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Last-modified: 2011-06-05 (日) 13:40:19

522 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 10:59:29 ID:qCPADmIn

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ありがとうございます。それでは、酷い有様ですを覚悟して、投下させて頂きます。

序章 日常の始まり

 紋章町。任天都炎区にあるこの町は、単なる町というには、あまりにも広大
な面積を持つ。町の中は、アカネイア地区やエレブ地区といったいくつもの
地区に区切られており、その地区それぞれが、住む者にとってはまるで一つの
大陸の中にいる様な錯覚にとらわれてしまうほど広いのだ。
そんな広大な紋章町の、ちょうど中心近くに一軒の家がある。
普通の一軒家にしては大きいが、だからといって、富裕層が住むような家ではない。
家のあちこちには急造の修理跡があり、それが毎日増え続けているこの家。
日々騒ぎと破壊音が絶えないこの家は、この町の有名な大家族一家、
通称「兄弟家」の住居である。

朝日が差し込み(文字通り、修理跡の狭間から朝日が直接家の中へ差し込んでいる)、
今日も兄弟家の、紋章町の一日が始まる。
それは、いつも通りの日々。この町の日常が、始まるのである。

523 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 11:01:02 ID:qCPADmIn

「う~、寒いなぁ」
両腕を抱き寄せながら、ロイが居間へと姿を現す。目の覚めるような紅髪は、
寝癖のせいもあり、まるで炎のようだ。
「おはよう、ロイ」
「おはよう、エリウッド兄さん」
 居間にいたエリウッドが、部屋へと入ってきたロイに声をかける。
ロイと同じ紅髪だが、エリウッドは既に朝の身支度を終え、寝癖など微塵も
残っていいない。濃いめに淹れた目覚めの紅茶を片手にしたその姿は、
朝という時間帯もあり、高貴めいた爽やかさを放っていた。
「おはよう、ロイちゃん」
「おはようございます、ロイ」
 台所にいたエリンシアとエイリークも居間の方へ来て、ロイに朝の挨拶をしてくれる。
「おはよう姉さん。シグルド兄さんはもう仕事?」
「えぇ。つい、いましがた出て行かれましたわ。」
「そっか・・・。って、あれ?」
 一家の大黒柱、シグルドの朝は早い。この時期はどうしても布団から出るのに
時間がかかってしまうため、冬の朝にシグルドの顔を見ることは少ない。
一家を支えるシグルドに、朝の見送りもしないことに多少の後ろめたさを
感じるロイであったが、そこであることに気づく。
「そういえば、ミカヤ姉さんは?いつも、この時間はまだ家にいるよね」
 一家の最年長、ミカヤは占いを生業としている。仕事柄、わりと時間が自由
に使えるのか、朝は弟妹を見送ってから仕事に向かうことが多いが、今日は姿
が見えない。
「ミカヤ姉上なら、今日は早くからニイメ殿の所へ行っているぞ」
その時、部屋の入口、ロイのすぐ背後から声が聞こえた。
「っわ!・・・え、エフラム兄さん、びっくりさせないでよ!」
 突然の声に、ロイが抗議の声を上げると、エフラムは顔にいたずらっぽい笑顔
を浮かべながら「それはすまなかったな」といって、ロイの横を通り過ぎて
自分の席に着く。
「・・・それで、ミカヤ姉さんはニイメさんのところに?こんな時間から?」
ロイも質問を重ねながら席に着く。
「あぁ。俺がランニングに行くのと同じくらいにな。なにかあったのか聞いたが、
心配するなと言われた」
「ふーん。どうしたんだろうね?」
「さぁな。」
二人が会話をしていると、
「それよりもロイちゃん、はやく顔を洗って寝癖を直してらっしゃい。
その間に、朝食を用意しておきますから」
「エフラム兄上も、シャワーを浴びてきてください。汗をかいたままにして
おくと、お風邪を召しますよ」
男二人に、エリンシアとエイリークの声がかかる。その声に素直に応じ、
二人が席を立つ。
「なにか手伝えるかい、エイリーク?」
エリウッドが声を掛けると、「大丈夫です。ありがとうございます、エリウッド兄上。
でも、席に座ってゆっくりして下さって大丈夫ですよ」台所に戻ったエイリークが答える。
―さわやかな朝。ミカヤとシグルドはいないが、いつもどおりの、静かで、
さわやかな朝だ。

524 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 11:02:53 ID:qCPADmIn

「おいっ!それは俺のハムだろうが!!」
「なにを言っている。大皿の中の料理だ。だれが食おうと勝手だろうが」
「一人二枚ずつしかねぇんだ、お前はもう自分の分食っただろうが!」
「えーい、ハムの一枚程度でうるさいやつだ!誰が一人二枚などと言った!?
そんなことは誰も言っていない、ならば早い者勝ちだろう!?」
「-全部、俺の肉だ!!」
ワーワーギャーギャー、コノヒトデーッ!!マールースー!
リンネエサンジョウダンデス、ギャーッ!アルム・・・。セリカ・・・。
ワー、ティルフィングガフッテキテ、リーフガー!コノヒトデナシーッ!!

