20-609

Last-modified: 2011-05-31 (火) 03:44:35

609 :家族の絆~ヘクトルとロイ~:2009/09/12(土) 10:47:27 ID:tJFkl+2Q
ここは兄弟家。
揃っている面子が面子ならそれなりに物騒なことだったり起こったりするわけで・・・。
「いってぇ・・・」
傷だらけの姿で帰ってきたのはヘクトル。
大方喧嘩でもして帰ってきたのだろうが、今回の相手は多勢だった模様。
喧嘩自体には勝ってきたのだが、相手が多く、程度はそこまででもないが怪我をしたらしい。

「まった喧嘩してきたんだ、メタボ兄さん」
階上からコツコツと軽い足音を響かせながら、ロイが降りてきた。
その言葉は相も変わらずヘクトルに対してのみ棘があり、その言葉を聞いた彼は少し顔をしかめた。
「・・・後でシメるぞ?」
握りこぶしを作り、まだ階段の少し上に立っているロイを見上げながら返す。
しかしロイはそんなヘクトルに見向きもせず、スタスタと居間へと向かっていった。
そんな様子にイラつきながらも、ヘクトルは自室へと向かっていった。

「ったく、どうせ殴るんだったらも少し効くように殴れっつーの・・・」
そしたら地味にズキズキする痛さに耐えなくてもいいんだがなぁ。
諦め半分、腰かけていたベッドに倒れこむ。
天井を見上げながら、考えていた。
今回はどこが悪かった、数だけだと思って少し油断してたか、
久々に喧嘩売られたから少し勘が鈍ってたか。
今となっては自分の実力不足を反省するしかなく、天井を睨みながら悶々と考えていた。

と、考えていたらいきなりロイが視界に入った。
「はいはいはーい。そんなみっともないお腹を見せびらかさないでちゃんと隠したら?」
しかも喧嘩を売りながら。
もともとイライラしていたところにそんなことを吹っかけられたら、
流石に兄弟といえどヘクトルも我慢の限界。
「てめぇっ、いい加減にっ」
と、そこまで言ったところでビシャッと言う音とともにヘクトルの視界がふさがった。
何事かと思って急いで顔に手を伸ばすと、どうやらぬれタオルらしい。
突然のことに頭を冷やされたのか、彼は少し落ち着いた。
ロイが救急箱を持っていることに気がつくくらいには。
「今は杖を使える人たちはいないし、・・・それに兄さんならちょっとの怪我くらい自然回復でしょ?」
一応傷薬ならあるけど、とロイは付け加える。
ヘクトルの隣に座り込み、テキパキと救急箱の中から消毒液や湿布を取り出す。
「はい、怪我してるところ出して。やるから」
拒否権は無いようだ。

610 :家族の絆~ヘクトルとロイ~:2009/09/12(土) 10:48:07 ID:tJFkl+2Q
「ってか、いつの間に部屋に入ったんだよ」
「僕はノックしたよ? いつまでたっても返事が返ってこなかったから勝手に入らせてもらっただけ」
「それでも普通は入んねえだろが」
「どうせ寝てるか不貞腐れてるかだろうと思ったし、兄さんのことだから」
他愛もない話をしながら、こうしてちゃんと話をしたのはいつぐらい振りだろうかと、お互い思った。
二人の間には、普段の刺々しさはなく、どこかしら暖かい雰囲気が漂っていた。
「いってぇ!」
「消毒液はしみるか痛いかのどっちかでしょー」
・・・消毒液に痛がるヘクトルの反応に嬉々としているあたり、普段と変わり映えは無いのだろうと思うが。

「しっかし、お前がこういうことをしてくれるとはなぁ」
ロイに背中を向けながらヘクトルは呟いた。
普段の言動から考えると自分がこういう目に遭った時はざまあみろ、とほくそ笑むかと思っていた。
「確かにさ、ヘクトル兄さんのことはちょっと嫌いだよ」
背中に湿布を貼りながら答えるロイに、ヘクトルは少し苦笑した。
嫌いならなんでこんなことしてんだよ、と。

擦り傷になっていたところは消毒し、絆創膏を貼ったし、打撲になっていたところは湿布を貼った。
これで終わりだよ、と呟いて立ち上がる。
救急箱を片手に持ち、ドアを開いたロイは、くるりと廊下を背に向ける。
「でもね、それは少しの僕の嫉妬だったり、我が儘だったりするだけ。
家族として、弟としては、きっと順位をつけられないくらい、みんな大切なんだ」
自分が何を考えているのかわからない、どうしてこう感じるのかわからない。
それは誰だって一度は通る道だろう。自分がどういう人間なのか、この言葉が本心なのかわからないことも。
けれど、今のロイの言葉にはきっと、嘘はない。
屈託のない笑顔で、迷いのない瞳でそう言ったから。