物語 3

Last-modified: 2022-08-23 (火) 14:11:49

物語:キャラ/ア-カ | キャラ/サ-ナ | キャラ/ハ-ワ || 武器物語 || 聖遺物/☆5~4 | 聖遺物/☆4~3以下 || 外観物語
図鑑:生物誌/敵と魔物 | 生物誌/野生生物 | 地理誌 | 書籍 | 書籍(本文) | 物産誌


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ハ行

バーバラ

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キャラクターストーリー1
モンドの人々は、みんなバーバラが大好きである。
当初、バーバラの歌声はモンドの住人にとっては馴染みがなく、違和感を抱いた人もいる程だった。
なぜなら、それまでモンドで親しまれていた歌のほとんどは、吟遊詩人が奏でた民謡だったからだ。
幸い、モンドに「自由」の精神があるおかげで、面白く新しいものは、これまで愛された「伝統」と共に発展することができた。
人々はバーバラの歌を受け入れ始め、彼女のパワーに感化され、そして彼女を真似て歌い始めた。
「アルバートさん、歌うのをやめて!音程が外れてるよ!」


キャラクターストーリー2
しかし、この成果にバーバラはとても複雑な心情を抱えていた。
アイドルの仕事はみんなに好かれること。この点については、バーバラはよくできている。
彼女の選択は間違っていない。
――しかし一方で、アイドルは疲れた人々の心を癒さなければならない。彼女に、それができているのだろうか?
目の見えないグローリーのために歌い、遠く赴いた恋人は必ず帰ってくると慰めた。病気になったアナのために歌い、病気はきっと治ると祝福を送った。
しかし歌い終わった後、彼女たちの笑顔が、長く保たれることはなかった。
バーバラは迷いの中に陥った。


キャラクターストーリー3
バーバラは幼い頃から明るい子供だった。少し不器用で、よく失敗するが、いつもすぐに立ち直って、もう一度チャレンジしようとする。
バーバラと正反対の「あの人」、つまり彼女の姉は、「一族の誇り」と呼ばれている。
「優秀」という言葉のお手本のように成長した姉は、バーバラにとって遠い人だった。
バーバラの努力の動機は、一度だけでいいから、姉に勝ちたいという簡単な理由から来るものだ。
しかし剣術も勉強も、姉に勝てたことはなかった。
いつも明るくて前向きなバーバラでも、これには落ち込まずにはいられなかった。
「努力は一番の魔法なのに、努力してもだめだった時は、どうすればいいの?」


キャラクターストーリー4
バーバラは諦めようと考えたことがない。
と言うよりも、彼女の粘り強さは彼女の父親「払暁の枢機卿」サイモンをも驚かせる程だ。
バーバラが自分に与えた「落ち込んでいい時間」は30秒だけ。
30秒後、何があっても彼女は立ち直るようにしている。
「戦闘が得意じゃないなら、後方支援を担当しよう!」
父親の教育の下、バーバラは治療者になった。
怪我人や病人の苦しみに、バーバラは優しさをより輝かせる。
いつの間にか、「他人に認められたい」という欲望は、「他人を助けたい」という単純な信念になった。


キャラクターストーリー5
「ありがとう」。これは、バーバラが一番よく耳にする言葉だ。
彼女が迷った時、誰かが彼女の手を握った。
「バーバラがいてくれたおかげで、すごく元気になった」
バーバラにとって、みんなが再び笑顔になることが、一番のご褒美だ。
だから、夜中に筋肉痛になった足をマッサージしている時や、喉にいいお茶を飲んでいる時、バーバラはいつも優しくしてくれた人たちを思い出す。
「私もみんなに支えられてここまでやってこれた!」
それに、あの笑顔は健康の証かもしれない――歌は本当に人々を癒すことができるのかもしれない。
そして姉を越えて、モンドで一番人気になりたいという負けん気は捨てられることなく、バーバラに*心の一番奥に仕舞われていた。
「もっとよくできるようになったら、きっとお姉ちゃんの助けになれる」と、彼女はそう考えている。
「うんうん…バーバラ、いくよっ!」


アリスのアイドル雑誌
「アイ…ドル?」
バーバラは初めてこの単語を耳にした時、困惑の表情を顔に浮かべた。
「人々の崇拝の対象は、この世界の七神じゃないの?」
「それだけじゃないわよ」。数多の人を見てきた、魔女会の古参メンバーの一人であるアリスは言った。「これを見れば分かるわ」
とにかく、どこの世界から持ってきたのかよく分からない「アイドル雑誌」を通して、バーバラはアイドルという職業の存在を知った。みんなに愛されるために努力する仕事。
優秀なアイドルは、歓声をもらうだけではなく、自分の歌声とダンスで人々の心を癒やすこともできる。
バーバラは繰り返しステップを踏み、新曲を練習した。彼女は人々の笑顔の中から、自分の喜びを見つけた。
ある日、アリスは悲しそうな顔で「テイワットアイドルグループ」計画が、終了することをバーバラに伝えた。だがその時、バーバラはすでにモンドでちょっとした有名人になっていたのだ。
「えっと…こうなったら、うん、アイドルの意味を…私が伝える!」
小さな野望を抱いて、今日もバーバラはこっそりと新曲の練習をしている。


神の目
バーバラが「神の目」を手に入れた時は、特に何か大層なことをしていたわけではなかった。
それは、教会に入ってまだ日が浅い頃の出来事だ。当時の彼女は、高熱が下がらない子供の看病をしていた。
だが、バーバラがどんなにあやしても、子供は泣き止まなかった。
「薬は飲ませたけど、この子は家族が恋しくて泣いている」
「歌を聞かせてあげたら?静かになるかもしれない」とみんなが言った。
その日まで、バーバラは一度も歌ったことがなかった。だが彼女は躊躇わなかった。
歌ったことがなくても、この子をこのまま放置するわけにはいかない。
バーバラは、熱が下がらないその子を抱いて、唯一知っている子守歌を歌い始めた。
最初はすごく下手だった。歌詞も覚えておらず、メロディーだけを口ずさんだ。
子供が少し落ち着いたのを見て、バーバラは歌い続けた。声は枯れ、何回歌ったのかも分からなくなった。子供が眠り始めると、ようやく、疲れ果てたバーバラも壁にもたれかかり眠った。
翌朝になると、子供の熱は下がっていた。これは彼女の歌声のおかげか、それとも、眠っていたバーバラの手の中に、いつのまにか現れた「神の目」のご加護か。
それは、バーバラにとっては特に気に留める必要のないことだった。子供の笑顔を見ることが、彼女にとっての幸せだ。
「歌声でみんなを癒やす」――バーバラの神の目は、こんな単純で優しい夢から生まれた。

フィッシュル

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キャラクターストーリー1
冒険者協会の調査員として、フィッシュルの最大の武器はオズである。
「お嬢様、もう私に風魔龍の動向を探らせるのはやめていただけませんか。私では、あやつの前菜にもなれませんよ」
「フン、この断罪の皇女の眷属になったんだから、わたくしのために視力や命を捧げるくらい、当然のことでしょう」
フィッシュルはオズの目に映るものを見ることができ、さらに本気を出せば鴉となり、翼を広げ、大地を見下ろすことだってできる。
望風山地の生態も、奔狼領の騒動の全容も、オズの目を借りれば全て一目瞭然である。
このような特殊能力に加え、少しの努力と不思議なキャラで、フィッシュルは冒険者協会の新星として、みんなに認められている。
なお、14歳で調査員として冒険者協会に入ったのは、フィッシュルの両親の紹介があったからである。
それにしても、フィッシュルが断罪の皇女なら、彼女の両親は断罪の皇帝と断罪の皇后陛下なのだろうか…


キャラクターストーリー2
冒険者たちの間に『フィッシュル辞書』という本が流通している。
それは、フィッシュルの言葉を誰でも理解可能な文章に変換できるすごい本である。
例えば、「時間の狭間に響く過去の風が、因果の河の中で忘れ去られた尖塔を吹く」は「風龍遺跡」
「断罪の名を背負いし従者よ、その望みのままに、皇女の偉大なる知恵を受け入れる準備をしなさい」は「調査するから、すぐに結果を出そう」
「歌え!皇女の祝福を貪る従者どもよ、猛虎のような心で戦場へ行きなさい!」は彼女はすでに調査作業を完了したことを意味する。
そして「全ては、この漆黒の預言書に記された」は冒険者たちの報告を元に、冒険者日誌を書いたという意味だ。
――実は、『フィッシュル辞書』は決められた事を書かれた本ではない。
フィッシュルのことをよく知っている者は彼女の言葉に耳を傾け、その意味を理解しようと努力する。それは彼女を尊重し、認めているからである。
「フン、やはりあなたは分かってくれるのね。さすがわたくしと運命で繋がっている人ね。」
そのまま彼女の機嫌を取る言葉を口にすると、
「皇女は誉め言葉を惜しまないからね…もう少し話して…コホン、誤解しないで、これは新世界の礎と薪柴になるものだから…」そう照れながら褒めてくれる彼女が見られるかもしれない。


キャラクターストーリー3
オズと皇女フィッシュルの関係はただの友人でも主従でもなく、魂と運命を共にする関係である。
彼女らの出会いは「フィッシュル皇女物語・1巻『末日解体概要』」に記されてある。
孤独な皇女が永久黄昏の国に着いた時、運命を拒む黄昏の王族は抗えない絶望の中で「否定」を選択した。
彼らの「否定」は徹底的なものだった。
彼らは、フィッシュルの幽夜浄土の主である皇女としての高貴なる身分と使命だけでなく、その幽夜浄土を守る責務や皇族の傍系血族として13000年間続いた血統を否定した。そして、人間としての矜持をも否定した彼らは、愚鈍で凶暴な獣に成り下がった。
黄昏の宮殿の中で、獣たちに引き裂かれ、皇女の高潔な血がパールのように古き紋章の上に滴る。
その瞬間、夜が訪れるように黒い翼が彼女を囚えていた絶望を引き裂き、負傷した皇女を守った。
高潔なる血の掟に従い、鴉の王オズヴァルド・ラフナヴィネスは孤独な皇女の傍らで、彼女に永遠の忠誠を誓った…


キャラクターストーリー4
このような物語がある。昔々、遠いところに幼い女の子がいた。
女の子の父と母は忙しい冒険者である。彼女は幼い頃から図書館で本を読んでは、本の中で千の宇宙を跨ってきた。
幽夜浄土の主となって、聖裁の雷を下す皇族の娘となって、漆黒の鴉と運命を共にする親友となって…
……
「■■、今日は何の本を読んだのかい?」珍しく、冒険の途中に帰ってきた父と母は女の子にそう聞いた。
そして、女の子は好きな小説の話を両親に教える。
「…それで彼はそう言った。フィッシュル・ヴォン・ルフシュロス・ナフィードット、お前は断罪の皇女、私の自慢の娘だ。何があっても崇高な夢を諦めてはならない。」
「ああ、いい話だ。■■が気に入ったなら、これからは君を『フィッシュル』と呼ぼう。」父は笑いながら彼女の頭を撫でた。
「フィッシュルは皇女で、俺の自慢の娘だからな、何があっても崇高な夢を諦めてはならないぞ」
優しくて暖かい言葉は、彼女の心を灯した。
しかし。忙しい両親との暖かい時間はいつも長くない。
小説と妄想に夢中になりすぎたせいで、周りに馴染むことができなくなった彼女は、寂しくて辛いときにいつも自分にこう聞かせる。
「わたくしはフィッシュル、すごい皇女なのよ。パパもママもそう認めたわ…」
「何があっても崇高な夢を諦めてはならない…だってこれは全て皇女に対する試練なんだから。」


キャラクターストーリー5
『フィッシュル皇女物語』の宇宙が、最後エントロピーの影響で滅びたように、あの妄想に浸っていた女の子も成長した。
14歳の誕生日の日*、彼女を理解しようとしない子供たちは、いつものように彼女をからかった。
これは高貴なる皇女に対する小さな試練に過ぎない。きっと両親は分かってくれると彼女は思った。
皇女は何があっても、崇高な夢を諦めてはならない。
そして両親の元に戻り、労いの言葉を期待した彼女が聞いたのは暖かくて悲しい言葉であった。
「ああ、■■、あなたはもう14歳よ。いい加減子供の妄想は卒業して…」
よく知っている声は、まるで細い剣のように少女の胸を突き刺した。
その日の夜、いつもの図書館に隠れた彼女は異様な視線を感じ、この世にいないはずの翼の音を聞いた。
泣き腫らした目は、この世のものでない鴉の目と合った。
その後の話はまた別の物語である…
フィッシュルはこの話があまり好きではない。この話を思い出す度に、窒息するような痛み、噛みつくような孤独を感じる。
いつかこの話は誰かの手によって書かれるかもしれない。しかし、それはあくまで■■の話で、フィッシュルとは何の関係もない。
皇女の名はたった一つ、それはフィッシュル。
フィッシュルの肩書もたった一つ、それは皇女。
簡単で完璧な理論を心に刻む。皇女の崇高さに、ほんの少し他人からの優しさが加われば、彼女は無敵だ。
それに、今の皇女フィッシュルはオズだけでなく、同じく別世界から来た旅人とも巡り合ったのだから…


『フィッシュル皇女物語・「極夜幻想メドレー」』
『フィッシュル皇女物語』小説シリーズのおまけとして発行された設定集。
発行数が極少のため、原作ファンの間ではいくら出しても買えない珍品とされている。
この作品は美術設定が華麗ではあるが、世界観の設定は非常に暗い。
すべての光明と美しいものは、不可逆なエントロピーの増大により破損と毀滅へと変わっていく。そして、宇宙の終点は皇女の未来の国土――すべての幻想に終焉をもたらす「幽夜浄土」だ。
これが宇宙の運命、あらゆる世界の運命、あらゆる者の運命。
皇女と彼女の忠実な友「昼夜を断ち切る黒鴉オズ」――オズヴァルド・ラフナヴィネスの運命は、夢を糧とする「世界の獣」を射落とすことだ。
最後の最後に、因果の終結の地に集まってきた魂に祈りを捧げ、あらゆる美しい思い出と道徳を心臓に残し、聖裁の雷ですべての醜悪なものを焼き払う。
皇女は自分の心を焼き壊した。不朽なる輝きと共に新たな宇宙が誕生する。
終焉を迎える前に、皇女は数々の宇宙を行き渡り、一千万以上の異なる景色を見ることになる。
そのため、発展が少し遅い世界で、冒険者協会の調査員を務めるのも…原作に忠実であるし、皇女の巡礼の一エピソードである。
いずれ皇女は分かってくる。命の一分一秒を、そしてささやかなことでも大切にしなければならないことを。
それは、皇女の極夜幻想メドレーが無数のエピソードによって、できているためである。


