500年後からの来訪者After Future11-3(163-39)

Last-modified: 2017-05-07 (日) 13:48:50

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future11-3163-39氏

作品

セカンドシーズンの最終話直前にして、夏に放映する映画の撮影を終えてしまうという快挙を成し遂げ、ジョンを含めた全員で試写会をした後、スキー場のおススメ料理を除いて、当分は通常通りの運行となった。大きな変化と言えば、佐々木たちが脚本づくりに対して積極的になったこと。『こういうのも面白そうだ』というネタもいくつかあるんだが、あまり皆の前で話してしまうと折角やる気を出した脚本家がまた憂鬱になるだろう。最後まで取っておくことにしよう。あくまでアイディアであって事件の全貌を脚本化できるわけじゃないしな。

 

 ジョンの世界で練習できなかった分、子供たち三人が午前中から女子日本代表と共に練習に励み、本体同士で抱きついていたみくるも物足りないと言いたげな顔をしていたが、明日の午後からみくると二人で温泉旅行へ行く手筈を整えた。以前のように室内に風呂がある旅館を予約して、食事は俺が全員分作ったものをテレポートさせてみくると二人で食べるだけだ。もはやガラスをブラックアウトして交代で風呂に入らずとも、互いの身体を洗い合える関係にまで進展した。躊躇することなど何もない。懸念事項があるとすれば、全員に伝えられるのが明日の旅行前直前の昼食時しか無いこと。年中無休のSOS Creative社……というより、俺たちにとって、休日など無に等しい上に、この時期はおススメ料理の仕込みが一日増えるという、極めて迷惑な祝日だ。撮影に集中していた青ハルヒもおススメ料理の仕込みに専念しないといけないようだし、何より子供たちの小学校や保育園がお休みで、今回のような三人に聞かれては困るような議題が出せない。テレパシーで話してもいいんだが……あまり長いと三人に気付かれてしまう。結局、今日の昼食では話すことが出来ず、OG六人はおろか、ジョンまで『最終話を始めから見たい』などと言い出す始末。OG六人は本体でなければ夜練の意味がないが、ジョンの場合は変化球も通常通り投げられれば、影分身を一体派遣するだけで済むだろうに………
『今回のようなケースでないと、俺には影分身を使う必然性が無い。修行を積む気にはなれない』
だったら、〇ッコロや天〇飯が一人で精神と時の部屋に入った時の気分でも味わったらどうだ?影分身一体とバトルを繰り広げていれば、ジョンなら夜練までに間に合うんじゃないのか?色々とモノは増えたが、ジョンの世界は精神と時の部屋そのものだからな。北高入学式前日のあのやり取りの最中に無意識でアレと同じものを作り上げたとしか思えん。
『なるほどな、その考えには至らなかった。試しにやってみるか』
宙に浮いて精神を集中させている〇ッコロを描いたシーンが多いだけで、それだけが修行じゃないからな。何にせよ、ジョンの方はこれで解決できそうだ。

 

