10-188

Last-modified: 2008-05-22 (木) 22:00:42

188 名前: 疑惑のリン姉さん [sage] 投稿日: 2008/04/10(木) 22:49:41 ID:ML+L1QWE
 ~とある休日~

リン   「ん~~~~っ……! 今日はいい天気ねえ。なんだかいいことがありそうだわ」
ヘクトル 「そうかぁ……? あ~だりぃ……」
リン   「……ちょっと。朝っぱらからテンション下がること言わないでくれない?」
ヘクトル 「っせぇな……仕方ねえだろ、昨日は夜通しでマシューたちと騒いでたんだからよ……」
リン   「呆れた。もうちょっと自然に則した健康的な生活を送りなさいよ」
ヘクトル 「へいへい……とりあえず飯食ってくるわ」
リン   「……ったく。なんでこうだらしないのかしら……」

 ピンポーン♪

リン   「はーい……ってあらフロリーナ、おはよう」
フロリーナ「お、おはよう、リン」
リン   「どうしたのこんな朝から……ん~? なんか今日、やけに気合入った服装ねえ……?」
フロリーナ「そ、そそ、そんなことないない、ないよ?」
リン   「(ピキーン!)……フロリーナ。もしかして、あなた……」
フロリーナ「な、なに?」
リン   「ひょっとして、ウチの筋肉だるまに用事……」
ヘクトル 「おいリン、飯どこに……お」
フロリーナ「!! へ、へへへ、ヘクトルさま! おはようごじゃいましゅ!」
ヘクトル 「なんか知らねーが、とりあえず落ち着け。噛みすぎだぞ」
フロリーナ「は、はい! すみませんです! あ、あの」
ヘクトル 「んー……なんか、お前……いつもと違うな」
フロリーナ「!! そ、そうですか……?」
ヘクトル 「おう。いつもはもっと貧乏くせぇからな……そういう明るい感じの服のほうが、似合うんじゃねーの?」
フロリーナ「!!!! は、はいぃ……」
リン   「……」

リーフ  「うわ、なんか朝っぱらからリン姉さんがピキピキいってるよ?」
マルス  「そうだねえ。いや、全く愉快な光景だよ!」
ロイ   「いい笑顔だね兄さん……」
マルス  「当然さ! どうやら今日は楽しい一日になりそうだよ!」
リーフ  「うーん、それにしても、こういうときだけ女の子褒める台詞をさり気なく言ったりするんだねえ、ヘクトル兄さん」
ロイ   「間が悪いというかいいというか」
マルス  「僕にとっては最高のKYさ!」
リーフ  「逆じゃないの、この場合」

ヘクトル 「なに? 映画?」
フロリーナ「は、はい! 今、フィオーラお姉ちゃん、パント様のお屋敷で警備の仕事をしてるんですけど」
ヘクトル 「あー、あのバカップル貴族夫婦な」
フロリーナ「え?」
ヘクトル 「いや、こっちの話だ。で?」
フロリーナ「それで、その関係で、今度上映される映画の試写会のチケットが手に入ったって」
ヘクトル 「それが今日ってわけだ」
フロリーナ「はい! そ、そそそそ、それで、あのあのあのあの、も、もしよかったら、わ、わたしと……!」
リン   「やめておいたほうがいいんじゃない?」
フロリーナ「え?」
リン   「ヘクトル、映画とか見てても絶対途中で寝ちゃうから」
フロリーナ「そ、そうなんですか……?」
ヘクトル 「まあな。最後まで見られた試しがねえや」
フロリーナ「う……じゃ、じゃあ、ご迷惑なんですね……」
リン   「そんなに落ち込まないで、フロリーナ。こんな筋肉ダルマに芸術を理解させようって方が無理のある話なんだから。
     その代わり、親友であるわたしが一緒に」
189 名前: 疑惑のリン姉さん [sage] 投稿日: 2008/04/10(木) 22:50:48 ID:ML+L1QWE
ヘクトル 「いや、ちょっと待て」
リン   「なによ」
ヘクトル 「フロリーナ。その映画よ、なんてタイトルなんだ?」
フロリーナ「え? ええと、『リキア同盟危機一髪』……」
ヘクトル 「マジか!?」
リン   「な、なんでそんな急に盛り上がってんのよ!?」
ヘクトル 「馬鹿お前、その映画、ウチのクラスでやたらと前評判高ぇんだぜ?
      迫る竜の群を前に絶体絶命の蟻んこリキア同盟軍が、炎の猛将ヘクタールの力によって
      奇跡の大逆転を成し遂げるっていう大スペクタクルのアクション巨編!
      こればっかりはぜってー見なくちゃならねーと、俺の魂がこう、奥底から震えてたわけよ」
フロリーナ「そ、それじゃあ……!」
ヘクトル 「おう、当然俺も行くぜ! カーッ、誰よりも先にあれを見られるとはな。ついてるぜホント。ありがとよフロリーナ!」
フロリーナ「!! は、はい、お役に立てて光栄です!」
リン   「グッ……へ、ヘクトル、あんた、夜通し騒いで疲れてるんじゃ……」
ヘクトル 「馬鹿言うな、んなもん全部吹っ飛んだっつーの。着替えてくっからちょっと待ってろ」
フロリーナ「はい! えへへ、よかったぁ。帰りにお姉ちゃんにお土産買っていってあげようっと」
リン   「……」