神の目
はたしてオズは、フィッシュルの潜在意識にしか存在しない「妄想の友達」なのか?
この件に関しては、皇族の王器「深い色をした幽邃な秘珠」――つまりフィッシュルの「神の目」から説明しなければならない。
彼女の願いが認められた時、鴉オズと「神の目」が同時に彼女の目の前に現れた。
あの日の晩餐の時、オズとフィッシュルの親が意気投合した。
「幽夜の帝皇と皇后様、この夜の王の僭越な行動をお許しください。だが、お宅の豆は実は*美味しいです。」
「好きならもっと食べて。■■ちゃんが十四才になって、初めて家に連れてきた友達だから。本当に貴重よ」
「な、なにを!わたくし…この皇女に一般人の友達はいらないから!」
――物事の事情は以上だった。
結果から見れば、断罪の皇女の父と母にもオズが見える。オズを皇女の最初の友達だと思っている。
そして、「呪いに見舞われた冒険者」、「異世界の来訪者」や「変わってる精霊風の非常食」……
彼らが皇女の新しい友達になるのがその後の出来事だ。

胡桃

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キャラクターストーリー1
葬儀は、人生最後の舞台。
そして璃月の「往生堂」は、その終の演出を仕切る存在だ。
伝統的な葬儀には多種多様な仕来りがある――霊の守護、埋葬の方法、位牌に使う素材…すべての事柄に対して、厳しい掟が存在する。
亡くなった者の身分と貧富にかかわらず、彼らに見合った葬儀を行う必要がある。それが往生堂の信条だ。
これほど重要な組織の上に立つ者は、さぞ博識で頼れる人物なのだろう。
しかし、七十七代目堂主という重責を負う者は、胡桃というまだ幼さの残る少女だ。
常に奇想天外なアイデアを持つ胡桃は、璃月ではちょっとした有名人である。
三歳の時、逆立ちで有名著書を読んだり、六歳で学校をサボって棺桶で居眠りしたり、八歳で堂に篭り葬儀についての研究を行ったり…
どう見ても、胡桃は「厳粛」とは程遠い性格だった。
そんな胡桃が始めて葬儀の指揮を執ったのは、十代の頃だった。
それは葬儀屋と客卿達の心を、絶雲の間の険しい崖の上まで鷲掴みするほど立派な葬儀だったという。


キャラクターストーリー2
胡桃は商売を非常に重視しており、儲けを蔑ろにするようなことはしない。
「我々往生堂は、生きる者からお金を受け取り、死者を旅へと導く。二重の責任を負い、陰と陽の2つの世界の者を満足させる必要がある。」
往生堂の掟について、胡桃より詳しい者はいない。
日中、店を閉めている間は、葬儀屋の若い従業員に知識を蓄えさせるため、見識の深い客卿を講師として招いている。
「葬儀の伝統は複雑な学問であり、印象や習慣を基に理解すべきではない。」
大勢いる講師の中で、鍾離先生は一番敬われている存在だ。
胡桃は、たまに鍾離の古臭さをいじったりするが、実は最も信頼を寄せている相手である。
また胡桃は特定の葬儀形態にとらわれることなく、変化する顧客の需要に注意を払う必要があると思っている。
「客は様々な需要を持つ。例えば、死者を清く送りたい、賑やかに送りたい、裕福な客は見栄え良く送りたい等々。私たちが何をすべきか、どうすべきか、全て客の需要に依存する。」
胡桃が指揮を執るようになってから、往生堂の経営は安定し業績も順調だ。葬儀に対して良く思っていなかった住民も、段々と受け入れるようになり始めていた。
しかし、葬儀屋の若い従業員たちが講義を受けている間、胡桃はいつもどこかへ行く。
ただ彼女の行動には変わった点がまま見られるため、それがサボりなのかは判断しにくい。
月下の埠頭、山間の崖、一番高い所で後ろ手に詩をそらんずる者がいたら、それは胡桃のほかいないだろう。
彼女は夜中に彷徨い、詩を歌うことを好む。
華光の林で休憩する商人がいたら、椅子に座って楽しんでいる謎の少女と出会うかもしれない。
四人じゃないと遊べない駒を使う遊戯も、胡桃は自分自身と楽しく対戦出来る。
その楽しさは…彼女しか分からないだろう。


キャラクターストーリー3
総務司の門には、威厳の象徴である二体の石獅子が鎮座している。
しかし、その前を通っても胡桃はその威厳を感じない。石獅子をじっくりと観察し、何かを思い浮かべる。続けて大笑いし、石獅子の前足を強く叩き始めるのだ。
それから、胡桃は時々訪れては石獅子の頭を撫でて、ブツブツと話しかけるようになった。石獅子たちと会話するだけでなく、名前も付けていた。左はニャンイチ、右はニャンジ。
またある日、左手にぬるま湯のバケツ、右手に大きなブラシを持ち、石獅子の体を洗い始めた。優しく真剣に、石獅子を本当のペットとして見るかのように。
一方、新月軒の前には璃月の家庭料理を食べる三毛猫が一匹いる。この日、ちょうど付近の住民が猫と遊んでいたところ、胡桃が通りがかった。
胡桃は大きな声でこう言った。
「あなたの猫が可愛いというのなら、私の猫だって可愛いでしょ?ニャンイチとニャンジの毛は硬いけど、それでもふさふさしてるよ!いつでも私を癒してくれるから、もちろん本物のペットだよ。カッコ良さなら、ニャンイチとニャンジは誰にも負けないから!」
そう言われた相手は、ぽかんとし何を言われたのか訳がわからなかった。
また総務司の警備は、胡桃に何度か驚かされたことがある。真夜中に足音を聞いた警備の者は、それが泥棒かと思い駆けつけると、石獅子と遊んでいる少女だったのだ。この様な奇行に皆がやっと慣れ始めた頃、胡桃は石獅子の前に現れることがなくなった。
そして、警備は悩み始める――胡桃が来ないとなると、石獅子の掃除は自分でやらなければならないと。
彼女と再び会う機会が訪れた時、来なくなった理由を訊ねると予想外の答えが返ってきた。
「ニャンイチとニャンジはもう一人前になったから、私の世話はいらなくなったの!私はね、今神像の人生相談で忙しいんだ!」


キャラクターストーリー4
出会ってすぐ、胡桃は一方的に七七を親友とみなし、自分の手で七七を埋葬しようと考えた。
胡桃は何度も試みた。頃合いを見計って七七を誘拐し、決められた手順通りに火葬した後、郊外に建てた墓へと埋めることを企んでいた。
もし不卜廬の白朮の助けがなかったら、その企みは本当に成功していただろう。
白朮が駆けつけた時、七七は既に袋の中に詰められ、小さな頭だけがはみ出た状態で焼却用の穴を掘る胡桃を不思議そうに見つめていた。
その一件の後、胡桃は七七に謝罪の手紙を書く。だが、それは自分の手際が悪かったことで、七七を安らかに埋めることができなかったことを真剣に謝る内容だった。
胡桃からすると、七七は俗世に囚われ苦難を患ったものであり、あの世へ逝くべき存在なのだ。
白朮は七七と知り合った後、不老不死への欲求がより強まった。この様な生と死の戒律に逆らう考え方に対し、胡桃は強く異論を唱えている。
七七を埋葬することは七七自身のためだけでなく、陰と陽のバランスを保つためでもあるのだ。
しかし、七七は断固としてそれを拒絶する。何故なら七七は死を恐れ、胡桃を嫌っているから。
この様なやり取りが長いこと続き、七七はついに学習した――胡桃に捕まらないために、いつどこに隠れるべきかを。
恐らく、この様な生への執着が胡桃の心へと刺さったのだろう、彼女は七七の過去を調べ始めた。
予期せぬ事故、仙家のからくり…これらの偶然は胡桃を悩ませた。
七七がそんなに生きていたいのならば、強引に埋葬すべきではないと思った。
それ以来、胡桃の七七に対する態度は大きく変わった。いつもは見つけ次第さらっていたが、あれこれ尋ねる様になった。
ただ残念なことに、七七の心の中での胡桃はすでに疫病神となっている。七七の気持ちを取り戻すのに、あと何年かかることやら。


キャラクターストーリー5
胡桃の名を知らしめているのは、堂主としての身分ではなく、もう一つの才能――詩の創作によるものの方が大きい。
彼女は「路地裏の漆黒詩人」と自称し、歩けばすぐに詩を思いつく才能を持つ。
『ヒルチャー夢』は胡桃の最も有名な作品だ。港の住民に愛されるだけでなく、軽策荘の子供も歌っている。
愛好家や評論家は、このシンプルで奥深い作品に感銘を受け、この詩人の作品を探すため万文集舎に足を運んだ。しかし、残念ながら胡桃の詩集『璃月雑談』と『薪米油塩』はまだ発刊されていない。
いつも本屋に入り浸っている行秋も、どの様な人物か興味を持ち、わざわざ手土産を持って彼女を訪ねたことがある。
二人は往生堂の中庭で即興で詩をそらんじ、切磋琢磨した。行秋の伝統に則った整然とした句に対し、胡桃は常に奇抜な発想と奇妙な言葉で返す。
乱雑に見えるが実は奥が深く、心地の良い音律を持ち、理解しやすく口にもしやすい、平凡な詩よりも実に巧みであった。
胡桃の詩は驚きの連続であり、行秋は笑いながら負けを認めた。
対決は仲睦まじく終了し、二人は詩を通じた友達となった。
詩を矜じ合う内に、重雲までもが審査員として引っ張られてきた。3人の笑い声は秋の日の紅葉のように、町中に広がったという。
対決中に創られた詩は、傍聴者によって記録されている。
もし町で上の句が真面目で、下の句が洒落の効いた詩が聞こえてきたら、きっとそれは行秋と胡桃が創り出したものに違いない。


乾坤泰卦帽
帽子の材質は硬く、正面には往生堂の紋章があしらわれている。
これは第七十五代目堂主から胡桃へと受け継がれた帽子だ。しかし、その堂主はガタイが良く、頭は胡桃より二回り以上大きかった。
そのため、胡桃は一日がかりで手直しし、自分に合ったサイズに調整している。「この帽子は法力を持っていて、邪気を払い、平和を守護するものなの!」と、胡桃はよく口にする。
葬儀屋の従業員たちはそれを聞く度に一笑に付すのだが、彼女が帽子に対して抱く愛情は誰もが知っていた。
雨と風が激しい夜、体が汚れようとも帽子だけは守るのだ。
なお、帽子に付いている梅の花は、胡桃が自ら植えた梅の木から摘んだものである。
作り方は――花を乾燥させた後、色料と油を筆で丁寧に塗り、3日間日光に当てて干す。精巧な装飾品となった梅の木は、手触りが良く、ほのかな香りがある。


神の目
胡桃の神の目について、それを知るにはまず彼女のお爺さんの葬儀が行われた時の話をしなければならない。
葬儀の十日前、胡桃のお爺さんは病により他界した。この第七十五代目堂主のため、往生堂は遺言をもとに盛大な葬儀を準備した。全体の指揮を執ったのは当時13歳の胡桃。まだ堂主になっていない幼い胡桃だったが、一人であらゆる仕事をこなし、葬儀屋の従業員たちを感服させた。
葬儀が終わった後、胡桃は荷物を背負い、夜闇に乗じてこっそりと外へ出た。非常食と水、そして照明器具しか持たずに向かった先は、世にも奇妙な場所。
無妄の丘のずっと先にある「境界」だった。そこは往生堂の先祖が代々管理してきた秘密の地であり、生と死の境界線である。話によると、そこに行けば亡くなった親族やこの世に未練を残す魂と会えるらしい。胡桃がここに来た理由も、お爺さんが遠くへ行ってしまう前に、もう一度会いたかったからである。
丸二日掛けて「境界」に辿り着いた胡桃だったが、お爺さんに会うことは出来なかった。ここには彷徨う魂が数え切れないほどあるが、そのどれもがお爺さんとは似ても似つかない。
一日中待ち続けたが、胡桃はとうとう疲れ果てて寝てしまった。胡桃が再び目を覚ました時、既に真夜中となっていた。周囲には数体の魂がうろつき、胡桃を嘲笑う。
「バカな娘だな、胡じいがここにいるわけないだろ。こんな所まで探しに来るとは、さては正気を失ったか?」
胡桃は無視して待ち続けた。それから何日経ったのか…非常食と水が底を尽きかけても、胡桃のお爺さんは現れなかった。しかし、代わりに老婦人が目の前に現れる。
小柄な老婦人は疲れ果てた胡桃を見て笑った。「その頑固な性格は胡じいとそっくりじゃな。残念じゃが、歴代の往生堂堂主は決してこんな所で止まったりはせんよ。彼らは堂々と生き、堂々と悔いなく去るのじゃ。じゃから帰れ、お前がいるべき場所へ。」
不思議な老婦人は胡桃に別れを告げると、境界の深部へと去っていった。胡桃は遠くへ離れていく背中を見て、なんとなく理解をした。
お爺さんはすでに境界を越え、正しき場所へ向かったのだと。堂々とした悔いのない人生だったんだ、だから私も堂々と受け入れるべきだと、彼女は思った。
そう納得した彼女はふいに笑みをこぼし、帰路につくことにした。ここに来た時は月光に照らされていた道も、今は早朝の日差しに輝いている。お爺さんがいつも言ってたことを思い出した。「生を大切に、死を恐れずに。思いに従い、最善を尽くす。」
昼頃に家に着くと、胡桃は裏庭を通って寝室に入り、荷物を片付けた。
すると空っぽだったはずの袋の中に、眩しく輝く「神の目」が入っていた。
「境界」に足を踏み入れた果敢で珍しい人間として、胡桃はどこかの神の心を掴んだのかもしれない。
彼女は高天の贈り物を得た…計り知れないほど強大な力の証だ。

