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Last-modified: 2007-07-23 (月) 00:07:13

妹は神官戦士

 

~ある日の夕飯後~

 

セリカ  「ね、アルム。いつものアレの時間よ」
アルム  「あー……うん、分かったよ。じゃ、行こうか」
セリカ  「ええ」

 

ブバァァァァァァァァッ!

 

ロイ   「いやちょっと鼻血噴くの早すぎだよリーフ兄さん!」
リーフ  「だ、だって、あんなあからさまなこと目の前で言われちゃ……!」
マルス  「ふむ……しかし、毎晩毎晩一体何をやってるんだろうね?」
ロイ   「さあ……? あの二人が一緒にいるのはいつものことだから、あんまり気にもならないし……」
マルス  「何よりも気になるのは、さ……」
シグルド 「……ん? なんだ、わたしの顔に何かついてるのか?」
マルス  「……とまあ、このようにシグルド兄さんが無反応なことだね」
ロイ   「うーん、確かに、気になるといえば気になるかも……」
マルス  「……これは覗きに行かなくちゃね、リーフ」
リーフ  「の、のぞっ……うう、また鼻血が……!」
マルス  「……行くかい?」
リーフ  「もち! 弟たちが変なことしてないか見張るのも、兄の義務だからね……!」
シグルド 「……お前達、一つだけ忠告しておくが」
マルス  「え?」
シグルド 「……この時間帯に、あの二人……いや、セリカの部屋に近づくのはやめておいた方がいいぞ?」
マルス  「ははは、やだなあシグルド兄さん、別に変なことは考えてませんよ」
リーフ  「そうそう。僕らはただ弟と妹が何をしているのか興味があるだけで」
シグルド 「……まあいいが。わたしは忠告したからな?」

 

マルス  「……で、セリカの部屋の前にやってきた訳で」
リーフ  「どれ、扉に耳を押し付けて盗み聞き……? 何の音もしないよ、マルス兄さん」
マルス  「なに? それはおかしいな。てっきしギシギシアンアンなのかと思ってたのに……
      耳が悪くなったんじゃないのかいリーフ君よ」
リーフ  「いや、それはないと思うけど」
マルス  「どれ、じゃあ僕も聞いてみようかな」
リーフ  「ってちょっと、押さないでよマルス兄さん!」

 

 そのとき、唐突にガチャッと扉が開く。
 扉に耳を押し付けていたリーフとマルスは、揃ってセリカの部屋の中に転がり込むことに。

 

セリカ  「……何やってるの、兄さんたち」

 

 扉を開いたセリカが、二人の兄を見下ろして怪訝そうな顔をする。
 部屋の中で座っていたアルムも、驚きながら振り返った。

 

アルム  「あれ、リーフ兄さんにマルス兄さんじゃないか。何やってるの?」
リーフ  「え? いや、はははは」
マルス  「いやなに、ちょっとね」

 

 言いつつ、セリカの部屋をさり気なく観察するマルス。

 

マルス  (……右半分は別段なんてことない女の子の部屋なのに……)

 

 左半分はミラのしもべ像(クラスチェンジさせてくれる例の石像)が置かれた祭壇になっており、異様なことこの上ない。
 ちなみに祭壇には数本のろうそくが並べ立てられ、その前の書架台には何やら経典らしき本が置いてあるのが見える。
 そして極めつけ、今のセリカはいつぞや見たミラ教の僧衣を着ていたりして。

 

マルス  (……ということは、ひょっとして……)
セリカ  「……ああ、そうだったのね!」

 

 と、急にセリカが顔を輝かせて手を打った。

 

セリカ  「二人も、アルムと一緒にミラへの祈りの儀式に参加してくれるのね!」
マルス  「え」
リーフ  「い、いや……」
セリカ  「まあまあ、そんなに遠慮しなくてもいいのよ。
      と言うか、儀式の最中にこの部屋に入ったんだもの、終わるまでは出ちゃダメよ?」
マルス  「そんな」
リーフ  「僕らはそういうんじゃ」
セリカ  「……何か、言いたいことでも?」

 

