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Last-modified: 2011-06-05 (日) 13:42:18

547 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/29(火) 19:47:40 ID:mcm5YQwi

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アイク兄さんなら素手でMSと戦える・・・!

544
ティニーさん、家族ぐるみで決戦とか凄すぎます。

みなさん、感想ありがとうございます!
感想を書いていただけると、本当に嬉しいですね!
ということで、つづきを投下させていただきます。

序章 日常の始まり(後編)

 リリーナとウォルトを見送りながら、ロイ達は脇道の少し奥へと進む。
数はまばらとはいえ、通学路を通る生徒はいる。その目を気にしてのことだ。
「それで、なにかあったのですか?」
 ある程度歩いたところで、ロイが足を止めて話を切り出す。
「・・・・・・」
 イドゥンは答えない。ただ、ファと同じく、ロイの顔を見つめてくるばかりだ。
オッドアイがまっすぐにロイの瞳を捉える。
 年上の女性にじっと見つめられ、ロイの中に小さな緊張が生まれる。
「あの、言いにくいことだったらいいんです。でも、僕に何かできることが
あるなら・・・」
 ロイが再び尋ねるが、イドゥンの反応は変わらない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 ここまで反応がないと、自分の思いすごしなのかと思ってきてしまう。
もしそうだとすると、友達を先に行かせ、人目の付きにくいところまで連れて
きた自分が急に恥ずかしくなってきて、ロイの顔が赤くなりかける。

 そもそも、彼はイドゥンのことをそこまで知っているわけではない。近頃
よく兄弟家を訪ねるようになり、エフラムやリーフなどと話をしているのは
見るし、その中でロイ自身が彼女と会話を交わすこともある。
しかし、それはあくまで「こともある」程度で、会話の中心としてロイと
イドゥンがあるわけではない。
だから、ロイにとってイドゥンとはリリーナやウォルトのように気軽に話せる
存在ではないのだ―それでも、彼女に困ったことがあると思えばこうして話を
聞こうとするあたりがなんとも彼らしいが―。
「やっぱり僕の思いすごし、ですか?
別に、ホントにただ出かける時に、姿を見たから声をかけてくれただけ、
だったり・・・?」
 本格的に恥ずかしくなってきたロイが、(思いすごしだったら嫌だな、でも、
なにもないならその方がいいんだよね?)などと複雑な気分でもう一度声を
かけると、やっとイドゥンが口開く。

548 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/29(火) 19:52:27 ID:mcm5YQwi
「・・・ロイさん」
 そして、イドゥンは、唐突に彼の左手に自らの手を伸ばすと、それを両手に
包み、抱え込むようにして自分の胸元に持ってくる。
彼女の眼は、今なおまっすぐに、ロイを見つめている。
「――ッ!」
 ロイの顔が、今度こそ真っ赤になる。握られた手。顔の先には、神秘的な瞳
を持つ美少女。その瞳が、真剣な、そして愁いを帯びた色で彼の姿を映し出す。
健全な青少年であるロイは、それだけで体の奥から熱がわいてくるような感覚に
とらわれてしまう。
それと対照的な握られた手から伝わる冷たさが、やっぱり本当に自分に相談が
あるのではないかと思わせてしまう。
 イドゥンに何か困ったことがあって、それをロイに相談しに来るのはあり
得ないことではないだろう。
そもそも、兄弟家の中で最初にイドゥンと知り合ったのはロイだし、そのとき
彼はある事件の渦中にあったイドゥンを助け出すこととなったのだ。
彼が、彼自身の象徴ともいえる【封印の剣】手にしたこととなったその事件
―ここでは多くを語れないが―について考えれば、イドゥンが彼に助けを
求めるのは不自然でないと言える。
 彼女はまた何かの事件に巻き込まれ、それで自分を頼って来ているのでは?
 ロイがそこまで考えると、イドゥンが再びその口を開く。
「―手、冷たいですね」
「え?」
 その言葉で、ロイはやっと手袋を忘れてきたことに気づいた。
「―寒く、ないんですか?」
「えっと、まぁ。そういえば少し、寒い、かな?」
 なんだか、また自分の予想する会話の流れからはずれて来ている気がする。
 『あなたの力が必要です、助けてください!』ぐらい言われるかと思って
いたロイを置いて、イドゥンは続ける。
「寒いと、風邪をひいてしまうそうです」
「はぁ」
「気を付けてくださいね」
「・・・ありがとうございます」
 そこで、じっと二人の会話を聞いていたファが「ロイのお兄ちゃん、寒いの?
ファの手袋、かしてあげようか?」と見上げてくるので、ロイは首を横に振り
ながら空いている右手で頭をなでてやる。
ほんの少し前に彼の内でわいた熱は、行き場を見失い急速に冷めてきている。
「・・・それでは、私たちは行くところがあるので、失礼します。
ファ、行きましょう」
「・・・・・・・・・うん」
 そして、握ってきたとき同様、突然ロイの手を離して、イドゥンはぺこりと
頭を下げてロイに背を向ける。
ファは、しばらくロイと姉を交互に見やり、やがて「ばいばい、お兄ちゃん。
ファ、お姉ちゃんが行くから、行くね」と言って姉の背を追いかけた。
「え、あの・・・」
 流れに全くついていけず、一人取り残されるロイ。
北風が、手袋のない指先を芯から凍らせるように感じる。
「さ、寒い・・・。空気だけでなく、僕のこの状況が。
・・・結局、なんにも無かったってことで、いいんだよね?」

