物語:( キャラ/ア-カ | キャラ/サ-ナ | キャラ/ハ-マ | キャラ/ヤ-ワ || 武器物語 || 聖遺物/☆5~4 | 聖遺物/☆4~3以下 || 外観物語 )
図鑑:( 生物誌/敵と魔物 | 生物誌/野生生物 | 地理誌 | 旅行日誌 | 書籍 | 書籍(本文) | 物産誌 )
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ハ行
バーバラ
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キャラクター詳細
バーバラは西風教会の祈祷牧師であり、モンドのアイドルでもある。
「バーバラに会うと、気分が良くなる。」――モンドではこのような噂が広まっていた。
実際、バーバラは気分だけではなく、怪我や体調不良も治癒できる。彼女は水元素の「神の目」を通して、不思議な魔法を使えるからだ。
しかし、バーバラ自身にとって、最も不思議な魔法は「切実な努力」だけである。
キャラクターストーリー1
モンドの人々は、みんなバーバラが大好きである。
当初、バーバラの歌声はモンドの住人にとっては馴染みがなく、違和感を抱いた人もいる程だった。
なぜなら、それまでモンドで親しまれていた歌のほとんどは、吟遊詩人が奏でた民謡だったからだ。
幸い、モンドに「自由」の精神があるおかげで、面白く新しいものは、これまで愛された「伝統」と共に発展することができた。
人々はバーバラの歌を受け入れ始め、彼女のパワーに感化され、そして彼女を真似て歌い始めた。
「アルバートさん、歌うのをやめて!音程が外れてるよ!」
キャラクターストーリー2
しかし、この成果にバーバラはとても複雑な心情を抱えていた。
アイドルの仕事はみんなに好かれること。この点については、バーバラはよくできている。
彼女の選択は間違っていない。
――しかし一方で、アイドルは疲れた人々の心を癒さなければならない。彼女に、それができているのだろうか?
目の見えないグローリーのために歌い、遠く赴いた恋人は必ず帰ってくると慰めた。病気になったアナのために歌い、病気はきっと治ると祝福を送った。
しかし歌い終わった後、彼女たちの笑顔が、長く保たれることはなかった。
バーバラは迷いの中に陥った。
キャラクターストーリー3
バーバラは幼い頃から明るい子供だった。少し不器用で、よく失敗するが、いつもすぐに立ち直って、もう一度チャレンジしようとする。
バーバラと正反対の「あの人」、つまり彼女の姉は、「一族の誇り」と呼ばれている。
「優秀」という言葉のお手本のように成長した姉は、バーバラにとって遠い人だった。
バーバラの努力の動機は、一度だけでいいから、姉に勝ちたいという簡単な理由から来るものだ。
しかし剣術も勉強も、姉に勝てたことはなかった。
いつも明るくて前向きなバーバラでも、これには落ち込まずにはいられなかった。
「努力は一番の魔法なのに、努力してもだめだった時は、どうすればいいの?」
キャラクターストーリー4
バーバラは諦めようと考えたことがない。
と言うよりも、彼女の粘り強さは彼女の父親「払暁の枢機卿」サイモンをも驚かせる程だ。
バーバラが自分に与えた「落ち込んでいい時間」は30秒だけ。
30秒後、何があっても彼女は立ち直るようにしている。
「戦闘が得意じゃないなら、後方支援を担当しよう!」
父親の教育の下、バーバラは治療者になった。
怪我人や病人の苦しみに、バーバラは優しさをより輝かせる。
いつの間にか、「他人に認められたい」という欲望は、「他人を助けたい」という単純な信念になった。
キャラクターストーリー5
「ありがとう」。これは、バーバラが一番よく耳にする言葉だ。
彼女が迷った時、誰かが彼女の手を握った。
「バーバラがいてくれたおかげで、すごく元気になった」
バーバラにとって、みんなが再び笑顔になることが、一番のご褒美だ。
だから、夜中に筋肉痛になった足をマッサージしている時や、喉にいいお茶を飲んでいる時、バーバラはいつも優しくしてくれた人たちを思い出す。
「私もみんなに支えられてここまでやってこれた!」
それに、あの笑顔は健康の証かもしれない――歌は本当に人々を癒すことができるのかもしれない。
そして姉を越えて、モンドで一番人気になりたいという負けん気は捨てられることなく、バーバラに*心の一番奥に仕舞われていた。
「もっとよくできるようになったら、きっとお姉ちゃんの助けになれる」と、彼女はそう考えている。
「うんうん…バーバラ、いくよっ!」
アリスのアイドル雑誌
「アイ…ドル?」
バーバラは初めてこの単語を耳にした時、困惑の表情を顔に浮かべた。
「人々の崇拝の対象は、この世界の七神じゃないの?」
「それだけじゃないわよ」。数多の人を見てきた、魔女会の古参メンバーの一人であるアリスは言った。「これを見れば分かるわ」
とにかく、どこの世界から持ってきたのかよく分からない「アイドル雑誌」を通して、バーバラはアイドルという職業の存在を知った。みんなに愛されるために努力する仕事。
優秀なアイドルは、歓声をもらうだけではなく、自分の歌声とダンスで人々の心を癒やすこともできる。
バーバラは繰り返しステップを踏み、新曲を練習した。彼女は人々の笑顔の中から、自分の喜びを見つけた。
ある日、アリスは悲しそうな顔で「テイワットアイドルグループ」計画が、終了することをバーバラに伝えた。だがその時、バーバラはすでにモンドでちょっとした有名人になっていたのだ。
「えっと…こうなったら、うん、アイドルの意味を…私が伝える!」
小さな野望を抱いて、今日もバーバラはこっそりと新曲の練習をしている。
神の目
バーバラが「神の目」を手に入れた時は、特に何か大層なことをしていたわけではなかった。
それは、教会に入ってまだ日が浅い頃の出来事だ。当時の彼女は、高熱が下がらない子供の看病をしていた。
だが、バーバラがどんなにあやしても、子供は泣き止まなかった。
「薬は飲ませたけど、この子は家族が恋しくて泣いている」
「歌を聞かせてあげたら?静かになるかもしれない」とみんなが言った。
その日まで、バーバラは一度も歌ったことがなかった。だが彼女は躊躇わなかった。
歌ったことがなくても、この子をこのまま放置するわけにはいかない。
バーバラは、熱が下がらないその子を抱いて、唯一知っている子守歌を歌い始めた。
最初はすごく下手だった。歌詞も覚えておらず、メロディーだけを口ずさんだ。
子供が少し落ち着いたのを見て、バーバラは歌い続けた。声は枯れ、何回歌ったのかも分からなくなった。子供が眠り始めると、ようやく、疲れ果てたバーバラも壁にもたれかかり眠った。
翌朝になると、子供の熱は下がっていた。これは彼女の歌声のおかげか、それとも、眠っていたバーバラの手の中に、いつのまにか現れた「神の目」のご加護か。
それは、バーバラにとっては特に気に留める必要のないことだった。子供の笑顔を見ることが、彼女にとっての幸せだ。
「歌声でみんなを癒やす」――バーバラの神の目は、こんな単純で優しい夢から生まれた。
白朮
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キャラクター詳細
「不卜廬」の店主・白朮ーー彼は優れた医術に精通し、世の民草を救う仁心の持ち主であると同時に、謎に包まれた人物でもある。
彼の下で学びたいという者は後を絶たない。しかし、弟子として迎え入れたのは、薬材の整理すらままならないキョンシーであった。
一介の凡人でありながらも、その身には仙気を帯びた喋る白蛇を巻いている。
大小あらゆる病に対して的確な処方をするが、自身の持病に関しては治す術を持ち合わせていないようだ。
そんな彼のことを、璃月各所の有力者たちが気にかけないはずもない。なぜなら、才ある者ほど邪な念を持つと、その被害は甚大なものになるからだ。
しかし、いくら事細かに調べても、白朮が悪事を働いている痕跡は見つけられない。それどころか、「医は仁術なり」を体現する彼の評判を際立たせるばかりである。
彼にまつわる知られざる秘密に関して、白朮は微笑みながらこう語るーー
「良薬口に苦しと言うのですから、たとえ良医の心に秘密が多少隠されていたとしても…問題にはなりませんよね?」
キャラクターストーリー1
白朮の苗字は「白」ではない。それでも「白先生」という呼び方が定着したのには、不卜廬の弟子である七七が起因している。
七七が不卜廬にやってきた当初、彼女の記憶力は今よりもひどいものであった。日中に薬草を採りに出掛ければ帰ることを忘れて、夜が更けても帰ってこなかったことが幾度もある。
そんな七七に対して、白朮は患者と接する以上に根気強く向き合ってきた。最初、彼は薬舗で休んでいるように七七を説得していたが、「これは七七の仕事」と言って彼女は譲らなかったそうだ。仕方なく白朮はそれに応じたが、事あるごとに七七を探しに外に出ては、不卜廬で一緒に住んでいる事実を何度も何度も七七に言い聞かせてきた。
そんな七七の記憶力では、人の名前を覚えるのも一苦労である。白朮と長生は、長いこと七七から「あの人」、「あの蛇」と呼ばれていた。
これに対する白朮の処方は、七七に一冊のノートを渡すことであった。暇なとき、ノートに覚えていることを書き留め、読み返すように言ったのだ。そして、ある朝のことである。白朮を見た七七が、首を傾げながらこう呟いたーー
「おはよう。びゃ…びゃく…」
すると、白朮が反応するよりも早く、長生が興奮気味に首を伸ばしてその言葉の続きを促した。「びゃくの次は?私、私の名前は覚えてるかーー」
「白先生。」と言った後、七七は真剣な表情で言葉を続ける。「それから、ちょう…長い蛇。」
「ーーし、失礼な、超長い蛇だって!?」
「…物を覚えることは病気を治すのと一緒です。欲をかいてはいけません。少しずつ覚えていきましょう。」と白朮は微笑みながら頷いた。彼は「白先生」という呼び方を黙って受け入れたようだ。
その日から「白先生が言った」、「白先生がだめ、って」というのが七七の口癖となり…それは薬舗を訪れる多くの人々の口を伝って不卜廬の外へ、やがて璃月港全域にまで広がった。
七七のノートは文字で埋め尽くされ、今ではノートを頼らずとも白朮と長生の名前が言える。
だが、「白先生」という呼び名は既に人々の心に深く根付いており、もう変えることができないものになっているようだ。
キャラクターストーリー2
白朮は医術のみならず、商いにも精通している。
しかし、さほど驚くことでもないだろうーーあれほどの規模の薬舗を経営するには、医術の腕だけでは到底まかなえないのだから。
不卜廬の品は、そのほとんどが薄利多売の理念に基づいた良心的価格だ。しかし、一部極めて高価な品もあるーー特別割引価格で二百九十九万モラもする「永生香」もその一つだ。
一般的に、この類の品を求める客は価格よりも、品質や効果を重視する。
また市場を探し回るより、不卜廬で一度に揃えてしまったほうが手間が省ける上、何より白先生のお墨付きなら、多少モラを使おうとも割に合うだろう。
もちろん、利益を独占するのはよろしくない。訪れる客の中には行商人も少なくなく、彼らは不卜廬の「ビジネスパートナー」として、大陸各地から貴重な薬材を供給し、また同時に開発した新薬を各地に販売してくれている。「ビジネスパートナー」たちの懐が潤うだけでなく、不卜廬の収益もまさにうなぎ上りだ。
しかし、白朮の本当の目的は金儲けをすることではない。でなければ、何の利益にも繋がらない七七を引き取るなど、どう考えても割に合わないだろう。
その上、前例のない特殊な疾患に罹った人に対して白朮は、「珍しい病気のため、見積りが難しい」と告げ、形ばかりの処方箋料を少し受け取るだけなのだ。
このような診療を日々続けていくにつれ、璃月の外からも噂を聞きつけて患者が訪れるようになった。白朮は慈悲の心をもって来るものを拒まず、様々な奇病を治療していった。人々はそんな白先生の仁心に溢れた清廉な品格を讃え、各種手段で資金を集める普段の行いも、より長く善行を重ねるためだと納得したそうだ。
その答えは白朮の胸の内にのみあるーー「不卜廬は損を被る商売をしない」。
一部の目的を果たすためには…潤沢な財力と各地の素材がなければ話にならないのだ。そして、いくら財力を有していようとも、然るべき「巡り合わせ」がなければ得られないこともある。
仙人の秘術とあらゆる奇病を研究する機会…それこそが、いくらモラを払おうとも手に入れられない「巡り合わせ」だ。
キャラクターストーリー3
早朝、目が覚めたらまず水差しの中身をすべて飲み、急須にお茶を淹れる。そして、点心を少々用意するのが白朮のいつもの変わらぬ日課だ。甘い味からしょっぱい味まで、近所の住民や店がおすそ分けしてくれる。これは一年を通して途絶えたことがない。
点心は二つの大きな皿と、一つの小さな皿に分ける。大きいほうが白朮と桂の分で、小さいほうが七七と長生の分だ。小さい皿に乗った点心を、七七と長生のどちらか気の向いたほうが少しでも食べれば、一家団欒の朝食を済ませたことになる。
店の扉を開けると、そこには野菜や米、魚、果物、ナッツ類が所狭しと積まれている。これもまた近隣の住民たちから贈られたものだ。この先、不卜廬が食料に困ることはきっと永遠にないだろう。
ただ、白朮は人に借りを作るのを苦手としており、時に受け取るのを遠慮することもある。すると、相手から「白先生は診察料を貰わないことがよくあるじゃないですか。払うにしてもかなりの割引価格ですし、うちの子供も隣のおじいちゃんも…皆、白先生に恩があります。モラを受け取ってくれないなら、せめてこういった形でお礼をさせてください。」と説得されてしまうのだ。それに対して白朮が面を食らっていると、すかさず空気を読んだ桂が足早に駆けつけ、贈り物を薬舗の中へと運んで場を収める。
朝食が終わると、診察の時間となる。白朮は店内に残り、昨夜書いた処方箋通りに桂に薬を用意させて、一つずつ丁寧に包装した上で、足腰の弱い年配の患者さんに届けさせる。薬の包装には便箋が添えてあり、一日何回、一回どれくらい飲んだらいいかが、患者さんに分かりやすく事細かに書かれている。
患者が薬舗にやって来ると、長生は白朮の身体から離れ、ぶらぶらと辺りをうろつく。裏庭で柔軟体操をする七七のところに行き、その肩に登って一二三四、二二三四とリズムを取ってやることもある。それから、薬の配達を終えて戻ってきた桂の腕に身体を預け、しばらく近所の噂話で盛り上がったりもする。
これらのことを一通り終えると、じきに昼食の時間だ。手が空いている時は白朮が厨房に立ち、味はもちろんのこと、薬膳効果抜群の料理を振る舞う。
璃月港の午後は、ゆったりと流れてゆく。字を習う子供、ゆっくりと歩いていくお年寄り、槍を携えた兵…行き交う人々で賑わう街。長生と七七は薬舗の入口にごろんと寝転がり日向ぼっこをしながら、遠くの人たちをぼんやりと観察する。「左のあの人、髪が伸び放題、そろそろ床屋に行ったほうがいい。」「右のあの人は顔にニキビができてる、油っこいものの食べすぎだ」ーーなどと言葉を交わすのだ。そんなやり取りを桂が耳にすると、それを人様に聞かれたら大変だと心配し、慌てて部屋の奥に椅子を用意して七七と長生をそこに呼ぶ。
一連の騒ぎは、診察室にいる白朮の耳にも届く。そして処方箋を一枚書くたび、白朮は七七たちの声に耳を傾けるのだ。時は薬缶の湯のごとくーーぐつぐつと沸き立ち、いつしかまた静かな水面に戻る。
夜の帳が下りる頃、不卜廬も店を閉める時間だ。桂はそのまま残って皆と一緒に夕食を済ませることもあれば、家に帰って家族と一緒に食べることもある。桂がいない時は白朮、長生、七七の二人と一匹で食卓を囲んで心ゆくまで食事の時間を楽しんだ後、月の光に包まれながら各自部屋へ戻って休む。
薬舗の一日は大体がこんな感じだ。特に目立ったところもない日常の繰り返しである。…就寝前、ふと何の気もなしに桂が薬舗を見に来ると、裏庭で白朮が七七に新しい柔軟体操を教えていたことがあった。
一二三四、二二三四…朝昼晩、春夏秋冬ーー体操も人生も、その実は変わらないのかもしれない。
キャラクターストーリー4
璃月港の講談師が釈台を叩くなり、その口からは鬼神や妖怪の奇談が滔々と流れてくる。聴衆はそれらの物語を好んで聴いてはいるものの、同じ話の繰り返しに少し飽きてきているようで、「宝石売りの話も、お宝を盗む賊の話も前に聞いたぞ。他にないのか?」と口を揃えて言う。
そんな時、白朮が舞台の下を通った。それを目にした観衆は皆、心の中でこう呟いたというーー「白先生なら何かしら逸話を持っているはずだ。だが、それを物語として話してもらうのは難しいだろう…」と。白朮の医者としての徳は広く知られている。食事の後、彼のことを語ろうにも「白先生は何やら裏で仙術を探し求めているようだ」といったことくらいしか話せることがない。ただ、人々が話すそのことに関して、白朮本人は特に隠す気がないようだ。
不卜廬には色々な人が訪れる。多少なりとも目聡い人であれば、白朮が手の空いた時に読んでいる本が医学書だけでなく、求道や仙法に関する古書であると気づくだろう。さらに、不卜廬の薬籠には各種稀有な薬材もしまわれており、一般的な病気の治療薬でもないのに、定期的に消耗されては補充されている。その辺の人なら露知らず、方士一族の者から見れば、それらは伝説にある様々な「不死の薬」を配合するための薬材だと一目で分かるはずだ。
不死という言葉は、一般人にとって実に摩訶不思議なものである。もし好奇心をくすぐられ、白朮がどんな方法で不死を追及しているのか、どの境地にまで達しているのか探ろうとすればーー暗闇の中で綱渡りをするような、一歩も進めない状況に陥るだろう。
やがてその噂は広まり、人々は様々な反応を見せるようになった。それを我が物にしようと目論む人、異を唱える者、または不死自体には関心がなく、それによって波風が立つことを恐れる人…
白朮は薬舗に身を置きながらも、そういった街の反応には気づいていた。広大な璃月の地において、もっとも厄介なのは三つ目の反応をする人たちだ。白朮は元々、それらを水面下で処理しようと考えていた。しかし、この一件により総務司の要注意名簿に「白朮」の名前が載ってしまったそうだ。幸い、白朮は普段から細心の注意を払っており、各地域の患者を問診する際に雑談を交わしていたことで、総務司が自分に対して警戒を強めているのを少しずつ耳にしていた。そこで、彼はちょっとした策を巡らせたーー自身の研究に怪しい点はないと噂を流し、人々の言葉に乗せて世間に届けたのである。
噂とは、病原体と似たところがある。ひとたび人の口から放たれると、たちまち拡散していくのだ。そのような策を経て、白朮はやっと一連の問題を収めることができ…さらには岩上茶室の主·夜蘭の秘密情報名簿にも載らずに済んだのである。
また、前述の二つ目の反応をする人たちだが、その大半が宗家の子孫であり、彼らの考えはそう簡単に変えられないものとなっている。「天行常有り、生死定まりし」を信条とする彼らは、白朮のそれとは相反するものだ。そして何を隠そう、不卜廬から一本の道を進んだ先にある往生堂がその考えを持った者たちなのである。
「遠くの親戚より近くの他人」という言葉があるが、何年も前から付き合いのある不卜廬と往生堂は、いつも笑顔で挨拶を交わす間柄だ。もし生死に関して往生堂の堂主・胡桃に意見を尋ねれば、おおよそ決まった答えが返ってくる。「二言三言で意見がまとまるわけないでしょ。なんなら、白朮にご飯でもご馳走したほうが手っ取り早いんじゃない?」ーー白朮ほど心の澄んだ者であれば、宴席に誘えば快く応じてくれるだろう。異なる理念を持つ両家だが、年月を重ねていくうちにそう悪くない仲を築くようになった。気心こそ知れてはいないが、友と称しても差し支えないだろう。
そして、気心の知れない間は礼儀をわきまえ、それを知れば尽くすべき職務を語る。薬舗たる不卜廬は必然的に、治療の手遅れとなった者や寿命の尽きた者の相手を避けることができない。その者の運命が恵まれていれば、もちろん家族がその亡骸を引き取って葬儀が行われる。しかし、もしそうでなかった場合、亡骸を送るのは不卜廬だ。その際、不卜廬は往生堂と協力をして、故人の冥福を祈る。
葬儀はとても重要な仕事だ。そのため、堂主の胡桃はもっとも信頼のおける客卿·鍾離にこれを一任している。不卜廬の白朮も自ら参列して、その弔意を表す。葬儀は静かな夜、幽邃な草堂で執り行われることが多い。白朮が故人を送り、客卿が各種儀礼を行えば儀式は終わりだ。これできっと故人も安らかに眠れるだろう。
しかし、残念ながら故人は既に逝き、不卜廬と往生堂に礼を言える者はもう存在しない。天地は絶えず回り、規律は不変ーー生と死もまた同じなのだ。医者と客卿の二人ーー普段は隣人であり、食卓を囲めば友となる。唯一、亡骸を送る静けさの中でだけ、両者は心を交わす。そして草堂の扉を出たら、再びいつもの間柄に戻るのだ。
ーー最後に、一つ目の反応をする人たちについて、その数こそ多いものの、単純で手荒な手段を取るため一番対処がしやすい。
荒れた山野には盗賊がはびこっている。山道で独り薬草を採る白朮を数人の無知な輩が発見したーー「白先生は密かに不死の仙薬を探してるって噂だ。こんなところでコソコソやってるってことは、きっといい薬が見つかったに違ぇねぇ。悪いが、仙薬は俺らがいただくぜ!」と、その手が白朮へと伸びる。数時間後、通報を受けて現場に駆けつけた千岩軍が目撃したのは、まとめて地べたに転がっている盗賊と、その傍で余裕の笑みを浮かべた白朮であった。これではどちらが被害者なのか分からない。
「事情聴収の前に、失礼ですがひとつだけ質問させてください…」と千岩軍は躊躇いながら口を開いた。「白先生がこんな辺鄙な所まで来られたのは、本当に風邪の薬を採るためなのですか?」
「もし私が特別な薬を採りに来たのなら…」白朮は首を横に振りながら笑みを崩さずに言うーー「彼らに見つかるわけがないでしょう?」