ベネット

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キャラクターストーリー1
冒険者ジャックは、かつての「ベニー冒険団」の最初の被害者である。
あの日、宝物まであと数歩という距離で、彼らは百年に一度発生するかどうかの岩元素乱流に巻き込まれ…一行と宝箱は深い溝で隔たれた。
「近いのに遠い…恋みたいだ。」
ジャックはそのアクシデントでかすり傷しか受けてなかったが、このことはまるで失恋のように、彼の冒険人生に大きな打撃を与えた。
団員ロイスは秘境探索中「よいしょっ」という声を聞いた直後、盛大に響き渡る音の中で意識を失った。
その後犯人のクレーは7日間も反省室に閉じ込められた。爆弾を投げた理由は冒険者たちが探索している秘境を大きいウサギの巣だと思ったかららしい。
ヘッケラーは「ベニー冒険団」に加入してから1週間も腹を下した。食中毒だと医者に言われたが、本人はかたくなに団長の不運体質のせいにしたという。
「あいつらはすぐに戻ってくるって…だから、ベニー冒険団の登録を削除しないでくれ…」
ベネットの頼みに対してキャサリンはため息をつき、団員たちはとうに辞めたという事実を告げないことにした。


キャラクターストーリー2
かつて攻略不可能とされる秘境があった。
ある年寄りの冒険者がこの秘境へ足を踏み入れた。
烈火に皮膚を焼かれ、雷鳴に鼓膜を刺され、狂風に魂が引き裂かれそうだった。
この地獄のような旅の終点で彼を待っていたのは、なんと赤子だった。
自分こそがこの「絶境」に足を踏み入れた最初の生き物だと、冒険者は思っていた。だからこそ、目の前の光景を理解できなかった。
「この赤ん坊は…世界に捨てられた子なのだろうな。」
ふと彼の頭に浮かんだ考え、それが真実なのだと彼は信じた。
伝説の武器や数え切れない程の黄金は手に入れられなかったが、老人の顔に落胆の表情が浮かぶことはなかった。
彼にとって目の前で必死に生きようとする赤子こそが「宝物」であったからだ。
「この冒険にはきっと意味があるのだろう」そう思いながら、老人は赤子を抱きしめた。
たとえそれが世界の意思に背くことだったとしても。


キャラクターストーリー3
老人はあの冒険を誰かに話す前に、「絶境」から救った子供を残して、この世を去った。
彼は亡くなる直前、「意志」「冒険」「終点の宝物」という言葉を残した。
冒険者協会モンド支部には、まだ妻子のいないベテラン冒険者が数人いた。
彼らはその子供をベネットと呼び、我が子のように育てた。幼い頃から物わかりのいいベネットも、彼らを「オヤジ」と呼んでいる。
「オヤジ、入れ歯が茶碗に入ってたよ」
「オヤジ、なんでまだそれ着てるんだよ?オレが買ったシャツは?」「雨の日はオレから離れたほうがいいぞオヤジ。雷が落ちてくるからな!」
今となっては、ベネットは冒険以外の時間を全て「オヤジたち」の世話に使っている。
「あいつらいい宝を拾ったな、ハハッ。」モンド支部長のサイリュスは笑いながら、ベネットの背中を叩いた。
自分は不運だけど、少なくとも愛する人たちに幸運をもたらすために頑張ろう――ベネットはそう思っている。
不運の冒険者ベネットは今日も「幸運」を象徴する宝物を探している。


キャラクターストーリー4
フィッシュルの眷属、鴉のオズはベネットのことを「世界で一番頑強な少年」と呼ぶ。
ベネットの体にある傷跡を見れば、彼が今までどれほどの不運を経験してきたかわかる。
怪物の襲撃、遺跡の崩壊、崖からの転落…どんな状況に遭遇しても、「不運経験」が十分にあるベネットはいつもすぐ対応策を思いつく。
大聖堂の祈祷牧師バーバラも、脱臼の応急処置に慣れているベネットには驚いたものだ。
不運がもたらしたもう一つの贈り物は「病的」な戦闘方法だった。
「あの子の動き…痛みを感じていないのか?」ベネットの戦い方を見た騎士団の大団長ファルカはそう思った。
痛みを感じないわけではないが、体はとうに痛みに慣れて、日常の一部となっている。
激しい痛みはベネットにとって、鼻にツンとくる匂いや眩しい光みたいなものだ。
だからこそ、人体の極限を超えた戦い方と何をも恐れない攻撃の動きは、冒険者べネットのトレードマークになったのだ。


キャラクターストーリー5
死ぬって一体何なんだろう?いつも死の瀬戸際にいるベネットは、考えずにはいられなかった。
自分を「拾った」冒険者の「オヤジ」が死んだ後でも、その冒険伝説が語り継がれていることをベネットは知っている。
妻子のいない冒険者の葬式には涙がなく、旧友たちの乾杯する音だけが響くことをベネットは知っている。
モンドの冒険者にとって最高の終わり方は、宝物や大地の秘密を追い求めた道の先でその身を捧げ、風神の手で魂を故郷へ連れていってもらう事だとべネットは知っている。
かつての彼は死を恐れていた。
しかし何度も考えた後、冒険者にとって死はむしろ幸運なことかもしれないとベネットは思うようになった。
――まあ、幸運はオレとは関係ないけどな。
「行こう!宝物を探しに!」そしてベネットはネガティブな考えをやめた。


絆創膏
骨折や出血が多い怪我をした時、ベネットは大聖堂に行って、祈祷牧師のバーバラに治療してもらう。
「またオレだ…わりぃな」と言いながら頭を掻くべネット。
バーバラはただ頭を横に振り、「擦り傷のところも手当してね」と、絆創膏を渡した。
このさりげない優しさがベネットにとってまるで宝物のようだった。彼は勲章をつけるように絆創膏を傷口につけ、バーバラに情熱的な感謝を述べた。
ベネットが冒険する時は、いつもポケットにたくさんの絆創膏を入れている。オヤジさんたちの、バーバラさんの、キャサリンさんの…または怪我した後に出会った冒険者たちからもらったもの。
小さな気遣いを集めて、ベネットだけの触れられる幸運に変わる。
「少なくともオレにはみんながいるから、不運も大したことないみたいだな」


神の目
ベネットの冒険の熱意を止められるものはない。
彼は「オヤジ」たちのように情熱的を持って探索し続け、挑戦し続け、冒険に人生の全てを捧げる。
だが、今回はベネットは本当の危機に直面した。
オヤジたちが若い頃にあったような絶体絶命の危機。
「この出血量は…ヤバいぞ。」
でもべネットは足を止めなかった、「このまま帰るわけにはいかない」彼はこう思った。
何故か分からないが、ベネットは過去に経験した全ての不幸が、この瞬間を突破するための試練だと思えた。
だが、地獄のような旅の終点で待っていたのは――何もなかった。
「収穫なしも冒険…の一部だからさ、き…気にすんな…」
強張った緊張感が弛緩した途端に、傷だらけのベネットは倒れた。
目を覚ました時、なぜか傷口がある不思議の炎に焼かれた気がした。出血が止まり、痛みも感じなかった。
一枚の温かい宝珠が彼の手のひらで、冒険者の心拍に合わせて脈打っていた。
それは世界の慈悲や運命の憐憫ではなく、彼の炎のような意志に相応しい「終点の宝物」だった・

北斗

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キャラクターストーリー1
北斗の声望は、璃月ではかなり高い。
「璃月七星」ほどではないが、商人の中で北斗や「南十字」の名を知らない人はいない。
そして、それほどの声望があれば、自ずと様々な噂も立つ。たとえば、北斗は山や海を割ることができるとか、剣で雷を召喚して、一撃で冥海巨獣を二つに裂いたとか。
酔っ払いの言葉だと信じていない人も多いが、北斗と共に海に出た人は皆口を揃えて、本当に冥海の巨獣が現れても、きっと北斗ならそれを真っ二つに裂いてくれるのだと言う。
北斗の航海能力は、商人たちの間で伝わる彼女の名望と同じくらい高いのだ。彼女が「龍王」と呼ばれるのも、無理のない話である。


キャラクターストーリー2
利益を重んじ、人情を軽んじるのは商人にとって、本来おかしなことではない。
しかし、璃月の人間は「うちは違う」と口を揃える。
他所の商人たちがそれに対し、ただ人情を手段として使うだけだろうと笑えば、璃月の商人は「『南十字』の件はどう説明する?」と返す。
南十字船隊が有名になってから数年が経ち、その報酬が高いのは誰もが知っていることだ。その彼らは昔、嵐の中で数日間漂流する民間船と遭遇した。浪の中で揺れる民間船を見た北斗は、龍骨が割れるリスクを承知の上で民間船を安全区域へと引っ張っていった。食糧が底をついた時も、北斗は民間船を見捨てることはしなかった。
そして数日かけて、ようやく「南十字」は民間船を近くの泊地へ送り届けたのだ。その船にいた者は皆、命の恩義を感じ、今では北斗の忠実なビジネスパートナーとなっている。
璃月の人は笑いながら言うだろう。
「命をかけて何かをやり遂げることは、『手段』なんて二文字で表現できるものじゃない。人情を取引の手段にするなんて言葉、北斗に言う度胸はあるの?」


キャラクターストーリー3
噂によると、「南十字」の背後にいるのは「七星」の一人、「天権」凝光である。
このことについて、当事者二人は否定するだろう。しかし、その理由はそれぞれ違っている。
「七星」である凝光には、時に彼女の代わりに乱暴に事を収めてくれる人間が必要だ。何人も候補はいたが、彼女は北斗を選んだ――あくまでも、彼女は「北斗」という人間を選んだだけであり、「南十字」はおまけでついてきたようなものだ。
一方、北斗は声を荒げて凝光とは協力関係であり、「背後の勢力」なんて存在しないと説明するだろう。
確かに凝光の協力者の中で、北斗だけは他の者とは違う。
北斗は凝光を他の者のように敬っているわけではない、どちらかというと真っ向から対立してくるような相手だ。だが、北斗の反感的な態度を心配する部下に対して、凝光は静かに笑っているだけである。
「彼女はこの璃月で最も支配しやすい人かもしれないわ…利害関係と大義さえ説明したら、彼女は納得するからね」


キャラクターストーリー4
長い旅から陸へ上がった「南十字」は、いつも通り、3日間続く宴会を開いていた。その年は例年と変わらない。唯一違うのは新たな料理人が一人、後の「万民堂」のシェフ香菱が増えたことだけだ。
船隊の経理が節約のために、市場で遭遇した香菱を騙してそのまま船に連れ込んだのだ。北斗に会った香菱は「むっ、ここの食材は魚介類ばかりで、『月菜』しかできないよ。アタシは対立した二つの菜系を越えた料理を作りたいの…」と悩みながらそう言った。
北斗は笑って足元の金貨を指しながら言った。「得意なものでいいぞ。前回は結構稼いだ。5万モラでどうだ?」その言葉を聞いた香菱は、魚介料理の腕を証明するために、依頼を受けた。
結果、北斗は香菱の料理の腕を高く評価し、香菱はいつか璃月に名を轟かせるとまで予言した。
その気に入り様は、船員全員に香菱のことを「香菱姉さん」と呼ぶように指示したほどである。
一方、香菱も北斗のあっさりとした性格を気に入り、よく北斗と共に海へ出ては、新たな海鮮食材を探すようになった。台所に入ることがない北斗が海鮮を見分けることができ、更にその美味しい食べ方も知っていることに、香菱はとても驚いた。
――もちろん、香菱が素直に北斗の言うことを聞くかどうかはまた別の話だ。


キャラクターストーリー5
物は持ち主に似るということわざがある。
少し不適切な点はあるが、「南十字」船隊は確かに北斗と同じ気質を持っていた。
しかし船隊内には、北斗もあずかり知らぬところで伝わる秘密がある。
「南十字」の副官は新米船員たちの初めての帰航後に、彼らを飲みに誘う。
そして、真に迫る話し方で昔のことを聞かせるのだ。
あれは「南十字」が未知なる海に足を踏み入れた時の話だ。大嵐に何度も巻き込まれ、船員を失い、船も限界を迎えようとしていた。
諦めかけたその時、北斗が甲板に立ち、舵を取りながら、璃月の漁師たちが網をたぐる時に口ずさむ歌を歌ったという。
「すると海上の風は静まり、水平線からは太陽の光が射し、浪も穏やかになったんだ…」
副官はいつもこの言葉で締めくくり、懐かしそうに目を細めるのだ。
…そして船隊のビジネス拡大と共に、副官が伝える物語もどんどん誇張されていき、新米船員たちの北斗に対する崇拝もますます強くなっていく。


埠頭の労働者たちの世間話
➀三つの頭を持つ巨大な海蛇に、北斗は彼女の大剣を投げつけた。大剣は海蛇の三本の脊椎を見事に突き通した後、北斗の元に戻った。
➁北斗は囲碁の対局で凝光を破ったことがある。しかも2回。重要なのは、凝光からいくら巻き取ったかではなく、凝光を負かした北斗の度胸である。
③北斗が最後に漁師の歌を歌ったのは、海獣「海山」と戦っている時であった。あれから彼女は一度も歌ったことがない。
④あぁ、聞き間違いではない。北斗は漁師の歌を歌える。だが、絶対に直接本人に聞いてはいけない。三つの頭を持つ海蛇の結末を思い出すんだ。