 夕食時、練習試合を終えてタイタニックへと戻るとどいつもこいつも焦燥感に苛まれていた。最低でも一回は見ただろうし、最終話に出演した、あるいはその様子を見学していたメンバーが何人もいるだろうに。
「くっくっ、この後の放送が待ちきれないんだけどね。先に結果の方を教えてくれないかい?あのトリックを解いたのが全国で何人いたのか聞かせてくれたまえ」
「応募総数51462件、正解者数3417名です。今日届いたハガキのほとんどがサイトを見て調べたものでしたから、抽選からは除外する予定です。鶴屋さんや例の大御所MCのように自分で考え、早い段階で真相に辿り着いた50名を選ぶつもりでいます。ですが、こういう場面でもサイコメトリー能力が役立つとは思いませんでしたよ。あの六人を孤島に呼び寄せた抽選とやらも、組織のボス自ら抽選の場に居たのかもしれませんね。もっとも、それが分かるのは映画が終わってからということになりそうです」
「妙だね。キミは彼女から記憶操作されたんじゃなかったのかい?映画のあのラストシーンはトップシークレットだろう?」
「今日は電話対応していませんし、今後の事を考えると少しでも記憶に残しておきたかったんですよ。最終話の放送が終わり次第、園生に記憶操作を頼むつもりでいます。期間にしておよそ四か月もの間、僕と圭一さんだけ進捗状況を知らないままというのは、あまり気分のいいものとは言えませんからね」
『それなら、記憶操作でなく催眠に切り替えたらどうだ?催眠に条件が付けられることについては、例の新聞社で実証済みだ』
どうやら、修行を終えて、ここにいるメンバーと一緒にドラマを見ようと出てきたようだ。現れるタイミングを見計らっていたのかどうかは知らんが、名案で間違いない。
「なるほど、私と古泉が電話対応しているときに限り、映画に関する記憶を取り除くのなら、披露試写会まで我慢せずに済む。すまないが、その催眠をかけてもらえないかね?」
「そういうことはもう少し早く教えていただけませんか?解決策があるのでしたら、僕も圭一さんも丸一日憂鬱な気分に浸っていることも無かったはずです」
「その話題が挙がって、たまたまジョンが閃いただけに過ぎないわよ。それに、早い段階で気が付いて良かったと言うべきじゃないかしら?四月以降、あなた達が電話対応に不満を感じている頃にようやく気付くより、よっぽどマシだと思うけど?」
「……それもそうですね。朝倉さんのおっしゃる通りです。ジョンを責めるような発言をしてしまったことに謝罪をさせてください。申し訳ありませんでした」
「それで、影分身の修行には成功したのか?」
『本体に一割程度しか意識が残りそうにないが、何とかなりそうだ』
『ジョンに本体などという概念は無いだろう?』とツッコミたくなったが、影分身を身につけているメンバーからすればこちらの方が分かりやすいか。気にしないことにしよう。
「ジョンが影分身の修行!?使う用途がほとんどないから影分身は習得しないんじゃなかったのか!?」
「面白いじゃないか。ジョンもドラマが気になって仕方がないようだけれど、これまで頑なに影分身の習得を拒んでいたジョンをどうやって言いくるめたのか説明したまえ。僕たちの影分身の修行にも使えそうだからね」
「なぁに、『精神と時の部屋に一人だけで入った奴の気分にでも浸ってみたらどうだ』と話しただけだ」
『あぁ、なるほど!』
「まったく、『やれやれ』と言いたくなりましたよ。ジョンにそんな修行をされては、いとも簡単に追い抜かれてしまいそうですね。ですが、その修行法なら僕にも可能です。最終話が終わったら試してみることにしましょう」
「ところであんた、新店舗の方はどうなのよ!?社長に報告くらいしなさいよ!!」
「この三連休でタキシードとウェディングドレスを決めたのが何組いたか数えるのも止めたよ。店員にはヘアメイクの練習もさせているし、撮影をOKしてくれたカップルの写真を、ドレスを着たマネキンの間に飾っておいた。店員を務める影分身のパーセンテージも大分落とせるようになったし、五月号が出てウェディングドレスの情報結合に区切りがついた時点で10店舗同時OPENも可能になるはずだ」
『10店舗同時OPEN!?』
「面白いじゃない!あんたがそう言ったからには実行に移してもらうわよ!?広島や大阪は店舗を増やして、新境地開拓もできそうね!古泉君、次はどの都道府県に店舗を構えるか考えておいて頂戴!」
「了解しました」

 

 青俺の10店舗同時OPEN宣言には度肝を抜かれたが、よくよく考えてみれば、今の俺たちなら可能なプランであることに間違いない。青ハルヒや青古泉も店員としてそれぞれの店舗に付けば、あとはアルバイト達に経験を積ませるだけだからな。しかし、そうなると店舗を建てる土地の方が問題だ。需要と供給が逆転してしまっている。すぐにでも、給料を払えずに倒産した会社に出向いて土地をぶんどりたいところだが、こればっかりは致し方ない。だが、青古泉ならそこから拍車をかけるはず。青古泉の手腕に期待が高まりそうだ。夜練が始まり、ジョンの投球も非の打ちどころが無い。子供たち三人からプールの話が上がり、着替えさせている間に例の件を全員に報告した。いくら俺たちが出演していようとも、子供たちがドラマに興味を示さないことをすっかり忘れていた。このチャンスを逃すわけにはいかん。
『明日の午後から温泉旅行に行くぅ!?』
「ちょっと待ちなさいよ!ってことは、あたしと黄あたしがあんたの本体とくっつけないじゃない!」
「青ハルヒは去年の件があるんだから、それで我慢しろ。ハルヒとは俺が影分身を使い始めるまで、ずっと本体と一緒に寝ていたんだ。今回はみくるに譲ってやってくれ」
「ふっ、フン!そんなことであたしが寂しがるなんて勘違いしないで欲しいわね!みくるちゃんと何処へでも、好きなところに行って来ればいいじゃない!来年こそあたしがトップになってやるんだから!!」
「かなり遠回しな言い方だが、それじゃ、黄俺の本体と一緒に居たいと言っているのと変わらんだろうが」
『プッ!』
「うるさいわね!!店舗はまだ閉店してないんだからそっちの方に集中しなさいよ!このアホキョン!」
『困ったね、まだ一時間以上も待たなくちゃいけないのかい?夕食も終わっているし、僕たちが作ったドラマなんだからいつでも見られるじゃないか。モニターに出してもらえないかい?』
「黄私たちは影分身だから無理ですけど、先にスパでシャンプーとマッサージをしてもらえばいいです。ずっとここで待っている必要はないです」
「分かった。今日はわたしの番。少しでもあなたの傍にいたい。スパに来て」
「ちょっと有希!あんたは皿洗いの仕事が残っているでしょうが!雑用係の仕事を終わらせてからにしなさいよ!」
「ですが、ようやく射程圏内に入ったと言えそうですね。双子の卒園式まであと十日。あなたの作ったカレーやカレーパンが楽しみで仕方がありませんよ」
「………あと、九日と一時間二十七分」
「まったく、いくら出演していないからとはいえ、ドラマよりカレーの方が待ち遠しいとは……やれやれだ」

