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Last-modified: 2012-08-21 (火) 20:34:08

早朝人通りの多い街中、頭まで覆われているローブを着込み、すれ違う人を対象として占いを商いとしている少女がいる。
彼女は主人公家の長女ミカヤといい、朝日が昇った直後からこの街中で占いをしている。
占いの評判としては中々当たるとのことであり、知る人は知るという隠れた知名度を持っている。
「おはようございます。今日の運勢占ってください。」
彼女の占いを求めてやってくる客は、通いなれた常連もいれば一度も顔をあわせたことのない新規の客まで年齢層様々で幅広い。
しかし、基本的に一回の占いに時間がかかるものであるため、一日に多くの数をできるものではなく、収入としても主人公一家を養うためのものとして消えてしまう。
また今現在の夏や冬といった、一日の温度変化が激しい季節だとどうしても彼女自身の活動時間が限られてしまうため、多くの占いをすることはできないが、
それでも、その数少ない占いの機会を求め、今日も彼女の元へお客は来る。
「ありがとうございました。またお越しください。」
本日10人目の客を占った後のことである。彼女の元へ見知った顔がやってきた。
「今日も繁盛しているようだな。」
見た目は20代前半であろうか、青く短い髪をした大男、ゼルギウスがミカヤの前へ座る。
彼はほぼ毎日といっていいほどミカヤの元へ占いをしてもらいに来ており、いわば常連となっていることでミカヤの収入に貢献している。
しかし、占ってもらったとしても彼は基本的にミカヤの占いによって本日のスケジュールを変えることは無い。
たとえ占いの結果がとてつもなく悪いものでも変えることは無く、それは占いを信じていないわけではなく、どんな出来事があっても対処できる自信があるからだ。
だが、今日はまた別であった。

「あら、ゼルギウスさん今日は女難の相が出ていますよ。しかもあなたのもうひとつの顔が他人にばれてしまうかも、とのおまけつきですね。」

女難

普段あまり女性とかかわる機会が無い(仕事でも少数としか関わりはなく、日常生活ではあっても大体主人公家の人々である)上、
本日は有給を使っており仕事へ行くことがないため、女難の相といったら目の前の少女、ミカヤと何かあるかのかもしれないと勘繰ってしまう。
ミカヤはゼルギウスの職業は知らないので、きっと仕事関連のことではないですか、とアドバイスはしておいたがゼルギウスには不安が残る。

(女難の相が出ているからには乙女を守るために軽率な行動ができぬ。しかももうひとつの顔というのは当てはまる節がひとつしかない)

主人公家の前には、ご近所様からは「漆黒ハウス」と呼ばれている家があり、そこがゼルギウスの住居である。
近所では、年中でかい黒鎧を着た男-通称漆黒の騎士が住んでいるとの評判ではあるが、その漆黒の騎士こそがゼルギウス本人なのである。
なぜそのような姿をしているのかはご存知の通り、目の前の少女ミカヤを守るためである。
彼女を守ることに固執している自分の姿は、傍から見たらロリコンだの危ない人だのいわれる可能性があり、
ゼルギウス本人としても日常生活上リスキーなことになってしまう恐れがある、とのことで変装をした結果がこれである。
しかし、変態、頭おかしい、乙女好きのおっさん、このロリコンめ、むしろロリババア好きとかひくわーetcとの言葉にも負けず、長い間ミカヤを守っているのだが、
長い間この姿で彼女のことを守っているうちに、正体を明かすタイミングを逃してしまい、今現在もそれが続いている。
ある時は漆黒の騎士として不埒者からミカヤを守り、あるときはこうして好青年(?)として彼女に占いをしてもらっているが、それが同一人物だとばれてしまったら・・・
(乙女はともかく他の者に何を言われるか分らないな)
上記の評判の通り間違いなく変態扱いをされ、自分の周りのものはおろかミカヤにも嫌われてしまうのではないかという不安がゼルギウスを襲う。
しかし、今日の自分のスケジュールでは幸い仕事も休みと言うこともあるので、家で息を潜めていれば大丈夫だとは思うが、念には念のためだ。
「それは困ったな。今日は万全の対策をしておこう。」
万全の対策とは一体何のことであろうか、と自分で言っておいて突っ込みたくなるが、とにかく普段どおり鎧を着たまま家で過ごし、
来客には応じないとの方向で行こうと本日の行動計画を決めたゼルギウスであった。

