武器/物語(法器)

Last-modified: 2024-02-14 (水) 05:37:56

☆5

四風原典

極めて古い風の教典。風神を祭る者の間に代々伝わっている。
シミだらけのページは無数の手形を残し、一部は風と共に消えていった。

高塔の暴風君王による暴政が蔓延る時代、教典は人々の絶望による訴えを記録した。
一面の氷雪が消えた時代になると、教典は命の新生による歓喜を記録した。

旧貴族による傀儡政権の時代、
奴隷の間に伝わっていた教典は千風への渇望を記した。

モンドの人々は、耐え忍び、抗争し、喜び、そして自由を楽しむ。
それらの貴重な時代に、風の教典は厚く重くなっていった。

しかし、新しいモンドが誕生し、教会が旧貴族の束縛から解放された時、
四風の教典は、高い棚に置き去られることを望まず、教会の宝庫から消えていった。
恐らく、この本はモンドの風や人と同じく、なにものからも縛られたくないのだろう。

標題紙に綺麗な字でこう書いてある。

風の神の子よ、永遠に覚えておきなさい。
命は風と共に誕生し、また風と共に去っていく。
だから、どうか悲しまないで。
土に還ったのは骨と肉だけ。
本当の私は千の風となった。

花の香りや草木のざわめきを感じるのは、
私が自由と風を唄っているから。

天空の巻

千風万雲通覧。
北の大陸全土の風と雲を、詩と絵の形で記した典籍の謄本。
十万筋の雲があり、一筋一筋に雲と風が絡み合う。
雲の絵は風に形を与えた。詩は風に独特な性格を与えた。
本来は風を持たない千風だが、バルバトスにとっては親友や家族のような存在。

伝説によれば、上古時代に、風の神は典籍の原本で四風を呼び寄せた。
氷雪を吹き飛ばし、凶暴な怪獣を撃退した。さらに雨を降らし、モンドを創った。
寛容な風神はこの典籍の内容を人々に共有し、「千風万雲」と名付けた。
時が経った今では、典籍に記載されていない内容も多く存在する。
無数の風と雲を記載したてん席は、歌謡や伝説となり人々へ伝わった。

風神が存在し続ける限り、千風の歴史は決して終わらない。
魔龍ドゥリンの翼が日の光を覆い隠した時、バルバトスは現れた。
激戦の中、風神は千風を詠い、風龍を召喚した。
この典籍を心得た者は、千風万雲の真名とその偉大なる力を手に入れる。

今、モンドの空は穏やかに晴れている。
風神と風龍は新たな帰る場所を見つけた。
この典籍も信頼できる者へと託した。

浮世の錠

「これが盟約の印であり、私からあなたへの挑戦状でもある」
「わたしの全ての知恵を、この石錠に閉じ込めた」
彼は初めて少女を見たときの事を思い出した。ぷかぷかな着物を着て、印を持った彼女は、わざとらしい位に真面目な顔をしていた。
本当に愚かだ。まだ正式な契約を結んでいないと言うのに。
彼はまた、昔、琉璃百合の咲き乱れる野原で、二人が初めて出会った情景を思い出した。
それと、琉璃百合の中で、彼女と最後に交わした言葉も。

「あの小さな者達は、塵のようにちっぽけで軟弱だ」
「ちっぽけだから、いつ自分達が天災や事故で死ぬのか、いつも怯えている」
「怯えているから、もっと賢くなろうと、いつも努力している。私には分かる」
「だから、あなたの力には遠く及ばないけど、私達は技術と知恵を使えばいいと思うの」
「同時にあなたの力と私の頭脳があれば……この街は素晴らしい場所になるはずよ」
彼女は寂しそうに笑うと、ゆっくりと細かい塵と化した。
「やっぱり、あなたとは共に歩めそうにないわ。錠前の事は、忘れて」

「これが盟約の印であり、私からあなたへの挑戦状でもある」
「わたしの全ての知恵を、この石錠に閉じ込めた」
「もし、これを解く事が出来るのなら――」
何年経っても、彼にはそれを解く事が出来なかったし、その言葉の続きも知らなかった。
月日が流れるにつれ、野生の琉璃百合もほとんど姿を消していった。

不滅の月華

珊瑚宮の紋章「真珠海波」、伝説では海祇の波を抱擁する景色と、
明るい真珠が描かれている。しかし、大御神の玉輪は、月のように永遠に珊瑚の国を照らしているという説もある。

海綿や珊瑚が棲む深海の夢の中、そして流れゆく雲と海の砂が共に踊る深海の底で、
海祇と同じ夢を見る神の子たちの血脈には、不滅の希望が永遠に受け継がれていく。
天の色彩は常に変化し、海淵の下で定まらぬ影を形成している…
深き海淵が隠しきれない慈悲は、このように静寂な極楽の中で消散するとした。

その時代、最初の現人神の巫女は珠玉如き知恵で同胞を導いた。
そして彼女は、新たに太陽を知った人々の中から聖職者を選び、神と共に日の光を恐れる人々を助けた。
後世、鳴神軍を震わせた「海御前」は、彼女らと共に鯨の歌を歌い、
空游の海月と共に踊り、「鍵紋」の形を描いた。

時が経つにつれ、一筋の雷霆が海祇の民の夢を砕いた。
雷暴に立ち向かうことは、必然と無情の権現に直面することになる。
しかし、真珠の心を持った神子巫女たちは忘れなかった。
数え切れないほどの物語と感謝の気持ち、そして海玉の輪は永遠に語り継がれることだろう。
そして、それによって彼らはより明るく、より美しく輝いていくのだ。

折れた玉枝や真珠を育む史話、
或いは深海の邪物を征服したり、日差しを蒼白の淵下の国にもたらすことも。
影向山に立つことを夢見た少年が、「悪王」の名を持つようになり、天狗と壮絶な決闘を果たした…
これらはすべて、天からの真珠、月光の下の波のように、海祇の民の心を照らすだろう。
喪失の痛みを塩の混じった海の中に運び、輝く真珠の中に蓄える。
神々の時代の物語と犠牲が、この「真珠海波」の紋章とともに永遠に受け継がれることを願おう。

たとえ嵐の雲が集まってきても、紫電の獰猛さが予測不可であっても、
海祇の月華は、雲を突き抜け、光を照らしてくれるだろう。

神楽の真意

かつて御前で踊られたその舞は、鈴の音を今なお響かせている。
かつて追い求めた白き姿は、彼方へと去り、覚めやらぬ夢を志した…

「あの時の妾は、ただの小さきものに過ぎず、白辰主母様の霊智には遠く及ばんかった」
「無鉄砲で、まるで食べ物を求めて雪の中を駆け回るかのように、殿下の気を引こうとした」
「可笑しな話じゃが、その不器用で恐れ知らずな振る舞いのおかげで、妾は殿下の慈愛を賜ったのじゃ」
「それから妾は殿下に仕え、手足を温めるというささやかな特権を得た」

「じゃが…その後、斎宮様は帰ってくることができんかった。かつての先代方も、ある事情によってはなれていった」
「才に欠けた妾であったが、『神子』の職を継ぎ、今のように成長したんじゃ」
「こうして、殿下を喜ばせるという責務は、不幸にも妾の方にのしかかった」
「初めて神楽舞を献上したあの夜、やっと『過去』がどれほど重いものかを知った」