 

雑用係が揃って皿洗いを始め、スパを利用しているメンバーが席を立ったというのに、何やら一人考え込んでいるみくる。一体どうしたんだ?
「あのー…有希さん大画面にドラマは映さないんですか?」
「ハガキの応募総数が50000件を突破している。ハガキの送り主は99%が女性。でも、真相を知りたいと考えている人間も多いはず。第九話以上の視聴率になる可能性が高い。大画面で放映するのは逆効果」
「くっくっ、大体の想像はつくけれど、残りの1%がどんな人間か教えてくれないかい?」
「先週のMCと同じ。映画のキャストで言えば、あなたが演じた上村に近い。真相を究明してハガキを送り付けてきた男性もいる。でも、一部で古泉一樹のカットを希望する者も」
「わたしなら絶対にサイコメトリーしたくないわね。誰かさんと一緒よ」
「問題ない、わたしも同じ。でも、もう古泉一樹が駆逐した。抽選で当たることは無い」
「それで、披露試写会と映画の公開日はいつにするつもりだ?最終回や映画で出てくるアホ共と違って、その誰かさんは自意識過剰というほどでも無さそうだしな」
「映画ではそこまでランジェリーの宣伝は出来ない。でも、女子高潜入捜査事件のときに身に着けていたランジェリーが掲載される七月号が出てからの方がいい。六月十七日(土)に披露試写会、七月十六日(日)に映画公開の予定。ライブやコンサートともかぶらない日を選んだ。でもこれは、わたしの個人的な見解。別日が良ければ言って」
「映画公開は一週待ってみてはいかがです?八月号を発売した翌日に設定するより、夏休みに入ってしまった方がいいかと。3セット上下で1000円の破格であれば、映画で身に纏ったランジェリーがどんなものなのか気になる客も性別に関係なく出てくるかと………」
『あんたが言えるセリフじゃないわよ!』
「最後の一言が余計だったが、全国に八月号が広まってから公開した方がいいというのは俺も同意見だ。二十三日の日曜日でいいんじゃないか?ついでに、明日から例のCMを大画面に映してくれ。部室の連中にはまず数列の方を見せてくる。場合によっては暗号文も見せることになりそうだけどな」
「では、その条件でTV局と交渉してきますが、それでよろしいですか?」
『問題ない』

 

