「………。」
歩が目をあけると、すぐそこまで迫っていた車が大破していた。その横で投げ出された男達が情けない格好で気絶していた。
「ふん…。」
爆烈は手をパキパキ鳴らしている。
「もう安心してください。これで彼らも襲ってこないでしょう。」
歩は体を震わせてこう言った。
「いったい…何をしたんですかっ…?」
爆烈はニコっと笑った。
「ちょっとした手品です。さあもうお帰りなさい。」
「はあっ…助けていただいてありがとうございました。」
歩はペコッとお辞儀をして、爆烈から去っていった。
爆烈は遠のいていく彼女をずっと見つめていた。
(彼女から不思議な何かを感じる。それは良いものか悪いのかは私にもわからん…。彼女は特別な運命の元にあるようだ。)
…………その夜………。
克己の家では。
「あーあ、もーこれくらいでやめとくかぁ。どうせトップだし。」
克己は勉強を終わり、机から離れようとした。
バダン!!
「!?」
克己の父親が恐ろしい形相をして克己の部屋に入ってきた。
バキィ!!
父親は克己を本気で殴りつけた。克己は壁に叩きつけられる。
母親も駆けつけ、父親の腕を掴んだ。
「あなたやめて!?」
父親は怒りが治まらず、克己に啖呵をきった。
「お前、愛海さんに“別れよう”なんて言ったのか!?」
バキッ!ドゴッ!
父親は息子であるにも関わらず、本気で踏み蹴る等の暴行を加える。
「やめてぇぇ!!」
母親は泣きながら父親の体を押さえる。父親はうずくまってる克己の胸ぐらを掴んだ。
「うちの会社が潰れたりしたらどう責任をとるつもりだ?
大事なお嬢さんなのになに考えてんだ?」
あの克己が完全に恐怖で震えている。顔は痛みと恐怖で歪みきっている。
「ちょ…ちょっとしたケンカだよ。それくらいボクらにもあるよ!」
父親は克己を睨み付ける克己に背を向けた。
「今すぐ謝罪しに行け!!」
そういうと父親はそそくさと去っていった。
……………………………
「ごめん……。」
克己は愛海に深く頭を下げて謝った。
「全部、椎葉につきまとわれてただけなんだ…。本当だよ。」
克己はポケットから携帯を取り出した。それは克己が前に使っていたものではなく、新型の携帯だった。
「愛海と同じやつ。やっぱりオレには愛海しかいないよ。」
その言葉に愛海の目が涙が流れ出た。
「…うん…マナも疑ってごめんね。みんなにも聞いたの。カツミくん、マナとの写真とかケータイ大事にしてくれたんだって…」
すると愛海は笑顔を浮かべてこう言った。
「…マナ、辛いことあるとなんでもパパに言っちゃうんだよね。マナのパパやさしーからさっ。」
「………。」
克己はどこかやるせない顔をしていた。愛海は克己をギュッと抱きしめる。
「カツミくんのこと、もう一度信じるから…ずっと一緒にいようね♪」
愛海は克己の唇に軽くキスをした。
「マナ、これから友達と会うんだ。またね♪」
そういうと手を振って克己から離れて言った。
「………ちっ……。」
克己の顔はとても歪んだ顔に戻っていた。
……………………………
翌日歩は廊下を歩いていると、誰かに肩を叩かれる。
「…?…」
歩は振り向くとそこには…。
「元気?」
羽鳥が前に笑顔で見つめていた。
「あっ…羽鳥さん!?」歩の顔は真っ赤になった。
「きょっ…今日はバイトないの?」
「試験近いし…夏休みまでは来るつもり。」
「本当に!?」
歩はこぼれる笑顔を見せる。それを見てニコっと笑う。
二人は教室に入って行くと、久々にきた羽鳥を前に生徒たちはワイワイ騒ぎだした。
「羽鳥さん久しぶりだなぁ…めっちゃキレイ♪」
「オレ、好みなんだよなぁ…。」
二人は羽鳥の席で仲良く話している尻目で、愛海たちは二人を気に入らない様子で見つめていた。
「なに…あいつら…?」
「いつの間に仲良くなったワケ?」
そんな中…。
“校内放送、1年2組羽鳥さん、至急職員室に来てください”
羽鳥を呼ぶ放送が入り、席を立つ羽鳥。
「すぐ戻るね。」
……………………………
歩は校庭のフェンスの近くで一人で昼食を食べていた。
「ここにいたの?」
羽鳥がペットボトルのお茶を持って歩の額に当てた。
歩は羽鳥を見ると笑ってはいるも、どこか切ない顔をしていた。
「羽鳥さん…どうしたの…?なんか元気が…」
すると羽鳥はこんなことを口にした。
「親にバレちゃったんだ。学校行ってないこと…。担任が電話したらしくて…。」
“!?”