一連の物語は人づてに講談師の耳にまで届いた。だが少し思案した後、彼は首を振りながらため息をつくーー「いや、やめたやめた。白先生は結局のところただの医者じゃないか。奇妙な逸話なんてあるわけがない。」
キャラクターストーリー5
肌の冷える季節が訪れると、不卜廬の入口の敷居は平たくなるまで踏まれるのではないかと心配になるほど患者が増えてくる。ところが、日によっては白先生の姿は見当たらず、助手の桂が店先に立って処方していることがある。持病でいつも通っている患者たちは一目で「例の状況」だと察し、桂が渡す薬を受け取ると「白先生にお大事にと伝えてくれ」と言い残し、ふらふらと不卜廬を出ていく。
そこに、ちょうど不卜廬に帰ってきた七七がお年寄りのすねにぶつかった。七七は帽子を手で押さえて軽くうなずくと、奥の部屋へと硬い足取りで向かっていく。
「例の状況」とは、特定の時間や場所を指しているわけではない。そして、そのような状況の時、桂は決まってある言葉を繰り返すーー「白先生は具合が悪く、本日は休診とさせていただきます。申し訳ありませんが、本日はお引き取り願います…」と。
医者は人の病気を治せても自分の病気は治せないと言うが、白朮はまさにそれであった。表向きは風邪ということにしているが、実際は身体が弱く、全身の臓器が病魔に蝕まれている。今のところ命を脅かす危険性はないが、他の医者に診せたら十中八九、世にも珍しい病気で手の施しようがないと嘆息するだろう。白朮が発作を起こすたび、桂と七七には成す術もなく、せめて気持ちだけでも伝えようとお湯や布、食べ物などを運ぶ。白朮は人に心配を掛けるのを憚り、長生だけを傍に残して部屋にこもる。
窓は閉ざされ、部屋の中は夜のように暗くなる。発作を起こした白朮の身体は悪寒に見舞われ、それから熱発や呼吸困難を起こしたり、全身に激痛が走ったりといった症状が現れる。しばらく苦しみが続いた後、彼は寝台に横たわったまま長生に冗談めかしてこう言うーー「私がいつかこれに耐えられなくなったら、きっと大変なことになるでしょうね。」
白蛇は舌をシュルシュルさせながら枕元に這い寄ると、その人間に似た瞳で、冷や汗でびっしょりとなった白朮の顔を覗き込む。「まったく、手を焼くやつだ。横たわるのは構わないけど倒れるんじゃないよ。長生不死の道を探すと言ったのはどこのどいつだ?あんたはまだ若い。だから、元を取れるまでは生きておけ。」
一人と一匹…そのうち人間は蛇の瞳をしており、蛇は人間の瞳をしている。どうにも奇妙な組み合わせだが、その秘密を知る者も、その真実を見破れる者もいない。実は、その二対の瞳こそが白朮と長生の間にある最大の秘密なのだ。彼らはある契約を結んでおり、瞳はその証である。契約によって、医術で世と民を救う代わりに、白朮の身体は病に侵された。
岩王帝君の教えに従い、一切の所業は、契約を遵守し約束は守られなければならない。仙跡が各地に広がる璃月では、様々な起源を持つ古法があり、その契約の内容も多種多様だ。彼らの契約内容について、白朮と長生は決して話さない。そして、白朮はいつもこう言うのだーー「契約?ただの決めごとですよ。門外不出の秘法と言ってもいいでしょう。これを受け継がせる対象にも色々制限がありまして、お年寄りと子供は対象外、不誠実な者あるいは人間以外の生き物も対象外…。それから…ああ、そうそう、『縁のない人も対象外』です。」と…そして長生も示し合わせたかのように同じようなことを言う。
お茶とお湯を運んできた七七がそれらを置いて、そっと扉を閉めて出ていく。その後ろ姿を眺めながら、白朮は深いため息をついた。胸裏に万感が交錯する…しかし、どう言葉にしたらいいのか分からない。仕方なく、彼は遠い昔の伝説で想いを紛らすことにしたーー
かつて、薬君山という山があり、山の主は杯の中の旧友とある約束を交わした。茶の木が成長したら、その葉を採って煎じ、仙人たちを誘って宴を開こう。なんとめでたいことだろうか。…しかし悲しいことに、約束をした二人の仙人のうち一人は湯呑みの底の茶葉のごとく水へと沈み、もう一人は茶葉を採る十の指と共に記憶を失った。
長生は舌をシュルシュルさせながら「別に珍しい話でもないだろ?仙人はいなくなっても、山に植えられた茶の木はまだある。その茶葉が彼らの約束を覚えてくれてるはずだ。そんなことより、あんたはもっと自分の身体のことを心配したほうがいい。もし万が一、私とあんたがいなくなったら…私たちを覚えてくれているのは桂や七七、木の家や煉瓦の床だけになるんだから。」と揶揄する。
白朮と長生の間で交わされた契約の名は「珥蛇托竜法」というものだ。だが、知っているのは名前ぐらいで、その詳しい内容については長生もあまり覚えていないらしい。長生によると、以前誰かに教わったことだけは記憶にあるが、それが誰なのか一向に思い出せないそうだ。
長生と昔話をすると、いつもこういった感じになる。白朮も長生の説教には慣れており、自分を心配してくれていることも理解している。喉に絡まる血を吐き出し、白朮は寝台の背に身体をあずけて上半身を起こした。
向けられた視線に気づいた長生は不満げにこう言うーー「私を見てどうする?あんたを支えてやれる手なんて生えてない*だけど。」
桂が作って、七七が運んできてくれた汁物を、白朮は匙ですくってゆっくりと口に運んだ。一口、二口…汁物をじっと見つめる視線は一瞬たりとも離れない。その底に、舞い落ちる春の花や秋の紅葉を見つけたかのように。
日々のあらゆることーー人生とは汁物に似ているのかもしれない…じっくりと煮えてくるものなのだ。
「不卜」
璃月の民はよく「占い」で将来の吉凶を読んだり、神の啓示を望んだりする。
遥か昔、医術と卜術は同一視されていたそうだ。生老病死に対する理解が浅かった民は、神様に健康であるよう祈りを捧げ、薬草を飲んで休むことしかできなかった。
幾度も罹患と快気を繰り返していく中で、見出された法則は後世へと伝えられ、さらに何代にも渡って試行錯誤された末に、今日の医学が成り立っている。
衣鉢を継いだ後、白朮は長生と共に璃月港へとやってきた。この賑わう港口で一人前の医者となり、ここに腰を下ろそうと決意したのだ。そんな彼らには当時、こんなエピソードがあるーー
璃月にはある習わしがある、開業をする時は吉日良辰を占わなければならないというものだ。その日を守ることで、客に恵まれ、商売が繁盛するとされている。
しかし、その日が訪れるよりも前のある夜のこと、熱を出した娘を抱えて、ひどく焦った母親が薬舗の門を叩いた。
……
翌朝、開業日までまだ数日あるというのに、それを前倒しして薬舗は診療を開始した。それを見た近隣住民が怪訝な顔をしたのは想像に難くない。何しろ開業祝いらしきものは一切なく、人知れず開業したのだから。
「もし店が本当に潰れたらどうする?あんた、心配じゃないの?」と長生は惜しむように話す。「昨夜のは急患だったから仕方ないけど…開業を前倒しする必要はないんじゃないか?」
それに対し、白朮は処方箋を書く手を止めることなくこう返すーー「開業が一日遅れたら、それだけ患者を待たせることになります。それに、薬舗が商売繁盛を願ってもしょうがないでしょう?病人が増えるのを望むのですか?」
「確かにそうだが、店の名前だってまだ決めてないだろ?あと祝詞はどうする?」
「店名と祝詞ですか…では、薬舗の未来も患者の病も…」ーー白朮は手に持った処方箋を扉の外から差し込む朝日にかざしながら続けるーー「…あなたと私の命運も、神や卜占に頼る必要がなくなりますように。」
陽によって透けた紙の署名欄には、芯の通った文字でこう書かれていたーー
「不卜廬、白朮」。
神の目
白朮がまだ幼かった頃、彼の住む地である疫病が猛威を振るった。
…だが幸いなことに、その地を訪れた師匠が治療を施し、疫病はそれ以上蔓延せずに済んだという。
しかし、当然ながら既に失われてしまった命が救われるという奇跡は起こらない。そして、両親を失った白朮は師匠に弟子入りし、医術を学び始めた。
この世には数多と病気が存在しているが、師匠の手にさえ掛かればどんな病気も治せそうであった。師事していた数年間、白朮は師匠から大事なことを学んだ。どんなに恐ろしい病魔でも、人の知恵をもってすれば克服できる、というものだ。
…契約によりその身体に病を溜め込んだ師匠は、ある日ついに倒れてしまう。
当時、白朮は既に医術を習得していたが、枯れ枝が複雑に絡み合ったかのような師匠の病は治すことができなかった。
この世でもっとも解明し難い病ーー死は、とうとう恩師を連れ去ってしまったのだ。
人間の一生は、本当に生老病死の檻から逃げ出すことはできないのだろうか?
幼少期のぼんやりとした記憶は両親の喀血で滲んでいき、目の前で次第に鮮明になっていく光景は、師匠の冷たい墓碑を突き付ける。
相変わらず軽い口調の長生ではあるが、墓を前にしてその声にも些か哀しみが混じっているようだ。
「…この契約は、あとどれだけの人に受け継がれるのか。」
大事な存在が目の前から消えるのを、もう二度と見たくないと白朮は思った。
「ーーいいえ、私が…最後の契約者になります。」
再度目を開いた時、彼の瞳には金色の輝きが宿っていた。それはまるで、永遠に消えない灯火のような光。
その縦長の瞳孔に真っ先に映ったのは、蛍の光のように墓碑に静かに現れた一つの「神の目」であった。
それはすべてを見届ける神の眼差しのようで、また温かく見守る師匠の眼差しのようにも感じられた。
ファルザン
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キャラクター詳細
ある妙論派の教材を開くと、著者のページにはファルザンの経歴が記載されている。
「ファルザン――教令院の卓越した学者。スメール謎解き協会名誉賞受賞者。古典ギミック術学科創設者の一人。」
しかし、知論派の志望選択の話になると、先輩たちは眉をしかめてファルザンの現状を語る。
「ファルザンか…彼女の研究は時代遅れだ。審査を通りやしない。うちの学院に出願するなら、別の指導教員にしたほうがいい。」
その評価は雲泥の差で、不思議に思わずにはいられない。
後輩たちの問いかけに、ファルザン先輩はいつも意味深な表情を見せる。
「ん? この百年間で何があって、何故こうなったか聞きたいと? それは重大な秘密なんじゃ。ちと耳を貸すがよい。もっと近う寄れ、もっとじゃ…」
――そして、パチンとデコピンをお見舞いする。
「その好奇心は、学問の研究に回すがよい――それと、ワシのことは先輩と呼ぶんじゃ!!」
キャラクターストーリー1
多くの教令院の学者にとって、百年前に活躍していたファルザンは、ずっと「伝説の人物」であった。
学んだ期間は決して長くなかったが、彼女はその間にスメールの大半の遺跡やギミックを分析して解明した。このおかげで後世の人々が様々な謎を解く難易度は大幅に下がったのだ。
彼女が残した手記や論述は後世に学科発展の堅実な基礎を残し、クシャレワー学院の無数の学者が探求する道を照らしてくれた。
彼女の「結末」もまた、その伝説の人生をさらに彩るものだ――ある遺跡を探索していた途中、ファルザンは急に「消え」、それから消息が途絶えた。
百年もの歳月の間に、彼女の消失は次第に不思議さを増して伝えられるようになった。
ある人は、彼女はキングデシェレトの古い知識に触れて、沈黙の殿に監禁されたと話す。
ある人は、彼女は才能を神々に認められ、高天の上で神々と共にあるようになったと話す――
伝説の人物には、伝説的な閉幕が相応しいと、人々は思っているのだ。
こうして、「伝説」は「現実」とかけ離れていった。
「じゃから、ギミックを解く時に普通に失敗して、遺跡に閉じ込められたんじゃ。何じゃ? 大先輩が失敗してはならんというルールでもあるのか?」
キャラクターストーリー2
多くの後輩を驚かせたのは、ギミック術の領域で多くの成果を収めてきたファルザンは、実は文字研究をメインとする知論派の学者だという事実である。
簡単に言えば、彼女の研究領域は「石刻文字などの出土文献に基づいて古代遺跡の様々なギミックの構造と解き方を解明する」ことである。
百年前、教令院の古典ギミック研究はまだ未熟であった。そこへファルザンは古代文献によってギミックの動作を事前に予測し、遺跡の研究作業にかなりの利便性を提供した。
しかし、詳細が明らかになっていない遺跡が減っていくにつれて、妙論派のギミック関連学術も完全に近づき、彼女の研究は昔のような輝きを失ってしまった。
百年後、ファルザンが再び教令院に戻った時、知論派に彼女の論文が分かる学生はもういなかった。指導教員たちも彼女が提出した研究課題に対し、顔を見合わせるばかり。
一方、妙論派ではファルザンの手記を読んで卒業した学者が少なからずいる。彼女の苦境を聞き、クシャレワー学院へ移籍するよう説得を試みた学者は沢山いたが、成功した者は一人もいなかった。
説得する際には調子に乗って、「クシャレワー学院は将来ギミックを研究する実力を持つ唯一の学院だ」とか、「今はもう古代文字を解読する時代ではない!」と口走った学者がいたが、顔色を変えたファルザン先輩に丸二時限分もの時間、説教された。
その夜、学者はランバド酒場でやけ酒をし、落ち込んでいた。
知論派のある友人は彼の肩を叩き、一晩中慰めた。あまりの悔しさに、「明日知論派の答弁会で、あの頑固頭に仕返ししてやろう」という考えを胸に…
――次の日の夜、その友人もやけ酒の仲間入りをした。
キャラクターストーリー3
研究課題が審査に通らないこと以外で、今ファルザンが最も頭を抱えている問題は、如何にして気に入った学生を招くかということだ。
知論派の体験授業で一連のギミック術の専門用語を聞かせると、いつも学生たちはみな頭を掻くか、居眠りし始める。
するとファルザンは大変腹を立てて教鞭を投げ捨てると、当時の知論派の同僚が仕事を怠り、風紀を正さなかったから、こんな後輩ができたのだと非難する。
意外にも、学生たちは百年前の人々が罵倒されるのを、ギミック理論よりも興味津々で聞き入った――ファルザンはもっと怒った。
ギミック研究を志す学生は、ファルザン先輩に勧誘されると、初めは感謝するのだが、所属先が知論派だと分かった瞬間、難しい顔をしてもう少し考えたいと言葉を濁す。
そして、考えた末の返答をファルザンが尋ねるよりも先に――次会う頃には、もう妙論派の学生となっている。
ティナリに誘われて雨林の遺跡を調査した時、ファルザンは森の奥へと歩を進め、そこで敬虔な祈りを耳にした。「――知恵の神様、あたしに文字をもっと勉強させてくれ!」
…祈りの声は切実で、真摯なものだった。ファルザンは思わず感動してしまった――今のスメールに、文字を研究することに対し、これほどの情熱を持つ者がまだいたとは!
今の声は文字を知らない幼子のものには聞こえなかったし、サティアワダライフにいる学者のものでもなかった。
一人で雨林の奥深くにまで入ってきたということは、腕がいい証明だ。もしかしたら森のギミックに対処した経験もあるかもしれない。
しばらく考えたのち、百年の経験を持つファルザンは、この人物こそ研究方向もあっていて、素質も上等であり、学生に相応しいと判断した。学生にするとその場で決意したファルザンは、木の後ろから厳かに姿を現した。
そうして、周りに誰もいないと思い込んでいたコレイの叫び声が、森にこだましたのであった…
叫び声を聞いたティナリは、すぐに駆けつけてきた。コレイのしどろもどろな説明と、隣から入れられる師匠のフォローによって、この大きな誤解は解けた。
ファルザンもこの若いレンジャーのことをだんだん深く知っていき、彼女を改めて理解した。そして、毎回ガンダルヴァー村を訪れる度に、必ず美味しい差し入れを持っていくようになった。
しかし、コレイの戸惑いはさらに深まることとなった。――誤解は解けたけど、あたしを学生にするって考えは…むしろ強まったんじゃないか?
「師を尊敬し」「勉学に勤しむ」学生は…教令院に沢山いるはずだろ?
コレイのどんな所に惹き付けられたのかは、ファルザン自身も気づいていないかもしれない。
その美点とは、尋常ならぬ苦難を経験しても尚、したたかに人生に立ち向かえるところだ。
キャラクターストーリー4
「遺跡に閉じ込められていた」百年については、ファルザン自身の記憶も曖昧だ。
あの遺跡の由緒も、所在も知らない。覚えているのはただ、キングデシェレト文明と関係していたということだけだ。中には沢山のギミックがあり、壁は暗号文で埋め尽くされていた。
遺跡の謎の力によって、彼女の身体状態は閉じ込められた瞬間のまま停まっていた。空腹感もなければ、疲労も知らない。しかし、精神的な疲れだけは消えなかった。
持っているすべてのペンと紙を使い果たしても、暗号文は一つも解けず、一生分の知識を使い果たしても、ギミックは一つとして解けやしなかった。
ファルザンは数え切れないレポート用紙に囲まれたまま、暗号文でぎっしりと埋め尽くされた丸天井をぼーっと見上げた。
沈黙する古代の謎は、無言でファルザンの無知を嘲笑い、現代人のちっぽけさを嘲笑っていた。
自分が誇りに思う研究や、歴代の学者が一生を費やして得た知識の蓄えも、古代文明の前には価値なきものなのだろうか?
ファルザンは再び這い上がると、石の破片を拾い、引き続き地面に何かを刻み始めた。
生きてさえいれば、まだ希望はある。今分からないことも、明日になれば分かるかもしれない。文明は存在し続ける限り、発展していくものだ。今の人々には解明できないものも、未来の人々は解明してくれるだろう。
最終的にここに骨を埋めたとしても、演算と試行錯誤の記録を残し、次の遭難者に生の希望を与えなければ。
これこそが古代言語学者の存在する意味なのだ。
一体どれほどの時間が経ったのだろうか――彼女の触れた地面には、難解な演算の記号がぎっしりと刻まれていった。
どれほどの時間が経ったのだろうか。記憶は曖昧になり、精神もぼんやりとしてきた。彼女は誰にも分からない言葉を呟きながら解読し続けた…
どれほどの時間が経ったのだろうか。彼女はやっとこの謎の答えを見つけた。
しかし、意識が混濁していたファルザンは、まだ知らなかった。真の苦難は、遺跡の外で待ち受けていることを。
キャラクターストーリー5
遺跡から脱出した後、ファルザンは長い休養を経て、やっと正常な意識を取り戻した。
記憶にあるのとはかなり違うスメールを見たファルザンは、自分がまだ遺跡の中にいて、ただの幻のギミックが目の前に映し出されているのだと思った。
教令院から派遣された者が、アーカーシャに残されている百年前の記録情報を頼りに彼女の身分を確認し、百年間の世の移り変わりを彼女に説明するに至って、ファルザンは百年もの時間が過ぎ去ったのだという事実をようやく少しずつ受け入れ始めた。
教令院の学者は妙論派の書籍を持ってきて彼女に見せた。ファルザンが表紙をめくると、扉に書いてある文章が目に入った。
「本書の多くの内容は、ファルザン先輩の論述と手記から来るものである。先輩が教令院に帰還した時、後世の学生がまだファルザン先輩の名を覚えていますように。」
ファルザンは故人がまとめた手記を読んだ。あの頃、共に議論し、未来に思いを馳せた同輩たちの姿がまぶたの裏に浮かぶ。しかし、あれはもう百年も前の話だ。
自分が知っている人も、自分のことを知っている人も、もういない。
スメールに帰ってきたのに、周りのすべては馴染みないもので、まるで異国を彷徨っているようだった。
風に乗って放浪する遊子でさえ、いつかは故郷に帰れる。でも彼女は時間の流れに乗って放浪し、もう過去には戻れない。
傍にいる学者は言葉を選んで、この百年間に何かあったのか問おうとしたが、どう尋ねれば、この大先輩を悲しませずに済むか分からなかった。
ファルザンは静かに本を閉じ、いつもと変わらぬ表情で過去を話し始めた。
「――ただ、一度実験に失敗したにすぎぬ。学者である以上、誰もが数回は経験することじゃろう?」
どんな状況においても、どんな時代を生きていても、ファルザンの時間はそこで停まったりしない。
毘藍婆重機
多機能遺跡探索補助端末――コードネーム「毘藍婆」。これはファルザンが教令院に帰還した後に経費を申請できた、数少ないプロジェクトのうちの一つだ。
このギミックには、護衛と見回り、魔物退治、土砂清掃など様々な機能が搭載されている。ファルザン個人の好みで、触ったり押したりと暇つぶしに使える部品も多い。
しかし、意外なことに、この「家庭用・旅行用何にでも使える神グッズ」はマハマトラの一団を呼び寄せた。彼らは有無を言わせずファルザンの工房に押し入ると、コードネーム「毘藍婆」を細かく精査し始めた。
そして、一見用途のない部品を大量に見つけると、マハマトラたちの疑いはさらに深まった。ファルザンの「それはただのストレス発散用じゃ!!」という主張を無視し、彼女の新作を解体してくまなく調べようとしたのである。
しかし幸い、駆け付けてきた大マハマトラのセノが部下たちを止め、事なきを得た。
謎の失踪を遂げた上、その間に起きたことについて言葉を濁しているからには、ファルザンは何らかの秘密を抱えていると、マハマトラたちは疑っていた。
クシャレワー学院の誘いを断ったのは、知論派の審査員がギミックのことを理解していない点を利用して、危険なものを再現しようとしているからではないか、と。
何しろ、キングデシェレト文明に触れた学者は皆、その奇妙な英知に引き込まれずにはいられなかったのだから。
そういう理由で、ファルザンがギミックを作り始めたと聞いた彼らは、ものものしい警戒態勢を取り、過敏な反応を見せたわけである。
セノはファルザンと関連するすべての記録を調べて、彼らの疑問点を一つひとつ潰していき、部下の僭越な行動についてファルザンに謝罪した。そして一人のマハマトラを残し、後始末を任せたのであった。
ファルザンはちょうど人手不足に悩まされていたので、この対応については大変満足だった。大マハマトラの公正な判断を気に入り、ファルザンは新作の命名を任せたいと思った。
すると、セノは少し考えた後、こんな意見を出した――このギミックは出力が高いし、マハマトラたちともこうして繋がりを持った…「大マッハマシン」にするのはどうだ?
