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Last-modified: 2011-05-30 (月) 21:57:05

王子様のバイト

――兄弟家――

ロイ   「ただいま! あ、リン姉さん、エリウッド兄さん帰って来てる?」
リン   「おかえり~。エリウッドなら居間に居るわよ」
ロイ   「はーい」
リン   「……ってコラ! ちゃんと靴を揃えなさい!」
シャニー 「こんにちはっ!」
リン   「あら、シャニーちゃんじゃない。相変わらず元気――」
シャニー 「ちょっとだけお邪魔します!」
リン   「え、別にゆっくりして行けばいいのに」
エイリーク「お客様ですか?」
リン   「あぁ、姉さん。ロイったらね、今日はシャニーちゃんを連れて来たみたい。昨日はリリーナちゃんと遊びに行ってたのに」
エイリーク「ふふふ……ロイも相変わらず罪な男の子ですね。そうだわ、リン、帰って来た二人にジュースでも持って行ってあげて下さい」

エリウッド「何だい? さっきから騒がしいね」
ロイ   「あ、いたいたエリウッド兄さん! いつも胃を痛めてる兄さんに、とってもいい話があるんだよ!」
エリウッド「フフ……いつも、か……」
シャニー 「こんにちはエリウッドさん! ねぇ、エリウッドさんは温泉、好き?」
エリウッド「やぁシャニー。温泉かい? そりゃあ好きか嫌いかって聞かれたら好きだけど……どうして?」
シャニー 「実はゼロットさんの仕事の事で、エリウッドさんにお願いがあって来たの」
エリウッド「? ゼロットさんって確かエデッサ社の社長……ああ! そう言えば君のお義兄さんだったね!」
シャニー 「うん。お義兄ちゃんって呼んだりもするけど、やっぱりずっとゼロットさんって呼んでたからゼロットさんかな~……じゃなくて、そのゼロットさんの会社でね、今度温泉を経営する事になったんだ~」
エリウッド「エデッサ社って警備会社なのに……って、え、まさかイリアで温泉かい!?」
シャニー 「そう、そのまさか!」
エリウッド「へぇ、極寒のイリアに温泉が湧くなんて何だか不思議だな」
ロイ   「何年か前に偶然エデッサ社の社員さんが掘り当てたんだって。それがようやく温泉施設としてオープン出来そうなまでになってるんだけど……」
シャニー 「イリア地区って紋章町の外れだし、いまいちマイナーなんだよね。だからお客を呼び込む為に最初のPRが肝心だと思うんだ~」
エリウッド「それでまず僕にPR?」
シャニー 「うーん、それもあるけど……そのPRの為のポスターを作る事になっててね、そのモデルをエリウッドさんにやって欲しくて」
エリウッド「……な、何だって?」
ロイ   「モデルだよ モ デ ル! だけど、特に決めポーズとかする必要はないんだ。ただ施設と一緒に、自然な感じで写ってくれればいいんだって」
エリウッド「そんな、僕はモデルなんて柄じゃ……。ロイ、お前がモデルじゃダメなのか?」
ロイ   「あ、いや僕はその……」

リン   「ロイ達はあなたに、『たまには温泉でゆっくりすれば』って言ってるのよ、エリウッド」
エリウッド「リンディス、でも……」
リン   「はいシャニーちゃん、ジュース」
シャニー 「わっ、ありがとうリンさん!」
エリウッド「…………」
リン   「恥ずかしがる事ないわ、いい話じゃない。温泉に入れて、しかもお金ももらえるんでしょ?」
ロイ   「バイトだからね」
エリウッド「うーん、確かに我が家の家計を考えれば、少しでも稼ぎたいとは思うけど……」
リン   「決まりね! 行ってらっしゃいエリウッド!」
シャニー 「ホントに良い温泉だから! 仕事だって事も忘れられる筈だよ!」
エリウッド「気を遣ってくれてるのも解るけど、みんな強引だなぁ。でも解ったよ、僕なんかでいいのなら引き受けてみようかな……」

