19-121 の変更点

バルテロメ「そこにお掛けなさい」 
リン「は、はい」 

バルテロメの屋敷の一室に通されたリンはどうにも居心地が悪そうだ。 
庶民のリンにはクルベア家のきらびやかな屋敷はどうしても落ち着かない。 

リン(でもこれも女らしくなるためよ!リン!根性よ!) 

拳を握り締めるリン。その脳裏に数時間前の出来事が蘇る。 

男子生徒ABをシメたリンが、 
障害物フレイボム走に出場するべく踵を返しかけた時バルテロメに声をかけられた。 
ケバイわかめヘアーにリンはドン引きしたのだが、そんな事には気付かないバルテロメは 
熱心にリンをスカウトした。 
バルテロメ「貴女こそ私が探していた肉体美と端麗さの象徴! 
明日のモデル界に燦然と輝く明星になりうる資質を貴女は秘めています!」 
リン「ホ・・・ホントですか!?でも私・・・ガサツですし・・・こんな事ばかりやってるし」 
気絶している男子ABを指し示すリン。だがバルテロメの熱意は止まらない。 
バルテロメ「そんな事は関係ありません!この私ならば貴女の秘めた美しさを引き出すことができます!」 
リン「・・・・!!!本当に・・・本当に女らしくなれるんですね!」 
バルテロメ「もちろんです!この私を信じなさい!」 

こうしてリンはバルテロメの誘いを受け入れ、モデルとしての第一歩を踏み出したのである。 

体育祭の後、バルテロメはリンを伴って屋敷に戻った。午後の競技の間ずっとリンを見て、 
どうすればリンの美を引き出せるか考えていたが、サカの血を引く者を手がけるのは初めての経験である。 
バルテロメ(それだけに今回は、私にとっても新たな美の境地を切り開けそうです) 

元来バルテロメは貴族主義者、差別主義者である。 
サカ人やヴェルダン人、イザーク人などは文明から程遠い野蛮人だと考えていた。 
ラグズなど半獣呼ばわりし、白鷺以外は一切認めていなかったほどである。 

そんな連中に美など存在するはずもないと考えていたのだが、その認識を今回彼は大きく改める事にした。 
バルテロメ「ですが、それだけに今回は従来とは別方向のアプローチで・・・・・・ブツブツブツ」 

リンの周りを回りながらブツブツ何事かつぶやくバルテロメ。 
リン「あのー・・・バルテロメさん?」 
バルテロメ「ブツブツブツブツ・・・・・・」 
まったく聞こえていない。 

リン(だ・・・大丈夫なのかしら?今更不安になってきたんだけど・・・) 

数日後……兄弟家の居間でヘクトルが座布団を枕にしてゴロゴロしている。 
ヘクトル「だりー……」 
エフラム「そんな所でゴロゴロするな。邪魔だメタボが」 
ヘクトル「うるせぇロリ…いやペド野郎!」 
エフラム「…ほう、どうやら命がいらんようだな」 

そのとき居間にエリンシアとセリスが入ってきた。 
エリンシア「これからお夕飯ですわ。ほこりを立ててはいけませんよ」 
にっこり微笑むエリンシアだが目が笑っていない。 
やむを得ず矛を収める2人。 

エリンシア「所でセリスちゃん。シグルド兄さまとリンちゃんは今日も遅くなるのかしら?」 
マルス「うん、シグルド兄さんはいつもどおり残業、リン姉さんはフロリーナさんと約束があるんだって」 
エリンシア「…最近リンちゃん帰りが遅いのよねぇ、昨日はレベッカちゃんと約束があるって言っていたし…」 

その時居間の隅で本を読んでいたマルスが口を開いた。 
マルス「…さらにその前はニノと用事があるって言ってましたね。ふん、 
どうやら友達をレズの道に引き込むのに忙しいんじゃないですか?」 
ロイ(うわぁ、マルス兄さん…最近リン姉さんといっしょに夕飯食べられないから機嫌悪いなあ…) 