鈴の音が遠くへ響き、師であり友であった白銀の大狐が、夢のように長き川へと消えた。
再び鈴が鳴り響いて、牢固な砂州が次第に緩み、果てなき渦へと溶けてゆく。
かつての穏やかで純白な姿は、とうに漆黒に染まった記憶となり、
仙狐一族の孤女は神楽の鈴で、生に満ちた「現在」のために舞う。

かつて頭の固い若き天狗と出会い、「鍛錬」と称して彼女を山で修行させたことがある。
その奔放な振る舞いから、九条の頑固頭たちへと彼女を推薦した。
かつて負けず嫌いな鬼族と勝負した時、その尋常ならざる根気に敗れたことがある…
だが、ほんの少しの工夫で、勝負そのものを面白いものにした。
かつて遠国の半仙との交流で、柔らかく新鮮な海の幸を送ったことがある。
それでもなお、彼女の愚直なまでの愛を理解するに至らなかった。仙人にとって、それは一種の束縛ではないのだろうか?
月光が枝や花びらを伝い、誰も居ない庭に降り注ぐ。
無数の真珠のように美しく、この浅はかな心に輝いた…

「この短き数百年、妾は様々身分で世を奔走してきてた」
「常人と縁を結ぶような幸運には恵まれんかったが、人の美しさを深く知った」
「妾が友と呼ぶ殿下には、限りない時間があることじゃろう」
「共にこの不完全な世を見届け、愛憎と離合の執着を愉しもうぞ」

長きに渡り、殿下が永遠の夢に沈んでいる間、誰かが民衆を見守る必要がある。
悪鬼「黒阿弥」の怨怒を鎮めるため、不祥なる力を見せた。
禿狸小三太の大騒動を収めるため、僅かな法力を用いて手の平で転がした。
島々の秩序を乱す海賊林蔵は、些細な離間計により裏切られた。
「彼」が正しき道を歩み、災いにならぬことを願おう。
漆黒に塗られた剣豪の残魂も、神林に隠れし災異の獣も、すべて祓い清められた…
殿下と共に追い求めた永遠の夢に比べれば、それらは儚き須臾の間奏に過ぎない。
殿下の目覚めを待つ日々が、果てなきものであろうと、時間はいくらでもあると思えた。

「なにせ、無風無月の浄土にある永遠に枯れぬ蓮と優曇に比べれば」
「俗気にまみれた妾では、かような孤独に耐えられぬ。心も夢もなき者は、実につまらぬであろう」
「酔狂で雷櫻の枝を折り、勝手気ままな妖怪たちと戯れるほうがよほどマシじゃ」
「これらすべて、そう遠くない過去と、希望に満ちた未来」
「雪解けの頃、果たして殿下と共にあの薄紫の初芽を楽しむことができるじゃろうか」

千夜に浮かぶ夢

「万物は生まれ、そして死ぬ——闇夜と黎明の繰り返しが延々と続いていくように。」
「このランプにある物語が、あなたの期待に応える夢をもたらそう。」

御苑が消え去る時、「光」を知ることのなかった少女は、夢の中で彼女のささやきを聞いた。
もともと「夢」と共に去ることを決めていた幼子は、涙の中で彼女の慈悲を目にした。

蒼翠のランプは静かな月光を照り返し、星々の影とその永世の歌を共に語っている——
碧の瞳を持つ踊り子は、垂れる絹に軽く口づけし、色鮮やかな魚が真珠のような浄水の中を踊る。
夜をゆく楽士はジンニーの炬を導き、砂海の中にある金色の城塞とザクロ色の琴を詠嘆する。
饒舌な船乗りは栄誉の航海に出た——ただ夢にある歌声と彼岸にある緑の花園を探索するために。

静かな明かりは崩れ落ちた御苑を照らす。千の世界の美しく幻想的な夢がランプの中で回り、
柔らかな林風が埃を被った帰路へと流れ、迷子になった幼子をもはや静かではなくなった宮殿の外へと導く。
次第に明るくなる天光は細やかな葉の間に落ち、千夜の夢を語る翠のランプはますます暗くなっていった——
夢の境を彷徨うかのようにふと振り返ると、盲目の少女はようやく森が消え、夜が明けたことに気づく。

あの夢の中にあるランプが光ることはもうない。旧夜の夢は流れる時に飲み込まれ、
曙光を迎えた鳥は依然として歌い、花が咲き誇るかのような言葉を口ずさむ。
あの夢を見ていない子供たちのために、勇気と希望、喜びを贈り、永遠に終わりを見せない千夜の歌を紡ぐ。そして夜明けを待ち、一晩の明かりを灯す。

千の夜を渡った迷夢で、夜鶯が鳴き止み、夕日がもう一度沈むまで、終焉に辿り着いた旅人は、再びあの蒼翠のランプを見る。あの遥か遠い母国では、
露のついたバラが今も月を浴び、風の中で揺らいで、新しい物語を語っている——
「たとえ昨夜の思い出がなくとも、今夜の甘い夢のために歌おう。」

トゥライトゥーラの記憶

かつてまだらな銀色が降り注ぐ砂丘をそぞろ歩いて、明月の三姉妹と共に踊った。
かつて影の伸びる大地を、血と涙が織りなした泉の園圃を走った…
花の女王の悲しみによって、サファイアの都は涙のように浮かび上がった。
サファイアの天蓋の下、ティナル人は智者を輩出することを誇りにしていた。

ティナル人のトゥライトゥーラの国は、花の女王が一番気に入っていた珠玉であったと言われている。
黄金の時代、月のように白い顔色も琥珀のような蜜の輝きを放っていた。
花園に咲き誇る、夢のような紫色のパティサラ…膨らんだザクロは高らかに歌う…
運河は輝きながら縦横に流れ、神が死んだ日々でさえ砂嵐に阻まれたことはなかった。

「サイフォス、流浪する貴族、わたしの愛する人…」
「サイフォス、国の剣、ジンニーの寵児…」
「月の色のヴェールがあなたに平和を授けますように。今夜の舞はあなただけに捧げるわ。」
「明日は旅立ちのとき。智者たちはこの身をバッダナー王国に売った。」
「彼の曽祖父がわたしの故郷を壊したことを、わたしの親族を奴隷にしたことを忘れはしない。」
「わたしはこれから敵に奉仕しに行く。軽やかな舞とへつらいの言葉、夜風のような絡み合いで…」

「でもサイフォス、わたしの愛する人…今宵の星空と睡蓮はすべてあなただけのもの。」
「サイフォス、ねえ…わたしの愛する人。少なくとも今宵は、わたしの名を忘れないでちょうだい。」

衰退してゆく王に媚びを売って、トゥライトゥーラを統治する智者たちへ貢物を贈る。
宮廷の踊り子マカイラの名も名簿にあったために、金色の瞳の恋人との別れを余儀なくされた。
その後の物語は、多くの人々によって口伝され、多くの人々に忘れられていった…

マカイラの復讐はかなった。砂海の自惚れた王国を滅ぼしたのだ…
その命は毒蛇に飲み込まれ、重い金の砂を衣服にして、醒めない眠りへと落ちた。
サイフォスは貴族の名誉をかなえた。だが、彼を疑い恐れた貴人を守るため、犬死にをした…
トゥライトゥーラの鋭い剣は、栄誉と希望を失ったもう一人の放浪していた王子の手によって折られたが、
彼の放浪はまさにジンニーが産み育てた踊り子——毒蛇のような心を持った踊り子によるものなのであった…

