16-299

Last-modified: 2011-06-07 (火) 23:32:00

299 :緊急事態の対処法:2008/12/31(水) 16:28:00 ID:nFokCIZD
リンとマルスが好きすぎて初投下。
過去ログ全部読んでないので、似たような話あったりしたらスミマセンorz
なんとか年内に投下したかったんだ…

その日の家の中は、とても静かだった。
年末年始、せわしなく回る世間とは全く違う世界に存在しているかのようだ。
扉の蝶番が悲鳴をあげ、冷えた床に足指の先が怯えている。
今まで何とも思わなかった出来事をひとつひとつ辿り、マルスは居間へと向かった。
「遅かったわね」
長い緑色の髪を靡かせ、振り向く姉。
普段ならすかさず悪態をつくところだが、弟は黙って着席した。
異常なまでに静か、というよりも、この家が静かということ自体異常事態だ。
だからきっとその異常な空気にあてられたのだろう。少し冷めてしまった朝食に手を伸ばしながら、
「妙に静かだけど、皆は?」
と訊ねた。
「買い物に出かけたみたい。セールだ福袋だって忙しい時期だもの」
「せっかくの機会なんだから、一緒に行けばよかったのに。
 新しい服が欲しいとか言ってなかったっけ」

300 :緊急事態の対処法:2008/12/31(水) 16:29:01 ID:nFokCIZD
少々の間があって、リンはマルスの真正面、そこからすこし右にずれた場所に座った。
温かいお茶が食器の横に並ぶ。湯気と息が白く混じるのを見て、漸く暖房のついていないことに気が付いた。
「姉さん達が適当に見繕ってくれるわよ」
皆大急ぎで出て行ったのだろう。年越しくらいきれいな部屋で、と全員で丸一日かけて片付けた居間は、
既に強盗にでも入られたかのような惨状だ。
マルスは今朝の献立をとても簡素なものだと感じたが、これはもしかしたら普段通りのメニューかもしれない。
寒い朝、二人きりの静まり返った家で、冷えたご飯を食べて、美味しく感じるはずもない。
「そういうあんたこそ、どうして行かないのよ」
「一人でのんびりしたいと思ったんだよ。よりによって、一番邪魔なのが残っちゃったけど」
「そうよね、ごめん」

最低でもビンタ一発、最悪暴力フルコースをお見舞いされると思っていたマルスは、
思いがけないリンの言葉に、米粒が喉へと引っかかり、大きく咳き込んだ。
無論、本当に引っかかったわけではなく、驚きのあまり飲み込むのを忘れてしまっただけではあるが。
やはり彼女も異常な空気に呑まれたのだろうか。随分と細い、女々しい声だった。
「何かあったの、…冬太りなら気にすることないよ、野生の獣は冬になると脂肪を溜め込むのが常だからさ」
まだ半分ほどご飯が残った茶碗を置いて、不安げに顔を上げる。
心なしか沈んだ表情を歪ませて、リンは苦笑してみせた。
「なんでもないの。ちょっと調子が悪いだけよ。
 あーあ、あんたなんか放っといて一緒に出かければよかったなー…」
以降二人は暫く口をつぐみ、
一刻も早く家族が戻り、重たい沈黙を誰かが破ってくれるのを、じっと願っていた。

301 :緊急事態の対処法:2008/12/31(水) 16:29:43 ID:nFokCIZD

「今年もいっぱい買いましたわー! 大家族だと"お一人様制限"なんて無いに等しいのが利点ですわね」
「買ってもすぐ消費するから、得にはならないけどね。プラスマイナスゼロハッハー」
陽が空の中心まで昇った頃、いつもの喧騒が帰ってきた。
どれ程の時間沈黙に押し潰されていたのか、時計を見る余裕もなかった二人にはわからない。
「騎士様やサザにも協力してもらったから、ギリギリプラスになると思うわ」
「サザさんはともかく、あんな鎧でレジに並ぶのは罰ゲームだよ…
 あれ? 暖房もつけずに何やってるの、って言うかどっか出かけてると思ってた」
器用に足で開けられた扉の向こうから、ぎゅうぎゅうの紙袋を両手いっぱいに抱えて、ロイを始めとした兄弟達が顔を出す。
「部屋が荒れてるな、また例の姉弟ゲンカかー?」
「ヘクトル、あの棚は君がひっくり返したんだよ。あっちの机はエフラムだ、あれはアイク。
 そしてその後始末はみんな僕がやるのさ…ふ、ふふふふふ」
「私も、いえ皆できちんと片付けますから、渇いた笑みを浮かべないでください」
マルスは慌ててぬるいお茶と茶碗の中のご飯を一気に口へ詰め込み、空になった食器を流し台へぶち込んだ。
大分古くなったストーブにライターで火を点けて、シグルドが笑う。
「灯油を買うお金くらいはあるんだ、変な気を使う必要はないぞ」

302 :緊急事態の対処法:2008/12/31(水) 16:32:43 ID:nFokCIZD
女性陣と、違和感なく溶け込むセリスが紙袋の中身を引きずり出す。
おちついた色合いのコート、ふわふわのスカートや暖かそうなニットの帽子。
シーツやカーテン、調理用具など、多種多様な品物が次から次へと奇術のように現れる。
「この青い手袋はアルムのよ。ほら、わたしとお揃い」
奇術師の気味の悪い仮面のような形相をしたシグルドはさておき、床一面に広げられた戦利品を
皆が思い思いに手に取る。自分の趣味に合わないものも、他の兄弟にはぴったり合うことが多いので、
値段のみを見て適当に商品を購入しても、後々悔やむことはまずない。
全面に手槍マークが印刷されたシャツを片手に、エフラムがマルスに訊ねた。
「おまえ、頑なに外出を拒んだと思ったら、結局昼近くまで寝ていただけか?
 体調崩したなら早めに、誰にでもいいから教えるんだぞ」
「わかってるよ。それよりリン姉さんが--…」
いつもの通りからかおうとしたが、やめた。
視線の先で、ほんの数分前まできつく口を閉じていた姉が、これが似合う、かわいいと楽しそうに笑っている。
不愉快である、が、それ以上に自分の言動に虚しさを覚えていた。
「姉さんがどうかしたの?」
きょとんとした顔で尚問いつめようとするリーフを、ロイはそっとたしなめる。
「どうせ何もしなくてもあとで酷いとばっちり喰らうんだから、
 兄さんは下手な詮索とかしない方が延命になると思うな」
「あ、うん…何年経ってもオチ読めなくてごめんね、ハハハ…」

今回はここまで。緊張で手がふるえる(´・ω・`)
きっと長くても3回くらいで終わるはず。