958 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2014/10/04(土) 02:50:41.69 ID:UQuDiLUF0
お久しぶりすぎて何やら緊張します。リハビリに軽いコメディっぽく。hmmdください。
悪魔の祝福は呪いではないのか。
雑貨屋の一角に呆と立ち尽くし、いかにも中学生らしいことを考えている私の腕の中には、うさぎとくまのぬいぐるみがある。
たかが誕生日に渡すプレゼントが、どうしても決め切れない。気を使わせたくないから高価なものは渡せない。
けれど、特別なものを渡さないと気が済まない。
私がこれまで過ごしてきた歪んだ時間の大半はまどかのための時間で、それは私にとっては誇らしいことなのだけれど、
その時間はまどかのこととなると冷静な判断ができなくなる程度に私の心を固く強張らせる。
喜んでもらえるだろうか。迷惑に思われないだろうか。そもそも受け取ってもらえるだろうか。
そんなことを必死で考えている内にそもそも祝うということはどういうことなのかという哲学的命題に迷い込んだ私は、
祝うという行為に自分が甚だしく相応しくないということに気付いたのだった。
べちゃり。
側頭部を発生源とする芳醇なトマトの香りが鼻を突く。夏野菜のシーズンは過ぎ去ったというのに、あの子達はどこから調達してくるのだろう。
店頭のものを盗んだりはしないだろうが、ハウス栽培でも営んでいるのだろうか。
いつもなら14人の中の誰がぶつけてきたかチェックして、後々それなりの報復をするところだが、
今の自分はそういう扱いを受けても仕方ない状態なのだとわかっている。
なにせ、今日は10月4日。まどかの誕生日は昨日だったのだから。
プレゼントも用意しないまま顔を合わせておめでとうと言える気がしなくて、昨日から学校にも行っていない。
何をしているのだろう、私は。またトマトが後頭部にぶつかった。悪魔から魔女に戻ってしまいそうな気さえする。
「まどか…誕生日プレゼント渡せなくて…ごめんね…」
世界が壊れるように目の前が暗くなっていく。つくづく情けない。
俯いて自分で自分を非難するという堕落した暗い快感に浸りつつある私の袖を、ぐいぐいと球体関節の指が引く。
「何よ…ほっといてちょうだ――」
振り向いた先にワルクチとマヌケ。その向こうから私を見つめる、まどかの金色の瞳。私の背後で、まさに世界が壊れつつあった。
「まどかぁああぁぁあぁああああぁあああああ!!!!!!!!!」
封じ込めたまどかの力は、私と共にある。ほんのちょっと緩んだ隙間から零れ落ちた力が、
いつの間にかすぐ後ろに来ていたまどかにしっかりと接続していた。
「ああああ待って! ストップ! 店員さんこれ下さいラッピングは結構ですけどプレゼントするので値札取ってくださいおめでとうまどかこれ受け取って遅れてごめんなさい!」
押し付けるように渡したくまのぬいぐるみを見つめるまどかの瞳がいつも通りの色を取り戻して、ホッとしたのも束の間。
ぐい、とぬいぐるみを私の方に押しやって、まどかは私を静かに睨みつけた。
「…なんで学校に来なかったのにこんなところにいるの」
「え、ええと」
怒っていらっしゃる。怖い。
「その、まど――」
「私へのプレゼントを選んでたとか言わないよね?」
大変怒っていらっしゃる。大変怖い。
「…要らない。嬉しくない」
投げ付けられた言葉に目眩を覚えると同時に、ぎゅっとくまが抱きついてきた。いや違う。くまを挟んで、まどかが抱きついてきた。
「心配した」
「…はい」
「おめでとうって、ちゃんと昨日言って欲しかった」
「はい…ごめんなさい」
「…ありがとう」
ワルクチとマヌケがわざとらしく感涙に咽ぶ真似をしているのを尻目に、私は改めておめでとうと呟いた。
お店の中なのにこの後改めてお説教続行。まどかさんお誕生日おめでとうございました。hmmdください。
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