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マサチューセッツ聖杯戦争導入

Last-modified: 2019-06-22 (土) 14:36:14







パキリ、と割りばしの割れる小気味の良い音が響いた。


「ン、やはり本場日本の魚粉とごま油を使えば味が違うな……。
麺も非常に良き弾力に優れている。俺が直々に材料を調達し、レシピを教えたのが功を奏したようだな」
「あら、2ヵ月ほどぶりですね。お久しぶりです霧六岡さん」


ズゾゾゾゾゾ……、と口いっぱいにひき肉とタレの絡んだ太麺を頬張りながら、
辛味と旨味、そして脂味を味わっていた男に、一人の女性が不意に声をかけた。


「ン? ああアザミか! 久しいな!」
「…………それは何でしょうか…? パスタ…?
それにしては、色も香りも独特の……? オニオンの風味が、その、かなりきついですね」
「わかるか。流石は元メイド。そうだ。これはジャパニーズ・パスタ。『台湾まぜそば』だ!」
「ジャパニーズなのに台湾なんですか」


何故か得意げな笑みを浮かべる男、霧六岡に対して対照的な冷たい無表情を通すアザミ。
相変わらずこの人とはどう付き合えばいいかわからないな、などとそのまま言葉を返されそうな思考をしつつ、
アザミは一つの疑問を霧六岡に対してぶつけた。


「本日は、どういった御用件でこの本部へ?」
「ああ、この食堂の新メニューを味わいに……というのは冗談として、招集された。
波旬、ゼロリバース、および俊照の奴も一緒だ。統括が4人そろって呼び出されるなど、珍しい事もあるものだな」
「そうですね。私は地域が近いこともあり、良くこちらへと来ていますが……、そちらは大変でしょう」
「俺は日本からはるばる足を運んでいるんだぞ。まったく距離を考えてほしいものだ」
「出張費と宿泊費は出ますでしょう?」
「だが道中のサポートはないだろう!
機内食というものは俺の口に合わん!
なんだあのぱさぱさした肉は!食の怠慢だ!」


その後霧六岡は、ぶつくさと小言のように、飛行機内の狭さと機内食のまずさを長々と垂れて続けた。
しかしやがて、時計を眺めてはっと気づいたように顔を上げて立ち上がった。


「ン、もうこのような時間か。俺は行くとしよう」


ガタリ、と立ち上がりカツカツと靴音を響かせながら霧六岡は食堂出口へと向かう。
そして出口目前に立ち止まり、振り向いてアザミへと言葉を投げた。


「そうそう、あのロックベラーが聖杯戦争に出て死んだそうだ。まぁ元気に生きてはいるわけだが──────」
「……………………………………………………」
「最近は消極的だった我らサンヘドリン三十三統括も動き始めている。
お前も聖杯戦争に出てみたらどうだ? ひょっとすれば貴様の願いも叶うかもしれんぞ」
「サンヘドリンが得た聖杯は、遺さず魔力リソースとして捧げるのが約定だったのではありませんか?」
「構わん構わん! 所詮は離れている場所の事だ! 人的リソースは新たに立ち上がったアルターエゴに割かれているしな!
もし何か言われても俺が許す! きっとペルセフォネあたりが代わりの聖杯を持ってきてくれるだろうしな!!」


呵々、と軽快に霧六岡は声を上げて大笑いをした。
それに対してアザミは、相も変わらず冷たい鉄面皮を貫いていた。


「まぁ、貴様が死にたくないというのならそれもいい。それもまた人間の人生だ。
あの準備だけは万全に整えるロックベラーをしても、死を免れなかったのだ。聖杯戦争とはかくも恐ろしいものよなぁ」


