オアシス技術部門、バーバンクフェスティバルへ向かう前。 | |||
アントニーナ | ……ふぅ、分析完了。 | ||
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アントニーナ | これで、エントロピーへの初歩的な対抗手段はできた。 | ||
アントニーナ | だけど…… | ||
小さなエントロピー | キッ! | ||
アントニーナ | 仕事中は静かに。お前からのデータ採取は一段落してる、何か不満でも? | ||
アントニーナは腰をかがめて、彼女のふくらはぎに纏わりついている 小さなエントロピーを引っ剥がし、宙に持ち上げた。 | |||
アントニーナ | 「ペットにはリラックス作用がある」なんてペルシカが言ってたけど、こんな仕事を邪魔するだけの低能生物のどこに癒やし要素があるのか甚だ疑問だな。 | ||
小さなエントロピー | キキッ! | ||
小さなエントロピーは不満げに、触手でアントニーナの腕を軽く叩いた。 | |||
{教授} | そんなこと言って、結構可愛がってるじゃない。 | ||
アントニーナ | ふむ。妙にこいつが騒がしいと思えば、あなたでしたか。 | ||
アントニーナ | で、あなた直々に技術局へお越しになるなんて、どういう風の吹き回しです? | ||
{教授} | 用がなかったら、来ちゃ駄目なの? | ||
アントニーナ | さっきまでクロたちとバーバンクでのバカンスを検討してたくせに。ガイドから送られてきた招待状の、デジタルシグネチャ鑑定まで私に押し付けて。 | ||
アントニーナ | どうせ、この状態でバーバンクに向かうのが不安で、準備を整えに来たのでしょう? | ||
{教授} | さすがはアントニーナ。 | ||
アントニーナ | おだてたところで何も出ませんよ。慎重なあなたがそう考えないほうがおかしい。 | ||
アントニーナ | ですがまぁ、ちょうどよかった。このところのエントロピーに関する異常に、私なりの見解がありまして。 | ||
{教授} | 聞かせて。 | ||
アントニーナ | 「エントロピー」という名のウイルスが出現してからというもの、ペルシカは対策を練るために、各セクターのアドミニストレーターと連絡を取り合っています。 | ||
アントニーナ | 奇妙なのは、ピエリデスでの一件が起きるまで、正常稼働するセクターにはエントロピーについての正式な資料が一切なかったという点。 | ||
{教授} | 記録がない?でも、ウィズダムの話では…… | ||
ウィズダム | いかにも。エントロピーは、マグラシアに巣くうイレギュラーにござる。もちろん、奴らをコンピューターウィルスと称してもかまわぬが。 | ||
ウィズダム | 生を受けたその日から、我ら浄化者はイオスフォロス殿の英明なる御導きのもと、弛みなくエントロピーを討伐して参ったのでござる。 | ||
ウィズダム | されど、ここまで大規模な暴走は初めてでござるな。よもや、ピエリデス全体が感染してしまうとは。 | ||
アントニーナ | そのとおりです。浄化者の話によれば、彼らはこれまでずっとエントロピーと戦ってきた。ですが少なくとも、我々の知る正常なセクターはエントロピーの襲撃を受けていません。 | ||
アントニーナ | となると、エントロピーは一体どこから来たのか? | ||
小さなエントロピー | キッ! | ||
アントニーナ | お前のことだぞ、わかってるのか?まったく…… | ||
アントニーナ | 小型エントロピーの分析を通じて発生源の特定を試みましたが、「進化」により自我が芽生えた時には、すでにこいつはコプリーセクターの地底にいたようなんです。 | ||
アントニーナ | はぁ……エントロピーがどこから来たのかさえわかれば…… | ||
(選択) | 1.エントロピーの発生源を推測する | A | |
2.情況をまとめる | B | ||
A | {教授} | 現状から推測すれば、二つの仮説が立てられるね。 | |
{教授} | 一つ目は、この特殊なウイルスはクラウドの各地にいるけど、 浄化者が駆除しているおかげで、セクターには危険が及んでいないという説。 | ||
アントニーナ | これまで遭遇したエントロピーの拡散速度と攻撃力からして、浄化者がセクターを襲うエントロピーを退治していたとしても、「正式な資料が一切ない」というのは妙です。 | ||
アントニーナ | それとも、私たちの調査したセクターは、奇跡的にどれもエントロピーの襲撃を受けていなかったと?……偶然が過ぎませんか? | ||
{教授} | そうね、そこで二つ目の仮説よ。 エントロピーはもともとクラウド上に存在していたけど、 何かがそれらを阻んでいたという可能性。 | ||
アントニーナ | それが今や拘束を逃れ、マグラシア中を拡散し始めている。コプリーでデミウルゴスが岩を突き破り、地上へと現れたように……ありえますね。 | B | |
B | {教授} | 真相はともかく、現段階で遭遇したエントロピーは、 氷山の一角でしかないと私は考えてる。 今後起こりうる危険に備えておくべきでしょうね、たとえ杞憂に過ぎなかったとしても。 | |