452 :女難:2011/07/24(日) 17:58:06.41 ID:sfIU7Inj

「ただいまー午前中なのに暑いわねー」
ミカヤが家に帰宅すると主婦のエリンシアを除き、兄弟たちはそれぞれ仕事や学校へ行っていた。
ミカヤの帰宅する時間はちょうどエリンシアが家中の掃除をしている頃であり、今日も例外ではなかったのだが、
今日だけはミカヤが帰ってくるや否やエリンシアはすまなそうに、こういうのであった。
「姉さん、ごめんなさい。エイリークの学校へ行って来ていただけるかしら」

事の発端はこうである。早朝いつもの通り皆の朝食と弁当を作っていたエリンシアであるが、皆が外へ出た後に机に残っている弁当を見つけたのである。
その弁当はいつもエイリークに作ってあげているものであった。
彼女が弁当を忘れるなんてあまり思いたくなかったのだが、弁当がいらないときはまず自分に言うだろうし、そういわれた覚えもない。
その為、弁当がこの場に置いてあるということは彼女が持っていくのを忘れてしまったということとなるのである。

エリンシア本人が弁当を届けてやればいいのではないか、との疑問があるが、彼女が学校へ届けにいけない理由は、彼女の大人びた容姿の為であった。
エイリークの通学している学校、ルネス女学院は有名なお嬢様学校なだけあってガードが厳しい。
学院内部へ持ち込めるのは生徒が持ってきたもののみ(しかもその中身も完璧なチェックが入る)であり、外部からの物の持込はまず無理である。
それが家族から依頼されたものであろうがなんであろうが、生徒の安全の為には全て禁止されているのである。
そのため、弁当をエイリークに届けるには学院の生徒になりきって内部へ潜入しなければならない。
しかし、主婦という言葉がとても良く似合うといわれるほどの容姿を持っているエリンシアは間違いなく、学生服を着ることができない。
サイズ的にはなんなく着ることが出来ても、見た目が少々苦しいものがある。
学生服姿をしていて、声高に「学生です!」と言われても周囲が凍り付いてしまう。
そんな感じの容姿であるため、エリンシアでは学校へ届けに行くことができないのである。
そこで彼女は、エイリークと同じ年頃の娘な容姿のミカヤであれば学院内への潜入も可能であると思い頼んだのである。
なお制服はクリーニングに出しておいた予備のものがあるのでミカヤにはそれを着せればよいとのことであった。

とはいっても内部へ潜入するのすら難しいのがルネス女学院である。
普段使用されている魔法なんかでは入れないよう魔法陣が張ってある等、対策は練られているのでワープ関連の魔法は役に立たない。
だからといって正面突破をするといっても、こんな時間から来る学生が学院内に入れるとは思えない。
しかし、エリンシアは問題ないといわんばかりの顔であった。
「転移の粉があります。あれがあれば簡単には入れるでしょう。粉自体は漆黒さんに頼めばいただけると思いますし。」
転移の粉。それは誰でも使えるリワープの魔法、と思われがちだが、使用する際に魔力を使用しないためか、魔方陣なんかを簡単にすり抜けてしまうのである。
もちろん犯罪に使用することもできるが、あいにく手持ちは知っている限りでは漆黒の騎士のものだけであり、彼がそんなことをするわけはないだろうとミカヤは分っていた。
そうと決まれば、申し訳ないと思いながらも漆黒の騎士に粉を分けてもらえるかを頼みに行くとしよう。
そうミカヤが外に出ようとしたとき、エリンシアにその足を止められた。
「まずは制服に着替えてからのほうがいいのではないのでしょうか。そのほうがこっちに着替えに戻ってくる必要もなくなるかと思いますし。」

