8-256

Last-modified: 2008-02-27 (水) 19:43:33

256 名前: 光と闇と [sage] 投稿日: 2008/02/17(日) 23:28:19 ID:mAGW5BVO
 ~ユグドラル中学~

ロイ   「……あー、ここだここだ、セリス兄さんが通ってる中学校」

 とある休日の昼下がり、ロイは兄セリスの通うユグドラル中学校の校門に立っていた。
 彼とセリスは、通っている中学校が違う。兄弟としては珍しいことだが、もちろんこれには理由があった。

ロイ   (幼馴染のユリアさんにユリウスさん、それにラナさんたちとか……小さい頃に仲良くなった友だちが、
      みんなこの学校に通ってるんだもんなあ。そりゃ、こっちに通いたくなって当然だよ)

 ロイはエレブ中学校で、ここは現在エレブ高に通うエリウッド、リン、ヘクトルの三人の母校でもある。
 ちなみにロイ自身もエレブ中学校に通っている理由はセリスと大体同じようなものだったので、あまり人のことは言えなかったりもする。

ロイ   (アルム兄さんとセリカ姉さんもバレンシア中学って、かなり田舎の学校に毎朝ワープで通ってるもんな。
      まあ、あの二人は多分シグルド兄さんから離れてイチャイチャしたかったのが理由の大半だろうけど)

 そんなことを考えながら、校門をくぐる。来たことのない学校なのでキョロキョロしていると、声をかけられた。

??? 「よう、見慣れない顔だな。他校の生徒さんか?」
ロイ   「あ、すみません、ちょっと、兄の忘れ物を届け、に……」

 振り返ったロイは、その場で硬直した。声をかけてきた人物が不思議そうに首を傾げる。

レックス 「……どうした? 俺の顔になんかついているか?」
ロイ   「……い、いえ、ちょっと、僕の兄に似てたもので……」

 ちなみに「なんか痩せて凛々しくなったヘクトル兄さんみたいな人だなあ」という、ヘクトル本人が聞いたら怒りそうな感想である。
 その男は豪快に笑った。

レックス 「ははは、そうかそうか。似てない兄弟なんだな」
ロイ   「まあ、そうですね」
レックス 「俺はここで教員やってるレックスってもんだ。よろしくな」
ロイ   「あ、はい、よろしくお願いします。……お若いのにもう教員だなんて、凄いですね」
レックス 「……中学生ぐらいにしか見えんのに、お世辞が上手い奴だな。
      ま、俺は自分でもちょっと要領がいいつもりだからな。周りからはエリートのレックス、なんて呼ばれてるぐらいさ」

 レックスは冗談めかして言う。

レックス 「で、誰に用事なんだ? 俺が知ってる生徒ならいいんだがな……」
ロイ   「ええと、セリスっていう」
レックス 「なに、セリス!?」

 レックスは目を丸くしてロイを見た。

レックス 「……あのセリスの弟か。……似てない兄弟なんだな」
ロイ   (しみじみと頷かれてしまった……)
レックス 「あいつなら、休日だってのにご苦労にも登校して、今は生徒会室にいるはずだぜ。
       なにせ、『光の生徒会長』様だからな」
ロイ   (光の生徒会長……肩書きかな? はは、セリス兄さんにはぴったりだ)
レックス 「案内するから、ついてこいよ」
ロイ   「はい、分かりました」

 レックスの後に続いて、ロイも歩き出す。
 ユグドラル中学はなかなか綺麗な校舎だったが、そこかしこに大規模な破壊の跡が目立つ、ような気がする。
257 名前: 光と闇と [sage] 投稿日: 2008/02/17(日) 23:28:54 ID:mAGW5BVO
ロイ   「……あのー」
レックス 「聞くな。いろいろあって、よく校舎が吹っ飛ばされるんだ……
      トールハンマーとか怒りのトローンとかフォルセティとか、あとブレスとかユングヴィ神拳とか」
ロイ   「そんなんで、経営とか大丈夫なんですか?」
レックス 「校長のクルトさん曰く、」

クルト  「いいんじゃね? 生徒が元気な証拠だし」

レックス 「……だそうだ」
ロイ   「寛容な人ですね……」
レックス 「才知溢れるお方だからな」
ロイ   (……話には聞いてたけど、物凄い学校だ……
      まあ、僕の学校も理由は分からないけどたまにフォルブレイズとかミュルグレの一撃とかで吹き飛ぶし、
      紋章町の学校なんてみんなそんなものなのかもしれないけど)

