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Last-modified: 2009-01-06 (火) 22:50:56

133 名前: いつまでも [sage] 投稿日: 2008/11/20(木) 16:47:18 ID:FqLayJMB
紋章町一の大きさを誇る竜王家。
その庭はちょっとした草原並みに広く、建物はいつから存在しているかも定かではないほど歴史のあるものだ。
今、その広大な竜王家の前に、青い髪の少女が立っていた。少女は家を見つめ、少し間をおいてから呼び鈴を鳴らす。

リーンゴーン

「はいはーい!」
エイリーク「こんにちは。こちらに私の兄…エフラムは来ていませんか?」
「エフラム?ああ、あいつならさっきチビたちと一緒に出かけたよ。」
エイリーク「そうですか。では……。」
エフラムがいないことを知り、エイリークは引き返そうとする。が、呼び鈴に応答した声の主があわててそれを止めた。
「ちょっと待った!多分もうすぐ帰ってくると思うから、上がって待ってなよ!」
エイリーク「ですが……。」
「いいって、いいって!じゃ、門開けるからな!」
声が途切れ、門がゆっくりと開いた。
エイリーク「…おじゃまします。」
エイリークは門の内側へ遠慮がちに足を踏み入れた。

エイリーク(……なぜでしょう。なんだか…落ち着きません。)
歩きながら竜王家の庭に生える多彩な植物を見て、エイリークは思った。彼女は何度もこの家を訪れたことがある。
彼女の家、主人公家と竜王家はなぜか縁が深く、交流も盛んだからだ。
しかし最近、エイリークはこの家に来ると妙なざわつきを覚えるのだった。
エイリーク(以前までは、こんなことはなかったのに……。)
そんなことを考えながら庭を歩いていると、ふと、視界に青い髪の男性が飛び込んできた。
エイリーク(あれは………兄上!?)
竜王家の玄関に立っていた青い髪の男性は、こちらを見て笑っているエフラム―――――
少なくとも、彼女にはそう見えた。
エイリーク「兄上!出かけていたのでは―――――」
エイリークがそう叫びながら兄に近づこうとした瞬間、
「お、おいおい!どうしたんだよ!」
エイリーク「え?」
その言葉をきっかけに、彼女の見ていた兄の像は瞬く間に消え、後には全く別の少年の姿だけが残った。
アル「エフラムならまだ戻ってないぜ?さっき言っただろ?」
エイリーク「あ………。」
アル「まあいいや。お前、ロイのねーちゃんのエイリークだろ?さ、上がってくれよ。俺一人で退屈だったんだ!」
玄関に立っていたのは、エフラムではなく竜王家の一員、アルだった。エイリークは、彼を兄と見間違えたのだ。
嬉しそうに自分を家の中へと導くアルの姿を見ながら、彼女は呆然とした。
エイリーク(私は…どうして……。)