453 :女難:2011/07/24(日) 17:59:12.07 ID:sfIU7Inj

ミカヤがルネス女学院の制服に着替えると、そこには一家の主とは思えないほどの、格好をした一人の少女がいた。
エリンシアも内心うらやましいと思いながらも、予想通り似合っていると思った。
そして着替えた当の本人は気恥ずかしさを覚えながらも久しぶりに着る制服の感覚に懐かしさを覚えていた。
「何十年ぶりかしらね。こんな格好をするのって。」
胸が少々きついことを感じながら、少しの間制服の着心地を感じとっていた。
しかし、制服に着替えた本来の目的を思い出すと、机に置かれている弁当をその手に持ち、言ってきますと外へ駆けていった。

ゼルギウスはいつものように黒鎧を身に着けながら、住居の居間にいた。
朝、占ってもらった占いの内容を頭に浮かべつつ、普段どおりの生活を送っていたが昼前になると状況が一変した。
我が家のチャイムが鳴ったのである。
我が家のチャイムは基本的に主人公家しか鳴らさない。
それはほかの近所の家からは漆黒ハウス=触るな危険、とでも思われているくらい警戒されているものだったからである。
1度目のチャイムを無視し、頼むから今日は勘弁してくれ、と思っていたのだが、その思いもむなしく、2度3度と鳴らされ続けるうちに、
ゼルギウス本人が折れ、玄関へと向かっていったのであった。
「何のようだ、身の程を―」
玄関から出た先には一番会いたくない人物、ミカヤがいた。
しかも普段着とは違う学生服、というとても魅力的な姿をして彼女は目の前にたたずんでいた。
「こんにちは騎士様。いきなりお訪ねいたしまして失礼かと思われますが、お願いがあるのです。」
彼女の学生服姿に感動を覚えながらも、興奮した頭を少し冷ましつつお願いというものは何かと尋ねたのであった。

「成程、転移の粉が欲しい、とのことか」
よりによって、と内心思いながら、お願いの内容と理由を聞いたとたんに今朝の占いの結果が、ミカヤに関することだと確信してしまった。
転移の粉というのは自分しか使用することができないからであり、
その使用目的もよりによって女学院内に潜入するためという非常に危険なものだからである。
さすがにこの姿で学院内に潜入すればたちまち大騒ぎになるだろうが、だからといって乙女の願いを断れるほどゼルギウスは外道ではない。
だが、
?@転移の粉を使えるのが自分のみである限り、自分が付き添わなければならない
?Aしかし、この姿だと変質者扱いされる&かといって鎧を脱いだら乙女に正体がばれる
?Bしかも女学院だから男の自分がうろつくのも不審者とされる可能性がある
と問題が目白押しである。
しかし、考えている時間もあまりないので、何とかベターな解決策を考えたのであった。

「しばしまて、助っ人を呼ぶ」

454 :女難:2011/07/24(日) 18:00:53.97 ID:sfIU7Inj

それから3分くらい経った後、ミカヤが漆黒ハウスの玄関の前で待っていると、一人の男が漆黒ハウスを訪ねてきた。
「漆黒から話は聞いた。助太刀いたそう。」
その男はなんと漆黒の騎士の中身、ゼルギウスであった。いつも占いをしてもらうときに見る黒いスーツ姿である。
「助っ人ってゼルギウスさんのことだったんですか。お知り合いだったんですね」
ゼルギウスはぎこちなくそうだ、としか答えなかった。まさか本人だとは口が裂けてもいえないだろう。
ゼルギウスはそのまま漆黒ハウスへ断りもなく入ると、中から漆黒の騎士が歩いてくる。
そしてそのまま無言でゼルギウスに転移の粉を渡したかと思うと、家の奥へと無言で消えていった。
「ではルネス女学院へ行くとしよう。「乙女」よ、掴まれ」
乙女、という言葉を無意識に出したことをゼルギウスは後悔した。
乙女という言葉を使っているのは漆黒の騎士のみであるため、ゼルギウスである今はこの言葉は禁句だ。
「乙女って、ゼルギウスさんも騎士様と同じように呼ばれるのですね」
差し出された手を握り、くすくすと笑いながらミカヤが尋ねる。
ゼルギウスは漆黒に教えてもらったのだということで、なんとかはぐらかした。
無意識とは怖いものだ。