ニヤニヤァ、と意地の悪い笑みを浮かべながら、男は高笑いしつつ去っていった。
対して──────


「"願いが叶うかもしれない"……ですか……。在り得るわけ、ないでしょう」


ハァ、と。
ため息を一つはき、アザミは一層その表情に冷たさを増させ、呟くように言葉を吐き出した。


「私が願いを持つことなど、許されないことなんですから」


その呟きは、誰の耳に入ることもなく、ただただ虚空へと溶けていった。









「それで、私たちが集められた理由とは」


サンヘドリンの統括司令が居座る部屋に、5人の影が集う。
高級そうな本革で作られたソファーが卓を囲み、そのソファーに5つの影が座っている。


サンヘドリン第5ロッジ統括、Dr.ゼロ・リバース
サンヘドリン第26ロッジ統括、霧六岡 六霧
サンヘドリン第32ロッジ統括、趙 俊照


そして、サンヘドリン第3ロッジ統括、『波旬』


最後に、彼らの上座に座るような形でサンヘドリン統括司令、アーベルデルト・ヴァイスハウプトが座っていた。


「趙君、霧六岡君、そしてゼロ・リバース君は、以前聖杯戦争の管理を行ったことがあるね?」
「…………ええ、はい。あれは去年の秋ごろでしたでしょうか。管轄地に聖杯が出現しましたもので」
「俺は今年の、寄りにもよって年始であったな。まぁ俺は途中で寝入ってしまったが……、申し訳が立たない」
「私はつい最近でしたね。アースガルズの能力が完成に向かっていたこともあり、実戦データを取りました」
「Good. ここ1年以内に聖杯戦争の管理の経験がある者たちが3人も集まったというのならば、安心だ」


統括司令が、口端を吊り上げながら大きくうなずく。
その言葉に、3人は容量を得ず頭上に疑問符を浮かべていた。


「司令、その言葉の真意の意図とは。人造物故、人の感情の機敏が未だ私には……」
「いや、良いんだよゼロ・リバース君。私も詳しい説明をしていないからね。話が遅くすまないね」
「え……いえ、私は、何もそのような意図で発言したわけでは……」


おろおろと慌てふためくDr.ゼロ・リバースをよそに、統括司令は話を続ける。


「さて、2ヵ月ほど前に霧六岡君が我らに持ち込んでくれた、一つの栄光の光源については周知のとおりだろう」
「人間の魂加工による、物理的肉体への英霊の複数適合の可能性……通称アルターエゴ計画ですか」
「あれはたしか波旬の管轄になったはずであろう」


ちらり、と霧六岡は同じく部屋に招かれている男、波旬をみやる。
すると、波旬は普段のようなお茶らけた、ふざけたような態度をしておらず、まるで借りてきた猫の如く大人しかった。


「ん? そういえば貴様は何故呼ばれている?」
「エッ? あー………、うん。えーっとだねぇ……あ、あははははー…な、ナンデダロウネー」
「確か君の支部は、アルターエゴ計画の実行の為に、触媒とヒトガタを複数仕入れていましたね」


俊照の瞳から放たれる光が、サングラス越しに波旬を射抜く感覚を波旬は感じた。


「えー……あー…………まぁ」
「一級触媒を5つ、二級触媒を7つ、そして……特級触媒を2つ、ですか。随分と力を入れているようですね」
「英霊を手中に収め、技術として確立する可能性の一つだからね。少し、多めにリソースを割いてみた」


俊照が手元のタブレット型端末を指でスライドし操作しながら話す。
その画面には、一級触媒や二級触媒、そして"ヒトガタ"と記された多くの顔写真など、
多くの情報が舞っていた。


「しかし……特級は数も限られています。そうやすやすと使うことはあまりよろしくないかと」
「だが時計塔降霊科のガサ入れの眼をかいくぐるのも厳しいだろう! アルビオンの一件もあり神秘は年々希少となりつつあるから連中も必死だ!
故に俺は、ここらで一つ、思い切って使用するというのもある意味ではいい手立てだと考える!」
「しかしアルゴー船の欠片や円卓の欠片はともかくとして、天獄階門の破片などは癖が強すぎます。
試用したとしても、あれから呼びだせる英霊と相性が良い魔術師が、早々現れるなど────」
「いや」


Dr.ゼロ・リバースの言葉を、統括司令が遮って否定する。


「ロックベラーが、天獄階門より召喚された英霊を呼びだし、手懐けることに成功している」
「…………えっ、ってつまり、"アレ"と同等…もしくはそれ以上の怪物に、懐かれたって事ですか?」
「前々から人でなしだとは思っていたが、やはり金持ちは精神構造からして俺たちとは違う、ということか」
「それは幸先の良いニュースだと考えます。かの触媒から呼びだせる英霊は、神秘性、有用性、ともに万全。
力も申し分ない。我らサンヘドリンの神秘の研究を大幅に躍進させられる可能性と言えますでしょう。ロックベラー氏には、
今後スケジュールに複数予定を入れていただき、彼あるいは彼女を使役させ研究への役立てを──────」
「いやぁー…………、そ、それがぁー………良い知らせばかりでも……ないんだ……」