アントニーナ | ……その通りです。オアシスへの襲撃も、そう昔の話ではありませんし。 | ||
私は透明な障壁を隔て、黒紫の脈絡がクロックの傷口より、 少しずつ彼女の首元へ這ってゆくのを目にした。 彼女の身体から、あっという間に血の色が退いてゆく。 | |||
怪物が彼女の手の中で身をくねらせている。 | |||
ソル | クロック…… | ||
ソルは呆然とクロックを見ていた。 クロックが口を開いたが、私たちには声が届かないと気づき、 片手を挙げて「オールOK」のジェスチャーをしてみせた。 | |||
ソル | あんたってヤツは……! | ||
ソルが近づいて何かを言おうとしたが、傍にいた医療員に止められた。 | |||
{教授} | ……クロックの様子は? | ||
アントニーナ | すでに製造局に復帰してますよ。何度も様子を見に行ってるんでしょう、なぜ私に訊ねる必要が? | ||
{教授} | 無理をしてないか心配になって。 | ||
アントニーナ | そこまでお優しいとは意外でしたね。安心してください、彼女ならすっかり元気ですよ。 | ||
アントニーナ | コプリーから持ち帰ったソースコード、それに小型エントロピーを分析したおかげで研究が大きく進展しました。これで私たちも、ある程度の対抗手段を有したことになります。 | ||
アントニーナ | 感染の程度が酷いと、ターシャリレベルに溶けてしまう可能性はまだ十分ありますが。 | ||
アントニーナ | もしデータ底本すら汚染されたら、リセットは意味をなさず打つ手なしです……気をつけるに越したことはありません。 | ||
(選択) | 1.わかった。 | C | |
2.私を心配してるの? | D | ||
C | アントニーナ | なら結構。認めたくはないですが、あなたにはご自分の命だけでなく、全オアシスの希望がかかっていますからね。 | E |
D | アントニーナ | 厚かましい人間もいたものです。 | E |
E | {教授} | あなたにそう言われちゃ、こっちもれっきとした手段を用意しておかないとね。 ただ、あなたの手助けがいるの、それとクロックの。 | |
アントニーナ | ……さっきクロックの様子を聞いたのは、これが目的だったわけか。褒めた傍から悪徳資本家の本性をさらけ出すとは、なかなかです。 | ||
{教授} | これも、より良い未来のための準備よ。 とりあえず、私の考えはこう…… | ||
しばらくして。 | |||
オアシス、中央会議室。 | |||
{教授} | 部門長はみんな揃った? | ||
アントニーナ | 警備部門の責任者シーモさん、医療部門の代表者イムホテプさん、軍事訓練の責任者パイソンさん……はい、ほとんど揃ってるようですね。 | ||
アントニーナ | ただ、バーバンクに向かうための資料製作で出席できない方が何名か。彼らには、後で私から言付けておきましょう。 | ||
アントニーナ | ……となると、残りはクロックさんか。 | ||
小さなエントロピー | キキッ! | ||
ふいに、アントニーナの抱いている小さなエントロピーが騒ぎ出した。 振り向くと、会議室の入り口にクロックが立っている。 | |||
クロック | なんか遅れたっぽい…… | ||
クロック | うわっ、みんなマジメか……こんな会議、さっさと終わらせちゃおうよ。 | ||
シーモ | ……クロックさん…… | ||
クロック | あー、そういう気遣いもういいから。めっちゃ元気、完全復活だから。 | ||
クロック | このヤマ超えたら、休み一ヶ月申請して武装機兵シリーズ10周するつもりなんだよね。それとプラモデルもガンガン作りたいし。 | ||
クロック | とりま限定版機兵プラモデル10個予約しとくつもり。それからきょうじゅ、バーバンクのフェスティバル限定フィギュア、忘れないで買ってきてよね。 | ||
{教授} | ええ、もちろん。 | ||
クロックは資料を一束デスクに置いた。 彼女の言葉で、会議室の雰囲気が少し和らぐ。 | |||
アントニーナ | さて、本題に入りましょう。 | ||
アントニーナ | このところ、エントロピーがマグラシアで異常発生している事は、皆さんご存知ですね。 | ||
シーモ | ええ。外勤部門がヘリオスで見つけたエントロピーの欠片を持ち帰っています。すでに医療部門へ解析に回しました。 | ||
イムホテプ | それについては、へリックスさんが連日の徹夜で対応中よ。 | ||
イムホテプ | エントロピー感染を防ぐ有効手段なら、医療部門が研究を終えているわ。100%とはいかないけれど、既有の情況であれば大部分は対処可能よ。 | ||
シーモ | 緊急事態に備えて、保安局はオアシスの警戒レベルを3まで上げています。必要とあらば、速やかにレベル2に設定可能です。 | ||
クロック | つまり、誰もあたしの二の舞いにはならないってことね。 | ||