 皿洗いを終えた有希を待ってスパでシャンプーとマッサージを受けている頃には、ドラマ開始五分前。『最終回が終わり次第客室に直行する予定だったのに……』と有希の表情だけでそれが読み取れるようになっていた。再びタイタニックの船首に集まったメンバーの目の前に巨大スクリーンが姿を現した。ちなみに、子供たち三人は水泳練習を終えて、俺が読む絵本に夢中になっていた。みくるとの旅行が終わったら背泳ぎの見本を見せてもらうのも悪くない。OG六人の本体は間に合わず、セカンドシーズン最終回の幕が上がった。洞窟に倒れていた青ハルヒの服を脱がせて、人肌で暖めている古泉の姿を、全国で見ている視聴者はどう思っているんだろうな。しっかし、みくるより青ハルヒのピンチを救う場面が多いような気がするのは俺の気のせいか?まぁ、ドラマの設定上、みくるの身体を暖めるなんてシーンが撮れるわけがないんだが。服部たち六人+青ハルヒの隠されたミッシングリンク、無残にも殺害されてしまった斎藤と園部、怒りを剣にこめた獅〇の渾身の斬撃を俺が阻み、最後の晩餐を終えてみくるが事件の全貌を語りだす。所々で一色が犯行に及ぶシーンが挿入されつつ、密室トリックと三つの証拠が暴かれる。一部の動画サイトなら、書き込まれたコメントで映像がまったく見えなくなりそうだが、間違った推理をしたブログ、スレッド、その他もろもろ今頃炎上しているだろうな。最終話の方も仕掛けられた爆弾によって館が炎上。玄関扉を固定した俺の前に、一色を含めた残りのメンバーが姿を現した。
『見ての通り、ドアノブは鎖で固定されて南京錠がかけられている状態だ。そして、南京錠の鍵は俺が持っている。これがどういう意味か分かるな?』
鍵を古泉たちに見せてからポケットにしまいこんだ。
『面白そうだ。ここは俺がやる。その女は責任を持って館の外へ連れ出せ』
『館中に火の手がまわって時間が無い!二人でさっさと倒して抜け出すぞ!』
『おっと、俺は別に二対一でも構わんが、同じサイコメトラーとして忠告しておいてやる。俺は自分の能力でこの館がどういう状態にあるか常に察知することができる。おまえにも相応のことができるはずだ。おまえが俺とやるのは構わないが、他の連中のことを気にした方がいい』
『二対一じゃ時間稼ぎにすらならないとしか俺には聞こえないね』
『だったら試してみたらどうだ?時間が無いんだろ?』
一歩前に出て構えた俺にジョンがすかさず攻撃を仕掛けてきた。
『頭が切れることと、度胸があるのは認めてやる。だが、バトルにもそれがでているようだ。おまえが今何を考えて、何処を狙って、何で攻撃してくるかすべて読み取れてしまうぞ。そんなことで俺に勝てると思うな!おまえは一撃足りとも当てられずに俺に負ける』
隙を突いて顔面を殴られ、ジョンがホールのど真ん中に倒れる。
『ジョン!!』
『解せんな。俺に触れてすらいないのにどうやってサイコメトリーしているのか聞かせてもらいたいね。コイツと同じサイコメトラーなんだろう?』
『ジョン!後ろに跳べ!!上から降ってくるぞ!!』
バックステップで大きく後ろに下がったジョンの前に、キョンとジョンを阻むように支柱が落ちてきた。
『なんだ、前にあのジイさん達とやり合ったときに同じ状況になったと資料に書いてあったが、聞いてないのか?』
『嘘……床を蔦って間接的にジョンの思考を読んでるってこと!?あのときの一樹君は敵味方の区別すらできずに暴走した。自我を保ったまま同じ事ができるなんて!』
『サイコメトラーとしての実力の差ってことだ』
