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Last-modified: 2010-06-18 (金) 23:32:08

342 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:31:18 ID:eB3jVK76
最終話 宴のあとに残されたものは(前編)

ティニー 「セティ様・・・わたし、セティ様のことを、お慕いしております」
セティ  「ほ、本当か!?」
ティニー 「はい・・・ですから・・・わたしの全てを・・・あなたに、捧げます」
セティ  「ティニー・・・」

―そうして私達は手を握り、見つめあい、1つになってゆく・・・。

セティ  「ううん、ティニー・・・そんなとこさわっちゃらめ~」
フュリー 「・・・」
セティ  「うふふふ・・・ティニーはかわいいな、私の宝物ら」
フュリー 「・・・・・・」
セティ  「あれ、ティニー、そんなに胸大きかったっけ?
      でも、かまわないぞ、ティニーの胸なら私はだいす」
フュリー 「いい加減にしなさーーーーーい!!」
セティ  「ぐはぁ!!」

―頭部に強い衝撃が走り、目の前のティニーが消え、代わりに拳を握り締めた緑髪の女性が現れた・・・。

セティ  「あ、あれ、ティニーは?」
フュリー 「まったくもう・・・」

―辺りを見回すと、そこはフュリーさんのアパートだった。

セティ  「あれ、どうして、ここに?」
フュリー 「昨夜のこと覚えてないの?」

―あ、そういえば、竜王家への賠償金の処理が大体片付いたこともあり、昨夜は飲んだくれたのだ。
涙目グリーンに始まり、色々ハシゴをして、最後はクレインと自棄酒、そして例のごとく酔いつぶれたのだった。

セティ  「フュリーさんが、潰れた私をここまで運んでくれたのですね」
フュリー 「ええ、夜も遅かったし、あなたのお屋敷まではちょっと距離があったから、
      とりあえず、私の部屋で寝かせたのよ」
セティ  「す、すいません・・・」
フュリー 「夢の中で女の子口説いてるんだから、やっぱりあなたもあの人の弟ね・・・」
セティ  「ちがいます、あらゆる意味で違います」

―私はティニーの手すら握ったことがないんです(涙)

フュリー 「そんなことよりも、大丈夫?昨夜も相当飲んでいたでしょ。
      まだ未成年なんだし、あまりにも体に悪いわよ」
セティ  「うう、でも、つい・・・」
フュリー 「仕事が辛いのね」
セティ  「仕事だけじゃありませんが、まあ、色々とありまして・・・」
フュリー 「それで自棄になって飲んじゃう、と」
セティ  「はい・・・」
フュリー 「ふう・・・セティ・・・」

―フュリーさんは、私の肩と頭に両腕を添えると、そのまま自分の下に引き寄せ、抱きしめてくれた。

フュリー 「辛いことがあったら、お酒に逃げる前に、まずは私のところに来るの、いい?」
セティ  「いや、でも、これ以上ご迷惑をおかけするわけには・・・」
フュリー 「私たち、家族じゃないの?」
セティ  「いや、でも・・・」
フュリー 「わかった?」
セティ  「はい・・・」
フュリー 「ふふふ、いい子ね・・・」

―そういって、頭をなでてくれた。この優しさに何度救われたことか・・・。

343 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:32:05 ID:eB3jVK76
セティ  「・・・あの・・・」

―さて、こうして安らぎを得たことだし、目覚めてから目に付いて仕方のなかった「モノ」について、疑問を解決しよう。

フュリー 「・・・どうしたの?」
セティ  「ひとつ、伺ってもよろしいですか?」
フュリー 「なあに?」
セティ  「それ・・・何ですか?」

―私が指差した「モノ」、それは一言で言えば「人間の干物」だった。
人間からありとあらゆる水分を抜かない限り、ああはならない。
大人か子供か、男か女か、元がどんな人間だったかは、そのモノの外見からは全く見当がつかない。
ただ、そのモノの頭と首にまかれたターバンとマフラーは、あきらかに見覚えのあるものだった。

フュリー 「ああ、あれね。ふふふ・・・お察しの通りよ」
セティ  「つまり・・・兄上?」

―いくら風の王子とはいえ、乾燥しすぎでしょう。

フュリー 「ふふふふふふ・・・。
      聞いたわよ、去年の暮れに、竜王家のお嬢さんをナンパしたんですってね・・・」

―先ほど私を抱きしめてくれた、母性溢れる表情は消えていた。

フュリー 「姉様やシルヴィアくらいだったら、まあ、私も我慢するんですけど・・・」

―実際、マーニャさんとは3人で楽しもうとしてましたよね・・・。

フュリー 「いくらなんでもそれ以上は許せないというか、
      ハーレムも3人が限界というか、
      しかもそれでセティにまで苦労をかけるのなら、
      もうこれは見過ごせないというか・・・」
セティ  「さ、3人まではいいんですか?」
フュリー 「そのラインについてはあきらめたわ」

―テ、ティニーもそんな感じなのだろうか?

フュリー 「だから、シルヴィアがお仕置きしてたのに、私と姉様も混ぜてもらったのよ」

―兄上をシルヴィアさんに引き渡したあの後、そんな惨劇が・・・。

フュリー 「いつもなら謝れば許すんですけど、今回は徹底して痛めつけたから、
      少しは懲りると思うわよ・・・ふふ、ふふふふふふ・・・」

―怖!やっぱり、この人には逆らわないようにしよう・・・。

セティ  「ええっと、その、元に戻してもらえませんか、
      ちょっと話したいこともありますし」

―自分でこういったが、あれ、元に戻るの?っていうか、生きてるの?

フュリー 「ちょっと待っていなさい」

―そう言って、フュリーさんは兄上の干物をつかむと、バスルームに行き、干物を湯船に放り込んだ。
しばらくすると・・・

レヴィン 「ぷはーーーーー、し、死ぬかと思った」
セティ  「生きてたんかい」

―さ、さすがは一度死んで生き返った男・・・。

344 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:32:42 ID:eB3jVK76
レヴィン 「フュリー、俺はインスタント食品じゃないんだぜ」
フュリー 「知りません、あれほども浮気はしないといいながら、
      竜王家のお嬢様をホテルに連れ込んで・・・」
レヴィン 「だから、あれは、食事しただけだって」
フュリー 「スイートルームの鍵まで用意していたくせに・・・」
レヴィン 「うぐ・・・」
フュリー 「それに、あなたのせいで、セティに多大な負担がかかっているのですよ、
      少しはそういったことも考えてください」
セティ  「そうだ、そうだ、もっと言え!!」

