30-248

Last-modified: 2012-09-10 (月) 19:52:11

248 :ネサラ、風邪を引く 前編 1/3:2010/10/03(日) 15:55:03 ID:0FO+I48r

ある昼下がり、エリンシアは縁側に腰掛け、お茶を飲みながら鼻血を出していた。
それはまるで破廉恥な妄想をしたリーフのようにである。
理由は単純、庭でアイクが筋肉を見せて素振りをしていたからだ。

「ふん!ふん!」
ああ、なんて素晴らしいKINNNIKUですわ…抱きしめたいですわ、KINNNIKU!
「む、何か来るな?」
何かの気配を察知したのか、アイクちゃんが素振りをやめる。
「あら、今日は特に誰か来るようなことはなかったはずですわ」
「しかし…何者かが飛んで来ている気配があるぞ、む、あれか」
アイクちゃんが指差した先には美しい白い翼と美しい金髪の少女が飛んでいた。
「リアーネ…だな。何やら焦っているようだが」
「あら、どうしたのかしら?」
「後ろにニアルチもいるな」
アイクちゃんがそう呟くとリアーネさんが庭に降り立つ。少し遅れてニアルチさんも着地する。
「こん…ちは!」
「お邪魔します、エリンシア様、アイク殿」
「こんにちはリアーネさん、ニアルチさん」
「ああ、元気そうだな」
「それで、本日はどうされましたか?何やら焦っているみたいですが」
「ネサラが…」
「坊ちゃまが風邪を引きまして…看病の仕方を習いたいのだそうです」
意外だ…ネサラさんは病気とは無縁なイメージがあった…
「あら…ネサラ様が風邪ですか」
「鴉王がだと?珍しいな、昨日は元気そうだったのだが」
「それが…今朝帰って来られたら何故かずぶ濡れでして、それが原因みたいなのです」
それは風邪を引きますわね…というか引かない方がおかしいです。
「そうか…なら見舞いに行こう」
アイクちゃんが見舞いに行くのなら私は行かなくてもよさそうだ。
なら私はリアーネさんに風邪によく効く卵酒の作り方でも教えましょうかね。
「ならリアーネさんには卵酒の作り方でも教えますわ」
「よろ…く、おねがい…ます!」

台所に移動し、ニアルチさんに通訳を頼みながら卵酒の作り方を教える。
リアーネさんは飲み込みが早く、どんどん作り方を覚えていく。
そしてリアーネさんが一人で作った卵酒を飲み、無事できたことを確認する。
「うん、おいしいですわ。これなら大丈夫です」
「よかった!」
「どれ、爺めにもいただけますか…うむ、おいしいですぞ」
「これならネサラ様も喜ぶと思います」
そう言われたリアーネさんの顔はとても嬉しそうだった。

「では行ってくる」
「ありがとう…ございました!」
「エリンシア様、ありがとうございました」
「はい、ネサラ様にもよろしくお伝えください」
三人を見送る。アイクちゃんは走り、リアーネさんとニアルチさんは空を飛んで行く。
三人が見えなくなるのを確認し、私はそろそろ帰ってくる弟妹のために夕飯の支度をするのだった。

249 :ネサラ、風邪を引く 前編 2/3:2010/10/03(日) 15:56:01 ID:0FO+I48r

「鴉王、あんたが風邪を引くとは珍しいな。ほら、エリンシアからだ」
「アイクか…一晩中ずぶ濡れだったからな。さすがに風邪も引くさ。助かる」
アイクはエリンシアに渡された手土産をネサラに渡しながら会話をしていた。
ちなみに手土産の中身はお粥である。冷めてもおいしいそうだ。