『なるほど、暴走状態のコイツと同じ強さってことになりそうだ。一度闘ってみたいと思っていたが、こんな場所で機会に巡り合えるとは思わなかった。コイツ等とつるんでいるとこうやって面白いことが起きる。あんたの実力がどの程度のものか試させてもらおう』
『残念だが、もうおまえらの運命は決まっている。この俺がここにいる限りな』
『そいつはどうかな?』

 

『さっきまで避けられていたのに、ガード!?一樹以上のサイコメトラーを相手に、ジョンは一体何をしたのよ!?』
『考えながら攻撃するのを止めたんだ。何も考えてないからサイコメトリーしても読めない』
『言うのは簡単でも、これまでの闘い方と真逆のことをするなんてそう易々とできるはずがないわ!これほどまでのポテンシャルを持ちながら、どうして何の職にも就いていないのかあたしの方が聞きたいくらいよ!』
『簡単さ。自由気ままに生きる。それがアイツのポリシーだ』
『「一撃足りとも」……何だったか忘れてしまったな』
『ここまで簡単に闘い方をシフトできる奴も珍しいもんだ。いいだろう、久しぶりに俺も楽しめそうだ』
次第に崩れていく館の中でジョンと俺の壮絶なバトルが繰り広げられる。互いの攻撃が命中するようになり、俺の左拳にジョンが右拳でのクロスカウンター。利き手を使ったジョンに軍配があがり、俺がその場に倒れる。
古泉たちが遊戯室に避難している間に、ジョンが俺を抱えて和室付近まで運びだした。
『どう……いう………つもり…だ?』
『タイムリミット有りの状態であんたとやっても面白くもなんともない。俺が手出しするのはここまでだ。あとは自分でなんとかしろ』
『後…悔する……ぞ?』
『俺が面白ければそれでいい』
『変な……野郎だ…』
俺たちのバトルシーンの後、脱出を試みていたジョンと青古泉にみくるが待ったをかける。バックドラフト現象から見事に生還したジョンに青ハルヒから激が飛ぶ。まぁ、心配していたからこそだけどな。鶴屋さんの叫び声の後エンディングが流れ、青古泉に化けた俺と青ハルヒのキスシーンで終了。だが、肝心なのはこの後だ。
『制作総指揮 キョン』、『2017夏 サイコメトラーItsuki the Movie公開決定!』のテロップの後、数列の書かれたチラシを持っている青古泉のシーン。
『ペンションやコテージ、その周辺の土地、及びその持ち主が残した財宝を………暗号を解いたものだけに相続される!?これがその暗号だっていうのか?』
『暗号はツアーに行ってから配られるんでしょ?これはそのためのテストみたいなものよ!』
『こんなチラシを全国にバラ撒いたら何千人と集まることになりかねないし、もし抽選で選ばれたとしても、あたし達五人に招待状が届くなんてありえないわ』
青古泉と青ハルヒの声が流れている間にチラシに書かれた数列が映り、バスを降りてペンションを見据えた今回の登場人物たちの背中と一緒にアフレコしたみくるの声が入っていた。映画のCMが終わり、本体が出揃ったOGが12人全員で一言。
『やっぱり、ジョンがカッコ良かった!』
「明日の一面を飾るのはあなたとジョンで間違いありません。まったく、主演男優が引き立たない事件だと撮影したときから感じていましたが、サードシーズン以降は、もう少し活躍の場を与えていただけませんか?」
「そこは脚本家に頼め。有希、応募総数と正解者の正確な数を各TV局と新聞社三社に伝えてくれ。俺が言わずとも、もう始めているだろうが、全員に周知させるためだ」
「問題ない」