神の目
璃月と稲妻には、このようなことわざがある。「鰭が冥海となり、尾が遠山を指す」。漁師が陸でこの言葉を覚え、次第に広がり、最後は誰もが知る漁師の歌となった。海上に霧が出る度に、漁師の船は白い霧の中に消えて行き、やがて遠くから歌が聞こえてくる。鰭が冥海となり、尾が遠山を指す…
この歌は北斗の子守歌でもある。岩王帝君が神剣を操り、海獣を斬殺したことを璃月人は美談として言い伝えている。幼い北斗は神話が好きで、眠っている時も、この大きな魚に会っている夢を見た。
今日の彼女は、いつもと違った気持ちでこの歌を歌い始めた。船員全員も口ずさみながら、帆を張り出港した。
海山は海の中に潜んでいる。魚のようで龍のような海山は、悪夢のような大きな体を持ち、その力はまるで神々の如く、たった一撃で数十メートルの波を起こせる。
海で稼ぐ人ならば、いずれ海山に遭遇する。北斗は9才からずっと、海山に会いたかった。いつか、この海獣の頭を斬り落とすと願っていた。
かつて、彼女は海山に何度も挑戦してきたが、全て失敗に終わった。だが今回は違う。北斗は最も優れた大剣を持ち、泳ぎが最も得意な水夫を連れて、海山に攻撃を仕掛けた。
想像を絶する激しい戦いであった。この戦いは四日間も続いた。船隊が準備した大砲、銛に弓とロープ、火力全開で攻撃を仕掛けた。北斗は四本の足を拘束された海山と何時間も戦い、夜になっても決着はつかなかった。
夜の海山は最も危険である。人々は海山の突撃を警戒するために、誰も眠らなかった。北斗は船首に立ち、風の音を感じた。
一撃、たった一撃。寒い夜風に吹かれても彼女は微動だにしなかった。
どのくらい経ったかは分からないが、食べ物と水を一口もしなかった北斗は太陽が昇る瞬間、海中からの波の音を見事に掴んだ。
この一撃は、雲を突き抜き、月を一刀両断する。山のごとく海のごとく、魚龍の頭蓋骨を断ち切った!
耳を聾する程の雷鳴と共に、紫色の電光が血を浴びた北斗の前に降りた。
竜殺しの北斗の「神の目」は天から授かり、雷電の如く人目を奪う紫色の光を放つ、龍血でさえ匹敵できない宝珠である。この神の珠は、山と海を征服した者にのみ所有が許されている。

マ行

モナ

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キャラクターストーリー1
最近、モナの師匠、強い魔力を持つ老いた女術師は、モナに大事な任務を任せた。
師匠にはモンド在住の「敵にして友」の故人がいる。彼女はモナに、その旧友の継承者から極秘の箱を取り戻してくるよう伝えた。
「その箱の中身を勝手に覗いたら、どうなるか分かっているね」
出発する前、モナはこのような警告を受けた。
意外なことに、旧友の継承者というのは、モンドの「火花騎士」ことクレーだった。
箱は健在だったが、クレーや一連の「意外な出来事」によって…モナは箱の秘密を見てしまった。
「しっ、しまった。中身は少女時代のおばばが書いた日記だったなんて。このまま戻ると、おばばに殺されてしまいます…」
仕方なくモナはモンドに留まり、貧乏かつ豊富な生活を始めた。


キャラクターストーリー2
モナが占星に使うのは、水占式の占星術である、彼女はかつて、その原理を説明したことがある。
「星空の輝きは人の運命です。水面に映った幻象を通せば、「真実」が現れるのです」
人々には、その原理の意味は分からないが、彼女には認めざるを得ない実力があった。
だが、その実力は人々から少し嫌われていた。
彼女の占星術は非常に正確である。同時に、彼女は嘘を吐くことも、占いの結果を隠すこともしない。
「あなたの息子さんが、将来立派な人間になるというのは嘘です」
「彼とはうまくいきませんよ。もうすぐ彼は、遠いところへ行きます」
――残酷で知る必要のない現実でも、ありのまま人々に伝える。
この点だけは、たとえ冷たい人だと思われても、モナは譲らないのだ。
だが、晴れの日の夜は時折、高い丘で彼女の姿を見かけられる。
手が届きそうな星空を見るモナの顔は、とても優しい。彼女はそこで、誰も知らない歌を口ずさむのだ。


キャラクターストーリー3
研究経費の援助がないため、モナはいつも衣食の問題で困っている。
食費を節約するため、一ヶ月間、野生キノコだけを食べていたこともあった。途中、偶然にも助けを差し伸べられ、辛くも一命を取り留めたのだ。
実は、モナには、少しだけまとまった金がある。収入がないとは言え、食費を引いても多少は手元に残るのだ。
ならば、そのモラはどこへ行ってしまったのだろう?モナの研究室に行けば答えがわかる。そこには、たくさんの占星の工具と資料がある。
実際、モナの研究室にある研究装置は、どれも非常に高価だ。璃月の古書、スメールの占星の盤…送料だけでもかなりの出費だろう。
つまり、モナがお金に困るのは必然とも言える。
生活費を稼ぐため、モナはライターの仕事を始めた。『スチームバード新聞』の星座コーナーへの寄稿が、彼女の安定した最大の収入源だ。
毎月決まった収入を得られるようになり、やっと貧困生活に別れを告げられそうだ。しかし、占星術師として、知識への渇望を止めるわけにはいかない。
原稿料が入ってくると、モナはすぐにたくさんの占星資料を購入する…こうして、また貧困な生活に戻ったのだ。
このようなことが、毎月繰り返し起こっている。
そして今日も、モナはモラに頭を悩ませている。


キャラクターストーリー4
時折、モナはクレーとアルベドと一緒に食事をする。一番の目的はタダ飯を食べること。
そして、二番目の目的が、アルベト*との学術的交流である。
世界の理を探求する者であり、偉大な師を持つ者同士である二人。共に競い合い、高め合うのは当然の結果だろう。
アルベドの前では、モナは師匠のイメージを極力守ろうとする。
ただそれと同時に、彼女は「おばば」と呼ばれる師匠の皮肉をいつも口にしていた。
「キミの師匠の実力はただ者ではない。彼女は『頑固で愚かなおばば』。一体、どっちのが正しいのかな?」
アルベドは、それをモナに聞いたことがある。しかし、モナ自身はこれについて考えたことがなかった。
彼女は顎に手を置き、考え始める。
「ふむ、この学問は実に奥深いものですが、私からすれば、おばばは話になりません。
あの人は卵やバター、小麦の相場さえも知らないんですよ?その点を考えると、私は既におばばを超えたと言っても過言ではないしょう。*」


キャラクターストーリー5
師匠から教わった抽象的な法則は、全ての物の運行規律を解釈するものだ。
人の心は規律と法則にとらわれる。しかし強大な推算能力を有すれば、この複雑な世界を正確に読み取ることもできる。
――かつてモナはこう考えていた。
しかし、自力で衣食住を調達し、人間らしい生活を始めた時、彼女は戸惑った。
この世界にいる全員が、豊かな生活を過ごしているわけではない。食べ物と着る物に困り、物乞いのような生活を送る人もいる。
モナは山菜や果物を採取している途中、このような貧しい冒険者に出会ったことがある。彼は気前よく、自分の食料を*半分をモナに分け与えた。
「故郷を離れた者は助け合うんだ」
このような、世界の運行規律に載ってない出来事は、次から次へと彼女の近くで起きたーーどろぼうの誠実、強盗の優しさ、臆病者の勇気、悪人の良心…
これらのことにモナは疑問を抱く一方、心に落ち着きを感じていた。
再び星空の下で考え始めたモナは、自分の研究にこんなにも多くの漏れがあったことに気付いた。
恐らく、彼女は生きている限り、この世界の理の研究を止めることはないだろう。


「星座相談」
フォンテーヌ廷の主流新聞『スチームバード新聞』には、様々なコーナーがあり、七国の情報からゴシップまで、なんでも書かれている。
モナが担当している『星座相談』は、星占いのファンと専門家のために設けられた星座コーナーだ。この機会を得たのは偶然だった。
前にこのコーナーに寄稿していた作家が旅をしている時、たまたま「変わった占星術師」の情報を耳にした。星占いファンとしての好奇心に駆られるまま、彼はモナを訪問した。
モナに会い、会話を交わした作家は、モナの知識量に惹かれた。
ちょうどその時期、作家は引退について考えていた。お金に困っているモナを助けようと、作家は『スチームバード新聞』の編集長にモナを紹介した。
モナの最初の記事『占星術入門』が発表されて以来、気軽に楽しめる『星座相談』の雰囲気が一変した。
毎回、半分以上の内容が「星体運行」のような難しい話題で占められ、参考文献やたくさんの注釈に加えて、手描きの星の挿絵まで描かれていた。
学術研究のような書き方は、読者に受け入れられないのではと、編集長は心配した。たが*意外なことに、新聞社に読者からたくさんの手紙が届いた。
「本当にすごいね、よくわからないけど、とにかく面白い。今日から私は『アストローギスト・モナ・メギストス』先生のファンだ」
編集長から、寄稿継続の連絡をもらったモナは、ほっと息を吐いた。
――お祝いに初めてもらった報酬で、ずっと欲しかった最新のプラネタリウムを買うことにしよう。


神の目
モナにとって、「神の目」はただの神の眷属の証であり、特に気にするほどのものではない。
しかし、その価値は「魔力を引き出す外付け器官」に留まらない。
力を持つこと自体は悪いことではない。ただ、偉大なる「理」に比べ、「武力」は微小な概念に過ぎないのだ。
神ですら、この世界の規律に捕らわれている。そして、モナが求めるのは遠い星空の中にある世界の究極の真理だ。
神から認められた証や力の源である「神の目」に、彼女は媚びない。
とは言え、この実用性のない「神の目」は彼女の大切なものだ。
これは、彼女が師匠から貰った道具であり、師匠と一緒に過ごした日々の唯一の証だ。
女の子がアクセサリーを身に着けるように、彼女はこの精巧な道具とその中に秘められた記憶と共に、いくつもの日々を過ごしてきた。
そしてある日、彼女の「神の目」は突如、この古い道具に降臨した…

ヤ行

八重神子

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キャラクターストーリー1
その昔、八重堂の編集たちは、編集長様にとある原稿を推薦したことがある。
その作品は秀逸な文章で綴られており、構成も実に巧妙、題材も当時流行りの恋愛喜劇であった。
かようなダイヤの原石ならば、ほんの少し磨いてやり、凝ったイラストを添えてやれば…きっと飛ぶように売れるだろう!と考えたのである。
だが、その予想とは裏腹に、それを読んだ八重神子は喜ぶどころか、深くため息をつき、各担当編集たちを呼び集めた。
担当編集は尻込みしながらこう言った――「八重様…そのような題材を書くよう勧めたのは私です…今もっとも流行っている題材だと思うのですが…」
編集の疑いの眼差しを受けつつ、神子は自らの意見を率直に言った――本来、斬新な観点を持っておった小説が、題材により縛られておる。一言で表すなら「自由度が低い」。
いわゆる売れ行きの良い題材や型を踏襲した作品は…所詮十年ごとに変わる流行に過ぎぬ。
時代の好みに合わせるのは、確かに近道と言えよう。だが、元々時代に飲み込まれぬ素質を持つ作品ならば、その流れに乗る必要もないであろう?
「妾の代わりにその新人作家に伝えるのじゃ。題材や型にこだわる必要はない。今ある『物語』と真剣に向き合えばよい、とな。」
作品を投稿した作者は、何かを悟ったかのように筆を走らせ、考えをまとめるため引きこもった。その数ヶ月後、神子と担当編集のもとに、「斬新」で「新たな」原稿が届いた。
それを読んだ担当編集は唖然とし、これまであらゆるものを受け入れてきた八重神子も眉をひそめた――
「ふむ…どうしたものかのう…これは確かにあまりよくない。」
「そうですよ!題材にこだわる必要はないと言っても、『雷電将軍に転生』なんてのはあまりにも度が過ぎています!」
「題材?それなら問題はないじゃろう。ただ――こやつの筆名があまりにも平凡で、どう考えてもこの小説に釣り合わぬのじゃ。」
「筆名の話でしたか…えっと…八重様がいいのでしたら、私も言うことはありません。」
程なくして、この小説の作者は「堪解由小路健三郎」という、編集長から提案されたとても長い筆名で小説界に現れることになる。
後日、編集長のひらめきで、「八重宮司に転生したら」という題材で原稿の募集が始まったが、それはまた別のお話。


キャラクターストーリー2
宮司という身分でもっとも不便に感じる点は、神社の祭りが開催されるたびに正装で参加し、社殿に座さなければならないことだ。
煌めく花火が夜空に打ち上がる中、神社は人で溢れかえる。それなのに、自分は厳粛な微笑みを絶やさず、神社にずっと鎮座していなければならない…
このような不幸は、油揚げがこの世から完全に消え去ることよりも恐ろしい。
雷神の眷属は寿命が長く、瞬く間に百年が過ぎる。長い年月において、退屈こそがもっとも抗いがたい敵なのだ。
もし、朽ちた木のように一日中座って過ごすのに慣れてしまえば、世の趣と機会を見つけるのが得意な者が、この世界から一人消えることになるだろう。
だから、たまには自分のために楽しむのも、極めて合理的で必要なこと。
たとえ宮司の権利を少し利用したとしても、それは致し方なきこと!
祭りの夜、社奉行から特別に送られた長野原特製花火を見ながら、八重宮司は満足げに頷いた。
その夜の式典はこれまでと同じように、洗練された礼儀作法と厳格な規則のもと執り行われた。
夜闇の中、正座を維持する「宮司様」の見目麗しい姿に、多くの巫女たちが羨望の眼差しを向ける。
流れ星の如く美しい光の雨の中、静かに正座し、祭りに訪れる人々を眺める。
花火の音にかき消されながらも、りんご飴を噛むその口からぽつりと声が漏れた。
「妾が宮司の推薦を受けた時は、祭りを遠目に見ることしかできなくなるなど…聞かされておらんかったのじゃが。」


キャラクターストーリー3
趣味の追求と娯楽の探求、神子が日々を送る上での原則である。
人間を研究するのが好きな彼女にとって、「立場」と「美徳」は、「面白い」の遥か後方にある評価基準に過ぎない。
信仰の異なる大巫女であろうと、敵対陣営の大将であろうと、神子の興味を惹く対象となり得る。
…しかし、時にこの気持ちが、些細な問題を招くことがある。
神社でもっとも神子の興味を惹くのが、真面目な部下や憧憬の念を抱いている後輩などではなく、鹿野奈々という巫女だ。
神子と小説の趣味を共にする同志――鹿野奈々は、早柚の世話に日夜頭を抱えている。
屋内で横になった神子が時折窓をちらりと見ると、逃げる早柚の姿が見え、続いて怒りに満ちた慌ただしい足音が聞こえてくることがある。
その関係はまるで稲妻と雷雨のようで、神子を楽しませてくれるのだ。時には騒ぎをより長引かせるために、わざと間違った方向を伝えたこともあった。
ある時、昼寝する時間を確保してくれた神子に早柚は礼を言い、午後の日差しが一番気持ちよく当たるところを教えてくれた。
それに触発されてか、とある晴れた日、神子は稲妻の一般的な女性に姿を変え、山を下りて一日を過ごした。
町にある「秋沙銭湯」、花見坂の「木南料亭」、通りにある「小倉屋」…どれも欠かさず、すべてを満喫した。
夕方になると、旅先で聞いた動物の失踪事件の依頼をするため、「万端珊瑚探偵所」へ向かった。
「シクシク、飼い主が大泣きして可哀想な思いをしておる。どうか探偵殿、何とかしてやってはくれぬか。」
それを伝えた後、彼女は再び町を歩いた。その顔には、いつしか笑みが浮かんでいた。
このような身分で稲妻の日常生活に関われるとは、実に愉快なこと。
通りがかった九条裟羅から、疑いの眼差しを向けられなければもっとよかっただろう。
ただ「秋沙銭湯」の店主には申し訳ないことをした。異国情緒あふれる温泉は実に良いものであったが、うっかり狐の毛を湯船に少し残してきてしまった。