―なんだかんだで我々兄弟は彼女に頭が上がらない。だから、こうして弾劾しているときは、一方的になる。

レヴィン 「はいはい、わかったわかった、もうしないから」
フュリー 「どうだか・・・」
レヴィン 「信用ねえなぁ、俺」
セティ  「そんなことよりも兄上、
      あなたのせいで、我々は多額の賠償金を竜王家に支払うことになりました」
レヴィン 「ああ、それは聞いた。なんだ、払えないのか?」
セティ  「いえ、それについては支払いも、会計の修正もすべて終わりました」
レヴィン 「なんだ、もう終わってるのか。
      いやあ、お前は本当に優秀だなあ・・・俺が仕事しなくてもいいんじゃ・・・」
フュリー 「ジロリ」
レヴィン 「え、あ、その、で、何か問題あるのか?」
セティ  「叔父上達への弁解が、まだ・・・」
レヴィン 「ダッカーとマイオスか・・・」

―その名前を聞いて、さすがの兄上も少々顔が真面目になる。
ダッカーとマイオス・・・先代当主の弟で、我々の叔父にあたる2人だ。
以前より、兄上が家督を継いだことを不満に思い、
何かにつけては、我々をシレジアから追い出して、我が物にしようと画策している。
今回の賠償問題はまさにうってつけの機会なのだが、なぜか向こうから動きはない。

フュリー 「そのことについては、先ほどホークさんがこんなものを置いていったわよ」
セティ  「ホークが?」

―フュリーさんがテーブルの上に置いたもの、それは、招待状だった。

レヴィン 「俺たち兄弟あてか・・・何々・・・
      1月×日、午後7時より、新年を祝う会を催しますので、
      ぜひご参加下さい・・・だとよ。
      ×日って、今日じゃないか」
セティ  「めずらしいですね、叔父上たちが我々を招待するなどと・・・」
レヴィン 「あのオッサンたちのことだ、俺たちをつるし上げようって魂胆だろ。
      ああやだやだ、こんなんだから、俺は吟遊詩人のほうが性にあってるんだよ」
セティ  「違います、あなたのそれはただの遊び好きです」
フュリー 「家督争いが嫌なだけなら、浮気する必要はないですしね」
レヴィン 「お前らなあ・・・」
セティ  「いずれにせよ、これは今日の19時までに対策を立てなければいけませんね。
      今、6時だからあと13時間、やれるだけのことはやりましょう」
レヴィン 「面倒くさい、俺パス~~~」
フュリー 「レヴィン様、この剣が目に入りませんか?」

―第3話冒頭でシルヴィアさんが見せたレヴィンキラー(仮)だ・・・。

レヴィン 「げ!!それ、この間のお仕置きで使い切ったはずじゃ・・・」
フュリー 「スペアたくさんあるらしくて、一本頂いてきました。
      私、姉様、シルヴィア、それぞれが所持していますのでお忘れなく」
レヴィン 「セ、セティ、お、お兄ちゃんも仕事したくなったな~」
セティ  「では、急ぎましょう。フュリーさん、ご迷惑をおかけしました」
フュリー 「屋敷まで送るわ」

345 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:33:24 ID:eB3jVK76
―フュリーさんの天馬で屋敷にもどった我々は、部屋にこもり、対策を練った。
賠償金についての報告、説明はもとより、
ありとあらゆる質問や、責任追求に対する回答と対策をつくり、それを頭に叩き込んだ。
フュリーさんのお叱りが効いたのか、兄上が協力的で、かなりスムーズに進んだのは幸いだった。
17時を回るころには、一通りの対策を立てることができたのだ。

セティ  「ふう・・・とりあえずはこれでいいでしょう。
      パーティーですからそんなに本格的にはしないでしょうし」
レヴィン 「うう~~もう嫌だ、これで今年は一切仕事したくねえ・・・」
セティ  「何言っているんですか、さあ、そろそろ支度しましょう」

―我々はそれぞれの部屋に戻ると、パーティ用の正装に着替え、玄関へ向かった。

フィー  「お兄ちゃん達、見て見て」

―玄関ではすでに母上とフィーが支度を済ませていた。
フィーもパーティ用のドレスアップ姿だ。
普段元気な姿しか見ないが、こうしてドレスアップすると、随分大人っぽく見える。

セティ  「素敵だよ、もう一人前のレディだな」
レヴィン 「ああ、これなら男もほっとかないぜ。
      お前、パーティで変な男に引っかかるんじゃないぞ」
フィー  「えへへ~~」
ラーナ  「ふふふふふ、家族揃ってパーティなんて、久しぶりね」
セティ  「母上、今日は絶対に失言は控えてください」
ラーナ  「はい・・・」
レヴィン 「おい、セティ、魔道書はどうする?」

―母上やフィーに聞こえないよう、小声で兄上が言った。

セティ  「どうせ会場は武器持ち込み禁止ですから、置いていきましょう」
レヴィン 「でも敵陣真っ只中だぜ」
セティ  「今日のパーティには各地区の名士が参加します、
      そんな場所で手荒な真似をするはずもないでしょう」

―大体、今回はこちらに賠償金という「非」があるのだ。
伯父上達も、その非をついて、我々の責任を追及するほうがよっぽど得のはず、
わざわざ手荒な真似をする理由がない。

レヴィン 「なんか、心配だな・・・」
セティ  「その辺はホークたちに任せましょう。
      そういうことでホーク、後は頼んだぞ」
ホーク  「お任せ下さい」
セティ  「それでは出発しましょう」

―我々4人は、会場へと向かった。
場所はエレブグランドホテルのアネックス(別館)だ。
エレブグランドホテルは、紋章町屈指の高級ホテルで、その名の通りエレブ区にあるのだが、
シレジアにパーティ会場を別館として持っており、伯父上達は新年になると、パーティをそこで催している。
去年まで我々4人は呼ばれていなかったため、今回がはじめての参加となる。

レヴィン 「へえ~ここがアネックスか・・・はじめてきたな」
セティ  「私は何回か来たことがあります」
フィー  「うわ~、すご~い」
ラーナ  「さすが紋章町で最高のホテルが経営してるだけはありますね。」

―30分後、我々は会場に到着した。
歴史的建造物をおもわせる見事な外装はいつ見ても圧倒される。
4階建てで1階と2階をあわせて大ホールとなっており、3階は小ホール、4階は休憩室になっているはずだ。
外は公園になっていて、有名な芸術家作のオブジェや銅像が数多く飾られている。

346 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:33:58 ID:eB3jVK76
クブリ  「招待状を拝見してよろしいですか」
セティ  「どうぞ」
クブリ  「これはこれは、シレジア本家の方々、ようこそおいでくださいました。
      まもなく、主催者より挨拶がありますのでお急ぎ下され」
セティ  「・・・わかりました」

―妙だ、この男、言葉こそ丁寧だったが、所々の振舞いが高級ホテルの従業員とは思えない。
人手不足で、急遽アルバイトでも雇ったのか?

