| デュパン | そうとわかれば、これ以上装う必要もあるまい。 | ||
|---|---|---|---|
| デュパン | まさかお前が、他人の姿を借りて現れるとはな。ルブラン。 | ||
| ルブラン | どうだ、驚いたか? | ||
| ルブラン | 見透かされるとは思っていなかったが、幸い興は満たせた。 | ||
| デュパン | それが新しい趣味だと言うのなら、追及しないでおこう。君に尊重と祝福を。 | ||
| デュパン | この件が片付いたら、この手でお前を逮捕する。その女性人形にきちんと謝っておくことだ。 | ||
| ルブラン | 逮捕されずともそうするつもりだ、当然だろう? | ||
| ルブラン | それにしても相変わらずだな、君は。いつ私だと気づいた? | ||
| デュパン | これからとある場所に向かう、お前と語り合っている暇はない。 | ||
| デュパン | どうしても気になるのなら、私についてきたまえ。道すがら話そう。 | ||
| ボディガード | お、お待ちください!若旦那はどうするおつもりです!?それにこの……この怪しい奴を放っておく気ですか?! | ||
| デュパン | 端緒はつかんだ、君たちはここで私からの連絡を待ちたまえ。 | ||
| デュパン | ルブランに至っては……この男は非常識なように見えて極めて慎重だ。 | ||
| デュパン | ここにいる「咲耶」を捕らえたところで意味はない、それどころか罠の可能性もある。 | ||
| ルブラン | ふはははは!デュパンよ、よくわかっているじゃないか! | ||
| ルブラン | 正解したことに免じて、君に同行してやろう。 | ||
| ルブラン | ここは…… | ||
| デュパン | 秋の失踪から、たいして時間は経っていない。素体を抱えていては、そう遠くへは逃げられないはずだ。 | ||
| デュパン | そして今は真夜中。たとえ車両を用意していたとしても、邸宅の周辺で大々的に行動すれば、すぐに発見される。 | ||
| ルブラン | つまり、奴らはまだ付近にいると? | ||
| デュパン | 先ほどの通信で、相手のいる倉庫の設備と出入り口のタイルを確認した。 | ||
| デュパン | そして、窓から倉庫内を照らす明かりも。光の角度、時間、構成から察するに…… | ||
| デュパン | この裏通りのどこかに間違いないだろう。わずかな時間さえあれば、記憶の中の映像と照らし合わせることができる。 | ||
| ルブラン | ほう――極めて精確な判断だ。だが、私だと気づいたことと、なんの関係が? | ||
| デュパン | ……ここも違う、次だ…… | ||
| ルブラン | おい、質問に答えんか! | ||
| デュパン | …… | ||
| デュパン | 昼間、この付近でお前と遭遇した時、なぜ治安が悪いと知っていて、たった独りで訪れたのか訊いたな。 | ||
| デュパン | お前は花の種を買うためだと言っていた。だが、それは答えとしては不十分だ…… | ||
| デュパン | なぜ「咲耶」は、たった独りで出かけようとしたのだ? | ||
| ルブラン | それは…… | ||
| デュパン | 名の知れた庭師である彼女には、財閥の後ろ盾がついている。花の種を買うためだけに、自身を危険に陥れる必要はない。 | ||
| デュパン | あの時も、お前に入れ替わっていたのだろう? | ||
| デュパン | 人目につかずに窃盗と逃亡の下準備を行うには、この道は避けては通れない。 | ||
| ルブラン | 鋭いな……君たちが咲耶を助けずとも、私が手を下すつもりだった。 | ||
| ルブラン | 愛らしい少女を危険にさらすなど言語道断だ。違うか? | ||
| デュパン | 確かに、お前らしい手口だな。 | ||
| ルブラン | だがそれも、この私の仕業であるという決定的な証拠にはなりえない。 | ||
| ルブラン | 悪党に見えるからといって、なんでもかんでも私のせいにされては困る! | ||
| ふと足音が止んだ。懸命に手がかりを手繰り寄せていたデュパンは、 思考をルブランに妨げられ、思わずこめかみに手を当てた。 | |||
| デュパン | ……そういう意味ではない。 | ||
| デュパン | もう一つは、この誘拐事件だ。誘拐犯からの通信を受け取った時から、私はそれについて考えていた。 | ||
| デュパン | 本人の性格はさておき、秋には警備用人形、そして剣士としての資質が備わっている。 | ||
| デュパン | ラチェットはただの人間だ。音を立てずに彼を邸宅から連れ出すなど、不可能に近い。 | ||
| ルブラン | つまり君は、私がラチェットを手助けしたと言いたいんだな? | ||