…その時のファルザンは、キングデシェレト遺跡を見た時よりも困惑した表情だった。
ありがたいことに、すぐ傍にいたマハマトラが、クシャレワー学院が既に同名のギミックを出しているからとフォローを入れてくれた。冷めきった顔でファルザンはその場でその提案を断り、セノに命名の「深意」を問わなかった。
だが「大マッハ」と「マシン」の組み合わせを参考に、ファルザンは新作の名前を思いついた――「毘藍婆重機」は、こうして誕生したのである。
神の目
どうやってギミックを解いたかは覚えていないが、ファルザンは遺跡を出た時の状況を、おぼろげに思い出せる。
あの時、まずは光を感じた。目が開けられないほどの強い光に、彼女は思わず一歩下がった。
次は風だった。頬を撫で、腰や肩に触れる。それはまるで熱烈なキスで、彼女の帰還を歓迎しているようだった。
目を閉じていても、すべてが見えるような心地がした。彼女は風に向かって、一歩、また一歩と、百年ぶりの自由へ歩み初*めた。
百年もの歳月は環境を変え、記憶を摩耗させ、彼女に帰る道を失わせるのに十分な時間だ。
しかし風の導きに従って、朦朧としながらも彼女は魔物や危険な場所を避け、よろけつつ荒野を歩いていた…懐かしく馴染みのない感覚が、彼女を襲うまで。
ファルザンが倒れた瞬間、彼女のお腹がぎゅるると鳴った。
「ああ…空腹感か? 久しぶりじゃな…」
まさか、ギミックを解いて遺跡から脱出し、最後の最後に、生物の最も原始的な欲求を計算に入れ損ねていたとは。
風の音が弱まると、ファルザンは持ち堪えられなくなり、深い眠りについた。
……
一つのキャラバンがゆっくりと前進していた。すると突然風が巻き起こり、ある駄獣の目に砂が入ったようで、それ以上進んでくれなくなった。
商人たちは無理矢理駄獣を引っ張って列に戻そうとしたが、そこで遠くに何かが光っているのに気づいた。
「ほら、早く戻れ! 何をそんなに見入ってるんだ? 宝石でも見つけたか?」
「いや…えっ…おい待て! あそこに人が倒れてるぞ!」
遠くで気を失っているファルザンの傍らには、眩しい輝きを放つ神の目が横たわっていた。
フィッシュル
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キャラクター詳細
フィッシュルは、異世界「幽夜浄土」からここに流落した「断罪の皇女」である。
彼女は言葉を話す鴉の眷属「オズ」と共に「運命の因果を織り成す糸を観察している」。
理由に関しては、本人もうまく説明できず、オズも話そうとしないため、誰も分からない…フィッシュルは今、冒険者協会で調査員として、日々を送っている。
キャラクターストーリー1
冒険者協会の調査員として、フィッシュルの最大の武器はオズである。
「お嬢様、もう私に風魔龍の動向を探らせるのはやめていただけませんか。私では、あやつの前菜にもなれませんよ」
「フン、この断罪の皇女の眷属になったんだから、わたくしのために視力や命を捧げるくらい、当然のことでしょう」
フィッシュルはオズの目に映るものを見ることができ、さらに本気を出せば鴉となり、翼を広げ、大地を見下ろすことだってできる。
望風山地の生態も、奔狼領の騒動の全容も、オズの目を借りれば全て一目瞭然である。
このような特殊能力に加え、少しの努力と不思議なキャラで、フィッシュルは冒険者協会の新星として、みんなに認められている。
なお、14歳で調査員として冒険者協会に入ったのは、フィッシュルの両親の紹介があったからである。
それにしても、フィッシュルが断罪の皇女なら、彼女の両親は断罪の皇帝と断罪の皇后陛下なのだろうか…
キャラクターストーリー2
冒険者たちの間に『フィッシュル辞書』という本が流通している。
それは、フィッシュルの言葉を誰でも理解可能な文章に変換できるすごい本である。
例えば、「時間の狭間に響く過去の風が、因果の河の中で忘れ去られた尖塔を吹く」は「風龍遺跡」
「断罪の名を背負いし従者よ、その望みのままに、皇女の偉大なる知恵を受け入れる準備をしなさい」は「調査するから、すぐに結果を出そう」
「歌え!皇女の祝福を貪る従者どもよ、猛虎のような心で戦場へ行きなさい!」は彼女はすでに調査作業を完了したことを意味する。
そして「全ては、この漆黒の預言書に記された」は冒険者たちの報告を元に、冒険者日誌を書いたという意味だ。
――実は、『フィッシュル辞書』は決められた事を書かれた本ではない。
フィッシュルのことをよく知っている者は彼女の言葉に耳を傾け、その意味を理解しようと努力する。それは彼女を尊重し、認めているからである。
「フン、やはりあなたは分かってくれるのね。さすがわたくしと運命で繋がっている人ね。」
そのまま彼女の機嫌を取る言葉を口にすると、
「皇女は誉め言葉を惜しまないからね…もう少し話して…コホン、誤解しないで、これは新世界の礎と薪柴になるものだから…」そう照れながら褒めてくれる彼女が見られるかもしれない。
キャラクターストーリー3
オズと皇女フィッシュルの関係はただの友人でも主従でもなく、魂と運命を共にする関係である。
彼女らの出会いは「フィッシュル皇女物語・1巻『末日解体概要』」に記されてある。
孤独な皇女が永久黄昏の国に着いた時、運命を拒む黄昏の王族は抗えない絶望の中で「否定」を選択した。
彼らの「否定」は徹底的なものだった。
彼らは、フィッシュルの幽夜浄土の主である皇女としての高貴なる身分と使命だけでなく、その幽夜浄土を守る責務や皇族の傍系血族として13000年間続いた血統を否定した。そして、人間としての矜持をも否定した彼らは、愚鈍で凶暴な獣に成り下がった。
黄昏の宮殿の中で、獣たちに引き裂かれ、皇女の高潔な血がパールのように古き紋章の上に滴る。
その瞬間、夜が訪れるように黒い翼が彼女を囚えていた絶望を引き裂き、負傷した皇女を守った。
高潔なる血の掟に従い、鴉の王オズヴァルド・ラフナヴィネスは孤独な皇女の傍らで、彼女に永遠の忠誠を誓った…
キャラクターストーリー4
このような物語がある。昔々、遠いところに幼い女の子がいた。
女の子の父と母は忙しい冒険者であった。彼女は幼い頃から図書館で本を読んでは、本の中で千の宇宙を旅してきた。
幽夜浄土の主となって、聖裁の雷を下す皇族の娘となって、漆黒の鴉と運命を共にする親友となって…
……
「■■、今日は何の本を読んだんだい?」珍しく、冒険の途中で帰ってきた父と母は女の子にそう聞いた。
そこで女の子は大好きな小説の話を両親に教えた。
「…それでね、彼は言ったの。『フィッシュル・ヴォン・ルフシュロス・ナフィードット、お前は断罪の皇女、私の自慢の娘だ。何があっても気高さと夢を諦めてはならない。』って」
「ああ、いい話だ。■■が気に入ったなら、これからは君を『フィッシュル』と呼ぼう。」父は笑いながら彼女の頭を撫でた。
「フィッシュルは皇女で、俺の自慢の娘だからな。何があっても気高さと夢を諦めてはならないぞ」
優しくて暖かい言葉が、彼女の心に灯をともした。
しかし、忙しい両親との暖かい時間はいつも、長くは続かない。
小説と妄想に夢中になりすぎたせいで、周りに馴染むことができなくなった彼女は、寂しくて辛いとき、いつも自分にこう聞かせるのだ。
「わたくしはフィッシュル、すごい皇女なのよ。父上と母上もそう認めたわ…」
「何があっても気高さと夢を諦めてはならない…だってこれは全て皇女に対する試練なんだから。」
キャラクターストーリー5
『フィッシュル皇女物語』の宇宙が、最後エントロピーの影響で滅びたように、あの妄想に浸っていた女の子も成長した。
14歳の誕生日の日*、彼女を理解しようとしない子供たちは、いつものように彼女をからかった。
これは高貴なる皇女に対する小さな試練に過ぎない。きっと両親は分かってくれると彼女は思った。
皇女は何があっても、気高さと夢を諦めてはならない。
そして両親の元に戻り、労いの言葉を期待した彼女が聞いたのは暖かくて悲しい言葉であった。
「ああ、■■、あなたはもう14歳よ。いい加減子供の妄想は卒業して…」
よく知っている声は、まるで細い剣のように少女の胸を突き刺した。
その日の夜、いつもの図書館に隠れた彼女は異様な視線を感じ、この世にいないはずの翼の音を聞いた。
泣き腫らした目は、この世のものでない鴉の目と合った。
その後の話はまた別の物語である…
フィッシュルはこの話があまり好きではない。この話を思い出す度に、窒息するような痛み、噛みつくような孤独を感じる。
いつかこの話は誰かの手によって書かれるかもしれない。しかし、それはあくまでも■■の話で、フィッシュルとは何の関係もない。
皇女の名はたった一つ、それはフィッシュル。
フィッシュルの肩書もたった一つ、それは皇女。
簡単で完璧な理論を心に刻む。皇女の崇高さに、ほんの少し他人からの優しさが加われば、彼女は無敵だ。
それに、今の皇女フィッシュルはオズだけでなく、同じく別世界から来た旅人とも巡り合ったのだから…
『フィッシュル皇女物語・「極夜幻想メドレー」』
『フィッシュル皇女物語』小説シリーズのおまけとして発行された設定集。
発行数が極少のため、原作ファンの間ではいくら出しても買えない珍品とされている。
この作品は美術設定が華麗ではあるが、世界観の設定は非常に暗い。
すべての光明と美しいものは、不可逆なエントロピーの増大により破損と毀滅へと変わっていく。そして、宇宙の終点は皇女の未来の国土――すべての幻想に終焉をもたらす「幽夜浄土」だ。
これが宇宙の運命、あらゆる世界の運命、あらゆる者の運命。
皇女と彼女の忠実な友「昼夜を断ち切る黒鴉オズ」――オズヴァルド・ラフナヴィネスの運命は、夢を糧とする「世界の獣」を射落とすことだ。
最後の最後に、因果の終結の地に集まってきた魂に祈りを捧げ、あらゆる美しい思い出と道徳を心臓に残し、聖裁の雷ですべての醜悪なものを焼き払う。
皇女は自分の心を焼き壊した。不朽なる輝きと共に新たな宇宙が誕生する。
終焉を迎える前に、皇女は数々の宇宙を行き渡り、一千万以上の異なる景色を見ることになる。
そのため、発展が少し遅い世界で、冒険者協会の調査員を務めるのも…原作に忠実であるし、皇女の巡礼の一エピソードである。
いずれ皇女は分かってくる。命の一分一秒を、そしてささやかなことでも大切にしなければならないことを。
それは、皇女の極夜幻想メドレーが無数のエピソードによって、できているためである。
神の目
はたしてオズは、フィッシュルの潜在意識にしか存在しない「妄想の友達」なのか?
この件に関しては、皇族の王器「深い色をした幽邃な秘珠」――つまりフィッシュルの「神の目」から説明しなければならない。
彼女の願いが認められた時、鴉オズと「神の目」が同時に彼女の目の前に現れた。
あの日の晩餐の時、オズとフィッシュルの親が意気投合した。
「幽夜の皇帝と皇后様、この夜の王の僭越な行動をお許しください。だが、お宅の豆は実は*美味しいです。」
「好きならもっと食べて。■■ちゃんが14歳になって、初めて家に連れてきた友達だから。本当に貴重よ」
「な、なにを!わたくし…この皇女に一般人の友達はいらないから!」
――物事の事情は以上だった。
結果から見れば、断罪の皇女の父と母にもオズが見える。オズを皇女の最初の友達だと思っている。
そして、「呪いに見舞われた冒険者」、「異世界の来訪者」や「変わってる精霊風の非常食」……
彼らが皇女の新しい友達になるのがその後の出来事だ。
胡桃
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キャラクター詳細
往生堂七十七代堂主、堂中の全業務を仕切る少女。堂主という立場に居ながらも、少しも偉ぶることはない。
彼女のアイデアは、瑶光の浜の砂粒よりも多いと言われている。頭の中には様々な考えが飛び交っており、そのアイデアは他人を毎度驚かせる。
普段はじゃじゃ馬のごとく、あちこち遊びまわっている少女だが、葬儀を執り行い、無数の灯りに照らされた通りを歩く時だけ、彼女は厳かで重々しい一面を表に出す。
キャラクターストーリー1
葬儀は、人生最後の舞台。
そして璃月の「往生堂」は、その終の演出を仕切る存在だ。
伝統的な葬儀には多種多様な仕来りがある――霊の守護、埋葬の方法、位牌に使う素材…すべての事柄に対して、厳しい掟が存在する。
亡くなった者の身分と貧富にかかわらず、彼らに見合った葬儀を行う必要がある。それが往生堂の信条だ。
これほど重要な組織の上に立つ者は、さぞ博識で頼れる人物なのだろう。
しかし、七十七代目堂主という重責を負う者は、胡桃というまだ幼さの残る少女だ。
常に奇想天外なアイデアを持つ胡桃は、璃月ではちょっとした有名人である。
三歳の時、逆立ちで有名著書を読んだり、六歳で学校をサボって棺桶で居眠りしたり、八歳で堂に篭り葬儀についての研究を行ったり…
どう見ても、胡桃は「厳粛」とは程遠い性格だった。
そんな胡桃が始めて葬儀の指揮を執ったのは、十代の頃だった。
それは葬儀屋と客卿達の心を、絶雲の間の険しい崖の上まで鷲掴みするほど立派な葬儀だったという。
キャラクターストーリー2
胡桃は商売を非常に重視しており、儲けを蔑ろにするようなことはしない。
「我々往生堂は、生きる者からお金を受け取り、死者を旅へと導く。二重の責任を負い、陰と陽の2つの世界の者を満足させる必要がある。」
往生堂の掟について、胡桃より詳しい者はいない。
日中、店を閉めている間は、葬儀屋の若い従業員に知識を蓄えさせるため、見識の深い客卿を講師として招いている。
「葬儀の伝統は複雑な学問であり、印象や習慣を基に理解すべきではない。」
大勢いる講師の中で、鍾離先生は一番敬われている存在だ。
胡桃は、たまに鍾離の古臭さをいじったりするが、実は最も信頼を寄せている相手である。
また胡桃は特定の葬儀形態にとらわれることなく、変化する顧客の需要に注意を払う必要があると思っている。
「客は様々な需要を持つ。例えば、死者を清く送りたい、賑やかに送りたい、裕福な客は見栄え良く送りたい等々。私たちが何をすべきか、どうすべきか、全て客の需要に依存する。」
胡桃が指揮を執るようになってから、往生堂の経営は安定し業績も順調だ。葬儀に対して良く思っていなかった住民も、段々と受け入れるようになり始めていた。
しかし、葬儀屋の若い従業員たちが講義を受けている間、胡桃はいつもどこかへ行く。
ただ彼女の行動には変わった点がまま見られるため、それがサボりなのかは判断しにくい。
月下の埠頭、山間の崖、一番高い所で後ろ手に詩をそらんずる者がいたら、それは胡桃のほかいないだろう。
彼女は夜中に彷徨い、詩を歌うことを好む。
華光の林で休憩する商人がいたら、椅子に座って楽しんでいる謎の少女と出会うかもしれない。
四人じゃないと遊べない駒を使う遊戯も、胡桃は自分自身と楽しく対戦出来る。
その楽しさは…彼女しか分からないだろう。
キャラクターストーリー3
総務司の門には、威厳の象徴である二体の石獅子が鎮座している。
しかし、その前を通っても胡桃はその威厳を感じない。石獅子をじっくりと観察し、何かを思い浮かべる。続けて大笑いし、石獅子の前足を強く叩き始めるのだ。
それから、胡桃は時々訪れては石獅子の頭を撫でて、ブツブツと話しかけるようになった。石獅子たちと会話するだけでなく、名前も付けていた。左はニャンイチ、右はニャンジ。
またある日、左手にぬるま湯のバケツ、右手に大きなブラシを持ち、石獅子の体を洗い始めた。優しく真剣に、石獅子を本当のペットとして見るかのように。
一方、新月軒の前には璃月の家庭料理を食べる三毛猫が一匹いる。この日、ちょうど付近の住民が猫と遊んでいたところ、胡桃が通りがかった。
胡桃は大きな声でこう言った。
「あなたの猫が可愛いというのなら、私の猫だって可愛いでしょ?ニャンイチとニャンジの毛は硬いけど、それでもふさふさしてるよ!いつでも私を癒してくれるから、もちろん本物のペットだよ。カッコ良さなら、ニャンイチとニャンジは誰にも負けないから!」
そう言われた相手は、ぽかんとし何を言われたのか訳がわからなかった。
また総務司の警備は、胡桃に何度か驚かされたことがある。真夜中に足音を聞いた警備の者は、それが泥棒かと思い駆けつけると、石獅子と遊んでいる少女だったのだ。この様な奇行に皆がやっと慣れ始めた頃、胡桃は石獅子の前に現れることがなくなった。
そして、警備は悩み始める――胡桃が来ないとなると、石獅子の掃除は自分でやらなければならないと。
彼女と再び会う機会が訪れた時、来なくなった理由を訊ねると予想外の答えが返ってきた。
「ニャンイチとニャンジはもう一人前になったから、私の世話はいらなくなったの!私はね、今神像の人生相談で忙しいんだ!」
キャラクターストーリー4
出会ってすぐ、胡桃は一方的に七七を親友とみなし、自分の手で七七を埋葬しようと考えた。
胡桃は何度も試みた。頃合いを見計って七七を誘拐し、決められた手順通りに火葬した後、郊外に建てた墓へと埋めることを企んでいた。
もし不卜廬の白朮の助けがなかったら、その企みは本当に成功していただろう。
白朮が駆けつけた時、七七は既に袋の中に詰められ、小さな頭だけがはみ出た状態で焼却用の穴を掘る胡桃を不思議そうに見つめていた。
その一件の後、胡桃は七七に謝罪の手紙を書く。だが、それは自分の手際が悪かったことで、七七を安らかに埋めることができなかったことを真剣に謝る内容だった。
胡桃からすると、七七は俗世に囚われ苦難を患ったものであり、あの世へ逝くべき存在なのだ。