キャラクターストーリー4
遥か昔、人間が妖怪たちの物語を話す時、まだ「昔々」という言葉をつける必要がなかった時代。
大空には天狗、荒野には鬼衆、小道には妖狸、俗世には仙狐がいた。
鳴神という大きな旗印のもと、妖の衆は想像を絶するような力をもってして焼畑農業に手を貸し、苦境の時代を生きる人間たちを助けた。
山に避難し、海辺に城を築いたのが稲妻の始まりである。
妖の中でも「白辰狐王一脈」はもっとも尊く、大妖怪を代々輩出することから、俗世でも無数の伝説を残していた。
稀に妖たちが集まって酒を酌み交わすことがあるが、その時には自分たちの新たな伝説を自慢げに話すのがお決まりとなっていた。
酒を飲みながら話す言葉は、どうしても事実と異なる部分が出てくる。だが、そんなことを気にする者などいない。ただ楽しく話を聞ければいいのだ。時を経て、いつしかそれは「百物語大会」となった。
当時、盃を高く掲げながら談笑し、妖たちの目を引き付けたのが有楽斎だ。宴を催した狐斎宮も、笑みを浮かべずにはいられないほどのものであった。
まだ幼い狐の姿であった神子は、いつも狐斎宮の肩に乗り、有楽斎が話す物語の矛盾を指摘していた。
無論、有楽斎も頭の回る知恵者である、髭を触りながら話の修正をした。
だが、それでも神子は新たな矛盾点を見つける。斎宮様が笑いながら、「皆、次のくだりが聞きたい頃よ」と止めるまで、そのやり取りは繰り返された。
酒が三度回ってくる頃には物語も数巡し、どの妖もまともに言葉を紡げなくなるほど酔っぱらっていた。
そうなると妖たちは語るのをやめて、妖力を用いて空へ駆け上がると、誰が一番上手く空と月を覆い隠せるか競い合うのだ。
それは――「無月の夜、百鬼夜行」と呼ばれた。
あれから五百年の時が経ち、当時の小狐も今や天地を揺るがすほどの大妖怪となった。
かつて共に酒を酌み交わした妖たちは、戦争と歴史の中に消え、生き残った血筋も日に日に薄れてゆく。
そうして「百鬼夜行」は、ついに「昔々」の伝説となったのだ。


キャラクターストーリー5
稲妻の刀剣は古来より世に知られており、「雷電五箇伝」は国にとっても重要なものである。
だが、わずか数年のうちに五つの伝承はそのほとんどが失われた。
無数の有力者がその陰謀に巻き込まれ、関与した一族は皆、責任を負って追放された。
この一件により社奉行の神里家でさえ、部下の監督不行き届きで責任を問われることとなった。
だが、将軍が最終的な判断を下す前に、長いこと政事に関与してこなかった宮司様が突如将軍に進言した。これにより、嵐の中にいた神里家は救われたのである。
神里家は大きな被害を受けたものの、免職だけは避けることができた。
それから数年に渡り、巷では宮司のその行動について、様々な憶測が飛び交った――
ある説では、社奉行は鳴神大社と親密な関係にあり、此度の行動は自らに忠誠な代弁者を増やすためだと言われた。
――しかし、鳴神大社は元より一派を築いており、ましてや日常的に宮司が政事に関与することはない。社奉行を助けても見返りは少なく、賢明な選択とは言えないだろう。
また、ある説ではこう言われている。宮司も当然不審に思ったが、巻き込まれた者があまりにも多かったのが原因ではないかと。社奉行にまで影響が及べば、稲妻の情勢が揺らいでしまうと考えたのだろう。
――ぱっと見、理にかなった憶測のようにも思えるが、よく考えればそうではないことが分かる。権力を持った一族の栄枯盛衰は世の常。たとえ神里家が力を失ったとしても、新たな主が社奉行に就く、ただそれだけのことだ。
その他にも、嵐が収まった後に神子が当時の神里家当主と密談していたという話がある。
――しかし、老齢で深い傷を負った神里家当主など、まさに風前の灯火。大局を左右するほどの力が、どこにあると言うのだろうか。
そうして、それら憶測が真相を暴くことはなかった。
だが、人々は知らない。当時、神子から送られた言伝が、さながら家訓の如く神里家に残されていることを。
「神里家が此度の件において生き残れたのは、将軍の寛大さゆえのこと。これから先、決して将軍の恩義を忘れるでない。」
この言葉は因縁の種となり、社奉行の未来を位置づけることとなった。
この先、稲妻に嵐が訪れたとしても、社奉行神里家は受けた恩義を忘れず、「将軍」の永遠へ至る道を守るだろう。
それは盤上において、宮司が打った悔いなき一手であった。


「鎮火の儀」
「鎮火の儀」はかつて、天領奉行が中心となって鳴神大社で行われていたものである。これから先の一年の加護と火難除けを祈願するための定例行事だ。
稲妻の家屋は多くが木造であるため、些細な火の不始末が不幸を招くことになる。
天領奉行は将軍の命により火消し隊を設立し、鳴神大社に「鎮火の儀」を執り行ってもらって、民衆の憂いを取り除いた。
その数百年後、火の用心は次第と人々の心に根付き、大火は起こらなくなった。しかし、それでも年に一度行われる「鎮火の儀」は残り続けた。
巫女たちが舞を踊り、民衆がモラを納める…奉納されたモラは、天領奉行が四、神社が六の割合で分配された。
八重神子が「八重堂」の設立を考えていた頃のこと、資金不足に悩まされていたことがある。それを解決すべく、神社で行われている行事を見直した結果、古くから伝わる「鎮火の儀」に目を付けた。
「せっせと働いておるのは鳴神大社じゃというのに、なにゆえ天領奉行にも分け前をやる必要があるんじゃ?
それに、集まった金銭もすべて九条のじじいの懐に入り、火消し隊は年末の特別給与すら出ないではないか。」
こうして、その年の「鎮火の儀」は巫女の舞ではなく、活気あふれる娯楽小説の募集大会に変更された。
その際、大会の運営や作品の出版を担う「八重堂」も、「鎮火の儀」の経費で無事設立されている。
出版した本の収入は、当然ながらすべて神社の懐に入った。
「火災が頻繁に起こらなくなった今でも、奉納金は年々増えておる。此度の改変は民の財を無駄にするのを防ぎ、生活に支障をきたさないようにするためのものじゃ。
それに起源を遡れば、詩文や書画はもとより娯楽の一種――よもや汝ら、妾より祭礼に詳しいと言うつもりではあるまいな?」
突如訪ねてきた九条孝行を前に、八重神子はそう言い放った。
天領奉行様はやむを得ず部下と共に、暗い面持ちで影向山を下りたという。
しかし、彼らは知らない――自分たちが神社から出た次の瞬間、背後で真剣な顔をしていたはずの神子様が、注釈の途中まで入った原稿を奉納箱から取り出したことを。


神の目
「あれは天を揺るがすほどの戦いじゃった。敵は海を切り裂き、空を踏みにじり、天地の色さえも変えてやって来たのじゃ!
宮司様は御幣を手にし、厳かな姿で影向山の頂上へと向かった。
そばにいた巫女たちが秘呪を唱えると、瞬く間に雲が太陽を覆い隠し、雷鳴が轟いた!」
「……」
「戦いは長引き、たとえ宮司様であっても疲弊を隠しきれなかった。その隙を突き、敵は怒涛の一撃を繰り出す!
その瞬間、天から一筋の雷光が流星の如く降り注ぎ、宮司様の目の前に落ちた。なんとそれは――光り輝く神の目だったのじゃ!
宮司様は迷うことなくそれを掴み取り、自らの神威を見せ…」
「ストップ、ストップ!それぜったい嘘だろ?」
「ん?なら他の話にしよう。あの日、妾は花見坂で何とも豪快な『ラーメンの大食い対決』をしておった…」
「ラーメンを食べただけで神の目が手に入るかよ!」
「なんじゃ、面白いと思わぬか?汝らが聞きたいのは、こういった『物語』じゃろう?」
旅人の好奇心に対し、八重神子は謎めいた笑みを浮かべる。
「それに、たとえ『妾の神の目は箔を付けるための飾り』だと言っても――汝は信じぬじゃろう、童?」

行秋

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キャラクターストーリー1
行秋にとって、「儚い人生の中での一瞬」には様々な意味が含まれている。
「万文集舎」で新たに入荷された小説を読む時があれば、「和裕茶屋」でオーナーの雲菫に新しいドリンクを開発してほしいと駄々をこねる時もある。
そしてたまに、「一人で人助け」ということを指している時もある。
匪賊を倒したり、怪物を駆逐したり、泣いている子供のために木に引っ掛かった凧を取ってあげたり…それは全て行秋にとって「人助け」なのである。
そして、武侠小説によくある「身分を隠して訪問する」物語のように、冒険の終わりに、武力では解決できないような複雑な問題を飛雲商会の力で解決することも、行秋は少しも躊躇わないのだ。


キャラクターストーリー2
ある日、行秋の兄は弟の元を訪れたが、部屋には誰もいなかった。行秋が戻った時、廊下で待つ兄とばったり会った。
「お前の部屋があまりにも汚いから、片付けておいたぞ。行秋よ、お前は俺と同じ、飛雲商会を背負う人間なのだから、みんなの手本となる人でなければならない。部屋の乱れは心の乱れだぞ。昔、仙人様が…」
30分も説教した後、兄はやっと彼を解放した。しかし、次に兄は不可解な言葉を残した。
「次からもうお前の部屋には勝手に入らない。使用人たちにも言っておくから」
訳の分からない言葉に、行秋はどう返事すべきか分からなかった。そして、そんな行秋を置いて部屋を出た兄は、悲しい表情で独り言を漏らす。
「ベッドの下に本を隠すなんて…どんな本かはお兄ちゃんは見ないでおくから。はぁ、行秋も大人になったんだな。俺の事も口うるさい奴だと思ってるのだろうか。そうか、これが…思春期というやつなのかな?」
――その後、行秋自身もおかしいと思い始めた。自分が大量の武侠小説を隠しているのは、使用人たちの知恵と勇気を試すためだったのが、なぜ今日になっても誰も探そうとしないのだろう。


キャラクターストーリー3
数年前、行秋が緋雲の丘にある本屋「万文集舎」に入り浸らないよう、父親は、武芸を学ばせるために彼を「古華派」に送り出した。しかし「古華派」はすでに没落した門派で、きちんと教えられる師範もいない。申し込んだ際に見た豪華な道場でさえ、一時的に借りたである*と行秋はすぐに察した。
もちろん、父親はそれを承知の上で彼をそこに送った。趣味や娯楽として、見た目が華やかだけの剣術を習ってもらうつもりだったからだ。
しかし、皆の予想を遥かに超える出来事がおきた。様々な知識を本で学んだ行秋は、すぐにコツを掴み、己の知識を使い、長らく没落していた古華武術を振興させたのだ――もちろん、それは少し経ってからの出来事である。
入門したばかりの行秋は、最初こそ古華派の実力に失望したものだが、世渡りに使う「小策」を目にした瞬間、やる気が沸き上がった。
石灰の粉、煙霧の砂、紙の魚、剣を飲み火を吹く…商人の家に生まれた行秋は、このような豊富な選択肢を持つ感覚が好きなのだ。
そして、きっとこれは自分の人助けにも役立つものでもある。この時、彼は古華派の奇術を全て覚えると決めたのだった。


キャラクターストーリー4
剣客のお坊ちゃんである行秋は、よく知らない人の前では物静かだが、本当はとても活発で、親しい人に対してかなりお喋りである。そして、彼の兄ほどではないが、十分やんちゃでわんぱくでもある。
そんないたずらっ子な行秋の被害者は、主に璃月周囲の山道を往来する方士――重雲である。
「重雲、重雲、昨日幽霊が出る屋敷を見つけたよ。手慣らしにうってつけだ」
「重雲、重雲、信じてくれ、あのお化け屋敷の罠は僕の仕業じゃ…えっ?お化け屋敷じゃない?えっと、それは僕も予測できっこないよ…」
「重雲、重雲、そんなに睨まないでくれ…ほら、君あざだらけだから、休んだほうがいいよ…」
「重雲、重雲、うちにスメール国の責族の家でオイルセラピーを学んできた使用人がいてさ、彼女に君の傷を診てもらおう、嫌とは言わないでくれよ…」


キャラクターストーリー5
「義侠心」という言葉の解釈は十人十色かもしれない。
自由に生きることだったり、善悪がはっきりしていることだったり、正義感を持つことだったり…
行秋にとって、「義侠心」の意味はいいことをして、いい人になることである。
本来、璃月港の商人の子供として、彼の本分はビジネスの場で生きることだ。「義侠心」からは離れていくはずだった。
しかし「神の目」のおかげで、彼はかつて憧れることしかできなかった「伝説の逸話」を、自ら作れるようになった。
もちろん、商会のことを放っておくわけにはいけないが、自らの手で人助けすることは、行秋を満ち足りた気分にさせてくれる。
行秋の笑顔が崩れるのは、他人が「任侠」に対してくだらない憶測を述べた時だけだ。
地位、名利、闇取引…任侠の心をこう解駅されると、彼は表情には出さないが心の中で必ず相手をブラックリスト――彼の一番嫌いなニンジンよりも下等の位に入れる。


