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Last-modified: 2011-08-15 (月) 00:53:27

「にいさま、ここはどうするの?」
「ああ…そこは壁蹴りを使ったほうが楽だ」
一月のある休日の昼下がり、いつものように暇を持て余したサラがリワープで俺の部屋に押しかけ、暇だから遊べ
などと言ってきた。なので、俺の携帯二画面ゲーム機と配管工アクションゲームを与えてやった。
この手のゲームは初めてだと言っていたが、中々筋が良く、既に結構な数のステージをクリアしている。
そこまではいい。
「あ、ちょっとにいさま、動かないで」
「…どけとは言わないが、少しぐらい自由にさせろ」
なぜ動くことを咎められたかと言うと、この紫の悪魔が俺の膝上を陣取り、背中を俺の体前面に預けているからだ。
一言で言ってしまえば座椅子の様な扱いをされてしまっている。
「駄目、にいさまはあたし専用の座椅子なんだから」
…こいつが多少なりとも丸くなる前は散々変態だのロリコンだのと言われたが、変態と座椅子ではどちらの方が
ましなのだろうか。悪評ではないということを考えると座椅子か?…なぜこんなことを真面目に考えているんだ俺は。
「にいさま」
「ん…何だ?」
俺が心底どうでもいい事を考えている間に、サラは既にゲームをやめてこちらに向き直っていた。集中していなかったとはいえ
俺に気付かれずに体勢を入れ替えるとは、妙なところで器用な奴だ。
「お願いがあるんだけど…いい?」
「まあ…言ってみろ」

「…付き合って」

………………………………………っは!?いかん、一瞬頭の働きが停止してしまった。
今何と言ったんだこいつは…?俺の耳が確かならば付き合ってとかそんな感じの言葉だったような気がする。
付き合うというのはやはり男女交際的なあれなのだろうか?いやしかしサラはまだ子供で…その前に俺は
こいつをどう思って…いや何を考えている!?こいつは子供で、守るべき対象なだけだ…そうに決まっている。
だが……いやいかん!本当に俺は何を考えているんだ!?

「サラ…俺は…」
「初詣に行くのに付き合って欲しいんだけど」
「……は?」
「なんか人多いから元旦に行くのやめたんだけど、気付いたらこんな日になっちゃって、一人で行ってもつまんないし
 にいさま、一緒に行ってくれない?」
「あ、ああ……そうか」
…なんだ、そういうことか…てっきり俺は…いや、あんな言い方だと誰だって誤解するに決まっている。
大体なんだあの台詞は、色々抜け落ち過ぎだろうが!全く何を考えているんだ…。
「どうしたの?何か変な期待した?」
その問題のある台詞を吐いた本人は、一点の曇りも無い笑顔を浮かべて俺を見ている。実にいい笑顔だ。
こいつ…分かってて言ったな…考えなくてもいいことを考えてしまった、全く…。
「…期待などするか、さっさと行くぞ」
何か妙に気恥ずかしくなってしまい、話を切り上げるために特に何も考えずに承諾してしまった。
やれやれだ、今日は家でのんびりするつもりだったんだが…ん?もしかして…嵌められたのか?

「こんなところに神社があったんだ」
「まあ、少し分かり難いところにあるからな」
サラがいつもリワープで飛んでくるから近くに神社仏閣があるかわからないと言うので、俺は家から
少し歩いたところにある神社まで案内してきた。小さいところだがその分人もいない、さっさと済ませるには最適だ。
「よし、行くか」
「……ここ、上るの?」
サラの言う『ここ』とは、この神社の石段のことだ。結構な段数があり、この神社の数少ない見所というやつだ。
「上らなきゃ行けないだろう」
「…抱っこして」
「…何だって?」
「だってここ、結構段数ありそうだし、凍ってるし、危ないじゃない」
「だからってお前…」
「守ってくれるんでしょ?」
…自らの信念を引き合いに出されてはどうしようもない、こいつには駆け引きで勝てる気がしない。

「にいさま、大丈夫?」
サラを抱いて石段を上っている最中、珍しく俺を心配する言葉が聞こえてきた、自分で仕向けたこととはいえ
少しは危ないと思ってくれたのだろうか。
「心配ない。俺も鍛えてるからな、それにお前…見た目どおり華奢だな、大分軽いぞ」
「…そう、ありがと。にいさまがあたしのこと華奢とか可憐だって思ってくれてたなんて知らなかった」
「言った覚えの無い台詞が聞こえたが」
「褒めてくれたからお礼しなきゃ…今ならちょっとくらいのイタズラなら見逃してあげてもいいよ?」
「…何もしないぞ」