フィー  「わあ、すごーい」

―パーティホールは、外装以上に華やかだった。
丁度、主催者のダッカーが乾杯の挨拶をするところだ。

ダッカー 「皆様、新年明けましてございます。
      皆様と、我々シレジア家の発展を祈って、乾杯」
一同   「乾杯」
セティ  「さあ、叔父上に挨拶をしにいきま」
フィー  「わ~、あれ、おいしそう」
ラーナ  「あら、コノートの奥様、おひさしぶり」
レヴィン 「レッツ、ナンパ!!」
セティ  「・・・」

―仕方ない、私1人で行こう。

セティ  「叔父上、おめでとうございます」
ダッカー 「ほう、セティではないか」
マイオス 「ふん、竜王家と不始末を起こしたというのに、
      よくも宴に参加できたものだ」

―呼んだのはそっちだろ・・・と言いたくなるがこらえる、この程度の嫌味は覚悟の上だ。

セティ  「それについては、昨日までに全て処理いたしました。
      経営の方に影響はありません」
ダッカー 「まあいいだろう、今夜は堅苦しい話は忘れて楽しんでくれ」
セティ  「ありがとうございます。それでは失礼します」

―思ったよりあっさり解放してくれたな。
もっとねちねちと弱みを突かれるものだと思っていたが・・・。

シルヴィア「あれ、セティじゃない」
セティ  「シルヴィアさん・・・」

―叔父上のもとを離れると、シルヴィアさんが声をかけてきた。

セティ  「あなたも招待されていたのですか」
シルヴィア「うん、お客じゃなくて踊り子としてだけどね。
      あとでとっておきの踊りを見せてあげるから」
セティ  「それは楽しみですね」
シルヴィア「悪いけど、レヴィンの監視お願いね。
       あいつ、絶対ナンパしてお持ち帰りを狙ってるから」

―ご名答、っていうか、すでに実行中です。

シルヴィア「ナンパしていたら、即あたしに知らせなさい、
       ナイフ投げの的にしてやるから」
セティ  「ま、まあ、善処はします」

―そうは答えたものの、今日は彼女の味方はできない。
各地区の名士、さらに叔父上達がいる前で、兄上の恥をさらすわけにはいかないのだ。

347 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:34:49 ID:eB3jVK76
???? 「あら、セティ」
セティ  「君達は・・・」

―次に私に声をかけたのは、ナンナ、ミランダ、サラ、つまりはリーフの嫁候補達だ。

ナンナ  「セティ、あけましておめでとう」
セティ  「おめでとう、君達も呼ばれていたのか」
ミランダ 「ええ、お父様達が都合で来られないので、
      代わりに私達が参加することになったのよ」
サラ   「大人たちがお世辞言い合ってるだけで、つまんないけどね」
ナンナ  「サラ、そんなこと言わないの」
セティ  「リーフも来ているのか?」
ナンナ  「いいえ、リーフ様はいらしていません」
サラ   「このスレの設定じゃ庶民だからね」
セティ  「そうか・・・」

―ちょっとほっとしてしまった。

セティ  「ところで、テ、ティニーはいないのか?」
ミランダ 「ティニーでしたら・・・」
ティニー 「あ~~~、セティ様ら~~~」

―声をする方を振り向くと、ティニーがいた、ドレスアップした彼女は一段と美しい。
ただ、顔が赤く、足元もおぼつかない、どうやら酔っている様だ。

ティニー 「セティ様~」
セティ  「!!!!」

―ふらついた彼女が私によりかかってきた。
生まれて初めてティニーの体に触れることができた。
とても嬉しい。

ミランダ 「まったくこの子ったら、一口飲んだだけでこうなのよ」
ナンナ  「もう、こんなに弱いなんて知らなかったわ」
サラ   「と、いうわけで、ティニーのことよろしく」
セティ  「え?」
ナンナ  「こんなに酔っていたら不埒な殿方に何されるかわからないから、
      誰かがついてあげないとね」
ミランダ 「でも私達、これから他のところにも挨拶しなければいけないので、
      かまってあげられないのよ」
セティ  「いや、しかし・・・」
サラ   「嬉しいくせに」
セティ  「う・・・」
ナンナ  「それじゃあ、お願いするわね」
サラ   「あなた自身が『不埒な殿方』になっちゃダメよ」
―そう言って、3人は去り、私とティニーだけが残った。

セティ  「ティニー、とりあえず、会場から出よう」
ティニー 「はい~~~」
―そう言って、3人は去り、私とティニーだけが残った。

セティ  「ティニー、とりあえず、会場から出よう」
ティニー 「はい~~~」

―私達2人はホールを出て、4階に上った。
4階は休憩室になっている。
ホテルと同様に部屋がならんでいるので、空いている部屋を探していると、
兄上が見知らぬ女性を連れて部屋のドアから出てきた。

348 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:39:13 ID:eB3jVK76
セティ  「兄上!!」
レヴィン 「なんだ、セティ・・・お前も一人捕まえたみたいだな」

―兄上はどうやら「事後」のようだ。
あれだけナンパはしないとフュリーさんに誓ったはずなのに・・・。
っていうか、シルヴィアさんがきているの知っているのだろうか?

レヴィン 「ん?ティニーじゃないか、ほう、酔わせてお持ち帰りとは
      お前も古典的な方法使うなあ・・・」
セティ  「ち、違います、少し酔っているみたいなので、
      部屋で休ませるだけです」
レヴィン 「はいはい、そういうことにしておきましょう。
      ま、頑張れよ~」

―そういって兄上と女性は去っていった。
今の話がティニーに聞かれたら、と心配したが、どうやら彼女は既に眠っている。
ドアを開けると、中は高級ホテルの宿泊室そのままだった。
灯りをつけ、彼女をベッドに寝かせた。

ティニー 「zzzzzzzz」

―ティニーは無防備な姿をさらしたまま、眠っている。
それを見て私は息を呑んだ・・・。
こ、この部屋には、私と彼女の2人っきりしかいない。
しかも彼女は眠ったまま、こ、これはチャンスなのでは・・・。

セティ  「って、な、何を考えているんだ、私は!!?」

―大きく首を振って、欲望を振り払う。
眠った女性をどうこうしようなどと、最低ではないか。
ああ、でも・・・私はもう一度ティニーの姿を見た。
端正ながら幼さを残した顔は赤く染まり、
イブニングドレスからは染みひとつない肌が惜しげもなくさらされている。
さらに寝た体勢が悪かったため着衣は相当乱れたようで、
裾は捲れあがって太ももは丸出しだった。

セティ  「ぐ、ぐおおおおおおお」

―私は頭を抱えて苦悩した。
こ、こんな状態の彼女と2人っきりで、理性を保てというのか?
うう、どうせ誰も見ていないし・・・いや、まて、セティ、
愛しい女性の体をこんな形で手に入れて満足か?
お前のティニーに対するそんなものだったのか?
聖戦士の誇りはどうした!?
それではケダモノではないか!!