―さわやかな、朝だった。いや、実際にいつも始まりは静かなのだ。しかし、
そこは大家族。起きだす人数が増えるにつれ、度を過ぎて賑やかになっていく。
「・・・はぁ。みんな、やめないか。ヘクトル、僕の分をあげるから、
もう許してやれ。アイク兄さんも落ち着いてください。・・・リンディス、
マルスが泡を吹いている、もう止めないか。アルム、セリカ。これ以上、屋根に
穴を開けないでくれ。リーフ、きず薬だ」
「毎朝のことながら・・・。お疲れ様、エリウッド兄さん」
こうして、兄弟家の朝は今日も賑やかに過ぎていき、すぐにみんなが学校へ
行く時間となる。

525 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 11:05:04 ID:qCPADmIn

「それでは、行ってまいります」
「行って来る」
「二人とも、気をつけるんですよ」
双子の兄妹が家を出る。二人の学校は別の方向だが、エフラムはいつも妹を
途中まで送ることにしている。それを、エイリークも悪くは思っていないらしく、
一度も断ったことはない。

「それじゃあ、行こうか。ヘクトル」
「おーう」
「待って、エリウッド!私も一緒に行っていいでしょ?」
「もちろんだよ、リンディス。ヘクトルも、構わないだろう?」
「あー?べつにいちいち断ることじゃねぇだろ」
「あらあら、相変わらず三人とも仲良しね。それじゃあ、エリウッドちゃん、
二人をよろしくね」
「姉上!リンはまだしも、俺までよろしくされるってどういうことだよ!?」
「ちょっと!まだしもってなによ!」
「はぁ。行こう、二人とも」
エレブ高校へ行く三人も、賑やかに、それでいて三人とも楽しそうに出発した。

「そろそろ僕たちも行こう、セリカ」
「えぇ。手を繋いでいきましょうね、アルム」
「二人ともいってらっしゃい。あまりシグルドお兄様のお仕事の邪魔になる
ことをしてはいけませよ。」
「「はーい」」と、二人声を揃えて、しかし姉の忠告を聞き入れる様子は見せず、
手を繋いで去っていく。

「今朝は二回しかkhdnしなかったぞ!これはいいことありそうな気がするなー。
もしかして、ついにお姉さんゲットのフラグかな?」
「二回でも十分だと思うけど・・・。まぁ、リーフがいいと思うんならいいけど。
行ってきます、姉さん。」
「行ってらっしゃい、セリスちゃん、リーフちゃん」
セリスとリーフも学校へ行き、最後に

「行ってきます、姉さん。」
「行ってらっしゃい、ロイちゃん。気をつけるんですよ」
「ありがとう。姉さんも、昼間はずっと一人なんだから、気をつけてね」
「ふふ。心配してくれてありがとう。
それじゃあ、今日も学校を楽しんでらっしゃい」
「はーい!」
末っ子のロイが、エレブ地区にある中学校へ向けて出発する。

526 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 11:06:50 ID:qCPADmIn

 一人家に残ったエリンシア。家族を送り出した後は、しばしの休憩時間だ。またすぐに家事を始めなければいけないが、それまではゆっくりしようと居間に戻ると、居間のテーブルの脇、ロイの席に手袋が置いてあるのが目に入る。
 「あら、ロイちゃん、忘れて行ってしまったのね。」
 手袋を拾い、片付けるエリンシア。今日も寒くなりそうだと、外を見てぼんやりと思いながら、今日はお鍋を作ろうかしら、などと考えるエリンシアだった。

「おはようございます、ロイ様!」
「おはよう、ウォルト」
 家を出て少し歩いた交差点で、緑髪の少年-ロイの幼馴染であるウォルトだ―
とあいさつを交わす。ウォルトはロイとは同い年で、対等な友人関係である
はずなのだが、ウォルトはいつもロイに対して敬語で話しかけ、一歩引いた態度
をとる。ロイにとってはそれが悩みの種でもあるのだが、それにウォルトは
なかなか気付かない。どうやら、彼女の姉であるレベッカを、昔エリウッドら
が助けたことがきっかけの様だが、ロイには詳しい事情は分からない。