白朮は七七と知り合った後、不老不死への欲求がより強まった。この様な生と死の戒律に逆らう考え方に対し、胡桃は強く異論を唱えている。
七七を埋葬することは七七自身のためだけでなく、陰と陽のバランスを保つためでもあるのだ。
しかし、七七は断固としてそれを拒絶する。何故なら七七は死を恐れ、胡桃を嫌っているから。
この様なやり取りが長いこと続き、七七はついに学習した――胡桃に捕まらないために、いつどこに隠れるべきかを。
恐らく、この様な生への執着が胡桃の心へと刺さったのだろう、彼女は七七の過去を調べ始めた。
予期せぬ事故、仙家のからくり…これらの偶然は胡桃を悩ませた。
七七がそんなに生きていたいのならば、強引に埋葬すべきではないと思った。
それ以来、胡桃の七七に対する態度は大きく変わった。いつもは見つけ次第さらっていたが、あれこれ尋ねる様になった。
ただ残念なことに、七七の心の中での胡桃はすでに疫病神となっている。七七の気持ちを取り戻すのに、あと何年かかることやら。
キャラクターストーリー5
胡桃の名を知らしめているのは、堂主としての身分ではなく、もう一つの才能――詩の創作によるものの方が大きい。
彼女は「路地裏の漆黒詩人」と自称し、歩けばすぐに詩を思いつく才能を持つ。
『ヒルチャー夢』は胡桃の最も有名な作品だ。港の住民に愛されるだけでなく、軽策荘の子供も歌っている。
愛好家や評論家は、このシンプルで奥深い作品に感銘を受け、この詩人の作品を探すため万文集舎に足を運んだ。しかし、残念ながら胡桃の詩集『璃月雑談』と『薪米油塩』はまだ発刊されていない。
いつも本屋に入り浸っている行秋も、どの様な人物か興味を持ち、わざわざ手土産を持って彼女を訪ねたことがある。
二人は往生堂の中庭で即興で詩をそらんじ、切磋琢磨した。行秋の伝統に則った整然とした句に対し、胡桃は常に奇抜な発想と奇妙な言葉で返す。
乱雑に見えるが実は奥が深く、心地の良い音律を持ち、理解しやすく口にもしやすい、平凡な詩よりも実に巧みであった。
胡桃の詩は驚きの連続であり、行秋は笑いながら負けを認めた。
対決は仲睦まじく終了し、二人は詩を通じた友達となった。
詩を矜じ合う内に、重雲までもが審査員として引っ張られてきた。3人の笑い声は秋の日の紅葉のように、町中に広がったという。
対決中に創られた詩は、傍聴者によって記録されている。
もし町で上の句が真面目で、下の句が洒落の効いた詩が聞こえてきたら、きっとそれは行秋と胡桃が創り出したものに違いない。
乾坤泰卦帽
帽子の材質は硬く、正面には往生堂の紋章があしらわれている。
これは第七十五代目堂主から胡桃へと受け継がれた帽子だ。しかし、その堂主はガタイが良く、頭は胡桃より二回り以上大きかった。
そのため、胡桃は一日がかりで手直しし、自分に合ったサイズに調整している。「この帽子は法力を持っていて、邪気を払い、平和を守護するものなの!」と、胡桃はよく口にする。
葬儀屋の従業員たちはそれを聞く度に一笑に付すのだが、彼女が帽子に対して抱く愛情は誰もが知っていた。
雨と風が激しい夜、体が汚れようとも帽子だけは守るのだ。
なお、帽子に付いている梅の花は、胡桃が自ら植えた梅の木から摘んだものである。
作り方は――花を乾燥させた後、色料と油を筆で丁寧に塗り、3日間日光に当てて干す。精巧な装飾品となった梅の木は、手触りが良く、ほのかな香りがある。
神の目
胡桃の神の目について、それを知るにはまず彼女のお爺さんの葬儀が行われた時の話をしなければならない。
葬儀の十日前、胡桃のお爺さんは病により他界した。この第七十五代目堂主のため、往生堂は遺言をもとに盛大な葬儀を準備した。全体の指揮を執ったのは当時13歳の胡桃。まだ堂主になっていない幼い胡桃だったが、一人であらゆる仕事をこなし、葬儀屋の従業員たちを感服させた。
葬儀が終わった後、胡桃は荷物を背負い、夜闇に乗じてこっそりと外へ出た。非常食と水、そして照明器具しか持たずに向かった先は、世にも奇妙な場所。
無妄の丘のずっと先にある「境界」だった。そこは往生堂の先祖が代々管理してきた秘密の地であり、生と死の境界線である。話によると、そこに行けば亡くなった親族やこの世に未練を残す魂と会えるらしい。胡桃がここに来た理由も、お爺さんが遠くへ行ってしまう前に、もう一度会いたかったからである。
丸二日掛けて「境界」に辿り着いた胡桃だったが、お爺さんに会うことは出来なかった。ここには彷徨う魂が数え切れないほどあるが、そのどれもがお爺さんとは似ても似つかない。
一日中待ち続けたが、胡桃はとうとう疲れ果てて寝てしまった。胡桃が再び目を覚ました時、既に真夜中となっていた。周囲には数体の魂がうろつき、胡桃を嘲笑う。
「バカな娘だな、胡じいがここにいるわけないだろ。こんな所まで探しに来るとは、さては正気を失ったか?」
胡桃は無視して待ち続けた。それから何日経ったのか…非常食と水が底を尽きかけても、胡桃のお爺さんは現れなかった。しかし、代わりに老婦人が目の前に現れる。
小柄な老婦人は疲れ果てた胡桃を見て笑った。「その頑固な性格は胡じいとそっくりじゃな。残念じゃが、歴代の往生堂堂主は決してこんな所で止まったりはせんよ。彼らは堂々と生き、堂々と悔いなく去るのじゃ。じゃから帰れ、お前がいるべき場所へ。」
不思議な老婦人は胡桃に別れを告げると、境界の深部へと去っていった。胡桃は遠くへ離れていく背中を見て、なんとなく理解をした。
お爺さんはすでに境界を越え、正しき場所へ向かったのだと。堂々とした悔いのない人生だったんだ、だから私も堂々と受け入れるべきだと、彼女は思った。
そう納得した彼女はふいに笑みをこぼし、帰路につくことにした。ここに来た時は月光に照らされていた道も、今は早朝の日差しに輝いている。お爺さんがいつも言ってたことを思い出した。「生を大切に、死を恐れずに。思いに従い、最善を尽くす。」
昼頃に家に着くと、胡桃は裏庭を通って寝室に入り、荷物を片付けた。
すると空っぽだったはずの袋の中に、眩しく輝く「神の目」が入っていた。
「境界」に足を踏み入れた果敢で珍しい人間として、胡桃はどこかの神の心を掴んだのかもしれない。
彼女は高天の贈り物を得た…計り知れないほど強大な力の証だ。
フリーナ
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キャラクター詳細
勢い盛んな「エピクレシス歌劇場」に足を踏み入れなければ、この地の神がなぜ「大スター」の名を冠しているのか、異国の旅人には理解できないかもしれない。
演劇だろうが審判だろうが、彼女はいつも時間どおりに観客たちの上にある専用席に現れては、笑ったり怒ったり、大きな声を上げて興奮したりして、人々にステージで繰り広げられる演目よりも深い印象を残している。
人々は新鮮で満ち足りた体験を得ようとチケットを買い求めるため、その点においてフリーナは絶対公正のヌヴィレットよりも好感が持てる。
尊敬の仕方とは、対象を仰ぎ見るだけではない。フォンテーヌの民がフリーナに抱く尊敬の念には独特なスタイルがあると言えるし、もしくは「好き」という一言で表したほうが正確とも言える。
彼女は完璧でもないし、強いわけでもないかもしれないが、ステージ上では最も信頼のおける存在だ。なぜなら、一度も人々を失望させたことがないのだから。
フォンテーヌの文学界で流行っている一つのたとえに、「フリーナは、無数の人々の心の中で決して色褪せない青春の思い出のよう」というものがある。青春が常にあることを望まない人はいないだろう。
――青春が過ぎ去っても、彼女は永遠にそこにいて、ステージのスポットライトを追えば見ることができる。
キャラクターストーリー1
「エピクレシス歌劇場」の象徴的シンボルとして、フリーナは審判のすべての過程において自由な発言権を有する。
彼女の質問は好奇心によるものが多く、よく事件と論理的な関係がほとんどない質問をしては観衆たちをどっと笑わせることがある。
しかし観客たちは、彼女には事件の全貌を理解する能力などなく、ただ自分の存在をアピールするために冗談めいたことを言っているだけじゃないのか?と疑問を抱く。だが、そのたびフリーナは非常に的を射た意見を投げかけるのだ。
もちろん、ロに合わないスイーツを食べたとか、パレードを見逃したとかの理由で事件にまったく興味が湧かないこともあるが、負け惜しみばかりを口にする神もまた面白いので、その場に居合わせた観衆たちは全員満足するという。
しかし、そんなフリーナが好き放題に振る舞うのをやめる時がある。それは、彼女が歌劇の役者としてステージに上がる時だ。
フォンテーヌには昔から現在に至るまで数多くの著名な歌劇作品が伝わっており、不定期に「エピクレシス歌劇場」で上演される。重要な役柄はいつもその時に最も人気のある役者が演じることになる。
公演の前には抽選のような一幕が存在する――劇団がフリーナに招待状を送り、その日機嫌が良ければ彼女が招待に応じ、人と神が共演する舞台を作り上げるのである。
ひとたび招待に成功すると公演当日はフォンテーヌの祝日となる。「エピクレシス歌劇場」の立ち見席チケットが完売しても、まだ観衆の熱意を満たすには程遠い。
音楽が始まり神がステージに登ると、人々の目に映るのはもう先ほどまでの好き放題に振る舞う可愛らしい神様ではなく、脚本に書かれた人物そのものとなる。
威風堂々、勇猛果敢、あるいは陰険狡猾で貪欲で謎を秘めたフリーナの一挙手ー投足は、程よく、そして完全無欠であり、まるでこのステージのために生まれてきたかのようだ。
こうした素晴らしい演技を何度も見せてくれる彼女こそ、フォンテーヌの人たちから「大スター」と呼ばれるにふさわしいと言えるだろう。
苦労して劇場内に入り込んだスチームバード新聞の有名な記者はそれを見るなり心を奪われ、しばらくしてようやく記事にインタビューを盛り込むことを思い出した。
「あなたが練習しているところを見たことがないのですが、神であるあなたはなぜそんなに演技がお上手なのでしようか?」
するとフリーナからは、ことのほかシンプルで傲慢な答えが返ってきた「だって僕は神だからね。はい、次の質問!」
キャラクターストーリー2
フリーナの時間は大半が事件や公演に費やされているが、これらニつがたとえ無くとも、彼女は色々な外交や政務の応対の場に姿を見せる。
もちろん彼女の仕事は通常、表に立って応対するのみに限られており、裏での実際の職務、応対場面での重要な発言に関してはすべて他の人が受け持っている。
これらの仕事を代わってくれる人に対し、フリーナは深く感謝している――なぜなら、他国の神は常に大小様々なことで悩みが尽きないと聞いており、現在の生活がとても得難いものであることを理解しているからだ。
また、彼女は神として模範を示すべきだと考え、手が空いているときにはパレ・メルモニアの実際の業務に加わろうとしたことがある。
…だが結果は、毎回必す人間やメリュジーヌに遠回しに断られた。その理由は「今は神に任せられる重要な仕事がない」というものだった。
それを聞いて最初は嬉しがっていたが、回数を重ねるうちに彼女もパレ・メルモニアの仕事で退屈しのぎをするのは叶わないことだと気づいた。また、フリーナには小動物と戯れるという、大半の人が知らない趣味があった。
フォンテーヌの透き通った広大な水域、美しい風景、可愛らしい精霊も数多くいる。いつも人間を相手にしていた彼女にとって、気分転換にちょうどよかった。
ただ、動物たちの習性はみな異なるため、フリーナの気ままな性格が動物たちの逆鱗に触れてしまうこともあった。
たとえばボウシクラゲが噴き出す泡を顔面から浴びたり、狩猟刀エイに追いかけ回されたり…
ある意味、水中の世界は陸上よりも原始的で野蛮である。何と言ってもここの住人たちは相手が神だからといって気を使うことはないのだ。
しかし月日が経って、フリーナは最も親しく触れ合える動物を見つけた――それは砂浜に寝そべって日光浴をするプクプク獣である。
顔をつついてもお腹を撫でても、さらにはごろごろと転がしてみても何の反応も示さず、せいぜいこちらを向いて無言の抗議をするくらい。
「どうだい?こういうのが好きなのか?フフッ、僕もだ!」
――ちょっとしたミスコミュニケーションもあるが、今では仲良しである。
キャラクターストーリー3
フリーナはよく、いつも思いつきばかりでルールを守らないという印象を他人に与えがちだが、公演の前後などの特殊な状況では厳格な基準を持っている。
例えば、道具の作りや配色、照明のオンオフのタイミング、音楽の開始タイミングやリズムなど、すべて彼女が納得いくまで調整する。
そのため、神との共演は容易いものではなく、かなりの心血を注ぐ必要があり、人々もこのフォンテーヌの「大スター」に仕えるのに苦労している。大物気取りをするのが好きだという噂まであるほどだった。
かつて著名な劇団がフリーナと共演する機会を得たが、彼女の要求を満たすことが難しかったため彼らは承諾したふりをしておき、実際の稽古や公演準備では当初の慣れた方法で対応しようとしていた。
劇団長はこれに対してあらかじめ勝算があり、フリーナの性格を考慮して既成事実を作って上手い話でもしておけば、彼女の要求水準を下げることができ、多くの厄介事を省けると考えていた。
だがその結果、劇団メンバーが公演用の道具を「エピクレシス歌劇場」まで苦労して運んでいるときに、ステージ上のフリーナがまったく別の劇団に設営作業を指揮しているのを目撃した。
「ああ、だってキミたちが僕の意見にちっとも耳を貸さないから、別の劇団と公演をやることにしたんだ。」
劇団長は少しあっけにとられた。彼の計画によれば、フリーナは設営が完了して初めて「問題点」に気づくことになっていたのだ。
しかし、すでに準備が完了している箘所から判断すると、彼女の指示に厳格に従った劇団の舞台効果は確かに優れていた。一般の観客には見分けがつかないが、プロの視点から見れば公演内容の優劣は細かい点において一目瞭然であった。
だが劇団長もここで引き下がるのを良しとせず、フリーナが契約の精神に欠けており、代替案があったのに事前に彼らに伝えなかったことを非難した。
当然フリーナは、この悪人が先に訴えることで流れを掴もうとする行為を容認できず、信じられないというような表情をして大きな声で言い返した。
「まさか、僕が簡単に騙される馬鹿だとでも思ったのかい?誰か、彼らをここからつまみ出してくれ!」
キャラクターストーリー4
長い公演とは輪廻のようなもので、カーテンコールの日は遥か遠く、予言の危機が続いている限りこの神の物語も続いていく。
フォンテーヌの人々は長い間フリーナの正体を疑わなかったが、ほんの小さな亀裂から信頼は崩壊する。一度それが始まれば、取り返しがつかないことを彼女は知っていた。
暴かれることで負う代償は彼女にとって受け入れられないものである。長年積み重ねてきた努力が無駄になり、フォンテーヌという国も存在しなくなってしまう。
そこで彼女は喜ぶべき時は思い切り笑い、悲しむべき時は激しく泣き、自慢すべき時は神の地位をはっきり誇張しようと努力して、一瞬たりとも気を緩めなかった。
フリーナはこれが一種のパフォーマンスであり、危機が去るその時まで貫き通せば、仮面を脱ぎ捨てて感情を表現する自由を得られるのだと理解していた。
しかし彼女はだんだんと、自分が演じてきた神としての立ち振る舞いが、彼女自身を蝕み始めていることに気づいた。
フリーナの心の中に恐ろしい困惑が生じた。もし喜ぶべき時に笑わなかったら、どんな反応をすればいいのだろう?
もしかしたら、彼女はもともと笑うのがあまり好きではなく、ちょっとした挫折で自暴自棄になってしまう女の子なのかもしれない。しかし、そんな感情は次第に薄れていった。
舞台芸術家はいつも、ある人物を完璧に演じたいなら、まずはその人物になる方法を考えろと言う。
その観点からするとフリーナが演じる水神は非の打ち所がなく、彼女が歯を食いしばって切望の末に得た結果であった。だが人々にとってステージはほんの一瞬の出来事に過ぎないため、公演が終わった後のことについては誰も触れたことがない。
フリーナはあまりにも長いこと演じすぎて、元に戻る道さえも砂埃の中に埋もれてはっきりと見えなくなってしまった。
キャラクターストーリー5
原罪の危機はついに終息し、フォンテーヌに新たな秩序が形成された。影響を受けた地域も徐々に復興が進み、人々には未来に対する前向きな期待が生まれた。
だが唯一、フリーナだけが新たな世界のどこにも含まれていない。彼女はすぐにパレ・メルモニアを去り、「エピクレシス歌劇場」に姿を現すこともなくなった。
彼女はただ一刻も早く辛い記憶から離れたかっただけであり、その後人々が彼女について論争を繰り広げることなど気にしたくもなかった水神――の物語はここで幕を閉じるべきなのだ。
しかし、責務を完全に果たした役者がどの方向に進むべきかなど、誰も答えを示すことはできず、「自由」はその時点でも漠然とした概念に過ぎなかった。
フリーナの荷物は新しく借りた部屋の隅に積まれたままで、片付ける気力も起きない。ただベッドに横たわり、がらんとした天井を見つめていた。
彼女の知る人々は、新たなルールの下ですぐに身の置き所を見つけた――カや責任、友情などから彼らの重要性は替えがきかないものであった。
しかし、そんな状況の中で「自由」を手に入れた人は、言い換えれば誰にも必要とされていないということではないだろうか?