ティニー 「ううん・・・」

―ティニーが寝返りを打ってうつぶせになった後、
すぐにもう一度寝返りを打って仰向けになった。
今の動きで肩紐が外れ、胸の上半分が丸出しになった。
はい、無理です、理性なんて保てません。
私はケダモノです、はい。

349 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/07(水) 02:42:56 ID:eB3jVK76
セティ  「キ、キスだけなら・・・」

―身をかがめ、ティニーの肩を掴んだその時、彼女の目がいきなり開いた。

ティニー 「・・・・・・」
セティ  「!!!!!!いや、あの、その、これは・・・」

―終わった・・・私はそう思った。
しかし、その後の彼女は思わぬ行動に出た。

ティニー 「・・・・・・ふにゃあ~」

―なんと彼女は起き上がって私に抱きついてきたのだ。

セティ  「え、え、ええええええ!?」

―何がなんだかわからない、一体何が起こっているのか。
ただ、これだけははっきりと言える、今私は、
最 高 に 幸 せ だ !!

ティニー 「うふふふふ・・・ぎゅ~~~~」

―ティニーはさらに強く抱きしめてきた、どうやら、まだ酔っているらしい。
しかしそんなことはどうでもいい、
こ の 至 福 の 時 と 比 べ れ ば。

ティニー 「えへへ~」

―抱きつきながら、上目遣いで私を見つめてくるティニー、ああ、
神 様 あ り が と う。

ティニー 「ん~~~~」

―ゆ、夢か、これは夢か?
ティニーは目をつぶり、唇を軽く突き出して、私の顔に近づいてきた。
こ、こここここここ、ここここここ、こここここれは、
キ ス の お ね だ り !!
ここまで不幸の連続だった私に、ようやく僥倖が舞い降りてきたのだ!!
涙が出るのを必死にこらえる、このチャンスを逃してはならない。
私は目を閉じ、彼女に顔を近づけた。
うう、感激だ。あまりの嬉しさにこの身が爆発しそうだ。
2人の唇が重なり合おうとしたそのとき・・・

『ド ガ ー ー ー ー ー ー ー ー ン』

外で本当に爆発が起こった。

後編に続く

すみません、レス数の関係で今回も前後半分けます。

426 名前:助けて!名無しさん!:2009/01/12(月) 03:54:47 ID:w+yUMJ7O
最終話 宴のあとに残されたものは(後編)

―な、ななな、なんだ、今のは!!?明らかに爆発音だ、外か!?
窓から外を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
建物の扉が破壊され、そこから武器を持った男達が、数多く侵入しているのだ。
まるでテロだ・・・私は怒りに震えた。

ティニー 「セティ様、何が起きているのですか!?」

―ティニーが私に近づいてきた。今の爆発音で酔いが醒めたらしい。

セティ  「様子を見てくる、ティニーはここにいるんだ」

―部屋を出て廊下を走る、すると曲がり角で5人の男達と遭遇した。
いずれも武装しているが、その中の1人に見覚えがあった。

クブリ  「くくく・・・セティ、大人しく我々についてきてもらおう」

―この男、始めに招待状を確認した警備員だ。
やはりエレブホテルの従業員ではなかったのか・・・。

セティ  「あの爆発は貴様の仕業か?」
クブリ  「そうだ、我が配下にはあれくらいたやすいことよ」
セティ  「そうか・・・」
クブリ  「セティを捕らえよ、丸腰の奴など恐れるに足らん」
傭兵   「おい、大人しくすれば痛い目には・・・ぐは!!」
セティ  「痛い目には、なんだって?」

―傭兵の言葉が終わらぬうちに、私は拳を叩き込む。
魔道書など必要ない、怒りと悔しさで全身が満ちた今の私には、拳があれば充分だ。
断言しよう、今のならラナオウにも勝てる。
私は周りの傭兵を倒したあと、クブリに近づき、胸倉を掴んだ。

セティ  「おい、貴様」
クブリ  「ば、馬鹿な、貴様は魔道士、肉弾戦は苦手のはずでは・・・」
セティ  「なぜ、あのタイミングで爆発させた?」
クブリ  「は?」
セティ  「なぜ、あと10秒、せめて5秒遅らせなかった?」
クブリ  「貴様、何をわけのわからんことを・・・」
セティ  「貴様の爆発が遅ければ・・・ほんの一瞬でも遅ければ・・・
      私はティニーとキスできたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クブリ  「いやああああああ!!」

―怒りに任せ、クブリに無数の拳を叩き込む。

セティ  「チャンスだったんだぞ、一生に一度のチャンスだったんだぞ!!
      酔っているとはいえ、向こうから抱きついて、おねだりしてきたんだ!!
      休日返上で仕事をし、兄上の放蕩に耐え、妹を敵にとられ、
      母上の失言でこの身を削った末に、手にした唯一のチャンスを、
      貴様は台無しにしたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クブリ  「あ・・・あひぃ・・・」
セティ  「貴様だけは許さん、この恨み、思い知れ!!」

―私は怒りと悔しさを拳にこめフィニッシュブローにはいった。

セティ  「君に、キスできない、運命なんて、認めなああああい!!」
クブリ  「あぎゃあああああああああああああ!!」

―クブリはふっとび、壁に叩きつけられ、気絶した。
まだ怒りは収まらないが、こうしてばかりもいられない・・・一度部屋に戻ろう。

427 名前:助けて!名無しさん!:2009/01/12(月) 03:55:32 ID:w+yUMJ7O
セティ  「ティニー、武装した兵が多数忍び込んできている、急いでここを出よう」
ティニー 「そ、そんな・・・」
セティ  「大丈夫、君の事は必ず守ってみせる。君は、私の宝物だからな」

―決まった!!

ティニー 「セティ様、急ぎましょう!!」

―だが、流されたようだ・・・(涙)

セティ  「階段を降りるぞ、とにかく外に出るんだ」

―ところが、3階に降りたその時・・・何者かの悲鳴が聞こえた。

ティニー 「セティ様、外です!!」

―ティニーが指差す方向にある窓を開けて、外を見回す。
すると真下では、シルヴィアさんが3人の男に囲まれていた。

シルヴィア「なによ、あんた達、あっち行ってよ!!」
ゴロツキ1「へっへっへ、随分な上玉だな、よだれがでるぜ」
ゴロツキ2「捕まえろって言われたのはシレジアの人間だけだったな?」
ゴロツキ3「じゃあ、あとは好きにしていいんだよな・・・ぐへへへへへ」

―シルヴィアさんが危ない!!