「ところで、にいさまは何か願い事した?」
参拝を終えて戻る途中、サラが俺の願い事を聞いてきた。願い事と言っても、俺の願いは毎年同じようなものなので
願いというより目標の確認と言ったほうが適切だが。
「強くなることだな、それ以外を願ったことはあまりないな」
「そう、にいさまらしいわ」
「お前は何を願ったんだ?」
「そうね、にいさまがあたしのお願いを何でも聞いてくれますようにって」
今でも十分聞いてやってるだろうという言葉が出掛かるが、慌てて飲み込む。下手なことを言うとさらに無茶なこと
を言われかねん。
「…お願いしようと思ったけど、よく考えたらにいさまはもうあたしの言うこと何でも聞いてくれるから、リーフに
 この世のあらゆる災厄が降りかかりますようにってお願いしたわ」
一瞬リーフのことを不憫な奴だと思ったが、考えてみるとリーフに何が起こっても死んで復活するだけなので
気にするのを止めた、今年も元気にあの世とこの世を往復する生活を送るんだな、弟よ。

「あ…エフラム」
「あー!エフラムのお兄ちゃんみっけ!」
「とつげきー!」
不意に聞き慣れた声が耳に入り、声のした方を向くと、紫と緑と桃色の弾丸が俺に向かって突進してきた。慌てて両腕を広げて
ミルラ、チキ、ファの三人を受け止める、あと少し遅れていたら側面からのタックルをもろに食らっていたところだ。
「こんなところに集まってどうした?遊びに来たのか?」
「ちがうよー、『はつもうで』にきたの」
「…おとうさんが、年始は人が多くて危ないからこの時期にしなさいって…」
…意外と過保護なんだな、竜王家。
「それで、三人で来たのか?」
「ううん、ユリウスお兄ちゃんと来たの」
「…おいチビども、勝手に先行くなっていっただろーが」
「何だ、お前が引率してたのか」
「年寄り連中が一緒に行けって煩いんだよ…昼寝してたのに叩き起こされたんだぜ?自分達でやれっつーの」
見るからに不機嫌な様子だ、まあ、気持ちは分かる。
「…エフラムはどうしてここに来たんですか?」
「ああ…それは…」
「あたしと遊びに来たの、ね?にいさま」
「……!」
俺が言い終わらない内にサラが割り込んで来る、何故か俺の腕に自分の腕を絡ませながらだ。それを見た
ミルラの目が僅かに釣り上がった気がした。
「ねえにいさま、早く帰って遊びの続きしよ?」
「…いや、少し待ってくれ」
何故かは分からないが、今はミルラと話さないとまずい気がする。何故かは本当に分からないが。
「冷たいのね…さっきはあんなに優しく抱いてくれたのに…」
「…!!?」
違うだろ!と突っ込みを入れたいが、間違ったことを言っているわけではないのが実に厄介だ。それを聞いた
ミルラの伏し目がちの目が大きく見開かれる。お前…そんな顔も出来たんだな、初めて見たぞ。
「お兄ちゃん…私も遊びに行っていいですか?」
「あ、ああ…いいぞ」
別に拒むつもりは無いが、何やら妙な圧力を感じた。この俺が気圧されるとは…俺の知らないミルラを見た気がする。
一体何なんだ今日は…。そういえば、ミルラが俺をお兄ちゃんと呼ぶのも久しぶりのような気がする。
「そう…いいわ、一緒に遊びましょう?」
「………」
心底楽しそうにくすくすと笑うサラとは反対に、ミルラは能面を貼り付けたかの様にに無表情だ。…一体何なんだこの状況は。
二人から異様な圧力を感じる。まるで竜が大きく口を開けている前で紫の大蛇に締め上げられているかの様だ。
「…何なんだ…本当に…」

「あれ?おねえちゃんたちどうしちゃったの?」
「あー!知ってる、ユリアお姉ちゃんが言ってた!『女のたたかい』ってやつだよね」
「お前ら分かんないで言ってるだろ…しかし、モテるってのもいいことばっかりじゃないんだな…女ってこえー…」

終わり