――イリア地区・エデッサ社温泉施設――

エリウッド「驚いた、随分広いんだな。所々に南国の観葉植物まであるし、温泉っていうより温室みたいだ」
シャニー 「実際温室でもあるんだけどね。へへ~、イリアじゃないみたいでしょ!」
エリウッド「ああ、本当に……あ、あっちにあるのはまさかウォータースライダーかい?」 
ティト  「はい。使用しているのは水ではなく温泉ですが」
エリウッド「これは温室どころじゃないや、立派なテーマパークだね」
ティト  「お気に召した様で何よりです……あ、ゼロット社長」
ゼロット 「エリウッド君、良く来てくれたな。シャニーが使いに言ったと聞いた時は心配したが」
シャニー 「ひどーいゼロットさん、それどういう意味!?」
ティト  「そういう意味なんでしょう」
シャニー 「ぶーっ!」
ゼロット 「すまんすまんシャニー。お使いご苦労だった」
シャニー 「解ればよろしい!」
ゼロット 「さて、エリウッド君、待たせてしまってすまなかったね」
エリウッド「いえ、彼女達に案内してもらっていましたから楽しかったです。それで、あの……モデルに、何て聞かされて来たのですが……僕はこれから何をすれば?」
ゼロット 「はは、そんなに構える必要はない。ここでしばらく自由に楽しんでもらうだけでいいんだ。君達が浸かる姿をさりげなく写真に撮って、その中で良さそうな物をポスターに使わせてもらう」
エリウッド「君達……って事は……」
シャニー 「やーだ、赤くならないでよエリウッドさん!」
ノア   「悪いね。一応ここは男湯だから、俺達と入ってもらうよ」
トレック 「…………」
エリウッド「ノ、ノアどの……じゃなくてノアさん、いつの間に背後に」
ノア   「ポスターの写りは勿論君がメインだから。俺達はいわゆるエキストラだからね、あまり居る事は気にしなくていいよ」
トレック 「…………」
エリウッド「は、はぁ……そうですか」
ティト  「では、私達はそろそろ持ち場に戻ります」
シャニー 「じゃあね、エリウッドさん! ポスター楽しみにしてるよ!」
エリウッド「ああ、またね……(困ったなぁ、だんだん恥ずかしくなって来たぞ。いや、これも家計の為家計の為)」

ゼロット 「よし、女性陣は出て行ったしそろそろ脱げ、お前ら」
ノア   「はい」
トレック 「…………」
エリウッド「は、はい(でも水着オッケーで良かった)」
ゼロット 「むっ……トレック! 目を開けたまま寝るな!」
トレック 「あでで! 頭が.……あれれ……ゼロット社長、おはようございます」
ゼロット 「やれやれ。温泉発見者じゃなかったらクビだぞお前」
エリウッド「えっ、トレックさんがこの温泉を発見したんですか!」
トレック 「はぁ……まぁ、そうみたいですね……」
ノア   「こいつが寝ぼけて、急に地面に剣を突き立ててね。そこから熱湯に近い源泉がブシューっと。いやぁ、あの時はさすがに死を覚悟したよ。社長当ての遺言、まだ書いてないから焦った焦った」
エリウッド「(遺言!?)……無事で何よりです」
ノア   「ははは……あれ? 何だ、エリウッド君って意外と良い体してるんだなぁ!」
ゼロット 「おや、確かに」
エリウッド「や、やだなぁ、お世辞なんか止めて下さいよ」
ノア   「お世辞じゃないって。そういえば君って馬に乗りながらやたら大きなエモノ振り回してるもんな。そりゃそれなりに筋肉も付くか」
エリウッド(そうか、他の兄弟と比べると僕はどうしても貧弱なボーヤだけど、外に出れば案外普通なのか……)
ゼロット 「ふむ。どうだ、エリウッド君。君、高校卒業したらウチの警備会社の方で働かないか?」
エリウッド「(とはいえ、やっぱり肉体労働は僕には向いてない気がする)考えておきます……」
ゼロット 「是非良い返事を聞かせて欲しいものだ。ではエリウッド君。私は仕事に戻るが、入れ替わりで雇ったカメラマンを呼んで来よう。後は頼んだぞノア、トレック」
ノア   「はい、社長」
トレック 「へ~い」
エリウッド(うう~、とうとうか。緊張するなぁ。いや、自然体、自然体……)

――温泉施設・露天風呂――

エリウッド「はー、生き返る~」
ノア   「そんなオヤジくさい君に、はい、一杯」
エリウッド「何早速未成年に酒を勧めてるんですか」
ノア   「堅い事言うなよ。君緊張してるみたいだし、丁度良いんじゃないか?」
エリウッド「遠慮します。未成年の飲酒は成長期における身体に悪影響を及ぼすだけでなく、短期間でアルコール依存症になったり、急性アルコール中毒から死に至る場合も……」
ノア   「ゴメン、俺が悪かった」
エリウッド「でもこうして雪景色を眺めながらみんなで温泉に入るって、すごく気持ちがいいですね」
ノア   「確かにね。ここの露天は人気出そうだ」
エリウッド「今度兄や弟達を連れて来たいです。所で……カメラマンさんっていつ来るんでしょうか。僕、のぼせ易いんで心配なんですけど」
ノア   「いや、もう来てるみたいだよ。さっきからパシャパシャシャッター音聞こえるからさ」
エリウッド「何でまた、そんな忍者の様な真似を……」
ノア   「自然な写真にこだわってるんじゃない?」
エリウッド「……なるほど」
ノア   「ま、のぼせそうなら一旦お湯から上がりなよ。イリアの風は冷たいから、直ぐまた入りたくなる。そしたら今度はスライダーに行ってみないか?」
エリウッド「はい、解りました……ってわぁ! な、何するんですかいきなり!」
ノア   「あっははは! ちょっと引っ張りたくなって!」
エリウッド「もう、冗談きついですよ……」
トレック 「……(ブクブク)」