 

 セカンドシーズン最終話と映画の予告を確認して有希が真っ先に席を立った。みくると温泉旅行に行くことを話したせいというのもあるだろう。真っ先に席を立ったのはいいが、ジョンの世界に行くのはいつも通り俺が最後になりそう……というより、いつもより遅くなるかもしれん。いい加減、あの恒例行事も終わりにしたいところだが、審査する側もこの書き初めを毎年恒例一大イベントとして、鶴屋家のしきたりよりも面白がっているから、まず無理だろうな。参加する側も誰一人として終わりにしようなんて奴はおらん。
「やれやれ、こうも予想通りに事が運ぶと、逆に面白味が無くなってしまったじゃないか。もうちょっとなんとかならなかったのかい?」
「解答をリアルタイムで確認しているはずですから、前回を上回るとは思っていましたが、ここまでとは………青僕主演のドラマ撮影の企画に始まり、この新聞記事が出るまでの間、我々はすべてあなたの掌の上で踊らされていたようですね。各芸能プロダクションからジョンの移籍を請う電話が鳴り止みそうにありませんよ」
『映画の脚本もそうだが、脚本制作に関しては俺も関与しているようなものだ。最終話の俺のセリフ通り、何かに縛られるのは御免被る』
「わたし達からすればいい方向かもしれませんけど、未来人の介入でここまで他の時間平面と違うベクトルに進んだ時間平面はないはずです。ジョンの生きていた未来では、人類が滅亡していますし、罰を与える権限を持った人間はいませんが、近未来からエージェントが来てもおかしくありません。わたしも一緒に連れて行かれそうです」
「問題ない。ここまで世界に影響を及ぼしたジョンやあなたは、未来のわたしの情報操作だけでは隠し通せない。それに、二人を除いた全員がそれを阻むはず。涼宮ハルヒと美姫の潜在能力をすべて引き出したあなた達二人と、九層の球体を纏った青チームの古泉一樹がいては、太刀打ちすることすら不可能」
「あら?わたしを忘れないで欲しいわね。ジョンを連れて行かせるわけにはいかないわ。色々と決着がついていないんだもの」
『(黄)みくるちゃんまで連れて行こうだなんて、このあたしが許さないわよ!!』
「それで、キョン君どうするつもりなんですか?」
「どうするも何も、公式サイトに応募総数と正解者数、映画の予定を載せるのと、各店舗にFAX、本社の各課に通達をするだけだ。そのあと古泉が抽選した50名に一人ずつ電話をかけることになる。新聞の見出し通りにな」
各新聞の一面には、最終話で俺がダウンする直前のクロスカウンターシーンを静止画として抜き出したもの。情報をリークした三社は三角形の合同条件のように見出しが一語一句違わず『応募総数51462件、正解者数3417名!古泉一樹自ら当選の連絡!?』と記載され、他の新聞社は写真が同様のものでも『空前絶後!瞬間最高視聴率54.6%!』『ジョンVSキョン!衝撃のクライマックスにファン急増!?』と、視聴率やジョンの活躍について取り上げたもの、そして『ついに決着!奇天烈な真相の正解者は果たして!?』と見出しを付けたのが一社。青佐々木が『面白味が無くなってしまったじゃないか』と言った要因の一つで間違いない。
「今頃、他の新聞社の記事を見て『嵌められた』とでも思っているでしょうね。結局、有希さんは新聞を発行するんですか?」
「他社の動きを見る。場合によっては新聞社の一面を、そのまま催眠をかけたところに写す予定」
これ以上は朝食の時間に間に合わなくなるとして一旦解散。フジテレビだけかと思っていたが、一晩時間があったんだ。今朝のニュースをどうつなぐかは決まっていたようだ。俺とジョンのバトルシーンを加えたクライマックスを報道したあと、今度は今週末公開の『Nothing Impossible』について。ようやく披露試写会&パフォーマンス後の観客のインタビューシーンが流れていた。
『早すぎて気が付いたら終わっていたってそんな感じでした。全米が何度も見ないと分からないと言っていた意味がよく分かりました』
『あれ、本当にヒロインがアフレコしたんですか?声が似ている声優さんが出たんじゃなくて?いや~どのシーンを見ても不自然さがまったく感じられませんでした。最後のバトルアクションには度肝を抜かされましたけど、他のシーンも一回見ただけじゃ分かりませんよ!公開したら、また見に来ようと思っています』
『映画も終わった後のパフォーマンスも、もうアクション映画の範疇を超えていますよ!他のアクション映画がアクション映画と呼べなくなってしまいそうです!理解が追い付かない部分が何か所もあったので、公開後にまた見に来ます!』
「はい、披露試写会に参加した他の観客からも、アメリカでの披露試写会と似たようなコメントが得られました。あの最終話のバトルアクション以上と言ってもおかしくないほどの映画のクオリティとの事ですから、週末の公開に向けて、更なる期待がかかりそうです。では、続いての………」
各新聞社の一面記事、最終話のクライマックスのVTR、披露試写会後の観客のコメントを受けて、毎朝おなじみの男性アナウンサーのコメント。当時は『こんなに早く宣伝してどうする!?』などと思っていたが、有名なゲームの発売は発表から半年後が当たり前。今更ながら、これで良かったのかもしれんと感じていた。

