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Last-modified: 2008-07-05 (土) 12:37:09

340 名前: イドゥンとアイクと世界ひろし [sage] 投稿日: 2008/06/08(日) 21:52:04 ID:Z9+Fg3JS
ヴォルツ 「こんにちはー……なんだ、いねえのかよ。いや、誰かのいびきがかすかに聞こえるな……寝てるのか?」
イドゥン 「……」
ヴォルツ 「うおっ、ビックリした! な、なんだ姉ちゃん、急に人の背後に立つんじゃねえよ」
イドゥン 「ごめんなさい。わたしも、このお家に用があって」
ヴォルツ 「あ? なんだ、このお宅のお客さんか。残念だな、どうやら留守みてぇだぜ」
イドゥン 「そうですか。残念です」
ヴォルツ 「……エイリーク嬢ちゃんのご学友ってところかい?」
イドゥン 「? いえ、違います。エフラムさんに用事があって来ました」
ヴォルツ 「あ、なんだ、あいつかよ。ああ、そういや名乗り忘れたな。俺はヴォルツっていうもんだ」
イドゥン 「イドゥンです。……ヴォルツさんも、エフラムさんのお知り合いですか?」
ヴォルツ 「ああ。あのガキの家庭教師やってる……はずなんだが、いつ来てもいやがらねぇ」
イドゥン 「そうですか。エフラムさんはお忙しいのですね」
ヴォルツ 「まあ、実際サボってるんじゃなくて素で忘れてるっぽいんだよな。そこがまた腹立たしいんだが」
イドゥン 「……こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが」
ヴォルツ 「なんだ?」
イドゥン 「ヴォルツさんは、家庭教師をなさっていると」
ヴォルツ 「ああ、そうだが?」
イドゥン 「では、博学な方なのですか」
ヴォルツ 「フッ。まあ当然だな。世界ひろしと言えども、俺よりも学のある奴はいねぇよ」
イドゥン 「!! ……ひろしキター」
ヴォルツ 「なんだって?」
イドゥン 「いえ、ひろしキター、と」
ヴォルツ 「……」
イドゥン 「……以前、妹達がテレビを見ながら同じことを言っていたので、流行語か何かなのかと思っていましたが……」
ヴォルツ 「……あんた、世間知らずとか言われないか?」
イドゥン 「はい、ずっと家に篭りがちだったもので。
      ですから、今のように世間の皆様に少しでも近づこうと努力しているのですが」
ヴォルツ 「いや、その辺のところは真似しなくていいと思うぞ……っていうかするな」
イドゥン 「そうですか……わたしはまた何か勘違いをしていたのですね」
ヴォルツ 「まあ落ち込むようなことじゃねえだろう」
イドゥン 「ありがとうございます」
ヴォルツ 「初めは誰だって何も知らねえもんさ。
      俺の知識だって、スーパー派遣社員としてあちこち旅する内に身についたものだからな」
イドゥン 「あちこち……と仰いますと」
ヴォルツ 「そりゃもう、世界中さ。土管から髭のオッサンが出てくる地方とか
       ニワトリいじめが死に繋がる国とか、ピンクの球体に吸い込まれそうになるデンジャラスな王国とか。
       世界ひろしと言えども、俺ほどいろんな地方に足を伸ばした奴はいねえよ」
イドゥン 「ひろしキター」
ヴォルツ 「だからそれはいいっての」
