19スレ/歩く早さ

Last-modified: 2014-04-15 (火) 18:52:55

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「ほむらちゃん」
少し前を歩く彼女の名前を呼んで、私は右手を差し出した。
「…ああ、ごめんなさいまどか」
その手に気付いて少し歩く速度を緩めながら私の右手に彼女の左手が重なる。
少し冷たい、だけど柔らかい手がゆっくりと躊躇いがちに包み込んでくる。
「なるべく遅く歩くように心がけててはいたのだけど…」
「え?あ、ううん!謝るのは私のほうだよ。もっと早く歩けばよかったのに」
「そんなことないわ。私が貴女に合わせないからいけないのよ」
「そうじゃないよ。私が…」
歩きながらお互いに責任を取りあう二人。
傍から見たらどんな風に思われるんだろうか。
「…決着がつかないわね。ここは『おあいこ』ってことでどうかしら?」
「うーん…じゃあそうしよっか」
終わりを持ち出してきたのはほむらちゃんだけど、きっと頭の中では『自分が悪い』って思ってるんだろうな。
私はただ、手をつないで欲しかっただけなんだけど…。
悪いことしちゃったかなぁ。そう思いながら、横に来ていたほむらちゃんの顔を見る。
「え?」
「? どうしたの、まどか」
「…ぷっふふふふ」
「なに?私の顔に何か付いているの?」
「ほむらちゃん、顔が赤いよ」
「え!?」
ほむらちゃんのほっぺたはうっすらと赤くなってた。
さっき言った「ごめんなさい」はきっと、嘘じゃないんだろうけど。
もしかして照れてることを隠そうとしてたのかな?
じっと見ていると、少しうつむいて髪で顔を隠してしまった。
「えー、なんで隠しちゃうの?」
「あまりその…見られたくはなくて…」
「私は見たいな、ほむらちゃんのそういう顔も」
「うう…恥ずかしいわ…」
手をつなぐ。それだけでもこんなに私のことを意識してくれるなんて。
「私は嬉しいな。ほむらちゃんが私のことをちゃんと思ってくれてるってわかるから」
「それは…もちろんそうよ」
うつむいたまま、小さな声でそう答えてくれた。
なんだか私まで少し恥ずかしくなっちゃったけど、それ以上にもっと嬉しかった。
「えへへへっ」
握った手はそのままに、ほむらちゃんの腕に絡まるように抱きついた。
「えっ!?ちょっと…まどか!」
「だって嬉しいの♪いいでしょ?」
「でもこんな外で…」
「いいのっ!私は誰かに見られたって平気だよ」
こんなに可愛いほむらちゃんを誰かに見られるのはイヤだけどね。
「ほむらちゃんはイヤ?見られたくない?」
「私は…嬉しいけど、その…まどかのこんなに可愛い姿を他人に見られるのはちょっと…」
「わたし!?」
「うん…それだけはイヤね…」
「…へへへっ。今、おんなじこと考えてた」
「ど、どういうこと?」
「私もこんなに可愛いほむらちゃんを誰かに見られるのはイヤだなって思ってたんだ」
それを聞いてほむらちゃんはもっと顔を赤くした。
「かかかっ可愛いなんてそんな…わっ私なんて」
「ほむらちゃん、自分を粗末にしちゃいけないよ?」
「うっ……でも、それは」
ほむらちゃんの肩に頭を乗せて、さっきよりも強く腕を抱きしめた。
まだ何か言いたそうだったけどそれで言葉が途切れた。
「へへっ私こうしてる方が落ち着くみたい」
「もう、まどかったら…甘えん坊ね」
「甘えん坊でいいよ。それにこの方が、もっとほむらちゃんを近くで感じられるし…」
「…うん、そうね」
ギュッと、ほむらちゃんの手に力が入った。
私も負けまいと握り返す。
「えへへへへっ」
「ふふふふふっ」
私のほうに向けて笑いかけてくれた。
その顔を見てるとさっきとは違う喜びが胸いっぱいに広がっていった。
私はほむらちゃんを思っていて、そのほむらちゃんが私を思ってくれていて。
歩く早さは違っても、ちゃんと私たちは隣り合っているんだとわかったから。
「ほむらちゃん」
私は絶対に手を離さないからね。
この先に何があっても、こうやって二人で歩いていけたなら、きっと―――
あれ?
「…ところでほむらちゃん」
「…なに?まどか」
「私たちってどこに向かって歩いてるんだっけ?」
「…あれ?」
おわり