転移の粉を使用し、飛んだ先はルネス女学院の裏庭であった。
ミカヤは以前、普段からあまり人通りがない場所なので、昼食を取るのに便利だとエイリークから聞いたことがあった。
言っていた通り、この場所は人通りがなく隠れる場所も多かった。
「それでは7組のほうへ行ってきますね。ゼルギウスさんはどうしますか」
ゼルギウスは草陰に隠れながら考えていた。
ゼルギウスは一応怪しまれないようにスーツ姿で来たものの、一般の男が歩いているだけで不審者扱いされかねない。
そのことから、この場で待っているという選択肢がないだろうと考えていた。
「私はここで待っている。用事を済ませてきなさい。」
懐から出した返送用のサングラスを装着するや否や、あたりを警戒し始めた。
あまり長居するとゼルギウスが見つかってしまう可能性がある。
彼が不審者扱いされるのだけは避けたいので、ミカヤはとっととエイリークのいる7組へと駆け出したのであった

455 :女難:2011/07/24(日) 18:01:52.29 ID:sfIU7Inj

学院内は昼食の時間になっており、廊下では多くの生徒とすれ違う。廊下を急かすように走る銀色の髪は多くの生徒の視線を集めた。
もともとこの学院には銀髪がおらず、あんな生徒いたかな、と思わせるのに十分だったからである。
そうこうしているうちに7組へ着き、エイリークを探す。
クラスの後ろのほうを見ると友達とにこやかに話す、妹の姿があった。
普段見ることのできない学校での光景にミカヤは微笑み、エイリークに近づいていった。
「エイリーク、お弁当忘れたわよ。」
いきなり姉の声が聞こえたことに驚き、振り向くとその声の主の格好に驚愕した。
「あ、姉上!?なんでここに、そしてその姿・・・」
エイリークが見る日常生活のミカヤの姿は割烹着かエプロン、普段着しかないので制服姿なぞ見たこともなかった。
そして絶妙に似合っているのも、なんだか照れくさかった。
「そう。あなたがお弁当食べられないっていうのは健康に悪いし。だからこうやって届けに、ってあれ?」
弁当箱を前に差し出したミカヤの目に映るのは、弁当を片手に持っているエイリークであった。
自分が持っているのは間違いなくエイリークの弁当、しかしエイリークも弁当を持っている。
これはいったいどういうことだ。
「あ、それ兄上のですね。兄上ったらお弁当を忘れるなんて、まったくしょうがない人です」
きっかけはエイリークとエフラムは昨夜、明日の弁当を交換しないか、という話からであった。
主人公家で作られる弁当は基本的にその人用のものであり、栄養バランス、カロリー摂取量など細かく調整されたものを個々にエリンシアが作っている。
普段食べている弁当に飽きたのか、エフラムが切り出した話であった。
「盲点だったわ…。じゃあ急いでエフラムのところへ行かないと。」
ミカヤがいそいで踵を返そうとすると、廊下がなにやら騒がしいことに気がつく。
多くの教師の怒声と誰かが走る音、そして生徒の叫び声を感じ取ると、ミカヤは嫌な予感がし、廊下へと走ったのであった。
この騒ぎを起こしていたのは予想通り、ゼルギウスであった。
見つかってしまったのである。
「乙女よ、掴まれ!時間がない!」
必死の形相をしながら走るゼルギウスの手を掴むや否や、二人の姿は一瞬にして消える。
目の前で起きた光景に、教師は驚いたが、すぐに男を捜すためそれぞれ散っていった。
後にエイリークはこの短時間に起きた怒涛の出来事に頭を抱え、姉とその隣にいた男について友人から質問攻めにあうのであった。