そう思い至った頃、彼女の部屋に初めての訪問者であり思いがけない相手――決闘代理人のクロリンデがやってきた。
クロリンデはフリーナの今の居住環境に驚きつつ、すぐに彼女のために費用を負担してもっといい部屋を用意したいと申し出た。フリーナはあの手この手でようやく彼女の申し出を諦めさせたが、彼女も絶対に引き下がらないつもりのようで、仕方なく部屋と荷物を片付けることにした。
その後、クロリンデはここに来た理由を明かした。普段、彼女は他人と社交的な集まりに参加することはほとんどない。だが、その夜は珍しく何人かの旧友に会うことになっていた。その友人がたまたまフリーナと知り合いであり、しばらくフリーナに会っていなかったため誘いに来たのだという。
以前なら、フリーナは間違いなくそのような誘いを断っただろう。彼女が自分の正体を隠し通すには、誰とも親密に関わるべきではなかったからだ。
フリーナが少しびくびくしながら顔を上げると、クロリンデは少し微笑む。フリーナがかつてどう思っていたのか、とっくに理解していたかのように彼女の心の内をずばり言い当てた。
「どうでしょう、もう今は断る理由もなくなったのではありませんか?」
「僕は…そういうのは得意じゃないんだ。つまり…キミらを興ざめさせてしまうんじゃないか?」
その夜、フリーナは初めて友人と酒を酌み交わすとはどういう感じなのかを体験した。最初は少しぎこちなかったが、酒が二杯進むと彼女の正体が露わになった。クロリンデがすぐに彼女を止めていなかったら、フリーナはテーブルに飛び乗っていただろう。
――あまりおしゃべりが好きでないクロリンデにとって、化けの皮がはがれたフリーナにここまでの破壊力があるとは思いもしなかった。
その時のフリーナには、まだ今後の方向性など何も分からなかったかもしれない。だが少なくとも「自由」とは、もう孤独ではないということを知っている。
サロン・ソリティア
フリーナはかって、フォンテーヌの図書館で人気のない本を読んだ。物語の主人公は、荘厳で華麗な邸宅で働く侍従。
天真爛漫な少女クラバレッタは新聞紙面に載っていた広告を見て、深い山奧にある邸宅での仕事に応募した。少し鈍い一面もあったが、彼女はそこのメイドとして雇われた。
邸宅の主人はめったに姿を見せず、ロ数の多い夫人と礼儀作法を重んじる勲功爵が代わって管理を行っており、少女はここでの日々を厳しい束縛もなく自由に過ごしていた。
ここで働く人々は長いこと街に下りていないらしく、メイドは彼らに最新の歌劇を歌って聴かせたり、最近流行のボードゲームの遊び方を教えたりして、すぐに親しくなって打ち解けた。
ただ、その邸宅にはある絶対のルールがあった――地下三階に続く重い木の扉の向こうは主人だけが知る秘密が封印されているため、誰も近づいてはならないというものだ。
メイドはその秘密を知りたいとも思ったが、ここでの素晴らしい生活のほうが大事だった。そうしてゆっくりと時は流れた。ある日のこと、勲功爵からもうすぐ主人が訪れると聞き、侍従たちは慌ただしく準備を始めた。
祭りのように賑やかなパーティーが行われ、楽しそうな笑い声が邸宅を包みこんだ翌日、主人が一向に現れないのでメイドが見にいくと、なんとそこには冷たくなった主人の死体があった。警察隊は、容疑者が侍従たちの中にいると目星をつける。ひどく気を揉んだメイドは主人の死が邸宅の秘密と関係があると考え、ついに禁じられた扉を開くことを決心した。
ところが扉は邸宅のホールに面しており、中央階段の前に立っているのは彼女のよく見知った夫人。すると、夫人は奇異な質問を投げかけてきた。
「あなたが今日応募してきたクラバレッタかしら?」
フリーナに衝撃が走った。この場面が、彼女の記憶の中にある似たような経験と共鳴したかのようだった。
フリーナはメイドや侍従たちの幸せな日常生活が羨ましく、また彼女がその暮らしを守るために秘密に立ち向かった勇気に感心した。
その後、フリーナの夢の中に同じ邸宅が出てきた。自分はクラバレッタであった。息を切らしながら秘密の扉に駆け寄り、深呼吸してから扉を押す。
扉の向こうからは激しい海水が流れ込み、邸宅は一瞬のうちに水没して警察隊だけでなく夫人や勲功爵、そして自分自身も跡形もなく溶けてしまった。
フリーナはそこで目が覚め、周りを見回してから心を落ち着かせた。彼女は、この本の後のストーリーを思い出さずにはいられなかった――
クラバレッタが扉を開いたことで引き起こされたタイムループ、それにより主人の死の謎、そして邸宅の秘密を解き明かし、ここにいるすべての住人のために古の呪いを解いたのだ。
「ありがとう、クラバレッタ。」
――彼女は、この物語に良い結末をもたらした勇猛果敢な少女に心から感謝した。
そして、物語の中で生き生きと描かれたいくつかの人物のイメージは、最終的に可愛らしい姿で想像されて誕生し、フリーナのそばに寄り添っている。
神の目
「人として生きるというのは、秘密を隠し、苦痛を味わい、孤独とともに歩むこと。それでも君は、それを望むの?」
偶然の巡り合わせによって、頓挫していたミュージカル「水の娘」がついに工ピクレシス歌劇場で披露される機会を得て、公演は大成功を収めた。
フリーナが代わって演じたヒロインのコリオは、人間が生きるために必要な淡水を取り戻すために自らを犠牲にすることを決め、その意志によって水を元の流れに導き戻した。
台本の筋書きによれば、彼女は消失する直前に空から降ってくる神の目を手に入れるはずだったが、それに手を伸ばさず神の目の意に任せて孤独に海底に落ちていく。
しかし公演の本番中、なんとフリーナに本物の神の目が出現した。
神の目とは人間たちの最も強い願いに応える形で現れるものだが、この神の目は彼女の過去に対する称賛のようなものであった。
フリーナは神の目を手にした。そこから発せられる輝きはまるで、今回の公演によって再び満たされた自分の心のようであった。
演劇という行為は彼女に多くの苦痛をもたらし、もう再び舞台に上がりたくないとさえ思わせたが、このステージの輝きと素晴らしさを最も理解しているのは間違いなく彼女であり、舞台上で夢を追う人々を導いて応援できるのも自分だと思った。
これから自分は何をすべきか…ずっと悩んできたこの問題に決着がついた彼女は、明確な答えを見つけ出した。
――観客の視点からこの世界を見つめ直し、最高の演劇を作り出すことである。
彼女の視線は歌劇だけに留まらず、演劇と関係のあることならすべて興味を持って裏方としてそこに加わった。
中でも注目に値するのは、「水の娘」の公演が終わったあと、神の目を手にしたフリーナはとても落ち着いており、美辞をよく口にしていたこと。劇団を去ってからすぐに、彼女はかつて逆鱗に触れてしまった「地方伝説」を探し出し、雪辱を果たそうと目論んだ。だがその結果、かなりの苦労をすることになった。
失敗に終わっても諦めず、夜自分の部屋で神の目を研究していると、今度は建物全体を水浸しにしてしまうという問題を起こした。
サロンメンバーと一緒に何とか被害に遭った建物を片付けたとき、彼女は物件の管理人から最後通牒を受け取った――
「たとえそれが勲功爵や夫人であっても、当物件ではペットの飼育を固く禁じます。」
フレミネ
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キャラクター詳細
初めてフォンテーヌに訪れた観光客であろうと、お宝の伝説に密かに興味を抱く冒険者であろうと、美しく輝く水中世界は常に無限の魅力をもたらしてくれる。だが一般人からすると、厳しい訓練や入念な準備もなしに水中へ潜 ることは命を危険にさらすことに他ならない。水中の暗流、身体状況の急激な異変、また水の闇に潜む魔物…危険は前触れもなく突然現れるため、プロの潜水士の助けを借りることは往々にして賢明な選択と言えるだろう。
一番優秀な潜水士は誰かと人々に聞けば、ほとんどの人が「フレミネ」の名前を挙げる。太陽の光と波に洗われてすっかり小麦色に焼けたベテランですらも、その少年の腕前については話が尽きない。彼はフォンテーヌの複雑な水の流れを熟知しているだけでなく、様々な水域や季節ごとの潜水技術を身につけており、呼吸の深さを変えて自身の状態を調節することにも長けている。さらには、誰も行きたがらない海底洞窟さえも、自由自在に行き来できるという…
それを聞いた多くの人たちは機に乗じて依頼を出すが、報酬の提示額がどんなに高くとも、彼は首を横に振り、おまけに残念そうなため息をもらす。
「あいつはいつも依頼を受けてくれない*だよ…優しいんだけど、内気すぎるんだよな。」
話はいつもここで終わる。
フレミネにとって、人々の賞賛の言葉は天気のように変わりやすく、一人一人の意図を推測するのはどうにも苦手なことであった。ほんの一瞬のミスで、評価がひっくり返ったらどうしようと恐れているのだ。
逆にタイダルガやロマリタイムフラワーのような植物のほうが、彼にとっては昔からの友達であり、海に浮かぶ名声や報酬なんかよりもずっと重要な存在である。彼は水の中に潜るたび「昔からの友達」たちと密かに静かな時を過ごし、その沈黙の中で心の恐怖や不安を捨てて、人には言えない思いをすべて打ち明ける。
初めて水中に潜ったきっかけも、至ってシンプルなものであった。「水の中にいれば、雑音を遠ざけ、陸の上で起きるすべてのことから離れられるんだ。」
キャラクターストーリー1
「神の目」をまだ手にしていなかった頃から、すでにフレミネはダイビング用のヘルメットをかぶり、ペンギンのように水域の中を自由自在に泳ぎ回っていた。
フレミネは小さい頃から人と話すのが得意ではなく、嫌なことがあるといつも深い海の底に飛び込み、不安や悶々とした気持ちを陸の上に置いてきた。時が経つにつれ、静かな海底は彼が身を落ち着ける「ゆりかご」になっていった。樹木の年輪が外に向かって広がり続けるように、その海底探検も年々と円を描くように広がった。彼は全身で海流を感じ取り、呼吸をするたびに海水と親しくなっていった。そうして、彼は新しい家の周りにある道を覚えていくように、フォンテーヌの水の流れや状態といった特性を頭の中に刻み込んだ――フレミネにとって、それは後者のほうがずっと楽しいことであった。後に彼は一番のお気に入りの場所を発見し、そこに小さな水中の秘密基地を作って、内に沈んだ感情をルエトワールと同じような色の光にして輝かせた。
それ以来、解決できない問題に直面すると、フレミネはそのすべてを包み込んでくれる広大で深い紺碧に包まれた、自分だけの避難場所にこもるようになった。
自由、静寂、安心感、心地よさ…もしフレミネの水中世界に対する評価を他の人が聞いたら、ほとんどの人が眉をひそめるだろう。
しかし、フレミネが他人とその気持ちを共有することはない。なぜなら、そこは彼だけの場所だからだ。その想いは、彼の心の内に秘められたままである――深海に眠る宝物のように。
キャラクターストーリー2
傍から見ると、フレミネは存在感が薄く、性格が悲観的と言えるくらい冷淡な少年だ。いつも独りで音もなく行動し、同年代の子たちともまったく打ち解ける様子がない。あの誰もが注目する大魔術師リネの弟であるフレミネの存在は、じきに忘れ去られる古びた首飾りのように「陰り」を帯びていた。 だが、彼自身はそんなことをまったく気にしていないようだ。
ずっと前から、フレミネは余計な感情を削ぎ落とし、外からの圧力に揺らいだり、自分の心が影響を受けたりしないよう努めてきた。
自分の周りに「氷のブロック」をどんどん積み上げ、そのキラキラと透き通る小屋の中にうずくまり、膝を抱えておとぎ話の本にわずかな慰めを求めた。
彼にとって、海に潜ることが一時の安らぎを求めるものなら、氷の壁を築き上げることはしばしの温もりを得るための行為だ。
フレミネの心に築かれた氷の小屋には、ほんの一握りの「家族」だけが招待される。ただ、それでも事前に部屋はきれいに片付けられ、おとぎ話の本にはしっかりと鍵がかけられた。
外出ともなれば、彼は精密で物言わぬクロックワーク人形のようになった。
彼は、かつて危険も顧みずに波の上で仰向けになったことがある。紫金オオズグロカモメたちがその上で歌い始めたが、幸いにも彼らがフレミネを魚と勘違いすることはなく、飲み込まれはしなかった。
波に身を任せて漂うのは、とても簡単なことだと思った。
相手が誰であろうと、どんな要求が出されようと相手の命令を従順に聞き入れ、何の疑いも持たず、結果がどうなろうとも実行に移し――それを漁の成果のように持ち帰る。そうしていれば、叱責や罰を受けることはない。
普通の家の子供たちが元気に走り回って最新のクロックワーク玩具を自慢したり、 「スチームバード」の話し方を真似したりしている間に、フレミネの心は次第に麻痺していった。「命令」が彼の心の空洞を満たし、彼が背負う「ゼンマイ」となったのだ。
いっそのこと、本当に冷たくて残酷な機械になってしまえば、任務のこと以外は何も考えなくていいのに…と考えたことさえあった。しかし成長するにつれ、自分の心が脆いことを自覚していった。本当は感情を削ぎ落としてしまいたいのに、手放せない感情があまりに多すぎる…深夜になると、それらが突然水草のように纏わりつくのだ。彼は今でも難しい問題を避けるクセがあり、任務が失敗するんじゃないか、 自信のなさが他人を不快にさせるんじゃないかと常に恐れている。他人――とりわけ大事な人たちを失望させたくないのだ…
彼は優秀な子供ではないが、成長の途中であまりに繊細になりすぎてしまった。
分厚い殻に閉じこもり、気持ちを伝えることにますます臆病になり、ただただ海の中で砂を吐くだけになっている。
キャラクターストーリー3
フレミネは、フォンテーヌ廷の「サーンドル河」地区で生まれた。窓の外から聞こえる隣人の怒鳴り声が彼の目覚ましで、夜に酔っ払いが口ずさむ歌が彼の子守唄だった。
フレミネは自分の父親の顔を知らない。母親の口からは、ただ借金をたくさん作ってしまったのだと聞かされていた。その数字が理解できる概念を超えていたため、幼いフレミネにとってそれはパレ・メルモニアの晩餐と同じくらい想像もつかないものだった。ただ母親が毎朝早くに家を出て、遅くに帰ってくるのはそのせいだということは彼にも理解できた。
独りで家にいるとき、フレミネは静かに室内にある壊れたランプや掛け時計などの数少ない機械をいじって遊んだ。
これらは彼が物心ついた頃からずっと家にあったという。まるで歩き疲れて休んでいる客人のようにも見えたが、動き出すことはなかった。そこでフレミネは自ら工具を探し出し、それらを一つ一つ慎重に分解していった。精密な機械の内部構造は、彼の目には不思議な迷宮のように映った。ここを回すとそっちが動く…ここを触ると何かが飛び出す…
機械の仕掛けをいじっていると、フレミネはまるでおとぎ話に出てくる魔法の薬を飲んだみたいに、体がそれらのパーツと同じ大きさになったような気がした。ギアやクロックワークの世界をさまよっていると、時が経つのも忘れてしまう。彼の孤独な日々は、それらの寡黙で楽しい友達との時間で満たされた。
ある日、母親が帰ってくると、何かの音を聞いて突然足を止めた。それは、フレミネが知らないうちに直していた時計の音。フレミネの横で「チクタク」と秒針が鳴り響き、生まれ変わったことを祝っていた。母親がフレミネの頭を撫でて褒めてあげると、彼はにっこりと喜んだ。翌朝、彼が目覚めると掛け時計は消えていた。母親は帰宅すると、普段は買ってこないようなパンを二つフレミネにあげた――その味は今でも覚えている。
それからというもの、母親は頻繁に壊れた機械を持って帰ってきた。ある時はクロックワーク玩具、ある時は小型の時計…フレミネはその新しい友達が大好きで、 彼らを眠りから目覚めさせるのに多くの時間を費やした…目覚めた翌日には、彼のそばからいなくなってしまったが…
あるとき、フレミネは帰ってきた母親に興奮して駆け寄り、持っていたものを手渡した。それは親指くらいの大きさで、精巧な作りをしたオルゴールのペンダント。母親がそれを道端で拾ったときは、ひどくボロボロでとても音楽が流れるようには見えなかった。
心地よいメロディーが二人の間に鳴り響く――フレミネの純真な顔を見つめた母は、めったに見せない笑顔を見せた。
このペンダントだけはフレミネのもとを去ることはなく、毎晩母親が彼の首元からそっと外し、二人に安眠のための曲を聞かせてくれた。
キャラクターストーリー4
ある日、母親がフレミネの手を引いて何も言わずに道を急いだ。母親の後ろを歩く幼いフレミネは、きつく握られた手が痛くなった。
「母さん、どこに行くの?」とそう聞いても、母親は何も答えない。
「母さん、どうして泣いてるの?」再びそう聞くと、母親は突然足を止めて嗚咽を漏らしたが、それもほんの一瞬だった。
その後、まるで冷たくて暗い海の底に飛び込む決意をしたかのように、深呼吸してフレミネの手を引いて歩き出した。母親は一滴の涙も流さなかったが、フレミネはこの静かで重苦しい感情の中に不吉な暗流があり、未来という暗礁に突き当たっているのを漠然と感じた。
フレミネは見知らぬ建物の扉の前に連れてこられた。耳障りな「ギィッ」という音と共に開かれる重厚な扉。この扉は、一度閉じたらもう二度と開かれない扉だと悟った。
相変わらず母親は何も言わないままで、その表情と心は底の見えない海に沈んでいた。
「あんたがフレミネだね?」と、扉の中から一人の女性が出てきて「ついてきて。」と言った。
フレミネはよく分からずに母親の顔を見たが、暗流がさらに激しく渦巻いていくのを感じた。
「院長」と名乗る女性はフレミネのもう一方の手を引き、扉の中へと引き入れようとした。
突然、母親の握る手が、道を急いでいたときよりも強く力んだ。どちらもフレミネの手を放そうとせず、彼は二つの異なる波に引っ張られる小舟のように自由を奪われてグラグラと揺れた。
すると母親はゆっくりとしゃがみ込み、フレミネの前で片膝立ちになった。それは、普段母親がフレミネを一人家に残していくときにする動作だ。「いい子にするのよ。」と母親は言って、いつものようにフレミネの額にキスをした。
この優しい言葉が鋭い岩礁の前に立ちはだかり、激しくうねる暗流をふいに穏やかな暖流に変えた。
なんだ、そうだったのか――フレミネはそのとき思った。もしかしたらいつもと同じで、ほんの短い間のお別れなのかもしれない。
彼は安心させるつもりで頷いた。
「院長」は再びフレミネを中に入れようとする。今度は母親も引き止めることなく、フレミネの腕をそっと放した…
フレミネはずっと、いい子にして言うことを聞いていれば、いつか母親が迎えに来てくれると思っていた。重い扉によって隔てられた母親の優しい顔は、きっといつか再び自分の前に現れる。そしたらぼくの前髪を持ち上げて、ご褒美に額にキスをしてくれるんだ――
でも、そんな日は訪れなかった。
「まだ事実が分かってないのか?あんたは借金返済のために売られたんだよ。」
フレミネは大きくなっていくにつれて、母親の行方と自分の運命について疑問を抱き始めた。勇気を出して院長に問うと、返ってきたのはあまりにも冷ややかな返答だった。
「あんたは捨てられた子。あんたが帰るべき唯一の場所はここなのさ。」「命令に従わなければ、母親はどうなっちまうだろうね…」――前院長の言葉はトゲの付いた足かせのようなもので、フレミネの希望を永遠に扉の中に閉じ込めてしまった。 この目に見えない束縛は、フレミネの身に劣等感を刻み込んだ。あの日々の中で、 彼の救いは深い海の底だけ…
冷たい海水が自分の身を圧迫すると、彼は母親をより身近に感じることができた。当時の母親の心も、こんな風に深い海の底に沈んでいたように見えたからだ。それはフレミネが潜ったことのあるどんな場所よりも冷たかった。
キャラクターストーリー5
前院長が「お父様」に代わった後、フレミネは母親の行方を探す考えを再び持ち始めた。
当初、彼は「お父様」が過激な手段を持っている以上、そんなことをすれば余計に残酷な嵐を巻き起こし、これまでと同じように無情な言葉で彼らに新たな命令を下すだろうと思っていた。しかしすぐに「お父様」のやり方は前院長と天地の差があることに気づいた。
「家」は子供たちにとって安らげる場所であり、全員が協力して守っていく必要がある。「任務」を達成する方法は自分で選択でき、仮に失敗しても以前ほど痛ましい罰は与えられなかった…
自由な空気によって、フレミネは呼吸が楽になり、余った時間を利用して母親の行方を探し始めた。
だが長い時間をかけても、母親の消息はつかめなかった。
もしかしたら、ぼくは本当に捨てられてしまったのかも…フレミネは記憶の中からもはや曖昧になった母親の顔を思い出し、現実を受け入れるよう自分に言い聞かせた。
フレミネが完全に諦めようとしていたとき、「お父様」 が突然彼にペンダントを手渡した。
「あのクズの拠点で見つけたものだ。とっておくといい。」と父親は言った。
フレミネは困惑した表情で彼女を見たが、かえって相手に疑問を持たせてしまった。
「どうした?高利貸しのクズのことだぞ。そして、これは君の母親の…」 彼女は眉をひそめ、何かに気づいたようだった。「フレミネ、母親のことだが…どう聞かされていた?」
フレミネは、自分は捨てられたと前院長に言われたことを伝えた。そのあいだ相手は何も言わなかったが、目には密かな怒りの炎が込み上がっていた。
「…真実を知りたいか?」フレミネの言葉を聞き終えると、彼女は珍しくしばらく黙り込んで、鋭い目つきでフレミネを見ながら言った。
フレミネは無意識のうちに頷いた。ただ聞き終わった後、自分が信じたいのはどちらの話なのか、よく分からなくなっていた。
「お父様」は、フレミネの母親は彼を捨てたのではなく、逆に守ったのだと語ったのだ…
あの当時、フレミネの家が背負った借金はついに返済不可能な額にまで達していた。すると貪欲な高利貸しは、フレミネと母親の家を差し押さえただけでなく、フレミネ自身を借金の返済に充てようとしたのだ。母親として、そのような所業を黙って見ていられるはずもない。結局、彼女に残された選択はただひとつ――フレミネを「あの孤児院」に預けて高利貸しを近づけないようにし、その代わり自分がすべてを受け入れるということだった。
「私が見つけたのはこれだけだ。君の母親はというと…」――目の前でペンダントを握りしめる少年を見て、「お父様」はそれ以上何も言わず、沈黙でその言葉の続きを補った。
フレミネは顔を上げようとしなかったが、「お父様」は彼の性格をよく知っていた。震えながら手にあるペンダントを見つめるフレミネを残し、静かに部屋を出たのであった。ペンダントはあちこち錆びだらけになり、音も出ない。クロックワークでさえも乾いた血痕によって深い褐色に染まっていた。母親は最後の瞬間も、きっとこれを握っていたんだろう。フレミネは、絶望に打ちひしがれながらペンダントからたとえ僅かであっても母親のぬくもりを探そうとした…
その夜、フレミネは海の底で泣きじゃくった。こんな風に泣いたのは久しぶりだ。大きな泣き声は海水の流れに埋もれ、彼のために一緒に涙を流すロマリタイムフラワーを除いて、誰もその泣き声を聞かなかっただろう。
それから彼は手に持つ巨大な剣をより強く握り締め、自分の「家族」を二度と不幸な目に遭わせないと密かに心に誓った。
「雪羽ガン童話集」
フレミネは小さい頃から童話が好きだった。
現実とは異なり、絵本の中の小さな世界はいつもカラフルで華やかなもの。キャンディで出来たお城、バブルオレンジの果汁が流れる川、言葉を話せる水晶蝶、赤カンムリガラとぬいぐるみが一番の友達だ…
両目を閉じて深呼吸してから本のページをめくると…フレミネはおとぎ話の世界の不思議な洞窟へと潜り、文字と想像力を頼りにその境界を拡げていった。
彼は途中に散らばった言葉、もしくは端っこにある小さな挿絵を拾い上げては、腕に抱えてじっくり考えた。数々の素材が色とりどりの光を反射させ、質感の異なる反響をいくつも届け、読むたびに新たな収穫をくれた。
……
彼が孤独を感じたときは、『ペンギンのペールス』が白黒の羽をばたつかせ、まんまるのお腹をスケートボード代わりにして氷の上をヒュッと滑って海に飛び込み、釣りで競争しようと誘っ てくれた。
彼に勇気がないときは、ピンクの長い髪をした『マルコット草の姫』が遠く窓越しに彼を見つめてくれた。お姫様がまだ種だった頃、カニのハサミに乗って海を渡り、理想の暮らしを求めて故郷を離れたことも知っていた…
彼が苦しんだり悩んだりしているときは、一緒に壮大な冒険に出てくれた『 ミスター・フォックスとクロックワーク警備ロボ』が彼の両隣にいてくれた。ミスター・フォックスの大きな尻尾でカーペットのほこりが舞い上がると警備ロボは鼻をムズムズさせたが、彼は顔色ひとつ変えずにまっすぐ立っていた。「試練はすべての人に訪れる。」と彼らは言う。「負けを認めるな、キミは強い子なんだ。」
……
少年と呼べるくらいの年頃になっても、フレミネはその世界を忘れようとしなかった。
彼は素敵なお話や本の中で知り合った友達の存在を信じている。
フレミネの心の中では、彼らは本当に夢や詩のような世界で暮らしているのだ。そこでは心配事も悩みも存在せず、一日中笑い声が響いている。そこではどんな願い事も叶い、正義は果たされる…
ただ、その世界は実際には触れられない――いや、もしくはしばしの間、触れられないだけなのかもしれない。
神の目
その日、フレミネと何人かの子供たちは水中任務を遂行していた。今までに何度も経験してきたものと同じで、当初はすべてが順調であった。
だが突然、フレミネはある異変に気づいた。
自分の弱さを理解している生物は、往々にして危険が潜む環境においても常に集中することができる。それはフレミネも同じであった。彼は自分自身を見つめて省みる方法を知っており、自分の「呼吸」にさえ敏感になることができる。この独特な感知能力により、暗闇の中で様々な危険を知らず知らずのうちに回避してきた。
フレミネは仲間たちに「緊急帰還」の合図を送った。原因はまだ分からないが、極度の緊張感が一歩先を行き、彼の心拍数を上昇させつづける。
子供たちはそれに応じて、フレミネの周りについて水面に浮上していく。
まだ神の視線を向けられていない普通の子供たちにとって、上昇する速度はゆるやかでなければならない。しかしそれと同時に、フレミネの胸騒ぎは耳をつんざき、巨大なモヤが彼の視界を覆った。それが巨大な魚の影なのか、気を失う兆候なのかは判断がつかない。
ダイビング器材の故障だ!フレミネはふいに気づいた。自分だけ?何人が影響を受けた?
