| デュパン | 君たちは静かに。 | ||
|---|---|---|---|
| 誘拐犯 | もう繋がったのか? | ||
| 誘拐犯 | ふはははは!俺からの連絡を待ちわびていたのだろう? どうだ、焦らされる感覚は? | ||
| 音声とともに、通信画面に映像が映し出される。 画面の向こうは、ごく平凡な仄暗い倉庫の中のようだ。 地面に倒れている秋は気を失っているらしく、なんの反応も示さない。 | |||
| 秋は部屋から連れ去られ、急いで庭を引きずってこられたようだった。 衣服の裾には、庭に植えられていた植物の白い花びらが挟まっている。 | |||
| 誘拐犯 | あのへそ曲がりの糞ジジイはどうした? おおかた、大事な人形のために泣き喚いてるんだろう? | ||
| 誘拐犯 | どうなんだ、え!? | ||
| ボディガード | きさま……! | ||
| デュパン | 大声を上げるな、師範が驚く。ここは私が。 | ||
| 誘拐犯 | ん?今度は誰だ?ほう……探偵人形か。 | ||
| 誘拐犯 | お前が出てくることはわかっていた、忌々しい奴め…… だが、切り札は俺の手にある。何をもって俺と交渉するつもりだ? | ||
| デュパン | それはもう、色々と。ラチェットさん。 | ||
| 誘拐犯 | な…… | ||
| 誘拐犯 | ラチェットだと!?ハッ、なにを言うかと思えば……! | ||
| デュパン | 残念ながら、ボイスチェンジャーを使ったところで、お前の発音の癖は誤魔化せていない。 | ||
| デュパン | 声紋記録、発音の分析、言語特徴の比較……人間の探偵ならば、まっさきに行うのはどれも不可能だっただろう。遺憾なことに、私にはそれが出来る。 | ||
| デュパン | どうやら、人間の探偵との知恵比べを想定していたせいで、人形からは逃げも隠れもできないことを忘れてしまっていたようだな。 | ||
| 咲耶 | チッ……こんな時にカッコつけおって…… | ||
| デュパン | 先ほど、邸宅の訪問記録を検めた。 | ||
| デュパン | 一心不乱に宝刀を買い求めようとするビジネスマン、か――何度訪問を繰り返そうと、誰にも疑われることのない絶好の身分だといえる。 | ||
| デュパン | この「ラチェット」というのも偽名なのだろう? | ||
| 誘拐犯 | うるさいッ!黙れッ!!! | ||
| デュパン | まさに犯行現場の調査にはもってこいだ。違うかい? | ||
| デュパン | ここにいる誰もが、お前の目当ては宝刀であると考えていた。その真の目的も知らずに。 | ||
| 誘拐犯 | ……この、クソッタレの鉄クズがッ! | ||
| ラチェット | は、ははは……ふはははは!だからどうした!?俺は目的を果たしたぞ! | ||
| ラチェット | 身分?手段だと?それがわかったからなんだ?貴様らに俺をどうこうできるってのか、え? | ||
| ラチェット | 俺は忠告したはずだ。人形のメンタルを操るハッキングプログラムがあるってなぁ。 | ||
| デュパン | ……なぜ秋なんだ? | ||
| ラチェット | ククク……いいだろう、教えてやる。俺はもともと、あの偏屈ジジイを狙っていたのさ。 | ||
| ラチェット | だが、ああも守りが堅いと誰が予想できた?死に損ないのくせに、隙がまるでない…… | ||
| ラチェットは前後不覚となった秋を見て、おおいに吹き出した。 | |||
| ラチェット | だははははッ!きさまら能無しどものおかげで助かったぞ!人形が「若旦那」とはな…… | ||
| ラチェット | その一言がなかったら、この鉄クズがどれだけ重要か知るよしもなかったぜ! | ||
| ラチェット | だから調べたのさ。このハイエンドモデルの価値は相当なモンだ。パーツの一つひとつが金色に輝いてやがる。 | ||
| デュパン | ターゲットを秋に変えたのは、それが理由か? | ||
| ラチェット | 御託はいい!俺が言うものを時間内に揃えろ! | ||
| ラチェット | 一秒でも遅れてみろ……こいつとブラックマーケットで再会することになるぞ。 | ||
| ラチェット | 見つかるのはパーツかな?それとも、売り飛ばされたガラクタ人形か?いやぁ、今から楽しみで仕方がない! | ||
| ピッ――そう言い終えたとたん、ラチェットが通信を切った。 続いて、過酷な交換条件が送られてくる。 | |||
| 咲耶 | 秋さん…… | ||
| デュパン | 制限時間は……駄目だ、間に合わない。 | ||
| 咲耶 | 間に合わない?どうしてですか? | ||
| デュパン | 数珠丸恒次の展示が始まる前に、この事件を解決するのは不可能だからだ。 | ||
| 咲耶 | そんな……たとえそれでも、どうにかして秋さんを助け出さないと! | ||
| デュパン | 案ずるな、リストに書かれた注文はどうにでもなる。だが……一つ懸念があってね。 | ||
| 咲耶 | 相手の注文に応えられるなら、なにが問題なんです?今は、秋さんを助けるのが先決じゃ…… | ||
| 咲耶 | まさか……あなたにとって、秋さんの価値は刀に及ばないとでも? | ||
| デュパン | …… | ||
| 咲耶 | なんて薄情なの……あなた、それでも探偵ですか!? | ||
| 咲耶 | でも、私一人じゃ何もできない……お願い!どうか、私からもお願いします! | ||
| デュパン | ……よしてくれ。 | ||
| デュパン | 君にできることは、一般人よりも遥かに多いはずだ。 | ||
| 咲耶 | ……えっ、わ、私がですか……? | ||
| 咲耶 | なに言ってるんですか、囚われた私を助けてくれたのは、あなたと秋さんなんですよ!?それなのに、秋さんが危険な時に、私はなに一つ役に立てない…… | ||
| デュパン | それは本心かね? | ||
| 咲耶 | ……どういう意味ですか? | ||
| デュパン | 私の見立てでは、君の能力は通常の庭師人形のそれを遥かに越えている。 | ||
| デュパン | ――それに、ラチェットの役にはしっかりと立てたではないか? | ||
| 咲耶 | !? | ||
| 咲耶 | な……何を仰ってるのか、私にはさっぱり…… | ||
| デュパン | それ以上は、ボロが出るだけだ。 | ||
| デュパン | お前も、こうなることを望んでいたのだろう―― | ||
| デュパン | 怪盗さん? | ||
| 咲耶? | …… | ||
| 咲耶? | ハァ――まったくもって残念だ。 | ||
| 咲耶? | こうも早く気づかれるとはな。もう少し楽しめると思っていたんだが…… | ||
| 咲耶? | さてと、ここからどう動くつもりだ、我らが名探偵殿? | ||
| デュパン | ……まず。 | ||
| デュパン | その浮ついた表情を引っ込めてもらおうか。 今後も控えることだ。 |