結局、すべての良民と悪人は、等しく運命のひき臼によって潰された。
サファイアの都は色を失い、バラバラになった。まるで涙が、烈日の下で乾いたように。

碧落の瓏

伝説によると、碧色の美玉は空から降ってきたもので、絶えることなく流れる緑水に洗われていたという。
暗晦の土や緑青の残滓、そして腐った木から解放され、
古の素朴なその身は、若い人間の職人によって削られ、彫られた。
最後は精緻な玉器となり、祭器として水に投げ込まれる佳日を待つだけとなった…

「私の言う通りだ」と、雨林の国の学者は茶を飲みながらこう言った——「歴史の本質は衰微と破滅にある。」
「人間の堕落を防ぐことができるのは、神の慈悲と知恵だけだ。そうでなければ、ただの人は自らを滅ぼしてしまう。」
「山川の間にある人けのない幽深なる遺跡を見てみろ。仙力と言語を失った山にいる獣を見てみろ…」
「過去の民は誰にも知られず亡くなった。たとえ過去の諸王や酋長でさえ、さざ波をあまり立てることはなかった。」

沈玉の谷の先人たちは元々そこに住んでいたわけではなく、彼らは代々紅紫の鉱山に住んでいた。
部族と世家は鉱坑を中心に生活し、彼らは山に沿って住処と集落を建ててきた…
しかし、鉱坑の底に隠されている深き罪悪は誰にも知られず、地下に埋もれている。
高天の裁きは人を許すことなどない。災厄の後、先人たちは一族を率いて北上するのを余儀なくされた。

翹英荘の年寄りは、沈玉の谷の先人たちは南にある天坑から移動してきたと言う。
彼らは玉からなる壮大な祭壇をもたらし、誰も解読のできない古の廃墟を残した…
魔神たちの残酷な戦争が始まった時、沈玉の谷の先人たちはすでに無数の部族に衰退していた。
彼らの末裔はかつて、とある忘れ去られた魔神を信仰していたが、それもやがて歴史の中で塵となって消えていったのだ。

「それは違う」と、黒い長衣に身を包んだ客卿が答えた。「人の歴史にはいつも新生が含まれている。」
「繁栄も堕落も、すべて人間自身から来るものだ。選択がなければ、盛衰など語れないだろう。」
「古い遺跡は、今や訪れる人がいない。だが、その住民たちは苦難を乗り越えて今日まで生き残った…」
「先人たちは消えることで、今の繁栄と引き換えた…たとえ彼らがすでに、新たな神の民として溶け込んでいたとしても。」
「この世には力の及ばぬことが数多とあるが、時局に彼らは飲まれたのではなく、彼ら自身が選択をしたのだ。」
「そして神の法度と知恵は、人間の共通認識に基づくものであり、好き勝手にやるものではない。」

しばらくして、茶席でのこの小さな議論は終わった。人と神との言い争いは、いつもいわれのない口論で終わるのだ。
しかし、碧水の川は変わらず流れている。その中に投げ込まれた祭器の碧玉の瓏も、先主のように、輝きを変えることはなかった。

久遠流転の大典

「我々は千年の誓いを心に刻み、水都の基礎を守る。」
「蜜のように魅惑的な罪がもたらした束縛を忘れるな、」
「我々が負う足枷のような重い責任も忘れるな、」
「神の、我々に対する蜜のように甘い恩賞と信頼を意味する。」
「我々は水色の災禍を防ぎ止める盾であり、決壊口の防衛線である。」

最初の監視者は、いつも新たな加入者を連れて厳かに誓う。
そう、誰もこんな生活は選びたくないが、何事にも代価がある。
我々はかつて暴力の喜びに屈し、あるいは貪欲に駆り立てられていた。
これは正義の報償であり、最後の救いでもある。
ここには日差しも家族もないが、少なくとも喜びがある。
時には、彼らが果たして自分と共に誓いの言葉を述べたのか、
それとも彼らにとっては少しも意味のない音をやむなく発したに過ぎないのかと疑うことはあっても、
やはり心から期待しているのは、神が重責を託した時の狂喜が、
彼の味気なく何の希望もないことが決められている未来を照らし、
その「兄弟姉妹」すべての行く先を照らし、残された命に意味を与えること。
これは監視者たちに何代も伝わる教えとなり、流れる水の如く絶えることはない。
もし滅亡の前兆が訪れても、洪水がすべてを洗い清めるからだ。
我々は使命と幸福を心に抱いて戦うだろう、まさに神が我々を心に抱くように。

私の使命はすでに果たした。神の恩恵と使命は頼んだぞ。
最初の監視者が不思議な光を放つ鉱脈に埋葬されたのは、
そこが一番明るかったからである。何年も影の中で生活した男は、
いつか見た光を胸に抱いて、決壊口近くの地下で静かに眠っている。

最後にすべてを洗い清める洪水は、決壊口からは噴き出さない。
運命は栄誉ある死を果たす機会をなかなか賜らない。
か細い水流が盗人のようにこっそりと隠修会を侵蝕している。
その行列に加わるしかない者、水の下で暮らす者はますます増えているが、
誓いを立て、誓いの意味を理解し、教諭書の教えを知るものは少なくなっている。
歳月が過ぎ、雄壮にして薄暗く不気味な要塞が海底から上昇してくる頃には、
かつて監視者を、神の恩寵を担う者を自任していた最後の修道士——
その墓所の在処を知る者はいなくなっていた。

相対的にここはまだ恵まれているほうで、
別の閉じられた決壊口は、数年後に企みを抱く者に見つかった。

凛流の監視者

金銭の流通する道は、世界に勢いよく流れる血管を描き出す。
無数の生命がその血潮の中で浮き沈みし、やがて巻き込まれ、吞み込まれる。
当然、本来すべてが我々「人」の功績である。
まさに数字と数学が金勘定のために生まれたように、
文字は借用証を書くために存在し、法は所有者の変わる財を制約するためにある。

「人」は金銭の奴隷ではなく主たるべきで、
黄金の心臓は「人」の世界のために拍動するべきなのだ。
——当然、真に金銭を所有できる者はいない。
それは結局、我々「人」の手を経由して、
世界の片隅から時間の終結へと流れるにすぎない。

ゆえに最も理解し難いことと言えば、
いわゆる「世界の片隅」が選ばれ、制約を受けること。
ゆえに最も受け入れ難いことと言えば、
そもそも我々「人」に属するべき偉業が、
いわゆる「神」という代物に横奪され、制約されること。
それこそ我々が取って代わらねばならない理由。
金銭の心臓が異郷の「神」に奪われた以上、
彼らはしばらく人々を奴隷のように酷使することができる。
たとえ黄金の心の持ち主になることはできずとも、
すべての人に平等に金銭を掌握させるべきだ。

「こう言うと想像しにくいかもしれないな。腹案を披露させてほしい。」
「まずは新しい貨幣を創り出し、モラへの依存を置き換える。」
「場所となると。世間と断絶した小型の経済圏。」
「目星を付けている場所がある。神の力の及ばない、国の中の国だ。」
「浸透させるのにそれほど時間はかからないだろう。」