マルス  「うわぁ、リン姉さん凄い不機嫌そうな顔してるね♪」
ロイ   「マルス兄さんはもうちょっと自重しようよ、いろいろと……」
リーフ  「うーん、しかし、これはなかなか目が離せない展開になってきたなー」
マルス  「当然、僕らも後をつけるよ」
ロイ   「え? どうやって?」
マルス  (パチン)
ジェイガン「ハハッ、お呼びでございますかマルスさま!」
ロイ   「指ぱっちんでジェイガンさんが飛んできた!?」
マルス  「やあジェイガン、悪いんだけど、『リキア同盟危機一髪』の試写会のチケット、三十分以内に持ってきてもらえるかな?」
ジェイガン「ハハッ、この爺めに全てお任せ下さい!」
ロイ   「……行っちゃったよ。ホントに大丈夫なの?」
マルス  「大丈夫だよ。それにあのチケット、一枚で三名様までみたいだしね。一枚だけなら入手もそう難しくはないはずさ」
ロイ   「ふーん……って、三名様? ということは……」

 ~ミレトス市街~

ヘクトル 「この辺まで出てくるのも久しぶりだな」
フロリーナ「そ、そうなんですか!」
ヘクトル 「おう。この間来たのは黒い牙の連中と喧嘩したときだったか」
フロリーナ「そ、そうなんですか!」
ヘクトル 「あんときは凄かったぜー、迫り来る黒い牙の連中を千切っては投げ千切っては投げ」
フロリーナ「そ、そうなんですか!」
ヘクトル 「……フロリーナよ」
フロリーナ「そ、そうなんですか!」
ヘクトル 「ちょっと落ち着けお前……っつーかなんでそんな興奮してんだ」
フロリーナ「い、いえ、あの、緊張して……」
ヘクトル 「……なんかよく分かんねーが、まあいいか。あれこれうるさく喋り捲られるよりゃマシだしな」
フロリーナ「そ、そうなんですか! じゃ、じゃあ頑張って黙ってます、わたし!」
ヘクトル 「プッ……お前、なんか面白ぇーよな」
フロリーナ「あ、ありがとうございます!」

リーフ  「……初々しいねえ……」
ロイ   「……なんで僕らこんなことやってんだろうね」
マルス  「いいじゃないの。いやー、いいねーお二人さん、青春だねえ」
ロイ   「嬉々としてビデオカメラ回してるし……」
マルス  「そして、そんな二人の間に割って入る影が一つ……」
190 名前: 疑惑のリン姉さん [sage] 投稿日: 2008/04/10(木) 22:51:46 ID:ML+L1QWE
リン   「……」
ヘクトル 「……」
フロリーナ「……あの、リン……」
リン   「なにかしら?」
フロリーナ「ヒッ……ど、どうしてそんなに怒ってるの?」
リン   「んー? 別に、怒ってないわよー? 大切な親友と、大好きなお兄ちゃんと一緒に映画を見に行けるんだものね!」
ヘクトル 「うげっ……おい、なんのつもりだかは知らねーが、おにいちゃんとか言うなよ! 鳥肌が立つぜ!」
リン   「おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃん! あー、楽しいったらないわホント! 
     映画見たあともいろいろ見て回りましょうねー、三人で。三人で。三人で!」
フロリーナ「……」

マルス  「おーっと、さすがのフロリーナさんもちょっと不機嫌そうだぞー。
      そして、リン姉さんは二人の邪魔をするのに夢中でそんなことにはちっとも気がついていないぞー」
ロイ   「ついでにマルス兄さんは物凄く楽しそうだぞーっと」
リーフ  「しかし大人気ないねーリン姉さんも」
マルス  「老けてるのにねー」
ロイ   「マルス兄さんは全開だねホント……」

