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Last-modified: 2012-08-21 (火) 16:04:50

きっかけは何だっただろうか、ああ…たしか学校からの帰り道でいきなりだったと思う。
気がつけば見覚えのない部屋に押し込められ、月の薄明かりだけが照らす中で一人だった。
月が見える窓は僕には届きそうもない高さで、頑丈な扉は開きそうもない。
つまり…僕は誰かが来るまで一人であり、無力なのである。
どうしようもないと悟った僕は思案をやめ、部屋に設置されていたベッドに倒れ込むのだった。

「ユリウス様遅いですね」
夕食を終え、人が減った竜王家の居間で使用人のアインスがぽつりと呟く。
「まあユリウス様もお年頃だしこんな日もあるだろう」
アインスの隣にいたツヴァイがアインスの呟きにのんきな口調で答える。
今日日の中学生なのだから夜遊びぐらいなんてことはない。
「…けどユリウス兄様は必ずそういう時は電話します」
そう、ああ見えて家族思いで意外ときまじめな兄は無断で夜遊びなどしないはずだ。
「ユリア様は真面目ですね~」
普段ならともかく何故か今日は嫌な予感がした。
しかし考えすぎだと思って私は何もせずに居間を後にしてしまった。
それがあんな事件の幕開けだったなんて誰が思っていただろうか…

「ふぅ…今日も暑かったね」
「うんうん、こんだけ暑いとリン姉さんの…アイタタタ!?」
「マールースゥー!」
「やめてくれ2人とも、ただでさえ暑い居間が余計暑くなるだろ」
いつものように我が家の居間では家族が仲良く過ごしていた。
仕事から帰宅して疲れているシグルド兄さんに冷えたビールを渡してあげる。
「お、気が利くなセリスは。あーやっぱり夏は冷えたビールに枝豆だな」
とても幸せそうにビールを飲む兄の姿を見ているとこちらも幸せになってくる。
「冷えたビールに枝豆なんて完全に中年よね、アルム」
「そうだねセリカ。でも僕も将来ああなるかもよ」
「アルムなら私は冷えたビールに枝豆は似合うと思うわ」
「セリカ…」
「アルム…」
「さて、君達KINSHINを自重しようか」
いちゃつくアルムとセリカにティルフィングを抜き、襲い掛かる兄さん。
まあいつものようにアルムとセリカは回避してリーフがとばっちりを受けるんだけど。
「このヒトデナシー!」
そんな一家団欒を楽しんでいると我が家の電話が鳴りはじめた。
「セリスちゃん、竜王家のアインスさんから電話よ」
珍しい人から電話だ、とはいえ面識がある相手なので出なければならない。
「はい、もしもし」
「あ、セリス様。ユリウス様を今日は見てませんか?」
「ユリウスとは生徒会室で一緒に仕事してからは見てないですけど…」
「そうですか、わかりました。わざわざありがとうございました」
ユリウスに何かあったのだろうか…確かめる前に電話が切れてしまった。
「何か…嫌な予感がする」願わくばこの不安が杞憂でありますように…

96 :闇魔法と光の皇子 序章2/2:2011/07/07(木) 00:50:35.06 ID:gZVWIBn3

「最近紋章町では行方不明者が増加しており…」
居間にあるテレビから最近増加している行方不明者のことについて流れている。「そういえばセリス、ユリウス君は見つかったかね?」
「ううん、まだ見つかってないんだ…」
最初に行方不明になった僕の親友はもう一週間会っていない。
「そうか…聞けば紋章町中の闇魔法使いが行方不明らしいな」
「うん…ミカヤ姉さんやエフラム兄さん、エイリーク姉さんの知り合いもだよね」
「ああ…リオンとノールも同じタイミングで行方不明になったそうだ」
「ペレアス様もね。おかげでアムリタさんが血眼になって捜索してるわ」
「たしかリーフの知り合いの方もですわよね?」
「うん、セイラムさんがいなくなったってダンディライオンから連絡が来たよ」兄弟と仲のいい人が行方不明となったことで兄弟達もどこか暗い。
「うむ…いったい何が起こってるんだろうな」
「調べてみたんだけどほぼ同時期にガーネフやネルガルもいなくなってるらしいね」
軽く汗をかきながら帰宅したマルス兄さんが調べ物も結果を述べる。
「たった今入った情報です。先程警察からソフィーヤさんが街中で、
ニイメさんとカナスさん、レイ君も家でさらわれたって報告がありました」
テレビから発せられる知らせにロイが反応していた。
「ソフィーヤとレイが!?」
これで兄弟に関わる闇魔法使いは全員行方不明になってしまった。
あの時の嫌な予感はどうやら現実になりそうである…

「くっ…僕達を閉じ込めてどうするつもりなんだ?」
あれから一週間。毎日規則正しく運ばれて来る食事と不規則に運ばれて来る新たな仲間達。
一応男女別に部屋が別れているのはありがたいが正直きつい。
何せ大半が暗く、どこか元気のない姿で見ているこっちまで気が滅入ってくる。
「しかしあれだね、全員が全員闇魔道士である辺りに何か狙いがありそうだよね」
「そうだな…しかしもう少し身体も鍛えとくべきだったな」
毎日のようにユリアからナーガを喰らっているがそれとこれとは話は別だ。
少なくとも今この部屋に閉じ込められている全員じゃ扉は壊せなかった。
全員でどうしようか悩んでいるとまた新たな仲間が送られて来る。
「まったく、少しは敵の狙いがわかればいいんだがな」
悩んでいても意味がないので、僕は誰かが助けに来てくれるのを待つことにするのだった。