549 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/29(火) 19:54:51 ID:mcm5YQwi
11
 彼女がロイに助けを求めるのは過去の経験から不自然ではない。しかし考え
てみれば、彼女はいまやアイクやエフラムといった、より頼りになる兄達と
知り合っている。
ロイに助けを求めるのは不自然ではないが、彼らを頼ったほうがより自然だろう。
 そう思い至り―先ほどのファの顔と、真剣な、どこか思いつめたようにも見えた
オッドアイがまだ頭の中にちらついてはいたが―、彼は通学路に戻る。
「・・・まぁ、いいか。
行こう。遅刻したら、セシリア先生とリリーナに叱られてしまう。」
もうじき、学校の予鈴が聞こえるだろう。気持ち急いで、彼は友達が待って
いるであろう学校(にちじょう)へと向かっていく―――。

550 :とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール):2009/12/29(火) 19:57:42 ID:mcm5YQwi
12
「――お姉ちゃん」
「・・・・・・」
「お姉ちゃん、ロイのお兄ちゃんに言わないでよかったの?」
「・・・・・・」
「それに、おじいちゃんたちに内緒でおでかけしていいの?怒られない?」
「・・・・・・」
 竜の姉妹の会話。会話というには、いささか一方的すぎるが。
「・・・ファ、怖いよう。」
「・・・大丈夫よ、ファ」
 妹の泣きそうな声を聞き、イドゥンが慰めるように答える。
「あの方の言うことは、間違えているとは思えなかった」
『正しい』とは言わない。言えない。
だからこそ、彼女たちはロイのもとをいちいち訪ねたのだが・・・。
「それに、これは私たちの問題。ロイさんに相談したら、きっと、いえ、確実
にロイさんを巻き込んで、迷惑をかけてしまうわ。だから、これでいいの」
 妹というより、自分に言い聞かせるような言葉。

 そうこうしている内に、彼女たちは目的の場所へとたどり着く。
そこには、一人の男が待っていた。短い金髪に、金のサークレット。
その下にある眼光は鋭く、ただ立っているだけで威圧感を放つような巨漢だ。
身につけている服や小物は、華美ではないものの安物ではないことが一目で
知れ、実用性とシンプルなデザインならではの落ち着きを兼ね備えている。
質実剛健。そんな言葉が似合いそうな男は、その外見に違わず、落ち着いた
低い声でイドゥン達に声をかける。
「来たか。遅かったな」
「申し訳ありません」
 男の姿を見て、ファはますます不安そうな顔になって、姉の背中に隠れてしまう。
「大丈夫よ、ファ」
 何度目か分からないセリフ。
「この方の言うことに従えば、私たちでもこの町の皆さまの役に立てるわ。
そうすれば、おじい様やおじ様たちを、安心させることができるわ。
――そうですよね?」
 感情の窺えない声色。
しかし、その言葉はやはり、不安がっている妹と、自分を安心させるためのものだ。
「うむ。お前たちの協力があれば、今日にでもこの町をよりよくすることが、
『開放』することが出来るだろう。
だが、そのためにはまだ、足りないものがある」
「足りないもの?」
「――【封印の剣】」
 男は、笑みを浮かべる。それは、けして目の前にいる竜の少女を安心させる
ためのものではない。
自然と浮かび上がった笑み。歓喜の笑みでも、邪悪な哄笑でもない。
ただ、己の夢の実現を前にした、抑えきれない無感情だった。