| デュパン | 例によって、秋を事前に昏睡状態にしておけば、ラチェットの仕事は容易い。 | ||
| ルブラン | ふむ、その通りだ。だが、私が秋くんの誘拐を手助けして何になる? | ||
| デュパン | なぜなら、お前は私を熟知しているからだ。私がお前をよく知るように…… | ||
| デュパン | ここも違うか……残るは最後の数軒…… | ||
| ルブラン | 話を終えてから探せばよいものを。 | ||
| デュパン | いいアイディアだ、お前の時間稼ぎにもなるしな? | ||
| 未だ明けきらぬ暗い夜の中を、二人は駆けてゆく。 デュパンの足取りが休まる気配はない。 | |||
| デュパン | もうすぐ夜明けだ。数珠丸恒次の展示は間近だというのに、私はこんな所で誘拐犯を探し回っている。 | ||
| デュパン | この状況なら、私が迷わず秋を助けるであろうことを、お前は知っていた。お前との勝負にかまけ、秋の身柄を警察に託すのではなく…… | ||
| デュパン | これは、お前が私のために設えた迷宮。私は、それに足を踏み入れる運命だった。 | ||
| ルブラン | ククク……賢い名探偵殿だ。 | ||
| ルブラン | 今思えば、先ほど庭で「咲耶」が姿を現した時から、君はわかっていたのだろう? | ||
| デュパン | 本心からの憂慮と意図的な誘導は、一般人には見分けがつかないものさ。だが私には、それがわかる。 | ||
| ルブラン | なるほど。いつの間にか、私も当事者になっていたというわけか。 | ||
| デュパン | 可能性はいくつもあった。だが、この推理を成立させるための動機と能力を持つのは、お前だけなのだよ――「ルブラン」 | ||
| デュパン | ラチェットの言っていたハッキングプログラムは……存在するかもしれないが、けして万能ではない。 | ||
| デュパン | 現代の技術水準をもとに導き出した結論だよ。ああいった人種がそれを扱えるとするよりも、お前がそれを開発したと考えたほうが自然だろう。 | ||
| ルブラン | お褒めに預かり光栄だ、名探偵殿。 | ||
| ルブラン | あの男に握らせたのは、極めてお粗末な破壊プログラムだ。人形を操れなどしないが、一定確率でメンタルを破壊することはできる。 | ||
| ルブラン | 奴がよそ見している隙に、比較的「安全」なプログラムへとすり替えておいたのだぞ。少しは感謝したらどうなんだ? | ||
| デュパン | そうさせてもらうよ。お前が事態を助長するのではなく、真の意味で手助けしてくれたらな。だが、今回は明らかに違う。 | ||
| デュパン | なにか特殊な手段を用いたのかと思ったが、単に咲耶の素体を制御しているだけに過ぎないようだな。 | ||
| ルブラン | フッ……ばれてしまっては仕方ない。だが、君はどうやって…… | ||
| ルブラン | むっ!?ちょっと待て、なんだそのゴミを見るような目は!? | ||
| ルブラン | 私は麗しき女性に手出しなどしないぞ!!断じてだ!! | ||
| ルブラン | ゴホン……誤解しないでもらいたい。私はただ、彼女の睡眠時や充電時、放心している時に素体を拝借しているまでだ。 | ||
| デュパン | そういった状況でしか拝借「できない」の間違いだろう。 | ||
| ルブラン | 人の欠点をあげつらうのはやめておけ、人望を失くすぞ。 | ||
| その時、デュパンが歩調を緩めた。 確信を持てたかのように、二つの部屋を見比べている。 その間も会話は続いていた。 | |||
| デュパン | ……咲耶の有事には「手を下すつもりだった」と言ったな。だが彼女の素体を調べたところ、彼女に戦闘モジュールは備わっていなかった。 | ||
| デュパン | つまりあの時、お前本人もこの付近にいたということになる。 | ||
| デュパン | だが秋と私が現れるのを見て、手を引いた。 | ||
| ルブラン | ふははははは!さすがだな!こうなると知っていたら、秋を選ぶんだった。咲耶の素体を危険にさらすこともなかったろうに。 | ||
| デュパン | 技術が及ばなかっただけで、当初はそのつもりだったのだろう。 | ||
| デュパン | 機能面から見ても、秋のメンタルセキュリティが一段と高いのは明らかだ。単純なハッキングすら困難に違いない。 | ||
| ルブラン | さて、それはどうかな?これから全面的な研究を進めるつもりなんだ、君も加わらないか? | ||
| デュパン | 気持ちだけ受け取っておくよ。 | ||
| ルブラン | まぁまぁ、そう言わず…… おっと、そろそろターゲットに行き着く頃合いか? | ||
| デュパン | 正確には――すでに行き着いている。 |