セティ  「ティニー、君はこのまま下に降り、外に逃げてくれ」

―彼女を助けに行くため、私は窓に身を乗り出した。

ティニー 「ここ、3階ですよ」
セティ  「う・・・」

―下を見る、かなり高い、だが階段を降りている暇は無い。

シルヴィア「いや・・・やめて・・・」

―男の1人が彼女を地面に押さえつけ、残りの男も彼女に近づいていく。
助けが来る様子もない、私が行くほかはないようだ。

セティ  「ティニー、すぐに逃げるんだぞ!!」
ティニー 「セティ様!!」
セティ  「う、うおおおおおおおおおおおお!!」

―覚悟を決めて窓から飛び降りた、3階だから落ちるのは一瞬だが・・・

セティ  「ぐは!!」
ゴロツキ1「な、なんだ!?」

―やはり飛び降りれば痛い。多分、折れた。

セティ  「お、おい、彼女をはな」
???? 「悪いな、その女は先約済みだ。誘うなら別のにしてくれ」

―何者かの言葉が、私の言葉をさえぎった。
その直後、突如風が巻き上がり、ゴロツキたちを吹き飛ばした。

ゴロツキ達「うわああああああ・・・うげ!!」

―ゴロツキたちは壁や地面に叩きつけられ、気絶してしまった。

428 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 03:56:09 ID:w+yUMJ7O
レヴィン 「ま、その前に女の誘い方を勉強するべきか」

―暗闇から現れたのは兄上だった、手にはエルウィンドの魔道書を持っている。

レヴィン 「シルヴィア、怪我はないか?」
シルヴィア「う、あ、あ・・・レヴィーーーーーン!!」

―シルヴィアさんは兄上に抱きつき、胸の上で泣きじゃくった。

レヴィン 「お、さすがのシルヴィアも怖かったみたいだな」
シルヴィア「このばか!!どうしてもっと早く来てくれないのよ!!」

―まったくだ!!あなたがあと10秒早く現れてくれれば、私は飛び降りずにすんだのに・・・。

レヴィン 「ま、主役はちょっと遅れてくるもんだって」
シルヴィア「あたしが、何かされたらどうするつもりだったのよ?」
レヴィン 「そんなことはさせねえよ。
      ヒロインはピンチにはなっても、それ以上にはならないもんさ。
      その前にヒーローが助けに来るからな」
シルヴィア「ぐす・・・随分浮気者のヒーローだけどね」
レヴィン 「ヒロインもおてんばで子供だけどな」
シルヴィア「ばか・・・」

―それから2人は何も言わずに抱き合っている。
随分といい雰囲気だが・・・べ、別に、羨ましくなんてないんだからな。
私がいじけていると、暗闇の中から杖を持った男が現れた、ホークだ!!

ホーク  「セティ様、まずは治療します、リカバー!!」

―ホークが杖をかざすと、体の痛みが消えていった。

セティ  「ふう・・・すまない、ホーク。それにしても、なぜここに?」
ホーク  「ダッカーとマイオスについて重大な事実が判明したので、
      お伝えするためにきたところ、すでにこうなっていました」
セティ  「ということは、この事件は叔父上達が?
      なぜだ、なぜこのような目立つことをする?
      自分達が犯人だとばれたら、家督どころではないはずだぞ」
ホーク  「実は、ダッカーとマイオスは去年、贈賄と粉飾決算を行っていました。
      おそらく、今月内にはベルン署の捜査も入るでしょう。
      行き詰った奴らは、テロに見せかけ、セティ様たちを拉致し、
      むりやり家督を譲らせ、シレジア本社を支配に治める、
      その後、本社の力で贈賄などをもみ消すつもりなのでしょう
      奴らには時間が無いのです」
セティ  「と、なれば狙いは我々か・・・よく調べてくれた、ありがとう」
ホーク  「恐れ入ります。
      それで、現在の状況ですが、私の独断でマギ団と天馬騎士を投入し、
      ラーナ様含め、招待客の半数は救出に成功しております。
      また、すでに数人の傭兵からダッカーに依頼されたという言質も取っております。
      それと、魔道書と武器をおもちしました、
      セティ様はライトニングとフォルセティをお使い下さい」

―な、なんという手際のよさ、さすがはホーク・・・平民プレーの神と呼ばれた男。
「フォルセティがなければセティより優秀」と聖戦スレで言われるだけはある。

セティ  「よし、私は単独で行動するから、
      ホークは引き続きマギ団と天馬騎士の指揮にあたってくれ」
ホーク  「了解しました」
セティ  「兄上、シルヴィアさんはマギ団に預けて、あなたも救出に参加して下さい」
レヴィン 「この状況じゃ、嫌ともいえんか・・・わかったよ」
セティ  「では、私は公園の方を探す、兄上は会場をお願いします」

429 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 03:57:11 ID:w+yUMJ7O
※すみません、最初2つが名無しですが、426から始まりです。
―私は公園の方へ走った。しばらくすると、私を狙う気配がした。

セティ  「隠れても無駄だ、出て来い」

―暗闇の中から武装した男達が私を囲んだ、1、2・・・数は6人だ。

傭兵1  「大人しくしろ、そうすれば痛い目にあわずにすむぜ」
セティ  「断る、お前達こそ武器を捨て、投降しろ」
傭兵2  「口じゃわからないみてえだな、やっちまえ!!」

―傭兵達が一斉に斬りかかって来る・・・。
まず、1人目の大剣と、2人目の斧をかわす。
そして地面を蹴って、上空に飛び上がる。

傭兵3  「奴が消えた!?・・・はっ、上か!!」
セティ  「光よ、彼の者を討て、ライトニング!!」

―空中で魔道書を開き、瞬時に詠唱を行うと、まばゆい光が一瞬だけ傭兵達を包みこんだ。

傭兵達  「ぐはああ!!」

―私が着地すると同時に、傭兵達はその場に倒れこみ、気を失った。
読者の皆様、これが私の実力だ。
本来の私は無敵の魔道士であり、セリス軍、リーフ軍どちらでも活躍するエースユニットだ。
涙目で飲んだくれている姿はあくまでネタなのでそこのところを誤解なきよう!!
先を急ごうとすると、どこかから、苦しそうなうめき声が聞こえた。
音の方向を辿ると、物陰で1人の少年が倒れていた、左肩には矢が刺さっている。

セティ  「アスベル!!」
アスベル 「セティ・・・様・・・」

―彼の名はアスベル、マンスターで活動するマギ団という団体の一員だ。

セティ  「おい、しっかりしろ」
アスベル 「すいません、フィー様が・・・敵の手に・・・」
セティ  「フィーが!!」
アスベル 「も、もうしわけありません、僕が、しっかりしていないから・・・」
セティ  「気にするな、お前はよくやってくれた。それより傷を見せろ」
アスベル 「ぼ、ぼくなんかより、フィー様を・・・」
セティ  「そういうわけにはいかない」

―アスベルの左肩の傷は不自然に黒ずんでいた、毒矢だ!!