 ロイが気楽に納得しつつ歩いていると、レックスがある部屋の前で立ち止まった。
 大きな木の扉の上に、「生徒会室」という金色のプレートが掲げられている。

ロイ   「ああ、ここですか。案内してくださってありがと」
レックス 「まあ待て」

 お辞儀しようとしたセリスを止めて、レックスが扉に耳を押し当てる。難しそうな顔だ。

レックス 「……静かだな。今日は珍しく、もめてないのか……?」
ロイ   「……あのー……?」
レックス 「ああいや、すまん。入っても大丈夫そうだから、開けるぞ」
ロイ   「あ、はい。お願いしま」

 しかし、扉を開けた瞬間、レックスは鋭い表情を浮かべて「伏せろ!」と叫んだ。
 わけの分からぬまま、それでも家で培われた反射神経を発揮して瞬時にその場を伏せるロイ。
 頭上を無数の矢玉が飛んでいった。

ロイ   「なんで!?」
レックス 「悪い、読み違えた。どうやら一触即発のところに飛び込んじまったみたいだな……見てみろ」

 レックスの背中にかばわれながら、ロイは生徒会室の中を見る。そして絶句した。

ラクチェ 「流・星・剣ーっ!」
ブリアン 「うはははは、甘いぞ! スワンチカの防御力上昇の前に、そんな五連撃など大した威力を発揮せぬわ!」
イシュタル「ユング、フレグ、メイベル! トライアングルアタックで敵の主力を突き崩せ!」
三人   「了解!」
ラナ   「甘いわぁっ! さあお前達、アローストームで歓迎しておやりなさい!」
ディムナ 「イエス、マム!」
レスター 「全員、弓を構えろ……放てーっ!」
ユリア  「セリス様に逆らう愚か者は、みんなまとめて光のブレスでなぎ払って差し上げます!」

 喧々囂々。物凄い騒ぎである。
 呆然とするロイの前で、レックスはため息をついた。
258 名前: 光と闇と [sage] 投稿日: 2008/02/17(日) 23:29:29 ID:mAGW5BVO
レックス 「……ったく。たまには仲良くできんのか、こいつらは」
ロイ   「あ、あのー、これは一体……?」
レックス 「ああ、これがユグドラル中学名物、生徒会室大乱闘だ」
ロイ   「だ、大乱闘、ですか……」
レックス 「そもそも、このユグドラル中学には光の生徒会と闇の生徒会があってだな」
ロイ   「なんですかそれ!?」
レックス 「詳しくは知らんが、そういう伝統があるらしい。ちなみに光の生徒会というのが与党で、
      闇の生徒会が野党、という感じだ。当たり前の話だが、伝統的に仲が悪い」
ロイ   「当たり前ですよ! 創始者は一体何を考えてたんですか!?」
レックス 「創始者は分からんが、現校長のクルトさんはこう仰っている」

クルト  「いいんじゃね? 多分社会に出たときこういう経験が役に立つよ」

レックス 「……とな」
ロイ   「寛容すぎますよ!」
レックス 「才知溢れるお方だからな……さて、じゃあセリスのところに行くか。俺のあとにしっかりついてこいよ」
ロイ   「は、はい……!」

 まるで戦場の中を駆け抜けるような感覚である。ロイは必死にレックスについていき、生徒会室の奥にたどり着く。

セリス  「あれ、ロイじゃない」
ユリウス 「なんだ、お前の弟か? レックス先生まで一緒に」

 混沌とした戦場の中にあって、セリスとユリウスの周囲だけは不思議なほど平穏である。
 よく見ると、周りに待機している何人かの生徒が結界らしきものを張っているのが見えた。

セリス  「いつもごめんね、マナ、コープル」
コープル 「いえ……会長たちが怪我をしたら困りますし」
マナ   「セリス様が傷つくのは怖いですけど、ラナ様のお仕置きはもっと怖いです……」
ロイ   「……凄いな、この充実した護衛具合」
セリス  「それで、どうしたの、ロイ?」
ロイ   「ああうん、お弁当届けに来たんだよ。忘れていったでしょ?」
セリス  「あ、そっかー。ありがとうね、ロイ」
ユリウス 「相変わらず抜けてんな、お前は……」
ロイ   「……それにしても、凄い騒ぎだね、これ」