456 :女難:2011/07/24(日) 18:04:49.27 ID:sfIU7Inj

エフラムの学校は男子校である。ここはルネス女学院とは違い、魔法に対する対策がなされていないので潜入自体は楽なのだが、
生徒はみな屈強な男ばかりであり、中に潜入できたとしてもコテンパンにされるのがオチなのである。
「エフラムの学校は隠れて潜入ができませんので強行突破しかありませんが、大丈夫ですか?」
不安な顔をしてミカヤがゼルギウスに尋ねると、彼は問題ないと表情を崩さずに答える。
ゼルギウスにとってはここの生徒が強いといっても年頃の青年。持っている経験の差と実力がかけ離れているのである。
「乙女よ。私のそばから離れるではないぞ。」

転移の粉で学校内部へと飛ぶと、やはりこちらも昼食中ゆえ生徒が廊下へ出ている。
エフラムからはあまり学校の情報を聞いていなかったので、転移の粉による場所の調整ができなかったのだが、ゼルギウスにとっては何も問題はない。
ミカヤはどこからか取り出したスリープの杖を片手に持つ。
突然現れた二人の一般人に生徒は驚きつつも、外部からの侵入者だと感じ取ったからか、いっせいに武器を構える。
その中で一人、名乗りを上げたものがいた。
「貴様ら!ここがルネス区一の強豪が集まるルネス学園であることを知っての狼藉か!我が名はヒーニアス!貴様ら、名を名乗れ!」
弓を構えつつ茶髪の男が叫ぶ。
仕方ないと判断したのか、二人も武器を構えながら名乗りを上げた。

「私の名はミカヤ。ちなみに年齢は(ズギュン!ズギュン!)歳です。」
「私はゼルギウスという者だ。同じく年齢は(ゴシカァン!ゴシカァン!)歳である。」

年齢を名乗る必要があるかは分らなかったが、二人の年齢を聞き、目の前の男は戸惑う。
ミカヤもゼルギウスの歳に内心驚いていたが、なんとか平常心を保っていた。
「その風貌で(ズギュン!)歳だと?おかしなことを言うものだ。とっととおとなしくするのだな!」
瞬間、ゼルギウスに向かい矢を射る。
しかし、その矢を軽々と手で受け止めたのを見たとたん、強烈な眠気が襲ってくるのを感じ地面に伏したのであった。
「もったいないけど、あまり時間が無いからね。」
スリープの杖をくるくると回しながら地面に付しているヒーニアスに言う。
ゼルギウスがミカヤの背後にいる生徒をなぎ払うと、二人はエフラムのいる教室へ駆けていった。

457 :女難:2011/07/24(日) 18:07:37.22 ID:sfIU7Inj

目の前に立ちはだかる生徒を二人は次々と払いのけていく。
あまり怪我をさせないように生徒の壁を次々と突破しながら、二人はエフラムのいる7組へと着いた。
勢いをつけて教室のドアを開けると、その大きな音にクラスの生徒がいっせいにこちらへ注目した。
その中にはエフラムも含まれており、いきなり入ってきた二人の人間を見て硬直してしまった。
「エフラム。お弁当、忘れちゃだめでしょう?」
エフラムの机へ弁当を置くのと同時に、彼の額へデコピンをかます。
制裁のつもりなのか、あまりにも突然のことにエフラムは反応できなかった。

二人の一般人がこの学校に潜入してきたことに驚いていたクラスの生徒だが、
それ以上にエフラムへ弁当を届けに来た一人の少女に驚きが集まっていた。
エフラムには色恋沙汰が無い。それがこのクラス全体の認識だったためにこの光景はショックだったのである。
傍から観たら恋人同士のような光景で、あれほど色恋沙汰は無いと思っていたがために裏切られた心境である。
驚いているのも束の間、少女は付き添いの男に目配せをするや否や、その男の手を握り、煙となって消えたのであった。
突然現れた二人の一般人。
エフラムの恋人かと思えばもう一人の男といい感じになっている。
これに反応しないほどクラスの生徒は鈍感ではない。
やはりこちらもエイリークと同じく質問攻めにあうのであった。
しかし、エフラムは友人にロリコンといわれているため都合もいいし、なにより面倒臭いからどうでもいいか、
と内心そう思ったのであった。
そして質問を適当にはぐらかしつつ、購買で買ったパンと届けてくれた弁当を食べ始めるのであった。