「名前をどうしようか…命名するのは本当に嫌いなんだ。そうだ、こうしよう。」
「実験を許可していただけたことを記念して、『特別許可券』と呼ぼう。」

製造した精密機械の監督者はブンブンと音を立て、ちっぽけな国の金の流れを観察している。
疲れを知ることなく、すべての金銭の動き、すべての人の貯蓄と浪費、
様々な価値の変動、特定期間内の貨幣毎の流通回数を記録する。
その間、唯一の法律は貯め込む者の私法で、唯一の制裁は貧しさか死だけだ。
あるいは利益を貪り権力を握る支配者となり、あるいは支配され死ぬまであくせく働く。ルールはいつも公平だ。

こうして人は、自身の持つ野心と財産を頼りに、神と肩を並べる。
そうした競争の中ですべてを失った弱者は、人の世の流れに吞み込まれる。
もはや神の力が介入し、貧者の目の前で富者の威勢を飾ることはない。
もはや神の財産がなだれ込み、富者の足元から貧者の尊厳を救うことはない。

鶴鳴の余韻

それは遥か昔、「繁栄の港町」がまだなかった時代こと。
仙人の洞府であっても、紛争の戦火から逃れられるとは限らない。
かつて神として崇められていた者たちも皆、それぞれの理由のために戦い、血と炎、離散と背信――そういったものが俗世の全てを染めていた。

激しい動乱の中、全てを失った人々は山々に逃げ込んで仙人に庇護を求めたが、
生き残った彼らのすぐ後ろに迫っていたのは、既に心を失った数え切れないほどの魔物たちであった。
その名を知る者はおらず、その数は計り知れない。その勢いはさながら山の洪水のようで、たちまち至るところを覆い尽くしてしまった。
魔物たちが崇敬する主は既に亡くなっており、狂暴な咆哮は彼らにとって最後の慟哭なのであった。

しかしこの時、人々はまだ知らなかった。この山河を守る府君が既に亡くなっていたことを…
洪水のごとく荒れ狂う災厄の前に、生死を分けるものは、ただそこに居た数名の護法夜叉のみであった。
連日の激戦によって、白い衣が赤く染まり、その赤も黒く染まっていったが、魔物は絶えず現れ続けた…

長い時が経った今、その後の物語には様々な説がある。ある者はこう言う――人々が苦しむさなか、
青と純白の羽を持つ仙が雲を突き破り、激しい風のように天穹から舞い降りてきた。
孤高にして厳かなその仙は、寡黙で慎み深かったが、威厳をもって多くの護法や当時の人々を率い、
全く希望のなかった結末を覆し、あの果てのないように見えた魔物の軍勢を打ち砕いたのだ――

また、ある者はこう言う――窮地に陥ったその時、翡翠で作られた二羽の鶴が蒼穹から真っ直ぐ降りてきた。
そして雨のように降り注ぐ呪符と共に、一瞬のうちに数え切れないほどの妖魔を消し去った…まるで、北風がたなびく雲を吹き散らすかのように。
もう一度目を開けた時には、玉の鶴はどこにもおらず、ただ空中で仙人が手中の扇子を軽く閉じた――

さらにこのように言う人もいた――仙君の大いなる能力は凡人に理解できるものではない。当時の人々も鶴の声を聞いただけであった。
しかしその時、果てしない魔物が一瞬のうちに灰となり、日差しに照らされて、塵のように散っていったのだ――

いずれの説からも、後世の璃月人が留雲借風という名の仙君について語る時、
彼らの言葉には常にいくらかの敬意が込められていることがわかる。では、当時の本当の状況はどうだったのだろうか…

「フン、そんな遠い昔のことに興味を持つとは、お前もずいぶん暇を持て余しているようだな」
「まあよい。妾も少しばかり気が向いた。話してやろう」
「そっちの椅子を持って来い。そんなに長い話でもない。まあ、八、九刻といったところか…」
「…む? 今、妾の目を盗んで逃げようとしておらんかったか!?」

☆4

西風秘典

西風騎士団の魔法学者の間に伝わっていた秘伝の書。彼ら全員の知恵を記録している。
本には元素が凝縮された結晶玉が嵌められている。西風秘伝の書が少ない理由はこれである。
結晶が珍しいわけではない。西風秘伝の書は学者たち自らの手で制作しなければならいからである。
元素の真髄を習得した人に限り、この結晶宝玉を作ることができる。

騎士団設立後、暁の騎士ラグウィンドは旧貴族の室内浴場を図書館に改装させた。
無数の詩人、学者、旅人のおかげで、今のモンドは北大陸において最大の蔵書量を誇る。
歌声や美酒は所謂一瞬の娯楽であり、物語と知識こそ永遠に続く美しい光。

実は今の図書館は最盛期の広さの六分の一である。
「春分の大火」という大火災で、図書館の一部が消失した。

図書館の地下室に、ポプラの木で作られた頑丈な扉がある。
図書館と騎士団設立の前からあったその扉は、
大火災においても無事だったらしい。
騎士団公式の知らせによると、そこは禁書エリアである。
しかし噂によると、もっと深い秘密を抱えているようだ。

祭礼の断片

モンドの先民は、激しい風の吹く崖に劇場を建設し、神を敬う習慣がある。
祭祀には演劇の形で行われる。神様は物語と唄を好むと彼らはそう信じている。
この台本の歴史は数千年以上。すべてを読むことは難しい。

遠い昔、烈風の君王と北風の王狼の戦いは、モンドの大地に砂のような風雪を巻き起こした。
極寒に耐えられない人々は、モンドの東部にある高い崖で神殿を設立し、神様のご加護と恩恵を祈る。

風の息吹は今を吹くが、時の灼熱は永遠であり、誰にも止められず、抗うことはできない。
風神は台本のページをめくる。だが、台本の字を掠れさせるのは冷酷非情な時の神である。

風の神と時の神、両者は似たような悲しみをもたらす。
こうして、神殿の祭祀対象は風神だけだと勘違いされていった。

昭心

滅多に見かけない天然琉璃で作られた美しい魔導器。
伝説によると、昭心の玉はつやつやして明るかったが、月日が経つにつれて輝きを失った。
また、静かな夜は昭心から微かな音が聞こえるらしい。
その音はまるでそよ風や泉水のようであった。

昭心は仙人の遺物だった。その後、璃月の民を伝って雲氏の手に渡った。
ある日、雲氏は山の散策中に、仙人を訪れてきた錬金術師である黄生と出会った。
二人は意気投合し、雲氏は昭心を黄生に譲ろうと思った。黄生は慌てて断ろうとしたが、雲氏はこう言った。
「これは自然の精粋である。無垢な心の持ち主にしか扱えないものだ」

黄生は雲氏にお礼を言い、昭心を身に着け、璃月へと出発した。道中は雨にも風にも邪魔されることはなかった。
仙人を探して各地を歩き回った黄生は、街で水や食べ物を買う時、
一度も騙されたことが無かったらしい。多種族が混在する地ではとても珍しいことだった。
どうしても納得できず、尋ねる者がいた。「この呆けた男はなぜ一度も騙されなかったんだ?」
黄生が答えた。「この昭心のおかげさ。悪意を感知すると震えて教えてくれるんだ」