必死に大きく目を開けようとしたが、為す術もなく意識は徐々に薄れていった。
だめだ、全員を連れて戻らないと。手足に力が入る限りは…
少し眠気を感じた。
感覚が鈍くなっていくのを感じる…このままじゃ海面に浮上できないかもしれない。
…いや、戻ったとして何になる?フレミネの脳内に突然、ある考えがよぎった。来る日も来る日も同じことの繰り返し、永遠に希望の見えない生活。
もう、疲れた。自分はもう十分長く耐えてきたと思った。
こんなにたくさんの「家族」はふさわしくなかったんだ。彼らとの間には温もりや感情のやり取りなどなく、この「家」の中ではただ髪の色や型番の異なるクロックワーク人形に過ぎなかったのだ。
はっきりとは分からないが、彼にとって「海の水」こそが帰るべき場所であると感じた。このまま永遠の眠りにつくのも悪くない…彼はゆっくりと目を閉じた。
すると突然、ある声に呼び覚まされた。「フレミネ、フレミネ…」――その声はゆっくりと、厳かに遠い世界の向こうから聞こえてきて、ちょっとだけ、どもっている。
ペールス?
フレミネは真っ白な場所に向かって両手を広げ、怪訝に思いながら両目を開いた。
水の底には「ペールス」という名前のペンギンはおらず、子供たちは全員失神している。
全員を救出しないと!フレミネは心の中で叫んだ。互いに心が通じ合わないからって何だというんだ?ぼくは家族を誰一人として見捨てない!この先、どんな暗礁にぶつかろうとも、命をかけられる勇気があってはじめて、暴雨が止んだ後の晴れ間を目にするチャンスは巡ってくる。
その瞬間、体に力がみなぎったように感じ、呼吸も楽になった。彼は急いで溺れた仲間たちのところへ泳いでいった…
暴風雨の中、彼は奇跡的に子供たち全員を救出した。まるでおとぎ話に出てくる「ペールス」と同じ英雄のようであった。
そのとき、彼は冷たく光る水晶のように透き通った「神の目」が、自分の潜水服にぶら下がっていることに初めて気づいた。
しかし、フレミネはこの出来事を誰にも話していない――英雄がその名を残すために英雄になるわけではないように。
ベネット
開く
キャラクター詳細
「ベニー冒険団」は冒険者協会モンド支部の一つの特例である。
「冒険団」というのは互いを支え合い、リスクの発生率を下げるために作られたシステムで、通常3から4名のメンバーがいる。
しかし、ベネットが団長を務める「ベニー冒険団」は長い間団長一人だけの状態を維持している。
団員減少の最大原因といえば、それは団長ベネットの「不運体質」である。
しかし、冒険に対して常に情熱あふれるベネットは、団員がいないことを寂しいと思っていない──
いや、心の片隅で、たまに1、2回くらいは思うことはあったかもしれない。
キャラクターストーリー1
冒険者ジャックは、かつての「ベニー冒険団」の最初の被害者である。
あの日、宝物まであと数歩という距離で、彼らは百年に一度発生するかどうかの岩元素乱流に巻き込まれ…一行と宝箱は深い溝で隔たれた。
「近いのに遠い…恋みたいだ。」
ジャックはそのアクシデントでかすり傷しか受けてなかったが、このことはまるで失恋のように、彼の冒険人生に大きな打撃を与えた。
団員ロイスは秘境探索中「よいしょっ」という声を聞いた直後、盛大に響き渡る音の中で意識を失った。
その後犯人のクレーは7日間も反省室に閉じ込められた。爆弾を投げた理由は冒険者たちが探索している秘境を大きいウサギの巣だと思ったかららしい。
ヘッケラーは「ベニー冒険団」に加入してから1週間も腹を下した。食中毒だと医者に言われたが、本人はかたくなに団長の不運体質のせいにしたという。
「あいつらはすぐに戻ってくるって…だから、ベニー冒険団の登録を削除しないでくれ…」
ベネットの頼みに対してキャサリンはため息をつき、団員たちはとうに辞めたという事実を告げないことにした。
キャラクターストーリー2
かつて攻略不可能とされる秘境があった。
ある年寄りの冒険者がこの秘境へ足を踏み入れた。
烈火に皮膚を焼かれ、雷鳴に鼓膜を刺され、狂風に魂が引き裂かれそうだった。
この地獄のような旅の終点で彼を待っていたのは、なんと赤子だった。
自分こそがこの「絶境」に足を踏み入れた最初の生き物だと、冒険者は思っていた。だからこそ、目の前の光景を理解できなかった。
「この赤ん坊は…世界に捨てられた子なのだろうな。」
ふと彼の頭に浮かんだ考え、それが真実なのだと彼は信じた。
伝説の武器や数え切れない程の黄金は手に入れられなかったが、老人の顔に落胆の表情が浮かぶことはなかった。
彼にとって目の前で必死に生きようとする赤子こそが「宝物」であったからだ。
「この冒険にはきっと意味があるのだろう」そう思いながら、老人は赤子を抱きしめた。
たとえそれが世界の意思に背くことだったとしても。
キャラクターストーリー3
老人はあの冒険を誰かに話す前に、「絶境」から救った子供を残して、この世を去った。
彼は亡くなる直前、「意志」「冒険」「終点の宝物」という言葉を残した。
冒険者協会モンド支部には、まだ妻子のいないベテラン冒険者が数人いた。
彼らはその子供をベネットと呼び、我が子のように育てた。幼い頃から物わかりのいいベネットも、彼らを「オヤジ」と呼んでいる。
「オヤジ、入れ歯が茶碗に入ってたよ」
「オヤジ、なんでまだそれ着てるんだよ?オレが買ったシャツは?」「雨の日はオレから離れたほうがいいぞオヤジ。雷が落ちてくるからな!」
今となっては、ベネットは冒険以外の時間を全て「オヤジたち」の世話に使っている。
「あいつらいい宝を拾ったな、ハハッ。」モンド支部長のサイリュスは笑いながら、ベネットの背中を叩いた。
自分は不運だけど、少なくとも愛する人たちに幸運をもたらすために頑張ろう――ベネットはそう思っている。
不運の冒険者ベネットは今日も「幸運」を象徴する宝物を探している。
キャラクターストーリー4
フィッシュルの眷属、鴉のオズはベネットのことを「世界で一番頑強な少年」と呼ぶ。
ベネットの体にある傷跡を見れば、彼が今までどれほどの不運を経験してきたかわかる。
怪物の襲撃、遺跡の崩壊、崖からの転落…どんな状況に遭遇しても、「不運経験」が十分にあるベネットはいつもすぐ対応策を思いつく。
大聖堂の祈祷牧師バーバラも、脱臼の応急処置に慣れているベネットには驚いたものだ。
不運がもたらしたもう一つの贈り物は「病的」な戦闘方法だった。
「あの子の動き…痛みを感じていないのか?」ベネットの戦い方を見た騎士団の大団長ファルカはそう思った。
痛みを感じないわけではないが、体はとうに痛みに慣れて、日常の一部となっている。
激しい痛みはベネットにとって、鼻にツンとくる匂いや眩しい光みたいなものだ。
だからこそ、人体の極限を超えた戦い方と何をも恐れない攻撃の動きは、冒険者べネットのトレードマークになったのだ。
キャラクターストーリー5
死ぬって一体何なんだろう?いつも死の瀬戸際にいるベネットは、考えずにはいられなかった。
自分を「拾った」冒険者の「オヤジ」が死んだ後でも、その冒険伝説が語り継がれていることをベネットは知っている。
妻子のいない冒険者の葬式には涙がなく、旧友たちの乾杯する音だけが響くことをベネットは知っている。
モンドの冒険者にとって最高の終わり方は、宝物や大地の秘密を追い求めた道の先でその身を捧げ、風神の手で魂を故郷へ連れていってもらう事だとべネットは知っている。
かつての彼は死を恐れていた。
しかし何度も考えた後、冒険者にとって死はむしろ幸運なことかもしれないとベネットは思うようになった。
――まあ、幸運はオレとは関係ないけどな。
「行こう!宝物を探しに!」そしてベネットはネガティブな考えをやめた。
絆創膏
骨折や出血が多い怪我をした時、ベネットは大聖堂に行って、祈祷牧師のバーバラに治療してもらう。
「またオレだ…わりぃな」と言いながら頭を掻くべネット。
バーバラはただ頭を横に振り、「擦り傷のところも手当してね」と、絆創膏を渡した。
このさりげない優しさがベネットにとってまるで宝物のようだった。彼は勲章をつけるように絆創膏を傷口につけ、バーバラに情熱的な感謝を述べた。
ベネットが冒険する時は、いつもポケットにたくさんの絆創膏を入れている。オヤジさんたちの、バーバラさんの、キャサリンさんの…または怪我した後に出会った冒険者たちからもらったもの。
小さな気遣いを集めて、ベネットだけの触れられる幸運に変わる。
「少なくともオレにはみんながいるから、不運も大したことないみたいだな」
神の目
ベネットの冒険の熱意を止められるものはない。
彼は「オヤジ」たちのように情熱的を持って探索し続け、挑戦し続け、冒険に人生の全てを捧げる。
だが、今回はベネットは本当の危機に直面した。
オヤジたちが若い頃にあったような絶体絶命の危機。
「この出血量は…ヤバいぞ。」
でもべネットは足を止めなかった、「このまま帰るわけにはいかない」彼はこう思った。
何故か分からないが、ベネットは過去に経験した全ての不幸が、この瞬間を突破するための試練だと思えた。
だが、地獄のような旅の終点で待っていたのは――何もなかった。
「収穫なしも冒険…の一部だからさ、き…気にすんな…」
強張った緊張感が弛緩した途端に、傷だらけのベネットは倒れた。
目を覚ました時、なぜか傷口がある不思議の炎に焼かれた気がした。出血が止まり、痛みも感じなかった。
一枚の温かい宝珠が彼の手のひらで、冒険者の心拍に合わせて脈打っていた。
それは世界の慈悲や運命の憐憫ではなく、彼の炎のような意志に相応しい「終点の宝物」だった。
放浪者
開く
キャラクター詳細
自己紹介など必要ない、なぜなら常人が彼のことを知る機会などないから。
人の世に踏み入る必要はない、なぜなら彼はとうに無駄な感情を捨てたと自認しているから。
幾度もの浮き沈みを経て、今の彼は自分のためだけに生きている。
「放浪者」は、彼が自身の立場を表現するのにもっとも適した言葉だーー故郷はなく、親族もおらず、目的地もない。
澄んだ風のようにこの世を生きて、俗世を歩むのだ。
キャラクターストーリー1
遥か昔のこと、彼の名はまだ放浪者ではなかった。彼にはいくつもの名があり、それぞれが特定の時期における身分を指していた。今となっては、それら数多の過去は人々に忘れ去られている。
人形、傾奇者、ファトゥス第六位「散兵」…
それぞれの名が運命の糸となり、人形の関節を縛っている。
思い返せば、それは数百年前のことーー生まれた時より涙を零せた人形は最後まで名を与えられず、証として小さな金の羽根だけを渡された。
彼は借景ノ館に保管され、日々虚しくも美しい景色を目に映しながら呆然と過ごした。紅い楓、精巧な花模様の連子…この華美な牢獄の中で彼は感覚を失った。
だが、桂木という名のお人好しの武士が仕事中にうっかり館に立ち入ったことで彼は救出された。桂木は彼をたたら砂まで連れて行き、そこの住民たちに彼のことを紹介した。
当時の彼は赤子のように無垢で、人々に対して好意や感謝の気持ちばかりを抱いていたという。桂木は一般人が身に付けるはずのない金の羽根を見て、彼が自分の出自を口にしないのにはそれなりの事情が必ずあるのだと察した。ゆえに意図的に借景ノ館のことは伏せ、名椎の浜を見回りしている途中でこの子を拾ったと嘘をついた。これについて、食い違いが生じないために口裏を合わせるよう桂木は彼に頼んだ。
多忙で賑やかなたたら砂での暮らしは、彼の生涯でもっとも幸せな記憶である。そこで彼はしばし人間となり、一般人となったのだ。
桂木、御輿長正、丹羽、宮崎を含め…他にも覚えられないほど多くのたたら砂の住民たちが彼に読み書きを教え、料理を教え、鍛造の技を教えた。そして、友として彼と接したのだ。
中にはこのような質問をする人さえいたーー「名前が欲しくないか?ここの皆がお前のことを傾奇者と呼んでいるだろう?」
ただ、彼はその呼び方が嫌いではなかった。
なぜなら傾奇者とは派手な服を着て、奇抜な行動を取る者を指すことが多いが、どんなに奇抜であってもそれは人であり、たたら砂の一員であることの証明になるからだ。
しかし、彼がこの名をどれほど気に入っていても、最後はそれを失うことを強いられた。彼が人間になるのを忌避した瞬間から、この名はその意味をなくしたのだ。
彼はそこを離れ、遠いスネージナヤへと渡ると、執行官たちの狂宴に参加した。そして、たゆまぬ努力により彼は第六位の地位を手に入れた。
女皇が彼に授けた新しい名、それはーー「散兵」。力、権力、紛争への欲望、彼にはそのすべてが揃った。
戦っている駒が動乱を起こし、舞台上の殺戮者が秩序を破壊する。そのとき彼は確信したーー散兵こそが自分の本当の名であることを。
キャラクターストーリー2
たたら砂がまだ栄えていた時代、放浪者は「傾奇者」の名でそこの住民たちと共に暮らしていた。
彼の平穏な暮らしに終止符を打った出来事は、稲妻の歴史においてさほど重大な事件ではない。
たたら砂の災難は、赤目家とフォンテーヌの機械職人であるエッシャーから始まった。鍛造技術をより一層高めるため、赤目はフォンテーヌの新技術を有するエッシャーと密接な協力関係を結び、彼を同じく「一心三作」である丹羽に紹介した。
エッシャーの到来は一時的にたたら砂の士気を大きく高めた。彼から提供された先端技術を用いて晶化骨髄を処理すると、効率と生産量が共に向上したのだ。
しかし時間が経つにつれ、たたら砂中央部の大きな炉に異常が生じる。炉の中に大量の黒いガスが溜まり、少しずつその不気味なガスが職人たちの身体状態に影響を与え始めた。本来、精錬や鍛造はたたら砂において生活するための手段であったが、最終的にそれが命を奪う原因となってしまったのだ。
死者の数は段々と増えていき、その大きな炉の制御はより困難なものとなっていった。中心区域へと近づける人はいなくなり、それを止めることさえもほぼ不可能な状態にまで発展した。
たたら砂の最高責任者である丹羽はしばらく情報の封鎖を行い、同時に稲妻城に人を送って天守閣に助けを求めるほかなかった。
しかし、なぜか船で海に出た者は帰ってこなかったーー誰一人として。その恐怖はたたら砂で暮らす人々の心の中に蔓延していった。
今の丹羽には雷電将軍の助けが必要なのだと傾奇者は理解した。だが、当時の雷電将軍が既に自身を材料に完璧な人形を作り出し、統治の職責を「永遠の守護者」に託していたことを彼は知らなかった。小船に乗り、海の雷雨と嵐を乗り越えて、危険を顧みることなく天守閣へと辿り着いた彼は、雷電将軍との面会を求めた。
しかし、真の雷電将軍はとうに一心浄土に身を置いている。傾奇者の面会は何度も拒否された。切羽詰まった彼は例の金色の羽根を取り出して周りに見せると、代わりに八重神子との面会を求めた。
永遠の守護者を補佐する仕事に追われていた八重神子は、このことを聞いてすぐに駆けつけたが、酷く焦る傾奇者とはたった一度しか顔を合わせることができなかった。彼女はすぐにでもこの件に取り掛かると約束するも、堪忍袋の緒が切れた傾奇者はそれを無視し、幕府がたたら砂を見捨てたという絶望だけを持ち帰った。
応援要請により招集された人々は船に乗って海を渡った。しかし援軍がたたら砂に到着した時、そこに広がっていたのは凄惨な光景などではなかった。それどころか、大半の人間は何が起こったのかさえ把握できていなかったという。機械職人のエッシャーによると、最高責任者である丹羽が職務怠慢を自認し、罪を恐れて家族を連れて逃亡したそうだ。その丹羽の代わりに傾奇者が中心区域に入って、大きな炉を止めたらしい。
逃げた丹羽と傾奇者が友人であることを知った八重は、その気持ちを察して、彼の邪魔をせずにただ羽根を戻すよう命じた。
その後、傾奇者はたたら砂から姿を消した。住民たちは過去のことを振り返るたび、御輿長正の刀ができたあの日、傾奇者が皆と一緒に踊った祝いの舞をいつも思い出す。
その踊る姿は軽やかであり、まるで風と共に流れる羽根のようであったという。しかし、彼自身もやがて羽根のように見知らぬ地へ漂い流れてしまうことは、誰も予想できなかった。
キャラクターストーリー3
たたら砂から離れた後、傾奇者は稲妻の海辺に建つとある小屋で一人の子供と出会った。
その幼い男の子は病身であり、たった一人でボロボロの古い家に住んでいた。壊れかけの木戸口の割れ目から、その子の泥にまみれた顔を見た傾奇者はなぜか胸が締め付けられたという。それはまるで、何か古い感覚が蘇ったかのようであった。ゆえに彼はその木小屋に残り、病に苦しむ子の看病をすることにした。その子のために果物や飲み水を探し、顔の汚れを彼は拭ってあげた。
だが、何日経っても子供の両親は帰ってこなかった。彼の両親がたたら砂の職人であることを、傾奇者は後になってようやく知ることになる。本来であれば、この家族は幸せな生活を送ることができたはずだ。しかし、その夫婦は仕事をする中で奇妙な病にかかり、咳と共に吐血するようになった。帰ってこなかったということは、つまりその二人はどこかで静かにこの世から去ったことを意味しているのかもしれない。
子供の名は重要ではない。なぜなら、その子にはもう一つの身分ができたからだーー傾奇者の友人、そして家族だ。二人は自身の生まれに関して互いに話し、そのボロボロの小屋で共に暮らすことを約束した。友誼の証として、傾奇者はその子を借景ノ館へと連れて行き、自分がかつて住んでいた部屋を見せた。
紅い楓、みすぼらしい連子…すべてが昔のままだ。
二度とこの場所に戻ることはないと思っていたし、子供がたった一夜のうちに病で逝ってしまうなんて考えもしなかった。その一夜という時間は、傾奇者が外で食べ物を探したり、捨てられた家具を手に入れたりするのと同じくらいのものだ。
かつてあれほどのことを経験しても、その時の彼にとって人の逝去は一瞬で済むものではなく、そしてその「一瞬」は彼に痛みしか残さないものだった。
そこには驚きだけでなく、これ以上ないほどの憤怒があったーー彼はまた一人ぼっちになったのだ。これはつまり捨てられたということではないだろうか?
そう、またしても…またしてもだ!
床に横たわるその小さく丸まった体は、まるでたくさんの花びらが集まり、血によってその一角を紅く染め上げているかのようだった。その紅い血は楓のようで…烈火にも酷似していた。
その夜、海辺に熾烈な炎が上がる。傾奇者は木小屋を焼き払い、部屋の中から麦で編んだ古い帽子を拾って被ると長い旅に出た。
彼はただ四方を彷徨う、行くあてなどなかった。その道中で多くの人々に出会ったが、彼が仲間として見なす者は誰一人としていなかった。
キャラクターストーリー4
スネージナヤのファトゥス第六位、その称号は「散兵」。
この名は最初から彼に与えられたものではなく、使われるまでに百年以上の空白があった。
稲妻から離れた後、彼は「傾奇者」の名を捨て、再び名を持たない状態へと戻った。「道化」が彼を見つけるまで、彼は名を持つことなど望んでいなかった。
そもそも人形といい、傾奇者といい、どれも人々が彼に付けた称号に過ぎない。人と共に生きていくことをやめた以上、そのような意味のない名を気にする必要はなかった。
それでも、かの狂宴に興味を抱かせるよう「道化」は彼を説得した。そして、共にスネージナヤまで長旅をし、ファデュイのため尽くすようにしたのだ。
スネージナヤ本土で、とある見知らぬ人物が彼を招待した。その人物は自身を「博士」と名乗ると、彼の到着に大いなる歓迎の意を示した。同時に自身の実験における重要な参照対象として、彼を偉大な研究に参加するよう誘った。
「人形」の技術は元を辿ればカーンルイアから生まれたものだ。雷神の造物である彼はその特殊さがより際立っていた。「博士」はこの分野において大層な興味を持っており、彼をモデルに数十年も絶えず研究を重ねることでようやく、「断片」を制作する礎となる技術を手に入れた。
そして、その見返りとして「博士」は彼の体に隠された封印を解いたのである。それによって、彼の能力は下位のファトゥスと戦えるほどにまで飛躍した。
だがこの時になっても、彼は依然として名を求めなかった。同僚たちは終始彼のことを人形と呼び、彼も自分をそのように定義して、死を恐れず、消耗し切ることのない人形だと固く信じた。
女皇の命令のもと彼は部隊を率いてアビスへと向かい、長い年月をかけてそこを探索した。探索中、幾度も負傷しては「博士」に修復され、その負傷の中で強くなり、またより強い敵に遭遇しては負傷をした。
その後、彼はアビス探索の成果をスネージナヤへと持ち帰り、第六位の座を授かることになる。その使命もアビスの探索から命があったら即座に動けるよう待機するものへと変わり、ファデュイが各国で秘密行動する際の支援を行うものになった。
その時になってようやく、彼は自分がその名に相応しい存在だと思うようになったのだ、そう即ちーー「散兵」であると。
キャラクターストーリー5
その後に起こった様々な出来事は劇的と言えるかもしれない。しかし、この世でそれを覚えていられる人はごく僅かだ。
見届ける者の心の中で伝説として残ることのみが、世界に忘れられた古い歌のように静かに存在できる方法であった。
散兵は世界樹の中心で、クラクサナリデビが情報の流れに置いた「真相」に触れた。秘密は元々「博士」のとある心に隠されており、クラクサナリデビ曰く、この第一視点の真相には彼の僅かに残った誠実さがあるという。
「散兵」は真相から本当の過去を覗いた。彼に人のように生活する方法を教え、一般人として接してきた友人の丹羽は、エッシャーが言ったように罪を恐れてたたら砂から逃亡したわけではなかった。事実、真の犯人はまさにエッシャー…つまり「博士」本人であった。そして「散兵」の胸にある装置に収められた心臓は、丹羽の温かな胸から抉られたものだ。
丹羽の死はたたら砂の事故として偽装され、エッシャーの詭弁によって、そのすべては当地の責任者が失職したことによるものであると皆は説得された。
序列的には御輿長正が次の責任者であるため、本来は彼が死をもって罪を償うべきであった。しかし、自ら身代わりとなってすべての罪を背負った忠実な武人の従者により、彼は事なきを得ている。
その悲惨さは多くを語る必要などないだろう。長正がいかに決断を下したくなくとも、彼は御輿家の罪を晴らす重責を背負っており、ここで倒れるわけにはいかなかった。
そしてその夜、長正は一番の愛刀「大たたら長正」を取り出し、一太刀で桂木を目の前で斬り伏せた。その刀が体を斬り裂く勢いは、まるで死者を一刀両断するほどのものだったという…
…彼らは神を信仰していなかったのだろうか?もしそうでなければ、なぜこんな目に遭わなければならなかったというのだろう?
