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Last-modified: 2011-06-07 (火) 20:40:44

289 名前: 狼と銀の乙女 3 [sage] 投稿日: 2011/02/07(月) 15:17:48 ID:FiV20Xum
「姉貴、相当辛かったんだな」
「本当だよ。改めて姉さんのこと見直したな」
「マルス、ヘクトル、やめてよ。私もニケさんと出会わなきゃ変わらなかっただろうから。その言葉はニケさんに向けるべきよ」
「……実をいうと私もミカヤに出会えて変わったところがあったんだ」
「え?何?ダキュン年の付き合いだけどそんな話始めて聞くわよ?」
「そんな長い付き合いだったのかよ」
「それも含めて今から話してやる」

次の日から、私とミカヤは行動を共にするようになった。
イジメは止めろと言って無くなる物ではない。もしそうならイジメで悩む人などいなくなるだろう。
だから私とミカヤがとった方法は、私のイメージを使うというものだった。
「ミカヤ、あれから1週間だが、様子はどうだ?」
「物凄い変わりようね。みーんなニケを怖がって声すらかけてこない」
校内一の不良と校内一の苛められっ子。一見アンバランスな組み合わせだが、このツーマンセルになってから、ミカヤへのイジメはピタリとやんでいた。
「現金な奴ばかりだ。報復の危険が迫ると途端に逃げる」
「仕方ないよ。皆自分がかわいいんだから」
まあ、取りあえず第一段階は達成だ。だが、これは根本的な解決とはいかない。
「今のは力で押さえつけてるだけだからな……なんとかして皆にミカヤの事を認めさせないと」
「でも………」
「だよなぁ………」
ミカヤのイジメの原因は、彼女が×××だというのが大きい。あまりにバカバカしい理由だが、差別というものは根強く、陰湿だ。
「こればかりは正直な……時間をかけて皆にミカヤを認めさせていくぐらいしかないな」
「……そうだね」
ミカヤは決意を固めた顔で小さくうなずいた。
「その意気だ」
この時、私は知らなかった。ミカヤがもう一つある事を決意していたことを。
290 名前: 狼と銀の乙女 3 [sage] 投稿日: 2011/02/07(月) 15:18:28 ID:FiV20Xum
「皆、おはよう!」
「あ……うん………」
「おはようございます………」
その次の日から、ミカヤは皆に積極的に話しかけたりするようになった。
皆の反応は今迄の引け目と、私の存在、そして偏見とでどこかぎこちなく遠慮したものだった。
それでも根気よく続けるミカヤの努力によって、少しずつ打ち解けているようだが。
「頑張ってるじゃないかミカヤ。もう私の助けはいらないかな?」
この頃になると私とミカヤは別行動も増えてきた。それは良い事だ。ミカヤもいつまでも私に頼っているわけにはいかないしな。
「おはようニケ!」
物思いにふけっていたせいだろうか、私はミカヤが後ろから飛び付いてくるのに全く気がつかなかった。
「おい、その飛び付くのを止めろと言ってるだろ」
「ニケの尻尾、モフモフして暖かいよ~」
「それも止めろと言ってるだろ。殴るぞ」
「……ムフフ」
「何を笑っている」
「いや、ニケも変わったなあーって」
ミカヤは私の尻尾に顔をうずめ、ニヘラニヘラと笑いながら甘えた声をだした。
「キモいぞ。後変わったってなんだ」
「前ならさ、こんな事したら何も言わずに殴るくらい怒りっぽかったでしょ?」
「まぁな」
「他にも学校サボらなくなったし、意味もなく他人を蹴り飛ばさなくなったし、人の言う事少しくらいなら聞けるようになったしね」
「授業中の居眠りさえなければ優等生だな」
「狙ってみる?」
「まさか」
私が肩をすくめると、ミカヤは尻尾から名残惜しそうに離れると、私の耳元でそっと囁いてきた。
「ね、今日放課後近くのファミレスに来てよ」
「は?なんでだ」
「来たら分かるから」
そう言うとミカヤは鼻歌を歌いながら自分の席へと戻っていった。
291 名前: 狼と銀の乙女 3 [sage] 投稿日: 2011/02/07(月) 15:19:22 ID:FiV20Xum
放課後、一人でサッサとミカヤが帰ってしまい、暇になった私はそのファミレスに行く事にした。
「いらっしゃいませ!ご予約されていたニケ様ですね?」
「ハ?」
この店ではパーティー用の予約サービスなども行っている。どうやら誰かが私の名前で勝手に予約したらしい。誰だか知らないが身の程知らずめ、後で八つ裂きにしてやろう。
「あの………」
店員が、怒りで嗜虐的な笑みを浮かべた私に、怯えた様子で声をかけてくる。
「気にするな。確かに予約していた……席はどこだ」
「ヒイッ!あ、あちらです」
ガタガタと震えながら店員が指差した先には、既に何人か先客がいた。よし、待ってろ。お前らの命はあと数分だ。
私は静かに、しかし確かな殺気を放ちながらその席へと近付き、通路側に座っていた女の肩に手をかけた。
「私の名前を使うとはどういうつもりだ?死ぬか?」
すると、その女は振り返って、手に持ったクラッカーをパァンと鳴らした。
「ニケ、お誕生日おめでとう!」
「え!?ミカヤ!?」
長い銀色の髪を揺らしながら、ミカヤはニコニコと微笑んでいた。
「フフ、ニケはこうでもしないと誕生日を祝わせてはくれないでしょ?」
「いや、まあ、そうかもしれないが……それとミカヤ、こいつらはなんだ」
ミカヤの向かいの席は、3つ埋まっていた。
「誘ってみたの。私も少しずつクラスに打ち解けてきたし、それにニケ、私以外に友達いないでしょ?」
「別に必要ない」
「そんな事言わずにね。私なんかに友達が出来たんだよ?ニケならもっと沢山作れるよ」
「チッ………」
私は口では嫌そうにしていたが、内心では嬉しかった。新しく友達が出来るかもしれないことではなく、ミカヤがこんなにも私のことを思ってくれるのが嬉しかったのだ。
「………とう」
「ん?何?」
「そいつらが誰か紹介しろって言った」
「あ、そうだね。それじゃニケ、座って自己紹介しよう」
ミカヤに促されて、私はその隣に座った。それを見て目の前の3人が口を開いた。
「ネサラだ、鴉のラグズだ」
「クルトナーガです、黒竜のラグズです。よろしくお願いしますね」
「RIANEDESU……ヨロシ……ク?」
一人古代語の奴がいた。白鷺か。
「ニケだ。狼のラグズだ。あとリアーネとか言ったな」
「HAI」
「古代語は分かるからそっちで構わない」
「TASUKARIMASU」
「さて、自己紹介も終わったし、それじゃ皆で楽しいパーティーよ!」
「………フン」
自分が少しワクワクしている事に、なんとなく驚く気分だった。

続く