『沈秋拾剣録』
行秋が自分の経歴を元に『沈秋拾剣録』という武侠小説を書き、璃月港で出版しようとした。
しかしながら、璃月港の出版社に「常軌を逸した設定につまらない物語の展開、誰もこんな少説を読まないぞ」と出版を断られた。
納得行かなかった行秋は自分で数冊を印刷し、こっそりと勝手に行きつけの本屋「万文集舍」に置いた。残念ながらこの本に興味を持つ人はほとんどいなかった、行秋はかなりショックを受けた。
でも行秋は知らなかった。たまに通りかかった稲妻の商人がこの本を母国に持って帰ったところ、小説は稲妻で大人気を得た。さらに稻妻の文人は皆行秋の書き方を模做し、たくさんの小説を書いたが、『沈秋拾剣録』を超えた小説はなかった。あれからこの小説は常に稲妻の文壇の一角を占めている。


神の目
ここ数百年、武学門派「古華派」はどんどん没落していった。最盛期の「古華派」は、槍と剣法で璃月で名を轟かせていた。噂によれば、古華派には門外不出の三つの秘術がある――槍法「刺明の法」、剣法「裁雨の法」、そして剣と槍の二刀流の「生克の法」。この三つの秘術は、歴代の当主の工夫によりどんどん強くなり完成の域に達したが、威力だけがどんどん弱くなった。そのせいで古華派が衰退し、門生も去っていった。…三つの秘術はお蔵入りになり、次の継承者の出現を待つことになった。
数年後、衰退した古華派に行秋が訪れた。ここ数百年の問で、四年以内に「武理」を悟った者は行秋しかいない。
古華の槍や剣術の神髄は「剣を指の加く使う」ことだ。璃月の数々の門派ではごく普通の考えである。しかし、行秋は違うと思った。槍と剣の使用の根本は「神の目」の使用だと。武人なら「神の目」を自身の体の一部だと思い、そして槍と剣を「神の目」の一部だと考えるべきだ、というのが行秋の考えである。すなわち、槍術と剣術の本質は瞳術そのもの。
真理を悟った行秋は、歩理の口訣を作成した。当時の古華派の当主はそれを読み涙を流し、そしてその場で宣言した。「行秋が古華派を必要とするのではなく、古華派が行秋を必要とするのだ」。あれから、この口訣は古華派の要地である「王山厅」に保管されるようになった。部外者だけではなく、門生も閲覧禁止となっている。
以下は口訣の全文である。
長きこと古華派の武を修錬し、其の奥義全て習得せし。古華槍と剣術は古臭く、今変革の時なり。
古華の剣、雨に打たれし花びらの如く。花びらは拾えど、雨は拾えず。古華の槍は燃ゆる燈火の如く。燈火は消え、そして又燃ゆ、まるで燃えたり霞のごとし。
燃ゆ霞のひかり、何といふかがやきならむ。人は剣を己が身の指とたとえれど、我は剣人の目と思えし。
眼差しは物にとらわれず、正に活殺自在の剣なり。其の疾きこと龍の如く、目は剣、横目は槍なり。
――実は、この口訣が未公開になった理由はたった一つ、行秋の字が汚すぎるからである。

宵宮

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キャラクターストーリー1
稲妻人にとって、花火は夏の印だ。
定期的に開催されるそれぞれの祭りではいろんな出し物を見られるが、花火だけは永遠の定番である。
その故は百年前。社奉行は「記念」を題に素晴らしい花火大会を当時の花火大会は名を馳せていた花火の名家に任せていたのだが、これが「長野原花火大会」の起源である。
その後、花火がだんだん普及してきて、「長野原花火大会」もすべての民が参加できるようになった。
花火大会では、誰もが気に入った花火を自分の手で打ち上げられる。そして「長野原花火大会」で最適な場面で、一番盛大な演目を披露する。
宵宮が店主になった年に、初めて用意した花火大会は息を呑むほどの美しさであった。
その花火大会が始まる前、神里綾華はこう宵宮に言い聞かせた。「大御所様も今回の花火大会をご覧になります。ですので、どうか大御所様の家紋ーー「雷の三つ巴」を花火に入れてください。」
宵宮は自信満々に答えた。「うちに任せとき!」
大会が始まる前に、宵宮は城内の隅々まで走り回り、花火を配置した。そして目玉として、打ち上げられた花火は長大な絵巻物となり、空に掛かる稲妻 城を描いた。
しかし神里綾華はどの花火にも肝心の 家紋を見つけることができず、宵宮の計画にずれが生じたかと考えた。
その後、宵宮に聞いた神里綾華は、空に掛けた城に「視角」と言う技巧が用いられていると知った。
天守閣から見下ろすと、満開の花火は雷電将軍の家紋となり、さらに、可愛らしく花で飾り付けられていた。
宵宮が花火大会でしくじるはずがないだろう?彼女は民と雷電将軍の心を同時に得た上、その祭りを大勢の人の記憶に残るものにした。
宵宮がいれば、稲妻の夏に咲き乱れる花火は欠けない。「夏祭りの女王」の二つ名は、これによって生まれた。


キャラクターストーリー2
「長野原」の花火は人気が高く、お店は常に賑わっている。そのため、目的もなくお店を訪ねると店主に迷惑をかけてしまうと、人々は思っている。
しかし宵宮の性格はその真逆で、人と話すことが好きなのだ。もし仕事の際に話し相手がいないと、彼女は集中できなくなる。
もし店に訪れた客とじっくり話すことが「お客さんの心を理解し、最高の花火を作るため」ならば、宅配したついでに、お茶を飲みながら雑談することは、自分へのご褒美になる。それでも満足しない時は、帰り道に近所の人たちと熱く話し、お菓子をもらって帰る…
宵宮は人と喋る時、いつも「聞く」と「話す」の均衡を、絶妙な匙加減で保つことが出来る。
口数、距離感、情熱、どれもが程よいのだ。宵宮とのお茶会の後は、みんないい気分になる。
近所の人たちは普通の人であるため、同じ会話を繰り返すことが多いが、宵宮はそれを全く嫌わない。
彼女が楽しんでいるのは人と触れ合う過程だ――同じことでも、話し手が変われば、違うように聞こえるから。
花火屋を受け継いでから、宵宮と近所の人たちの関係はますます良くなってきた。年寄りの多くは宵宮を友人と思い、宵宮を自宅に招いて昔の祭りの話をしたりする。親の年齢の人たちは、子供との関係を円滑にしようと、宵宮に頼む。若者たちは宵宮と兄弟のように接して、花火運びを手伝ったり、共に子供たちを遊びに連れて行ったりする。
宵宮はこう語る。「言葉には特別な力がある、話し合って解決出来んことはない!」


キャラクターストーリー3
卓越した技術を追求する職人は、厳格で自分を律する傾向にあるが、宵宮は例外だ。彼女は自由に行動し、行動に規律が全くない。
たまに人との雑談が長引いて、昼の仕事が終わらなかったら、徹夜でこなす。夜が明けると、仕事完了の達成感と共に高い所に登って日の出と金色の流れ雲を見る。その景色は、いつも宵宮に刺激を与えてくれる。眺めていると、様々な花火模様が新たに脳裏に浮かんでくるのだ。ただし、眠気も共にやってくる…
宵宮はよく、軒先や木の枝、止まった水車などで寝ているところを近所の人に発見される。たまにうっかり落ちてしまうと、楽しい夢が目の前で飛ぶ星と共に消えていく。
幸いなことに、これまで大きな怪我はしていない。かすり傷は結構あるが、その対処法も数を重ねるごとに覚えていった。
たまに、夜中まで寝て、用事を済ませた後に出かける。
気まぐれの冒険や、肝試しかもしれない。友達に興味があればみんなと行動し、一人でいたければそのまま外出する。
自由気ままな生き方の方が、宵宮は楽のようだ。いつでも、どんな時でも、彼女に邂逅する可能性がある。彼女は自由を楽しんでおり、その結果、人生もより面白くなったとよく口にしている。
もちろん、重要なお祭りの前は頼もしい自分に戻り、真面目に、演出という「仕事」の準備を行う。


キャラクターストーリー4
日頃の「長野原花火屋」は、花火以外にも色々な記念品を販売している。これは宵宮の副業とも言える。
棚に並ぶ記念品は様々で、その一部は北斗からの舶来品で、ある程度改造され、独創的な工芸品となっている。もう一部は、宵宮がピンときた時に練習で作った物である。
ぶつかると花びらが咲き出す「散華ビー玉」、回ると鳥の鳴き声がする「小躍りこま」、飛ばすと色が変わる「虹とんぼ」、それと、とても成功とは言えない「オニカブトムシ戦車」…
これらの記念品は子供にだけではなく、多くの大人たちにも大人気である。「荒瀧派」の頭である荒瀧一斗までわざわざ記念品を買いに来て、彼の言う強敵と雌雄を決めるぐらいだ。
宵宮が作った記念品はおもちゃだけではない。少しの創意を加えれば、日常生活に役立てることができる。その中でも典型的なものが、各種の燃焼材と香料を入れた輪、「螽取り輪」だ。夏の夜、それに着火すると、蚊などの虫を退けてくれる。
宵宮の腕を見て、隣の人が手伝ってほしいと言い出す。「花火屋は万事屋ちゃうでぇ、うちもなんでも手伝うわけやない」と、宵宮は答えるものの、誠心誠意、相手の力になろうとする。例え一日苦労した報酬でおやつしか買えなかったとしても、彼女は楽しんでいるのだ。何せ、花見坂のみんなは宵宮のいいお友達だから。


キャラクターストーリー5
「彩霞で花火を取っかえて、花火は願いを知っている。願いは夜空に昇り行き、夜空はそれを映し出す。」
これは昔からある名のない歌だ。ここ数年、この歌の意味を勘違いしてしまう子供たちがいる。キラキラと光った物を取ってきたら、宵宮お姉さんのところで自分だけの特製花火を交換できると信じているのだ。その花火に点火すれば、将来、願い事が叶うと言われている。
そのため、花見坂の子供たちはこの歌を口ずさみながら、辺りで美しいお宝を探し、宵宮お姉さんのところへ持っていこうとする。
宵宮も最初は戸惑ったが、子供たちの歌に対する解釈を聞いた後、その求めを受け入れ、彼女の意見を口にした――歌にある彩霞は、キラキラとしたお宝ではなく、宵宮お姉さんが「輝いている物」と認めるものにしよう。それがたとえ川にある石でも、海辺にある貝殻でも、宵宮はそれと引き換えに美しい花火を作ってくれるという。
もし子供たちが見つけた物が貴重な品だった場合、宵宮は逆にそれを普通の物と称し、子供たちと一緒に落とし主を探す。
お宝が輝いているかどうかは重要ではない。大切なのは、「彩霞」を「花火」と交換できるという子供たちの信念なのだ。
たとえ他人の目には幼稚に見えても、宵宮は子供たちの美しい願いを守るために出来る限り尽くす。
「子供の頃に信じたもんや経験したことは、大人になったらかけがえのない宝もんになる。」
稲妻の伝説を描いた絵本には、しばしば以下のものが登場する。悪戯好きでかわいい「袋貉」、威風凛々とした「柴犬武将」、神出鬼没な「折り紙鵺」…
妖怪をこのように可愛らしく、粋のある形に描いたのも、同じ考えを持っていたからかもしれない。
宵宮のそばにいる子供たちは、鎖国の中でも楽しい日々を送っている。
宵宮自身の童心と活力が、夜空に舞う花火のように、星のように、常に輝き光を放っているのだ。


宵宮の飴箱-「甘々宝球」
お祭りになると、宵宮はすべての屋台のお菓子を食べ、様々な飴を集めて丁寧に包装し、小さな飴箱に入れて保管する。
宵宮の飴箱は朱く円形で、精巧な紐と飾り物がついており、彼女が普段使っている髪飾りに似ている。
宵宮は嬉しい出来事があると、飴箱から飴を取り出して食べる。友達や子供がいれば、必ず彼らにも飴を分け与える。
近所の人はいつも宵宮の髪飾りと飴箱を間違えるため、「甘々宝球」という別名を付けた。
飴箱が軽くなるスピードは、宵宮の幸福度の指標となる。
空になるのが早ければ早いほど、宵宮は幸せなのだ。
たまに、忙しくなると、誤って飴箱を髪飾りとして付けてしまう。一日の仕事が終わるまで、それに気付かない場合もよくある。
それがきっかけとなり、それ以来、彼女はその二つを交代制で使うようになった。
「宵宮姉ちゃんの髪飾りに飴が入ってるか当ててみぃ。当てた人は、好きな飴を選んでええよ!」


神の目
いつもは口数の多い宵宮だが、花火が空に上がる時だけは別だ。彼女にしては珍しく黙り込み、夜空に浮かぶ絶景を見上げる。
花火は刹那に過ぎ去り、須臾であると人々は言う。しかしそれが美しいものであれば、人の心に永遠に咲くだろう。
花火を共に見た人、その瞬間の美しさ、それらは感動と共に深く脳裏に焼き付き、一生の思い出となる。
何年も経ってから再び同じ花火を見上げた時、その感動はきっと潮のように心まで流れ込むだろう。
これもまた、「永遠」と呼べるのではないだろうか?
「長野原」家に独自の花火の配合があるのも、まさにこのためである。
感情と願いを花火に込め、刹那の存在を永遠に変える。宵宮が行っているのは、そういうことなのだ。
「長野原花火屋」を受け継いだ後に訪れた初めての夏の夜、宵宮は眠れずにいた。空が朝を象徴する灰色を現すまで、彼女は一生懸命研究をしていた。
突如、軽い音がした。赤く燃える物が花火の筒に忽然と落ちていた。
当初、宵宮はその「神の目」を着火器具として使っていた。幸いにも宵宮の父親がすぐに気付き、彼女にその物にある重要な意義を教えた。
小さな「神の目」は、信じられないほどの力をもたらすことができる。だが、子供たちを守り、騒ぎを起こす魔物を倒す以外に、何に使えるというのだろう?
宵宮は考えた。たとえ用途があっても、自分にとってはその程度の物でしかない。なぜなら、自分はただ楽しさを追求し、幸せに日々を過ごしている花火職人に過ぎないからだ。
それから時が経ち、宵宮も「火焔」のコントロールが上手くできるようになり、花火作りもますます熟練していった。
時折、彼女は自分に問う――自分のような普通の人間でも、神様に認められた。いったいなぜ?もしかして…神様も花火が好きなのだろうか…?