134 名前: いつまでも [sage] 投稿日: 2008/11/20(木) 16:49:52 ID:FqLayJMB
エイリークはアルの案内で竜王家の居間へと通された。
もっとも、居間とはいっても主人公家のそれとは比べ物にならないほど広く、
竜王家の全員が一緒に食事を取れるように巨大な長テーブルまで用意されているので、
どちらかというとパーティー会場のようにすら見えてしまうのだが。
アル「ほら、適当に座ってよ。」
エイリーク「はい。」
エイリークは長テーブルの端に座る。アルはその向かい側に座り、目を輝かせながらエイリークに話しかける。
アル「ところでさ、なんでエフラムを迎えに来たんだ?」
エイリークは少し困ったような顔をして答える。
エイリーク「今日は家庭教師の方が来る日だったのに、兄上はそれをすっかり忘れてどこかへ行ってしまったようなので…。
      もしかしたらここではないかと思って。」
アル「あいつ、家庭教師に勉強を教わってんのか。すっげーな!
   俺なんて、ちょっと文字を見ただけで頭痛くなるのに。」
エイリーク「そ、そうですか。(まるでバアトルさんのようですね……。)」
アル「なあなあ、エイリークとエフラムって、めちゃめちゃ似てるよな!」
エイリーク「ええ。私と兄上は双子ですからね。」
アル「へー、ユリアねえちゃんとユリウス兄貴とおんなじか。どうりで似てるわけだ!
   でも、ロイとは全然似てないよなー。ホントに弟なのか?」
エイリーク「ふふ。よく言われます。でも、ロイは正真正銘私の弟ですよ。」
ロイだってエフラムと同じ自分の兄弟なのに、やっぱりそんなに似てないのかしら、
と思うと、エイリークは少しだけおかしい気持ちになり、思わず笑みを見せた。
アル「おっ、笑った。」
エイリーク「え?」
アル「いや、さっきからなんか辛そうな顔していたからさ。なにかあったのかなって思って……。
   でも、やっと笑ってくれてから、なんかほっとしたよ。」
エイリークは驚いて、目をぱちくりさせた。自分がそんな顔をしていることに、全く気づいてなかったのだ。
エイリーク「私……そんなに辛そうな顔をしていましたか?」
アル「ああ。なんだ、自分で気づいてなかったのかよ?なんかこう…すっごく額にしわが寄っていたぜ?」
エイリーク「そう……ですか。」
エイリークは少し黙ってうつむいた。自分が兄とこの少年を間違えたことを、見透かされたような気分になった。
アル「な、なんだよ。また元気なくしちゃって……。俺、なんか悪いこと言った?」
エイリーク「いえ、違うのです…。」
エイリークはまた押し黙った。そして、意を決したかのようにアルをまっすぐ見つめ、口を開いた。
エイリーク「あの、アルさん……。」
アル「アルでいいよ。」
エイリーク「はい。では、アル……。少し…私の話を聞いてもらえますか?」
アル「いいぜ。」
エイリークはその言葉を聞き、少しだけ微笑んだ。そして静かに息を吸って、話し始めた。

135 名前: いつまでも [sage] 投稿日: 2008/11/20(木) 16:51:49 ID:FqLayJMB
エイリーク「私は……怖いのです。」
アル「怖い?何が?」
エイリーク「私は、生まれたときから兄上…エフラム兄上とずっと一緒に育ってきました。私たちは双子でしたから、容姿も、考え方も、武術の型すらも、似ていました。」
アル「そうだな。ユリアねえちゃんとユリウス兄貴も、時々びっくりするくらい表情が似ているもんなあ。」
エイリーク「私たちは二人で一人……私はずっとそう信じ続けてきました。…ですが、最近気づいてしまったのです。
      私たちの道は……遠くない未来に、必ず分かれてしまうことに………。」
アル「………。」
エイリーク「私とエフラム兄上だけではありません。家族みんな……ミカヤ姉上、シグルド兄上……ロイだってそうです。みんな……今は一緒にいられます。
      でも、いつか必ず、別々の道を歩むことになるんです。」
アル「別々の道、か……。」
エイリーク「私は……怖いのです。そのときが来たら、一体私には何が残るのでしょう?兄上たちのいない、一人の“私”として、一体何が出来るのでしょう?
      それを思うと、私は自分がひどく小さな人間に思えて…………。」
エイリークはそこまで話して再びうつむいた。そうだ。さっきこの家に入ったときに感じていた心細さは、広い世界に一人で投げ出されることへの不安だったのだ。
アルをエフラムと見間違えたのもきっと……。話しているうちにそう気づいて、エイリークの体に思わず力が入る。
エイリーク「すみません。こんな話をして……。」
アル「一人じゃないぜ。」
エイリーク「えっ?」
不意にアルが発した言葉に驚き、エイリークは思わずアルを凝視する。アルは優しく、力強い表情をしていた。
アル「大丈夫だよ。もし、みんなが別々の道を進んでも…それで終わりじゃない。みんな、どこかで必ずつながってる。」
エイリーク「どこかで…つながってる?」
アル「ああ。家族って、そんなもんさ。だから、エイリークは一人じゃない。いつまでも、みんなと一緒だ。」
エイリーク「ですが……。」
アル「聞いてくれよ。俺なんて、つい最近までこの家の一員じゃなかったんだぜ?」
エイリーク「そうなのですか……!?」
アルは空を見つめ、何かを思い出しているようだった。
アル「それどころか、自分が化身できることだって知らなかった。でも、この家の、みんなはそんな俺でも受け入れてくれて、すごく優しくしてくれたんだ。」
エイリーク「…竜王家の方々は、みなとても強く優しい人々ばかりですからね。」
アル「ああ。こんな俺でも、みんなとの…家族との絆ってやつを感じてるんだ。
   だからさエイリーク、お前とお前の家族の間にはもっともっと強い絆があると思う。そんな硬いつながりが、簡単になくなるはずないよ!」
エイリーク「家族の……絆……。」
アル「思い出してみなよ。自分の家族のこと。」
エイリーク「………はい。」