「昭心」という2つの字は、「人の心をあきらかにする」という意味。だがその仕組は誰も知らず、「そういう伝説だから」と民に広まった。
深夜になると、岩の間を流れる湧き水のように、窪みに吹くそよ風のように、微かに音が聞こえるらしい。
この二つの音は、かつて人々に善を説いた少女の伝説に登場する、邪念を食べる妖怪の騒ぐ音に似ている。

流浪楽章

楽譜と楽団メンバーの旅行記が載っているメンバー共有のメモ帳。
流浪楽団は根源を遡れないほど悠久な歴史を持ち、モンドの再建前にすでに解散している。
メモ帳は楽団メンバーと共に、異なる世界を見てきた。
演奏記録から、観客の喜びやその力強さを感じ取れる。

流浪楽団は旧貴族時代に結成され、
希望、或いは恐怖の心を持つ人々は彼らを剣楽団と呼んだ。
当時のモンドは、唄さえ許されていなかった。

彼らは剣を笛の代わりに、弓を琴の代わりに、反乱の響を奏でた。
最後は城内に攻め込み、暴虐な貴族に天誅を下そうと試みた。

剣楽団は既になくなり、彼らの反逆も人々に忘れられた。
だが、反逆の意思は、血の繋がりと共に、永遠に伝わっていく。

旧貴族秘法録

精美な巻物。封鎖されているため、時間が経っても、腐らず蝕まれずに残った。
宮廷魔法使いの魔法研究が載っている巻物。中身は今見ても先鋭的な内容である。
宮廷魔法使いの仕事は各地の管理や魔物の退治である。それ以外に、貴族の教師も担当する。
巻物には歴史、問題解決、地方管理、文化知識がたくさん書かれている。そのため、旧貴族の統治を終わらせた後に、宮廷魔法使いもモンドの外に追い出された。
旧貴族を善に導く彼が責任を果たせなかったからだ。

モンド成立当初、ロレンス一族の主母ヴァニーラーレは人々を率い、
神の奇跡を称えるため、広場に巨大な神の石像を作らせた。

神像の下に刻まれている銘文は、昔各集落のリーダーがモンドを永遠に護ると誓った誓約の言葉である。
しかし、時の流れにつれ、ロレンス一族は先代の願いに背き、神像も倒された。
賢明な宮廷の魔法使いたちも、その歴史と誓約をなかったことにした。

西風騎士団の時代になり、神像は再建された。
だが、誓約の言葉は永遠に忘れられた。

黒岩の緋玉

希少な黒岩で作られた魔導器。自然の力を操る。
装置の中心に嵌め込まれた血色の宝玉は、時に暗く、時には明るく光る。

天衡山や岩層淵など、岩王帝君の管轄地域に豊富な鉱物資源があった。
しかし発掘を始めてから、天衡山とその周りに坑道が増えてきた。中には地中奥深くまで掘ったところもあった。
ある日突然、大地の怒りが爆発した。山は揺れはじめ、坑道が崩落した。
地中深くには崩落に巻き込まれた死者の魂が漂い、夜になると慟哭が聞こえる。

ある日、軽策山を訪れた人がいた。
男は長衣を纏い、錬金術師と名乗る。璃月の雲氏と寒氏を探しに来たらしい。
雲氏の娘、雲凰はちょうどその時軽策山にいた。この話を聞き、すぐ寒武の息子である寒策を呼んできた。
男は昔、雲氏と寒氏二人に魔導器を造ってもらった話を雲凰と寒策に教えた。
錬金術師は、今の璃月は危ないからと、二人に血の宝玉を渡した。

二人はすぐ黒岩魔導器の製造に着手し、この血の宝玉を魔導器に嵌めた。
血の宝玉は大地に反応し、これから起こる災難を警告するように、明滅する。
この魔導器は天衡山の下に設置され、大地の怒りを買わぬよう人々を導いた。
そして、大地の怒りが収まった時、黒岩の血玉も消えていった。

金珀・試作

璃月の武器工場が作った古い魔導器。製造番号や製造時期は不明。
混元を意識して作られた円型の魔導器。真ん中に宝玉が飾ってあり、蒼穹の星を意味する。

災い終息後、残った魔物が各地に点在している。よって武器以外に、魔導器も必要とされた。
だが、魔導器の生産の水準が数百年と変わらなかった。壊れやすくて使い物にならない。
錬金術師が璃月の雲輝を訪れ、新しい魔導器の設計を依頼した。
雲輝は「試作」シリーズに魔導器を加えた。

古木と希少な鉱石を素材として使用した。真ん中の宝玉は方士流派からの献上品であった。
宝玉を50日間焼き続けて、そしてまた50日間山の泉に浸すことで完成に至る。
火と水の元素を吸収した宝玉は割れない強度の他に、天地のエネルギーをもっている。この宝玉を使った魔導器は、それ自体が魔力を練ることが出来る。

宝玉は透き通って琥珀のように輝く。雲輝は魔導器を「金珀」と名付けた。璃月の全ての邪悪な武器の起源であった。


邪悪な武器:誤訳。原文では「靖妖祓邪」とあり、「妖を靖んじ邪を祓う」、つまり邪悪を払うということである。

万国諸海の図譜

世の全てが璃月にあり。これは偉大な璃月港への讃美である。
他の国の珍宝も人と共に璃月港に来る。
大陸周辺の海域を集録した図譜に、各水域の海流、暗礁、風向のことが細かく記載されている。
異国の典籍らしく、開拓者精神、冒険者の知識、勇気、そして信仰が秘められている。

標題紙にこう書いてある。
「海風と海流を愛せ。さすれば風と水が目的地まで導くだろう」
「海風と海流を怖れよ。風と水は時に鋼鉄をも引き裂くだろう」

全ての海の性質を把握するため、満遍なく暗礁を探り、貿易風を感じ、鯨の群れを探す。
無数の船員が全ての出来事を、このしみだらけの本に記録した。恋人の髪と肌を描くように夢中になった。

異国では、ベテランの船員は海洋を恋人だと考える。そして塩辛い海水を「彼女」と呼ぶ。
海の心は秋の空か、それとも海のロマンか。
そして、この典籍は海と同じように、誰かの所有物ではない。夢とロマンを求める水夫のように、世界を旅する。

匣中日月

璃月の街に伝わる暗金の宝珠。
かつて天地日月の光を吸い込んだ後に、木の匣に数千年保管されていた。
こうして中の力は保存された。木の匣がなくなった今、宝珠は再び輝く。
天地と古今を知る者が使えば、数千年の静寂の力を引き出せるだろう。

璃月港の宝石商の間に、名匠クオンが天地の光を一つの匣に集めたという伝説が伝わっている。
そして匣を玄武岩で作られた密室に保存した。こうすれば、50日後に太陽と月の光が実体化する。

信じられない話ではあるが、クオンの神業は神をも凌駕すると信じている璃月の人はたくさんいる。
神業について、年老いたクオンに話を聞いた人がいたが、彼はただこう答えた。
「継続するのじゃ」

彼の弟子の話によると、「匣中日月」が完成した時、天地に異変が起こった。
これは偶然なのか、それとも神をも驚かせたのか。

冬忍びの実

フィンドニールの祭司の娘がこの白の樹の下で誕生したとき、
祝福と共に、緑豊かな山脈の国は喜びに満ちた。

シャール・フィンドニールの幸福は永遠に、
大地をまたぐ枯れることのない白銀の樹のようにーー
だれもがそう、思っていた。
かつて無数の人や事柄を見てきた記録者ですら、
姫の美貌と才徳は月の光のように照らし続けると・・・