思ったよりも元気そうだな。以前レテが風邪引いた時には大変だったはずだが。
この分なら一日寝ていれば治るだろう。しかし鴉王も意外と弱いのだな。
一晩中ずぶ濡れになった程度で風邪を引くとは情けない。
「お、お粥か。助かるぜ、まだ温かいし美味そうだな」
鴉王はお粥の入ったタッパーを開け、早速食べはじめる。
温かいのは俺が急いで持ってきたからだろう。いい修業になったな。
「あ、食べるか?」
唐突に鴉王がタッパーを差し出し尋ねてくる。何故だ?
「いや、大丈夫だ」
「そうか。いや、物欲しそうな顔で見てくるからてっきり…」
…さすがに病人から食事を貰うのは気が引ける。お粥だから肉もないしな。
ネサラはそうか、と答えお粥を再び食べ始めていた。そろそろ帰るとするか。
「とりあえず元気そうだし安心した。そろそろ帰るぞ」
「ん、ああ、すまないな。タッパーはどうする?」
「次来るときにでも返してくれ、だそうだ」
「わかった。ありがとうな」

アイクがネサラの部屋を出た頃、リアーネはというと…
できた!これでネサラも喜ぶ!
「リアーネお嬢様、アイク殿がお帰りになるみたいですぞ」
「わかった、すぐ行く」
玄関に向かい、帰る支度をしているアイクさんに声をかける。
「ありがとう……ました!」
「ん、ああ。思ったより元気そうで安心した。リアーネも頑張れよ」
頑張る…?何を?
「じゃあ俺は帰るぞ。また何かあったらエリンシアにでも聞いてくれ」
アイクさんは手を振りながら走り出していった…さっきよりも早いスピードで。
台所に戻ろうと思ったら新たな来客が現れた。あの姿は…
「おお、リアーネ姫にニアルチ老!鴉王が倒れたと聞いて伯父貴の代わりに見舞いに来たぞ!」
どうみてもお酒にしか見えない包みを持ってきたのはガリアの次期国王候補スクリミルだった。
「風邪を引いたなら酒がよく効くっていうからな!上等なのを持ってきたぞ」
「え…えーと…」
「リアーネ姫、心配なさるな!弱いから大丈夫だぞ!」
え、ち、違うの!私が先に卵酒を…
そんな願いを理解しないスクリミルはさっさとネサラの部屋へ行くのだった…

250 :ネサラ、風邪を引く 前編 3/3:2010/10/03(日) 15:56:51 ID:0FO+I48r

まったく…病人を見舞いに来たのか、宴会に来たのかわからないな。

ネサラはスクリミルの持ってきたブランデーを飲みながら苦笑いしていた。
隣の部屋では病人を差し置いて集まった奴らで宴会を始めている。
スクリミル、ティバーン、サナキ、ペレアスなどなど…各地の関係者が集まっていた。
集まったのはネサラの風邪が誇張され、危篤とまで伝わったとはネサラは知らない。
そんなことを知らないネサラはまだまだ俺も捨てたもんじゃないねぇ…と思っていた。

笑いながら再び横になろうとすると、ドアをノックする音が聴こえた。
「ん、誰だ?入っていいぞ」
ゆっくりとドアを開いたのはリアーネだった。そういえば今日はあまり話してないな。
「リアーネか、どうした?」
「あ、エリンシア様から習った卵酒を持ってきたの!」
ついさっきまでブランデーを飲んでいた身としてはあまり飲む気はしない。
しかし一生懸命頑張って作ったの!という表情で言われて断る馬鹿はいないだろう。
「わざわざ悪いな…くれ」
「うん!」
とても嬉しそうな顔をしたリアーネを見ているとそんなことはどうでもよくなる。
手渡された卵酒を一口飲む。身体が暖まる…優しい味だ。
「どう?」
「うまいよ。身体が暖まる」
「よかった」
「そうだ、リアーネも飲むか?」
そういって新たなワイングラスを差し出す。ブランデーはまだまだあるしな。
「うん!」
ワイングラスを受け取りながらリアーネは頷いた。そこにブランデーを注ぐ。
それをゆっくりと飲むリアーネ。どこか不思議そうな表情だ。
「あれ?お前酒飲んだことないのか?」
「ない…の。でも美味しい」
「そうか、ならもっと飲むか?」
「うん!」
これが、過ちだとは…その時のネサラは気がつかなかった…

続く!

白鷺の人は酒飲めるかわからないけど飲ませた。たぶん大丈夫なはず