ラ行

雷電将軍

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キャラクターストーリー1
雷電将軍、本名を「雷電影」。
彼女は遥か過去より歩み、稲妻が千百年にも渡り払ってきた数々の代償を経験した。
最も幸福であった歳月は過ぎ去り、かつての友は敵に。そして最後、刀を握る理由さえも失った。
「前へ進めば、必ず何かを失ってしまいます。」
これこそが、時間を媒介にして全ての世界に作用する揺るぎない法則であると、影はそう思った。
最も繁栄していた人の国が一夜にして崩壊し、最も歴史のある璃月港が岩神に別れを告げた。別れの風は、時間の向こう側から吹いてきている。
「雷電将軍」の名声は今も知れ渡っているが、幾星霜の年月が経てば…いつの日か、稲妻は神の庇護を失うことになるだろう。
武人として、あらゆる敵を警戒する。たとえ時間のように虚空なる脅威であっても、必ずその日が訪れる前に反撃の糸口となる武器を見つけ出す。
彼女の答えは「永遠」。「永遠」のみが全てのものを維持し、稲妻を不滅の国にすることができるのだ。
「ならば、全てがまだ美しいうちに止めましょう…このまま…永遠へと。」


キャラクターストーリー2
肉体に閉じ込められた魂が「永遠」を追求するのであれば、寿命を避けて通ることはできない。
限られた時間が影の頭を悩ませた。ある日、不思議な技術が運命に導かれたかのように、彼女のもとへ届く。
この技術があれば、まるで本物の生命体であるかのような精巧な人形を作り出せる。
理論上、人形は影の全てを完璧に再現することが可能であった。それは寿命の限界を超え、稲妻を永遠に庇護することを可能にする。
しかし、神の複製体を作るのは、そう簡単なことなのだろうか?
影はこのために数え切れないほどの実験を行った。失敗作を大量に処分し、想像を絶する時間と材料を費やしてきた。
その執念と武人の志によって、彼女は完璧な人形を作り上げたのだ。
新生の「雷電将軍」は静かに座り、影が話す彼女のこと、そして「彼女」と彼女たちにまつわることに耳を傾ける。稲妻の未来は、輝かしい青図として描かれた。
彼女は影に対して一つの疑問を抱いていた。「肉体を捨てるということは、もう後戻りできないということ。あなたは後悔していないのですか?」
「あなたの存在が私の答えです。」
その後、影は刀に宿る意識となった。「一心浄土」は、こうして誕生したのである。


キャラクターストーリー3
将軍になる前の雷電は一介の武人であり、先代の命令に従っていた。
先代の雷神、雷電眞は武力に乏しく、戦いや殺しの仕事を影に任せていたのだ。ただ影には殺戮だけではなく、友人と櫻の木の下で歌やかるたに興じ、のどかに過ごす時間もあった。
その性格ゆえか、遊戯中の影は朴訥としていた。彼女が最終的な勝者になることも、狐斎宮様が特別に用意した賞品を獲得することもなかった。
そんな彼女は、武道の修行に充てていた心血を、歌とかるたの修行へと注いだ。眞と御輿千代にかるたの勝負を申し込んだり、月明かりの下でひとり詩歌を読んだりした。
ある日、櫻の木の下で影は勝ち進み、最後は天狗に勝ち、ついに勝者の座につくことになった。
影は勝利に歓喜したが、友人の笑い声を耳にする。とっさに自分が冷静さを欠いていたことに気付き、慌てて両手を下げると、凜とした冷たい顔に戻った。
もちろん、友人たちは嘲笑っていたわけではない。彼らは影のことをよく知っており、きっと勝利のために努力してきたのだろうと思ったのだ。
狐斎宮様も笑みを浮かべながら、菓子を影に渡す。
「褒美といっても、妾が作った菓子に過ぎぬ。まさか影がそこまで喜ぶとは。ならば、この勝者だけが手にできる褒美をじっくりと味わうがよい。」
無論、影は菓子を欲していたわけではない。武人として、負けたのならば勝つまで挑む。この菓子は、彼女の勝負に挑む心構えへの褒美だった。
影はすぐにまた無意識のうちに微笑んでいた。勝利の味もさることながら、この菓子は影の舌を唸らせたのだ。その笑顔を隠そうとする不器用な彼女の姿に、友人たちはまた笑みをこぼす。
今でも影は、その櫻の木をよく思い出す。
長いこと見に行っていなくとも…たとえ櫻の木の下に誰も座っていなくとも、彼女は時間が永遠に止まることを願うのであった。


キャラクターストーリー4
影は、眞が稲妻の風景や美食、人々の物語をこよなく愛し、それを自分に教えるのが好きだったことを今でも覚えている。
二人とも「摩耗」という概念をよく理解していたが、未来を案じる影と違って、眞は現在に目を向けていた。
「儚い景色であることを知っているからこそ、一層楽しむべきではないか。」
それを聞いた影は、自分がただの影武者であったことに反省し、雷電将軍よりも古い考えであったことに苦笑いを浮かべた。影はもっと余裕ある心を持ちたいと思った――そう、眞のように。
しかし、時代は瞬く間に移り変わり、予想だにしないことが影に起こる。気がつくと、彼女の手には死にゆく雷電眞から受け継いだ刀が握られていた。
この日、影武者であった影は、まことの「雷電将軍」となったのだ。
そして、影が「摩耗」の苦しみを本当の意味で理解した日でもある。
時が流れれば、この刀も、あの櫻も…稲妻の全ての生命が目の前で散っていくのではないか。
それらは稲妻の根幹であり、雷電将軍が守らなければならないもの。
「ならば、先行きを読むことは無意味なことではなく…過ぎたことでもない。」
心の内で覚悟が定まり、生命が肉体を超越する、そして永遠は浮世に降り立った。


キャラクターストーリー5
ある夜、雷電影は瞑想中に夢の世界へ入った。
彼女は天と地の間に残された唯一の存在、鏡像のように存在するもう一人の「自分」。
ため息をつくかのような声が人形の口から漏れ出ると、彼女の耳へと届いた。「あなたが心に決めた永遠は、人々の無数の願いによって揺らいでしまいました。ならば、あなたは既に私の敵です。」
人形を作る際、影はあらゆる危険を考慮した。
すべての可能性を考えてきた、最悪の場合…いつの日か自分自身が「永遠」の脅威となることさえも。
しかし、彼女は前へ進み、「永遠」に辿り着かねばならない。その意志は、誰であろうとも決して邪魔することのできないもの。
人形の言葉は、過去の自分からの責苦のようであった。
「過去の自分よりも、今の自分の信念の方がしっかりとしたものだと考えている。だから、今の自分こそが正しい、果たしてそうなのでしょうか?」
同じ顔をしていても、その口から語られる意志は異なっていた。過去の自分と戦う日は、いずれ来るだろう。
だが、それは今日ではない。まだ彼女の準備が整っていないことを、影は知っていた。
澄み渡る心を持ち、無我の境地へと達したが、民衆の叫喚によって足を止めた。
明鏡の上では空が濁りはじめ、無我の殿堂で烏が鳴く。夜明けの時が来た。武士は刀を取らねばならない。
それは泡影の如く、虚像のようで真実のような夢であった。


「夢想の一心」
影のように、今に至るまで受け継がれてきた刀。
二人の主君の手を経て、時と永遠を見守ってきた刀。
それは雷電眞の神威によって生まれたものだが、一度も刃を研がれたことはない。物は主人に倣うもので、眞が戦いを苦手とするように、それも戦わず、眞の思う平和を象徴するものであった。
眞が亡くなった日、それは影の手に渡った。刀は血に染まり、その先端から初めて真紅色が滴ると、荒風と奔雷によって散った。
眞はこれに「夢想の一心」という名をつけていた。それは夢のように美しい稲妻を見届け、この世と共に歩み続ける高貴な心を象徴するかのよう。
影はその名を変えなかった。彼女もその光景を目にしたことで、より純粋でより強い「心」が生まれたからだ。
稲妻の美学とは、まさに浮世の儚き幻夢、その中の大切な瞬間を捉えることである。


神の心
「一心浄土」に住みつく前、影は神の心をどう保管するか悩んでいた。
影はもう神の心を必要としていないが、これほど大切なものを不用心に置いておくわけにもいかない。最初はエネルギー供給装置へと改造することも考えたが、彼女の技術はなぜか神の心に通用しなかった。
そこで彼女の頭に思い浮かんだのが、狡猾で聡明な八重神子。八重神子は頼れる性格ではないが、影にとって最善の選択であったのは間違いない。
頼みを聞いた八重神子は思わず、「妾はこれを売ってしまうやもしれぬ、怖くないのか?」と口にした。
「あなたは神の心の価値を理解しています。たとえそれを売ったとしても、同じ価値のあるものと交換する必要がある、しかしそれは容易なことではありません。」
八重神子のような性格であれば、神の心を売っても不思議なことではない。だが、彼女が決して損を選ばないのも事実だ。
それは旧知の仲である影にとって、言葉にせずとも分かること。八重神子は影の意図を理解し、微笑みながら神の心を受け取った。
「汝からの申し出じゃ、後悔しても遅いぞ。」

リサ

開く

キャラクターストーリー1
リサの仕事は大きく分けて二つある。
一つ目は図書館の書物の整理、二つ目は騎士団の薬剤の供給を保つ事である。
そのため、モンドの人々がリサに会えるのは、騎士団本部で本を借りるか、本を返却する時のみである。
その時のリサは、いつも気怠そうに受付に座り、欠伸をしながら貸出や返却の手続きをする。
そんな彼女を見て「図書館司書がこんな感じで大丈夫か…?」と疑問を抱く人も稀にいる。
しかし、リサの仕事は常に完璧で、少しの手抜かりもないのだ。


キャラクターストーリー2
スメール教令院の学者に「200年に一人」の優等生と言わせるリサの博学多識は言うまでもない。
荒野にいる妖魔に関する禁忌とされる知識、元素に満ちた花薬の処理方法、磁碗を2重に使う事で蒸留過程を1回省ける醸造方法…
リサはいつも分かりやすくその原理を解説できるため、若い騎士と錬金術師の間で「リサさんならきっと知っている」という共通認識が、いつの間にか生まれた。
もちろん、それは適切な時間に彼女の元を訪ねることが前提である。
うっかり二度寝の時間や、アフタヌーンティーの時間にリサの元を訪ねると、どうなるかは言わずもがなである。


キャラクターストーリー3
初めてリサに会った人の多くは、彼女に対し「さすが教令院の天才卒業生」という第一印象を抱いてしまう。
だが実際は、彼女は効率がいいというよりも、面倒事を嫌っているだけである。
薬剤の調合や補充の仕事はガイアを通して、ホフマンとスワンに丸投げ。薬草はフローラを通して、ドンナに届けてもらっている。
ただ、本と書類の整理だけは自分の手で行っている。
知識を自分で管理することが、リサを安心させられるからである。


キャラクターストーリー4
リサが西風騎士団に入ったばかりの頃、第8小隊の隊長を任せられた。
当時小隊佐官のニュンペーは、この件に対してかなり不満を抱いていた。リサのような「学院派」が、隊長という重荷を背負っていられるわけがないと思ったからだ。
そして、庶務長ガイアの同意の下、リサとニュンペーは魔法の「実戦練習」を行った。
練習はたったの2分で終了。その後、リサは「ニュンペー佐官には隊長が務まる程の力が十分にある」と、第8小隊隊長を辞退した。
その後の1年間は、ニュンペーから差し出された隊長推薦書が、団長の机に置かれる光景が度々見受けられた。推薦書に書かれた名前はいつも同じ、リサ・ミンツだ。
それらの推薦書は、最終的にリサの手元へ送られるが、リサはいつも適当な理由をつけて断ってきた。
もちろん、自分が指揮を取れば第8小隊はより強くなるが、それは必要のない強さであり、常人には理解できない力は大きなリスクが伴うからだ。
リサは数多くの局面をコントロールできる自信があるが、予想外の危険は、予想外の仕事が増えることを意味している。彼女には、それがどうしても耐えられないのである。


キャラクターストーリー5
スメール雨林の中で狂言を呟く学者や、評議会の最中に知恵を悟り、超俗の境地に入った賢者をその目で見た後、深淵のような「学問」が人にどんな痕跡を残すか、リサは深く理解した。
これほど重い代価…一体どれ程背負えば、魂の奥からそのような知識を掘り起こせるのだろう?
リサはその全てに反感をおぼえ、スメールを離れた。
その後、リサは何事に対しても真剣な態度を取らなくなった。
「神様に過ぎた奇跡を求める時は、その代価を支払えるかどうか、きちんと考えなければいけないわ」
これは、彼女がモンドに戻った後、聞かせるべきだと思った3人だけに伝えた言葉である。


特製加熱釜
特製加熱釜は、モンド人には理解できない設計を用いたオーダーメイド品である。加熱時刻の設定に材料投入の半自動化、そして保温機能がついている。
これはリサが莫大な予算をかけ、錬金工房を二週間貸し切って作った「特殊設備」だ。
この設備ならハンドルを2回操作するだけで、加熱する際の精密操作が自動的に完成する。
しかしこの機器の出番のほとんどは、リサが書籍の整理をしている間に淹れたお茶を、最高の状態に保つ時である。
リサにとって一日の中で、最も大切な時間はアフタヌーンティーの時間なのだ。


神の目
「神の目」──神に選ばれし者、世界を変える者の証。
或いは、魔導の秘密を探求する道に残されていた小さな注釈。
魔導を研究するためには、元素を理解しなければならない。古書から知識を得るより、実戦の方がいい。
あら、どうやら「神の目」が必要だわ。
\*そう思った瞬間、「神の目」がリサの手の中に現れた。
「神の目」を手に入れたリサは、知りたかった知識を得た一方、その中に隠されていた秘密も知ってしまった。
神はとある理由で、全てを変えられる鍵を手にする代償を、人々に告げなかった。リサはこの「真相」を恐れた。
首にかけられている「神の目」は、リサの心の中に危険な甘い香りを放つ深淵になった。
だから、時折リサは、彼女が興味を持った者に、様々な物事に対する見解を教える。
恐らくリサは、ずっと密かに期待しているだろう。いつか「神の目」の裏にある真実を見抜ける人が、目の前に現れる事を。