イドゥン 「すみません」
ヴォルツ 「……まあ、あんただってその気になりゃどこへだって行けるさ。
      ひろい世界を見たいっていう好奇心と、最初の一歩を踏み出す意志さえありゃあな」
イドゥン 「……ヴォルツさんは強い人ですね」
ヴォルツ 「あ? なんだ、急に」
イドゥン 「……わたしは、こうして平和な町の中を歩いているだけで精一杯です。
      この町の外なんて、遠すぎて想像もつかないぐらい。
      そんな、何も分からない場所に飛び出していくのは、とても怖いこと。
      それなのに外の世界を旅したヴォルツさんは、とても強い人だと思います」
ヴォルツ 「……大したこっちゃねえよ。あんただって、行こうと思えば行けるさ」
イドゥン 「そうでしょうか」
ヴォルツ 「信じろよ。世界ひろしと言えども、俺ほど説得力のある男はいねえぜ」
イドゥン 「ひろし……」
ヴォルツ 「……いや、そこで止められるのもまた微妙だな」
イドゥン 「難しいですね」
ヴォルツ 「別に難しかねえだろ……まあ、さっき言ったこととは別として、俺は確かに強いがな」
イドゥン 「そうなんですか」
ヴォルツ 「おうとも。派遣社員としてマスターナイト以上の万能性を持ち、
      なおかつ傭兵団の頭張れるほどの強さを持った男! それがこのヴォルツだからな。
      俺に勝てる奴はいねえよ。たとえ、この世界ひろしといえどもな」
???  「ひろし……」
341 名前: イドゥンとアイクと世界ひろし [sage] 投稿日: 2008/06/08(日) 21:53:05 ID:Z9+Fg3JS
ヴォルツ 「いや、だから……」
イドゥン 「いえ、今のはわたしでは……」
ヴォルツ 「なに? じゃあ誰」
アイク  「あんたがあの有名な世界ひろしか……!」
ヴォルツ 「ゲッ……!」
イドゥン 「こんにちは、アイクさん」
アイク  「ああ。驚いたな、あんたがあの世界ひろしと知り合いだったとは」
イドゥン 「いえ、今知り合ったばかりです。ヴォルツさんの人柄に感銘を受けていたところです」
ヴォルツ 「あー、いや、別に俺なんてそんな褒められるほどの人間じゃ」
イドゥン 「謙虚な方……」
ヴォルツ 「いや、あのな」
アイク  「世界ひろし。あんたとは、是非とも一度戦ってみたいと思っていた」
ヴォルツ 「ちょ」
アイク  「俺はグレイル工務店のアイク。修行のため、あんたの胸を借りたい。受けてくれるか?」
ヴォルツ (冗談じゃねぇぇぇぇぇっ! グレイル工務店のアイクっつったら、
      『火竜を素手で殺せてもこいつにだけは喧嘩を売っちゃいけねぇ』って大評判の超ド級危険人物じゃねえか!
      派遣社員ネットワークにもレベルSSSの人間天災として登録されてるんだぞ!? 
      世界ひろしと言えども、俺よりも危険察知能力のある奴はいねえ。こいつと戦ったら、俺は間違いなく死ぬ)
アイク  「……どうした、手合わせしてくれないのか」
イドゥン 「どうしたんですか、ヴォルツさん」
ヴォルツ (そんな期待に満ちた目で見るんじゃねぇぇぇぇっ! どうする、考えろ、考えろ俺。
       世界ひろしと言えども、俺よりも生存運の高い奴はいねぇ。必ずいい考えが……!)
アイク  「来ないのなら、こちらから行かせてもらう」
ヴォルツ 「! ちょ、待っ……!」