もしこの世に、最初からその謎の人形である傾奇者がいなければ、エッシャーは当初の予定通り行動していたのだろうか?
ほんの少しの可能性さえあれば、たたら砂の事件は取り返しのつくものなのだろうか?
この世の他の地点にいる者からすれば、誰であろうと為す術などないはずだ。だが「散兵」は違う。今その瞬間、彼は悟った。この世で彼にしか試せないことがあるということに。
彼は自分が勇敢だと思っている、なぜなら彼は死を恐れないからだ。死は人形にとって、ただの些細な脅威に過ぎない。心のある人間のみが恐怖の意味を理解するのだ。
一方で彼は自分が憶病だとも思っている。そのため、悔やみきれないのだ。もっと今のように他人を信じなければ…友人と思っていた人々は、あのような凄惨な結末を迎えなかったのだろうか?
裏切者または英雄、神または捨てられし者、様々な身分が奔流へと飛び込んだ瞬間に無となった。
情報の奔流の内側は極めて静寂なものであった。だが、彼は耳の中で血が煮えたぎるかのように感じて、その脳内では轟音がずっと鳴り響いていた。
抱きしめて、滅するんだ!
人形は捨てられた臆病者、傾奇者は人に庇われた無為者、スカラマシュは密謀者ーー最後は神の意に背いて、世界の奔流へと飛び込んで遡行をする。
しかし、それがどうしたというのだ?
この人でない者の手は、かつて灼熱に染まった炉を止めるために十本の指を焼くことさえ厭わなかった。
今この人でない者の手は、その僅かな可能性を掴んで真実を捻じ曲げてでも、願いを叶えようとしている。
抱きしめるんだ、無へと帰すこの身体で!
滅ぼそう、花の如く、羽の如く、朝露の如く無用な人生を!
さようなら、世界よ。未来がどうであれ、僕は君にお別れを告げよう。
小さなおもちゃの人形
スメールに滞在することを決めた放浪者は、時間を見つけてトレジャーストリートへ足を運ぶと、そこでおもちゃの人形の作り方を商人に聞くことにした。
賑やかな街の一角、とある白髪の親切な老人が隣に座るよう手招きすると、布と糸を使って彼の求める物の作り方を一から教えてくれた。
放浪者は長い時間を費やしてそれの練習をする。彼の性分からかけ離れたもので少し変な感じがしたが、この感覚は嫌いではないと思った。
ずっと昔のことだ、彼はよくこのようにコツコツと色んなことを学んでいた。食器の持ち方だったり、服の着方だったり、髪のとかし方だったり…
細かなことから、少しずつ「人」へとなっていった。
数日後、彼はその作品ーー白い服を着た黒い髪の小さな人形を完成させた。その腰には小さな胡蝶結びをあしらった帯を付け、その目じりには滑稽な丸い涙の粒をぶら下がっている。
昔、ある幼い友人が放浪者のかつての姿を真似て、このようなおもちゃの人形を作ったことがある。しかし、彼が稲妻から旅立つ前、自らの手でその人形を古い家ごと燃やしてしまったのだ。
長い長い年月を経て、彼は自分でそれを一つ縫ってみた。それを握ると、とても懐かしい感じがした。
小さくて、柔らかくて、まるで無防備な子供のようだ。袖に忍ばせてもあまり場所を取らず、帽子の中に入れれば旅の友が増えた気分になれた。
「これからは、僕と一緒に放浪するんだよ。」
彼はそう囁くと、それを懐にしまった。
神の目
その瞬間、放浪者は風の音を聞いた。どこから来たものなのかは分からないが、不思議とその風向きは変わって彼を迎えている。
彼は風の中から懐かしい匂いを嗅いだーー金槌、金属、炉、埃…
遥か彼方の夢、過ぎ去った幸せ、今思うと実に不思議だ。彼のような個体が、まさかそれほどまでに単純な生活を送っていたことがあるなんて。
束の間、放浪者は自分の影を見た。それぞれがすべて鮮明であり、そのどれもが本当の彼だった。
臆病で卑怯な者も、狼狽して苦しんでいる者も、思い上がった滑稽な者も…最後はすべてが一つに繋がった。
過去を認めることは失敗を認めることになり、自分はただ何も成し遂げたことのない、何も持っていない臆病者だと認めることになる。
だが彼にとってこれだけが束縛を振り切り、本当に哀れな自分を取り戻す方法であった。
彼はその時になって理解したーー平和で華美な表面はあくまで虚幻であると。本当の彼は一度たりとも死んでおらず、ずっと心の奥底に潜んでいたことを。そして選択する権利がある限り、何度繰り返そうとも彼は同じ道を選ぶ。
彼が雷霆のように行動した瞬間、煌めく光が七葉寂照秘密主の攻撃を遮った。彼の意志と選択が神の視線を引き寄せたのだ。
「神の目」が降りてくると、綺羅びやかな光をまとったその装飾品は微笑みを帯びた目をしながら、遠くからこう彼に問いかけてくるかのようであったーーこれほど強い願望を持った者が、それでも心がないと言えるのだろうか?
北斗
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キャラクター詳細
北斗は「南十字」の頭領である。
「南十字」は璃月港を本拠地に活動する武装船隊だ。
「武装船隊」は文字通り、頼もしい火力を装備した船隊のこと。
余計なことは気にしなくていい。「南十字」のやる事なす事は全て七星の許しを得ている…大方はそうである。
北斗は船隊の船員全員にとって頼もしい頭領であり、彼らは北斗なら海の高波や嵐をも制圧できるとさえ信じている。
「だって北斗姉さんだぞ、嵐でもあの人の言うことを聞くだろ。」
キャラクターストーリー1
北斗の声望は、璃月ではかなり高い。
「璃月七星」ほどではないが、商人の中で北斗や「南十字」の名を知らない人はいない。
そして、それほどの声望があれば、自ずと様々な噂も立つ。たとえば、北斗は山や海を割ることができるとか、剣で雷を召喚して、一撃で冥海巨獣を二つに裂いたとか。
酔っ払いの言葉だと信じていない人も多いが、北斗と共に海に出た人は皆口を揃えて、本当に冥海の巨獣が現れても、きっと北斗ならそれを真っ二つに裂いてくれるのだと言う。
北斗の航海能力は、商人たちの間で伝わる彼女の名望と同じくらい高いのだ。彼女が「龍王」と呼ばれるのも、無理のない話である。
キャラクターストーリー2
利益を重んじ、人情を軽んじるのは商人にとって、本来おかしなことではない。
しかし、璃月の人間は「うちは違う」と口を揃える。
他所の商人たちがそれに対し、ただ人情を手段として使うだけだろうと笑えば、璃月の商人は「『南十字』の件はどう説明する?」と返す。
南十字船隊が有名になってから数年が経ち、その報酬が高いのは誰もが知っていることだ。その彼らは昔、嵐の中で数日間漂流する民間船と遭遇した。浪の中で揺れる民間船を見た北斗は、龍骨が割れるリスクを承知の上で民間船を安全区域へと引っ張っていった。食糧が底をついた時も、北斗は民間船を見捨てることはしなかった。
そして数日かけて、ようやく「南十字」は民間船を近くの泊地へ送り届けたのだ。その船にいた者は皆、命の恩義を感じ、今では北斗の忠実なビジネスパートナーとなっている。
璃月の人は笑いながら言うだろう。
「命をかけて何かをやり遂げることは、『手段』なんて二文字で表現できるものじゃない。人情を取引の手段にするなんて言葉、北斗に言う度胸はあるの?」
キャラクターストーリー3
噂によると、「南十字」の背後にいるのは「七星」の一人、「天権」凝光である。
このことについて、当事者二人は否定するだろう。しかし、その理由はそれぞれ違っている。
「七星」である凝光には、時に彼女の代わりに乱暴に事を収めてくれる人間が必要だ。何人も候補はいたが、彼女は北斗を選んだ――あくまでも、彼女は「北斗」という人間を選んだだけであり、「南十字」はおまけでついてきたようなものだ。
一方、北斗は声を荒げて凝光とは協力関係であり、「背後の勢力」なんて存在しないと説明するだろう。
確かに凝光の協力者の中で、北斗だけは他の者とは違う。
北斗は凝光を他の者のように敬っているわけではない、どちらかというと真っ向から対立してくるような相手だ。だが、北斗の反感的な態度を心配する部下に対して、凝光は静かに笑っているだけである。
「彼女はこの璃月で最も支配しやすい人かもしれないわ…利害関係と大義さえ説明したら、彼女は納得するからね」
キャラクターストーリー4
長い旅から陸へ上がった「南十字」は、いつも通り、3日間続く宴会を開いていた。その年は例年と変わらない。唯一違うのは新たな料理人が一人、後の「万民堂」のシェフ香菱が増えたことだけだ。
船隊の経理が節約のために、市場で遭遇した香菱を騙してそのまま船に連れ込んだのだ。北斗に会った香菱は「むっ、ここの食材は魚介類ばかりで、『月菜』しかできないよ。アタシは対立した二つの菜系を越えた料理を作りたいの…」と悩みながらそう言った。
北斗は笑って足元の金貨を指しながら言った。「得意なものでいいぞ。前回は結構稼いだ。5万モラでどうだ?」その言葉を聞いた香菱は、魚介料理の腕を証明するために、依頼を受けた。
結果、北斗は香菱の料理の腕を高く評価し、香菱はいつか璃月に名を轟かせるとまで予言した。
その気に入り様は、船員全員に香菱のことを「香菱姉さん」と呼ぶように指示したほどである。
一方、香菱も北斗のあっさりとした性格を気に入り、よく北斗と共に海へ出ては、新たな海鮮食材を探すようになった。台所に入ることがない北斗が海鮮を見分けることができ、更にその美味しい食べ方も知っていることに、香菱はとても驚いた。
――もちろん、香菱が素直に北斗の言うことを聞くかどうかはまた別の話だ。
キャラクターストーリー5
物は持ち主に似るということわざがある。
少し不適切な点はあるが、「南十字」船隊は確かに北斗と同じ気質を持っていた。
しかし船隊内には、北斗もあずかり知らぬところで伝わる秘密がある。
「南十字」の副官は新米船員たちの初めての帰航後に、彼らを飲みに誘う。
そして、真に迫る話し方で昔のことを聞かせるのだ。
あれは「南十字」が未知なる海に足を踏み入れた時の話だ。大嵐に何度も巻き込まれ、船員を失い、船も限界を迎えようとしていた。
諦めかけたその時、北斗が甲板に立ち、舵を取りながら、璃月の漁師たちが網をたぐる時に口ずさむ歌を歌ったという。
「すると海上の風は静まり、水平線からは太陽の光が射し、浪も穏やかになったんだ…」
副官はいつもこの言葉で締めくくり、懐かしそうに目を細めるのだ。
…そして船隊のビジネス拡大と共に、副官が伝える物語もどんどん誇張されていき、新米船員たちの北斗に対する崇拝もますます強くなっていく。
埠頭の労働者たちの世間話
➀三つの頭を持つ巨大な海蛇に、北斗は彼女の大剣を投げつけた。大剣は海蛇の三本の脊椎を見事に突き通した後、北斗の元に戻った。
➁北斗は囲碁の対局で凝光を破ったことがある。しかも2回。重要なのは、凝光からいくら巻き取ったかではなく、凝光を負かした北斗の度胸である。
③北斗が最後に漁師の歌を歌ったのは、海獣「海山」と戦っている時であった。あれから彼女は一度も歌ったことがない。
④あぁ、聞き間違いではない。北斗は漁師の歌を歌える。だが、絶対に直接本人に聞いてはいけない。三つの頭を持つ海蛇の結末を思い出すんだ。
神の目
璃月と稲妻には、このようなことわざがある。「鰭が冥海となり、尾が遠山を指す」。漁師が陸でこの言葉を覚え、次第に広がり、最後は誰もが知る漁師の歌となった。海上に霧が出る度に、漁師の船は白い霧の中に消えて行き、やがて遠くから歌が聞こえてくる。鰭が冥海となり、尾が遠山を指す…
この歌は北斗の子守歌でもある。岩王帝君が神剣を操り、海獣を斬殺したことを璃月人は美談として言い伝えている。幼い北斗は神話が好きで、眠っている時も、この大きな魚に会っている夢を見た。
今日の彼女は、いつもと違った気持ちでこの歌を歌い始めた。船員全員も口ずさみながら、帆を張り出港した。
海山は海の中に潜んでいる。魚のようで龍のような海山は、悪夢のような大きな体を持ち、その力はまるで神々の如く、たった一撃で数十メートルの波を起こせる。
海で稼ぐ人ならば、いずれ海山に遭遇する。北斗は9才からずっと、海山に会いたかった。いつか、この海獣の頭を斬り落とすと願っていた。
かつて、彼女は海山に何度も挑戦してきたが、全て失敗に終わった。だが今回は違う。北斗は最も優れた大剣を持ち、泳ぎが最も得意な水夫を連れて、海山に攻撃を仕掛けた。
想像を絶する激しい戦いであった。この戦いは四日間も続いた。船隊が準備した大砲、銛に弓とロープ、火力全開で攻撃を仕掛けた。北斗は四本の足を拘束された海山と何時間も戦い、夜になっても決着はつかなかった。
夜の海山は最も危険である。人々は海山の突撃を警戒するために、誰も眠らなかった。北斗は船首に立ち、風の音を感じた。
一撃、たった一撃。寒い夜風に吹かれても彼女は微動だにしなかった。
どのくらい経ったかは分からないが、食べ物と水を一口もしなかった北斗は太陽が昇る瞬間、海中からの波の音を見事に掴んだ。
この一撃は、雲を突き抜き、月を一刀両断する。山のごとく海のごとく、魚龍の頭蓋骨を断ち切った!
耳を聾する程の雷鳴と共に、紫色の電光が血を浴びた北斗の前に降りた。
竜殺しの北斗の「神の目」は天から授かり、雷電の如く人目を奪う紫色の光を放つ、龍血でさえ匹敵できない宝珠である。この神の珠は、山と海を征服した者にのみ所有が許されている。
マ行
ミカ
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キャラクター詳細
騎士団本部に来るたび、ミカはいつも同僚との業務連絡をできるだけ早く終わらせ、こっそりと離れていく。誰かの仕事のペースを邪魔したくない、そう彼は思っているからだ。
ミカは話しかけられると、過度に緊張してしまう傾向にある。礼儀正しく雑談を終えるやいなや、彼は慌てたように逃げ出すのだ。
騎士たちはこの若者の名がミカと言うこと、彼が同僚ホフマンの弟、つまりシュミット家の次男坊であり、今は遊撃小隊に属していることを知っている。
だがミカの仕事や、いま騎士団で広く使われている新しいバージョンの軍用地図が彼の手によるものだということを、彼らは知らない。
そうした地図には、モンド周辺にあるほとんどのエリアの地形データや、大量の実用的な注釈がまとめられている――
すべての道の状況や、潜在的な魔物の密集地域、占拠できる高地の位置に、自然資源の種類と開発状況など…その詳しさたるや目まいがするほどだ。
それらはすべて、ミカが二年間をかけて、自らモンドの各地を歩き回り観測した成果である。
ミカと一緒に戦ったことのある数少ない騎士は、彼の戦闘スタイルについても知っている。ミカは槍とクロスボウを同時に扱うことに長けており、そうした戦い方が彼らの印象に残るのは当然のことだった。
だが彼らはみな、ミカからこう頼まれていた――彼のことを、なるべく他の人には話さないでほしい、と。
「ミカは注目されるのが怖いんだ。褒められるのはもちろん、人に見つめられるだけでとても緊張してしまうんだと。だから世話になった身として、先輩として、俺たちがあの子の気持ちを汲んでやるのは当たり前のことだろ。」
キャラクターストーリー1
ミカは愛情あふれる和やかな家庭で育った――母はモンドの風土作家で、父は退役した西風騎士、兄のホフマンは現役の騎士団の一員だ。
ミカが読み書きを学びはじめたばかりの頃、両親は新しい本の取材で旅に出ており、幼いミカの世話は兄のホフマンに任されていた。
しかし兄はすっかり騎士団の仲間たちに馴染み、昼は真面目に仕事をして、夜は酒に溺れるという暮らしを送っており…本人がこの有様のため、彼が弟の面倒を見ることなどできるわけもなかった。そして反対に、ミカのほうが幼い頃からきちんとした生活習慣を身につけることになる。昼は自分の面倒を見て、夜になると兄の面倒を見ていた。ほとんどの子供がまだのんびりと遊ぶだけだった頃、幼いミカは自分できちんと生活できていた上に、ホフマンの衣食住まで手伝っていた。
両親は安否を伝えるため、手紙を毎週モンドに届けるよう人に頼んでいた。母は筆が立ち、彼女が道沿いの風景を描写するために用いる言葉の数々は童話のように魅力的だった。幼いミカは手紙と照らし合わせながら地図を読み、両親のいる場所を確認して、彼らの旅のルートを描くのが好きだった。そうして両親の旅における不思議な出来事を想像するのが、ミカにとって最も楽しいことだったのだ。
いつの間にか幼いミカは地図を読むことが好きになり、多くの場所の地形をすらすらと暗唱できるようになった。
しかし、そこにホフマンから残念な知らせが届く――「おふくろと親父が残してくれたモンドの地図だが、あれは古すぎる。最初にあの地図が描かれた時点では、精度も大したことなかったはずだ。あまり覚える意味はないかもしれないぞ。」
しかし、それは仕方のないことだった。野外で自由に行動できる人間のほとんどは、頭に依頼とモラのことしかない冒険者だ。地図?そんなもの、使えればそれでいい、と。
一方、地図を描ける人間の多くは戦闘に長けておらず、限られた収入でボディガードを雇うこともできない。彼らにとってそのために自ら野外に行くのは大変な危険を伴った。
騎士団の予算に余裕ができれば、この問題を解決するために専門家を雇うことができるかもしれない。しかし今の平和なモンドで、この件がいつ議題に上るかは誰にも分からなかった。
ミカは幼いなりに考えた――父と母のように、地図の隅々まで歩き回り、足元の大地を細かいところまで記録する…それ以上に面白いことなんて、この世にはないはずだ。
そして、ミカは明確な人生の目標を持つようになった――
「僕が、地図を描く専門家になるよ。」
キャラクターストーリー2
両親がモンドに戻った後、ミカは自分の夢を打ち明けた。それを聞いた彼らは大喜びし、彼を全力でサポートすると約束した。
その日から、ミカは図書館でテイワットの地理に関する勉強と、絵を描く練習に没頭するようになった。
リサはこの礼儀正しく、才能がある上に勤勉な少年を気に入ったようだ。彼女はよくミカが本を探すのを手伝ったり、彼が遠回りをしないよう導いてやったりした。
長きにわたって研鑽を積んだミカの能力は、やがてリサに認められ――「今のあなたなら教令院の選抜に応募しても、本当に受かるかもしれないわよ。」とまで言わしめた。
その後、ミカが外を調査する機会を探り始めたころ、ちょうど図書館で知り合いになったエラ・マスクが離れた野外にヒルチャールと交流しに行くため、道案内のガイドを必要としていた。
それが、ミカの初めての仕事となった。最終的に二人は無事目的地までたどり着いたものの、ヒルチャールとの交流はうまく行かず、彼らにこてんぱんにされたのだった…
ミカはこの挫折を、自分の力が足りなかったせいだとした――「自分を守る術を身につけなければ、見知らぬエリアを探索することはできません。」
その一件の後、ミカは地理の勉強と同じくらいの気合を入れて、兄と共に戦闘技術を学び始めた。生まれ持った体質か、ミカはすぐにそれらを身につけていった。
ちょうどその時、騎士団が三年後に控える遠征の計画が起草された。彼らはまだ人手を募っており、その中には「前進測量士」という役職があった。
その応募条件は非常に厳しく、まず応募者は地図を描ける能力を持つこと、そして危険な環境に身を置くため、部隊の前衛を長期的に担えて、魔物と戦う方法を知っていることが求められた。
ミカにとってのチャンスが来た。それは想像よりも素晴らしかったが、同時に思わず尻込みしてしまうものだった…
というのもミカは自分の能力を生かすなら、せいぜい外部から助言する役として部隊に加わる程度だろう、と考えていた。まさか騎士団が募集しているのが正規メンバーで、しかも前衛を務めるような情鋭だとは思ってもみなかったのだ。このような「強者だけが担える」大任、果たして自分にその資格はあるのか――彼はそう不安に思い、躊躇したこともあった。
しかし幸いにも、父と兄の励ましがその不安を払拭してくれた。彼らの言葉をミカはずっと心に刻んでいる――
「自分に多くを求めなくてもいい。チームのために全力を尽くすことができれば、それは自分の責任を全うしたと言えるだろう。」
「ほとんどの西風騎士は俺たちのような普通の人間だ。そうした人々が、素晴らしいチームワークで任務を成し遂げる。それは一人の強者にも劣らないことなんだぞ。」
こうして、ミカはそのチャンスを逃さず、西風騎士団に応募した。
少なくともこれからは、自分の愛することを仕事にできる。そう考えて、ミカは自分を落ち着けたのだった。
キャラクターストーリー3
ミカが選抜に応募したという噂は、たちまち西風騎士団中に広がった。「ホフマンの弟も騎士団に入るらしいぞ!まさか、いつも酔っ払いの面倒を見てたあのミカ坊がなあ!」