シグルドはなるべく夕飯までには帰るようにしているが、仕事が忙しい時期にはそうもいかない。 
会社の同僚との付き合いもある。しかし、リンが10日も10時過ぎまで帰らないというのは初めての事である。 

ミカヤ「ま、まさか…リンが不良の道に!ごめんね!お姉ちゃんが今の若者の気持ちを分かってあげられなかったから!」 
エリウッド「ああ、たまにマルスやヘクトルとケンカしても 
リンは世間に迷惑かけない良い子だと思っていたのに…うう胃が…」 
ロイ「いや、リン姉さんが心配なのはわかるけど、すぐ悪い方に考えるのはやめようよ」 
ヘクトル「バイトでも始めたんじゃねえの?家族が仕事先にきたらはずかしいから隠してるとかよ」 
エイリーク「アルバイトですか…あるかもしれませんね」 

不良よりはよほどありえる話だ。エイリークの言葉を受けて一同はリンのバイト姿を想像する。 
ミカヤ「バイト…紡績工場の女工さんとかかしら?」 
ヘクトル「バイトとは違うけど闘技場で稼いでるんじゃねえか?」 
アイク「肉屋に違いない」 
アルム「八百屋じゃないかな」 
セリカ「きっとミラ教団で奉仕活動よ」 
エフラム「いや、幼稚園で保母さんだろう…俺もちょうど新しい槍を買おうと思っていたんだ。 
そのバイト紹介してもらおう」 
リーフ「ロリコン兄さん自重、僕は家庭教師だと思うね。秘密のイケナイ個人授業…」 
ブバァァァァァ 
ロイ「リーフ兄さんも自重しようよ」 

エリンシア「みんなー晩御飯ですよー」 
シグルドとリンを除く全員が席に着く。 

全員「いただきまーす」 
マルス「……」 
黙々と箸を動かすマルスはやはり機嫌が悪そうだ。ミカヤは目を細めた。 
ミカヤ(マルスったらやっぱりリンがいなくて寂しいのね……) 
TVのスイッチを入れるミカヤ。多少はマルスの気晴らしになるかもしれないと思ったのである。 

セーラ『さあ、やってまいりました!ベグニオングループ主催の今年の新作発表会!!』 
ドロシー『今年一年の流行を決める!その名もシエネ・コレクション!』 
セーラ『この催しはメンズ&レディースで行われる、 
あらゆるファッションの最高権威…ってなんで私に声がかからないのよ!?』 
ドロシー『かかってるじゃないですか。こうしてアナウンサーとして』 
セーラ『ちっがーう!モデルとしてよ!この超絶美少女のセーラ様を差し置いて、 
最高権威もないもんでしょ!!』 

プラカードを掲げるシャナム。 
それには「生放送なんだぞ!いらんこと言うな!仕事もらえなくなるだろ!」と書かれている。 

セーラ『はいはい!チッ!これだから弱小会社は!』 
ドロシー『それにしてもファッションの最先端だけあってモデルさん達も美男美女ばかりですね』 
セーラ『まあ、私ほどじゃないけどね』 

リーフ「うひょー!美人のモデルさんキターーーー!!!」 

画面にがぶりよるリーフ。リーフの言うとおりモデル達は美男美女ぞろいである。 

順番にモデル達はステージ上に上がり、煌びやかな姿を披露する。 

今年の新作スーツできめた仮面のモデルシリウスがステージに上がると、 
客席の最前列にいたニーナがカメラのフラッシュをたきまくる。 

ディアメル家のステラが純白のパーティドレスを披露する。エスコート役にステラの強い希望で 
マカロフがついているが明らかに浮いている。 

バルテロメ「ふふふふ……いよいよです」 
この日のために準備を進めてきた。バルテロメはすでに勝利を確信している。 

エリンシア「みなさんキレイですけど……なんだかありがちですわ…やはりガチムチ…」 
ロイ「姉さん自重、でもそうだね。意外性がないというか…」 
ミカヤ「こういうのが今のモボモガなのねぇ」 
ロイ「???モボモガって何?」 
ミカヤ「…モダンボーイモダンガールの略よ…うう、世代の差を感じる」 
マルス「……」 