136 名前: いつまでも [sage] 投稿日: 2008/11/20(木) 16:56:45 ID:FqLayJMB
エイリークは目を閉じて、自分の家族…主人公家の人々のことを思い出してみた。
いつもみんなへの心配りを忘れない、強い心を持ったミカヤ。一家の大黒柱として頑張る、優しいシグルド。大きな体に優しい心を持った、頼れるアイク。
一人で家事をこなし、みんなを影から支えるエリンシア。優しくて真面目な、家族思いのエリウッド。口調は荒いが根は優しい、不器用なヘクトル。
自然を愛し、明るく活発なリン。イタズラもするけれど、本当は一番家族のことを考えているマルス。セリカを大事に思い、しっかりと守ってあげているアルム。
神の教えを重んじる、芯の強いセリカ。穏やかな性格で、みんなから慕われるセリス。とても器用で、なんでもこなせるリーフ。末っ子なのにしっかりしていて、たくさんの友達を持つロイ。
そして、厳しさの中に優しさを持つ、自慢の兄エフラム……。
離れていても次々にみんなのことが頭に浮かんでくる。こうしてみんなのことを考えているだけで、エイリークの中に暖かい気持ちがあふれ、恐怖を溶かしていく。
そこには、確かにみんながいた。そして、双子の片割れとしての自分、15人の家族のうちの一人としての自分も。
エイリーク(私は……私たちは、一人じゃない。いつまでも…こうして、心の中でつながっている……。)
アル「エイリーク、大丈夫か?泣いてるのか?」
アルの呼びかけで、エイリークは目を開ける。
エイリーク「……大丈夫です。ありがとうございます。」
エイリークは目に少しだけ溜まっていた涙をぬぐって、アルに笑顔で答える。
エイリーク「アル、本当にありがとうございました。あなたに話して……良かったです。」
アル「…なんか照れるなあ。でも、良かった。お前、今すっごくいい笑顔してるぞ!」
エイリーク「本当ですか?」
アル「ああ!なんか、俺まで楽しくなってきちゃったよ。ははは!」
エイリーク「……ふふ。」
アルに話したおかげで心が軽くなったせいか、なぜだか無性におかしくなって二人で笑っていると、

リーンゴーン

アル「あ、エフラムたちが帰ってきたみたいだ!」
エイリーク「兄上が……!」
アル「ああ。さてと…。」
アルは立ち上がって、エイリークに笑いかける。
アル「一緒に迎えにいくか!」
エイリークは顔を輝かせ、明るい声で答える。
エイリーク「……はい!」

エイリークには、もう何も怖いものはなかった。
たとえ一人で暗闇に投げ出されても、いつまでもみんなが側にいてくれるのだから。