527 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 11:08:52 ID:qCPADmIn

「今日も寒いですね。ロイ様も、体調には気を付けてくださいね。
あ、そういえば昨日、姉さんと獲ってきた猪があるんです。猪鍋は体が温かく
なりますよ!よろしければロイ様の家でも皆様で召し上がりますか?猪」
「う~ん。おいしそうだけど、うちのみんなで食べられるほど貰っちゃうと、
まるまる一頭もらっても足りそうにないからね。気持ちだけで・・・」
「そうですか・・・。ロイ様は大家族ですからね」
(というより、エンゲル係数をやたらと引き上げる人がいるんだよね)
 他愛のない話を続けながら歩いていると、その先に青い髪の少女の姿が見えてくる。
ロイ達の向かってくる方を向いて、二人を待っている。
「おはよう。ロイ、ウォルト」
 白い息を吐き、寒さのせいか頬にほんのり朱のさした顔で笑顔を作りながら、
少女が声をかけてくる。
「おはよう、リリーナ」
「おはようございます、リリーナ様」
 青い髪の少女、リリーナに挨拶を返す二人。リリーナもまたロイの幼馴染で
あり、ウォルトを含めた三人は小さい頃からの親友だ。小学生時代から、
こうして三人で待ち合わせて学校へ行くのが三人のお決まりである。
これはロイ達に友人が増えた今でも変わらない。なぜ三角支援が結べないのか、
不思議な位の関係なのだ。
「ねぇ、聞いてよ!二人とも・・・」
 リリーナが加わったことにより、会話の主導権は彼女が握ることとなる。
二人も慣れたもので、リリーナの話に相槌を打ちながら、ときおり、自分の話
も交えて学校への道を歩く。
 冬の道。道に落ちる枯葉すら、とうに風に飛ばされきって、寂しさを感じ
させる道は、しかし三人にとっては寒さなど忘れるほどに穏やかで、心地のいい道だ。

528 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 11:11:18 ID:qCPADmIn

 話をしながら歩く三人。まだ時間に余裕のあるこの時間、道を行く生徒の数
はまばらだ。いくつかの角を曲がり、交差点を横切り、もうすぐロイ達の通う
中学校が見えてこようとしたところで、ふと声がかかる。
「・・・ロイさん」
 耳を澄まさなければ聞き逃してしまいそうな声量。しかも会話をしながらだと
聞きとる方が難しそうな自分を呼ぶ声を、それでもロイの耳はしっかりと捉えた。
「ん?」
 立ち止まり、あたりを見渡すロイ。気づいたリリーナ達も足を止める。
「どうしたの、ロイ?」
「うん、ちょっと誰かに名前を呼ばれて・・・あ!」
 ロイの青い瞳が、脇道の影からそっと様子を窺うように立つ女性―少女と
いってもいいかもしれない、そんな雰囲気をもつ女性だ―の姿をとらえる。
闇色のローブから、碧紅のオッドアイがロイの方をまっすぐに見つめている。
「イドゥンさん。それにファも。おはようございます、二人でお散歩ですか?」
 イドゥンの傍らに立つ少女の姿もとらえ、ロイが笑顔を浮かべながら声をかける。
「おはようございます」
「・・・おはよう、ロイのお兄ちゃん。あのね・・・、ファは、これから
イドゥンお姉ちゃんとお出かけするの・・・」
 ロイの言葉に返事をするファ。しかし、その声にはいつもの元気さが感じ
られない。その小さな瞳は、ロイの顔を見上げることはせず、地面を向いていた。
「・・・ごめん。二人とも、先に行っててくれないか?」
 ロイが突然、リリーナ達の方を振り返って告げる。
「え?ロイ様、どうかされたのですか?」
「ちょっと、二人と話していこうかと思って。悪いけど、いいかな?」
 ロイが本当に申し訳なさそうな顔を作って顔の前で手を合わせると、
「・・・わかったわ。でも、遅刻はしないようにね?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、リリーナ」
 リリーナが、『またいつものクセがはじまった』というような顔をして
ウォルトの方へ向き直る。その顔を見てウォルトもなにかを読み取ったのか、
「それでは、失礼します」と声をかけてから学校へと歩いて行く。
「・・・ロイさん、よろしいのですか?」
「うん。だって、僕に用があって声をかけてくれたのでしょう?それに、」
 ロイはその場に屈んで、ファの小さな頭を撫でる。
「せっかくお姉ちゃんとお出かけするのに、
どうしてそんな顔をしているんだい、ファ?
なにか、僕に言いたいことがあるから、この道で僕を待っててくれたんだろう?」
「―お兄ちゃん」
 まだ、声には元気がない。しかしそれでも、今度はしっかりとロイの顔を見る
ファ。その顔は、いまにも泣きだしそうな顔だった。

529 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/28(月) 11:12:39 ID:qCPADmIn

 リリーナが、いかにも機嫌の悪そうな顔を浮かべて歩く。その後ろには
ウォルトも付いているが、さわらぬ神になんとやら、余計な事を言わないよう
にして歩いている。
いつものクセ。ロイの、というよりも、このクセは彼の兄弟全員のクセだ。
誰かが困っていると、それを助けずにはいられない性格。関係ないことでも、
すぐに首を突っ込んでしまうお人よしが過ぎるクセ。しかしそれは悪癖では
なく、むしろ彼ら兄弟の周りに、彼らを慕う人々が集まる要因となる、
好ましいものだとリリーナは思っている。
しかし――
(『また』、女の子!)
 感想(それ)と感情(これ)とは、また別の問題であるのだ。