{教授} | ありがとうみんな、助かる。でも、たぶんこれだけじゃ足りない。 | ||
{教授} | 最悪の情況を考慮しておかなくては―― そう、エントロピーがオアシスに全面戦争を仕掛けるという可能性を。 | ||
{教授} | これまでオアシスは小規模の戦力を維持してきた。 ほとんどの場合、少数精鋭の外勤チームで対処できている。 それとシーモの警備部門のおかげでね。 | ||
{教授} | 日常的な安全維持や探索任務、浄化者の相手は今のままでも十分よ。 だけど、得体の知れない脅威の前には、さすがに不安が残るわ。 | ||
パイソン | 上官殿はつまり、常駐戦力を拡大したいと? | ||
{教授} | 聞いた話だと、パイソン教官がすでに始めているそうね。 | ||
パイソン | まぁな。だが訓練には時間がかかる。短期間内で戦闘力を上げるには、訓練強度を今以上に上げねばならん。 | ||
{教授} | それと、より適切な訓練内容も。 | ||
パイソン | というと? | ||
{教授} | クロック。 | ||
クロック | ふー、やっとあたしのターンか。 | ||
会議室の端末を切り替えるクロックの動きに伴い、 スクリーン上に作戦選択画面が現れた。 | |||
クロック | 見ての通り、戦略的意義のあったこれまでの戦闘を10個ピックアップして、製造局が今ある資料をもとに正確に再現したのがこれ。 | ||
クロック | データでシミュレーションされた戦闘エリアでの戦い、その名も「仮想域作戦」!どう、イケてっしょ? | ||
シーモ | ……あはは、確かに。 | ||
クロック | あは、あはは……話は以上、です。アンナ、あとは頼んだ! | ||
アントニーナ | わかりました。 | ||
アントニーナ | 製造局による再現結果ならびに敵の分析データをもとに、技術局が戦闘模擬システムを開発しました。システムに入ったエージェントは、安全の保証された環境下で、限りなくリアルに近い戦闘訓練を行うことが可能です。 | ||
アントニーナ | 教授が拡張コマンドを使用することで、仮想域作戦の権限が開かれます。ただし、データを完全にインプットしきれていないため、拡張コマンドの数には限りがあります。 | ||
アントニーナ | ご安心ください、技術局のメンバーが昼夜の別なく作業にあたっていますので。拡張コマンドは毎日AM5:00にシステムへと送られます。 | ||
クロック | ……イムホテプ、エージェントって過労死とかすんの? | ||
イムホテプ | さぁ、どうかしら。 | ||
アントニーナ | ……技術局のメンバーには、適度な休憩を取らせるよう注意しますよ。 | ||
アントニーナ | それと、皆さんのモチベーションを保つために、訓練では戦闘結果に応じて仮想域スコアを獲得できるようになっています。スコアが貯まることで報酬が配られます。 | ||
アントニーナ | 戦闘には何度もチャレンジできます、最高スコア目指して頑張ってくださいね。 | ||
クロック | ゲームのスコアランキングみたい。 | ||
アントニーナ | あらかた紹介し終えましたか。具体的な内容は、訓練で直に確認してみてください。 | ||
アントニーナ | この新しい戦闘模擬システムについて、皆さんいかがですか? | ||
パイソン | オアシスのエージェントに足りないのは実戦経験だ。このシステムがあれば、訓練が大いに捗るだろうな。 | ||
イムホテプ | それに模擬戦闘だから、医療部門の仕事も増えないし。 | ||
シーモ | これまでの戦いの再現か……すぐにでも試してみたいですね。 | ||
シーモ | 教授のお傍にいなかったために、逃した戦いを体験できるんです……教授、今度こそシミュレートされた戦場で敵を倒してみせますよ。 | ||
アントニーナ | というわけで、今回の「クライアント」である教授、そちらのご意見は? | ||
(選択) | 1.良さそうね。みんな、ご苦労さま。 | F | |
2.試してみないことには、なんとも。 | G | ||
F | アントニーナ | それで人払いできるとは思わないで頂きたいですね。我々の休暇もお忘れなく。 | H |
G | アントニーナ | フン……絶対に満足させてみせますよ。 | H |
H | アントニーナ | さてと。これで教授とペルシカさんたちは、安心してバーバンクに向かえますね。 | |
クロック | あたしの限定フィギュア、絶対に忘れないでよね!? | ||
{教授} | わかってる。 | ||
シーモ | 教授がオアシスをお離れになる間、外勤部門は毎日の巡回を維持し、異常があれば報告を行います。保安局は警戒レベルを上げたうえで、引き続き警備にあたります。 | ||
イムホテプ | 医療部門は、エントロピー化免疫プログラムの研究を続けておくわ。 | ||
パイソン | 軍事訓練については、上官殿の遠隔指示に従い、仮想域作戦システムを通じた訓練を行う。 | ||
{教授} | よし。みんな、あとは任せたわよ。 | ||
{教授} | もしかすると……あまり時間は残されていないのかもしれない。 |