つん、つん…と、人差し指をつつき合わせながら、
非常にバツの悪そうな表情で波旬が会話に割って入る。


「なんだ波旬。貴様がそう弱気なのは珍しいじゃないか」
「いやぁー…………その、ね? うちの第2ロッジ、マサチューセッツじゃない?
それでさぁ…彼のロッジロサンゼルスじゃないか。触媒が欲しいって言うから、うちに届いてた"それ"、格安で貸したんだよ……」
「それって……まさか、天獄階門の破片をですか? 特級の、神代の神秘残る触媒をですか?」
「うん。ちゃんと包装して、暗示もかけて、ばれないルートで送ったよ? うん」
「………側頭部と眉間が痛みますが、ええ。話を続けてください」


Dr.ゼロ・リバースが眉間に皺を寄せながら抑える。
それに申し訳なさそうな顔をして頭を下げ、波旬は話を続ける。


「それで召喚されたのが、あの触媒から呼びだされる英霊としてはポピュラーな者……地獄の番犬か」
「うん。いやまさか呼びだせて、さらに使役できるなんて思ってなかったよ俺。まぁ、そこまでは良いんだけど」


ハハッ……と乾いた笑いを短く響かせ


「そのー……ね? その特級を使ってアルターエゴの研究してた成果のヒトガタ3つが……ね?
連鎖的に…………その……ロックベラーが……召喚すると……同時に……活性化して……です、ね……
んでー……………そし、て…………一週間前、はい。あれー? 蒸発しちゃったかなぁー? と思ったら」
「あー、うん。言いたいことは分かった。ああ分かった。皆まで言うな。理解した」
「マサチューセッツで近頃噂が発生したのは、そういう理由でしたか」


ふむ、を顎鬚を撫でながら俊照は数度頷く。


「不完全とはいえ、相手は霊基数値を薄めたサーヴァントの霊基と融合している。
これは正直なところ、アースガルズあたりでもなければ太刀打ちできないんじゃあないかな?」
「だが今、彼と実験体をぶつけるわけにはいかない。逃げ出したとはいえ、彼らもまた良き成功例だ。
アースガルズもまた、アルターエゴ計画がとん挫した際の重要なサンプルだ。どちらも傷つけるには、惜しい」
「ですがこのままいれば、マサチューセッツは間違いなく人のいない死の街になりますね」


Dr.ゼロ・リバースの冷たいため息が響く。
そのため息に、波旬が申し訳なさそうな顔で縮こまる。


「つまるところ、それらにいい具合に対抗できる存在を集めることが出来て、
なおかつ迅速に、しかし誰にもバレることなく、その逃げ出した実験体を捕獲、あるいはできるだけは損のない状態で駆除するべき、と」
「──────ああ、なるほど。それゆえに、聖杯戦争なのですね?」
「そうだ。君との会話は、いつもストレスが無くて助かるよゼロ・リバース君」


パチン、と指を鳴らして、統括司令はゼロリバースの方向を指さした。


「聖杯を1つ失うのは惜しいが、アルターエゴ計画成功の手がかりたる貴重なサンプル3体。
そしてマサチューセッツの住民たちの命と天秤にかければ、安いものだ。よって、ここに聖杯戦争の開始を、統括司令の名のもとに宣言する」
「なれば話は早い! ゼロリバース、マサチューセッツの霊脈ポイントは確か地図にあったな?」
「特に強力な霊地ポイントを座標で送付します。相性のいい聖杯は貴女が選んでください」
「接続と、そして聖杯戦争の主な管理は私がやろう。幸い、以前の聖杯戦争で使用されなかった
いくつかの令呪もまた、私は持っている。これを餌にすれば、彼らも回収には協力してくれるだろう」
「おー、これはありがたいね! そうなると俺はもう安心かな? それじゃあ3人とも頑張っt」
「お前はこっちだ。下働きを存分に手伝ってもらうぞ」
「え、えぇ~……、そ、そっか~…が、頑張るね…」




その日から、魔術世界に一つの噂が駆け巡った……。
マサチューセッツには魔獣が出現している。それは一つの魔術的聖遺物が原因である、と。


その聖遺物こそ、万能の願いをかなえる願望機、聖杯であると──────