 

 今朝のニュースは圭一さん達も気にしていたらしく、タイタニックの船首では今朝の新聞記事やニュースに関する話題で持ち切り。アイツ等にも早く見せに行ってやらんとな。しかし、毎週恒例となっていた文芸部室訪問もこれで最後になりそうだ。例の椅子からランジェリーの新しいデザインを受け取っても、朝倉が頭を悩ませてしまうことになる。行ったとしても、数列が解けていたら暗号文を見せて、暗号文が解けたら映画の披露試写会。青みくるを蹴り倒した俺にブーイングが殺到しかねん。同位体と同じく、アイツ等には催眠が効かないからな。今夜の女子日本代表のディナーも古泉が準備を終えているだろうし、今更、議題として挙げるようなことでもない。みくるとの温泉旅行の件は昨日話したし、二回も言う必要はあるまい。
「今日から例の中学生がデザイン課に配属されるわ。社則についてはわたしから説明しておくけど、無料コーディネートとピアス穴の件はお願いしてもいいかしら?」
「分かった」「こっちもOKだよ」
「そういや二人とも、保育園に行くのもあと八回になるんだったな。いっぱい楽しんでこい!」
『キョンパパもハルヒママも「そつえんしき」見に来て!』
「フフン、あたしに任せなさい!!」
「くっくっ、この職業のメリットがようやく分かった気がするよ。影分身が無くとも、夫婦揃って子供の行事に参加できるんだからね」
「それなら、職場体験の依頼が来たときにだって分かっていたことじゃない!堅苦しいスーツでいる必要ないし、髪型や髪を染めるのも自由!普通の高校生じゃ、こうはならないわよ!」
「高校によってOKしているところもありそうだけどな。それで、こっちの世界のビラ配りはどうするつもりだ?誰がビラ配りに出ても、一枚も配れそうにないぞ。黄古泉たちのように条件付き催眠でもかけておくか?別人になりすます案はビラ配りの効果が薄れるから却下するとして………有希も午前中は支給に行くんだろ?」
「問題ない。冊子にサインするだけでも十分宣伝になる。それに涼宮さんや朝比奈さん、朝倉さんは無理でも、わたしならサインを強請られることもない。でも、映画のことに関しては伏せておくべき」
「黄わたしの恩恵をわたしが受けているっていうのは、どうも納得がいかないんだけど……でも、それだけ黄わたしの人気が上がったってことよね?」
「朝倉さんは一色役として堂々と撮影に参加していたじゃないか。そんなことを言われたら、エンドロールで名前だけしか出ない僕たちは一体どうすればいいんだい?」
「佐々木さん達だって催眠で撮影に参加していました!エンドロールで名前が出るだけなんてことはありません!」
「やれやれ、年末に最終話の撮影をしたはずが、数年前のように思えてならん。佐々木たちの役と言われても、上村と辻村役しか浮かんで来ないぞ」
「確か、桜〇役と、食事のシーンのみジョンの代わりを務めていたくらいだったと思うよ。どちらにせよ、僕たちがビラ配りに混ざっても効果はあまりなさそうだ。サードシーズンの初回とキョンが事の全貌を話していた、例の放火殺人の脚本作りに集中させてくれたまえ。青古泉君たちの結婚式をサードシーズンの最初に持ってくる設定まではいいんだけれど、殺害方法やトリックについてはさっぱり浮かんでこないんだ。財宝をジョンに横取りされたという理由だけで計画した単なる嫌がらせの事件というのも、組織としてのプライドが許さないだろう?」
「初回だけはサイコメトリーで情報を弄らない方がよさそうですね。僕も電話対応をしながらプランを考えることにします」
「おまえは結婚式のシーンを早く撮影したいだけだろうが。俺たちの世界だけならビラ配りに参加して欲しいくらいなんだが?今のところ、黄古泉が野球の試合で四番バッターを務めることくらいしか、おまえの人気を上げる案が出てないんだからな」
「影分身の修行にはなるでしょうが、今僕がビラ配りに加わったところであまり効果は得られないかと。四月号のあの表紙ですからね。涼宮さんと朝比奈さんに集中してしまうでしょう。僕は追加発注の連絡を待つことにします」
「ついでと言っては何だがハルヒ、七月号が出たらおまえが店舗に向かってくれないか?新店舗には特に」
「はぁ!?その頃ならおススメ料理の仕込みはしなくてもいいでしょうけど、社長のあたしがどうしてそんな役回りになるのよ!?」
「六月号で夏物スーツの特集があるだろ?そのあと、七月号と八月号で派手なランジェリーの特集をする。そのときにブラウスのボタンを開けて、堂々とランジェリーを見せて欲しいんだよ。どれだけ派手なランジェリーでもブラウスの外からは見えないってところを見せつけるためだ。アルバイトの女性にそんなこと頼めないし、青チームのメンバーで考えても、それができるのはお前しかおらん。俺や古泉に催眠をかけるわけにもいかないし、自分で想像しただけで気色悪い。黄有希や黄朝倉に頼みたくても、それぞれ大役を任されているんじゃ、毎日店舗の店員をやってもらうわけにもいかんだろう?こっちの世界と違って店舗数も少ないし、お前の影分身で足りるはずだ」
「……ったくも~~~~っ!あんたね!それを先に言ってから、結論を話しなさいよ!!でも、良いアイディアに変わりは無いわ!それに、やるなら六月号が出てからにするわよ!二月号と三月号で掲載したランジェリーを身に付ければいいだけよ!!」
「青キョン先輩、こっちの世界では無理ですけど、影分身が足りなかったら青私も店舗に送ってください。堂々とランジェリーを見せるはずです」
「ふむ、それならこっちでもやりたくなったわね。有希、涼子、なんとかならない?」
「確かに良いアイディアなんだけど……店舗数は影分身でどうにかなったとしても、異世界とは知名度が違いすぎて盗撮されかねないわよ。全国各地にわたし達がいることが報道陣にバレても厄介だし、やるとしても本店と別館店くらいかしら?」
「わたしも同意見。知名度が違いすぎる」
「あ~~~~っ!!ベビードール姿で撮影することをすっかり忘れてました……」
「ベビードールなら、月末には撮影に入ることになりそうね。代わりを頼んでもいいけど、自分じゃ考えられないポーズで撮影することになっても知らないわよ?」
「そのときは私が撮影に入るので大丈夫です」
『あんたが一番問題なのよ!!』
真っ先に変態セッターが名乗りを上げると思っていたが、案の定か。しかしコイツの場合、ハルヒ達や有希と同じく常に影分身と繋がったままだからな。濡れたランジェリーを掲載するようなことにならなければいいんだが……まぁ、本人たちがそれまでに覚悟を決めるだろう。アイツに催眠をかけるくらいなら、自分が出た方がいいと思っているはずだ。

 