レザー

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キャラクターストーリー1
レザーはいつも狼の群れの中で暮らしている。
どの狼とも仲が良く、例えば、誰の吠え声がよく通るか、誰が奇襲に適しているのかなど、レザーが知らない狼はいない。
レザーは風の感情が読め、遠い先のにおいや様々な花草の用途も分かるが、唯一、本当の両親のことだけは分からなかった。
一体どんな人だったのか、いくら頑張っても思い出せない。
物心がついた頃から、彼は狼と一緒に暮らしていた。狼は彼を「ルピカ」――「家族」のように扱っている。


キャラクターストーリー2
空を、小さな歌う生き物が飛んでいる。
雲は長くふわふわで、狼のしっぽみたいだ。
レザーの世界はとても単純だった。
晴れの日に思いきり狩りをして、熟した果物を取る。雨の日には樹洞に隠れ、狼のしっぽを腕に抱き、葉っぱの上で眠る。
肉を頬張って水をごくごく飲む。熱くなったら湖に飛び込んで泳ぎ、喉が乾いたら甘い果物を探す。
レザーは自分の体と腕を見て、そして「狼」の体と腕を見る。
自分は「狼」とは違うと、彼は知っていた。
それでも、今の暮らしをレザーはとても気に入っている。


キャラクターストーリー3
ある日、背の高い男が山に入ってきて、レザーの穏やかな生活に終わりを告げた。
レザーは彼のことを知らないが、「人類」の一員だということだけは分かっていた。困惑したレザーに、相手は優しい微笑みを見せた。
「坊主、一緒にモンドに戻らないか?」
男はそういって手を伸ばしてきた。
レザーも狼たちも、その意味が分からなかった。レザーに近寄らせまいと、狼たちは前に出た。
狼のしっぽの間に隠れたレザーは自分の体と腕を見て、そして狼たちの毛の隙間から「人」の体と腕を見る。
自分は賢くないと知っていたが、あの時、彼の中に一つの疑問が生まれた。
「オレは狼?それとも人間…?」


キャラクターストーリー4
「レザー」という名前は、あの男につけられたものだ。
単純な狼少年は、人間の言葉を理解できなかったが、男の顔を見て、なんとなくそれが自分の名前だと分かった。
「レ、ザー」
奔狼領の木の影が短くなり、また長くなる。
男はレザーに剣を振る方法を教えた。
「鉄の爪」は重いが、木を裂けるほど鋭い。
「これで友達を守るんだぞ」
「とも、だち」
レザーは男の言葉を繰り返したが、その意味は分からなかった。そもそも、名前というものが大事かどうかすらも分からなかった。
あの男の名前を、レザーは最後まで告げられる事はなかったからだ。


キャラクターストーリー5
「師匠、友達とは、なんだ?」
レザーは決して豊富とは言えない語彙の中から、なんとか言葉を見つけて、新しく知り合った師匠に質問した。
じゃがいもを調理する方法から、夏の夜空で一番輝く星の名前まで、紫色の師匠は何でも知っている。しかしリサはその質問にひとつ欠伸をして、笑顔を見せるだけだった。
レザーは考えた。風の日も、雨の日も、ググプラムが髪にくっつくまで考えた。しかし答えは分からなかった。
それからしばらくして、レザーは赤い、熱い女の子に出会った。
彼らは一緒に風に吹かれ、雨に打たれ、ググプラムだらけの灌木帯の傍を転がった。
女の子の名前はクレー。彼女と一緒に遊んだ時、レザーは小さい頃、狼たちとじゃれ合った時の楽しさを思い出した。
「友達は、ルピカみたいだ」
レザーは世の中のことをあまり理解できないが、彼には獣のような原始的で率直な忠誠さがある。
「――じゃあ、ルピカのように、命をかけて守るべき人だ」
狼の群れが遠いところで吠えている。帰ろうと呼んでいるのだ。
レザーは今でも自分は狼なのか、それとも人間なのか分からない。
しかし、この暮らしをレザーはとても気に入っている。


レザーの木箱
気をつけて開けなければ、指を傷付けてしまうくらい粗末な木の箱に、レザーの宝物が入っている。
割れた大剣の柄と『風車アスターと狼』という童話集と枯れた四つ葉のクローバー。
世の中のことをあまり理解できないレザーにとって、これは「友達」が送ってくれたプレゼント、彼の大切な宝物である。


神の目
「神の目」を手に入れた時のことは、レザーが思い出したくないことの一つである。
あれは雷雨の日であった。アビスの魔術師が、背後からレザーを襲った。レザーを救おうと、狼の群れは恐れずにアビスの魔術師に攻撃を仕掛けたが、全滅させられたのだ。
仲間の惨死をただただ見ることしかできなかったレザーは、野獣のように苦しく咆哮した。
――「ルピカ」。
憤怒の雷電が彼の体にまとわりつき、限度を超えた元素力が、彼の身体中に流れた。
守りたい、復讐する。
彼は鎖を断ち切り、武器を持ち上げた。
アビスの魔術師は、この乱れた雷電の力に倒された。だが、倒れた仲間は護れなかった。
……
「神の目」を得たが、その時のレザーはまだこの力の*使いこなせなかった。あれから長い月日を経て、ある日、彼は薔薇の魔女であるリサと出会い、彼女から人類の知識を教わった。
「もう仲間を傷つけさせない」
レザーの「神の目」の扱い方は、日に日に上達している。彼は密かに決意した。もっと強くなる、誰よりも強くなる。
危険なことに遭っても、彼は彼の「ルピカ」を守り抜くと。

ロサリア

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キャラクターストーリー1
ロサリアの規則違反は、教会に百回以上記録されている。
しかし、彼女がそれを気に病んだことは一度もない。同僚と一緒に行動することもなければ、市民と交流する場にもめったに現れない彼女。
変わり者で謎の多いロサリアは、まるで黒い煙が立ち上るかのように、目を離すとすぐに消えてしまう。
さらに人付き合いをすることがほぼなく、誰とも関わり合おうとしない。
シスターヴィクトリアによると、心優しいバーバラだけはロサリアと交流を図ろうとしているらしい。
「教会でタバコを吸わないでください」、「時間通り式典に出席してください…」
「あの…話を聞いてください!」と言った具合に。
ロサリアの後を追いかけては、仕事をするよういつも優しく彼女を諭すバーバラ。
しかし、モンド城の人々が愛するアイドルであろうとも、ロサリアは無関心な態度を貫く。
彼女は…冷酷な人間なのだろうか?


キャラクターストーリー2
ロサリアはよく姿をくらます。居場所を告げることなく姿を消しては、数日間戻ってこないことも珍しくない。
彼女が姿を消すたび、教会のシスターたちもどこを探せばいいのか見当がつかないという。
あるシスターが彼女を監視していた時、「拾われた野良猫だって、逃げる時に一言いうわよ!」と、ため息交じりに愚痴をこぼしたそうだ。
姿を消した後、ロサリアは人知れぬ場所で、彼女にしかできない仕事を処理している。
見たことのない商人、怪しげな旅人、これら人物がモンドに害をなすか否かを見定めているのだ。
調査、追跡、必要とあらば拷問も。
モンドにとって好ましくない人物がいれば、最後に会う人物は必ずロサリアとなるだろう。
日の目を浴びることのない影の仕事を、ロサリアは全て担っている。
彼女は日が沈むと同時に仕事に出て、処理すべき問題を一息に片付ける。そして、帰りが夜明け頃となれば、朝日が昇ると同時に一杯のワインを嗜む。
モンド人は金色の日差しの下で日常を享受するが、ロサリアは銀色の月光の下で息をする。
透き通るような凛冽なる月光は…まさしく彼女が操る氷元素と同じだ。
「若者が知る必要のないことよ」
ロサリアにとって、太陽の下で暮らすモンド人は老若男女問わず「若者」なのだ。


キャラクターストーリー3
あらゆる物事に対して関心を持たないロサリアは、まるで捉えどころのない煙のようだ。
しかし、そんな彼女も仕事になると纏う空気が一変し、任務を果たすため全力を尽くす。
普段は怠惰な態度が目立つロサリアだが、不審人物を拷問する際にはそれもなりを潜め、決して手を抜くことがない。
また彼女は並外れた腕力の持ち主であり、人体の急所にも精通している。人を痛めつけることに対し躊躇いがなく、殺すことも厭わない。
怠惰で、ヘビースモーカーで、シスター…しかし、その裏の顔は優秀な処刑人なのだ。
神の威光のもと生きる彼女だが、その背には重い使命がある。
その手を血に染め、死刑執行人になったのはなぜなのか?なぜ神の祝福を拒絶するのか?
ましてや、ロサリアはモンド生まれではない、そんな彼女がこういった暗部を担っていることにも疑問が残る。
「このような幸せで退屈な街には、汚い仕事をする人がいても当然」
ロサリアは紫煙をくゆらせながら、気怠げにそう言う。
「私にとって、この種の仕事は真っ当なシスターとして過ごすよりもよほど簡単だわ。」


キャラクターストーリー4
祈りを捧げることのないロサリアだが、神学に対して独特の見解を持っている。
彼女曰く、自由はモンドの人々にとって心の支えであり、彼女が今ここにいるのも自由のおかげだという。
ロサリアは人里離れた山奥にある村の出身だ。だが、彼女が生まれて間もない頃、盗賊が村を襲い、ロサリアはその盗賊に拾われることになる。
盗賊に育てられた彼女は幼い頃より戦うすべを叩き込まれ、盗賊として活動しながら雑用係をし生きることになった。
その生活はまさしく奴隷であり機械のよう。彼女は子供でありながら盗賊であった。
外からの脅威と戦うだけでなく、時には仲間であった者とも戦い、飢えと寒さに苦しみながら、弱肉強食の世界で育ったのだ。
ロサリアの青春時代は、まるでモンドの夕日の如くーー視界に入るもの全てが血の色であった。ある日、その日々を振り返ったロサリアは、手遅れであることにようやく気づいた。
その数年後、西風騎士団の活躍によりその盗賊団は壊滅する。ロサリアは盗賊団の中で最も若く、更生の余地があると判断された。
彼女をモンドへ連れてきたのは騎士団の大団長ファルカ。彼はロサリアがモンドに馴染むことを期待し、こう告げるーー
「教会の神の光でその身を洗え。そうすれば生まれ変わって、普通の人と同じように生きていける」
しかし、ロサリアはファルカの期待を裏切るかのように、教会のミサや合唱を理由もなく欠席した。
平和に過ごすシスターではなく、彼女が選んだのは外での狩り。彼女にとって、金色の太陽は眩しすぎたのだ。
ロサリアははるか昔から理解していた。
ーー月の下で生まれた自分は、いずれ闇へ帰るのだと。


キャラクターストーリー5
怠惰さにおいて、教会内でロサリアの右に出る者はいない。修習時代からすでにその怠惰な態度は有名であった。
「ロサリアさん、分別ある行動をお願いします!教会のシスターとして、合唱に参加しないなんて許しません!」
「落ち着いて、シスターオルフィラ。ロサリアさん、必修科目に一つも出ていないと聞きましたが本当でしょうか?」
「ええ、本当よ」
「そういえばマレア婦人、こちらをご覧ください…ロサリアさんが書いた神学の論文ですが、目も当てられません!」
「ロサリアさん、失礼ですが…この先、教会に仕える気はありますか?」
「ないわ。仕事はもう見つかっているもの」
あまりにも真剣味に欠けるロサリア、彼女の背景を考えれば確かに影の仕事のほうが向いているのかも知れない。
ただ意外だったことに、その仕事のために協会に属すことになる。
聖職者の身分から逃れられなかった彼女は、「見習いシスター」ロサリアから「シスター」ロサリアとなった。
だが任務がなくとも、彼女は教会の行事を避けーー酒場で酒を飲んだり、城壁の上から景色を眺めたりしていた。
避けようがない状況でも残業を忌避し、定時になるとすぐに姿を消す。
表の仕事でも、裏の仕事でも、彼女は「残業」をしないのだ。


教会から配られたノート
白いカバーのノート。表紙には「西風教会」と書かれている。
ノートの中には奇麗な字が並んでいるが、内容は至極どうでもいいもの。
「蒲公英酒はどうだい、ただいま20%オフだよ!」
「漁師トースト、お値段以上のおいしさ!」
「小麦の大セール!小麦粉にしたい場合は店主までお声がけを!」
「3個買ったら1個おまけ!」
「新鮮なイグサはどう、トイレの照明に使えるよ!お客さん見てらっしゃい…!」
均整の取れた美しい筆跡だが、書かれているのは呼び込みの言葉やお店の広告ばかり。
このノートはロサリアが見習い時代に持っていた物だ。
当時、彼女は授業を抜け出すと商店の屋上へと行き、陽の光を浴びながら下から聞こえてくる様々な声をノートにただただ書いていた。そんな風に過ごす彼女の姿は、想像に難くないだろう。


神の目
ロサリアの「神の目」は、とある寒い日の夜に現れた。
盗賊にとって最も厄介な季節、全員が生きていくには食料が足りなかった。
常に空腹に苦しんでいた彼女は、寒風吹き荒ぶ中での雑用に耐えかね逃げ出した。
しかし、盗賊の一人である老人に捕まり連れ戻されてしまう。彼こそが、過去に彼女を村で拾い、人を殺す技を教えた張本人である。
「逃げるやつは全員裏切り者だ。裏切り者は決闘に勝たなければ自由になれない」
そう言うと、老人は古いナイフをロサリアに投げた。「来い、俺を殺せばここから逃げられる。俺はただの年老いた獅子だ。お前はまだ若い。お前なら容易いことだろう?」
ロサリアが勝つなど、誰一人として想像していなかった。しかし、確かに老いた獅子は若き野獣の爪の前に敗れた。
その夜、盗賊団は古株の一人を失ったが、新たなメンバーを迎え入れることにした。
老人を殺したロサリアは盗賊たちに避けられたが、面白いことに彼女の持つ「神の目」を見た途端態度が豹変した。
ーー「神の目」を持つ者なら、きっとあのジジイよりも強い。それにお前は小食だ、食料の節約にもなる。
氷のように固く凍ったロサリアの心に、ふとある疑問が浮かんだーー
彼はわざと私を勝たせたんじゃないかと…拾った子に対し、偽りながらも父としての気持ちが彼に生まれていたのかもしれない。

ワ行