しかし世界を凍らす鋭釘が突如降り、
この樹さえも粉々に砕かれたとき、
あの少女は一本の枝を持っていった、
この国を覆い隠す樹の命をつなぎとめるために。
しかし結局、それも叶わぬ夢となった。
刃のように冷たい吹雪は、月の明かりを遮ってしまった・・・

それから長い月日が経った遥か昔ーー
漆黒の龍と風の龍が命をかけて戦い、
腐植の血が灰のような山を赤に染めたとき、
樹は自身がまだ死んでいないと気づき、
貧欲なまでに、自らの根で大地の温かみに触れた。

ある人がくれる緋紅のエキスにより、
当の昔に死んでいた白の樹は、過去を思い出し、
すべての力で、果実を実らせた・・・

我が守った者、我に祈りをささげた祭司、
我のそばで絵を描いていた美しい少女、
手にできなかった幸せが、緋紅の果実となる。

悪の世界に正義をもたらすことができる者に、
「苦しみ」を乗り越えられる、正義を捧げよう。

ダークアレイの酒と詩

優雅に装幀した書籍。昔の貴族の間で流行った楽譜が記載されている。
今なお雛菊と成熟した酒の香りが残っている。
詩の内容はでたらめであるが、かつての路地裏と酒場で広く歌われていた。

「あれが酒好きの義賊だとみんな知っている。しかし彼がどこからきたか誰も知らない。彼はいつも突然路地裏に現れる」
「彼は歌い、飲み、通りや屋根を飛び回る。でも彼はとてもいいやつだってみんな知っている」
「腰につけている鳥頭の柄の剣は貴族から盗んだ家宝。さらに背中の漆黒の弓は百発百中」
「彼の優れた剣術は夜を切り裂く彗星のようであり、歩調は木の葉をそよがす西風の如く軽い」
「シードル湖の水を含んだ『午後の死』を全部飲んでも、夜に1人で貴族の寝室に忍び込める」
「義賊は富者から財物を奪って貧者に施した。風のように瘴気を吹き散らし、光のように暗闇を切り裂いた」

「義賊は無数の少女の白馬の王子様。少女たちは自分の部屋まで盗みに来て欲しいと夢に見る。しかし彼が好きなのは仲間と酒を飲むこと」
「ある日、彼はいつものように豪邸に忍び込んだ。盗れるだけ盗った後、帰り際に貴族の銀盃も盗んだ」
「その時、彼は月光の下で、窓に佇んでいる美女を見かけた」
「彼女の瞳は青い宝石のように、貴族の銀盃についている済んだ水晶と同じようであった」
「義賊は迷わず水晶を外して渡した。美女は乙女のような照れた笑顔を見せた」
「最後は、彼らが貴族の統治を終わらせた。二人は冒険に旅立ち、互いの心に留まる暖かな光になった」

物語はここまで。徳政が行われている今では、義賊のことを歌う人は誰もいない、義賊も必要とされなくなった。
酒と剣、美人と英雄、爽快な始まりと完璧な終わり、これらの要素が詰まっているのだ。平民に愛されてもおかしくはない。
事実がどうであろうと、二人の結末がどうであろうと、酒と希望に満ちた歌は、
不幸な人々に、明日と、そして権力者と立ち向かう勇気を与える……。

ドドコの物語

伝説によるとね、すごい遠い場所に、霧がかかった海があるんだって。その海の真ん中には群島があって、「金リンゴ群島」と呼ばれてるんだ。
それでね、穏やかで可愛いドド一族が、この群島にある島々でほのぼのとした生活を送ってるらしいよ。
ドド一族は優しい性格をしてて、やんちゃなところもあって、イタズラとか遊びが大好きな生き物なんだ。だから、みんな退屈したり、悲しんだりすることはないの。
「ドドコ!」ーーお互いにそうやって呼ぶらしいよ。意味は「最高の友達!」なんだって。

空を飛ぶ蒲公英のように、「ドドコ」もいつか風と海流に乗って、もっと広い世界を冒険するんだ。とある四つ葉のクローバーを探すためにね!
どうしてそうするかって?
「金リンゴ群島」で長いこと生活してると、ドドコはお互いが誰なのか分からなくなるんだってーーだって、みんな見た目が同じ「ドドコ」だから!区別なんてつかないでしょ?
炎みたいに赤い四つ葉のクローバーにだけ、「ドドコ」が何なのか彼らに分からせることができるんだ。そうすれば、お互いに見分けがついて、自由気ままに仲間たちと遊べるね!
ーー少なくとも、なんでもできるママはそう言ってたよ。
こうして、何が「ドドコ」なのかを理解するために、彼らはそばにいる友達から離れて、遠くに行くことを選ぶんだ。そこで友達を作って、彼らの「ドドコ」、つまり「最高の友達!」になるの!
一緒にたくさんの景色を眺めて、面白いことをたくさんやって、たくさんの仲間を見つける…そして、自分自身を振り返ったその時こそーー火花と共に輝く四つ葉のクローバーの登場!

だからね、もしモフモフの「ドドコ」が「金リンゴ群島」から海に転がり落ちたり、風に乗って遠くに飛びだったりすると、これから最高の友達に出会えるってことなの。
この貴重な本はね、世界で一番自由なママから世界で一番運のいい娘へのプレゼントなんだ。ここには、ドドコが彼女と出会う前に経験した無数の冒険が描かれてる。それと、彼女と出会った後に経験した火花と宝物と仲間たちに満ちた大いなる冒険も!

白辰の輪

「早すぎる出会いと別れ、 まるで一夜の夢のよう」

平凡な一生を、
私は充実に過ごしたと思っている。

私は白辰の狐として、
かわいい眷属たちと、
鳴神の野原を山々を駆けた。

すべてが終わったら、
あの子たちがまた楽しく走れるように……

月のようにきれいな鬼族の少女と、
一緒に御前で舞いを披露したことがある。
彼女の剣舞は美しく、
彼女の美貌、勇姿、 佇まい、
すべてが千年後に語り継がれれば良いと思った。

あの少女の美しさを思い出したら、
お面を被って顔を隠したくなる……

影向の天狗の族長と速さを競った。
修験霊山の参道を表も裏も走り抜け、
それぞれの力を比べた。

勝ったのは、意外にも白辰一族の私だった。
今思えば、 手加減をされていたのだろう。
そう思うと、少し悔しい……

私に歯向かう妖狸を策ではめて、
誠心誠意将軍様に降伏するように仕向けた。
同時に恐れ多くもあの方にも、
生意気な大妖狸王を麾下に加えさせるように仕向けた。

あの夜、月の光が御苑の枝や花びらに降り注ぎ、
庭がキラキラと無数の真珠のように美しかった。
その景色が今でも私の浅はかな胸の中に光っている……

覚えていてほしい、 別れの前に、 無礼を承知で告げた箴言を。

「騙されず、動揺せず、 あなたの信じた道を歩んでください」
この言葉が、嘘や悪意から少しでも彼女を守ってあげられれば。
あのわんぱくで純粋な狸の子が、 私の最後の嘘を恨まないように……