ヘクトル 「っと、ついたな、ここだぜ」
フロリーナ「ここですね」
リン   「席は三つ並んでるのよね?」
フロリーナ「うん、そのはずだけど?」
リン   「じゃあヘクトル右端わたし真ん中フロリーナ左端。これで決定ね」
フロリーナ「え、あの……」
リン   「ん? なあに?」
フロリーナ「……ううん、なんでもない……」
ヘクトル 「どうでもいいからさっさと中に入ろうぜ!」

リーフ  「どっちかと言うとヘクトル兄さんの鈍感ぶりが楽しいなあ」
ロイ   「全然気付いてないもんね。こんな鈍感な人、この世に存在するとは思わなかったよ」
マルス  「いや、今回はホントいい仕事してるよヘクトル兄さん。MVPをあげたいぐらいだね!」
ジェイガン「ハーッ、ハーッ……! ま、マルスさま、チケットをここに」
マルス  「うん、ご苦労。さて、入ろうか二人とも」
ジェイガン「ゼェーッ、ゼェーッ……!」
ロイ   (……ジェイガンさんの扱いが酷すぎる気が……まあいいか、本人は満ち足りた顔してるし……)

 ~で、その日の夕方~

ヘクトル 「いやー、映画も面白かったしゲーセンも堪能したし、今日は充実した一日だったぜ」
リン   「そうねー、楽しかったわねー。ね、フロリーナ?」
フロリーナ「う、うん……」
ヘクトル 「じゃあなフロリーナ! 映画のチケット、ありがとよ」
フロリーナ「はい、さようなら……あの、リン?」
リン   「……な、なに?」
フロリーナ「……聞きたいことがあるの」
リン   「……ええと、わたし、ちょっと用事……」
フロリーナ「少しだから!」

マルス  「おーっと、これは修羅場の予感だぞーっ!」
リーフ  「まあ、あれだけ露骨に邪魔してればね……」
ロイ   「映画でもヘクトル兄さんの横顔がフロリーナさんの目に入らないようにさり気なくブロックしたり、
      ゲーセンでは三人で協力プレイしてる最中にヘクトル兄さんを誤射してフロリーナさんとの二人プレイに持ち込んだり、
      二人の距離が近づくたびに割って入ったりと、凄かったもんね、リン姉さん……」
リーフ  「さすがのフロリーナさんでも怒るよねこれは」
マルス  「うはは、リン姉さんの気まずそうな顔見てるだけで笑いが止まらねー!」
ロイ   (……これほど活き活きしてるマルス兄さんを見るのも久しぶりだな……)
191 名前: 疑惑のリン姉さん [sage] 投稿日: 2008/04/10(木) 22:52:21 ID:ML+L1QWE
フロリーナ「ねえ、どうして邪魔をするの?」
リン   「な、なんのことかなー……なんて」
フロリーナ「わたし、ヘクトルさまに喜んでもらおうって、一生懸命……勇気を出したのに……」
リン   「う……ご、ごめんね……でもフロリーナ、わたしはあなたのためを思って」
フロリーナ「どうしてわたしの邪魔をするのがわたしのためになるの!?
       リンは変よ、いつもは昔と変わらない優しいあなたのままなのに、わたしがヘクトルさまと話そうとするときだけ……」
リン   「いや、だからそれは……」
フロリーナ「……でも、今日のリンを見ていて、ようやくあなたの気持ちが分かったの」
リン   「え……そ、そう、分かってくれたの! それなら……」
フロリーナ「リンも、ヘクトルさまのことが好きなのね!」
リン   「……はえ?」
フロリーナ「そうよね、ヘクトルさまはあんなに素敵な方だもの……たとえお兄さんだったとしても、好きになるのも無理はないわよね」
リン   「え、ちょ、ま……!」
フロリーナ「わ、わたし、リンに比べたら全然魅力ないけど……! でも、頑張るから!
      相手が親友のあなたでも、ううん、あなただからこそ!
      わたし、正々堂々努力して、ヘクトルさまに相応しい女になってみせるわ!」
リン   「いや、だから……!」
フロリーナ「……こんな身の程知らずなこと言ってごめんね、リン。
      たとえ恋敵になったとしても、あなたはわたしの大事な親友だから……」
リン   「待ってったら! わたしの話を……!」
フロリーナ「それじゃあ、今日はこれで帰るわ。お互い頑張りましょうね、リン!」
リン   「ちょ……あの……な……な……
       な ん じ ゃ こ り ゃ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ っ ! ? 」