セティ  「ちょっと寒いが我慢してくれ」

―そういってアスベルの胸元の服をつかむと、一気に引き裂いた。
そして、矢を抜き、アスベルの肩に唇を近づけ、毒を吸い出す。
毒消しもレストも無いため、応急措置をするしかない。

セティ  「痛いかもしれないが、 少しの辛抱だ」
アスベル 「だ、大丈夫・・・です」

―毒を吸っては吐き出すことを繰り返す。
この寒さで上半身裸では辛いだろうから、私の体を近づけ暖める。
これは純粋な治療行為であり、私にもアスベルにもそれ以上の意味は無い。
しかし、彼女の目にはそうは映らないようだ・・・。

ティニー 「セ、セティ様・・・一体何を・・・」
セティ  「テ、テ、テテテテテテテ、ティニー・・・い、いつのまに?」

430 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 03:58:14 ID:w+yUMJ7O
ティニー 「暗い物陰で、セティ様が、裸のアスベル君を、抱きしめて、体にキス・・・」
セティ  「ち、違うんだ、ティニー」
ティニー 「き、き、き、きゃああああああああああああああ!!」
セティ  「ティニィィィィィィィィィィィィィ!!」

―彼女は悲鳴をあげて走り去ってしまった。
愛しい男(←違います)が男と抱き合ってキスしていたら、ショックを受けてしまうのも無理は無い。 ※注

マチュア 「アスベル、無事!!?」
アスベル 「僕の方は何とか大丈夫ですけど、セティ様が・・・」
マチュア 「セティ様、ご無事だったんですね・・・って、どうなさいましたか!?」
セティ  「シクシク・・・」
アスベル 「ぼ、僕もよくわからないんだけど、急に泣き出しちゃったんだ」

―うう・・・誤解された、完全に誤解された。
折角ティニーといい雰囲気(←セティ君の思い込みです)になれた矢先に、ホモ疑惑・・・
神様、私、なんか悪いことしましたか?

※注 セティ君は勘違いしていますが、ティニーは全くショックを受けておりません。
むしろ非常に喜んでいます、「きゃあああ」も喜びの悲鳴です。

ティニー (凄腕の美青年セイジと、その弟子の素直な美少年マージ・・・
      セティ×アスベルで次の新刊は決まりだわ!!
      タイトルは『セイジは妖しいのがお好き』、
      キャッチコピーは『そう、そのまま飲みこんで。僕のグラフカリバー・・・』
      ああ、早く書きたい描きたい!!)

マチュア 「あ、あの、セティ様、どこか具合でも・・・?」
セティ  「いや、なんでもない、アスベルを頼む」

―いつまでも泣いている訳にはいかない・・・フィーを助けなければ。
私は涙を拭き、公園の奥へと走った。
しばらくすると、先方に人の気配を感じたので、とっさに物陰に隠れた。
目を凝らしながら、少しずつ近づくと、フィーと傭兵の姿が見えた。
フィーは一本の木に縛り付けられていて、周りには2人の傭兵が見張っている。

セティ  「フィー、今助ける」

―妹を助けるため、奴らの前に飛び込もうとしたその時、何者かが後ろから私の手を引いた。

アーサー 「やあ、セティ」
セティ  「お前も呼ばれていたのか!?」
アーサー 「ああ、フリージ代表でティニーと一緒にね」
セティ  「そんなことよりも何故止めた?フィーを助けなければ・・・」
アーサー 「無駄だよ、フィーは完全に奴らの支配下にある。
      正面から躍り出ても、彼女を人質に取られて動きを封じられるだけさ」
セティ  「く・・・一体どうすれば・・・」
アーサー 「幸い敵は2人、奇襲すれば楽勝さ、あれを見て」

―アーサーが指差したのは巨大な銅像だった。

アーサー 「あれの台座を破壊すれば、銅像が倒れる。敵は銅像の下敷きさ」
セティ  「成程、よし、ライトニングで破壊する」
アーサー 「だめだ、それじゃ、銅像ごと粉々になっちゃうよ」
セティ  「じゃあどうすればいいんだ?」
アーサー 「ついてきて、音はたてないように」

―私達は連中に気づかれないよう、場所を移動する。
移動した先は、銅像の裏手。丁度我々、銅像、見張りの2人が一直線に並ぶ形になった。
像と我々は大体7メートルほど離れている。

431 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 03:58:48 ID:w+yUMJ7O
アーサー 「ここから台座に直接、物理的な力を与えて倒すんだ。
      そうすれば確実に見張りの方向へ倒れる」
セティ  「どうやって?」
アーサー 「フォルセティの風の力ってすごいよね・・・
      人間1人くらいなら簡単に吹き飛ばせそうだよね・・・」
セティ  「まさか・・・」
アーサー 「そう、君自身にフォルセティをかけて、台座に突っ込むんだよ」
セティ  「私が死んでしまうだろ!!」
アーサー 「大丈夫大丈夫、ギャグネタ補正で死にはしないって」
セティ  「そんなに言うならお前がやれ。私がとばしてやるぞ」
アーサー 「いや、おれ、そういうキャラじゃないし」
セティ  「私だって違う!!」
アーサー 「ほら、あの2人が銅像からはなれちゃうよ。妹を助けたくないの?」
セティ  「ぐ・・・お、おぼえてろよ、アーサー・・・・・
      うおおおおおお、フォルセティィィィィィィィィ!!!!」

―自棄になって、私は自分自身にフォルセティを発動させた。
直後、ものすごい力が私の体にかかり、私はロケットのごとく台座に突っ込んだ。
言葉にできないほどの痛みが体を走り、台座は壊れた。

傭兵   「な、なんだ、う、うわあああああああ!!」

―銅像が傭兵目掛けて倒れ掛かり、傭兵2人は下敷きとなって気絶した。

セティ  「ぐ、ぐおおおおおおおおおお」

―激痛をこらえながら体を起こすと、すでにフィーの縄は解かれていた。

アーサー 「フィー、無事かい?」
フィー  「アーサー、助けに来てくれたのね」

―い、妹よ、助けたのは私だ。

アーサー 「当然だろう、だって、君はぼくの大切な人だからね」
フィー  「で、でも、そのために危険な目に・・・」

―い、妹よ、危険な目にあったのは、私だ。

アーサー 「君のためならこの身は惜しくない、命を賭けて守ってみせるさ」
フィー  「アーサー・・・」

―い、妹よ、身を惜しまなかったのも、命を賭けて守ったのも、私 の 方 だ。
そう叫びたかったが、激痛のおかげでうまく声が出ない。
おまけに2人の世界に入っているので、全然私に気づいてくれない。
仕方なく私は、その場を去った。
それにしても何たる理不尽・・・身体を張り、痛みを伴った者が無視され、
楽でおいしいところを取った者が感謝されるなどと・・・こんなことがあっていいのか!!?
この世の不条理をかみ締めながら歩いていると、向こうから人影が見えた。