 にっこりと笑うセリカ。だが、その目は少しも笑っていない。
 むしろ透き通りすぎていているというか。空恐ろしさを感じるほど澄んだ瞳なのである。 #br
マルス  (怖ぇーっ!)
リーフ  (な、なんだこれ!? いつものセリカじゃない……!)
アルム  (諦めなよ兄さんたち。ミラに関する儀式中のセリカは根っこまで神官だからね。
      なにせ正式な資格も持ってる神官戦士だし……。
      儀式の内容に背くようなことしたら、容赦なく神罰喰らわされるよ?)
マルス  (なんですとーっ!?)
リーフ  (き、聞いてないよそんなの!)
アルム  (まあまあ。ほら、こっち来て座りなよ。なーに、せいぜい二時間ぐらいのもんだから)
マルス  (に、二時間!?)
リーフ  (そんな長い間、興味もない宗教の経典の内容聞かされるんスか! 正直勘弁)

 

 と、リーフが小声でそこまで文句を言った瞬間、彼の真横に短剣が一本突き刺さった。 #br
リーフ  「ヒィッ!?」
セリカ  「お静かに。ミラ神の御前で無駄口は許しませんよ?」
マルス  「いや、セリカ、僕らの話を」
セリカ  「……それとも今すぐ大地に還り、ミラ神の御許へ行くことをお望みですか?」

 

 底冷えのする声で呟くセリカの手に、いつの間にやら数本の短剣が握られていたりして。

 

二人   「いえいえ、是非とも有難い経典を拝聴させて頂きたく存じ上げます!」
セリカ  「まあ、それは素晴らしい心がけだわ。いつもより念入りに儀式を行うことにしましょう。
      これを機にミラ教に改宗したくなるぐらい、たっぷりと聖なる経典を拝聴していただきます」
二人   (ヒィィィィィィィッ!)

 

ロイ   「……毎晩そんなことやってるんだ、セリカ姉さんって」
シグルド 「ああ……わたしも、信仰自体が悪いことだとは思わんのだがな……
      実際、セリカは毎週バレンシアの修道院で貧しい人々への奉仕活動や
      身寄りのない人々のお世話なんかもやっていて、それはとても立派なことだしな」
ロイ   「……でもちょっと行きすぎなような……」
シグルド 「……まあ、よほど熱烈な信仰心がなければ、あの年で神官など務まらないだろうしな」
ロイ   「……じゃ、あの二人がこの時間帯に一緒にいても、シグルド兄さんが特に気にしないのは……」
シグルド 「うむ。セリカは基本的に真面目だし、あの強力すぎる信仰心は間違いなく本物だ。
      神聖な儀式の最中にいやらしいことなど絶対にするはずがないという訳だ」
ロイ   「アルム兄さんは別に信仰に篤いって訳でもないのに、よく平気で祈りの儀式なんかに付き合っていられるよね」
シグルド 「まあ、あいつもずっとセリカのお祈りに付き合っている訳だしな……もう慣れたんだろう」
ロイ   「なるほど……って言うか、シグルド兄さんもひょっとして……?」
シグルド 「ああ。昔、てっきりいやらしいことをしているとばかり思って、この時間帯のあの部屋に踏み込んでな……
      いやあ、ひどいことになった。儀式をぶち壊しにされて怒り狂ったセリカが、
      天使の群やら炎の渦やら降り注ぐ短剣やらで容赦なく攻撃してきてな。
      その挙句に『経典を聞いて己の罪を洗い流しなさい』だのと言って夜通し懺悔の儀式に付き合わされて」
ロイ   「うわぁ」
シグルド 「……という訳で、この時間帯のセリカには関わらないようにしているのだよ」
ロイ   「まさに、『触らぬ神に祟りなし』だね」
シグルド 「そういうことだな」

 

セリカ  「……おお、穢れ易き我らに大地の神の加護あれ……」
マルス  (ぐああああぁぁぁぁ! キツい、キツすぎる!)
リーフ  (あと、あと何時間続くんだこれ……!?)
アルム  (まだ十分も経ってないよ。大袈裟だなあ二人とも)
二人   (誰か助けてぇぇぇぇぇぇっ!)

 

<おしまい>