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Last-modified: 2011-06-06 (月) 21:51:57

192 名前: 狼と銀の乙女 2 [sage] 投稿日: 2011/01/24(月) 14:51:54 ID:l0tB9UF+
「いやー、ニケさん昔はかなりやんちゃだったんですね」
「まあな……正直忘れたい」
「それを言うなら私もよ!あんな根暗ちゃんだったなんて他の兄弟に知られたら、お姉ちゃんは……お姉ちゃんは………」
「何が知られたらマズいんだよ、姉貴」
「ヘ、ヘクトル!?」
「おう、帰ったぜ。ところでなんの話なんだ?」
「実はカクカクシカジカ………」
「マルスはんな面白そうな話を聞いてたのかよ。俺にも聞かせてくれ」
「ああ、構わんぞ」
「いやーーーーーーーー!」

次の日、私は珍しく早起きだった。ある奴が起こしに来たからだ。
「……起きて………」
「zzz………」
「起きて下さい………」
「ムニャ……後5時間………」
「長いわね……仕方ない、起こすためだから、起こすためだからね?別に昨日の仕返しとかそういうのじゃないからね?……せーの、セイニー!」
瞼の裏に凄まじい閃光が走ったかと思うと、私の体に激痛が走った。痛みで眠気が吹き飛んで、ベッドから飛び起きる。
「あ、起きた」
「寝てるところに魔法を叩き込まれたら誰でも目覚めるわぁ!」
怒鳴りながらそんな事をしてきた常識知らずの姿を探す。
ベッドの側にいたのは昨日殴った銀髪だった。
「てめえ、随分手の込んだ嫌がらせだな」
「別に。ニケさんいつも遅刻してるから間に合わせてあげようと思って」
「チイッ……家の場所は名簿で分かるだろうけど、どうやって入ってきたんだ?」
「アンロックの杖で鍵をこう………」
「帰れ犯罪者」
ミカヤのテンプルに向けてハイキックを繰り出すが、顔を傾けてかわされる。流石に当たらないか。
「一緒に学校行こう?」
「断る」
不法侵入者の頼みなんて誰が受けるか。大体私はお前が嫌いなんだ。
「そんな事思わないで、お願い……一緒に………」
うつむきながら小さな声で呟くミカヤは、何かに怯えているようだ。やめろ、苛々するだろ。
私は座り込んでいるミカヤの襟を掴むと、持ち上げた。小柄で軽いその体は、簡単に宙に浮く。
「ウザいぞ。私はなんて言われようとお前みたいなのとはつるまない」
「か……ハ……なん……で……私が×××だか……ら?」
何が×××だ。本当にウザい。
「帰れ」
冷たく言い放つと、ミカヤを地面へ叩き付けるように投げ捨てる。
「私がお前を嫌いなのは×××だからじゃない、ウザいからだ」
ミカヤは暫く倒れたまま呻いていたが、ヨロヨロと立ち上がると、私の部屋から出て行った。
「………また、来るね」
そんな、ウザい言葉を残して。
私はドアが閉まると、そこから出て行った奴に聞こえないような小さな声で呟いた。
「二度と来るな」
朝から不愉快だ。今日は学校をサボる事にしよう。
193 名前: 狼と銀の乙女 2 [sage] 投稿日: 2011/01/24(月) 14:53:00 ID:l0tB9UF+
だが、ミカヤは次の日も、次の日も、そのまた次の日も家まで来た。
その度に少し痛めつけてから追い返していたが、そいつは毎日生傷を増やしながらも、私を誘うのをやめなかった。
ミカヤが私を誘い始めてから五日目、私はとうとう根負けして、一緒に学校へ行ってやる事にした。
「今回だけだぞ」
「うん!」
やたらと嬉しそうなミカヤの様子が気に食わない。が、今回は我慢だ。いつまでも纏わりつかれるよりは一回我慢してここで終わりにするのがマシだ。

その日一日中、ミカヤは私にくっついて周った。かなりウザかったが、多分こいつなりに、この一回しかないチャンスで私としっかりとした友達になろうと考えたわけだ。
もちろん私にそんな気はかけらも無い。お互い噛み合わないまま、放課後になってしまった。