ホーク  「セティ様、その傷は一体・・・?回復します、リカバー」
セティ  「ふう、すまない。それで、状況はどうだ?」
ホーク  「救出も鎮圧もほぼ完了していますが、肝心のダッカーとマイオスが見つかりません」

―次の瞬間、突如、私の脳内に直接声が響いた。

 『ティニーは預かっている。娘の命が惜しくば、貴様1人で公園の広場にこい、フォルセティを忘れるなよ』

―今のはダッカー!!?声が届いたのは、おそらく精神系の魔法の一種だ。
ティニーが奴らの手に・・・これは、絶対に助けなければ・・・。
セティ  「ホーク、私は公園の方を探しに行くから、君はもう一度会場を探してくれ」

432 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 03:59:41 ID:w+yUMJ7O
―ホークにそう言って、私は公園の広場へ向かった。
広場には3人の人間が立っていた、灯りがともされているので夜でもはっきりわかる。
1人はダッカー、1人はマイオス、そしてもう1人はティニーだ。

ティニー 「セティ様・・・」
セティ  「ティニー!!」
マイオス 「動くな!!この娘がどうなってもいいのか?」

―そういって、マイオスはティニーの首筋にナイフを突きつける。
私は動きを止めるしかなかった。

ダッカー 「セティよ、フォルセティを私によこせ。この娘の身が惜しかったらな」
セティ  「・・・今さらこれを手に入れたところでどうなる?
      ここまで大きな悪事を犯したんだ、
      シレジア家を乗っ取ろうがもみ消しは不可能だぞ」
ダッカー 「ふん、我々の安全はベルクローゼンが保証してくれる。
      フォルセティを持っていくという条件でな」

―ベルクローゼン・・・紋章町を暗躍する犯罪組織か・・・。

マイオス 「さあ、わかったら早くその魔道書を渡せ!!」
ティニー 「セティ様・・・渡してはだめです・・・」

―マイオスがティニーの頬をナイフでなぞる。
しかし、恐怖に耐えながら、ティニーは絞り出すような声で私に語りかけてくる。
そんな彼女をこれ以上見ていることはできなかった。

セティ  「・・・フォルセティはくれてやる。だから彼女を放せ」
ダッカー 「魔道書が先だ、まずはそこから10歩進め」

―言われたとおりにするしかない、私は10歩ダッカーたちに近づいた。

ダッカー 「フォルセティを地面に置け、ライトニングもだ」

―言われたとおり、魔道書を取り出して地面に置こうとしたその瞬間・・・

???? 「こ の ひ と で な し ィ ィ ィ ィ ィ ィ !!!!!」
セティ・ダッカー・マイオス・ティニー「!!!!??」

―夜空の一点が一瞬だけきらりと光り、
その直後この世のものとは思えない怪音をだしながら、
何かが空からものすごいスピードで突っ込んできた。

ダッカー 「う、うわああああああ!!」

―その物体はダッカーとマイオスの方に向かい、爆音と衝撃を発生させながら地面に突き刺さった。
信じられない現象だが、おかげで奴らとティニーとの距離があいた、チャンスだ!!
私は全速力でマイオスに飛び掛った。

マイオス 「しまった!!」

―私の体当たりの直撃を受けたマイオスはその場に倒れこみ、
勢いよく地面に頭をぶつけて、気絶してしまった。
私は即座に起き上がり、ティニーの手を引いて敵2人から距離をとった。
これで形勢逆転だ、私はティニーを後ろにかばい、ダッカーに向けて叫ぶ。

セティ  「もうそちらに勝ち目はない、観念しろ、ダッカー!!」
ダッカー 「おおおお、おのれ、若造がぁぁぁぁぁ!!」

―ダッカーが魔道書を取り出し、詠唱を開始した、トルネードだ!!

433 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 04:01:35 ID:w+yUMJ7O
セティ  「ティニー、下がって!!
      風よ・・・天より光を運び、地を駆け抜ける風よ」

―私はティニーを後ろに下げ、魔道書を開いて詠唱を開始する。
ティニーを守るためにも、絶対に失敗はできない。

ダッカー 「ぬおおおおお、死ねえええええ」

―ダッカーの手から、真紅の竜巻が起こり、私目掛けて襲いかかる。

セティ  「今、十二戦士の名において、彼の者に裁きを下さん。
      フ ォ ル セ テ ィ ! !」

―ほんの一瞬遅れて、私の体から風が起こる。
正しき者には温かさを、邪悪なる者には裁きを与える聖なる風、それが神器フォルセティ・・・。
聖なる風は竜巻を飲み込み、ダッカーを包み込む。

ダッカー 「う・・・ぐは・・・そんな、ばかな・・・」

―ダッカーは膝をつき、その場に倒れた。
ホークから貰った縄を取り出し、ダッカーとマイオスの両手を縛った。
これで大丈夫だろう、そうだ、ティニーは!!?
ティニーの方を振り向くと、彼女は呆然と立っていた。

ティニー 「・・・・・・」
セティ  「ティニー、無事かい?」
ティニー 「・・・う・・・ぐす・・・」

―恐怖から解放され、緊張が解けたのだろう。少し俯き、しゃくりあげはじめた、そして・・・。

ティニー 「怖かった・・・とっても、怖かったんです・・・」
セティ  「よく頑張ったな。でも、もう大丈夫だ」
ティニー 「う・・・あ・・・あああああああ!!」
セティ  「ティニー・・・」

―泣きながら彼女はこちらに向かって駆け出した。
いくら気丈とはいえ、彼女は可憐な女の子、優しく抱きしめてあげなくては・・・。
私は両手を大きく広げ、彼女を迎え入れた。

ティニー 「ああああああ・・・」
セティ  「ティニィィィィ」

―さあ、私の胸に飛び込んでおいで。
彼女が私に近づく・・・私は彼女を抱きしめるため、両腕を閉じ

セティ  「あれ?」

―たのだが、彼女は私を通り過ぎ、私の腕は虚空を切った。

ティニー 「リーフ様!!!」

―はい?後ろを振り向くと、リーフに抱きつき、泣きじゃくっているティニーがいた。

ティニー 「リーフ様、怖かった、とっても怖かったんですよ!!」
リーフ  「僕は、とっても、痛かったです・・・」

―リーフ、貴様、いつの間に!!?
よく見ると、リーフの頭からは大量の血が出ている。
そして、謎の落下物の落果点には、穴があいていただけで、物体は消えていた。
ま、まさか、さっきの落下物の正体は貴様だったのか!!?

