||
| 咲耶 | ふふふ……探偵さんは、ご自身のお仕事をとても気に入っているんですね。 | ||
| デュパン | 当然だ、私はそのために生み出された。だが、咲耶さん……君はなぜ、こんな裏通りに? | ||
| デュパン | 治安の悪いエリアに、たった独りで出向く……賢明な選択だとは言い難いな。 | ||
| 咲耶 | 実は、あちらの区画にある花屋に向かおうとしていたんです。とても希少な種を扱っているお店なんですよ。多くの方にとって、たいした価値はないでしょうけれど…… | ||
| 咲耶 | 今や災害や戦争のせいで、たくさんの自然が失われています。一部の歴史ある植物たちも、とっくに姿を消してしまった…… | ||
| 咲耶 | でも、あの花屋になら、絶滅したとされていた希少な品種が置かれていると聞いて…… | ||
| デュパン | そうだったのか…… | ||
| 秋 | いずれにせよ、ここは危険だ。次はより安全な道を通っていくことだな。 | ||
| 秋 | 俺たちが花屋まで送ろう。それとも、今日のところは出直すか? | ||
| 咲耶 | いえ、大丈夫です。あちらの安全な商店街から向かいますから。 | ||
| 咲耶 | 皆さん、本当に助けて頂きありがとうございました。急いでおりますので、私はこれで。 | ||
| デュパンは小さく頷くと、再び考え込んだ。 | |||
| 謎は解けていないばかりか、さらなる靄(もや)が黄昏へと覆いかぶさる。 |