自分がこれほど注目されるとは、無垢なミカは想像もしなかった。彼は緊張のあまり呼吸が速くなり、心臓はバクバクと跳ねた――うまく行かなければ父に恥をかけ、兄も非難されることになる。ひいてはシュミット家の名に泥を塗ってしまう、と彼は心配になった。
シュミット家はすでに何人も入団者を輩出した家であり、騎士団は公平性担保のため選抜の難易度を上げると共に、その過程を民衆に公開することにした。
実際の遠征で遭遇するであろう状況を踏まえ、試験官のガイアは過酷とも言えるほどの課題を出した――
鎧を着て重荷を背負いながら、限られた物資を頼りに、制限時間内にドラゴンスパインの中腹まで行くこと。
そして何も参考にできる情報がない状態で、魔物の襲撃に耐えながら、特定のエリアの地図を描き直すこと…
幸いミカはこのためにたくさん準備をしたため、全力を尽くして最も厳しいステージを突破し、三人の合格者のうちの一人となれた。
試験中、他の受験者の二人は多かれ少なかれミカからの助けを得ていた。なぜならミカにとって彼らはライバルではなく、将来の同僚だったからである。
大団長ファルカはチームワークを重んじるこの新人を高く評価し、他の二人をそれぞれ騎兵小隊と調査小隊に配属させたうえで、ミカを遠征に同行させることにした。
それだけでなく、毎週ファルカは時間を割いてミカに戦闘技術を教え、様々な「課題」を出した。
その後、ミカは遊撃小隊に編入されることになった。あの特別個性的な隊長に接する過程でチームにおけるコミュニケーション能力を磨き、エリートの集まる遠征隊に早く慣れることができるように。
こうして、騎士団に入ったミカは遊撃小隊で職務を遂行し、前進測量士として危険な地域で鍛錬を続けている。それと同時にファルカの指導を受け、地図を描く以外の能力を伸ばし続けてもいる。
素直な若き新人であるミカは徐々に成長して、より冷静で頼もしい存在になっていた。ただ、本人はまだそれに気づいていないようだ。
キャラクターストーリー4
長きにわたる実戦で鍛えられ、ミカは二年と経たないうちに遊撃隊のコアメンバーとなって、数え切れないほどの任務をこなした。
やがて計画の日が訪れ、遠征隊がまもなく旅立つというとき。
壮行会で、大団長ファルカはミカの右腕の「神の目」に明らかに嬉しそうな驚きを見せた。だが、何度かミカと手合わせした後、大団長は「素晴らしいが、まだまだ足りんな。」という評価を残した。
当時のミカには、まだ大団長のその言葉が理解できていなかった。遠征隊が出発し、危険なエリアに足を踏み入れて初めて、ようやくミカは大団長がどのような魔物を基準としていたのか段々と理解できるようになる。
あれら名状しがたき彷徨える「もの」は、はぐれた騎士にとって悪夢のような存在であった。
前衛たちの偵察の進み具合は、遠征隊全体の前進速度に直結する。出動が最も頻繁な日々にあっては、ミカは一日にたったの三十分しか休むことができなかった。
未曽有のプレッシャーに息が詰まりそうになるミカだったが、そうした未知なる危険の他に更にもう一つ、虎視眈々と窺う勢力があった…
とある疲れた夜、休憩に入ろうとしたミカは突然、別の小隊の前衛から警告を受けた――騎士団が敵と遭遇したのだ。
ミカが慌てて駆けつけた時には、ファルカがすでに精鋭たちを集めて戦闘態勢を整えていた。
夜の闇に、背の高い兵士たちの壁が微かに見える。まるで生気のない戦う機械のように、彼らは静かに立っていた。
そして、敵の戦線の中央には漆黒の鋭利な人影。その顔はまるで火の光では照らすことができないかのごとく、人の心を奪うような暗い光だけが、その幽幽たる青い双眸から溢れ出ていた。
やがてミカは仲間から、相手の正体を聞かされた――ファデュイ執行官「隊長」、および彼の直属の尖兵たち。
西風騎士団の前衛がファデュイの前哨と遭遇してしまい、神経を過敏にした双方の増援合戦の末、ついにはお互いの最高責任者が出張る事態になったらしい。
空気に漂う硝煙の臭いは強烈で、危機感を覚えたミカの手足は痺れ、冷たくなった。
もし対峙が衝突へと変わっ*とき、自分はどうすればいいのか。
特にあの執行官…彼の何気ない一撃さえ、自分には受け流せないだろう、そうミカは思っていた。
雑念と重度の疲労でミカの呼吸は速くなり、集中が困難になった。
しかし、ファルカは余裕綽々という態度で遠くの相手に挨拶すると、武器を手に一人「隊長」のほうへ歩み寄った。「隊長」も部下に待機するよう指示して、ゆっくりと前に出る。
双方が極度の緊張状態にあるなか、ファルカは「隊長」と短い話し合いの末、合意に至ったようだった。
漆黒の人影が手を少し上げると、ファデュイの尖兵たちは音もなく幽霊のように消えていった。
その場にいた西風騎士たちはみな長い安堵のため息をつき、中には身震いする者もいた。しかし騎士団の戦線に戻ったファルカは、落ち着いた態度のままこう言った――
「なんて偶然だ!こんな状況でなければ、あいつとは機を見てやり合ってみたいと思ってたんだがな!」
「あいつも意地を張るようなやつじゃない。見知らぬ土地で争うことが、お互いにとって不利益になるとわかってる…」
その時初めて、ミカは自分が戦争の導火線を跨いでいたことを、深く意識させられた。幸い、その導火線は点火されずに済んだのだが。
「隊長」の強烈な威圧感、そして大団長の危機における冷静な機転…この対峙は、ミカの記憶に深く刻まれた。
ミカはどんどん力をつけてこそいたが、このような事態に平然と対応できるようになるには、まだまだ先は長そうだった。
チームに全力を尽くすことで満足するのではなく、もっと努力し、もっと信頼されるようになり、あらゆる不測の事態を適切に処理できなければならない、そう彼は長いこと反省していた…
キャラクターストーリー5
幸い、続く遠征の行程でミカはそれ以上危険に直面することなく、最も困難な時期を無事乗り切った。
そしてモンドの「ブリーズブリュー祭期間中、ミカは大団長の手紙を携えてモンドへと戻り、遊撃小隊に帰還した。
遊撃小隊の仲間たちは歓喜しながらも驚いた――ミカの実力は、今や前衛三人分の仕事を一人でも余裕でこなせるほど目覚ましい進歩を遂げていたのだ。
大団長の手紙には、詳細は省かれつつもファデュイのことが書かれており、そしてミカが大団長の直属だったことを考えると…仲間たちの間で雑談が続くなか、とある奇妙な論理の連鎖が生まれた。――
「ミカはファデュイと手合わせしたに違いない!それも恐らくファデュイの精鋭と!それどころか、大団長と一緒に執行官とさえ戦ったかもしれないぞ!」
「でなければ、急にあそこまで強くなれるはずがない!今や、ミカも俺たちの大英雄だ。今のミカになら、どんなことだって頼めるぞ!」
実のところ、ミカは確かに遠征で充分に鍛えられたとはいえ、遠征に同行した他の西風騎士たちもみな程度の差こそあれ練度は上がっていた。ただ、彼らがまだ帰ってきておらず、比較する対象がいないというだけの話であった。
こうした荒唐無稽な噂にどう釈明すればいいかわからず、ミカはジンとガイアに相談を持ちかけた。
ジンは各小隊の責任者に、冷静さを保ち、証拠に欠く情報を流さないようにと慎重に伝えた。また、遠征に関わる多くの事柄は軍事機密であり、もとより慎重に扱うべきであると釘を刺したのだった。
一方、ガイアはそれに納得せず、冗談めかしてこう言った――「西風騎士たちはみな、多かれ少なかれファデュイに不平不満がある。『ミカがファデュイをやっつけた』なんて、なかなか士気の上がりそうな噂じゃないか。」
とにかく、代理団長はすでに状況を把握していたうえ、誰か他人に迷惑をかけたわけでもなかったので…ミカもそれ以上取り乱すことはしなかった。
彼はいつも通り職務を執行し、助けを求める仲間に全力で手を差し伸べる。誇張された噂が流れ、皆に信用されすぎるというのも、それはそれで 困ったことのようだ…
最近は新しい地図の貸出や、武器のメンテナンス依頼、さらに遊撃小隊のレーションを一口たかろうとする者が現れるなど、ミカを頼る仲間は増える一方だ。
「前進測量士の勢い」にあやかり、ミカのように早く成長したいと皆思っているのだろう。
「統合型前進測量装置」
ミカが持ち歩く精巧な作りの装置。分厚い本のような形をしている。
この装置は、ミカが調査小隊の技術者とともに開発したものであり、主要な部品はアルベドの最新の錬金術の成果に基づいている――
装置の中にはメモ帳がセットされていて、情報を記録することができる。各ページは素早く取り外して置き換えられるため、そのまま簡単に地図を作成することができるのだ。
ケース背面の板材には精巧な模様が刻まれている。この模様に元素力を注ぎ込むことで背面の菱形の部品が作動し、目標区画に向けて探測用の「波束」を発射できる。
「波束」がターゲットに当たり跳ね返ったエコーを受信し、送信と受信の時間差を計算することで、対象との距離を正確に測定することができる。さらに「波束」を出す間隔を速め、幅を大きくすることで、狭い範囲の地形を立体的にトレースすることも可能だ。
この機能を使えば、地図を描くうえで精度の大幅な向上が見込める。ただ残念ながら、探測で得られるすべての情報とその計算過程は、使用者の頭脳で処理する必要がある。
この機能を正しく使いこなせるのは、対象となる地形に精通し、平面地図を正確に記憶でき、高い空間認識能力を持つエリートだけだ。
そのため、この装置をスムーズに扱える前進測量士はミカだけであり、故に頻繁に使われるべきものでもない。
他の小隊に配備される予定だった改良型装備も、結局はミカの装備のためのスペアとして保管されることになった。
この装置は最も優秀な前進測量士であるミカの腕利きの助手であり、名誉の象徴でもある。だが、ミカはその素晴らしさを他の誰かに語ることはなかった。
ミカからすれば、それでは自慢しているようになってしまうし、それでアルベドに余計な仕事をさせてしまうかもしれない…そうして誰かに迷惑をかけてしまうのは、ミカとしては本意ではないのだ。
神の目
ミカはかつて、生死の狭間に陥るような危機を経験した。
それは遊撃小隊に入ってまもない頃のこと。任務を引き受けたミカはいつも通り単独で行動し、情報が古くなったエリアに行き、そこの地形を詳しく描き直すことにした。
彼は廃墟の中に忍び込んだが、誤って崖際の石を落とし、暗闇にいた二人のアビスの魔術師を引きつけてしまった。
炎が絡み合い、元素の奔流が一瞬にしてミカを包み込む。まるで彼をすり潰して蒸し焼きにし、魔物の佳肴にでもするかのように。
痛みとパニックが五感を侵すなか、ミカの意識に残ったのはただ一つ――この敵から逃げ切り、後方の仲間たちに知らせることだった。
「たとえ遊撃小隊の先輩たちでも…このように待ち伏せされれば…きっと危機に陥ってしまいます!」
前進測量士の責務は、まさに仲間をこうした窮地に立たせないことにある。
アビスの魔術師たちがしめたと手を叩き、他の潜伏している魔物たちの偽装を解こうとした時、回転する槍が炎の幕を切り裂き、満天の氷霧が廃墟に満ちた熱を抑えこんだ。
彼らが気付いたころにはミカはもう遠くへと逃げており、そして彼は声を大にして謝罪した――
「ごめんなさい!次からは先にノックして、先輩たちに正々堂々あなたたちと対決してもらうようにしますから!」
そして、ミカの言った「次」はすぐに訪れる。情報を掴んだ遊撃小隊の主力が続々と到着し、それら伏兵を慎重に片付けた。
同僚たちは、アビスの魔術師たちの元素バリアがすでにぼろぼろになっていたことに驚いていたが、ミカの右腕に光り輝く「神の目」があるの*見て、合点がいったようだった…
その日、遊撃小隊の夕食会はひときわ豪華なものになった。皆ミカのために祝杯をあげたが、彼自身はまだ恐怖が収まりきらず、何が起こったのか、まるで理解できていないようだった。
ムアラニ
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◯◯◯◯
神の目
モナ
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テイワットの人は皆生活に奔走している。商人は貨物を運輸し、騎士は街を巡回し、農民は耕作に励んでいる。
もしモナ――神秘的かつ誇り高い占星術師――が何に奔走しているかと聞かれたら、「生活」という帳簿の計算と答えるだろう。
彼女本人は「貧乏」であることを認めず、以下の弁解を口にする。
「綺麗過ぎるものは、素朴な真実を覆い隠します。
美味しすぎる食べ物に拘ると栄養が疎かになります。
質素な生活を送ることで、世界の真実を覗くことができるのです。」
貧しい生活は真実への修行なのです…これは、モナ本人がずっと言っていることだ。
テイワットの人は皆生活に奔走している。神秘的な占星術師も例外ではない
――おや、吟遊詩人だけは本当に何もしていないようだ。
キャラクターストーリー1
最近、モナの師匠、強い魔力を持つ老いた女術師は、モナに大事な任務を任せた。
師匠にはモンド在住の「敵にして友」の故人がいる。彼女はモナに、その旧友の継承者から極秘の箱を取り戻してくるよう伝えた。
「その箱の中身を勝手に覗いたら、どうなるか分かっているね」
出発する前、モナはこのような警告を受けた。
意外なことに、旧友の継承者というのは、モンドの「火花騎士」ことクレーだった。
箱は健在だったが、クレーや一連の「意外な出来事」によって…モナは箱の秘密を見てしまった。
「しっ、しまった。中身は少女時代のおばばが書いた日記だったなんて。このまま戻ると、おばばに殺されてしまいます…」
仕方なくモナはモンドに留まり、貧乏かつ豊富な生活を始めた。
キャラクターストーリー2
モナが占星に使うのは、水占式の占星術である、彼女はかつて、その原理を説明したことがある。
「星空の輝きは人の運命です。水面に映った幻象を通せば、「真実」が現れるのです」
人々には、その原理の意味は分からないが、彼女には認めざるを得ない実力があった。
だが、その実力は人々から少し嫌われていた。
彼女の占星術は非常に正確である。同時に、彼女は嘘を吐くことも、占いの結果を隠すこともしない。
「あなたの息子さんが、将来立派な人間になるというのは嘘です」
「彼とはうまくいきませんよ。もうすぐ彼は、遠いところへ行きます」
――残酷で知る必要のない現実でも、ありのまま人々に伝える。
この点だけは、たとえ冷たい人だと思われても、モナは譲らないのだ。
だが、晴れの日の夜は時折、高い丘で彼女の姿を見かけられる。
手が届きそうな星空を見るモナの顔は、とても優しい。彼女はそこで、誰も知らない歌を口ずさむのだ。
キャラクターストーリー3
研究経費の援助がないため、モナはいつも衣食の問題で困っている。
食費を節約するため、一ヶ月間、野生キノコだけを食べていたこともあった。途中、偶然にも助けを差し伸べられ、辛くも一命を取り留めたのだ。
実は、モナには、少しだけまとまった金がある。収入がないとは言え、食費を引いても多少は手元に残るのだ。
ならば、そのモラはどこへ行ってしまったのだろう?モナの研究室に行けば答えがわかる。そこには、たくさんの占星の工具と資料がある。
実際、モナの研究室にある研究装置は、どれも非常に高価だ。璃月の古書、スメールの占星の盤…送料だけでもかなりの出費だろう。
つまり、モナがお金に困るのは必然とも言える。
生活費を稼ぐため、モナはライターの仕事を始めた。『スチームバード新聞』の星座コーナーへの寄稿が、彼女の安定した最大の収入源だ。
毎月決まった収入を得られるようになり、やっと貧困生活に別れを告げられそうだ。しかし、占星術師として、知識への渇望を止めるわけにはいかない。
原稿料が入ってくると、モナはすぐにたくさんの占星資料を購入する…こうして、また貧困な生活に戻ったのだ。
このようなことが、毎月繰り返し起こっている。
そして今日も、モナはモラに頭を悩ませている。
キャラクターストーリー4
時折、モナはクレーとアルベドと一緒に食事をする。一番の目的はタダ飯を食べること。
そして、二番目の目的が、アルベト*との学術的交流である。
世界の理を探求する者であり、偉大な師を持つ者同士である二人。共に競い合い、高め合うのは当然の結果だろう。
アルベドの前では、モナは師匠のイメージを極力守ろうとする。
ただそれと同時に、彼女は「おばば」と呼ばれる師匠の皮肉をいつも口にしていた。
「キミの師匠の実力はただ者ではない。彼女は『頑固で愚かなおばば』。一体、どっちのが正しいのかな?」
アルベドは、それをモナに聞いたことがある。しかし、モナ自身はこれについて考えたことがなかった。
彼女は顎に手を置き、考え始める。
「ふむ、この学問は実に奥深いものですが、私からすれば、おばばは話になりません。
あの人は卵やバター、小麦の相場さえも知らないんですよ?その点を考えると、私は既におばばを超えたと言っても過言ではないしょう。*」
キャラクターストーリー5
師匠から教わった抽象的な法則は、全ての物の運行規律を解釈するものだ。
人の心は規律と法則にとらわれる。しかし強大な推算能力を有すれば、この複雑な世界を正確に読み取ることもできる。
――かつてモナはこう考えていた。
しかし、自力で衣食住を調達し、人間らしい生活を始めた時、彼女は戸惑った。
この世界にいる全員が、豊かな生活を過ごしているわけではない。食べ物と着る物に困り、物乞いのような生活を送る人もいる。
モナは山菜や果物を採取している途中、このような貧しい冒険者に出会ったことがある。彼は気前よく、自分の食料を*半分をモナに分け与えた。
「故郷を離れた者は助け合うんだ」
このような、世界の運行規律に載ってない出来事は、次から次へと彼女の近くで起きたーーどろぼうの誠実、強盗の優しさ、臆病者の勇気、悪人の良心…
これらのことにモナは疑問を抱く一方、心に落ち着きを感じていた。
再び星空の下で考え始めたモナは、自分の研究にこんなにも多くの漏れがあったことに気付いた。
恐らく、彼女は生きている限り、この世界の理の研究を止めることはないだろう。
「星座相談」
フォンテーヌ廷の主流新聞『スチームバード新聞』には、様々なコーナーがあり、七国の情報からゴシップまで、なんでも書かれている。
モナが担当している『星座相談』は、星占いのファンと専門家のために設けられた星座コーナーだ。この機会を得たのは偶然だった。
前にこのコーナーに寄稿していた作家が旅をしている時、たまたま「変わった占星術師」の情報を耳にした。星占いファンとしての好奇心に駆られるまま、彼はモナを訪問した。
モナに会い、会話を交わした作家は、モナの知識量に惹かれた。
ちょうどその時期、作家は引退について考えていた。お金に困っているモナを助けようと、作家は『スチームバード新聞』の編集長にモナを紹介した。
モナの最初の記事『占星術入門』が発表されて以来、気軽に楽しめる『星座相談』の雰囲気が一変した。
毎回、半分以上の内容が「星体運行」のような難しい話題で占められ、参考文献やたくさんの注釈に加えて、手描きの星の挿絵まで描かれていた。
学術研究のような書き方は、読者に受け入れられないのではと、編集長は心配した。たが*意外なことに、新聞社に読者からたくさんの手紙が届いた。
「本当にすごいね、よくわからないけど、とにかく面白い。今日から私は『アストローギスト・モナ・メギストス』先生のファンだ」
編集長から、寄稿継続の連絡をもらったモナは、ほっと息を吐いた。
――お祝いに初めてもらった報酬で、ずっと欲しかった最新のプラネタリウムを買うことにしよう。
神の目
モナにとって、「神の目」はただの神の眷属の証であり、特に気にするほどのものではない。
しかし、その価値は「魔力を引き出す外付け器官」に留まらない。
力を持つこと自体は悪いことではない。ただ、偉大なる「理」に比べ、「武力」は微小な概念に過ぎないのだ。
神ですら、この世界の規律に捕らわれている。そして、モナが求めるのは遠い星空の中にある世界の究極の真理だ。
神から認められた証や力の源である「神の目」に、彼女は媚びない。
とは言え、この実用性のない「神の目」は彼女の大切なものだ。
これは、彼女が師匠から貰った道具であり、師匠と一緒に過ごした日々の唯一の証だ。
女の子がアクセサリーを身に着けるように、彼女はこの精巧な道具とその中に秘められた記憶と共に、いくつもの日々を過ごしてきた。
そしてある日、彼女の「神の目」は突如、この古い道具に降臨した…