そうこうしている間にもショーは進み、いよいよラストである。 

ドロシー『それでは皆さんご注目!業界一のカリスマコーディネイター、バルテロメ氏の新作を発表致します!!!』 
セーラ『へ?バルテロメってあのケバいワカメ……モガモガ!?』 
シャナムに口を塞がれて暴れるセーラ。どうやら来年は他のTV会社に仕事をとられるようだ。 
シャナムとイリオスに引きずられていくセーラを見送り、頑張って一人で盛り上げるドロシー。 

ドロシー『それでは入場です!!テーマは東洋!!!』 

一人の美女がしゃなりしゃなりと舞台袖から歩いてくる。スリットの入った赤いチャイナドレスは、 
シンプルな装飾がされているが、それが美女のしなやかな体つきを際立たせる。 
スリットから除く足は引き締まったセクシーな魅力を漂わせており、画面の前のリーフは 
鼻血を噴いて痙攣している。美女は右手に持った艶やかな扇で顔の下半分を隠しており、 
いやがおうにもその素顔に期待がもてる。 

会場にざわめきが走った。 

エイリーク「以外ですね。バルテロメ様といえば西洋の服飾ばかりあつかってこられたのに」 
ヘクトル「……あ?ああぁそうだな!」 
アルム「ヘクトル兄さんが見とれてる」 
エフラム「俺には分からん」 

マルス「……ま、まさか……」 
セリス「どうしたの?」 

ステージ中央に立った美女は扇を高く掲げ、観客に素顔をさらした。 
マルス「……!!!!!!!!!!!!!!!!」 
ヘクトル「な……な……」 
ロイ「こ……これって……」 
ミカヤ「リン!?」 

ブラボォォォォォォォオォォォォオォォォォォォォ!!!!!!!!! 

観客たちは立ち上がって拍手を送り、報道陣のフラッシュが会場を光に包む。 
ステージの上には大勢の賞賛の眼差しの中に咲き誇るリンの姿があった。 

セリス「うわぁ!リン姉さんキレイだなぁ」 
エイリーク「ええ、とても美しいですね」 

ヘクトル「ア、アホな!何をどうすりゃあいつがあんなんなるんだ!」 
セリス「でも最小限のメイクしかしてないよ。どう見ても」 

兄弟家の面々は呆然とTVの画面に見入るのだった。 



満場の拍手のなか、バルテロメは静かに瞳を閉じた。 
バルテロメ「ふふふ…彼女の美を引き出すのに余計な物は不要です。ほんの些細な添え物をしてやるだけで 
市井の少女が大輪の花となれるのです。今回は私もよい勉強をさせてもらいました」 

もはやオリヴァーへの対抗意識などどうでもいい。新たな美の境地を開いたバルテロメは、 
落ち着いたら東洋を回ってみようと思うのだった。 


それからが大変だった。一夜にしてトップモデルとなったリンは一躍時の人となったのだが、 
「バルテロメさんには感謝しています。でも、この思い出とともに普通の女の子として生きていきます」 
とのコメントと共に元の生活へと戻っていった。 

今でも時々取材が来るがリンはそれらを丁重に断っている。そして平穏な日常が帰ってきた。 

ヘクトル「……」 
リン「へぇくと~~~る!聞いたわよ!アンタ私に見とれてたんだって?」 
めずらしくニヤニヤしながらヘクトルをからかうリン。 
ヘクトル「……うるせぇ!」 
照れくさそうに言い返すヘクトルを前にリンは満足そうだ。 
ようはちょっと見返してやりたかっただけなのだ。 

リンはスキップしながら今度はマルスをからかいにいった。 
その時マルスはほんの小さな声で、リンにもかろうじて聞き取れる程度の声でつぶやいた。 

その言葉が聞こえたのかはわからない。いや、聞こえたのだろう。 
リンはマルスに向かって満面の笑顔で答えたのだ。 
「ただいま」と。 

終わり