今、最も暗い場所にいても、
この景色を忘れない。
雲を射抜く月の光のように、
小さく脆い心を照らして。

私は人の姿でいることもあった。
短命で美しい小さな生き物とともに生きることも。
色々な身分で、 沢山の人間の友になった。
故郷の神社のために鳴神で修行をする巫女も、
夏祭りで大人とはぐれた子供も、
仙家の術の修行をするために適月へ行ったやさしい少年も、
町の繁栄のために尽力した勘定も、
鋭い刀剣を鍛えることに夢中な職人も、
匠な技で流星を造り夜空に咲かせた一族も、
皆、意図せずできた大切な友たちだ。

彼らを守る結界が、 いかなる暗闇にも侵されないように……

すべてが、 なつかしい。

「だから、 私を蝕む漆黒の意思よ」
「私にはもう力がない」
「この白辰の血をお好きにどうぞ」
「ただ、願いを聞いてはくれないかもしれないけれど」
「もし叶うのならば……」

「私の大切なものが見えるのなら」
「あの生き物たちを許してやってください」
「願わくば」
「私の明るい記憶たちを」
「私の愛した土地に還してください」
「あなたが通った後も」
「素敵なものが残るように……」

誓いの明瞳

「我に海淵の神になれと?」
純白の巨蛇が、目の前の童を見下ろしながら言葉を発した。
「我が未知なる海へと落ち延びたのは、貴金の神と鳴神に敵わなかったゆえのこと。」
「それでも光を望むのなら、いつかまた必ず、亡失を再び味わうことになる。」
「我の死は取るに足らぬもの。無為に生きる屈辱、汚名による恥辱ーーもう十分だ。」

巨蛇は、蛇の瞳のような宝珠を見せた。
「ならば、この宣誓の瞳を前に誓え」
「我と珊瑚の眷属も、このように結盟した。」

「皆、先師スパルタクスの教えを忘れたのか?」
「神を崇めるな。頼れるのは己のみだ!」
白蛇はなにも語らず、海淵の民の意志を尊重することにした。
この愚かな崇拝が、新たな信仰に敗れたのなら、
それは抗う人々に対する屈辱になるだろう。

「ならば、この宣誓の瞳を前に誓おう。」
「かつて、我がすべてを失った時のように。」

「月日は流れ、島が成り立ち、ヴィシャップは退いた。そして、聖土は法によって治められている。」
「珊瑚宮家、地走官衆、我の御使いーーこの瞳を前に大願は成就した。」
「以後、淵下において二者以上の不和が生じた際、他の決断を下す。」
「大日の塔は汝らの決議を聞き、自らの意志で崩落する。これまでの全てを消滅させるだろう。」

最後の言葉を言い終えた蛇神は、
残りの民を率いて海へと向かっていった。
ついに、天の都との誓いを果たすときが訪れたのだ…

満悦の実

「実は、月はいつも真珠のように丸いわけではない…」

それは遠い昔のこと…とても怖い話だ。幸い、それは単なるお話で、私の記憶でも、あなたの記憶でもない。
月が鋭い牙の形、そして凶悪な笑みの形になった。月明かりが葉っぱを通して、草むらに差し込み、夜露を真珠に変えることもなくなった。
木は風に吹かれ、麦の波のように倒れた。大地は大きな悲しみに包まれていた。
その悲しみはあまりにも濃く、深すぎて、小川の水でさえも塩と鉄の味に変わってしまったのだった。

私たちを作った千樹の王は、森を私たちに託した。それで、私たちは漆黒の獣、鉄鋼の巨人、そしてマラーナと戦った。
彼女は森にいた多くの子供たちとともに砂漠へ入り、災難の根を燃やし、厄災の枝を折ったが、最終的に木陰の下に戻れた者はごくわずかだった。
私たちはヴァナラーナを失い、多くのアランナラが早々に大地へと還った。
結局、最後に得られた物語までもが、苦いものだった。

しかし、私達はついに厄災に打ち勝った。たとえ深い砂の海の中であっても、ハスの花は咲くものなのだ。
私たちを創った彼女は、大地の心にポッカリと空いた穴を埋めるため、砂漠の中にまた新たな生き物を想像した。

……
どんなに苦い物語にも、勇気と力は潜んでいる。たとえ物語が「記憶」ほどには強くなかったとしても、そこには力があるのだ。
あなたがくれた、私たちとの冒険物語を大切にしよう。月が再び変化した時、それはあなたのために森を守ってくれるだろう。

彷徨える星

あれは千年も前の出来事——あの愚かな神王が、砂嵐で滅んだ後の時代に起きたこと。
王国を失った流浪の王子は生い茂る樹海へと逃げ、静かな月光に包まれた。
新天地を手にしようと希望を心に秘めてやって来たものの、白弓の女狩人に追われ、
狼狽した浪客はツル草の枝に囲まれてしまう。冷たい月光の下、彼は猛虎の唸り声を聞いていた。

「雨林の中を進むことは困難を極める。凡人はただ葉の隙間から見える夜空で、前方の道を判断するしかない。」
「明滅する晩星は浪客のために方向を示していたが、彼を致命的な罠へと陥れた。」
「樹林をうろつく女狩人は手に白弓を持ち、次々と招かれざる客を追い払う。」
「老いた虎の咆哮とともに排除の命が下された。しかし、彼の命に手は出さなかった。」

年老いた盲目の詩人は、こうして流浪の王子にあった出来事を繰り返し言葉にする。その声はかすれていた。
すでに両目を失っているが、無意識に明月の隣にある晩星へと目を向けた。
明滅する晩星は浪客を新しい希望へと導いた。しかし、それは滅亡の始まりでもあった。

何年も後に、すべてを失った浪客が死に直面して選択を迫られる…「死」の教えが耳元で囁かれ、彼は初めて警告の意味を理解した…

「あなたは森に属さない、死にも属さない、王の宮殿から離れよ。」
「命と記憶をまだ大事にしたいのであれば、暗闇の危地に深入りするな。」

「そんな馬鹿げた話を繰り返すのをやめろ…」
「もし流浪の宿命が、私を月色の白弓へと導いたのなら…もしあの晩星が末路を示しているのなら。」
「自分の運命を喜んで受け入れよう、鷹の追求で死ぬよりいい。」

古祀の瓏

岩王帝君が訪れたとき、沈玉の谷の先人はとうに山あいの村落に後退していた。
岩間の清水のように美しい玉を切り開き、古い儀式に従って荘厳な祭りを行っていた。
吉日になると、一族の人々は煩わしい労働から抜け出し、美玉を祭器として水に投じて祀った…
青い空の上で久しく沈黙している使者を記念し、来年の幸福と災禍を占うのだ。

沈玉の谷を支配していた魔神が異郷で命を落とし、岩王帝君の秩序がこの地を引き継いだとき、
山野に落ちぶれていた先人の村落は、璃月からの文明を受け入れつつも、祭祀の伝統を残していた。
歳月が流れるにつれて、硬い石も柔らかい水に磨かれて丸くなり、当地の古い伝統も璃月の移民に受け入れられた。
そのため、ここでは璃月港とは異なる風習が発展していく。璃月港の人とは異なる温和な気風を持つようになった。