 ぶぉん(ラグネルを振った音)

 バキャーン!(塀ごと家の一部が吹っ飛んだ音)

 コノヒトデナシーッ!(居間で爆睡中だった誰かの悲鳴)

ヴォルツ 「……」
アイク  「避ける素振りすら見せないとは……! 今のが牽制の一撃だと、よく気付いたな。さすがひろしだ」
ヴォルツ (反応すら出来んかったわボケェェェェ――ッ!  こ、こいつは噂以上だぜ……!)
アイク  「どうした、何故剣も抜かない? ……それとも、俺では相手にならないとでも」
ヴォルツ 「!! ……その通りだ」
アイク  「……理由を聞かせてもらいたい」
ヴォルツ 「そんなのは自分で考えることだぜ! ……だが、その顔じゃ見当もついてないらしいな」
アイク  「ああ」
ヴォルツ 「仕方ねえ。教えてやるよ。坊主、お前は確かに強ぇ。
      世界ひろしと言えども俺に勝てる奴はいねえと思っていたが、
      お前ならあと十年も修行を続ければ、俺に並んで立てるかもしれねえな」
アイク  「……」
ヴォルツ 「だが、その強さ……危ういな」
アイク  「どういう意味だ?」
ヴォルツ 「視野が狭いと言ってんだ。お前、その強さを得るために随分修行しただろう」
アイク  「そのつもりだ」
ヴォルツ 「来る日も来る日も剣を振るい、他のことは一切やらず……それで得た強さだ。違うか?」
アイク  「……いや、工務店の仕事も真面目にやっているが」
ヴォルツ 「うっ……い、いや、だが……あー、お、お前、仕事と剣を振るうことは別物だと思っているだろ」
アイク  「それはそうだろう」
ヴォルツ 「フッ……やっぱり、浅いな」
アイク  「どういうことだ?」
ヴォルツ 「いいか、真に強い奴ってのはな、何をやらせたって人並み以上にこなすもんだ。この俺のようにな」
アイク  「だが、剣を振るうのと大工の仕事は別だろう」
ヴォルツ 「それが浅い考えだというんだ! 全ての道はアカネイアに通ず。
       本物の強者ってのは、何事にも意識を集中し、全ての物事に共通した部分を見出すもんなんだ。
       だが、今のお前の台詞からするに……お前はまだ、家を作ることと剣を振るうことを同一視は出来ていないらしい」
アイク  「!! それは、確かにそうだ……」
342 名前: イドゥンとアイクと世界ひろし [sage] 投稿日: 2008/06/08(日) 21:54:00 ID:Z9+Fg3JS
ヴォルツ 「それじゃいけねえのさ。いいか、人生はそう長くはねえ。
      剣を振るうときだけ剣のことを考えているようじゃ、いくら時間があっても足りねえのさ。
      俺は何をしているときだって、全てを戦いに結び付けている。そういう習慣が出来ちまってるのさ。
      体に染み付いちまってるんだよ! 戦う男としての、本能って奴がな。
      ……お前の弟達に勉学を教えてるときだって、俺はその中から戦いのヒントを得ているんだ」
アイク  「家庭教師……! そんな、一見剣とは無関連な事物から、剣の道を見出したというのか……!」
ヴォルツ 「ああ。だから俺は言うのさ。世界ひろしと言えども、俺に勝てる奴はいねえ、とな……」
アイク  「……」
イドゥン 「……」
ヴォルツ (……す、凄まじいデタラメを喋りまくっちまった……! セールストーク鍛えすぎだろ俺!
      こんなんで納得してくれんのか!?)
アイク  「……昔」
ヴォルツ 「お、おう?」
アイク  「グレイル店長から大工仕事を教わりはじめたころ、同じようなことを言われた」
ヴォルツ 「そ、そうなのか」
アイク  「元々、剣を教えてほしかっただけなのに、『大工仕事も学べば教えてやる』と言われてな。
      当然俺は不満だったから、文句を言った。『剣と大工仕事なんてなんの関係もないじゃないか』と。
      すると親父は、『そうか? 俺はどちらもそう大して違わないように思うがな』とだけ言って、
      それ以上は聞いても何も答えてくれなかった」
ヴォルツ (適当ぶっこいただけなんじゃねえのか、それ)
アイク  「修行に専心するあまり、そのことをすっかり忘れていた。
      俺は未だにあのときの店長の言葉を理解できていないというのに、
      『俺もかなり強くなったな』と心のどこかで慢心してしまっていた……
      そんな俺に、あんたのような真の漢に挑む資格はなかったということか」
ヴォルツ 「ま、まあ、そういうこと」
アイク  「ひろし!」
ヴォルツ 「お、おう!?」
アイク  「俺はまた、明日から修行をやり直す! 今度こそ、あの日の店長の言葉の意味をつかんでみせる……!
      そしたら、今度こそ、俺と勝負してくれ。頼む」
ヴォルツ 「い、いや、別に頭下げる必要は……」
イドゥン 「ヴォルツさん……」
ヴォルツ 「!! ま、まあ、そうだな。お前が真の漢になったとき……そのときは、俺も剣を抜いてやるよ」
アイク  「すまん。次に会うときは、もう少しマシな姿を見せると約束しよう」
ヴォルツ 「おう。……おっと、急用を思い出したぜ! じゃあ、またな!」
アイク  「ああ、また会おう」
イドゥン 「ヴォルツさん、今日はありがとうございました。
      そばで聞いていたわたしにも、あなたのお話は深い感銘を与えてくださいました」
ヴォルツ 「そ、そうかい?」
イドゥン 「わたしも、今日教わったことを胸に刻んで、勇気を持てるように頑張りたいです。
      そのときは、わたしも世界を巡る旅に連れて行ってください」
ヴォルツ 「(いや、もう年だから紋章町離れる気ねえんだが……)
       お、おう。任しとけ。俺ほど素晴らしい案内人はいねえよ」
イドゥン 「はい。この世界ひろしと言えども」
ヴォルツ 「……あばよ!」