――再び兄弟家――

エリウッド「ただいま」
ロイ   「おかえり、エリウッド兄さん! 温泉はどうだった?」
エリウッド「いやぁ、(トレックさんが溺死しかかって大変だったけど)温度も丁度良くて、凄く気持ちが良かったよ。仕事が仕事だから最初は緊張してたけど、結局は本当にただ温泉に入って来ただけだったからね。久々に何も考えずにゆっくり出来た休日だったな」
ロイ   「そっか、良かった。兄さんが喜んでくれたなら僕も嬉しいよ」
エリウッド「ロイ……お前は本当にいい子だなぁ。今度一緒にイリアに行こうな」
ロイ   「うん! 約束! あっ、その時はマルス兄さんも誘ってあげようね」
エリウッド「マルスかい?」
ロイ   「うん。ポスターの被写体を探してるシャニーを最初に連れて来てくれたのは、実はマルス兄さんなんだよ」
エリウッド「そうだったのか」
ロイ   「マルス兄さんがあの話を持ちかけると、エリウッド兄さんが恥ずかしがって断るだろうからって、僕に説得する様に頼んで来たんだよ。でも実際に説得してくれたのはリン姉さんだったね」

エリウッド「そうか。マルスも素直じゃないけどいい奴だったんだなぁ。後でお礼を言わないとな」
ロイ   「うん!」

リン   「しまった……何て事なの……!」
エイリーク「どうしました? リン、襖に身を隠したりして」
リン   「しー! あっ、そうだ、エイリーク姉さん……!」

――後日、ルネス女学院付近の空き地――

マリーシア「1000!」
ティナ  「1200!」
マリア  「ほほほ、皆様甘くってよ、5000!」
???  「はい、売った!」
マリア  「やったわ! エリウッド様の『温泉スライダーで涙目』写真ゲットだぜ!」
マリーシア「ふふふ……愚かな」
ティナ  「甘いのは誰かしらね」
マリア  「何ですって!?」
???  「はい、お待たせしました! お次はエリウッド兄さんの『ノア殿のいたずらで半ケツ』写真だー!」
マリーシア「きゃーーー!」
ティナ  「待ってましたァ!」
マリア  「しくったーーー! もうお小遣いが残ってなーい!」
マリーシア「いきなり5000!」
ティナ  「なんの! 10000!」
マリーシア「くっ、13000!!」
ティナ  「っ……ならば! こんな時の為にシーフの杖でそこかしこから蓄えておいた20000ゴールドォ!」
マリーシア「ぎゃぁぁぁ!!!」
???  「はい、勝負あった。これはティナの物だよ」
ティナ  「きゃっほう! 額に入れて飾りまーす!」
マリーシア「ああーん、悔しい!」
???  「ははは、残念だったねマリアにマリーシア。でも写真はまだまだ沢山あるんだから泣くのはおよし。君達のお小遣いが溜まるまでにはまた良い写真撮っておくよ」
マリア  「マルスさま、ありがとう!」
マリーシア「ありがとう!」
マルス  「HAHAHA、こらこら抱き付くなよ、みんなが見てるじゃないか」

マルス  「さて、次はニニアンさんのとこでも行こうかな。しっかし良いバイトだったな~。ポスターに使われた写真は一枚だけだったけど、他の写真も馬鹿売れだし……は、殺気!」
リン   「マぁ~ルぅ~スぅ~!! あんたってコは!」
マルス  「げっ、リン姉さん! 何でここg……アッー! 止めて、もう極まってる、サブミッション極まってる!」
リン   「自分の兄を売るんじゃなーい!」
エイリーク「マルス」
マルス  「そ、そうか、エイリーク姉さんに気付かれていたのかァ!」
エイリーク「あなたのそれは、エリウッド兄上と、兄上を純粋に気遣ったロイの気持ちを踏みにじる行為です。猛省なさい」
マルス  「そんなっ! 僕だって家計の為にわざわざイリアくんだりまで行ってバイトして来たのに……ぐふっ!」

王子様達のバイト・完