果てしない歳月が再び流れ、先人の氏族と村落は移民と融け合って、新しい宗族と集落ができた…
玉を彫刻する古い技術を失ったため、新たな時代では茶栽培が生業となる。このため沈玉の谷には茶畑が広がった。
沈玉の谷の民は、もはや清水のような玉器を永遠に流れる川に投じることはなくなり、多くのことを忘れてしまった…
だが、遺瓏埠に登って先人と故人を祀る儀式は、谷間の清らかな宝玉のように、今も残っている。

時折、薬草摘みの者が谷間の廃墟から碧色の玉瓏を見つけることがある。
もう古き高天に応えることはできないが、今世の光はなおも輝いている。
物言わぬ玉瓏は、先人の流離漂泊の古い歴史を自ら語ることはない。
過去の謎はすべて、何気なく拾った者の推測と想像に任せるだけだ。

純水流華

周知の理由で、『クロックワークコッペリア』の脚本は公開も出版もされていない。ただ、当時のグロリア劇場の生存者のうち、一部の観客が記憶に基づいて幕間の休憩までのあらすじと台本を書き写している。
コペリウス氏の遺族と上記の方々の同意を得て、弊社はその原作の一部を復元できるよう、関連資料をまとめて整理した。
一部分から全貌を推し量ることができれば幸いである。

内容概要:コペリウスの計画がファントムハンターに露見し、劫罰を受ける前にコッペリアに最後の別れを告げる。

コペリウス:私のために歌っておくれ、私のコッペリアよ。わが愛欲、わが罪、わが魂よ――最後に私のために歌っておくれ。
コペリウス:私の心に絹糸を巻きつけ、それで私をしっかり縛り、首かせをはめるのだ。君の見ている前で、破滅を迎えさせておくれ。
コペリウス:私の心は決まっている。だから、これからは私を喜ばせてくれる人を探すのではなく、私が選んだ人に喜びをもたらしたい。
コペリウス:それで君に笑われようとも…それは私の考えが愚かなのではなく、私の行動がかくも不器用だからだ。
コッペリア:私に何を歌えと仰るのですか、愛する人よ。この罪と避けることのできない罰のために、どう歌えというのです?
コッペリア:世の人々は、表面的に華やかな現象を見ただけで喜びます。情熱的な人が、命取りになる毒が潜んでいることにも気づかず、金メッキの果実を求めるようなもの。
コッペリア:コペリウス、私のコペリウス、あなたが追い求めたものは空虚な場面のように跡形も残っていません。誘惑はいつも旅を終わらせるものだからです。聡明な人であれば知っています。

内容概要:コッペリアは同行していた青年に旅に出た真意を打ち明けると、彼女の目の前で亡くなった創造者の後を追うことを決意した。
ナサニエル:この件は荒唐無稽だが世の常だ。知恵ある者は、いつも愚か者の言いなりになる。人生は低俗な喜劇のようなものだ。
コッペリア:まさにその通りです。私のことはご心配に及びません。すぐにこの辛い苦難は跡形も無く消えるでしょう。
コッペリア:私を創造してくれた人は、この世を去りました。あとはこの錆びた歯車も同様に消えてしまえば、一切の罪は忘れられるでしょう。人間にとって、忘れることは許しを意味します。
コッペリア:私はもう陽や月や星を見る必要はありません。林の中を飛び回る鳥の歌を聞く必要はありません。この心臓を与えてくれた人が去った世で、なお鼓動を続ける必要はありません。
ナサニエル:どうするつもりだい?コッペリア:この心――人間のように鼓動する心臓は、すでに旅の途中で同じ重罪に染まっています。苦痛と後悔に苛まれる心は、どこで安らぎを求めるべきなのでしょうか。

果てなき紺碧の唄

此岸と彼岸の狭間、現在と過去の狭間、
空は広大で果てしない、一面の自由な碧。
花は大地に根を下ろしつつ、限りない天空に憧れ、
翼を持たずして尚、飛び上がろうと上を向く…

草花の運命は結局、深い大地に張る根に縛られる。
蒲公英の命は空の限りない自由を味わう運命。
果てしない碧の世界は、円蓋のように大地の四方を逆さに映す。
白い雲が漂い、穏やかな大空を飾る。

あたかも粘り強い蒲公英や野菊のように、
青緑の大地の人々は、自由への信仰に掌を握りしめる。
荒れ狂う暴政の吹雪に見舞われても、
高潔な節操が堕落し腐敗しても。

しかし、天空を吹く風を称える伝統が綴られ続ける限り、
この貴い自由が代々の人に賞賛の言葉と共に伝えられ続ける限り、
数多の民衆は天空へと飛ぶ蒲公英のように、
自由な心で次から次へと縛るもののない幸福を追ってゆく。

☆3

翡玉法珠

翠玉で作られた軽い法器。耐久性があり、値段も安く、人気の商品である。
精巧に作られた法器は見た目が小さく、璃月の人に「翠玉丸」と呼ばれている。
護身用法器としては使いやすいほか、アクセサリーとしても悪くない。

魔導緒論

この版の「魔導諸論」は発刊当初から大きな論争を巻き起こした。
「第七章: 風の元素の運用原則」の常識のずれはともかく、
水と雷の元素についても、基本的なミスが沢山あった。
明らかに発刊前に校閲されていない。
しかしながら、この本は現在においても最も代表的な魔導入門書である。


「この版」とは武器の概要文からVer.12と思われる。時代発展などの内容が追加され、Ver11の誤字を修正したもの。

龍殺しの英傑譚

五人の英雄は魔龍討伐の道へと旅立った。
剣使いの騎士は栄光のために。
勤勉な魔法使いは研究のために。
敏捷な傭兵は賞金のために。
百発百中の弓使いは復讐のために。
あとは博学で知識豊かな作家、物語のために。
私は話し上手で書き上手。文章とアイデアも完璧である。
実は、私はなかなか仕事が見つからず、仕方なく誰でもできる職についた。
しかも私は作家ではない、二十半ば過ぎても、ろくな仕事についたことのない若者にすぎなかった。

異世界旅行記

安っぽいファンタジー小説。一人の一般人が、死後に別の世界に行ったことを綴る小説。
その世界は危機に瀕している。何千人もの人々が、地下に潜む鋼鉄怪獣に飲み込まれた。
力のある人は、指を鳴らすだけで世界を変えられる。全く非現実的な物語。
ただ現実と同じことが一つだけあった。貴金属はごく一部の人に所有されていて、宝庫に隠してあることだ。

特級の宝玉

外装は豪華だが、適当に店の一番目立つところに置かれている玉器。
箱の中に、誰も聞いたことのない何らかの機関が発行した鑑定書が入っている。
宝玉の真贋を判別する眼力がなければ、あっさりとこんな外装と鑑定書に騙されるだろう。ただ、本物の美玉と比べたら、この玉器の値段はまだ優しい。

☆2

ポケット魔導書

生徒たちの間で流行っている魔術指導書は、ポケットに入れられるサイズだ。
教科書に書かれた長ったらしい原理と練習問題を省き、テストに出る内容だけが取り纏められている。
だが『魔導論』第十二版の改変により、現時点では使い物にならないようだ。

☆1

生徒ノート

文字を使って学んだ事、実験結果、呪文を記録した。
文字と文字の間にある空白に、生徒の努力を記録した。