 逃げるように走り去るヴォルツの背中が、アイクとイドゥンにはとても大きく見えたのであった。

イドゥン 「……ということがありまして」
エフラム 「凄い……! なんて凄い男なんだ、世界ひろし!」
ヘクトル 「さすがひろしだぜ! 世界ひろしといえども、あいつに勝てる男はいねえ!」
アイク  「ああ、そうだな。親父や漆黒の騎士にも話してやろう」
シグルド 「素晴らしい人物なのだな、ひろし殿は。取引先の方との会話の種がまた一つ増えたようだ」
エリンシア「まあまあ、そんな素晴らしい方に家庭教師をしてもらっているなんて。近所の奥様方に自慢しなくてはね」
イドゥン (わたしも、家に帰ったらミルラたちに話してあげましょう)

リーフ  「……誰も治療してくれない……あー、特効薬うめぇ……」

343 名前: イドゥンとアイクと世界ひろし [sage] 投稿日: 2008/06/08(日) 21:54:35 ID:Z9+Fg3JS
 ~で、数日後、『BAR 年齢不詳』にて~

 カランカラン♪

デュー  「いらっしゃーい」
ヴォルツ 「おう……相変わらず年齢不詳だな、マスター」
デュー  「それは言いっこなしだって! いつものやつでいい?」
ヴォルツ 「頼むわ」
ベオウルフ「ようヴォルツ、久しぶりじゃねえか」
ヴォルツ 「ん……ベオウルフか。景気はどうだ?」
ベオウルフ「ぼちぼちだな。あんたは?」
ヴォルツ 「最悪だぜ。ちっと面倒ごとに巻き込まれちまってな。ここ数日外出てねえ」
ベオウルフ「オイオイ、その年で引きこもりかよ……まああんたは稼ぎがいいから、しばらく働かなくても大丈夫だろうが」
ヴォルツ 「まあな。俺ほど貯蓄のある派遣はいねえよ。たとえ、この世界ひろしといえどもな」
ベオウルフ「あ、その口癖で思い出したぜ」
ヴォルツ 「なにをだ?」
ベオウルフ「最近、この町が世界ひろしって野郎の話題で持ちきりなんだよ」
ヴォルツ 「!! そ、そうなのか……」
ベオウルフ「おう。あのグレイル工務店の人間天災、アイクを1秒もかからず指一本でぶっ倒したってんでな」
ヴォルツ 「んなことしてねぇよ!」
ベオウルフ「は?」
ヴォルツ 「あ、いや、なんでもねえ……そ、それだけか?」
ベオウルフ「しかも、たまたまそれを見てた竜王家のご息女がそのひろしって奴に心奪われた、とかでな。
      その上そいつが俺らと同じ派遣だったってんでさあ大変、
      そんな不安定な職の奴に大事な孫娘をやるわけにはいかんって、メディウスガトーデギンハンザーの
      竜王家三長老が珍しく意気投合してるらしくてよ。
      ここ数日、以前とは比べ物にならねえぐれえ、竜族を見る機会が増えてるぜ」
ヴォルツ 「ほ、ほぉ……」
ベオウルフ「その凄まじい強さを聞いたゼフィール署長が、是非とも部下にしたいって探し回らせてるとか、
      黒い牙の兄弟も負けじと一家に引き入れようとしてるとか、漆黒の騎士が手合わせしたがってるとか
      剣魔モードのカレルさんが久々の宴の雰囲気にwktkしてるとか
      あのラナオウ様が最強の座を奪われたと大変ご立腹だとか、そんなんも聞いたな」
デュー  「でも噂が大きくなりすぎて、そのひろしってのがどんな奴なんだかは分からないんだってさ」
ベオウルフ「まあな。大体ひろしってのだって、偽名に決まって」
ヴォルツ 「ベオウルフ!」
ベオウルフ「な、なんだ急に!?」
ヴォルツ 「俺は旅に出る!」
ベオウルフ「は? いや、あんたもう年だから放浪は止めてこの町に落ち着くって」
ヴォルツ 「馬鹿野郎、男の旅ってのはなあ、一生賭けても終わらねえもんなんだよ!
      野垂れ死に上等、それが男のロマンってもんだろうが!」
ベオウルフ「……へッ、あの頃のあんたに戻ったってわけか」
ヴォルツ 「フッ、まあな。俺に勝てる奴はいねえよ。この世界ひろしと言えどもな……
      じゃ、急ぐんでこれで。あ、マスター、(メモ紙に走り書きして)
      この手紙、例の兄弟の家に届けといてくれや」
デュー  「あいよ。またねー」

