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Last-modified: 2008-02-19 (火) 21:58:17

野生化と言えばこれだよね

ロイ   「ただいまー……ってうわ、なんだなんだ!?」

 帰宅したロイが目にしたものは、厚いフェルトの織物で暗く閉じきられた居間と、その中で赤々と燃やされるかがり火、
 響く馬頭琴の音を背景に草原衣装で踊り狂う兄弟たちの姿であった。

ヘクトル 「あ、ロイ、ようやく帰ってきやがったな!」
エリウッド「さあ、君もこれを着て踊るんだ!」

 エリウッドから手渡された遊牧民風民族衣装に手早く着替えて、とりあえず踊りに加わりながらロイが聞く。

ロイ   「一体何の騒ぎなのこれ?」
ミカヤ  「>>454のおかげで、リンの野生分をなんとか補給できたと思ったんだけど……」
エリンシア「あれから二週間経っても草原の部族抗争が終わらないらしくて、リンちゃんは草原に行けないまま……」
マルス  「で、あの後警戒してラグズの人たちとか野良猫とかが我が家に近寄らなくなっちゃったもんだから」

リン   「……」

ロイ   「うわ、リン姉さん死にかけ! 最近閉じこもったまま見ないなーと思ってたら、こんなひどいことになってたのか……」
マルス  「で、仕方ないから僕らで出来る限り草原の風を呼び込んで、なんとかリン姉さんに野生分を補給してもらおうと思ってるわけですよ」
ロイ   「こんなんで上手くいくのかな……?」
エリウッド「芳しくはないな……これだけ踊りまくって、エイリークも馬頭琴をかき鳴らしてるのに全く反応がない」
エイリーク「やはり私の腕では荒ぶる野生の音には遠く及ばないということなのでしょうか……」
エフラム 「いや、エイリークはよくやっている。お前は悪くないぞ」
マルス  「こんなときでもシスコンなエフラム兄さん乙」
ロイ   「でもどうするの? このままじゃ全く進展がないよ」
ヘクトル 「一応、アイク兄貴にも野生分を補充してもらえるように頼んだんだが……」

 ヘクトルが言いかけた瞬間、玄関の戸が勢いよく開かれてアイクが入ってきた。

アイク  「待たせたな! ラグズのみんなを説得してきたぞ!」
スクリミル「どこが説得だ! 思い切り力づくだっただろうが!」
ライ   「いや、アイク相手の一騎打ちを承諾したお前が悪いだろ……しかも負けるし」
レテ   「ま、まあ、そういうことだから仕方がないな。別に私はアイクに頼まれたからいるという訳では……」
リィレ  「うー……この家、もう二度と近づきたくなかったのにぃ……」
リーフ  「おお、これは凄い」
マルス  「一気に獣臭くなったね!」
エリウッド「その発言は一歩間違えると名誉毀損だぞマルス……」
アルム  「ただいまー! みんな、鳥捕ってきたよ!」
ネサラ  「離せこの野郎! っつーか鳥って言うんじゃねーっ!」
セリカ  「籠と棒の原始的な罠に引っかかっておいてなんでそんなに偉そうなのよ」
ニアルチ 「ああ情けなや! 鴉王ともあろうお方が空腹に負けなさるとは!」
ネサラ  「うるせー、貧乏なんだから仕方ねえだろうが!」
マルス  「獣分プラス、と」
エイリーク(ピコーン!)
リーフ  「あ、ロマサガで技閃いたときの音だ」
エイリーク「……分かりました。今まさに掴み取りましたよ、馬頭琴の極意!」

 エイリークがかき鳴らす馬頭琴の音色に、より一層深みが加わる。

エリウッド「こ、これは素晴らしい……!」
ヘクトル 「見える! 俺にも草原を渡る風の色が見えるぜ!」
リーフ  「さすがエイリーク姉さん!」
ミカヤ  「さあ、踊り狂いましょうみんな!」

