| 夜の帳が降りる。 柳生師範による采配で、デュパンは邸宅の客間で夜を越すこととなった。 | |||
| 明日はいよいよ展示会だ。 デュパンは眠りもせずに、客間で資料の整理を続け、物思いにふけっている。 | |||
| デュパン | またしてもルブランとの対決か…… | ||
| 部屋の明かりが窓から庭へと滑り込む。 窓の外に広がる闇が、デュパンの思考をさらなる深みへと促した。 | |||
| デュパン | (セキュリティ装置は機械が主だ。賢さはAIに劣るが、ルブランの得意とする電子ジャミングを最大限防げる……) | ||
| デュパン | (会場に配置された警備人形の検査も終えている。理論上、出入り口の安全は確保されているはずだ。垂れ幕の昇降も手動での操作が可能……) | ||
| デュパン | (会場周辺の建物とルートは、現地での記録と整合を行ったばかりだ。確率の低すぎる266の可能性を取り除くと……) | ||
| デュパン | (……) | ||
| ピッ――ふいに鳴った着信音が、寂夜ではひときわ顕然に感じられた。 | |||
| ふと、デュパンの心に不吉な予感が差し昇る。 彼はすぐに通信を受けた。 | |||
| ? | 君と連絡先を交換するのは、これが初めてか? | ||
| ? | ——デュパン。 | ||
| デュパン | ……ルブラン。 | ||
| ルブラン | さすがは名探偵、私の正体を真っ先に言い当てるとは―― 私の挑戦状は、受け取ってもらえたようだな。 | ||
| デュパン | こんな時に連絡をよこしたのは、私と馴れ合うためか? | ||
| ルブランの口調はゆったりとしていた。さながら夜に奏でられる弦のように。 デュパンは無意識に杖をさすりながら、全モジュールを稼働させて ルブランの意図を推し量った。彼の言葉に振り回されるつもりなど毛頭ない。 | |||
| ルブラン | 相変わらず冷たいな、君は。 もう少し、ロマンというものを嗜んでおくべきだろう。 そのほうがずっと面白いぞ。 | ||
| デュパン | 明日の「パフォーマンス」にずいぶんと自信がおありのようだ。 | ||
| ルブラン | ――明日だと? | ||
| ルブラン | 鮮やかな演目は、すでに始まっているではないか。 | ||
| デュパン | …… | ||
| デュパン | 尋ねてほしそうだな、私になにを教えるつもりだ? | ||
| ルブラン | 「薔薇の名は変われど、香りは同じ」 | ||
| ルブラン | 一つの舞台に、演目がたった一つだとは限らない。 | ||
| ルブラン | 今度は私に追いつけるかどうか、楽しみにしているぞ…… | ||
| ピッ―― | |||
| 通信が切られ、いたずら電話のごとき通話は、一方的に終わりを告げた。 デュパンはすばやく現状を整理し、ルブランの魂胆を推理し始める。 同時に、主催側に通信で確認を取った。 | |||
| セキュリティ | 数珠丸恒次ですか?いえ、特に問題はありませんが。ルブランは姿を見せていません。 | ||
| デュパン | 念のため、展示品のセキュリティ映像を回してもらえるかい。 | ||
| セキュリティ | ええ、かまいませんが……ご覧のとおり、警備もついてます。 | ||
| ロボットA | 【(╬ ̄皿 ̄) ナンヤネン!ナンノサワギヤ!?】 | ||
| 小さなロボットB&C | 【⊙0⊙ ワッツカミングアップ!?ワッツカミングアップ!?】 | ||
| セキュリティ | 各方面のセキュリティをもう一度確認しろ! | ||
| 小さなロボットたち | 【Σ(☉▽☉ セキュリティカクニン!オタカラ、マモルー!】 | ||
| デュパン | ……頼んだ。 | ||
| セキュリティ | 展示会には名だたる面々がお越しになります、セキュリティを万全にしておくのが我々の役目。最善を尽くしますよ。 | ||
| デュパン | ……展示会の方に異常はなさそうだな。 | ||
| デュパン | ルブランの単なるいたずらか?いや、あの男のことだ…… | ||
| デュパン | 万が一のこともある、ここはやはり展示会場に向かおう。秋に連絡してすぐに出発を…… | ||
| デュパンは書類を整理しながら、通信を立ち上げた。 ところが、あらゆる資料と身支度が整っても、相手が通信を受け取る気配はない。 | |||
| システム | 【ツー……ツー……】 | ||
| システム | 【ツー……ツー……】 【通信が繋がりません】 | ||
| デュパン | ……この時間だと…… | ||
| デュパン | 夜が深まれば、頭脳もより明晰になるかもしれない。 | ||
| 秋 | へいへい、っと――あふ。あぁ~、丸一日働いてくたびれた。ひとっ風呂浴びて、ゆっくり寝るとするか。 | ||
| デュパン | 仕方あるまい、警備員に連絡させよう。彼を起こせるといいが…… | ||
| システム | ……ピッ。 | ||
| デュパン | ……いや、ここは…… | ||
| ボディガード | 若旦那ですか?部屋の照明は点いているので、まだ起きているはずです。しかし珍しいですね、こんな遅くに…… | ||
| ボディガード | 若旦那? | ||
| コンコン…… | |||
| デュパン | ここは私が。 | ||
| コンコン…… | |||
| デュパン | 秋? | ||
| デュパン | チッ…… | ||
| デュパンは秋の部屋のドアノブに手をかけながら、 扉の鍵を観察しつつ、家主に報告すべきかを考えていた。 扉がかすかに押し開かれたとたん、内側へと一気に開け放たれる。 | |||
| 扉に鍵はかかっていなかった。 部屋はもぬけの殻だ。 | |||
| デュパン | 秋……! |