434 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 04:03:05 ID:w+yUMJ7O
ティニー 「恐ろしい人たちが、わたしを・・・うわあああああ・・・」
リーフ  「恐ろしい兄さんが、僕を・・・ははははははは・・・」
ティニー 「それなのに、だれも、だれも助けてくれなくて・・・」

―ちょっとまて、ティニー、私は!?私の存在は!?

ティニー 「でも、わたし、信じていました。絶対、リーフ様が助けに来てくれるって。
      そうしたら、本当にわたしのもとに、とんできてくれましたね」

―いやいやいやいやいや、どう見てもリーフは自分の意思ではここにきていない。
大方騒動のとばっちりを喰らって、たまたまここに飛んできただけだろう。 ※注

※注 セティ君、正解。アルムとセリカのKINSHIN成敗のために、
シグルド兄さんが振り上げたティルフィングが、例によってリーフにあたり、吹っ飛んできただけです。

ティニー 「リーフ様は、いつもわたしのことを助けてくれますね。それが本当に、うれしいです」

―おかしくね?ティニー助けたの私じゃね?
確かにリーフも結果的には役に立った。
だが、ダッカーもマイオスも倒したのは私であり、リーフは身体を張っただけだ。
先ほどのアーサーの例だったら、おいしいところをもらえるのは、私のはずなのだが・・・。

???? 「シレジア家のセティ様ですね・・・」

―あまりの不条理に混乱している中、背中で私を呼ぶ声がした。

エリック 「私、アネックスの総責任者、エリックと申します」
セティ  「せ、責任者の方でしたか。こ、この度は、誠に申し訳ありませんでした。
      それで、私に何か?」
エリック 「これをお受けとり下さい」

―エリックは私に一枚の紙を渡した。それにはこう書いてあった。

『請求書 シレジア家 セティ殿  
 賠償金  500万ゴールド
 内容  損壊した建物、銅像の修理代、パーティの未払い料金 等』

― ( ゚Д゚)  ご、ご、ごごごごごごご、500万ゴールドォォォォォォォォ!!!?

セティ  「エリック殿、今回の事件の犯人はダッカーとマイオスです。
      それならば、彼らの方に請求すべきなのでは?」
エリック 「しかし、ダッカーとマイオスは犯罪者、
      支払いは望めませんので、ここは親族たるシレジア本社にお支払い願います」
セティ  「いや、でも、それは・・・」
エリック 「セティ様、実は私はあなたに親近の情を抱いております」
セティ  「え?」
エリック 「我が父ダーレンは、ホテルの経営をほったらかし、
      親子ほどに年の離れた若い女に現を抜かす始末 ※注。
      その苦労はすべて私が負って・・・くぅぅぅ・・・(涙)」
※注 くわしくは「その名はAKJ 第一章」をご覧下さい。

―そ、そうか、この男も家族のおかげで苦労しているのか・・・

エリック 「ですが、それはそれ、これはこれでございます。
      父が腑抜けだからこそ、私が心を鬼にして請求するのです。
      では、30日後までにお支払い下さい、失礼いたします」
セティ  「ちょちょ、ちょっと、待ってください!!」

―私が呼び止めるのも聞かず、エリックは去っていった。

435 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2009/01/12(月) 04:11:08 ID:w+yUMJ7O
セティ  「2日前に竜王家が片付いたばかりなのに・・・仕方ない、兄上にも協力してもらおう」

―ちょうどいいところに、兄上がこちらにやってきた。

レヴィン 「よう、セティ、なんとか終わったみたいだな」
セティ  「兄上、申し訳ないのですが、緊急の仕事ができました、すぐに私と屋敷に戻って下さい」
レヴィン 「そうしたいのはやまやまなんだが・・・」

―そういって、兄上はチラッと隣にいるシルヴィアさんを見た。彼女は顔を赤らめながら、兄上の左腕に絡み付いている。

シルヴィア「だ~め、今夜は絶対に離さないから」
レヴィン 「こいつが離してくれないんだ、悪いけどあとは頼むわ、じゃあな~」
セティ  「え、あ、ちょっと、兄上えええええええ!!」

―そう言って、2人は公園の出口の方へ消えていった。く、仕方ない、働かせっぱなしで悪いが、秘書のホークに協力してもらおう。

ホーク  「セティ様、犯人は全て警察に引き渡し、招待客も帰宅いたしました」
セティ  「今日は本当によくやってくれたな」
ホーク  「おそれいります。それで、ちょっと、これから、その・・・」

―そういって、ホークはチラッと隣にいる女性を見た。彼女はリンダ、ティニーの親戚でフリージ家の令嬢だ。

リンダ  「えへへ、ホーク様、今日は一杯お仕事したんだから、あとはわたしと一緒に過ごすんですよ」
ホーク  「お、お恥ずかしながら・・・私達、こういうい関係で・・・////ということで、明日の昼には戻りますので・・・失礼します」
セティ  「え、ちょっと、ホーク!!」

―そう言って、2人は公園の出口の方へ消えていった。

フィー  「あ、お兄ちゃん、今日は大変だったね、でも、アーサーが助けてくれたから、わたしは大丈夫だったよ」
アーサー 「ティニーのためなら、ぼくはどんなことでもできるさ」
フィー  「じゃあね、お兄ちゃん」
アーサー「じゃあね、お義兄さん」

―そう言って、2人は公園の出口の方へ消えていった。
アーサー、なにをぬけぬけと、この野郎・・・。

ティニー 「リーフ様、大好きです」
ナンナ  「ティニー、1人だけずるいわよ」
ミランダ 「そうよ、抜け駆けはなしって言ったでしょ」
サラ   「ふふふ、せっかくだから4人で可愛がってあげましょ」
リーフ  「勘弁してくれ・・・」
セティ  「・・・・・・」

―4人は公園の出口の方へ消えたその時、午前0時をしらせる時計の音が鳴った。
ずいぶん長く感じたが、フュリーさんのアパートから1日も経っていないのだ。
こうして、狂乱に満ちた宴は、完全に終結した。
そして、宴のあとに残されたものは・・・ホモ疑惑、500万ゴールドの請求書、底知れない虚しさの3つだった。

セティ  「・・・ああ、クレインか、セティだ。実はまた賠償金を負ってしまったよ。
      額?500万だ、ああ、君の母上なら笑顔1つで解決できるが、うちはちょっと無理だなあ・・・当分徹夜だよ。
      それで、今から飲めないか?・・・じゃあ、カリルの店で待っているよ・・・」

―私は携帯電話を切り、カリルの店に向かい歩き出した。フュリーさんごめんなさい、あなたの慰めだけでは足りそうにありません。

セティ  「グス・・・」

―1人歩く私の身体を、シレジアの北風が通り抜けた。
嗚呼、今日もシレジアの風が涙に沁みる・・・。

「シレジアの風が涙に沁みる」 完  今回も長々とお付き合いくださり、誠にありがとうございました。