 ロイが未だに収まる気配を見せない生徒会室の乱闘を見ながら言うと、セリスとユリウスは顔を見合わせて首を振った。

セリス  「こんなの、いつもに比べたら全然マシだよ」
ユリウス 「そうだぞ。イシュタルとユリアがガチでぶつかり合ったときは、周囲の家屋にまで被害が及ぶところだったからな……
       生徒会員総出で結界張って、なんとか事なきを得たが」
ロイ   「いいのそんなんで!?」
セリス  「んとね、クルト校長先生はこう言ってたよ」

クルト  「いいんじゃね? 生徒の自主性に任せるってことで」

セリス  「……って」
ロイ   「寛容ってレベルじゃないよ!」
セリス  「才知溢れるお方だからねえ……」
ユリウス 「いや、単に抜けてるだけだろあの兄ちゃんは……」
レックス 「こらこら、校長に対してその口の利き方はないだろ、ユリウス」
ユリウス 「へいへい」
259 名前: 光と闇と [sage] 投稿日: 2008/02/17(日) 23:30:10 ID:mAGW5BVO
ロイ   「……ところで、ユリウスさんはどんな立場なんですか?
      セリス兄さんと一緒にいるところ見ると、副会長とか?」
ユリウス 「……僕がこんな天然女男の下につく男に見えるのか?」
セリス  「そうだよロイ、ユリウスに失礼だよ!」
ロイ   「いや、ユリウスさんの言葉もセリス兄さんに対して失礼なんじゃないかなって……まあいいや。
      でも、セリス兄さんって生徒会長なんだよね? それと同じぐらいに偉い役職って……」
セリス  「うん、僕が『光の生徒会長』で」
ユリウス 「僕が『闇の生徒会長』だ」
ロイ   「なにそれ!?」
レックス 「さっき説明したろ。光の生徒会と闇の生徒会があるって」
ロイ   「あー……なるほど。え、ちょっと待って。
      じゃあ、光と闇の生徒会員が正面からぶつかり合ってるのに、お互いの総大将が
      こんなところで仲良く結界の中にいて、お茶啜りながらお喋りしてるってこと?」
セリス  「まあ」
ユリウス 「そうなるか」
ロイ   「なんで!?」
ユリウス 「あのなロイ君よ。まだお子様のお前には分からないかもしれないけど」

 ユリウスは遠くを見るように目を細めて言う。

ユリウス 「大人の……政治の世界って言うのは、いろいろと大変なんだよ」
セリス  「そうだよ、大変なんだよー」
ロイ   「いや、セリス兄さん絶対分かってないよね!?」
ユリウス 「さてセリス、連中もそろそろ疲れてくるころだし、今回の議題の落とし所まとめとくか」
セリス  「そうだね。予算の件だけど、やっぱり世紀末弓世部は多すぎるんじゃないかと思うんだ」
ユリウス 「ラナオウのとこだからな……その辺はお前が説得しといてくれよ」
セリス  「うん。あ、でも雷落とし部はさ、トローン二十冊分の予算を要求してて……」
ユリウス 「イシュタルめ、欲張りすぎだろ。分かった、僕から言っとく。あとな……」
ロイ   「……じゃ、失礼します」

 二人の邪魔になってはいけないと思い、ロイはまたレックスの後について部屋を出た。
 二人の見立てどおり、確かに乱闘はそろそろ終わりを迎えそうな気配だった。
 ラナとユリア、イシュタル辺りはまだまだ元気そうだったが。

ロイ   「何気に観察力すごいな二人とも」
レックス 「あいつらはかなり能力高いぞ。それにお互いの生徒会員から絶対的な支持を受けてるからな。
      会員同士仲が悪くても、会長同士は仲がいいから、そこそこ上手くいってるわけだ」
ロイ   「はあ。……ところで、なんだって口じゃなくて拳で語りあってるんですか、光と闇の生徒会」
レックス 「うむ。議会の決定に従えない場合は力に訴えて無理矢理相手の票を奪ってもいいというルールがな」
ロイ   「それなんてディスガイア? ……じゃなくって、それでいいんですかこの学校?」
レックス 「校長のクルトさんは、こう仰っていた」

クルト  「いいんじゃね? どうでも」

レックス 「……とな」
ロイ   「寛容通り越して適当ですよ!」
レックス 「才知溢れるお方だからな」
ロイ   「それはもういいです!」

 そんなこんなで、ロイのユグドラル中学校訪問は散々な結果に終わったのでありました。