458 :女難:2011/07/24(日) 18:09:13.16 ID:sfIU7Inj

「今日はありがとうございました。おかげで助かりました。」
ルネス学園からかなり離れた公園で、疲労でへばっているゼルギウスに向けられたのは一本のドリンク。
栄養ドリンクであり疲労もばっちり回復するものである。
「何、漆黒に頼まれたから手伝っただけだ。」
渡された飲み物を飲みつつ、ひどい目にあったが乙女に感謝されたからには悪くなかったな、と今日の出来事を振り返る。
女難とはこのことだったか、と改めてミカヤの占いの精確さに関心し、最終的に何も無くてよかったと一安心したのである。

「そういえば、ゼルギウスさんも私と『同じ』だったんですね。」

同じ、ということはどういうことかを尋ねると、ヒーニアスとか言うやつに絡まれたときのことをミカヤは話すのであった。
「あの時、ゼルギウスさんの年齢を聞いて驚きました。まさか私以外にもこんな体質の人がいたなんて」
ミカヤにつられて年齢を公表したのを思い出し、少々後悔した。
しかし普段はこの特異体質を人に公表することは無いのだが、なぜああも簡単に答えてしまったのだろう、と自分も不思議に思っていた。
「そなたはああも簡単に、いつも他人へとこの体質のことをしゃべっているのか。」
その問いに対しミカヤはええ、と答えた。

ミカヤはこの体質を他人に隠そうとしておらず、そのことで何か噂話をされたとしても気にも留めていない。
この体質をうらんだことは何度もあった。しかし、それは昔の話であり、今はなにも不自由を感じていない。
それもこれも我が家の兄弟の存在があるから、そうしていることができるということも最後に付け加えて。
「そなたは、いい兄弟を持ったな。」
自分が好意を寄せているとはいえ、ミカヤの境遇が羨ましかった。
そんな羨望の篭った言葉に対し、ミカヤは胸を張りながら言う。

「ええ、私にとって何よりも大切な、自慢の兄弟ですもの。」

459 :女難:2011/07/24(日) 18:13:06.27 ID:sfIU7Inj

漆黒ハウスに戻り、ミカヤから御礼をしてもらい、そのまま別れると転移の粉を戻しに家へ入る。
そこには暑さでぐったりとしている、いつもの漆黒の騎士とは思えないほど、情けない姿をした黒鎧の姿があった。
「今戻ったぞ。大役ご苦労であったな、ルベール」
鎧をはがすのを手伝うと、ルベールはぶちぶち文句を言い始めた。
「急に目の前に現れたかと思えば拉致されて、しかもこんな役目を押し付けられて散々ですよ。」

ルネス女学院に行く前にゼルギウスがとった行動はこうである。
まず転移の粉で休日中のルベールの家にお邪魔し、家主を拉致。
そのまま彼を(強引に)説得し、この役目を任せるために一度漆黒ハウスに戻り、ルベールに鎧を着せる。
あとは自分が家近くへと転移し、そのままミカヤに会った、という流れである。
「本当に助かった。これで乙女からの評価も上がったかと思うと感謝し切れん。今度特別ボーナスをやる。」
後日、特別ボーナスだけでは納得できない、とゼルギウスをゆするルベールの姿があったとかなかったとか。

「今日の運勢を占ってくれぬか。」
翌日早朝、いつもの通り占いをするミカヤの前に、やはりいつもの通り同じ人物が占いをしてもらいにやってくる。
通勤途中なのか、スーツ姿である。
「昨日はどうもありがとうございました。そういえば昨日のお礼として無料で占いをさせてもらえますか?」
お礼ということならば仕方が無い、と快く気遣いを受ける。
今日もこの占いの結果に振り回されるのだな、と不安を抱きつつ、同時に楽しみでもある。
そして、この光景をみると、今日もまたいつもどおりの生活が始まるのだなと深く思う。
そんなことを考えているうちに占いの結果が出たようである。
また、いつもの一日が始まる。

「あれ?ゼルギウスさん、女難の相がでていますよ?」
・・・・・・何?
                           おわり