 こうして兄弟家の居間は幻の草原と化す。
 吹きすぎる穏やかな風、地平線に燃える夕陽、嘶く馬と駆ける馬蹄の音が木霊する。

リン   「 テ ン シ ョ ン 上 が っ て き た ぜ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ っ ! ! 」
ロイ   「やった、リン姉さんが復活した!」
リン   「草原の風が、草原の香りが、草原の音色が! わたしの魂に火をつける!」
エリウッド「す、凄い……! こんなにテンションの高いリンを見るのは物凄く久しぶりだ!」
リオン  「野生値上昇……! 100……1000……10000……! うわぁ、野生分スカウターが壊れたぁっ!」
ヘクトル 「なんだそりゃ!? っつーかどっから出てきたんだオイ!」
マルス  「まあまあ、細かいことは言いっこなしですよ」
リーフ  「そうそう。いやあめでたいめでたい」

 やんややんやと騒ぐ一同だったが、その内事態はとんでもない方向に進み始める。

リン   「うおおおおおおおおっ! 我が美しきサカ草原よぉぉぉぉぉおっ!」
マルス  「……ちょっと、テンション上がりすぎじゃないかい、これ?」
ロイ   「そ、そうだね……野生分補充しすぎたかも」
リーフ  「まあまあリン姉さん、とりあえずそろそろちょっと脱力して……」
リン   「父なる天に賭けて……やぁってやるぜ!」
リーフ  「へ……ぎゃあああああああっ!」
ロイ   「なんてこった、リーフ兄さんが分身殺法の餌食になっちゃった!」
マルス  「この人でなしーっ!」
ヘクトル 「お、おい、落ち着けリン……!」
リン   「母なる大地に賭けて……やぁってやるぜ!」

 と、再度リンが振り下ろした剣を、寸でのところで受け止めるアイク。その顔に驚きと焦りの色が滲む。

アイク  「むぅ……! 何て凄まじい威圧感……!」
ミカヤ  「これが野生の力だというの!?」
セリカ  「感じるわ……! 力強い大地の息吹を感じる……!」
リオン  「凄まじい量の野生力が、彼女のパワーを増大させているんだ……!
      普通の人間なら耐えられないほどの野生力を、彼女は全て自らの体内に宿している! 驚くべきことだよこれは!」
エイリーク「解説ありがとうございます……」
スクリミル「ぐぅ……! こ、これは……!」
ライ   「お、思わず腹を見せて服従のポーズを取りたくなるような……!」
レテ   「な、なんということだ……!」
リィレ  「ふぇーん、もうやだーっ!」

 大混乱の中、不意にリンが押し黙り、瞑目しながら剣を天に向ける。

リン   「……澄み渡る天の心にて、悪しき空間を断つ……」
アイク  「むっ!? いかん、みんな、伏せ……っ!」
リン   「断・空・草・原・剣!」

 ――その日、空へと立ち上る美しい光の柱が、紋章町全土で確認されたという……
 で、一時間後。兄弟家跡地の瓦礫の山にて。

リン   「うーん……なんか、妙に頭がすっきり……って、なにこれ!?」
ロイ   「……やあ、おはようリン姉さん」
リン   「ちょっとロイ、この惨状は一体どういうこと!? ああいえ、言わなくていいわ。
     どうせまたヘクトルとエフラム兄さんが喧嘩したとかアイク兄さんの勢いが余っちゃったとかなんでしょ?
     まったく、暴れるのはいいけどちょっとは加減とか周囲への配慮ってものを考えて欲しいわよね」
ヘクトル 「……オイ、なんかスゲー腹立つんだが……」
エリウッド「抑えておけよ……ああ、胃が痛い」
アイク  「……それにしても、野生の力とは凄まじいものなんだな」
セリカ  「ええ。やはり人は大地の力失くしては生きていけないのよ! さあ、みんなでミラ教に入信しましょう」
アルム  「自重しようよセリカ」
アイク  「……あの状態のリンと、是非一度本気で手合わせ願いたいものだな」
ミカヤ  「やめて。下手したらユンヌの癇癪並の大惨事になるから……」
マルス  「おーい、誰か、こっち来てリーフ掘り起こすの手伝ってくれないー?」

 なお、この光景を目にした遊牧民達はみな『我らの争いを見て父なる天が怒り狂っている』と畏敬の念を抱き、
 草原における部族抗争は速やかに終結を見たそうである。