 ~兄弟家~

エフラム 「……ひろし、行ってしまったのか……」
ヘクトル 「『ひろい世界が俺を呼んでいる』だってよ」
アイク  「さすが世界ひろし。その心意気は紋章町に留まらないということか。俺も精進せねば」

344 名前: イドゥンとアイクと世界ひろし [sage] 投稿日: 2008/06/08(日) 21:56:17 ID:Z9+Fg3JS
 ~竜王家~

デギンハンザー「……あー、イドゥンよ」
イドゥン 「はい、お爺様」
デギンハンザー「あの兄弟の家から、世界ひろしというのが旅に出たと連絡があった」
イドゥン 「そうですか」
デギンハンザー「驚かぬのだな」
イドゥン 「ひろい世界を旅してきた人ですから。一所に留まってはいられないお心をお持ちなのでしょう」
デギンハンザー「そうか。ならば、納得しているのだな?」
イドゥン 「私などが、あの方をお引止めすることはできませんから」
デギンハンザー「そうか。ならば安心」
イドゥン 「ですから、今度は私が会いに行きます。ひろい世界を旅するあの人の目に、
      いつの日か、私の翼を映してみたいのです」
デギンハンザー「……そうか」

メディウス「どど、どうじゃった!?」
デギンハンザー「……ガトー、国際警察機構に連絡を取ってくれ。世界ひろしを全世界に向けて指名手配する」
ガトー  「了解した」
クルトナーガ「……ジジ馬鹿もいい加減にしてください、父上……」

イドゥン (……ヴォルツさん。またいつか、お会いしましょう)

 自室の小さな窓から空を見上げるイドゥンの目には、昨日までにはない輝きがあったそうである。

 なお、この「世界ひろし」なる人物は、噂が膨れ上がる内に
 そのあまりの荒唐無稽さ故に「実在しないのではないか」と囁かれるようになり、
 アイクやイドゥンといった当事者たちが「彼の旅の邪魔になってはいけない」と口を噤んだこともあって、
 いつしか紋章町にありがちな都市伝説の一つとして、子供にすら笑い飛ばされるようになったそうな。

 ~ちなみにその頃のひろし~

ヴォルツ 「……」
ソフィーヤ「……イグレーヌさん、遭難者発見です」
イグレーヌ「そう。……紋章町の人ね。旅行者、にしてはずいぶん軽装みたいだけど」
ソフィーヤ「……慌てて出てきたような格好ですね」
イグレーヌ「旅慣れた人なのかも。それで油断したんだわ、きっと」
ホークアイ「ナバタの砂漠は、時に旅慣れた人間をも飲み込んでしまうからな」
イグレーヌ「そうね、お父さん。それじゃあソフィーヤ、ナバタレスキュー隊の仕事をするとしましょう」
ソフィーヤ「はい。この人の親しい方のところへ、この人を送り返します……ワープ」

デュー  「……」
ベオウルフ「……」
ヴォルツ 「……」
デュー  「……営業中の店のカウンター内に、どうしてヴォルツさんがいるのか訊ねたいところではあるんだけど」
ベオウルフ「……とりあえず、お帰りだ」
ヴォルツ 「……ただいま」

 終われ。