マルス  「……! ……!!」
ロイ   「とうとう顔真っ赤にして悶絶し始めたよマルス兄さん」
リーフ  「うーん、しかし、これはまた思ってもみなかった展開だねえ」
ロイ   「リン姉さんがヘクトル兄さんを好き……ってのもあり得ないけど……
      ビックリしたなあ、あの大人しいフロリーナさんが、あんなにはっきり物を言うなんて」
リーフ  「フフ……強くなられた……恋の、せいですかな?
ロイ   「はい?」
リーフ  「心外ですな、わたしとして木の枝から生えた葉っぱではありません」
ロイ   「いや、なに言ってんの兄さん?」
リーフ  「ははは……まあともかく、フロリーナさんは恋心によって強くなったわけですよロイ君」
ロイ   「そんなものなのかなあ」
リーフ  「何言ってんだい、君の周りの女の子達を見てれば分かるじゃないか?」
ロイ   「え、僕の周りって……リリーナやシャニーたちのこと?
      へぇ、知らなかったなあ、みんな好きな人なんていたんだねえ。全然そんな感じなかったのに」
マルス  「……」
リーフ  「……早く起きてくれないかなマルス兄さん……突っ込み役不在はキツイッスよ……」
192 名前: 疑惑のリン姉さん [sage] 投稿日: 2008/04/10(木) 22:53:37 ID:ML+L1QWE
 ~で、翌日~

リン   「クッ……昨日はひどい目に遭ったわ……! ショックで寝込んでしまった……
      ああ、早くフロリーナの誤解を解かなくちゃ……」
ヘクトル 「……よう、リン……」
リン   「……? おはよう。なによ、その生温かい目は……?」
ヘクトル 「いや……昨日、お前がやけにツンケンしてたのはそのせいだったんだなあ、と」
リン   「……?」
ヘクトル 「……まあ、気持ちは分からねーでもねーけどよ。俺はあいつとは全然、なんもねーから、安心しろよ。
      それと、あれだ。いろいろと言いたいことはあるが、とりあえず俺は兄としてお前を応援するつもりだからよ」
リン   「は、はぁ? なに言って」
エリンシア「リンちゃん!」
リン   「わぁ、ビックリした! な、なに、エリンシア姉さん?」
エリンシア「ここここ、これ、本当なの!?」
リン   「これ、って……」

 エリンシアが広げているのは紋章町タブロイドという聞きなれない名前の新聞で、その一面にはでかでかとある写真が載っていた。
 それは昨日のリンとフロリーナを写したもので、隣には『兄弟家のリンディスさんにガチレズ疑惑』という見出しが躍っている。

リン   「な ん じ ゃ こ り ゃ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ っ ! ? 」
エリンシア「それはこっちの台詞よ! あなたもなの、あなたもなの!? あなたもへザーさんなの!?」
リン   「い、いや、これは誤解……!」
ヘクトル 「隠すなよ。いやー、まさか、お前がなー……確かに、前からフロリーナを見る目がなんかアレだとは思ってたがよ」
リン   「ちょ、なに納得してんのあんた!?」
ヘクトル 「大丈夫だって、シグルド兄貴の妨害がない分、アルムとセリカよりゃマシだろ……多分」
リン   「だからちが……あーもう、なにがどうなってんのーっ!?」

マルス  「……いやー、君たち、実にいい仕事だったよ」
ネサラ  「御託はいいからとっとと報酬よこせよ。紋章町中に捏造新聞ばら撒いてくんの、結構骨だったんだぜ?」
マルス  「はいはい……ほーら、君たちの大好きなコインだよー」
ネサラ  「うひょー、金だ、金だー! 大金持ちだー!」

 鴉形態のまま、十円玉の山を転がり回るネサラ。ベオクの貨幣経済については理解していないらしい。

マルス  「ヒヒヒッ……フロリーナさんたちの周囲には、この新聞ばら撒いてないからねえ……!
      これでしばらくは妙な噂に身悶えするリン姉さんが楽しめるってわけだ……
      しかも証拠隠滅は完璧! これで僕がリン姉さんのお仕置きを受ける確率はゼロ」
リン   「マァルゥスゥ!」
マルス  「うひゃあっ!? な、なんですかリン姉さん!? 僕なにもやって」
リン   「どうでもいいから殴らせなさい! このやり場のない怒りをぶつけられるのはあんた以外にいないのよ!」
マルス  「そんな理不尽な……イヤーッ!」

 おしまい。