 議題は無かったが、今後の方針に関する話題が出て何よりだ。古泉や圭一さんだけでなく、青俺を除くビラ配りメンバーにも催眠をかけることが決定した。双子に急かされるように青有希の影分身が二人を追いかけていく。
『キョン、過去に遡っていた藤原と名乗る例の男だが、全員春休みを過ぎて新たなアプローチを仕掛けようと模索している。仕留めるなら今を除いて他にはない。折角の朝比奈みくるとの旅行をふいにしたくはないだろう?』
旅行を終えてからというのも気分がいいとは言えないな。青有希と佐々木が支給に行っている間に片付けてしまうか。戦利品は青ハルヒと青古泉に任せておけばいい。連れて行ってくれ。
『分かった。俺も出る』
そういや、首だけあのアジトに残しておいたんだったな。あのバカの腐乱死体の臭いを服に付けたくはないし、みくるも嫌がるだろう。逆遮臭膜を張って向かおう。自分の死体を見てどんな反応を示すのか楽しみだ。
「みくる、部室に行く前に一つ寄るところがある。短時間で終わらせてくるつもりだが、相手がどうしようもないバカなんでな。アイツが理解するまで時間がかかるかもしれん。お茶を煎れるのは少し待ってくれないか?現状維持の閉鎖空間が張れるのなら、先に煎れてもらって構わない」
「過去のキョン君や佐々木さん達を助けに行く…んですよね?わたしが行っても何も出来ないですし、キョン君よろしくお願いします!」
「ああ、『俺と佐々木が再会する』規定事項を満たしたアイツに、もう用は無い」
セリフを言い終えた俺の目の前の光景が一変した。撮影中じゃあるまいし、セリフというのもおかしな話だが、まぁいいだろう。頬が痩せこけて屍と化した生首が廃屋の片隅に転がっていた。しばしの間を置いて、廃屋内が賑やかになり、別の時間平面上の自分を見て驚いている奴がほとんど。未来人だったらそんなことくらいあって当然だと認知しているものだとばかり思っていたが……どの時間平面でもバカはバカのままらしい。それで、これがあと何回続くのか教えてくれないか?
『これで最後だ』
そいつは朗報だ。早々に戻ることにしよう。
「はっ、僕たちを呼び寄せたのはおまえか?古代人!」
「その古代人のいる時間平面を避けて、さらに古代に時間跳躍したおまえらは何人になるのか教えてくれないか?原始人か?猿人か?それとも猿のままか?どれにあたるにせよ、負け犬には変わりなさそうだが?」
「こんな腐臭のする場所に僕たちを集めてどういうつもりだ!?」
「その腐臭の原因が何なのかまだ気づかんのか?それに、このあと自分がどうなるのかもな」
「きっ、貴様!未来の僕の首を刎ねて殺したのか!?」
「人に尋ねる前に少しは自分で考えろ。もっとも、おまえのようなバカに頭を使えと言っても無理な話か。自分の死体の臭いを『腐臭』と表現するような奴だからな。仕掛けは死んでも分からんだろうが、俺はこいつらの首を刎ねたわけじゃない。首を刎ねたのなら、この廃屋に血の跡が残るし、頬がこんなに痩せこけているわけがないだろう?ついでに言っておくと、コイツ等は自ら死んでいったんだ。おまえ等もこうなる運命だ」
指を鳴らしてバカ共の首を胴体から部分テレポート。『腐臭』のする屍の傍へと生首を運び、胴体は牢屋へと送った。
『ビック〇ンアタ――――――――――ック!!』
どうやら、その他大勢の始末が終わったようだ。廃屋の側面は破壊されてしまったが、血の一滴すら残さずに吹き飛ばすとは流石だな。粉々に吹き飛んだ自分の部下たちの様子を見て脅え始めた藤原の一人がようやく口を開く。
「………貴様、僕たちも殺すつもりか?」
「『俺と佐々木を再会させる』規定事項を満たした時点でおまえ等の仕事は終わった。それと、俺はおまえ等を殺すつもりはない。おまえ等のようなバカじゃ、一度言っただけで理解できるとは到底思えん。もう一度言ってやるからちゃんと理解しろ。『おまえ等は勝手に死んでいくんだよ』」
「………そ、そんな馬鹿な!?ここにいる僕たちは、餓死したとでも言うのか!?ぼっ、僕たちの身体をどこへやった!?」
「馬鹿はおまえだ。身体ならそこの屍の胴体と同じ場所に移動させた。腐臭と……おまえ自身の糞尿で満たされたところに放置した。最も惨めな方法で生涯を終えさせてやる。『おまえは、俺と佐々木の再会のきっかけを作るという規定事項を満たしに来ただけの存在だったということだ』しばらくしたら墓参りにでも来てやるよ。じゃあな」
断末魔にも似た声が聞こえたような気もするが、理解する気にもならん。

 
 

…To be continued