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Last-modified: 2012-08-24 (金) 20:11:09

11 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/02(火) 13:35:59 ID:G0CAxu28

22

「………」
ターナは無言でエフラムの足首に傷薬を塗っていく。
なるべく顔は見ないようにした。
エフラムの顔を見たらまた酷い言葉をぶつけてしまいそうで怖かった。
「すまん…助かった……」
無視を決め込む。
リフ住職に背を押されて来てはみたが、当分口も聞いてやらないと決めている。
だがエフラムの言葉は耳に入ってくる。
「ターナ…お前がどうして怒っているのか、あれから考えてみた…」
気にも留めてない振りをしながら足首に包帯を巻いていく。
「町に帰ったら一度話しをしたい。後で日時と場所を連絡する。
 お前がどうしても俺を許せなければ無視してくれて構わん」
ほんのわずかでもエフラムが自分のことを考えていたと思うと嬉しくなる。
…が、このくらいで口を聞くつもりもない。
粉々になった乙女のプライドはお安くないのだ。

エフラムを天馬の背に乗せて飛ぶ間も、気まずい沈黙が続いた。
エフラムもあれから口を開かない。元々口数の多い人ではないが何を思っているのだろう…
後ろを振り向きたい衝動を耐えながら、ターナは麓を目指して天馬を駆った。

12 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/02(火) 13:36:42 ID:G0CAxu28

23

寺の境内から一人の僧侶が空を見上げている。
「おお、エフラム君は迷いのない顔をしていますね…はてさて何を悟ったのでしょうか…」

それからの数日は慌しく過ぎていった。
エフラムもあれからあえてターナに声をかけることはなかった。
話は然るべき時に然るべき場所で…と、いうことだろう。
一寸の淀みもなく修行に集中する姿はリフをして感嘆させるものであった。
やがて休学期間も終わり、町に帰る2人を見送る時がやってきた。
「住職…お世話になりました…幼女フィギュアは後ほど着払いで送ってくだされば…」
「ええ、わかりました。また迷いがあるときはいつでもおいでなさい」
エフラムは一瞬躊躇いの顔を見せた後、口を開いた。
「俺が崖から落ちることはお見通しだったのですか?」
「…君が迷いを抱えていることは感じました。そういったこともありえる…そういうことです」

2人を見送ったリフはしばらく境内で物思いに耽った。
人の心はままならないものであるが、若人たちのささやかな幸福を御仏に祈らずにはいられなかった。

13 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/02(火) 13:37:35 ID:G0CAxu28

24

翌朝の紋章町は雪に覆われていた。
通学路をいく生徒達もコートやマフラーに身を包んでいる。
久々に学校への道を歩くターナ。
視線の先に2人の親友を見つけると駆け寄って声をかける。
「おはよっ!」
気分転換気分転換。
寺にいる間、ずっと難しい顔をしていたから、友達の前では明るく朗らかなターナに戻らなきゃ。
「あっおはようございますターナ」
「おはようございますわ!」
振り返った2人は一枚のマフラーを2人で巻いて寄り添っていた。
さりげなくラーチェルはエイリークの腕に腕を絡めている。
心の中でヒーニアスにご愁傷様…なんてことを思ってしまった。
もっともターナははなからヒーニアスの恋路など応援していない。
以前海で大事な場面を邪魔されたこともあるし…
「いかがでしたエフラムとはっ!なにか進展はありまして?」
好奇心に瞳を輝かせる親友に苦笑せざるをえない。
「あー…あはは、まあなんていうか…とりあえず今度会ってくれるって…」
「きゃ~~~それってデート、デートですのね!おめでとうございますわターナ!」
「よかった…兄上もこれで更正…こ、こほん…その…不束な兄ですが今後とも末永くよろしくお願いします」
エイリークの言葉が色々気になるが、まぁそこは突っ込まないでおこう。
「それでどこでデートしますの?」
「さあ?…連絡をくれるって言ってたから、今日明日くらいにはメールでもくれると思うけど…」
ラーチェルとエイリークはきゃいきゃいとはしゃぎだす。
やっぱり女の子。人のこういう話は大好物。
その姿を見てると思う。ああ…自分も人の恋バナではしゃぐときはこうなんだなぁ…って。

「よければわたくしとエイリークも一緒に行ってダブルデートなんてどうでしょうか?
 4人で遊ぶととっても楽しいですわ!」
どうみても野次馬根性丸出しだ。
まぁエイリークとデートしたいというのも大きいんだろうが今回は遠慮してほしい。
「もう駄目ですよラーチェル。きっとターナにとって大切な日になるんですから…
 デートなら今度2人で…そうですね。お買い物にでも行きましょうか?」
「きゃ~~~嬉しいですわ~~~♪」
人目も憚らずラーチェルはエイリークに抱きついてはしゃいでいる。
「えっとね…それはいいけど、そろそろ行かないと遅刻しちゃうわよ?」
苦笑しつつも突っ込んであげる。
ほっといたらいつまでもハートマークを飛ばしていそうだ。
ラーチェルを抱きとめて心地よさそうにじゃれあっていたエイリークも慌てて駆け出すのだった。
その手を引いて……

14 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/02(火) 13:38:19 ID:G0CAxu28

25

夕刻、雪の振る中をターナは帰宅した。
家の門を潜り、庭に入ったところでヒーニアスと行き会う。
「あらお兄様、今からお出かけ?」
ヒーニアスはなにやら手提げ袋を持っていた。
またエイリークに贈り物でもするのだろうか。
「うむ、これからエイリークに心づくしの贈り物をするのだ。彼女の喜ぶ顔が目に浮かぶ…
 学校を卒業したらすぐに式だ。お前も近い将来姉妹になるのだから仲良くするのだぞ」
適当に聞き流す。
だがそれも長くは続かなかった。
「この贈り物を見てくれ。これをどう思う?」
ヒーニアスが手提げから取り出したそれは……
「なにこれ?パソコンソフト?」
「うむ、優秀さんに開発を依頼していた乙女向け恋愛アドベンチャー、その名も素敵『ヒーニアスといっしょ』だ。
 私とてエイリークと24時間一緒にいられるわけではないからな。
 エイリークが寂しがるであろう時間をこれで埋めてもらおうと思ったのだ。
 私と会話したりデートしたりさまざまな恋愛シチュエーションを楽しめる優れものだ。
 CG枚数245枚(ヒーニアス100%)フルボイス、声優は当然私だ。
 エンディングパターンは25、しかもバッドエンドはなし。主人公の名前はエイリーク(変更不可)……」
「あ~~もう、わかったわかったから!すばらしーわねはやくとどけてあげたら(棒読み)」
途中で言葉を切る。
突っ込みどころは満載だが突っ込んだら「なに、この素晴らしさがわからんとは!?」ってな感じでウザい講釈が初まりそうだ。
「おっとそうだな、待っててくれエイリーク!」
「ああもう…」
ため息がでる。
その時、塀の向こうから手槍が飛んできてヒーニアスに突き刺さった!
「アッー!タスケテエイリーク!」
ヒーニアスに刺さった手槍には手紙が括り付けられていた。
「これは?」
早速手にとって読んでみる。
「これはエフラムから…そ、そうだったわ、エフラムは携帯持ってないんだった…」
今時の若者らしからぬ古風な男である。考えてみればターナもメールなど貰ったことは一度もない。
筆と墨で書かれた手紙は達筆すぎて解読に時間がかかった。 
内容は簡潔に日時と場所のみが記されていた。

「…………」
行くかどうか…初めから答えは出ている。
ターナは服を選ぶべく自室へと入っていった。

乙女の勝負はいよいよ正念場だ……

続く