その言葉に歩の表情が変わった。
「……えっ…でもバイト…学校行ってることにしてたの?」
「うん…すごいショックを受けてた…。」
羽鳥は立ち上がるとフェンスに触って町並みの風景を見つめた。
「…お父さん…体弱くてあんまり働けないから…わたしがその分バイトで楽させたかった…。
学校は成績とってれば許されるかなって思ってたけど…甘かったのかな。」
そして羽鳥はため息をついた。
「さすがにちょっとへこんだ…」
それを見た歩に涙が込み上げてきていた。
(あたしはばかだ…なんにも知らずに学校来るってだけで喜んで…)
歩は手をギュッと握り、小声ながらも羽鳥にこう言った。
「いつか…お父さんに伝わるといいね…。」
羽鳥は歩を見ると軽く笑った。
「ありがとう…」
……………………………
“あたし…羽鳥さんの重荷になったりしてないかのな。いつも頼ってばかりで”
“が ん ば ら な い と い け な い の は あ た し の ほ う だ ! ! ”
歩はそう心にしつつ、歩は廊下を歩いていた。
ガシッ
突然何者かに掴まれ、女子トイレに連れ込まれる。
目の前には愛海達と大勢の女子達が歩を睨み付けていた。
「…ヘラヘラしやがってムカつくんだよ!」
チカは持っていたブラシの柄を震える歩の顔に押し当てる。
「アイツもムカつくしちょーどいんじゃない?アユムとつるんでるし。」
「羽鳥もやっちゃうかァ!」
その言葉についに歩も我慢ならずに反応する。
「羽鳥さんは関係ない!!」
ガッ!!
ヒロが歩の頭上に濡れたモップを叩きつける。
「土下座しろよ。“告げ口してすいませんでした”っな!!」
“ブチッ!”
その言葉に歩もついに切れだした。ヒロの持っていたモップを奪うとそれを地面に叩きつけた。
「じゃあ…あんたらは考えてんの?いじめられる人の気持ち…少しでも考えたことあんのかよ!!」
歩は完全にキレて、モップを振り回す。それをキャーキャー言いながら騒ぎだす愛海達。
「あたしだって……。あたしだって…。」
“あ た し に も 楽 し く 生 き る 権 利 は あん の よ っ っ ”
ガバッ!
しかし、チカ達は持ってきた黒い布生地を一気に歩を覆い被せた。
「!?」
歩は抵抗出来ずに布に巻かれてその場に倒れる。
「偉そうな口聞きやがって…大体誰がいけないんだよ!!てめぇがあんなことしなければこんなことにならなかったんだよっっ!」
チカは歩を足で踏む。他の女子は布で巻かれた歩に洗面所のホースを歩に向けた。
ブシャー!!
ホースから出た大量の水が布にかかり、吸い込んでいく。歩は何とかしたいが吸い込んだ布が重く、出れるに出れない。
“キャハハハハハッッ!!”
女子トイレには高笑いの声に包まれる。
「キモーっ!虫みたい!!」
「暗幕、ちゃんと乾かして科学室に返しとけよ!!」
あまりにも悲惨な光景…それをまるで虫けらの如く軽蔑、見下す者、中にはその様子を携帯で写真を撮る女子までいた。
キーンコーンカーンコーン…。
5限目開始のチャイムがなり、女子トイレには誰もいなくなると同時に歩は重くなった布から必死で這い出てきた。
「…………っ」
歩はかなりびしょ濡れで制服もかなり酷い状態だった。
「ちくしょーっ!!」
歩は嘆きの声を上げると同時に瞳から大粒の涙が込み上げてきた。歩は悲しいというより悔しくてたまらなかった。自分一人では全くの無力だということに…。
……………………………
放課後…歩は教室に戻ると羽鳥以外は誰もいなかった。
「あんたなんかあったの?」
「えっ…ううん。」
「5限と6限もいなかったじゃん」
羽鳥が心配して声をかけるが歩はニコニコしていた。
「バイバイっまた明日!!」
羽鳥は何かに気づいた。歩の制服が妙に濡れていることを。今日は快晴で雨ひとつない日なのに…。
「待って!!」
羽鳥は歩を追いかけるがそれと同時に歩も全力で羽鳥から逃げるように走っていく。
二人は校庭まで走り、羽鳥は何とか歩の腕を掴んだ。
「ホントになんにもないの?」
歩は顔を下げたまま何も話さない。
すると羽鳥は歩の顔を持ち上げ、心配そうな顔で見つめた。
「ねえっ!」
すると歩の顔から一筋の涙が溢れた。
「あたし…羽鳥さんと友達になりたい」
“!!”
その言葉に羽鳥の表情は変わる。
「けど…今のあたしじゃなれないから…自分で何とかできるようになりたいの…」
そういうと羽鳥はギュッと歩を抱きしめた。離すと玄関の方へ歩いていく。
すると羽鳥は歩に振り向いてとびきりの笑顔でこう言った。
「夏休み、あんたと一緒に旅行にいくぞーっ!!」
それを見て歩の顔には笑顔が戻った。
歩は羽鳥にピースをしてこう言った。
“あたし、がんばるから”