「ニケさんニケさん」
帰り道、銀髪がニコニコしながら話し掛けてくる。
「……なんだ」
「趣味って何?」
「……さぁな」
「私は占いよ。ねえ、何か占ってほしい?」
趣味が占いってどうなんだ。
「占ってほしい事なんてないな」
「えー……女の子がそんなだなんて私は信じられないけど」
「世の中が全てお前の価値観通りなわけないだろ」
「まあそうだけどさ……でもでも、少しは気になっているんじゃない?」
………ウザい。が、この女、空気を読む気はないらしい。
「ここはやっぱり相性占いよね!ほら、タロット!これで占えば………」
「いや、今占ってほしい事を思い付いた」
私がそう言うとミカヤの表情がパアッと今迄以上に輝く。フン、そんな顔が出来るのも今のうちだ。
「私のクラスに苛められてる奴がいるんだが、そいつが何故苛められるのか占ってくれないか?」
「ッ……!」
ミカヤの表情から輝きが失せ、代わりに暗く黒い色がさし始めた。
「ん?どうした?なんでも占ってくれるんだろ?」
「そんなの……占いじゃ………」
喉の奥から捻り出すような声で、ミカヤが反論してくる。だが、歯切れは悪い。
「じゃあ占いじゃなくていいや。お前の見解を言ってくれないか?まさか気付いていないわけ無いよな」
「それ……は……わた……じゃなかった、あの子が×××だか………」
口の中でモゾモゾと喋るミカヤ。かろうじて聞こえるが、所々は聞き取れない。ま、こんな感じなのは大体分かってたが。
194 名前: 狼と銀の乙女 2 [sage] 投稿日: 2011/01/24(月) 14:54:17 ID:l0tB9UF+
「……なるほどね。お前の見解はよく分かった。じゃ、そいつはどうすればいいと思う?」
「そんなの……そんなの………」
ミカヤは暫くうつむいたまま、小さく震えていたが、突然顔を上げると凄まじい剣幕で怒鳴り始めた。
「そんなの、分かるわけないでしょ!私だってなりたくて×××に生まれたわけじゃないのよ!でもどうしようも無いのよ!私が×××なのはどうしようも無いんだから!」
目に涙を溜め、怒りと悲しみをごちゃまぜにしながら肩を震わせる、そんなミカヤの姿は、短い付き合いの中でも、真に迫ったものだった。
「なんともならないのよ!あなたなんかに分かるの!?周りに味方はいない、守ってくれるハズの教師も傍観してる!こんな孤独、あなたに分かる!?」
「いや、分からない」
「だったら!」
「けどな、一つだけ言える事がある」
「何よ」
「お前はやる前に勝手に諦めるんだよ!」
「何言ってるの!×××は………」
未だ×××にこだわるミカヤを私は思い切り殴り飛ばした。
「ゲ……エホッ………」
「お前は今迄戦ったのか?なんとかしようとしたのか?してないだろ!×××なのを言い訳にして逃げてるだけだ!」
「うるさい………」
「私は×××じゃないけどな、どうしようも無い壁にぶつかった事はあった。だけどな、私は諦めなかった!目の前に何か立ち塞がるならたたきつぶして乗り越えてきたんだ!」
「うっさい!」
起き上がったミカヤは叫びながら光魔法を放ってきた。不意をつかれた私はモロに食らってしまう。
「皆あなたみたいに強いわけじゃないのよ!立ち向かえない弱い人もあるの!そんな気持ちも分からないの!」
「分かってたまるかッ!」
地面を蹴ってミカヤに飛び掛かると、強烈なドロップキックをお見舞いする。
「そんなんじゃ何も変わらない!自分が強い弱いを言う前に、まず立ち上がろうとしてみろッ!この意気地無し!」
「黙れッ!」
そこから先はよく覚えていない。ただお互いに殴り、蹴り、魔法をぶつけ、どれほど傷ついても、どれほど痛くても、意地を張り合って戦い続けていた。覚えているのはそれだけだ。
195 名前: 狼と銀の乙女 2 [sage] 投稿日: 2011/01/24(月) 14:55:37 ID:l0tB9UF+
そして、どれだけの時間が立っていただろうか。気がつくと私達は二人共地面に倒れこんでいた。
「う……ぐ………」
「……………」
脳で動けと命じるが、傷つき疲れ果てた体は、ピクリとも動かない。ミカヤの方も同じらしく、動く様子は無い。
「……おい、生きてるか」
一応心配になった私は声をかけた。
「……なんとか」
「そりゃ良かった。続きやるぞ」
「無理言わないで。私もあなたも動ける体じゃないでしょ」
「違いない」
お互いに倒れたまま無言になった。春風が少し冷たく気持ちいい。
気がつくと、ミカヤが私の側に転がってきていた。
「お前、意外と根性あるな。途中でねを上げると思ってたぞ」
「自分でも意外よ」
「なぁ」
「何?」
「私はお前みたいな自分で動こうとしない奴が嫌いだ」
「さっき聞いた」
「でもな、自分で動いて切り開こうとする奴はそう嫌いじゃない」
「……………」
「もしお前が自分であいつらに立ち向かうっていうなら……私はお前の味方に、いや、友達になってやる」
「……ニケさん?」
ミカヤは驚きながら嬉しそうにするという器用な顔になっていた。なんだそれ。
「二回は言わないぞ」
「……………とう」
ミカヤが小さく呟いた。私と逆の方を向いていたのもあり、何を言ったのかは全く聞こえない。
「もう一回言ってくれ」
「……ありがとう」
「そうか」
我ながら素っ気無い返事だとは思ったが、こんな返事でもなんだか気恥ずかしい。
私は恥ずかしさを誤魔化すように言った。
「自己紹介」
「へ?」
「自己紹介まだだ」
「……そうだね。私はミカヤ、あなたは?」
「ニケだ。よろしくな」
「うん、よろしく」
ミカヤが差し出してきた手をそっと握り、握手をする。ミカヤの手は小さくて少しひんやりしたが、心地良いものだった。

続く